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∞ 過熱する領土問題 譲渡することも一つの選択肢だ
∞ 森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家] リアル共同幻想論
(※前略 4頁目から)
■ならば「譲渡する」ことも、一つの選択だと僕は思う。
人が居住しているのなら話は別だ。でも尖閣にしても竹島にしても北方領土にしても、現時点で日本
国籍を有する人は住んでいない。
もちろんタダとは言わない。漁業権やレアメタルなどの海洋資源、天然ガスや排他的経済水域など
の問題については、譲渡のバーターとして、今後見込まれる利益を分配するとか契約を交わすとか交
渉を継続し続けるとか、それこそ大人の知恵と分別が必要だ。
あまり知られていないことだけど、国土面積において世界第61位の日本は、排他的経済水域の面積
については世界第6位にランクしている。韓国はもちろん、中国やロシアよりも大きいのだ。ならば
「ムキになる」以外の選択肢を示すことも、次の世代としては可能なはずだ。
尖閣に上陸したのは香港の活動家たちだ。ところがその意趣返しのように日本から上陸して日の丸
を掲げた10人のなかには、活動家だけではなく5人の地方議員も含まれていた。ならば意味がまった
く違う。あまりに軽率だ。合図とともに船から一斉に海に飛び込むなど、ほとんど夏祭りの高揚だ。
(編集部註:8月15日に香港の活動家ら14人が魚釣島に上陸するなどし、17日に強制送還された。19日
には、魚釣島沖で戦没者の慰霊に参加した日本人のうち10人が船から泳いで魚釣島に上陸した。)
■今回の騒動の導火線は石原都知事の尖閣購入計画のはずなのに……
特にここ数日のニュースを見ていると、まるで中国や韓国がそれぞれ一枚岩となって反日の雄叫び
をあげているかのような気分になってくるけれど、尖閣に上陸した香港の活動家たちは決して中国人
の総意を体現しているわけではないし、イ・ミョンバク大統領のスタンドプレイを苦々しく思っている韓国
人も数多い。メディアはそうした多面性を伝えなければならない。絶対に単純化してはならない。今こ
そ抑制を働かせなくてはならない。
(編集部註:8月10日、韓国のイ・ミョンバク大統領が竹島に上陸。韓国大統領が竹島に上陸したの
はこれが初めて。)
数日前のテレビ・ニュースで石原都知事が記者に「君は悔しくないのか」と例の調子で質問し返して
いた。その記者が何と答えたのかは(編集でカットされていたので)わからない。でももし僕がその記者
なら、「もし仮に悔しいと思ったとしても、少なくともメディアや政治家は、そんな剥きだしの言葉を弄す
るべきではない」と答えているはずだ。領土とは結局のところ利権だ。餌や遺伝子だ。本能に由来して
いる。だから否定はできない。でも剥きだしは恥ずかしい。それに今回の騒動の導火線になったのは、
当の石原都知事がぶちあげた尖閣購入計画のはずなのに、そんな視点はメディアに(僕の知るかぎ
り)まったくない。
もう一度書く。領土とは利権だ。ならば交渉はできる。何かに置き換えることも可能なはずだ。ところ
が多くの人はこの問題になると硬直する。代替案を発想できなくなる。交渉を受け付けなくなる。ナショ
ナリズムに容易くリンクする。互いに正当性を主張する。そもそもは歴史をいつから区切るかで変わっ
てしまう程度の正当性だ。でも互いに前提となる。その意味では正義に似ている。しかも主語が複数
となったときに述語は暴走する。威勢がよくなる。
こうして人は大地に縛りつけられながら、世界で最も悲しい声をあげることになる。
無用な諍いや争いを回避するためならば、少しばかり領土や領海が小さくなってもかまわない。弱腰
と呼びたいのなら呼ぶがよい。でもこれだけは絶対に譲らない。私たちは自国と他国の人たちの命を
何よりも大事にする。
もしもそんな判断をこの国が示せるならば、僕はそのとき本気で、この国に生まれたことを「誇り」に思う。
ソース:ダイヤモンド・オンライン 2012年9月28日
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