18/12/21 12:50:43.93 CAP_USER9.net
他人との関係が「リスク化」する時代に
現実化する「ハラミ会」
2018年11月ごろのことだ。インターネットで突如として「ハラミ会」なるワードが大きな話題となった。「ハラミ」の単語から連想されたかもしれないが、焼肉を楽しむ同好会のことではない。
ハラミ会の正体とは、『モトカレマニア』(瀧波ユカリ著)という漫画のワンシーンに登場した「ハラスメントを未然に防ぐ会」のことだ。女性と食事や酒の席を設けてうっかりセクハラをしてしまうことをなくすため、女性を交えての会合そのものを行わない男性会社員のグループが、そのように自称している。
「ハラミ会」のメンバーである男たちの過剰反応ともいえる滑稽な姿は、「セクハラに敏感な社会」を皮肉ったフィクションのように受け止められたようだ。しかしこれはけっして笑いごとではなく、いま実際に社会はフィクションを追い越しつつある。
現代社会では、人々はあまり深い関係でない他者のことを、社会的・経済的な観点から「リスク」とみなすようになってきている。異性に対する意に添わない声かけが、往々にして「ハラスメント(嫌がらせ、加害)」として回収されうるものとなってしまったことは、その典型的な事例のひとつだろう。
「他人とコミュニケーションをとったばかりに、意図せず加害者になってしまうリスク」を避ける最善の方法は、「そもそも他人とお近づきにならないこと、他人とコミュニケーションをとらないこと」だ―そう考える人が現れるのも無理はない。冗談でいっているわけではなく、本当に「他人(とくに異性)と関わるとロクなことにならない」という時代がやってきつつある。
URLリンク(gendai.ismedia.jp)
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(略)
〈業績は良いのだが、クリスマスパーティーは開かない。そんな米企業が増えているようだ。これはセクハラや性的暴力を告発する「#MeToo」運動の広がりが一因かもしれない。
コンサルティング会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが(11月)6日に公表した調査リポートによると、ホリデーを祝うパーティーを今年開く企業は65%にすぎない。これは2009年以来で最も低い割合だという〉(「クリスマスパーティー、米企業で減少傾向- #MeToo の影響も」『Bloomberg』2018年11月7日より)
〈女性の同僚と夕食を共にするな。飛行機では隣り合わせで座るな。ホテルの部屋は違う階に取れ。1対1で会うな。これらが近頃のウォール街で働く男性の新ルールだ。要するに、女性の採用は「未知数のリスク」を背負い込むことなのだ。女性が自分の一言を曲解しないとは限らない。
ウォール街全体で男性たちは今、セクハラや性的暴力を告発する「#MeToo」運動への対応として、女性の活躍をより困難にするこんな戦略を取りつつある。妻以外の女性とは2人きりで食事をしないと発言したペンス米副大統領にちなんで「ペンス効果」とでも呼ぶべきだろうか。その結果は本質的に、男女の隔離だ〉(「ウォール街、「#MeToo」時代の新ルール-とにかく女性を避けよ」『Bloomberg』2018年12月4日より)
(略)
これは人類の「緩やかな自殺」なのか?
逆にいえば、国や社会の人口を維持し、少子化問題に対応していくのであれば、残念ながら各人が他人から「不愉快な関わり」を受ける可能性を多くの人が引き受けなければならないし、ハラスメントの加害者として告発されるリスクも覚悟しなければならないだろう。
国や社会の将来的な安定を気にしないのであれば、子どもを産み育てることなど考えず、十分な娯楽に溢れたこの楽しくて快適な社会を、自分の寿命が尽きるまで楽しむのもひとつの考え方だ。
「思想のためなら死ねる」「神のためなら死ねる」という考えをもつ人びとは、しばしば「過激派」「原理主義者」などといわれてきた。しかし現代の(とりわけ先進国に生きる)人びとはまさに、自由や人権のために「緩やかな自殺」を選ぼうとしているのかもしれない。
繰り返しになるが、それは不幸な決断なのだろうか。嘆くべきことなのだろうか。私にはわからない。少なくともおそらく、自分が生きているうちは「快適で安全な社会」が享受できるのだから。自分が死んだあとの世界で生きる人びとのことはともかくとして―。
私たちは、どのような社会を目指すべきなのか、その社会のあり方を目指していくためのは、なにが代償となるのか、あらためて考えていかなければならないのかもしれない。
明るい側面ばかりをもつものは存在しない。それどころか、その光が強いほど、陽光のあたらない部分の影はより濃く、暗くなるものだ。