12/03/20 17:17:54.33 elZ2j2T8
白さんは小作人だ。奥さんと娘とを養っている。地主の朴さんは気難しい祖父が隠居して、
代変わりしたばかりだ。
奥さんはキムチ作りの名人だ。売春婦上がりで美人なのが自慢だが、今ではその面影はない。
何百人もの男が通りすぎた体だが、貧乏なのに嫁が貰えただけでも果報者だと、白さんは満足している。
地主は、取り立てが厳しい上に、威張りくさっていた。でも、今の当主は、往来で立ち話もするし、
生活の心配もしてくれる。良い人と評判だった。
そんな中、気の納まらない隠居は、たまたま通りかかった白さんの娘を家に呼び、
手篭めにしてしまった。白さんが地主に訴えると、隠居のした事だから堪えてくれと、
逆に泣きつかれる始末。警察といっても、当時のそれは金持ちの用心棒で、貧乏人の為には
動いてくれない。隠居は古馴染みを集めて、あの売女の娘が誘惑したんだと噂を流した。
気の弱い白さんは、その点についても娘に問い糾した。身の潔白を立てるべく、
娘は川に身を躍らせて死んだ。
たまりかねた白さんが地主に抗議すると、向こうは用心棒を雇っていて、半殺しの目に
合わされた。警察は話だけ聞いて同情してくれるが、動いてくれない。その夜、奥さんが
懐妊を告げた。一生下働きで、貧しい者を国が守ってくれないのでは、それも喜べない。
泣き暮れて眠ると、娘が夢枕に立った。
お父さん、挫けないで。あの娘は立派だったと皆が泣いてくれたので、私は満足です。
こんな所にいては、弟も妹も幸せになれません。どうか旅立って下さいと、東の方を指さした。
そんな折、韓国が日本に併合された。「日本では労働力が不足しています。日本人は朝鮮人を
同胞として扱います。皆さんは歓迎されるでしょう」とそのように、「日本政府」は宣伝した。
日本に渡ろう。身重の妻の手を取り、白さんは決意した。
日本では、砂利運びをしてばかりで、暮らしは楽にならなかった。しかし、闇市や違法賭博を
やっている友人の儲け話に一口のって、財産を築いた。老境に入った白さんは、いつか故郷に帰って、
娘の為に立派な墓を立ててやりたいと思うのだった。