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つづき
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人間の心は広大無辺なり (十)
人生は見る影もなき蛆虫(うじむし)に等しく、朝の露の乾く間(ま)もなき五十年か七
十年の間を戯れて過ぎ逝(ゆ)くまでのことなれば、我一身を始め万事万物
を軽く視(み)て熱心に過ぐることあるべからず。生まるゝは即(すなわ)ち死するの約
束にして、死も亦(また)驚くに足らず。況(いわ)んや浮世の貧富苦楽に於てをや。
福翁百話 - 57 ページ :
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扨(さて)今
日の浮世を渡るにその法を如何(いかん)すべきやと云うに、蛆虫は素(もと)より蛆虫に
して、仮令い高尚なる心あるも蛆虫と雑居しながら高尚なる手段を施
すべきに非(あら)ざれば、生を愛し死を悪み、貧富苦楽を喜憂して浮世の務(つとめ)を
務め、苦しみては楽しみ、楽しみては苦しみ、苦楽平均して楽(たのしみ)の多からん
ことを願うは勿論(もちろん)、或(あるい)はその快楽を大にせんが為めに格別に辛苦(しんく)し、十年の
功を積んで一朝の心を慰むることもあるべし。
福翁百話 - 58 ページ :
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造化と争う (十七)
人生は至極(しごく)些細(ささい)なるものにして蛆虫(うじむし)に等しと云(い)うは、他人の沙汰(さた)に非(あら)
ず、斯(か)く云う我身も諸共(もろとも)に蛆虫にして、他の蛆虫と雑居し以(もつ)て社会を成
すことなれば、蛆虫なりとて決して自(みず)から軽んずべからず。苟も(いやしく)人として
この世に生れ出(い)でたる上は、即(すなわ)ち万物の霊にして地球上の至尊なり。蓋(けだ)し
この人を蛆虫として軽く視(み)るは心の本体にして、その霊妙至尊を認るは心
の働(はたらき)なり。
福翁百話 - 77 ページ :
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