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>>1の続き
■我慢強い消費者が、真の情報化を遅らせている
もう1つ、青森に行ったときのエピソードをご紹介しましょう。
私は市行政の情報化について、青森市の職員としてアドバイスを行う情報政策調整監の役職にある
ため、頻繁に青森を訪れます。昨年の冬に青森に行き、飛行機で東京に帰ってこようとしたときのこと
です。午後7時ごろの飛行機に乗るはずが、雪のために出発が1時間遅れるとのアナウンスがありまし
た。空港で待たされ、8時ごろにようやく搭乗できたのですが、機体に雪が積もったという理由でそのま
ま30分待たされました。
その後も、滑走路に雪が積もったので除雪作業のために30分、そしてまた機体に雪が積もったので
30分……と、結局離陸は午後10時すぎになったのです。しかしその時間だと、羽田空港に着いても電
車は終わっていて、自宅に帰ることができません。機内で客室乗務員に聞いたところ、「羽田空港に
着いてから地上係に聞いてください」と言われました。
そして羽田空港で地上係に聞いたところ、「外にタクシーが止まっているので、ご自由にご利用くだ
さい」と言うではありませんか。もちろん「自腹で」です。近くのホテルの部屋を確保してくれるなり、
せめて都心までシャトルバスを用意するのが普通だろうと思いましたが、それよりも驚いたのが、
乗客の誰も文句を言っていないということでした。韓国だったら、航空会社に対して大騒ぎをしている
と思います。なぜ日本の消費者は怒らないのでしょうか? これでは航空サービスが良くなるはずも
ありません。
韓国は、国連の電子政府ランキングでここ数年、1位が定位置になっていますが、当の韓国国民は、
まったくそういった実感を持っていません。住民票などのさまざまな手続きが自宅のパソコンから簡単
にできたり、行政サービスの手続きが簡単であるということも、慣れてしまうと当たり前になる。そして、
もっと質が高く、便利なものを求めるようになります。
こうして、サービスを提供する側と、サービスを受ける側が刺激しあって情報化を促進し、全体が
良くなるのです。まずは消費者が賢く、貪欲になる必要があります。不便で高コストのサービスを
我慢することで、結局損をするのは消費者なのです。
■「コンピュータ化」と「情報化」
昔は、農水産業、製造業、流通業、運送業、サービス業など、さまざまな業種の1つとして、並列
して「情報通信産業」がありました。しかし今は違います。複数の業種は繋がっていて、境目がほと
んどありません。特に情報通信は、すべての業種と繋がっており、密接に関わっています。既存の
ビジネスとITを融合する「ITコンバージェンス」という概念が非常に重要です。
ITコンバージェンスを考えるうえで、「電算化」と「情報化」を一緒にして考えてしまっている人が非常
に多いのですが、これはまったく別のものです。
電算化は、人間が行っていた単純反復的な作業をコンピュータに置き換えるだけです。日本では
まだこちらの発想が多い。一方、情報化は、一度既存の仕組みをゼロにして、枠組みから新たに考
えなおすものです。最初にご紹介した、改札のないKTXがこれにあたります。
電子行政の例に照らし合わせると、「いつでもどこでも住民票が取れる」といったことを目的にする
のは、真の情報化ではありません。これは単なる電算化です。
そうではなく、そもそも住民票というのは、公的機関や金融機関など公共性の高い機関での手続き
のために必要ということが多い。であれば、A区に住む住民がB区役所でA区の住民票を取得して
目的の機関に提出する、というようなことではなく、A区役所と提出先の機関が直接やり取りできるよ
うなシステムにするべきであって、公的機関同士の連絡作業に、わざわざ当の住民を煩わせる必要
はないはずです。
表面的な多少のコスト削減に惑わされるのではなく、業務全体を変えることによってサービスを良く
し、業務効率を上げてコストも下げる。これが真の情報化なのです。消費者側もそれに早く気付き、
「わがまま」になって、真の情報化を求めていくことが必要でしょう。
(終わり)