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国際化と教育―多様さに背を向けるな
教育をめぐる自民党の選挙公約を読むと首をかしげることがある。「世界で勝てる人材」、つまりグローバル人材の
育成についての項目の中で、なぜか教科書問題に触れているのだ。
歴史教科書の「自虐史観」を正すため、どの教科書にも共通して書くべきことがらを文部科学相が定める、という。
グローバル化と教科書問題はどう関係するのか。党が4月に出した提言は、グローバル人材をこんなふうに描く。
英語が話せる。世界のトップ大学に進める学力がある。日本の伝統や文化を発信できる。その前提となるのは日本
人としてのアイデンティティーだ―。
だから教科書制度を見直し、歴史と文化を尊ぶ心を育む。両者はそうつながるらしい。
しかし、思い出してほしい。安倍首相や日本維新の会の橋下徹共同代表の歴史認識をめぐる発言は、近隣の国々
ばかりか、米国でも批判を招いた。
日本の立場を発信することは大切だが、異なる視点への配慮を忘れ、自己弁護ばかりしていると受け取られれば、
国際社会で理解をえられない。
世界を舞台に働くには、多様な文化や意見をもつ人と対話をし、自他ともに生かす道を見いだす能力が問われる。
そういう視点が欠けていないか。
国内に目を向けても、いじめや外国人排斥デモの背景には、自分と違う存在への不寛容さが横たわる。これからの
社会には自らの価値観を相対化し、異質な他者を受け入れる力がますます必要になるはずだ。
民主党は与党の時、大学改革の提言で「多様な他者とコミュニケーションできる」人材の育成を掲げた。が、今回の
公約にそんな視点は乏しい。今こそ有権者に問うべきではないか。
いろいろな人がいて、一色に染まらぬ方が社会は強くなる。戦後の日本はそう考え、教育現場に政治が口を出し
にくい仕組みをあえて築いた。教科書や教育委員会の制度がそうだ。
今の教科書制度は基本的に、どう書くか、どの本を選ぶかを出版社や教委の自主性に委ねている。多様な教科書
があってよいという考え方が土台にある。
参院選では自民だけでなく、維新も教科書検定と採択の全面見直しを掲げている。選挙の結果によっては、その理念
は塗り替えられるかもしれない。
多様性を大切にしてこそ、異なる人びとと自分との接点を探る知恵をまとった人材が育つ。国内外ともに人が交じり
あい、多極化する時代にふさわしい教育のあり方を論じてほしい。
ソース:朝日新聞 2013年 7月 12 日(金)付
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