12/01/31 21:36:16.94
ソース(東洋経済オンライン、野口悠紀雄の「日本の選択」)
URLリンク(www.toyokeizai.net)
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「フォックスコン」という名が広く知られるようになったのは、ipod nanoの組み立てを行っている同社深セン工場で、2010年5月に
自殺者が相次いだからだ。ほぼ同時期に、最新鋭工場で爆発事故が起きて死亡者が出る事件もあった。ちょうどipadが話題を
集めていたときだったので、世界中のメディアが飛びついた。「アップル大躍進の陰に中国の地獄工場」ということになれば、由々しき
ことだ。
その直後に、同社は「自殺しない」という誓約書を書かせたとか、従業員の不満をなだめるため20%の賃金引き上げに応じた、
などのニュースも報じられた。
自殺者が相次ぐのは、確かに異常である。しかも、同工場での勤務体制は、1日15時間労働、月給が日本円換算で1万
2000円未満というものだ。私は、このような労働条件が劣悪でないと言うつもりはないし、自殺事件で同社を弁護しようなどとも
思わない。ただ、この報道に接した人が陥ったであろう錯覚には、注意を喚起したいと思う。それは、深セン工場の巨大さが、
われわれの常識を超えているということだ。
同工場の従業員は、45万人と言われる(中国全体では95万人の従業員がいると言われる)。これは、われわれが知っている
「工場」とは異質のものだ。これは都市である。しかも、かなり大きな都市だ。日本で言えば、金沢市(約46万人)並みである。
かつて企業城下町と言われた都市が、日本にもいくつかあった。それらと比べても桁が違う。例えば、八幡製鉄所の従業員数は、
戦時中に徴用工を受け入れて大増産を行った1944年でも、7万人弱である。50年には、集中排除法によって4万人体制に
なった。深セン工場はこの10倍以上なのだから、われわれが実感として把握できる範囲を超えているのである。『テッククランチ』の
深セン工場探訪記は、食堂の調理場で調理人が大きなスコップでスープをかき混ぜる様子を、ヒロニエス・ボッシュの絵のようだと
言っている。そこでは、毎日200頭の豚が調理されるのだそうだ。
フォックスコンでの自殺者率は、年間10万人当たりに換算すると6・4人となるが、これは中国都市部の自殺率とほぼ同じだとの
指摘もある。フォックスコン工場での自殺記事を読んだ人は、それまでの常識で「工場」を想像したに違いない。そして、「一つの工場
で月10人を超える自殺者が出るのは異常だ」と感じたに違いない。しかし、異常なのは、自殺者数でなく、工場の巨大さなのである。
フォックスコンは、これまでの常識では理解できないバケモノ企業なのだ。
■労働力不足経済に入りつつある中国
フォックスコンが20%という大幅な賃上げに同意したのは、自殺者対策だと報道された。確かに、先進国の基準で言えば、この
賃上げ率は非常に高い。しかし、中国の基準で言えば、格別驚くには当たらない。事実、最近の中国における賃金上昇は著しい。
04年以降08年までの製造業の平均賃金上昇率は、12・5%、11・8%、14・4%、16・0%、15・4%となっている。
経済危機後の09年にも、9・9%の上昇を示した。内陸部も、水準は沿海部より低いが、賃金上昇率は沿海部を超えている。
だから、2割の賃上げは、自殺事件への対応という側面はあるのだろうが、中国の一般的な賃上げ事情を反映している面も
強いのだ。
これは、中国経済が「ルイスの転換点」(工業化の進展によって、農業部門の余剰労働力が底をついた状態)を迎えたためだと
言われる。実際、09年夏以降、農民工(出稼ぎ労働者)を募集してもなかなか集まらない「民工荒」(労働者不足)現象が
生じていると言われる。この背景には、工業化の進展だけでなく、一人っ子政策の影響で、高齢化と少子化が深刻な問題に
なっているという事情もある。
(>>2以降に続く)