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2018年10月15日 11時0分
文春オンライン
今年8月、米国カリフォルニア州で画期的な判決が下された。悪性リンパ腫と診断された末期がん患者が、巨大バイオ化学企業「モンサント」を相手取り、“がんになったのは学校校庭整備の仕事で使用した同社の除草剤のせいだ”と訴えた裁判で、陪審が原告の主張を全面的に認め、約320億円もの賠償金の支払いを命じたのだ。
米国に本社を構えるモンサントは、ベトナム戦争で使用された、あの悪名高き「枯葉剤」を製造していた化学メーカー。末期がん患者が使用していたのも、「ラウンドアップ」というモンサントの代名詞と言える除草剤だ。
モンサントのビジネスの肝は、除草剤だけでなく、除草剤に耐性のある大豆やトウモロコシなどの遺伝子組み換え種子も開発し、これをセットで売り込んできたことにある。農家からすれば、除草剤を大量に散布しても作物だけは育つ。それどころか、(少なくとも当初は)従来以上の収穫量を得られるということで、このビジネスモデルが瞬く間に世界の種子市場を席巻してしまったのだ。
だが、遺伝子組み換え種子は一代限りしか使えず、農家は毎年種子を購入しなければならず、その種子は「知的財産権」で保護されている。つまり、農家は種子を販売する企業に全面的に依存することになり、この隷属状態から抜け出せなくなる。
現在、世界中で巨大企業による農業の支配が進んでいるが、その支配は「種子」を通じてなされている。2011年のデータでは、モンサント、ダウ、デュポン、シンジェンタなど多国籍企業6社が世界種子市場のシェア66%を占め、なかでもその筆頭が、世界の遺伝子組み換え作物市場の90%のシェアを誇るモンサントだ。
フランス人ジャーナリストが制作した映画『モンサントの不自然な食べ物』が、その怖ろしい実態を暴いている。トウモロコシの固有種が遺伝子組み換え種子に汚染されているメキシコや、高額契約による借金苦で綿花農家が25万人も自殺したと言われるインドなど、モンサントに支配された世界各地の悲惨な状況が克明に描かれているのだ。
だが、日本でこの映画を観ても、多くの人は「所詮は外国での出来事」と思うのではないか。しかし実は日本でも、同様の事態がいつ起きてもおかしくはない。
もともと日本には「種子法」が存在していた。「種子は農業の根幹」「種子は公共の物」という考えから、コメなど主要農作物に関して「種子」の公的な維持・管理を定めたものだ。この法によってそれぞれの地域に適した「良質な種子」が安定的に生産されてきたのである。ところが、今年4月、この「種子法」が十分な議論もないまま廃止されてしまった。これによって、モンサントなどの巨大企業が「日本の種子ビジネス」に全面的に参入できる状況が整ったのである。
「文藝春秋」11月号では、かつて農水大臣を務めた弁護士の山田正彦氏が、種子法廃止によって日本の農業が直面する事態について警鐘を鳴らしている。
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2018年11月号)
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