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60歳以上の当事者が死亡し、介護疲れや将来への悲観などが原因とされる親族間での殺人や無理心中事件が2021年までの10年間で、全国で少なくとも計437件(死者443人)あったことが判明した。平均すると、8日に1件発生していることになる。日本福祉大の湯原悦子教授(司法福祉論)が、全国の報道機関が報じたものを集計した。当事者が死亡したケースを集計しており、未遂事件などを含めると頻度はさらに高くなるとみられる。
湯原教授は、毎日新聞など全国38紙の1996年以降の記事を基に、在宅介護を受ける60歳以上の要介護者と、介護する親族による殺人や心中事件を集計した。当事者の年齢や家族関係などについても確認した。
当事者の関係別では、夫婦214人▽親子(義父母含む)206人▽兄弟姉妹13人▽祖父母・孫7人▽その他親族3人―と続いた。要介護者と介護する側(ケアラー)がともに60歳以上だったケースは約65%に上った。
関係者の供述や遺書、公判での証言などを報じる記事を基に、湯原教授は事件の背景についても分析した。それによると、近年は介護疲れに加え、介護する側(ケアラー)自身も高齢化して体力面や精神面、経済面などで行き詰まったり、困窮を一人で抱え込んだりして将来を悲観し、要介護者を手にかけ、自身も自殺しようとする無理心中事件が目立つという。
高齢者の介護殺人を巡って、厚生労働省は高齢者虐待防止法が施行された06年から、在宅介護の現場で発生した65歳以上の要介護者の死亡事件数について年度ごとに公表している。全国の自治体からのデータをまとめたもので、21年度までの10年間で計242件だった。
厚労省によると、当事者らが介護や福祉サービスを受けていない場合などには自治体も事件を認知することが難しく、全体を把握しきれていないという。
また、警察庁も毎年公表している犯罪統計の中で殺人や傷害致死事件の動機別項目に「介護・看病疲れ」を設けている。ただ年齢区分はなく、高齢者介護の現場で起きた事件の割合などの把握は難しいとされる。
湯原教授は「高齢化で『老老介護』も増加の一途にある。介護に追われ、孤立化しやすいケアラーの支援を徹底させなければ、事件は減らない。自治体は事件の背景を丁寧に検証し、再発防止策を講じていく必要がある」と指摘している。【岩崎歩】
毎日新聞 2023/12/16 10:01(最終更新 12/16 10:01) 975文字
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