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「ネトウヨ」はなぜ嫌韓なのか - 古谷経衡(評論家)
「実は私も、韓国嫌いなところがあるんですよ」
自らがリベラルまたは中立であることを自認する人間が、よく「保守」の側に向かって、
まるでおべっかのように擦り寄る際の台詞がこれ。つまり、「我々リベラルも、心のなかでは保守と思想が似ているのですよ」
というあくまで建前上の社交辞令なのだが、要するにこれは保守の思想的根幹が「嫌韓」（韓国・朝鮮が嫌い）
である、と広く理解されていることの証拠なのだ。
いつからか、「保守」の必須条件は「嫌韓」になった。逆説的に言うと、特にネット上などで嫌韓的言動をすると、
いっぱしの愛国者に祭り上げられる風潮が存在する。逆に間違って「親韓」的な物言いをすると、
いくら改憲派でも自主防衛派でも、「保守ではない」「朝鮮のスパイだ」の大合唱とレッテル貼りがされる。
時には「朝鮮に帰れ」の脅迫も出る。嫌韓に非ずば保守、あるいは愛国者に非ず。それほど「保守」＝「嫌韓」の図式は強烈だ。
まるで「保守」の必須入会条件のように語られる「嫌韓」だが、「嫌韓」はその昔、リベラル・左翼側の専売特許で、
「保守」には「嫌韓」の要素はほぼ皆無であり、むしろ現在のネット界隈が最も忌み嫌う「親韓」的性格を色濃く有したことは、
特にネット世論のなかで、あるいは言論界のなかでもつとに忘れ去られている事実だ。
かつて、日本の「保守」はおしなべて反共であった。正確にはソ連崩壊・冷戦終結の前まで、
日本の保守主義者は概ね反共主義者と読み替えることができた。
朝鮮戦争を経て、東アジアにはっきりと東西対立の構造が固着化して以来、三八度線で分断された南朝鮮（韓国）、
中共から逃れた?介石の台湾（国民党）、マルコスのフィリピン、スカルノのインドネシアと、
東アジアの開発独裁国家と日本は反共の防波堤として、アメリカの極東戦略の一環として従順に機能してきた。
これら極東の反共国家群は、「反共」の錦の御旗のもとにやはり相当なスクラムを組んでいたのである。
戦後日本の保守党、つまり自民党はこの反共という地域国是のもとで、とりわけ韓国に対して融和的だった。
「昔は、“釜山赤旗論”なんてのがありましてね。釜山に赤旗（ソ連軍旗）が立ったら、
いよいよ日本もソ連に侵略されて終わりだというんで、韓国は日本を守る最後の防波堤というわけですよ。
韓国は日本の国防のために一にも二にも頑張ってくれている仲間なんだ、という思いがありました」
こう語るのは、六〇年代安保の折、「保守側」からの学生運動に参加した社会評論家の三輪和雄氏である。
氏のこの回顧は、実に的確に当時の戦後保守の性質を代弁している。
一九七九年暮、韓国で軍事独裁を敷いた朴正煕が死去（暗殺）すると、翌年元旦の産経新聞の社説に、
当時の社長であり、グループ総帥であった鹿内信隆が次のように朴を手放しで絶賛する記事を掲載した。
「私は日本人の一人として、朴大統領が日韓両国のために果たした役割に対して、率直に敬意を評したいと思う。
（中略）朴大統領は歴史に名を留める治績を成し得たのであろう。特に国家の安全と経済立国に力をつくし、
米軍依存の国防から自主防衛拡充への成果は瞠目(どうもく)すべきものがあったし、
韓国を近代的経済国家に成長させたリーダーシップは驚嘆に値する」
フジテレビ・産経新聞等を抱えるフジサンケイグループは、戦後「転向」して急伸してきた
朝日・毎日といったリベラルメディアに対抗するために、戦後の財界（自民党寄り）が一体となって支援して成立した「保守メディア」。
その領袖(りょうしゅう)でもあった鹿内信隆は、当時の保守界を代表する最も重要というべきキーマンであった。
まさしく冷戦下、反共の砦(とりで)として機能していた韓国を観る視点は、
少なくとも日本の保守側からはこのように終始温かいものがあった。
一方、冷戦下、韓国に激しい敵意を燃やしていたのは、何を隠そう左翼である。
一九六五年に当時の佐藤栄作と朴正煕の間で日韓基本条約が締結されて国交が回復すると、
左は韓国に対して激しい敵愾心(てきがいしん)をいよいよ露わにしたのである。
(続く)
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