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2022/4/24
週刊女性2022年5月3日号
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篠原勝之さん 撮影/伊藤和幸
「クマさんの話は、とにかく面白いんですよ」コピーライターの糸井重里さん、イラストレーターの南伸坊さん、俳優の麿赤兒さんら著名人が口をそろえ、
そのひょうきんな口ぶりをまねてみせる。新宿の飲み屋から業界に噂が広がり、いつしか「クマさん」の愛称でお茶の間の人気者になった篠原勝之さん。
テレビから姿を消したクマさんは、ゲージツ家として新境地を開き、現在80歳。周囲を笑顔に変える話術は健在で、日々の小さな失敗にも笑いをまぶしていた。
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「ゲージツ家のクマさん」
坊主頭で目を細め、周りをパッと明るく照らすこの笑顔に見覚えのある人は『笑っていいとも!』を見ていた世代だろう。
粋な着流しに派手なマフラーがトレードマーク。下駄を鳴らしてテレビをにぎわせていたあの「ゲージツ家のクマさん」こと篠原勝之さんだ。
タモリや明石家さんま、ビートたけしなど、当時ビッグ3といわれた大物芸人とも共演し、独特の話術でたちまち人気者となったが、いつからか、その姿をテレビで見ることはなくなっていた。
今年3月、篠原さんは東京・恵比寿のシス画廊という小さなギャラリーで個展を開催した。ずっしりと重そうに見えるが、持てばすっと手のひらになじむ器が並んでいる。その名は『空っぽ展』。
「こりゃナ、茶碗ではなく『空っぽ』だ。何も茶を点てなくたっていい。猫の飲み水入れたっていいゾ。手に入れた人が好きなように使えばいい」
取材陣が「空っぽ」の意味を尋ねると、すかさずこう返ってきた。
「みんな、なんでも意味を求めるんだ。でもナ、たいてい意味なんてねえんだよ。生きてることだって別に意味はねえ。かといって早く死ぬこともねえ。ただ生きてるから生きてンだ」
作品には、番号がふってあるだけ。タイトルも銘もない。
「銘なんてつけねえヨ。『空』とか『無』とかしゃらくせえ。だからどれも『空っぽ』だ。土くれをひと握りつかんでナ、丸めて団子をつくってヨ。そのど真ん中に親指を突っ込む。そしたら穴があくだろ。ここに水が溜まる。ホラナ、これが『空っぽ』の始まりだ。
目をつぶって指でその穴を広げるうちにオレの中が見えてくる。自分の中が『空っぽ』になっていく気がするんだナ」
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今年3月、東京・恵比寿のシス画廊にて『空っぽ展』を開催 撮影/伊藤和幸
30年近く山梨の甲斐駒ヶ岳の麓に作業場を置き、「鉄のゲージツ家」として世界中で作品をつくってきた。美術館には収まりきらない、大地に根を下ろす巨大な鉄のオブジェ。
だが、3年前に向き合う物質が鉄から土にかわり、1年前に住まいも奈良に移した。ふと思い立って新しいことを始めるのはいつものことだという。
「今から陶芸家になろうなんてかけらも思っちゃいねえ。オレは昔っから教わるのが嫌いでナ、誰かがやってるのを見はするが、やるときは自分のやりたいようにやるんだ。気に食わなければつぶして次の土にまぜりゃいい。穴があけば埋めりゃいいだけだ」
そう言って穴のあいた素焼きのわんに、半透明のシーグラスを当ててみせる。
「普通はこんなデカイ穴があいたら失敗だと思うだろ?でも穴があいたのも何かの導きと思えばいい。こうして、シーグラスをはめ込めば、茶を点てたときに光がスッと差し込む。ほら、おもしれえだろ」
30代のころから篠原さんをよく知るイラストレーターの南伸坊さん(74)は、個展の初日にギャラリーを訪れた。会場は、クマさんと話す人たちの弾けるような笑顔に満たされていた。
「クマさんは昔も今も変わらない。一緒にいるとみんな朗らかになる。テレビのイメージそのまんま。それにね、ホントにゲージツ家なんです。何かのためでも誰かのためでもなく、自分の中にある『つくりたい』という思いで何かをつくり続けてる」
篠原さんは、今年4月で80歳を迎えた。
「80歳は未体験ゾーンだな。まあ、幾つでも刻一刻が未体験だ。オレの人生は人から見りゃ失敗ばかりだが、人生も土くれと一緒でナ、わざとやったみたいな顔してりゃ、失敗なんてねえんだナ」
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安心できる場所は、大きなゴミ収集箱
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