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2007年6月、NHK出版で年1回の人事異動の内示があった。私の属する
生活人新書編集部は、編集長を含む全員が異動。編集部の解散・解体である。
だが生活人新書は廃止せず、新しい人員に入れ替えた新編集部で続けるという。
理由の説明は一切なし。事実上の懲罰人事だった。
私のせいだと勘づいた。松井やよりさんの本を出そうとし、日米政府や
昭和天皇を批判する新書を出版した獅子心中の虫。私一人でなく連帯責任とばかりに
全員を左遷(させん)する粗暴さには、さすがにあきれ果てた。
左遷先での処遇は酷(ひど)いものだった。昼間は月刊誌の編集をし、
平日夜と土日は朝まで新書を編集する。小田実(まこと)さんの『中流の復興』の
編集以前から、もう満足に体が動かなくなっていた。しかし
自ら企画した本は最後まで自らの手で作る。それが私にできる
最大にして最後の抵抗だった。こうして同年8月に出版したのが、
知念ウシ・沼田鈴子・斎藤貴男・広岩近広(ひろいわちかひろ)の
4氏の共著『あなたは戦争で死ねますか』であった。
同年10月、ついに私は職場で倒れ休職。ほぼ寝たきりになり、結局退職した。
だが事の顛末(てんまつ)は信頼できる人にきちんと話しておきたい。私は休職中、
人材育成コンサルタントの辛淑玉(しんすご)さんにお会いした。06年、
彼女は書きためていた大切な自伝を私に編集させてくれた恩人だ。
書名は『せっちゃんのごちそう』。辛さんは私の話を半日かけてじっくり聴き、
手作りのキムチそばをごちそうしてくださった。
憔悴(しょうすい)し切った私の心と腹に、おいしく忘れ難い温もりが広がった。
実に無様な末路だった。だが、苦境に負けぬ誇りと情けに満ちた大勢の
人たちとの出会いと別れに恵まれた。根腐れた三流の出版社にぶら下がって
食いつないできた五流の壊れたサラリーマン編集者にしては、誠に上出来の歳月であった。
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