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任天堂再浮上の条件(上)DS、3DでiPhone対抗―有料ソフト強み堅持。日経産業新聞
施設でDSを使い無料でネット接続やゲーム対戦ができ、施設に関する情報も
受け取れるサービス。通信機器の投資やコンテンツ制作費は施設側が負担、
任天堂は無料で通信環境を整えられる。利用者は接続料なしでコンテンツを
消費でき、通信料が個人負担のアップル端末との差異化になる。任天堂なりに
利益率を落とさない形で「無料経済」を取り込む戦略だ。
DSは飽きやすいライトユーザーが多く、浮動層を固定化することが課題。新
サービスは「DSを押し入れにしまわれないようにして、DSの稼働率を高める」
(岩田社長)狙いもある。
新サービスは昨年6月にマクドナルドが導入、全国3300店以上で使えるように
なった。昨年10月からは商業施設や介護施設、美術館などへの導入を積極に
提案するプロジェクトも始めた。東京ディズニーリゾートの商業施設「イクスピ
アリ」で道案内する回覧板端末として使われるなどすそ野が広がりつつある。
だがその家族向けブランドも分裂の危険をはらんでいる。暴力的な表現を含む
ソフトの発売を規制するアップルに対し、任天堂は他社ソフトに関しては寛容な
姿勢。
岩田社長は「ソフトの多様性は必要」と、大人向けのソフトを今後も自社のゲー
ム機向けに出し続ける方針だ。施設で無料で提供されるコンテンツには任天堂
は関与しない。家族全員を狙う欲張りな戦略はブランドを傷つけるリスクを伴う。
任天堂はさらにアップル対抗策として、10年の年末商戦向けに裸眼3D対応の
新機種を投入する。単純に画像で勝負する3Dではなく、立体的な世界を縦横
無尽に動き回る楽しさなどあくまで「インターフェース」で新しいゲーム体験を
生み出すのが狙いだ。そのために3Dに向いた入力デバイスである3次元ステ
ィックを取り入れる。
高性能な省エネ半導体の採用でハードの性能は据え置き型ゲーム機の「ゲー
ムキューブ」並かそれ以上になるとみられ、過去のソフト資産を3D化して活用
できるので有料ソフトの品ぞろえにも厚みが出る。
「ソニーとの最終決戦には勝った。だが、もっとソフトの開発スピードを上げる
必要がある」。2月下旬、任天堂の岩田聡社長は、京都市の本社でソフト開発
部隊を前にこう訴えた。
主戦場の米国では昨年12月のPS3の販売が136万台、Wiiは381万台。
ソニーとの真っ向勝負には勝った。
だが2月、岩田社長に新たな危機感を抱かせる報告が上がっていた。昨年11月
に実施した約3000人を対象にしたブランド調査の結果だ。
主要なDSユーザーの女子高生層で「どちらかと言えばDSよりもアイフォーンを
選ぶ」との回答が目立っていた。岩田社長の口癖である「驚きのあるソフト」が
減っているとの危惧を裏付けてもいた。
「将来の仮想敵はアップル」。岩田社長は親しいスタッフに、こう漏らしたという。
両社はともにタッチパネルなどの使いやすいインターフェースを売り物とする。
学習ソフト、旅行ガイド、簡易アニメや楽曲の制作など、ソフトの品ぞろえの広さ
でも競合している。
有力ソフトを囲い込む戦略は対ソニーでは有効だったが、対アップルではどうか。
「DSやPSPはもはやクールではない。ソフトの値段は高いし、探しにくい」。昨年
の販促イベントで、アップル上級副社長が、アイフォーンなどをゲーム機として
アピールしていく方針を示し“宣戦布告”。既に無料ゲームを含めたアップル端末
向けアプリケーション配信数は30億本に及ぶ。
アップルはゲームもできる書籍端末「iPad」を4月に発売するなど、無料ソフトを
提供するマルチメディア端末の投入を一段と進める。「娯楽を楽しめる端末」に「
無料経済」をプラスしたアップルの新ブランド戦略に岩田社長はどう挑むのか。
広告に年1000億円
「アップル端末はハイテク好きの個人向け」「任天堂はゲームが敵視されてきた
歴史を変える社会的使命を負った会社。DSが『デジタルデバイド(情報格差)』
解消の重要な手段になる」
対アップルで岩田社長が出した答えは、家族が安心して使える端末として差異化
する戦略。家族で任天堂ゲームを遊ぶ場面を中心に、年1000億円規模の広告
を出し続けるのもこの一環だ。