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人間の親子や兄弟などの近親者で子どもを作る近親相姦(そうかん)は、ほとんどの社会で非道徳的なタブーとされています。これには、「遺伝的に近い者同士の交配は、遺伝子異常を発生させやすい」という科学的な裏付けもあります。しかし、最近の研究では、「多くの動物は子どもを作る相手を選ぶ際に血のつながりをほとんど考慮しない」ことが分かってきました。厳しい生存競争にさらされている動物たちが、なぜデメリットが多い近親交配を避けないのか、動物行動学の専門家が解説しています。
Meta-analytic evidence that animals rarely avoid inbreeding | Nature Ecology & Evolution
URLリンク(www.nature.com)
Incest isn't a taboo in the animal kingdom ? new study
URLリンク(theconversation.com)
血縁関係がない者同士で交配すると遺伝子の多様性が増して生存に有利な一方で、近親交配が進むと適応度が低い個体が増える近交弱勢が起きます。そのため、動物は本能的に近親交配を避けるはずだというという考え方が、これまで一般的でした。
そこで、スウェーデンのストックホルム大学とルンド大学で動物行動学を研究しているライッサ・デブール氏とレジーナ・ベガ・トレホ氏らは、過去40年間に発表された動物の交配傾向に関する研究139件からデータを抽出し、メタアナリシスという手法を用いて分析して、「本当に動物は近親交配を避けているのか?」を検証しました。
デブール氏らが収集した研究データの中には、げっ歯類などの哺乳類や鳥・魚・クモ・雌雄同体の生き物であるカタツムリなど、88種におよぶ多様な生き物の交尾に関する記録が含まれていたとのこと。こうしたデータを統合した結果、近親交配を回避する傾向が見られたケースは全体の17%しかないことが分かりました。このことから、デブール氏らは論文の中で「動物の中には、配偶者を選ぶ際に親族と非親族を区別する傾向がないということが示された」と結論付けています。
動物が近親交配を選ぶ理由として、まず考えられるのが「他に選択肢がないケース」です。確かに、近親交配にはデメリットが伴いますが、子孫をまったく残さないよりは例え近親交配であっても繁殖した方が、自分の遺伝子を残す上で有利です。さらに、有名な生物学者であるリチャード・ドーキンス氏が著書「利己的な遺伝子」で示したように、動物は自分の遺伝子をできるだけ多く残したいと考えています。これを踏まえると、自分の親兄弟は自分と同じ遺伝子を多く持っているため、ある意味では「近親交配の方が遺伝子を残す上で有利」だということもできます。
また、近親交配を避けるためには、誰が自分の近親者かを見分ける能力を発達させる必要がありますが、これにはコストがかかります。そのため、「近親交配を回避するのに使えるエネルギーを繁殖に振り向けた方が、生存戦略の観点では有利なケースもある」と、デブール氏らは指摘しました。
デブール氏らの説は、数学的モデリングを用いた研究でも裏付けられています。この研究では、「遺伝病や遺伝子的な欠陥が継承されるリスク」をデメリットに、「より効率的に遺伝子を残したり、交尾の機会を増やしたりできること」をメリットに設定して、それぞれを定量化してコンピューター上でシミュレーションしました。その結果、生息環境やそこに住む個体数といった要素を加味しても、「近親交配を容認するモデル」が最も成功に近い戦略だということが分かったそうです。
デブール氏らは、動物は近親交配を避ける傾向がないという今回の研究結果の注意事項として、「データとして使われたのは人為的な管理下での実験結果なので、交配相手の選択に影響を与える条件などが自然界とは異なる可能性がある」という点を挙げています。
その上でデブール氏らは、「ジャイアントパンダなど、絶滅危惧種の動物を守る試みの多くは血のつながっていない個体同士を交配させることを目指しています。しかし、動物は選択肢があれば近親交配を選ぶ可能性があるということが分かったので、今後はこの点を考慮すべきかもしれません。近親交配は、遺伝的多様性の観点から見れば良くないことですが、少なくとも新しい世代を誕生させることにはなるからです」と述べました。
URLリンク(gigazine.net)