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強制労働「証言者は宝」
東北6県など全国で、戦時中、中国人や朝鮮人が強制労働させられた130以上の現場を
歩き、二つの作品にまとめた秋田県能代市の作家野添憲治さん(75)が、市民団体「平和・
協同ジャーナリスト基金」の第16回基金賞の奨励賞を受賞した。同基金によると、県内で
は初の受賞という。(笠井哲也)
賞は反核・平和や人権擁護などで優れた報道をした人や団体に贈られる。野添さんは「企
業の戦争責任―中国人強制連行の現場から―」、「遺骨は叫ぶ―朝鮮人強制労働の現場
を歩く―」(いずれも社会評論社)での取り組みが評価されて55件の候補から選ばれた。
野添さんは秋田県・旧藤琴村(現藤里町)で生まれ育った。太平洋戦争が始まった1941
年、国民学校に入学した。
5年生の夏のことだ。学校の先生に率いられ、村役場に行った。そこには20代の中国人男
性2人が座らされていた。泥まみれの体は「みそ漬けのような色」だった。「軍国少年」はみ
んなと一緒に、彼らの顔に砂を投げつけた。顔はみるみる砂にまみれた。
約20年後。花岡鉱山(秋田県大館市)での過酷な労働に耐えかねた中国人労働者が45
年6月に蜂起した「花岡事件」のことを知った。かつて見た2人の中国人は、事件後、山を
越えて逃げてきた労働者だったことが分かった。
以来、花岡事件や強制労働について調べ始めた。
しかし、関係者に口を開かせるのは簡単ではなかった。「加害の歴史」を隠したがる人がた
くさんいた。「警官や会社の用心棒がついてきた」こともある。それでも現場に向かい、取材
を続けた。
今年10月、韓国・ソウルの知人から連絡が来た。秋田県内で強制労働を経験した人が、
2005年の時点で、韓国国内に246人いることがわかった。