20/05/16 19:23:57 eby9t/dm9.net
1930年代の世界恐慌にも匹敵するともいわれるコロナ危機。この危機を脱するにはどうすればいいのだろうか。このたび『日本経済学新論: 渋沢栄一から下村治まで』を上梓した中野剛志氏が、1930年代に世界恐慌から脱する偉業を成し遂げた政治家・高橋是清の思考を探る。
■世界恐慌に挑んだ高橋是清
コロナ危機については、1930年代の世界恐慌に匹敵する恐慌であるという認識が共有されている。
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もちろん、世界恐慌とコロナ危機とでは、違いもある。しかし、失業の増大、所得の減少、需要の消失、そしてデフレ圧力という点においては、同種の経済危機であることは間違いない。したがって、我々は、1930年代の世界恐慌の経験から、多くを学ぶことができるはずだ。
世界恐慌を研究した経済学者ジョン・K・ガルブレイスは、恐慌下において「肯定的に捉えられていたいかなる政府の経済政策も否定する」ような、「固定概念を打ち破る思考の偉業」が達成されると述べた。
1930年代、その「固定概念を打ち破る思考の偉業」を最初に成し遂げたのは、誰あろう、我が国の高橋是清である。
1931年、高橋は、5度目となる蔵相に就任し、金本位制からの離脱と金兌換の停止、金融緩和、日本銀行による国債の直接引き受け、そして財政赤字の拡大など、ケインズを先取りしたケインズ主義的政策を断行した。その結果はまことに劇的なもので、1936年までに国民所得は60%増加し、完全雇用も達成したのである。
■「健全財政」という固定概念
当時、高橋が打ち破った「固定概念」の1つは、国家予算の収支均衡を原則とする健全財政論であった。だが、高橋が90年前に破壊したはずの健全財政論は、今日の日本においてもなお、強固な「固定概念」として政策当局や経済学者、そして世論を支配している。
例えば、昨年、MMT(現代貨幣理論)が我が国にも広く紹介されたが、MMTこそ、健全財政論を否定する理論であった。
しかし、我が国の政策当局や経済学者の大多数は、MMTを一蹴し、健全財政論に固執し続けた。それどころか、この世界恐慌以来のコロナ危機の渦中にあってもなお、「固定概念」を打ち破ることができずに財政支出を惜しみ、財政赤字の拡大を懸念している。
麻生財務相とは対照的に、高橋蔵相は、1934年、健全財政論はもはや時代遅れだと喝破し、均衡予算に固執していると、国家間競争の敗者となると警鐘を鳴らしていた。
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さらに高橋は、健全財政論を是とする主流派経済学を批判し、財政赤字の拡大は恐れる必要はないだけでなく、国富を増大させるためにはむしろ必要であると論じた。
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今日、高橋が財務大臣であれば、このコロナ危機に処するため、100兆円規模の財政赤字も躊躇しなかったであろう。
当時、膨張する経済対策費や軍事費、あるいは国債の利払い費を支弁するため、増税が必要であるという議論があった。軍部もまた、軍事費を増大させるため、増税を主張していた。しかし、高橋は、増税を断固拒否した。増税は、国民の購買力を奪うものだからだ。
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今日、財政赤字を拡大してよいとするMMTの主張に対しては、多くの経済学者が、まるで示し合わせたかのように「インフレが制御不能になる」という批判を繰り返している(「MMT『インフレ制御不能』批判がありえない理由」東洋経済オンライン 2019年5月29日)。
どうやら、1930年代当時、高橋に対しても、同じような批判があったようだ。これに対して、高橋は、こう反論している。
能く世の中でインフレーションと言ふが、インフレーションの弊害は今のところ少しもない。それから公債は出るけれども、その公債を出して政府が使つた金はいろいろ働きをして又再び中央銀行に戻つて来る。さういふ訳で兌換券発行高といふものは、季節的に月末とか季節末には殖えるが、平常はさう俄に殖えない。一方に於ては徐々として需要供給の原理に基いて物価が上がるものもある。けれどもこれもさう急激な騰貴はない。(随想録)
実際、その通りで、高橋が蔵相の間、インフレ率は年率3%未満であった。
こうして、高橋は、高インフレを伴うことなく、世界に先駆けて、恐慌からの脱出に成功した。まさに、「固定概念を打ち破る思考の偉業」であった。
しかし、この令和の日本で、高橋のような「固定概念を打ち破る思考の偉業」を成し遂げられる者が、果たしてどれだけ現れるというのだろうか。
5/16(土) 5:50配信
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