07/11/23 05:28:03
あ…過去スレちょっとミスった…orz
済まん、吊ってくる
3:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/23 05:44:21
明け方乙!
4:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/23 07:20:03
>>1
乙
前スレ容量オーバーでdat落ちしたのね
5:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/23 08:28:24
ちょうど連載も全部終わったし、ちょうどよかったかもね
新作投下マチー
6:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/23 08:32:33
>>1乙
そして投下待ち
7:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/23 08:43:43
>>1乙
容量オーバーか
8:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/23 19:55:56 QS+oFaIV
削除以来出して来い
9:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/23 21:22:23
>>1乙です。
容量オーバーか…。一瞬焦ったぞw
とりあえず街。
10:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/24 23:25:30 GlTQPQRm
ちょwwアスカとシンジでSMスレ落ちた?
せっかく新作できたのに・・・ここにはスレチだよね。
11:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/24 23:26:43
エロスレは全削除されました
12:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/25 00:33:59
>>10
>>1参照
投下するならエロパロ板のこっちへ
【初号機】新世紀エヴァンゲリオン【出撃】
スレリンク(eroparo板)
LAS読みたいって住人も居たから喜んでくれるかも
13:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/25 05:44:35 QLFCfrFv
>>12
わざわざありがとうございました!
でもあっちでSMはあまりなかったのと、エヴァの世界観があまりなかったので、投下はやめました。
14:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/25 06:13:02
投下するしないは、職人さんの自由だからかまわないけど、ちょっと読みたかったなw
あと、sageてやってほしいです
15:パッチン
07/11/26 01:38:05
「ハッピバースデイトゥーユー・・・♪
ハッピバースデイトゥユー・・・♪
ハッピバースデイディア、アスカ~・・・♪
ハッピ…」
「もういい。アンタの歌聴いてるとハッピーになれないわ」
「・・・じゃあサッサとロウソク消してよ」
「ふぅ~~~~っ
はい。アスカちゃん27歳おめでとぉ~」
パチパチパチ
「おめでとう。さて、ケーキ切ろうか」
「はぁ~…。暗い誕生日パーティーだこと。アンタと2人きりって…」
「不満なら出て行っていいよ。彼氏と遊んできなよ」
「彼女の誕生日に仕事いれるような奴とは、とっくに別れましたよ~だ」
「・・・えっと、22人目だっけ?」
「ぶ~っ!30の大台に到達しました~」
「ねぇ、やめなよポイポイ男変えるの」
「ふんっ!アタシに捨てられないような男がいないのが悪いのよ!
・・・ところでさぁ
・・・アタシ今『誰の物』でもないよ?」
「はぁ…。またなの?」
「あんな男と付き合ってたと思ったらイライラすんのよ!
…1回リセットしたいの」
「・・・わかったよ。シャワー浴びてくるから…」
「そのまんまでいい」
ガタンっ
「うわっ!?」
「うふふっ、シンジぃ~♪」
「アス…カ」
やっぱりおかしいよ。こんな関係
16:パッチン
07/11/26 01:40:24
~愛しき日々~
翌日、ネルフ本部
僕はパソコン画面と、昨夜の情事による寝不足で完全に疲れきった目をグシグシと擦る
「ねむ…」
スパーン!!
「痛いっ!!なにすんだよ!!」
後頭部に強烈な刺激。振り返ると、丸めたテキスト片手にしたアスカ課長
「画面ぐちゃぐちゃよ馬鹿」
「へ?・・・うわっ!!」
いつの間にかキーボードの上にもたれかかっていたらしい
「す、すいません…」
「以後気をつけなさい!
・・・さて、お昼の時間だし食堂行きましょ」
自らの左手に付けた高級腕時計(17番目の彼氏による贈呈)を、僕の目の前にグイッと近づける
「あ、わかりました。ちょっと待ってください…」
家にいる時はタメ口で話しているが、会社ではアスカが上司だから敬語を話さなくてはならない
少し気持ち悪い感じもするけどね
「はぁ!?アンタ上司の言うことがきけないの!?」
このように上司面されることなんか日常茶飯事だ
「唐揚げ定食奢りますので…」
「うん、じゃあよろしい。手伝ったげるから早くランチにしましょ」
隣の椅子に腰掛けて、資料書類達に物凄いスピードで目を通していくアスカ課長
「さすがキャリアウーマンですね…」
「うるさい駄目シンジ」
17:パッチン
07/11/26 01:42:46
ただの同居人かといわれたら違う
ただの上司かといわれたら違う
愛する恋人かといわれたら絶対に違う
じゃあ…なに?
僕とアスカの関係を表す言葉って存在するの?
食堂に着いた僕とアスカは唐揚げ達が乗ったトレイをテーブルに置き、向かい合って座る
「ったく情けないわねぇ…。あんくらいで寝不足だなんて」
「僕はアスカと違って、ああいう不潔なことに慣れてないんだよ」
唐揚げに醤油をかける僕
ソースをかけるアスカ
「ふんっ悔しかったらアンタも他の女で練習しなさいよ
ネルフで誰か紹介してあげようか?」
「・・・」
「あっ!ごめ~ん♪アンタ、ホモ説ながれてるんだったわね。あははっ」
「ながれたんじゃなくて、ながしたんだろ…。アスカが…」
あれは去年のバレンタインデー
アスカ以外の女性とは話す事も苦手な僕は、予想以上の量のチョコを貰って困り果てていた
そしてその事をアスカに相談したら…
『アタシにまかせなさい』
の一言を残してアスカは次の日、女性達が僕を白い目で見てくれる魔法の言葉をネルフ中に振り撒いてくれた
「あれから、うっとおしい女が近づかなくなったでしょ?感謝しなさい」
「時々うっとおしい男が近づいてくるんだけどさ…」
18:パッチン
07/11/26 01:45:32
「ところでアンタ、誰かいい男知らないの?」
「知らないよ。人気イケメン俳優まで捨てた女に似合う男を僕が知ってると思う?」
2年前、週刊誌の記者が撮影したスキャンダルをネルフが揉み消した事件は本部内では有名な話だ
「つまんないの~
・・・あ。ごめんシンジ、隣行くわ」
不機嫌そうに唐揚げを箸でこねくり回していたアスカは、更に不機嫌顔になり、僕の隣の席にトレイごと移動してきた
「惣流くん。一緒にお昼どうかな?」
そしてやって来のは、毎日が常夏の日本とはいえ、冷房キンキンの食堂で、汗を大量に滴らすネルフNo.1のスケベっ子親父『里崎マサオ博士』
「え、えぇ。よろこんで」
顔をひきつらせながら答えるアスカ
なるほど。里崎が隣に座るのを回避するべく、僕の隣に座ったのだろう
案の定、里崎は僕の方を軽く睨みつけている
「おや、碇君もいたのかい?これはこれは」
「あ、いえいえ僕は失礼します。仕事がありますので」
そう言うと、口いっぱいに唐揚げを放り込み、僕は退散する
「な゛っ!!ちょっと待ちなさいよシンジ!!」
「惣流課長はゆっくりお食事しててくださいね♪
あ、そうだ!最近彼氏と別れたらしいし、里崎博士に相談したらどうですか?」
「おぉ!それは可哀想に。惣流くん、相談にのるから話してごらん?」
「え?あ、あはははっ…」(ギロリ)
隣に座った里崎はアスカの肩に手をまわし、異常に顔を近づける
食堂が一気にキャバクラに変化していく
「じゃあサヨナラ~」
そして僕はアスカの殺意ムンムンの視線を背に、仕事場へと引き返していった
19:パッチン
07/11/26 01:49:02
夕焼け空の下、風をきって帰路を走る赤いスポーツカー
「ったく!あのエロ親父が!!ぬぁ~にが『僕なら君に涙を流させない』よ!!あぁ~気持ち悪い気持ち悪い!!」
ハンドルを操作する僕の隣で、体中をかきむしるアスカ
よっぽど嫌だったんだろうなぁ
「もとはといえばアンタがアタシを見捨てたから…」
「今さぁ」
「なによ!?」
「夕飯をハンバーグにしようか、野菜炒めにしようか悩んでるんだ」
「・・・ハンバーグ」
「おっけぇ」
車はスーパーの駐車場に滑り込んでいった
・
・
・
停止した車内でアスカは僕にビシッと指差して、命令する
「ビールとポテチとアイスクリーム買ってきなさい!」
「そんなに買ってどうすんだよ…」
「アンタばかぁ?明日から日曜日なのよ!なんの予定も無い日は、たくさん食べて、たくさんヤるしか無いでしょ!?」
そう言うと、僕のポケットから財布をふんだくり、お札を何枚かむしり取る
「薬局行ってくる!ゴム無なかったでしょ」
「ちょ、ちょっと…」
バンっ!!
「もぉ~…」
1人車内に取り残された僕は、ハンドルにもたれかかり、意気揚々と薬局に走るアスカを眺める
夕日に照らされたアスカの金髪は悔しいほど綺麗だった
20:パッチン
07/11/26 01:51:34
翌日
昼の1時を過ぎたあたりで目を覚ました僕は、隣で眠るアスカを見やる
「幸せそうな顔…。なんか1人で悩んでるのが馬鹿みたいだ…」
僕とアスカはこの先どうなるんだろう…
いつまでこんなダラダラな…でもこの上なく心地良い関係でいられるのだろう…
脱ぎ散らかしたパジャマを再び着込む
先程まで温かいアスカに包まれた僕の身体は、冷えたパジャマを拒絶するように一瞬プルリと震えた
・
・
・
1時間後、キッチン
「ふわぁぁ~ぅ、おはよシンジ…」
「おはよ…って服着てよアスカ…」
全裸で登場したアスカは、ダイニングの椅子に腰掛けると、テーブルをコンコンと叩く
「コーヒー?今作るから待ってて」
「んふふ~♪うんっ♪」
『コンコン』でコーヒープリーズが伝わったのが嬉しかったのか、寝ぼけ眼で笑顔を作るとジ~ッと僕を見つめている
・・・全裸で
「…なんだよ」
「毒入れないか見てるのよ♪」
「ふぅ~ん。・・・本当に入れたらどうする?」
「う~ん…。そうねぇ~」
僕が先程アスカがコンコンした部分に出来上がったコーヒーを置くと、カップに視線を落としたアスカは小さく口を開いた
「・・・飲めるわよ。・・・アンタが入れた毒なら飲める」
21:パッチン
07/11/26 01:53:46
その後、昨日買ったカップ麺で昼食をとった僕らは、もう1度セックスした
夜になり、再びカップ麺で食事をとった後、昨日買ったお菓子を食べながらTVゲームをした
そして今はソファーに座り、正面から抱きついているアスカを抱えながら、ビールを一緒にチビチビ飲んでいる
・・・全裸で
「・・・ねぇ?なにやってんのかなアタシ達…」
「知らない。・・・でも、とりあえず僕はこれでいい
ううん…。これがいい」
食べ散らかしたお菓子の袋
コントローラーがいなくなったゲームキャラクターは、どうしていいかわからず、ピクリとも動かない
「アタシもこのままがいい…
もう男なんかいらない…。お金もいらない…。愛もいらない…。」
「明日も仕事だよ」
「やだぁぁ…。ずっとこうしとくぅぅ…」
ソファーの上で僕にしがみつくアスカは更に両腕に力を込める
「お風呂入って寝よう?ね?」
「ふぇっ…ひっく…」
涙が僕の右肩を濡らしていく
「明日なんかいらない…。時間止めてよシンジぃ…」
「・・・・・」
僕もそうしたいよ
でもできないよアスカ
明日は来ちゃう
当たり前のように、馬鹿みたいな日々が過ぎていく
22:パッチン
07/11/26 01:57:56
今回ここまでです
EOE後、ダラダラ生きる2人を書いてみました
アスカが他の男とヤリまくってる設定です。ごめんね
ファンフィクションだから許してね
23:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/26 03:14:58
おー、新作来たか。
ここはイタモノもおkのはずだから問題ないと思うよ。
とりあえず続きが気になる。
24:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/26 07:33:30
乙。
25:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/26 18:50:36
>>22
そういうことは、異性系イタモノという宣言だけにしといて、
中身は作中での描写で勝負しないと。
作者が言ってしまうと話が安っぽくなるぞ。
26:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/26 19:40:37
乙!
GJです!
27:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/26 21:35:32
俺も何か書いてみようかな……
28:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/26 21:49:17
>>27
頑張れ
29:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/26 21:52:45
>>25
仕方ない。世界観が飛びまくってるから今回のパッチン氏の文章だけでは
理解出来ん。
それにレベルが低いから修行の為に、ここで書いてるんじゃね?
実際でらとかレベルのものがかけるなら普通に投稿してるでそ。
30:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/27 18:26:55
>>15
GJ
こういうのも好き
31:パッチン
07/11/30 20:42:28
12月4日から3ヶ月が過ぎた3月某日
27歳になったアスカは、あれから彼氏を作らなくなった
理由なんかわからないけど、仕事の日以外はずっとマンションで生活している
そしていつも外ではイラついている。部下である僕らは、いい迷惑だ
「なんで最近イライラしてんの?」
「イライラしてる?そうかな?・・・うん、そうかもしれないかな。あはははっ♪」
そして家ではいつもこの調子。ボーっとして、時々笑って…
「よし、セックスしましょ」
こんなことばかり
・
・
・
ネルフ本部
『あっはははっあーっはっは!!』
用を足して男子トイレから出てきた僕の耳に届いたのは、女子トイレから響き渡る笑い声
アスカだ…。他に人の声は聞こえない
「アスカ…?」
「あはっ?シンジじゃな~い♪なんで女子トイレにいんのよ?あははっ」
「ききたいのはこっちだよ…。なんで1人で爆笑してるの…?」
トイレの鏡で自分を見つめながらケラケラ笑うアスカ
不気味以外のなにものでもない
「ふふふっ、今日は早退しましょ。海行こ海♪」
アスカは笑顔でそう言うと僕の手を握り、女子トイレから飛び出した
「ちょ、ちょっとアスカ!?」
なんなんだよもう…
32:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/30 20:45:41
おー来てる来てる
支援
33:パッチン
07/11/30 20:47:15
ザザーン…
赤い海が広がる砂浜に僕と、先程と打って変わって沈んだ表情のアスカが並んで座ってる
「妊娠しちゃったみたい…なのよ…ね」
海に着いての第一声がそれだった
ポケットからデジタル式の妊娠検査薬が顔を出している
「何ヶ月とか詳しくはわかんないけど、『ここ』にいるのは間違いないと思う」
アスカはお腹をさすりながら、ポツポツと話す
ザザーン…
「なんか言いなさいよアンタさぁ…」
「・・・なんて言えばいいんだよ」
色々言いたいことはある。でも…
「結婚・・・しない?」
「したくない…」
「・・・ぷっ、あはははっ!言うと思ったぁ~♪」
ザザーン…
「アタシみたいな使い古し女と結婚はイヤですか?シンちゃん?」
別にアスカが何人の男に抱かれてようが…
「僕とアスカって、そんなんじゃないと思ってたから…」
男と女だとはわかってた
「まぁ嫌がっても無理やり結婚するけどね。『多分』アンタの子供だと思うし」
「産むの?アスカ子供嫌いじゃ…」
アスカと僕の子供・・・なんか気持ち悪い
「楽しみじゃない。どっちに似るかとかさぁ♪」
ザザーン…
「・・・まぁ確かに楽しみは楽しみかな」
「じゃあ決定ね。結婚しましょ」
34:パッチン
07/11/30 20:50:12
ザザーン…
「べつに愛してくれなんて言わないわよ。結婚して、この子の父親になってくれたらそれでいい」
スーツ姿のアスカが母親ぶった顔になる
妙に気味が悪い…
「まぁアタシもアンタのこと愛してないから安心しなさい
戸籍にアタシとアンタを繋ぐ線を書くだけよ」
「愛のない結婚か…」
アスカのその言葉は、僕に心にのしかかる重圧を少し取り除いてくれた気がした
ザザーン…
「アスカは僕と結婚していいの?もう男遊びとかできないよ?」
「どうでもいいわ。アンタ以外の男は結局みんな同じだったしね」
「みんな同じ?」
なんか僕が変わり者みたいな言い方だな
平凡な性格してる自信はあるんだけど
「そっ。アンタ以外の男はみ~~んな同じ
ほれ、『これ』見て嫌がらないのはアンタだけよバカシンジ?」
ブラウスの下3つのボタンを外して、お腹をペロンと出すアスカ
「あぁ…それか…」
ザザーン…
13年前、ネルフのプールで水着姿のアスカが見せた可愛らしいお腹は、量産エヴァが喰いちぎっていってしまった
あとに残ったのは無惨に変色してズタズタになった…
「確かに気にしなくなってたね僕」
「ホントよね~。昔はお腹見る度に謝ってクセに」
35:パッチン
07/11/30 20:52:36
「これ見たら、ほとんどの男は逃げるわね。まぁ目逸らしながらヤる男もいるけど
この前なんか『コスプレが好きなんだよ~』とか言いながら、着衣セックス必死に求めてくる奴もいたし」
そんなことを言いながらアスカはケラケラと笑っている
・・・でも、僕はアスカを抱いた男達に猛烈にイラついていた
嫉妬とか同情なんかじゃない
アスカの男に対して感情を抱くなこと今まで無かったのに…
ザザーン…
「このお腹に耐えられた奴も、アタシの過去知ったら苦笑いしながら逃げていくしね」
「・・・・・」
「いくら世界の英雄でも『戦自殺し』みたいな面倒くさい肩書き持った女は嫌なんでしょ」
アスカの笑顔はまだ崩れない
でも僕のアスカに対する見方は完全に崩壊していた
僕の心の中で、お気楽に毎日を生きていたハズのアスカが
ザザーン…
「あははっ、アンタのこと騙したのよアタシ
本当はさぁアタシが男に捨られてんの」
「…もういいよ、わかったから」
「男と一緒にラブホ行って、帰りは1人で帰んの
ピロートークで戦自の話したら、血相変えて逃げてくから」
「ききたくない…」
「あははははっ」
「・・・」
「あはは…ははっ・・・はぁ…」
ザザーン…
36:パッチン
07/11/30 20:55:24
「・・・もう帰ろうか?夕飯の準備もあるしさ」
僕は立ち上がると、膝を抱えるアスカに手を伸ばす
「1人で立てる?妊婦さん?」
「・・・結婚」
「は?」
「ファイルアンサーしてない…。結婚するの?しないの?」
アスカは、うつむきながら僕の返答を待っている
「するよ。『愛の無い結婚』でしょ?
だいたい僕が子供作って逃げる男だと思ったの?」
「・・・アンタの子供じゃないかも…しれないん…だよ?」
ああ、確かにそうかもしれない
そのことをあんまり気にしてない自分は異常なのかな?
「アスカのお腹にいる時点で僕に無関係じゃないし、結婚するだけでアスカが満足ならそれでいいよ」
「・・・変な奴」
「あははっ、僕もそう思う
じゃあ、もう帰ろ。結婚祝いに今日はワインでも開けようか?」
アスカに子供がデキて結婚
昔の僕なら、頭から血が吹き出すほど悩んだだろうなぁ…
僕を同居人から婚約者に変えた女性は、僕の性格も大きく変えてしまったらしい
ザザーン…
「僕ら結婚したら何か変わるかな?」
「アタシは変わらないわよ。アンタに対する気持ちなんか今更変わりようがないし」
愛の無い結婚…
それが2人で一緒に出した僕らの結果だった
「あっ!でも子供産んだら週間セックス量増やしましょ♪夫婦なんだしさ♪」
37:パッチン
07/11/30 20:59:42
今回ここまでです
感想、ご指摘、ありがとうございます
なんか嫁がインフルかかったり、仕事増やされたりして書くの遅れてますw
38:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/30 21:01:44
乙!
嫁さんは大事になー
39:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/01 00:19:06
乙
続きが気になる
40:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/01 01:04:05
GJ!
できのいい作品をコンスタントに書くいてくれてありがとう!
41: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 07:44:23
アスカ誕生日記念SS
アスカ21回目の誕生日の朝。外では雀がさえずっている。ほんの少しだけ隙間の開いたカーテンからは日の光が一筋の光線となって、部屋を切り裂いていた。
アスカの部屋。窓側の壁に密着して置かれたベッドの上には人形のようにアスカが横になり、窓の方を向いて眠っている。
ベッド脇の小さい机の上には朝日で光る水差と、小さいコップが置かれ、水差の中に残っている水は半分に減っている。
左の壁際にはラックが置かれている。上にはいくつかの写真立てが置かれ、そのどれもに共通して、二人の男女が新婚の夫婦のように笑いあって写りこんでいる。
右の壁際にはデスクが置かれ、その上に備え付けられた棚には分厚く、高そうな辞書や、文庫本サイズのアスカの愛読書が並んでいる。
電気スタンドもあるが、ついてはいない。
ドア横の壁にはドイツの風景写真が添えて載せられたカレンダーが架けられ、十二月の頁が捲られて冬季風景のドイツが見えている。
フローリングの床にはパッチワークの美しい絨毯が敷かれ、ぬいぐるみやクッション、洋服に下着などが散乱している。
どうやらアスカは酷くだらしがないようだ。
「ん……。」
小さい呻きと共にアスカの体が、空気の入り始めた風船のような身じろぎをする。衣擦れの音。
彼女の瞼が薄く開かれるが、部屋を照らす朝日の明るさに再び閉じられる。
右手が布団の中から這い出し、肌寒い中を探る。枕元を何度かまさぐったその手が、やっと目覚ましに行き着く。
目覚ましを鷲掴みにした右手は、獲物を捕えて巣穴に引き込むウツボのような動きですぐ布団の中へ引っ込む。
アスカの瞳は蛍光塗料の塗られた時計板を見た。
時刻は十時三三分。数分の狂いはあるかも知れないが、今は彼女にはそれほど重要な事ではない。
しかしそこでアスカははっとする。そう、今日はアスカの誕生日なのだ。
ムクリと起き上がり、アスカはボサボサに乱れた長い髪をワシャワシャと掻き回した。少し頭を動かすが、アスカはピタリと止まったまま動かなくなる。
「いたぁ……。」
アスカは頭を右手で押さえて呻き、何度か頭を摩る。
「昨日呑みすぎた……。」
42: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 07:47:54
痛々しい台詞を吐き捨てて、頭を気遣いながらアスカはベッドから降りる。
アスカの寝間着は綿の詰まった暖かいパジャマ。かなりの上等品のようで、「季節が戻り始めてるから」と十八の誕生日に貰った物だ。
これのお陰でアスカはこの寒い冬でも快適に眠る事が出来るし、大きめに選んであるので、
21になった今でも、修理をちょくちょく入れて大切に着る事が出来ている。
フカフカとした絨毯の上をアスカが歩き、デスクの抽斗を開けて『鎮痛剤』『胃薬』とラベルの貼られたふたつの小壜を取り出す。
内容のピルは、既に半分程減っている。
アスカはもう一度絨毯の上を歩いてベッドの上に座り、小壜からピルを数粒取り出して口に含んでサイドテーブル上のコップに水を注いで飲み込む。ピルが一緒に嚥下される。
アスカはコップの水を飲み干すとそれをテーブルの上に戻し、再び立ち上がる。
チェストから着替えを取り出し、小脇に抱えてドアへ向かう。アスカはドアノブを捻り、ドアを開けた。
寝室のすぐ外はリビングだった。向かって左はベランダ、右にはバスルームとトイレに外へ続く廊下への扉がある。
リビングの中ほどに進むと、右にはダイニングとキッチンに続く扉がある。部屋は殆どフローリング張りだが、リビングにはカーペットが敷かれている。
アスカは乱れた髪を手で撫でつけながら、右の扉に向かう。
床にある炬燵のスイッチと、壁にある備え付けられた暖房器具のスイッチを入れてからドアノブを回し、廊下に出た。
アスカは出てすぐに右の扉に入る。
ドアを開けたアスカの正面にはトイレへの扉がある。そこは脱衣所だった。
左にはバスルームがあり、昨夜彼女の設定した通りに湯が沸いていた。
アスカはパジャマと下着を脱いで脱衣籠に入れ、そのすぐ横の洗濯機の上に着替えを置いた。
「あ~ダルい……。寒い……。」
とアスカは呟く。
彼女は体を両手で摩りながらバスルームの扉を開けた。
シャワーを温かくなるまでバスに空出しし、それから湯を浴びる。
丹念に髪を洗っている段になって、アスカの頭痛は薬のお陰で大分軽くなっていた。
髪を洗い、全身にお湯を浴びてサッパリとした表情で、アスカは風呂から上がった。如何にも気持ちよかったと言う風な顔だ。
43: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 07:48:50
着替えは、余り飾りのない下着に見た目からして暖かそうな厚手のセーターとナイロンのズボンだった。
寒い脱衣所から飛び出したアスカは「寒い、寒い」とひっきりなしに呟きながら、直ぐにリビングに入る。
その部屋は、アスカがシャワーを浴びるうちにすっかり暖かくなっていた。息を吐きながら至福のふやけ顔をするアスカ。彼女は直ぐにリビング中央の炬燵に足を突っ込んだ。
「あ~、やっぱ炬燵は良いわねぇ。」
かつて同居していたミサトの家で初めて体験した炬燵であるが、アスカはすっかりお気に入りになっている。
その上彼女の口調がミサトの口癖「やっぱビールは良いわねぇ」と同じである事にアスカは気が付いたであろうか?
しかし彼女が、炬燵の上に置かれた籠に入った蜜柑に手を伸ばした時に、ぐぅ~と腹の虫がなる。誰もいないものの、アスカの顔が羞恥で赤く染まる。
「そういや……。」
お腹が空いた。とアスカは炬燵から抜け出す。ダイニングを過ぎてキッチンに向かう。
寒い室内。アスカは扉を閉めずに、ダイニングとキッチンにリビングの暖気を招き入れる。
「めんどくさ~い。」
本当に面倒臭そうにしてアスカは冷蔵庫から食材を取り出そうと、開けた。
時計の針十一時三十分をさした時、アスカの家のベルを鳴らす者があった。
ピンポーンとインターフォンの呼び出し音が、アスカの耳朶を打つ。
「何よ、もう!」
と苛立たしげにアスカは玄関に向かう。
寒いのが嫌いなアスカだ。この上雪まで積もる外への扉を開けるなど、彼女の性格から推測するに、本心では居留守まで使う選択肢まで浮かんでいるのだろう。
しかしアスカの今就いている仕事の性格上、仕事関係の宅配も考えられる。
よって居留守の選択肢は消滅し、残る選択肢はカーディガンか何かを羽織ってから外に出るという物だけだ。
結局アスカは寝室に散らばっていたカーディガンを羽織り、玄関へ向かった。
靴をつっかけてチェーンと鍵を外してドアを開ける。
「は~い、どちら様?」
機嫌の悪そうな顔をしてアスカが出ると、そこにいたのはお盆の上に覆いを載せた物を両手に持った青年がいた。
「おはようございます。××レストランのモーニングデリバリーサービスでございます。」
44: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 07:50:07
××レストランと言えば、第3新東京髄一の良質サービスと料理を誇る一流レストランだ。
「え? そんなもの頼んでないわよ?」
目を丸くしてアスカは言った。
「失礼ですが、惣流アスカラングレー様でございますね?」
確認に肯首するアスカ。
「でしたら間違いございません。こちらのお食事は特務機関ネルフ様よりのご注文でございます。」
なんでネルフが? と訝みながらも受け取ってサインするアスカ。
青年は深々とお辞儀してから仰仰しく辞した。
扉が閉められる頃になると、アスカの興味は、寒さから謎のデリバリーに完全に移動している。
誰が何の目的で? とアスカは考える。しかし誰も思い浮かばない。ミサトにそんな気が回る訳はないし、他の職員にいまだかつてしてもらった事がない。
銀の盆を持ったアスカはリビングに行き、それを炬燵の上に置く。頬杖を突いてアスカはぼんやりと考えている。
しかし誰の顔も浮かばない。結局、おかしな物なら保安部が来るだろうと思い、蓋を開けてモーニングを食べるアスカだ。
中身はアスカにぴったりの独逸料理だった。
ふかふかの柔らかいパンに、明らかに本場独逸の物だとわかるヴルストと湯気が立ち上り水面が金色に輝くオニオンスープ。そして保温機に納められ、温もりを失わない芳しい薫りが鼻孔を刺激する紅茶。
新鮮な果物まで付いている。どれも一見しただけではその味は分からないが、一口食べれば調理人がどのような苦心と工夫で作り上げた料理か分かろうという物だ。
アスカの味覚神経はたちまちに刺激され、口腔内に唾液が分泌される。思わず唾を飲み込むアスカ。
「怪しいもんじゃないわよね……ネルフからのなんだから。」
確認と言うより、自分にいい聞かせる為に味覚神経が言わせていると言うような口調だ。
アスカはチラリとキッチンの方を見る。アスカが先に確認した冷蔵庫の中には、ミルク、ビールと酒のツマミ程度しか入っていない。それもアスカの食欲を余計に駆り立てる。
それに空腹のアスカが堪えられる訳は無かった。
久し振りのまともな朝食を終えたアスカは、炬燵に潜り込んで顎の下にクッションを置いてパソコンに向かっていた。どうやら寝そべって仕事をしているらしい。
45: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 07:51:07
ブラインドタッチで次々と文章が打たれていく。まだ21だと言うのに随分と熟練した指捌きだ。
ウィンドウに打たれているのは、どうやら外国小説の日本語翻訳文らしい。
パソコンの横には、原稿用紙が数枚置かれ、そこには印刷された英文が羅列している。炬燵の上には茶封筒に百枚以上の原稿用紙が入ったままになっている。因みにこの他にも未処理の茶封筒がいくつかある。
仕事を始めてから30分ほど経った所で、アスカは肩をポキポキと鳴らす。すると炬燵の上に置かれた携帯のバイブレーションが震えた。
「ん……。」と呻いてアスカが体を擡げ、炬燵の上に置かれた携帯を取る。携帯のデジタル時計は十二時五分を示している。彼女はプライベートウィンドウを見てから、通話ボタンを押した。
「なぁに? ミサトぉ?」
如何にも面倒臭そうな口調でアスカが通話相手に話し掛けた。
「ヘロー!」
電話越しでこのテンションは酔っ払いとしか思えない。
「まさかミサト? デリバリー注文したの。」
「あたり! アスカも誕生日くらいまともなご飯たべなきゃね~。愛しい恋人の手料理を食べれないアスカにプレゼントってとこね。」
恐らく、デリバリーの配達時間をアスカの遅い朝食ぴったりの時間にしたのもミサトだろう。
アスカの白磁のような頬が真っ赤になる。
「う、うっさい! 一言多いわよ!」
と吐き捨ててアスカは通話を切る。携帯を炬燵の上に置いて赤く染まった頬に手をやるアスカ。ミサトがもし見れたなら「あら、処女みたいに恥ずかしがっちゃって。」と冷やかしただろう。
顎の下にあったクッションを両手で抱えたまま悶えること三十分。やっと落ち着いたアスカは、蜜柑と暖かい紅茶を口にしてから仕事に戻った。
アスカは時計を見た。壁掛け式のそれは十二時三十分を示している。この生活スタイルなら、そろそろアスカが遅い昼食を取る頃だ。
「ん~……。」
アスカが起き上がり、伸びをする。何度か体を揺らし、全身の筋肉をほぐす。
「はぁ……。」
一息吐いて肩をほぐしたアスカはムクリと立ち上がってキッチンに向かった。「寒い寒い」と連呼しながら体を摩るアスカ。
どうやら昼食をとる様子だ。
46: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 07:54:03
そんなアスカの様子を見計らったかのように再び呼び出し音がなった。まさかと言った風にアスカが玄関を開けると、朝と同じ配達の青年が立っていた。
「御待たせいたしました。××レストランのランチデリバリーサービスでございます。」
「やっぱり……。」
とアスカが呟くと青年は「はい?」と首を傾げる。
「いや、なんでもないわ、ありがとうね。」
気恥ずかしいのかウブなのか、青年は顔を赤く染めて辞した。頬を赤く染めた青年は、どうみてもアスカより何歳か年上に見える。だがしかし、やはりアスカの日本人離れした容姿と大人っぽい雰囲気で年上に見えてしまうのだろう。
「昼は何かしらね。」
蓋を被った盆を両手に持ったアスカは軽く首を傾げながら呟く。
リビングに戻ると直ぐに炬燵にそれを置き、蓋を開けるアスカ。
料理のメインディッシュはアスカの予想通り、彼女の故郷、独逸の料理だった。それはいかにも昼食らしく、腹を満たすために朝よりヴォリュームが増している。
そのメインディッシュは独逸で比較的ポピュラーな煮込み料理であるアイスバインだった。蒸かしたジャガイモが添えてある。左下の皿には輝くようなライスが盛られ、右側に置かれた小皿には水々しいサラダが装られている。
全ての料理は日本人向けに調整されていが、日本人の味覚に近いアスカにはぴったりだろう。
豚の脛肉は鹿児島の黒豚。野菜も全て無農薬有機栽培の良質なものである。
そして米はセカンドインパクトから復興した米所、新潟県産の新コシヒカリだ。
適度な味の塩梅に、肉の柔らかさに野菜の形が崩れない程度の絶妙な煮込み加減。
肉の柔らかさは、まさに口の中で蕩けるような秀逸の歯触りだ。
「やだ、これスッゴク美味しいじゃない!」
久し振りに食べる本格的な故郷の味に、舌鼓を打つアスカ。如何にも幸せだといった至福の表情だ。
結局、米の一粒まで食べ尽してしまったアスカだが、その顔は体重を考える余裕もない、幸福の絶頂と言った風だ。
暫く食後の休憩を取っていたアスカだが、ふと思い出したようにパソコンを炬燵の上に上げて操作をしだす。
翻訳文をフォルダに保存し、彼女はメールを打ち出す。
47: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 07:57:07
ここしばらくご無沙汰だったメールの遣り取りであるが、今日は流石にアスカ自身の誕生日であるし、なにも連絡を取ってはいけないという法はない。
極端に割り切った気っ風のアスカであるが、らしくなく様々なメールの文体をウィンドウ上に打ち出しては消していく。髪を弄りながら思案するアスカ。しかし中々文体は纏まらない。
元々他の外国人と変わらず、日本語における形容詞などに疎いアスカだ。しかし、それにしても随分悩む。
同居していた時はそれほど気を遣ってはいなかったアスカであるが、一旦活字に起こしてみようとすると、アスカは悩む悩む。
考えているのは文体から口調や漢字に至るまで全てだ。
強く書いてあまり寂しくないというようにすると彼はすねるし、あまりデレデレと想いのままを綴ると逆につけ上がる。アスカも気苦労が絶えない事だ。
思案すること三時間。たったメールひとつでここまで悩む人もそうはいないだろう。
結局アスカは伸びをして立ち上がり、欠伸を掻く。自室に戻り、着替えを持って風呂へ向かう。
熱い湯船につかって体全体の筋肉をほぐしたあと、パッと上がってイエローのティーシャツと白のショーツにホットパンツを穿く。因みにノーブラである。
リビングに戻ったアスカはさっさとパソコンをしまう。どうやらメールを諦めたようだ。
「お腹空いたわね。」
時刻は七時。二度あることは三度あるという諺がアスカの脳裏に浮かぶ。玄関の方へ向かうアスカ。
夕食のデリバリーを期待しているのだろう、心なしか顔の筋肉が緩んでいる。
外では十五センチ積もった雪の上に新たな雪が降り積もっている。
何が来るのかと少し楽しみにしながら、アスカは玄関の床に腰掛けて土間に足を降ろしている。
案の定インターフォンが鳴る。待ってましたと言わんばかりにアスカは扉を開けた。しかしそこに立っていたのは、デリバリーの配達では無かった。
「どうも、こんばんは! 早い安い安心丁寧がモットーの松代ガマガエル急便です! お荷物をお届けに参りました!」
男が帽子を取って挨拶すると、軽く積もっていた雪がはらりと落ちた。
帽子の下から現れたのは人の良さそうな中年男性だった。胸の名札から正規社員だと言うことがわかる。
48: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 07:58:22
「……は? デリバリーじゃないの? ……。」
「はい?」
目を丸くするアスカに、配達員は怪訝そうにして聞き返す。
「いや! なんでもないのよ。」
取り敢えずサインをして荷物を受け取るアスカ。
「おじゃまいたしました!」
再び脱帽する配達員。
「ご苦労様~。」
バタンと扉が閉まる。
箱は段ボールだった。貴重品のステッカーが貼られ、差出人は故意に削ってある。代わりに貼ってあるのは、ネルフから転送したというステッカーだ。
アスカは取り敢えずそれをリビングの炬燵に置き、携帯でミサトに電話する。
数回の呼び出し音の後、機械的な声が聞こえてくる。
「……電源が切られているか、電波の届かない場所にいるためお繋ぎできません……。」
「まったく! 肝心な時にいないんだから!」
苛立たしげに回線が切られる。カーペットの上に投げ出される携帯電話。
腕組みをしてアスカはジッと段ボールを観察する。なんらおかしい所は見付からない。差出人は消され、新たに転送とネルフ名義の差出人のサインが書かれてはいるが、それ以外は極々普通の段ボールだ。
結局宛てにならないミサトは諦めて、再び携帯のボタンをプッシュする。
「はい、伊吹の携帯です。」
出たのは真面目一本のマヤだ。なるほどマヤならどうとでもなる。
「あ、マヤ? アタシ、アスカだけど、アタシん家にネルフから転送されて来たって荷物があんだけどさ、調べてくんない?」
「良いわよ。すぐに調べるわね。」
携帯の置かれる音と、端末がタイプされる音。それがしばらく続いた後、ようやくマヤが電話に出た。
「確かに転送されてるわね。で? 何かあったの?」
「いや、なんでもないわよ……。」
49: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 08:02:01
アスカは通話を切り、携帯を炬燵の上に置く。
「まぁ怪しいもんじゃないわよね。」
段ボールを閉じるガムテープを乱雑に剥がしていくアスカ。几帳面に貼られたそれを剥がし終わると、早速段ボールを開けた。中には段ボールが敷かれていた。その上には一枚の封筒が置かれている。
アスカは左手でそれを取り、右手でビリビリと乱暴に封を切った。中の便箋にはこう書かれていた。
ハッピーバースデイ、アスカ。
おめでとう。アスカもついに21歳だね。アスカが僕と同じ歳になって本当に嬉しいよ。仕事はどうですか? 捗っていると僕も嬉しいけど。
もうあの日から三年経ったんだね。アスカがずっと僕を待っていると言ってくれたあの日。今更だけど、僕は本当に嬉しかった。
本当はあの時に僕も何か言えれば良かったんだけど、結局何も言えなかった。今この手紙にそれを書くことも出来るけど、やっぱりそれは直接アスカに伝えようと思う。ごめん。
だけどクリスマスには言える。と言うのも、二十日後のクリスマスイブから三ヶ日の期間に許可が降りたんだ。君の所へ行く許可が。
正直、下りる訳ないと思っていたから凄く嬉しい。
だから年末年始にはアスカが誉めてくれた料理を、腕によりを掛けて作るよ。
自分で言うのもなんだけど、この三年間に随分腕を上げたんだ。きっと美味しいと思う。
今年のバースデープレゼントは、貯めたお金で少し奮発したんだ。
驚かせようと思って、ミサトさん名義で料理を送って貰ったんだけど、食べてくれたかな。アスカは不精者だから、きっとインスタントだけだったでしょう?
それで、このプレゼントが最後のバースデイプレゼントなんだ。
アスカ、誕生日おめでとう。
シンジ
アスカは口許に手を宛てて上品に微笑み、便箋と封筒を段ボールの傍らに置いた。
アスカが中に敷かれた段ボールを取ると中には落ち着いた紫色の指輪ケースがひとつ、綿に囲まれて納められていた。
50: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 08:04:45
「これ……。」
驚いたアスカは段ボールを床に置き、指輪ケースを両手で包み込むようにして持ち上げた。目を丸くしてそれを見つめる。
彼女が蓋に手を掛けてゆっくりと開くと、クッションに納められた小さい指輪が姿を現した。それは飾り気のないシルバーリングだった。
明らかに高いものではないが、それでもアスカはまるで砂の欠片を扱うような手付きで手に取ると、慎重にリングが手の中で回転させる。リングの内側には、ドイツ語でこう書かれていた。
『Zu Asuka, den Shinji liebt.』
それを読んで、アスカはフフフッと微笑む。
「シンジが愛するアスカへ……か。気障なことすんじゃない、バカシンジの癖に……。」
言葉は乱暴だが、言い方には棘がない。それは妙に柔らかい印象を与える。アスカは左手の薬指に指輪を填めて、電気にかざして見てみる。シンジからの贈り物に、思わず顔か綻ぶ。
顔をにやけさせたアスカが絨毯の上に仰向けとなり、嬉しそうに転がる。
シンジが帰って来るんだ! シンジがお金を貯めて、アタシにリングをプレゼントしてくれたんだ!
まさに有頂天、幸せの絶頂と言った風だ。そしてもう一度左手をかざして薬指を見る。
アスカは立ち上がり、ノートパソコンを畳む。そして携帯を持って食事も取らずに自室へ篭った。中からは話声が聞こえてくる。
アタシよ、アタシ。……いいじゃない、今電話してんだから……まぁまぁね。
……ほら、そんなすねないの! ……わかったわかった、嬉しかったわよ。……ふふっ、そうなの? ……ん、わかってる、楽しみにしてるわよ。……そうなの、それでね……。
幸せな誕生日を迎え、二十日後のクリスマスを世界で一番心待ちにしている“少女”が、今ここにいる。
終
51: ◆8CG3/fgH3E
07/12/04 08:06:36
短編です。
ドイツ語については自信ナッシング(´・ω・`)
英語の方がよかったかなぁ……なんて。
52:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/04 15:16:30
GJ!
53:パッチン
07/12/04 21:42:05
乙です!誕生日にピッタリな作品で、凄く良かったです!
こちらも誕生日記念にラストをポトリします
54:パッチン
07/12/04 21:43:43
『わたしのママとパパ』
2ねん3くみ 碇 ミライ
わたしのママはママです。でもパパはホントのパパじゃないです
よくわからないけど、そういうことらしいです。しかたないです
ママはパパをあいしていないらしいです。パパもママをあいしてないらしいです
よくわからないけど、そういうことらしいです。しかたないです
チヨちゃんもヒロくんも、わたしのパパとママはおかしいと言います
でもわたしはパパとママが大すきです
やさしいパパと、あかるいママはナイスコンビニーションだとおもいます
・
・
・
「ミライ…。アンタこんな作文、提出したの?」
「うん!かいしんの出来でしょ?」
「ナイスコンビニーション…。なんかレジ打ちとか早そうだね」
ミライの通う小学校に呼び出された僕とアスカは、ミライの書いた作文を見て深い溜め息を吐く
「ご家庭の教育方針に口出しをするワケではないですが…。
こういう内容の…そのぉ…、実のお父様でないであるとか、夫婦間に愛が無い等の会話は、ミライちゃんの前ではちょっと避けた方が・・・」
担任の女性教師は、このシュールな家庭を刺激しないよう、かなり言葉を選びながら話している
なんかごめんなさい。こんな家庭で
55:パッチン
07/12/04 21:46:38
結局アスカの身体はミクロの遺伝子まで、僕のことを愛してくれなかったらしい
碇ミライ
『昔のアスカはこんな感じなんだろうなぁ』と思わせる…。イヤ、それ以上の金髪碧眼超絶天才美少女だ
僕と血のつながりは無い、でも間違いなく僕の世界で一番大切な人
碇アスカ
僕の奥様…です。アスカを奥様と呼ぶと、やって来る変な感じが未だに抜けない
アスカは仕事を辞めて専業主婦になった
アスカの方が稼ぎがいいクセに…料理下手なクセに…
結婚式はパスした
『汝は愛することを誓いますか?』ときかれて、ハイと答えられる自信がお互い無いから
ミライの本当のパパは…よくわからない
でも僕がミライやアスカと生きていく上で障害になるなら関わりあいたくない。今のヘンテコな関係でいい
ミライがパパと呼ぶのは僕だけじゃないと駄目なんだ!
血の繋がりなんか関係無く、僕はミライが愛しくてたまらないから
56:パッチン
07/12/04 21:48:21
「ミライ?ランドセル重くない?持とうか?」
「・・・ばかねコイツ」
「大丈夫だよパパ♪」
学校からの帰り道。ミライは僕らの真ん中を陣取りながら歩いている
僕の右手とアスカの左手を握りながら、天使の笑顔を僕に向けてくれる
先程、担任の先生のお説教をうけていたとは思えない幸せいっぱいな表情だ
「パパぁ~わたしアイス食べたい!」
「あっ!アタシもアイス食べたい!」
「うん。僕もアイス食べたい!」
夕暮れのアスファルトに揺れていた3つの影法師は、スーパーの中へと吸い込まれていった…
「え~っと、アイスと、ポテチと、バヤリースと…」
「わ~い♪パパのお菓子祭りだぁ~♪」
「ちょ、ちょっとバカ!そんなに買ってどうすんのよ!!夕飯食べれなくなるでしょ!?」
57:パッチン
07/12/04 21:50:11
夜11時
「おやすみ…ミライ」
明日が休みということでいつもより夜更かししたせいか、子供部屋のベッドの上でぐっすり眠るミライ
起こさないようにソッと扉を閉め、アスカがいるリビングへ向かう
「お疲れ~。正解Bだったわよ」
グビグビと缶ビールを飲みながら、さっきやっていたクイズ番組の答え合わせをしてくれる
「うん。ありがと奥様」
「ぶぁ~か」
もしゃもしゃとスルメを口にほうばりながら、アスカは向かいのソファーに腰掛ける僕に缶ビールを手渡す
「ん…ありがと。でも、お酒やめたしさ」
「いいから飲みなさい!!飲め!でなければ寝ろ!」
「はぁ…」
しぶしぶプルタブを起こして、ちびちびビールを口に運ぶ
「アンタはミライに気をつかいすぎなのよ。『パパお酒臭い…』って嫌がられたことがあるからって酒やめるなんてさぁ」
「アスカになにがわかるんだよ…」
あの時のミライは汚い親父を見る目だった…
「アタシや仕事のことになると楽観的なクセに、ミライのことになると昔のアンタに逆戻りね」
「別に楽観的なんかじゃないよ…。アスカのことも真剣に考えてるよ」
「・・・ふぅん。酔ってるし、信用しちゃうわよ?」
「ホントだよ…」
58:パッチン
07/12/04 21:51:53
「じゃあアタシのこと好きになったの?愛してるの?」
ニタニタ笑いを浮かべたアスカが、缶ビール片手に僕の方に近づいてくる
「・・・別にアスカに対する思いが変わったんじゃなくてさぁ…
なんて言うんだろ…。よくわからないけど、アスカが僕にとって欠かせない存在っていうか…」
「僕にとって、か・か・せ・な・い・存・在?」
アスカのニタニタ笑いが、スーパーニタニタ笑いに変化している
ヤバい…自分で言って恥ずかしくなってきた
「と、とにかく!僕はミライやアスカと一緒にいるのが好きなんだよ!!それだけ!!」
「ふ~ん♪まぁそういうことにしときましょ」
ニタニタアスカさんは僕の隣にピッタリと寄り添い、コツンと僕の肩に寄りかかると、上目づかいで僕をジッと見上げている
…流れのままに唇が重なる
「ぅん…。・・・ねぇ今日のミライの作文だけど…」
「気にしてないからいいよ。本当のことだしね」
ホントのパパじゃない
「いつもそればかりね…。ずっと気にしてないの?」
そんなことないよ
ミライが死ぬほど愛しいんだ。気にしないワケない
「アスカが気にすることじゃないから安心して。僕はミライを裏切らないよ」
「・・・1人でしょい込むなバカ」
59:パッチン
07/12/04 21:54:42
その後、ズルズルと寝室に向かった僕とアスカは夫婦な夜を送った
「30超えても何も変わらないね僕ら…」
朝日が眩しい…。カーテンを閉めるのが面倒なので目を軽く細めるだけ
「ミライはガンガン成長してるのにね」
「これでいいんだよね。僕が幸せで…アスカとミライが幸せで…」
「ちがうわ…よっと!」
僕の隣で天井を見上げていたアスカはグルンと勢いよく僕にのしかかって、胸に顔を埋める
「アンタが幸せなら、アタシ達も幸せなのよバカ…」
表情を見られたくないのか、顔を上げようとしない
「へぇ…。なんか僕の株がアスカの中で大きくなったのかな?」
「・・・アタシのアンタに対する気持ちはずっと昔から変わんないわよ…」
アスカが漏らした『はぁっ…』という熱い息が僕の胸にかかる
「アンタのこと好きじゃない…
でもアンタと一緒に生きた時間が…たまらなく愛しいの…」
ゆっくりとアスカの顔が上がり、青い瞳が僕の黒い目を貫くように見つめる
そして青い瞳の下に広がる頬は赤く染まっている
多分僕の頬も負けず劣らず真っ赤だろう…
「アンタとず~っと一緒にいてあげる…。だからアンタもアタシとずっと一緒にいなさいよ…」
その言葉の後、寝室のベッドの上で2人の大人が、顔を真っ赤に染めている
「全裸でなにやってんだか…あの2人…」
部屋の外ではミライちゃんが呆れていましたとさ
おわり
60:パッチン
07/12/04 21:56:39
設定をイタくして、読むとあまりイタくないみたいな作品を目指したんですけど、どうでしたかね
オチ微妙でごめんなさい
このテのほのぼの話ってオチつけるの難しいですw
余談ですけど、ミライって誰が最初につけたんですかね?個人的にはアスカとシンジの子供の名前ではコレが一番好きです
61:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/04 23:34:53
乙です!
62:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/05 00:36:10
おもしろかったです!
なんだかほのぼのとした文体だと多少イタくてもすんなり読めるものですねWWW
いやはや…じぃじぇぃですっ!!!!
63:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/05 00:55:45
乙!
GJです
64:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/05 11:11:11
アスカが他の男とヤリまくり・2人の間に愛がない・ミライは他の男の子供
設定だけならド級のイタモノw
65:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/05 13:04:23
結局シンジもアスカも逃げてるだけとしか思えない
66:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/08 11:54:41
自分は逃げてるだけとは思わんかった
屈折しとるなとは思ったけど
でも、この二人は屈折してた方が自然な感じがするんだよね
GJですた!
67:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/08 15:48:47
GJ!
むしろこれも1つの愛の形なんではないだろうか、と自分は思ったが。
68:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/08 16:40:33
そしてミライとシンジの禁断の(ry
69:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/08 16:55:34
つか、LASである必要もないフツーの話w
70:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/09 05:28:54
俺は本編ありきの話だと思う。
多分愛がないのはシンジだけじゃないかな?アスカはホモ説ばらまいたり、最後の照れ隠しのような発言といい、本編後半の「シンジへの異常な執着心」を持ってるように思う。
腹の中に愛憎ためこみながら生きてそうだがなw
71:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/09 13:12:31
ちょっくらビルの屋上からコードレスバンジーしてくる。
72:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/12 02:17:10
投下街
73:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/13 00:14:34
>>70
本編ありきっ、て?
意味ワカランw
74:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/13 09:28:12
本編というよりLAS思想ありきじゃね?
75:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/20 02:54:03
職人降臨待ち
76:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/24 21:47:49
キモオタ職人待ち
77:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/24 22:06:04
>>76
78: ◆8CG3/fgH3E
07/12/24 22:53:24
>>76
来ましたよ(´・ω・`)ノシ
クリスマス記念SS
それは寒いクリスマスイブの事だった。そのペンションは第三東京から幾つもの山と峠を越えた所にある、スキー場の施設のひとつだった。ゲレンデに併設されたホテルから五百メートル以上離れた、宿泊用の施設。
そのスキー場は数年前に営業を再会したばかりだった。セカンドインパクトに影響を受けた雪崩れで、そのスキー場は壊滅していたのだが、サードインパクトに伴う四季の回復により、スキー業などのレジャー業が息を吹き返したのだ。
人々は復興に費やした時間の分だけ、反動とばかりに享楽に時間を費やし始めた。
かつて倒産を強いられた玩具会社やレジャー企業はここぞとばかりに再興を果たし、人々への享楽を再び提供した。
ペンションの中。シンジは談話室の中にいた。彼は一人掛けのソファに座って、暇潰しをするようにカバーの掛けられた文庫本を読んでいた。
部屋の壁にある暖炉の中ではパチパチと薪が撥ね、優しい光が灯っている。その灯は暖炉周りの古びた煉瓦壁の凹凸を刻名に照らし、部屋全体を柔らかく暖めている。
部屋の真ん中には、大きなクリスマスツリーがある。ペンションの管理人が、『エヴァパイロットの君達に。』と贈ってくれた物だ。
ツリーにはキラキラと飾りの電飾が煌めいて、綿の雪が柔らかそうに乗っている。
壁際に填め込まれたブラウン管のテレビからは、国営放送のニュースが流されている。
『浅間山の麓で降る雪は深夜には止むことでしょう。山頂付近の雪は朝まで止むことはなく、時には吹雪になることでしょう……。』
シンジは、リモコンで男性の読むニュースが流れるテレビを消し、代わりにラジオをつけた。ラジオのスピーカーからはシンジの期待通りの、甘いクリスマスキャロルが流れ始める。
シンジはソファ横のテーブルに置かれたコーヒーを一口含んだ。すると口腔内に、苦く香りのある後味がじんわりと広がる。
「碇クーン!」
シンジはその声に、首だけを動かして反応した。
隣のリビングから顔を覗かせてシンジを呼んだのは、洞木ヒカリ改め鈴原ヒカリだった。
彼女は酔っ払っているらしく、顔を紅潮させて大きく手を振っている。
「飲まないのぉ?」
「ヒカリ! いい加減に飲むのやめぇ!」
79: ◆8CG3/fgH3E
07/12/24 22:54:21
同じく酔ってはいるが、まだヒカリよりは耐性があるトウジが妻を諫めた。
「まだまだ飲めるわよぉ!」
どうやらヒカリは、かなり酒癖が悪い上に笑い上戸の絡み上戸らしい。しきりに楽しそうな笑い声を上げて、バンバンとトウジの背中を叩いている。
恐らく固辞したヒカリにミサトが無理矢理酒を飲ませた末路だろう。
「ごめん洞木さん、飲むと僕寝ちゃうし……。」
苦笑いしながらシンジが断る。
「じゃあトウジで我慢してあげるぅ!」
わしっとトウジに抱きつくヒカリ。
「ガマンてなんや、ガマンて!」
奥の方へ消えていく二人。昔からケンスケにからかわれた夫婦漫才は健在のようだ。
シンジは苦笑する。本に視線を戻し、頁を繰った。
「……面白い?」
シンジは振り向く。背後に立っていたのはレイだった。
「け、気配消して近付かないでよ……びっくりするから……。」
「解ったわ。」
レイは頷いてシンジの座っている物とはまた大分形の違うソファに座った。彼女は紺色の長いスカートを穿き、黄色いセーターを着ていた。
「面白い?」とレイが訊いた。
「うん、面白いと思う……。」
「どんな所が?」
シンジは本から手を離し、頭の中で本のダイジェストを探る。
「そうだね……主人公が恋人の事をずっと待ってる所、かな……。」
「今の碇君みたいね……。」
シンジはレイの顔をまじまじと見た。
「気付いてたの?」
80: ◆8CG3/fgH3E
07/12/24 22:56:02
「気付いていないと思ったの? ……。」
シンジは溜め息をひとつ吐いた。彼は嘘が苦手な上に、レイ相手だと嘘だろうが冗談だろうが他人が仕掛けた悪戯を見ただけだろうが、表情ひとつで見破られてしまう。
「じゃあさ、綾波はアスカが来てくれると思う?」とシンジが訊いた。
「碇君はどう思うの?」とレイは質問に質問で返した。レイは頬杖を突き、暖炉の中を見つめている。相変わらずシンジには、レイがなにを考えているのかまったく解らない。
シンジはかぶりを振って答える。
「来ない。きっとアスカは来ないよ……。」
レイは消えた表情のまま、シンジを見た。シンジはそれにどぎまぎとする。シンジは、昔からレイの何も感じられない赤い瞳があまり得意ではなかった。責められているように感じてしまうのだ。
「どうして……そう思うの……?」
「だって、元々僕はあの時に何も言わなかったし、アスカだって何も言わなかったんだ。今更来るなんておかしいだろ?」
それは至極当然の考えだった。しかしレイはゆっくりとかぶりを振って口を開いた。
「それなら、なぜあなたはアスカにメールを出したの?」
レイの瞳が、シンジの足元に隠すように置かれたノートパソコンを見た。それにシンジはドキリとする。
「来てほしいから書いたのではないの?」
シンジは俯く。確かにレイの言う通りだった。シンジは内心で諦めていた一方、期待もしていたのだ。
「だって……。」とシンジが口篭る。左手が右手首を掴み、右手が何度も開閉を繰り返す。シンジがするいつもの癖だった。
81: ◆8CG3/fgH3E
07/12/24 22:59:18
「『だって……。』何?」
レイが問う。
「だって……今なら……アスカに好きだって……言えそうな気がしたんだ……。」
「言えると思うの? 本当に?」
シンジがハッと顔をあげた。
「あの時、セカンドが出ていったあの時に、言えなかったのに?」
「それは……。」
「……碇君に、伝える事があるわ……。」
出し抜けにレイが呟いた。珍しい表情の変化が伺える。迷ったような、後悔するような表情だった。
「アスカの事よ……。」
「どうしてそれを綾波が……。」とシンジは訊いた。レイは立ち上がり、シンジの前に立つと彼の肩に手をのせた。レイの頬はいくらか赤くなっているように見える。
「知りたい?」
「それは……ングッ!」
シンジの声が途切れ、呻きが聞こえる。レイの唇がシンジの口を塞いでいた。ソファに座るシンジの唇に口付けをするレイのシルエットが、暖炉の火によって煉瓦の壁に映し出される。
シンジの意識は、螺旋階段をゆっくりと下るように、闇の中へ暗転していった。
◇
コンフォート17。
「ここは?」
シンジが呟く。レイはいない。シンジは部屋の片隅に立っていた。部屋の壁や床や家具は、どこか遠い記憶の中にあるようにぼやけていた。
周りを見回し、シンジはやっとそれが自分の住んでいたコンフォート17だと解った。
シンジが視線を戻すと、そこには一組の男女がいた。
シンジ自身とアスカだ。シンジはもう一人の自分に悲鳴を上げるが、二人には聞こえていない。
82: ◆8CG3/fgH3E
07/12/24 23:00:03
シンジは腰を抜かしながら悟る。そうか、僕は幽霊みたいな存在なのか……。
事実、シンジがいくら自分に触れようと手を伸ばそうが、すり抜けて触る事は出来なかった。
『クリスマスプレゼント。』
それがアスカの声だと気付くまでに、シンジは数秒掛った。その一言で、シンジはこの日が、まだ真夏の日射しが輝いていた頃のクリスマスイブだと解った。
『な、何?』
自分の声とは改めて聞いてみると、また違った響きに聞こえる。
アスカがボードを差し出す。アスカの部屋に架っていたホワイトボードだ。拙い文字で書かれた立ち入り禁止の文字は、消えている。
シンジはその時の光景を、昨日の事のように覚えていた。
虚空のシンジがボードを受け取る。
『なに? これ……。』
『アタシこの家出るから。物置からの脱出、おめでとう。』
シンジは唇を噛んだ。この時の、自らの言動に後悔を感じていた。
『そう……帰るの?』
『まぁ、そんな所ね。』
アスカは腕を組んだ。
『いい加減、アンタの顔も見飽きたしね。』
『見飽きたって……。』
『そ、うざったくてさ、アンタ。』
シンジはこの時、全てが裏目に出たのだと感じていた。アスカに尽した全てが。
『そう……ごめん……退屈で……。』
アスカは、シンジを鼻で笑った。荷物を肩に担ぎ、彼女は出ていった。
◇
83: ◆8CG3/fgH3E
07/12/24 23:01:47
舞台は変わる。虚空のシンジが消えていく。輪郭が朧になり、姿が砂嵐に晒されたように掻き消えていく。家具や壁が液体のように崩れ、新しく別の壁が構築されて行った。
そこは喫茶店だった。シンジは周りを見回す。硝子から見る外の風景はすり硝子越しのように濁り、人や車、建物の正確な形はわからない。店内も粘土細工のように白く、のっぺりとしていた。
シンジの横にはレイがいた。彼女の周りは色こそ着いてはいたが、服の境目さえも不明瞭だった。ただテーブルに置かれた紅茶とトーストははっきりと見えていた。
鈴の音が聞こえる。他の客が立てる物音は聞こえないが、その音だけははっきりと聞こえた。
最初、入店した人物の顔は他の人と同じく白かったが、レイが顔を上げて人物を見ると、シンジにも解るぐらいにはっきりと人物の顔が明らかになった。
それはアスカだった。
『久し振りね。』とレイが言った。シンジは、レイがアスカに喋りかけるのを見た事がなかったが、初めてみたそれは異常な程に嵌っていた。
『何? アンタが直々に呼び出すなんて、なにかあんの?』
レイが首肯する。
『あるわ。』
『めずらしっ。明日は雪かしらねぇ~?』
両手を上げておどけながらアスカはレイの向かいに座った。
『ふざけないで……。』
『神に等しき偉大なリリス様のありがた~いお言葉ですかぁ?』とアスカが侮蔑の篭った台詞でからかう。
『殴るわよ?』
『……解ったわよ……。』
レイが凄んで、ようやくアスカはふざけるのをやめた。
『で、何よ? まぁ大体想像はつくけど。』
『えぇ、碇君の事よ。』
アスカは小さく笑う。
『中々いい演技だったわ、我ながら。』
「え?」とシンジが声を上げる。しかし当然二人には聞こえない。
『そう、良かったわね。』とレイが言った。
アスカが頬杖を突く。
『それはアンタにとって?』
84: ◆8CG3/fgH3E
07/12/24 23:03:59
『皮肉よ。』と言ってレイは紅茶を一口啜った。
『へぇ、アンタにも皮肉のひとつも言えたんだ。』
アスカがわざとらしく驚き、レイが頷く。
『で……。』
アスカの顔が引き締まり、真剣な顔付きになる。
『シンジの事、頼むわね……。』
珍しく、レイが戸惑いの表情を見せる。
『いいの……本当に……?』
『遠慮? らしくないわね。』
レイはかぶりを振る。
『遠慮じゃない……貴方の事……。貴方は本当にそれでいいの?』
アスカが目を閉じ、息を吐いて首を横に振った。
『いいワケないわ……だけどさ、ファースト、アンタなら解ってるんでしょ?』
『ええ……。』と言ってレイは頷いた。
『……貴方は碇君を傷付けずにはいられない……。だけど碇君は……。』
レイの言葉を全て聞かず、アスカは立ち上がった。
『行くわ。外に保安部の奴ら、待たせてんのよね。』
アスカは伝票を手にとった。すると、アスカの注文していたコーヒーとトーストがようやく持ってこられる。
アスカがそれを断ると、ウェイターは確認をしてから辞して行った。
『本当にいいのね?』
レイが確認する。
『クドイわよ。ファースト。』
アスカが伝票を手の中で弄び、言った。
『これ、アタシが清算しとくから。』
アスカのスカートが翻り、大股にレイから離れていく。レイは冷たい紅茶を一口啜った。
続く
85: ◆8CG3/fgH3E
07/12/24 23:06:30
完結は明日(´・ω・`)ノシ
86:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/25 00:46:22
wktk
87:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/25 03:40:38
クリスマスを生きる希望
88:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/25 23:32:43
勿体振りに名作なし。
89: ◆8CG3/fgH3E
07/12/26 00:04:36
ちょっとまって……(;´Д`)
90: ◆8CG3/fgH3E
07/12/26 01:46:24
◇
シンジが目を開ける。レイの唇が離れていく。その不可解なほど艶かしい彼女の動作を、シンジは薄く開かれた瞳で見ていた。
レイの閉じられていた瞳が開かれていく。
「碇君の唇……柔らかい……。」
二人は交互に吐息を吐いた。
「綾波の唇も……柔らかいんだね……。」
シンジは今まで知らなかった。自らの母親から遺伝子を受け継いだ彼女の唇や体が、ここまで彼自身の体を高ぶらせるなどとは、彼はまったく知らなかったのだ。
「どうして……こんな風に……?」
91: ◆8CG3/fgH3E
07/12/26 01:48:07
人間離れした能力を言われたレイは、気まずさと羞恥で目を伏せた。彼女はこれまでも数々の人間外れした能力を発露―どれもがシンジの前のみであったが―してきたのだ。
「喋るの、苦手だもの……。」
「こんな事も……できるんだ……。」
レイは頷いた。
「あまり使いたくはないわ……。」と言ってレイは顔を伏せた。
「ごめんね……。」とシンジが謝った。シンジは、これまでに人ならざるレイがアスカやシンジ達と違う事に悩んでいたのを知っている。
二人はソファに座り直し、暖炉の火を見つめた。
火はゆらゆらと揺れ、シンジとレイの頬を暖めていた。
「だけど……。」とシンジは言った。
「……アスカが来るっていう事にはならない……。」
「そうね……。」とレイは寂しそうに言った。
「きっとアスカは来ない……。」
92: ◆8CG3/fgH3E
07/12/26 01:53:26
◇
夜が明ける。
シンジが寝返りをうち、瞳が開いた。木張りの天井には、カーテンの僅かな隙間から漏れだした雪原からの反射光が、一筋のスリットとなって床の陰を切り裂いていた。
「んん……。」
シンジは呻き、目を腕で覆った。
外からディーゼルエンジンの音が聞こえている。
リョウジが小型除雪機を使い、ペンション前の道から雪を退かしているのだろうか?
ゆっくりと体が起き上がる。
ガシガシとシンジは髪を掻き乱して頭を擦った。
昨日はミサトの誘いを断りきれなかったシンジだ。
呻き声が上がる。
手探りで荷物をあさり、薬の小壜から二日酔いの薬を取り出して飲む。
枕元の机の上にあるペットボトルに入っていたミネラルウォーターを飲む。
元にあった場所にそれを戻し、シンジは時計を取った。
93: ◆8CG3/fgH3E
07/12/26 01:55:23
時刻は既に昼近い。
シンジが寝ていたうちに、ヒカリやトウジ達はもうゲレンデへ滑りに出ていた。
シンジはコーヒーを飲もうと、部屋から出た。
頭の痛みはまだ残っていて、吐き気まである。
木で作られた床と階段を、ノロノロとしたリズムで降りて行く。
階段がギシリと軋む。
リビングの扉を開けるシンジ。
蝶番が、生き物のような音で軋んだ。
「遅いわよ~バカシンジ~。」
退屈そうな声が、リビングに入ったシンジに掛けられた。
シンジは自分をこう呼ぶ人物を一人しか知らない。
94: ◆8CG3/fgH3E
07/12/26 01:59:01
「アスカ!?」
叫ぶように名を呼んでシンジはツリーの方を見た。
そこにはアスカがいた。
彼女は前より幾分大人びた顔立ちになり、胸や腰回りもシンジが最後に見た時より成熟していた。
上着には厚そうな赤いセーターを着て、下には長めのスカートに防寒用のストッキングを履いていた。
そして頭には、プレゼントを縛る時に使うような大きなリボンが結んであった。
「早くほどいてよ。」
とアスカがリボンを指差して言った。
苛立っているようだ。
「うん……。」
戸惑いながらリボンをほどくシンジ。
はぁっ、とアスカは息を吐いてすっきりとしたように髪を振り乱した。
そしてヘッドセットをポケットから取り出して髪を結った。
95: ◆8CG3/fgH3E
07/12/26 02:01:59
「いくらアタシが決心したからって、プレゼントはないわよね。」
とアスカはシンジに同意を求めるように言った。
「うん……。」
とシンジは呆然としながら同意する。
「アンタね。他になにか言えないわけ?」
アスカは、座っていたソファの肘掛けに頬杖を突きながら文句を言う。
「な、なんでこんな所に……?」
「なんでって、アンタが呼んだんじゃない。」
試すような瞳で、アスカはシンジを見つめている。
「そりゃあ……そうだけど……。」
「まったくさぁ、ファーストとミサトってば強引でさ、ファーストに至ってはこのアタシに『プレゼントよ……』
とか吐かしてリボン巻きやがるしぃ……。」
とアスカはリボンをブラブラと揺らした。
「黙ってないでなんか言いなさいよ。」
96: ◆8CG3/fgH3E
07/12/26 02:03:36
正直言ってシンジは期待を捨てていたのだ。
不意打ちと言って良いほどのアスカの突然の訪問に、とっさに言葉が出てこない。
しかし言葉の代わりに昨日見た光景が頭に蘇る。
あの光景は、アスカが自分を傷付けるのが怖いが為に離れていったような意味に解釈出来た。
「伝える事があるんじゃないの?」
「うん……。」
シンジは外を見た。
大きな窓の外では、ちらほらと小さい雪が降りてきていた。
ホワイトクリスマス。
彼はアスカを見た。
表情が読めない。
瞳がうるんでいるようにも見えるし、眉には敵愾心が満ちているようにも見えた。
彼の手が握り締められる。
それをめざとく見付け、シンジが決意を固めたのだとアスカにはわかった。
僕はアスカが、
好きだ。
終
97: ◆8CG3/fgH3E
07/12/26 02:08:41
投下遅れてすんません……
「なんか投下できねぇな……」とクリスマス夜の11時に思ってたら……
そうです。俺は携帯厨ですorz
なんか携帯に制限が入った感じなんで長文を分けざるを得なくなった次第……
や、ヤバイ……
98:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/26 02:09:50
乙!
GJです
99:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/26 16:00:42
乙華麗
GJでした
100:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/12/28 01:50:23
どうせクリスマスFFこねぇだろと思っていたら…
来てたGJ!
101:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/02 03:46:45
GJ!!!
今年一発目に読んだ作品でした
これからも作品投下をwktkして待ってます
102:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/08 01:31:34
保守まち
103:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/12 21:16:45
あ
104:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/12 21:32:10
うわ~
浮上してる~
105:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/12 23:38:08
ある日アスカとシンジが公園を歩いていると
ブチュー
106:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/18 22:24:57
ほっしゅ
107:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/20 03:24:19 rgWkMvr6
ほっしゅあげ
108:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/21 02:39:12
「さようなら、アスカ」
めずらしくしっかりとした口調で私の目を見てそういったあと、さっさと荷物を持ってそいつは玄関へ出ていった。
扉を開けると葉に透けた緑色の光が漏れ、いつのまにか少し広くなった背中を浮き上がらせた。
私は何だかどうでもいいような気分でそれを横目で追った。軽い空気音で扉が閉まったのがなんとなく滑稽で鼻を鳴らした。
しかしそのあとが手持ち無沙汰だった。テレビを点け、チャンネルをいくつか回してすぐに消す。やることもなくカーペットの模様を眺めているうちに時間が過ぎていく。
気怠い体を持ち上げて冷蔵庫に向かい、麦茶を取るついでに自分の部屋の隣のドアを開けた。
家具の消えた窓のない暗い空間はさっぱりとして、なにかから解放されたように堂々としていた。そこには生活の跡は形もない。文句の付けようもないくらい念入りに研かれていた。
そこで私は初めて、シンジがこの家に再び帰ってこないことを悟った。
109:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/21 02:39:48
「馬鹿ね」
逃げたといえば逃げたのだろう。私から。けれどこの部屋からははっきりとした決別の意志が感じられた。
本当はわかっていた。逃げたのではなく、悩んで、考えて、そして決めたのだ。
私から離れると。
この新世界で、なにをするともなく馴れ合っていただけの二人の癒着はただの堕落に過ぎないととうとうわかったのだ。
私はシンジが気付く遥か昔からそれを知っていた。知っていて、見ないふりをした。
馬鹿なのは私だった。
今から走って追い掛ければきっとそのまだ薄い肩をつかんで、こちらに振り向かせることができるだろう。
プライドを捨てて、一緒にいてよと頼めばきっと戻ってきてくれるはずだ。
私はそうしたくなかった。みっともない女のような真似はしたくなかったし、頭を下げるのも嫌だった。
しかしいつのまにか私は堅いアスファルトを蹴って、息を荒らげてシンジを追っていた。
110:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/21 02:41:29
見慣れた背中は思ったとおり、駅に向かう道を歩いていた。シンジ!私は叫んだ。振り返った目が見開かれた。
「アスカ?」
白いシャツを思いっきりつかんで離さないようにして、私はぜえぜえと煩い喉を少しの間休ませた。シンジがおろおろとしているのがわかる。
「どうして」
「勘違いしてん、じゃないわよ。……お別れをいいに来たのよ」
顔をあげて黒い目を真っ向から見据えると、シンジはいつものようにうろたえて後ろに下がろうとした。けれどシャツを掴む手がそれを許さなかった。
「シンジ、好きよ」
「ア」
「元気でね」
腕をぐいとひっぱって、噛み付くようなキスをしてあげた。大人のキスよ、なんて。往来でこんなことするなんて馬鹿げてるわね。人がいないのが救いだった。
顔を離すとシンジの目は潤んでいた。僕も好きだ、好きだよ。アスカ。シンジは泣きだしそうな顔をした。
「でも別れなくちゃ。このままじゃ駄目なんだ」
「わかってるわよ。でも、いつか」
「そうだね、いつか」
また会えたら。
私は日の光を反射するシンジの背を見つめた。白くて眩しかった。どんどん遠くなる間、一度も振り向かなかった。
111:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/21 08:01:07
GJ!
112:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/21 15:56:20
いい話だった。
113:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/21 17:14:31
乙
114:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/21 17:51:40
あ~・・・GJ!!
続きが気になるなぁwwww
115:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/21 19:39:04
>>111-114
ありがとうございます
知ってるとは思うけど、この話はこれで完結してます。続きはご自由に
またちょくちょく投下するかもしれないんで、そのときはよろしく
116:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/21 23:00:29
久々のGJ
117:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/22 21:07:13
すみません、現在LAS系スレ投下SSで
転載板に転載されてない作品をまとめたサイトを作っているのですが
URLリンク(las.nobody.jp)
↑こちらの作品は他のどなたかの作品を転載投下されたものなのでしょうか?
この作品について「転載乙」というレスが付いていたので…
118:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/23 16:36:15
わかんないけど、転載ガンバルンバ
119:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/24 11:33:04
俺もよくわからんけど
問題があるなら
わかった時に消せばいいんでない?
柔軟にいこう柔軟に
120:117
08/01/24 19:49:52
>118 >119
そうですね柔軟に逝きます
ありがとうございますた
121:パッチン
08/01/25 22:08:17
なんか久しぶりにポトリします
どこに投下するかかなり悩んだんですが、いつもお世話になってるのでここに失礼します
内容は・・・まぁ、投下先を悩むような内容ですw
122:パッチン
08/01/25 22:09:51
サードチルドレンが来る…
オーバーザレインボーにて、潮風をいっぱいに浴びながらアタシは騒がしくなった空を見上げる
「はんっ!実力の違いというモノを見せつけてやるわ!!このアタシがエースパイロットなんだから!!」
上空をうろついていたヘリがゆっくりと着陸する
「・・・来たわね」
あそこにサードがいる
アタシのパイロット仲間、そしてライバルになる存在…
ヘリから1人の人間が降りてくる。おそらくミサトだろう
少し緊張で早くなる鼓動をごまかす為、なるべく自然体な表情で近づいていく
「ハロ~ミサト♪」
「アスカ久しぶりじゃない。ずいぶん背が高くなったんじゃない?」
「まぁね♪そういうミサトは・・・ちょっと老けた?」
「あはは…まぁね」
前回会った時より、少しやつれてシワが増えた感じに見える
「どうしたの?日本ってそんなにストレスたまるの?」
「いやぁ…。日本っていうか」
アタシがミサトに疑問をぶつけていると…
「外人さんだああああああ!!」
脳天気な声を撒き散らしながらヘリから飛び出してきた謎の少年が、アタシの両手をギュッと握りながら、ピョンピョン跳ね回りだした
123:パッチン
08/01/25 22:11:34
「え?え!?なによ!?」
「はろ~はろ~!ミサトさん!この子誰なんですか?」
「こ、こっちのセリフよ!!ミサト、コイツ誰なのよ!!」
まさかと思うが…
「あ・・・。セカンドチルドレンの惣流 アスカ ラングレーよ
こっちは、サードチルドレンの碇シンジ君…」
うぁ!!大体予想してたけど、やっぱコイツだった!!
「わ、わぁ!すごいや!本当に目が青いんだ!!すっごく綺麗だね!!」
アタシが衝撃をうけている間にグイグイと顔を寄せてくるサード
「髪も茶色で格好良いや!!赤い髪留め可愛いね♪僕も赤色好きだよ」
「あ…。ちょっ!!・・・あぅぅ…」
か、顔が熱い…。周りに人が大勢いて恥ずかしいのもあるが、こんなに男の子に顔を近づけられた経験なんか無い
何より黒い瞳をキラキラ輝かせながらあんなにベタ褒めされたら、いくら容姿に自信持ってるアタシだって顔が赤くなって当然で…
「わ、わかったから一旦離れなさいよ!!しっかり挨拶もしてないのにさぁ!!」
「あ!うん、そうだね。ちゃんと挨拶しなきゃ」
そう言うとサードは更にグイッと顔を近づけ…
「え?え??・・・んぐむっ!!?」
ちゅぅ~っとアタシの唇に欧米的挨拶をかました…
124:パッチン
08/01/25 22:13:38
『ふわふわシンジくん』
船内の食堂
「えへへ、ごめんね。外人さんだから、挨拶はキスするのかなぁと思って…
あっ♪いただきま~すっ!!」
左手で頬に咲いた真っ赤な紅葉をさすりながら、テーブルに運ばれたオムレツセットにニッコリ微笑むサードチルドレン『碇シンジ』
「ははは、大胆な子だなシンジ君は。初対面でいきなりアスカの唇を奪うとは」
「違うのよ加持さん!あれは事故なの!!アタシの心からのファーストキスは加持さんにあげるんだから!!」
もう今日最悪!!
初唇は奪われるは、加持さんに変な誤解されるは…
しかもその元凶は、テーブルの上のオムレツにケチャップで必死になって絵を描いている
「ミサトさん見て見て!!シャムシエルのシャムちゃん描いたんだよぉ」
「もぉ!!エヴァのパイロットが使徒の絵描いて喜ばないのっ!!」
…なんかミサトが老け込んだ理由がわかった気がする
「・・・ねぇ加持さん。なんでこんなヤツがパイロットなの…?」
アタシは隣でコーヒーをすする加持さんに問いかけてみた
「ん?まぁシンジ君は初戦でシンクロ率80パーセントを叩き出して勝利しているからな」
「へ??・・・な、なんですってえええええ!!!」
125:パッチン
08/01/25 22:15:32
初戦でシンクロ率80パーセントなんて馬鹿な数字出せるワケない!!
・・・いや、現実に目の前に馬鹿が存在するワケだが
もしやこの馬鹿は本当はスゴい馬鹿なのだろうか?馬鹿を装った天才パイロットなのかもしれない…
だとしたらマズい!!
そんなヤツが相手ならアタシは絶対にエースパイロットになんかなれない!!
先程まで『ただの馬鹿』を見る目で見ていた青い瞳をギラギラに変えて、サードを見やる
「ほらケチャップかけすぎたのよ。こっち向いて」
「はぁ~い」
サードの口の周りにこびり付いたケチャップをハンカチで拭いているミサトが、殺気満載の雰囲気を漂わすこちらに顔だけ向けた
「あのさぁ…。あんまりこの子を過剰評価しないでくれる?
初戦でシンクロ率80パーセント超えたのは事実だけど、この子LCL注水した時にずっと息止めてて、そのまま酸欠で気絶したんだから…
そして気絶した途端、シンクロ率が跳ね上がってエヴァ暴走。そして勝利
あとの2戦も全部エヴァが暴走しての勝ちだったし…」
呆れ顔で言うミサトは真っ赤になったハンカチをポケットにしまうと、サードのおでこをペチリと小突いた
126:パッチン
08/01/25 22:17:29
「えへへ、だって僕泳げないし」
そう言うとニコニコ笑いながら、ポッポッと頬を赤くそめるサード
「な、なによそれ!!理由になってないわ!!アタシも訓練中にLCL濃度が原因で気を失った事あるけど、シンクロ率が上がるなんてなかったわよ!!」
「・・・・・なに怒ってるの…?
そんなにプリプリしないでよ…」
サードの先程までのフワフワな笑顔がブワっと崩れ、大粒の涙がポロポロこぼれ落ちてくる
「ちょ、ちょっと泣くことないじゃないのよぉ!!」
「ミサトさんもレッドさんもエヴァの時は怖い顔になるし…。もう嫌だよぉ…」
「わかったわよ!もう言わないから・・・」
ん?
レ?ッ?ド?さ?ん?
「誰よそいつ?レッドさんって…」
いきなり現れた謎の人物にキョトンとするアタシに、傍観していたミサトが口を開いた
「赤木博士のことよ。この子すぐあだ名で呼びたがるの…
ちなみに、あたしの事ミーちゃんとか呼んでた時期あったけど、一発殴って止めさせたわ」
…なにそれ??
なんか聞けば聞くほど『ただの馬鹿』に見えてくる
「と、とりあえずアタシも怒鳴って悪かったわ。同じパイロット同士だし気をつけるわ…」
「うん!アスカっち!」
アタシも一発ど突いた
127:パッチン
08/01/25 22:19:19
「よし、サード!ちょっと来なさい!!」
このままではコイツのペースに流されてしまう
アタシは『エースパイロットが誰であるかを見せつける』という本来の目的を遂行するため、動きだすことにした
「うんっ!お散歩だね♪」
「まぁそんな所ね。ミサト、サード借りるからね!」
「はいは~いっ♪じゃあシンジくんよろしくね~♪」
ミサトはケチャップで紅白になったハンカチを振りながら、上機嫌でサードを見送っている
そんなに疲れるのだろうか?サードの世話は…
「じゃあ加持さん。アタシ、弐号機の所まで行ってきます」
「わかった。気をつけてなアスカ、シンジ君」
「バイバーイ、カジマルさん♪」
「か、カジマルさん…」
・
・
・
「うわぁ~!赤いんだ弐号機って!」
うふふ。食いつきはバッチリね
「違うのはカラーリングだけじゃ…」
「あのねあのねっ!僕の初号機は紫色なんだよぉ!!」
「所詮プロトタイプの…」
「なんかカブトムシみたいに角が生えてるんだ!カッコイいでしょ?」
「これこそ本物のエヴ…」
「『ガオー』って鳴くんだよ!!スゴいでしょ?」
「ちょっと!!話聞きなさいよアンタねぇ!!!!」
「あれ?『ぐおー』だっけ?」
128:パッチン
08/01/25 22:20:09
中途半端ですが…。今回ここまでです
なんかごめんなさい
129:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/25 23:15:16
イタモノじゃなければどこでも歓迎されるんじゃない?
異性、離別とかだとどこかみたく火を噴きそうw
乙←おつじゃなくてポニーテールな(ry
130:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/26 02:33:34
>>117さん転載板にも途中まで転載されている(放置)パッチン氏の「二つの涙」も転載お願いします
131:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/26 02:38:48
>129
二行目、そーいう発想だから馬鹿にされるんだよ
132:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/26 03:25:42
>>131
発想も何も炎上したのは事実でね?
133:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/26 07:31:14
GJ
シンジの性格変えは俺シン以外では珍しいな
ぶっとび過ぎなような気もするがw
134:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/26 07:53:47
>>132
マジなにも分かってない発言はヤメレ
ややこしくなる
135:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/27 16:37:43
LASネタ投下スレ全体に暗雲立ち込めた時期に馬鹿LAS GJ!
前回イタだったから不安だったがよかった。マジでタームみたいな作風だな
136:117
08/01/31 14:01:14
>>130
LAS総合スレでも話に上がっている件もありますから
バッチン氏がそれでよければ転載いたします。
137:パッチン
08/01/31 23:36:50
駄目だ…
アタシが、『この馬鹿に弐号機の素晴らしさを伝えること自体が無理だった』と気づき始めた
・・・と、その時
どーーーーーんっ!!!!
「わわっ!地震だ!」
「バカ!海上よここは!!・・・・・まさか、使徒…!?」
けたたましく鳴り響く警報音が、アタシの予想を確信へと変えていく
「・・・チャン~~~スっ」
妙案が浮かんだ
口で言ってもわからないなら、身をもってわからせればいいのだ
弐号機の素晴らしさ、そしてアタシの華麗なる操縦を!!
「よしっサード!ちょっと来なさい!!」
「うんっ!今度こそお散歩だね♪」
「まあそんな所ね!アンタはそれに着替えて待ってなさいよ!!」
アタシは予備のプラグスーツをサードに手渡し、更衣室に走って行った
・
・
・
20分後
着替えを終えたアタシが再び戻って来ると…
「サード!!準備でき・・・ぷげぎゃっ!!!!」
着替え中のサードの白いオシリと出くわした…
「ああああ、アンタばかぁぁっ!?どんだけ着替えるの遅いのよぉ!!!」
「だって難しいんだもぉん!!ミサトさん手伝ってよぉぉ!!」
信じられないほどの鈍くささ・・・
ああああ!!!こうしてる内にも使徒が!!
138:パッチン
08/01/31 23:38:18
「もお!!手伝ってあげるから動くんじゃないわよ!!」
「わぁ~い」
アタシはサードの背後にまわり、プラグスーツの着付けに取りかかる
ったく!!なんでこんな簡単な作業が…
・・・コイツ、すごく白くて綺麗な肌してる
だいたいミサトが甘やかすから…
・・・男の子とは思えないような繊細でツルツルな背中
プラグスーツに1人で着替えることも…
・・・そして、赤ちゃんのホッペみたいにフニフニで可愛いオシ…
ベチンっ!!
「ふぎゃぅっ!」
…なんか自分を見失いそうだったので、サードをど突いて気持ちを落ち着かせる
・
・
・
一方艦内
ミサト「だ~か~ら、使徒相手にはエヴァじゃないと駄目だって言ってるでしょうがぁ!!」
髭艦長「うるさい!これはワシらの船だから、ワシらが倒すんじゃ!!」
カジマル『葛城~!ワルいが先に行くわ』
ミサト「ああああ!!あの糞男がああああ!!」
名無し「艦長!使徒が接近しています!!」
髭艦長「わはは!!海の男の底力みせてやれえええ!!」
名無しB「ダメです!艦隊が次々に沈んでいきます!!」
髭艦長「なにぃ!!使徒か!?」
名無しB「違います!!あれは・・・エヴァ弐号機です!」
139:パッチン
08/01/31 23:39:58
赤いプラグスーツに身を包んだアタシはサードを乗せて、弐号機を戦艦からぶっ放して発進した
「行くわよ~!アタシの美しい戦いぶり見ときなさい!!」
「目がまわるよぉぉ…」
ガンガン艦隊を踏み散らかしながら使徒に接近してゆき、ナイフを抜き取って、近接戦闘に備える
「ミサト聞こえる!?ケーブル出して待ってなさいよ!!」
『アスカね!わかったわ!初めての使徒戦、期待してるわよ!!』
「ミサトさぁん…。ぅぷっ……」
「わー!!吐いちゃダメなんだからねバカー!!」
『・・・大丈夫かしら』
ガションっ!
「よしケーブルOK!どっからでもかかってきなさい!!」
ナイフをビシッとかまえて海を見やると、使徒が尾ビレだけを出し、こちらに急速に接近してくる
「あわわっ、ジョーズだ!!ハリウッドだよアスカっち!!」
「『アスカっち』って呼ぶなバカ!!
はんっ大丈夫よ!あんなのアタシが華麗に受け止めてやるわ♪」
『うろたえるサードと冷静なアタシ』という状況に多少の優越感を覚えていると
・・・予想以上のスケールで使徒が飛び出した
ざばあああああ!!
「でかっ!!!!」
「ジュラシックパークだ!!ハリウッドだよアスカっち!!」
140:パッチン
08/01/31 23:41:32
「「ふぎゃああああああああああ!!!!」」
巨大お魚使徒によって海に引きずり込まれた弐号機は、海底の障害物にガンガン当たっていく
「とめ、止めてよアスカっちぃぃ!!!」
「あす、アスカっちって呼ぶなぁぁ~!!」
グルングルンとシェイクされていく中、通信装置からミサトの声が聞こえる
『2人共!ケーブルの長さが限界に達するから、衝撃に備えて!!』
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
慌ててアタシはインダクションレバーをギュッと握る
「ぼ、僕はどこに掴まればいいの!?」
「もお!!適当な所に掴まりなさいよ!!」
「う、うんっ!!」
ばい~んっ!
ケーブルが限界に達したようだ…
弐号機は未だお魚使徒に喰われたまま、海中を漂い続けている
そして、その中では…
「あ・・・あああああ!!!アンタ、どこに掴まってんのよ!!エッチスケベど変態!!」
あろうことか、この馬鹿はアタシの『とんでもない所』に掴まっていたのだ
「い、痛っ!だって掴まれって言ったのはアスカっちじゃないか!!」
「ふ、ふざけるなバカバカバカぁ!!
親にも加持さんにも触らせたことのない場所をぉぉ!!!」
141:パッチン
08/01/31 23:43:10
一方艦内
ミサト「ふぅ、なんとか今はこれで時間が稼げるけど…」
髭艦長「どうするんじゃ!?このままでは、ワシらにも危険が及ぶぞ!!」
ミサト「ちょっと待ちなさいよ!今考えてるんだから!!
う~ん・・・何かいいアイデアが…」
天の声『あら、まるで釣りやな…』
ミサト「釣り?…釣り・・・。そうよ釣りよ!!」
弐号機内
「とにかくアンタが悪いんだからね!!慰謝料\100兆円払いなさいよ!!」
「ぷいっ、僕悪くないもん!!」
「あんですってぇ!!世界の女神であるアスカ様の『あんな所』を触っといて、なによその態度は!!」
信じられないデリカシーの無さ!親の顔が見てみたいわ!!
「…ぼそぼそ」
「なによ!言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ!!」
「・・・・・僕の『あんな所』ジロジロ見てたクセに…」
「ん゛な゛っ!!?」
ポポっと頬を赤く染めて、恥ずかしそうに顔を伏せるサード
「ひ、卑怯よ!!気づいてたなんて!!」
「えっちぃ…」
「あ・・・うぅ・・・
むきーーっ!!忘れろ!!全部忘れろーーっ!!!」
「い、いたい!いたいよぉぉ!!」
『あの~?取り込み中、悪いんだけど、作戦発表していいかしらん?』
142:パッチン
08/01/31 23:44:55
「…なるほど。ようは使徒と艦隊がぶち当たる前に、口をこじ開ければいいのね?」
『そうよ、作戦は以上。簡単でしょ?』
アタシはインダクションレバーに手をかけ、ゆっくりと深呼吸する
「ええ簡単ね…。生きるか死ぬかの2択だし」
「ねぇアスカっち…大丈夫なの?」
アタシはシートの後ろで不安そうにしているサードの方に振り返ると、黒い髪をグシャグシャと撫でてやる
「ば~か。なにシケた顔してんのよ!アタシに任せときゃ心配いらないから安心しなさい!!
ミサト、作戦スタートして!!」
アタシはエヴァへのシンクロに集中するため、グッとレバーを握る
「よし、じゃあアンタも手伝って」
「え…僕もするの?」
「初戦でシンクロ率80パーセント突破したんでしょ?
なんだかんだ言って、アンタの火事場の馬鹿力に期待してんのよアタシは」
今回の作戦は操縦技術よりもシンクロ率の方が重要だし、コイツの実力を見るいい機会でもある
「わかったよ。一緒に『開け』ってお祈りするんだね?」
「期待してるからね。サードチルドレンさん」
「うん!アスカっち!!」
「なんかその呼び方に慣れてきた自分が嫌…」
そしてサードとアタシは弐号機へのシンクロに取りかかった
143:パッチン
08/01/31 23:47:30
・
開け開け開け開け…
シンクロスタートと同時に、いつもは入り込もうとしても入らない部分にアタシはズイズイと引き込まれていく…
こ、こわい!!なによコレ!!
『こっちに来なよアスカっち、もっと奥においでよ』
開け開け開け開け…
体が自分のじゃないみたいな…。フワフワしたキモチイイ感覚
これ…アンタがいるからなの…?
『さぁ?僕知らない』
開け開け開け開け…
やがて、引き込まれた暗闇の中にうっすらと光が見える…
アンタ…なんなの…?
『あ!開きそうだよ!!』
・
・
・
接触まで残り30秒
ミサト「アスカ、シンジくん頑張って!!」
髭艦長「じ、時間が無いぞ!!」
その時、突如弐号機の四つ目がギラリと光り・・・覚醒した
ミサト・髭艦長「開いたぁ!!!!」
使徒の口が開き…
ミサト・髭艦長「・・・・・あら?」
…そのまま口からビリビリと使徒の身体も真っ二つに裂けていく
そして、さけてるチーズのようになった無残な使徒の隣を、むなしく戦艦が通り過ぎていく・・・・使徒殲滅
ミサト「な、なによそれぇぇ!!?」
髭艦長「こんな作戦ではなかったハズだぞ!!」
天の声『あら、まるでアジの開きやな』
144:パッチン
08/01/31 23:49:13
その後
回収される弐号機を眺めながら、アタシとサードは肩を並べてたたずんでいる
「シンクロ率150パーセント突破だって…」
「すごいや。ジュースなら特濃だね」
「そんなことどうでもいいのよ!!今までのアタシの苦労は何だったんだって話よ!!」
アタシは、エヴァに乗るために…シンクロ率を上げるために…。この10年、血の滲むような訓練をしてきた
それなのに今日コイツと2人でシンクロした時の馬鹿みたいな数字は何なのよ!
初めてシンクロ率50パーセントを突破した日の喜びと感動を、蹴っ飛ばされたような気分になるわ!!
「もぉ~!!アタシの苦しみを返しなさいよ!!アタシは何のために頑張ってきたのよぉ~!!」
地団太を踏むアタシの隣で、未だにキョトンとした顔をしているサード
「なんでそんなにカリカリしてるの…?」
「アタシの辛く厳しい訓練の日々をアンタは無駄にしたって言ってんのよ!!」
「辛い日なんか忘れたらいいんじゃないの?」
「んぐっ…」
「昨日までがグチャグチャでも、今日嬉しい事があったんだから笑顔でいなきゃダメだよ?じゃないと笑顔になれる日が無くなっちゃうもん」
「う、うるさいわよバカ!!」
145:パッチン
08/01/31 23:50:36
「嬉しい時は笑顔でなきゃね!
えいっ♪」
サードは、にっこり顔でアタシの前に回り込み…、そのままアタシの身体にダイブしてきた
「ひゃぅあ!?」
「ハグだよ♪アメリカの人ってこうやって喜ぶんでしょ?」
なんでコイツはそんな正解か不正解か難しい知識ばっかり取り入れてんのよ!!
「えへへ、今日からよろしくね♪」
「ん・・・ぐぅ・・・」
今朝の時のように、殴り飛ばしたい気分だったが…。まあ今日はコイツのお陰で勝てた部分も少しはあるワケだし…
「・・・・・ヨロシク」
おずおずとサードの背中に手をまわしてやる
・・・赤いプラグスーツ越しにサードの体温を全身に感じる
「あ、アンタ恥ずかしくないの?こんなことして…」
アタシの体温もサードに届いてるのだろうか?
「恥ずかしくないよ。すごく気持ちいい…」
だとしたら火傷してるハズよコイツ
「・・・ばか」
アタシ…今猛烈に熱くなってるし…
146:パッチン
08/01/31 23:51:55
「・・・・・ねぇ」
アタシ…頭おかしくなったのかな…?
「なに?アスカっち?」
なんか今…
「あの・・・さぁ・・・」
なんか今この瞬間…
「・・・今朝みたいに・・・していいわよ」
チュって…
「え…?でも怒らない?」
あぁ…。多分コイツから発生する、おかしな電波にやられたんだ…
「お、怒らないわよ!!アタシが言い出したんだから!!」
でもなんだろ…この気持ち
「うんわかった…。じゃあいくよ?」
そんな自分が…
「う…うんっ」
ふわふわ心地いい…
バッチーーーーーーンっ!!!!
「ふぎゃぅ!!!!」
ビンタの方じゃないわよバカ!!!
おわり
147:パッチン
08/02/01 00:02:13
『なんかシンジにキャラつけてやれ!』と思って書いたはいいモノを…難しいなぁ…
>>136
どうぞ載せてやってください。全く問題ないので
あとどうでもいいけど、パッチンです。バッチンじゃないですw
爪切り大好きで深爪気味なのでこの名前です
いや、ホントにどうでもいいんですが
148:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/01 00:14:53
おー、バッチン・・・じゃなかった、パッチンさんktkr!
お疲れ!
このFF読んでちょっと前に「うつうつシンジ」なるものを考えてたのを思い出した。
いつか文章に出来ればなァ……
149:136
08/02/01 09:04:54
あれま失礼しましたw
訂正しておきます。
転載サイトはURLリンク(las.nobody.jp)になります。
150:136 ◆cLgN2Wx6G6
08/02/02 17:21:42
まとめ保管庫を勝手に作ってしまった者です。
まずお伺いを立てずに先走ったことをお詫びします。
各作品の作者様で転載の可不可をお伺い出来ませんでしょうか?
スレ住人の方がよろしければこちらで、またはサイトのメルフォでご連絡いただければと思います。
転載許可を頂ける場合で無タイトル・無記名の作品やスレ番、レス番が不明の作品は内容を簡単に併記して頂ければこちらでお探しします。
ご迷惑をおかけしますが宜しくお願いします。
サイトURL URLリンク(las.nobody.jp)
※現在は転載許可の降りたもの以外削除してあります。
尚、各スレへお伺いする書き込みを致しておりますのでマルチ投稿になってしまいますがご容赦下さい。
151:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/08 00:56:40
街
152:パッチン
08/02/10 20:23:59
愛するあなたに義理チョコを
2月14日。日本中がチョコレートの甘い香りに包まれるそんな日
そして、そんな日にミンミンと鳴く蝉の声に耳を傾けながら、シンジはダイニングのテーブルに汗でヘナった黒髪を擦りつけていた
「ね~アスカまだキッチン開かないの?お昼の素麺茹でたいんだけど…」
「うるさいわねぇ!アンタの分も作ってやってんだから文句言うな!」
「・・・別に頼んでないのに」
シンジは、先程から同居人の少女がチョコ作りに没頭する様子をチラチラと眺めながら、深い溜め息を吐いていた
はっきり言って、まだまだかかりそうだ。時計は2時をまわり始めているというのに
「とぅるるる~っ♪甘くて苦ぁいチョコレート♪」
「もういい加減にしてくれよ!お腹空いてるんだよ僕は!」
椅子からバっと立ち上がり、甘い香りが充満するキッチンに移動する
「なによ待ちきれないの?腹ぺこシンちゃん?」
「加持さんへのチョコはもう出来たんだろ!素麺茹でるんだから早く代わってよ!」
そう。アスカが今作っているのは同居人である碇シンジへの『どうでもいい義理チョコ』であった
そして、今朝作った本命用の巨大ハートチョコは冷蔵庫の半分近くを占拠している
153:パッチン
08/02/10 20:25:32
「朝早くからチョコ作り手伝わされて疲れてるし、とにかく僕は何か食べたんだよ!」
「ふんっわかったわよ!アンタがそんなに言うなら食事にするわ!」
先程までクリクリと混ぜていたチョコ入りボールを持ち、ダイニングに移動する
「ほらアンタもこっちに来る!」
椅子に腰掛け、何故か少し頬を紅く染めているアスカがこちらに手招きしている
「なんなんだよ一体…。素麺茹でさせてくれるんじゃないの?」
「コホンっ。いい?よ~く聞きなさいよ?」
同じく隣の席に座ったシンジにむかって咳払いを1つ
「アンタが『お腹空いたお腹空いた』うるさいから、チョコ作りを中断してあげたのよ。ありがたく思いなさい!
でも今ある食材は見てのとおり溶けたチョコだけしかないでしょ?
というワケで優しいアタシは、このチョコをアンタのお昼ご飯とすることを許可するわ!
いい?わかった?わかったわね!?」
「は、はい。ごめんなさい…」
まるで台詞のようにスラスラと並べられた言葉達にグイグイと押されてしまったシンジは、首を縦に振るしかできない
しかも真っ赤な顔でこちらを睨みつけながら話すアスカに、すっかりビビり倒してしまい、何故か謝ってしまう始末であった
154:パッチン
08/02/10 20:27:17
「よし。・・・じゃあ食べさせてあげるからこっち向きなさい」
先程まで怒鳴るように喋っていたアスカが、今度は若干顔を伏せながら、しかし明らかな上から目線で命令してきた
「へ?…い、いいよ。1人で食べるし」
「ん…。こほんっ」
またしても咳払いを1つ
「さっきまで『お腹空いたお腹空いた』とか散々文句言ってたヤツに食わせたら、どんだけ食べるかわかったもんじゃないでしょ!
言っとくけど、このチョコはアンタだけじゃなくて、ネルフの職員の人達に配る分も含まれてるんだからね!
だからアタシがちゃんと調節出来るように、食べさせるって言ってんのよ!
いい?わかった!?わかったわよね!!?」
「は、はい…。ごめんなさいぃ…」
いつになく早口かつ饒舌である。まるで何日も何日も、この日のために練習してきたかのようだ
「ほら…、さっさと口開けなさいよバカ」
「う…ん」
マシンガンのような言葉が終わると、また先程のように顔を伏せて命令してくる
一方シンジはそんなアスカに怯えながらも、命令通り照れくさそうに口を開けた
イモムシを待つヒナ鳥のようで少しマヌケだ
155:パッチン
08/02/10 20:28:49
「・・・じゃあいくわよ」
アスカは口を開けて待つシンジを確認すると、左手に持ったボールに視線を落とし、ゆっくりと右手人差し指をチョコに浸した
そして…
「ハッピーバレンタイン、シンジ!!」
の一言と共に、チョコまみれの『人差し指』をシンジの口に突っ込んだ
「んん!?むにゃむ!!」
シンジは、いきなり自らの口内に飛び込んできた衝撃に、目を丸くしてジタバタ暴れ始める
「う、動かないの!どう!?甘いでしょ!!」
「あむむ、あむにゃぁ!!」
「げ、げほっごほんっ!」
またしてもアスカは咳払いを1つ
「いい!?落ち着いて聞きなさいよ!?
食器がもったいないでしょ食器が!今日の食器洗い当番アタシだから、今日のチョコ作りに使った分を洗うだけでも鬱陶しいのよアタシは。たとえスプーン1本とはいえね!
それとも何かしら!?アタシの指なんか小汚いから口に入れたくないってこと!?
そう思うんだったら早く吐き出しなさいよ!!ほら早く吐き出してみなさいよ!!」
「あむ…にゅ…」
照れか、怒りか、興奮か…。とにかく凄まじい形相と化したアスカの顔に圧倒され、黙ってその細い指を受け入れていくシンジ
156:パッチン
08/02/10 20:30:21
「ど、どう?改めて聞くけど甘い…?」
「…うにゅ。あ、あみゃいにょ」
ようやく大人しくアスカの指を…。もといチョコしゃぶりだしたシンジだが、やはり照れくさいのだろう。目線は泳ぎ、頬は真っ赤に染まっている
一方のアスカは自分が言い放ったハズの事なのに、シンジにしゃぶられる自身の指を信じられない物を見るような目でチラチラ見ながら、その度に更に赤くなりながら顔を伏せる。という行動をずっと繰り返している
そして、おずおずと舐めている舌が直にアスカの指をくすぐり始めた。どうやらチョコを舐めきってしまったらしい
アスカは少し名残惜しそうに、ゆっくりと指を引き抜いていく
濡れた指先にシンジの熱っぽい吐息がかかり、キュンと切なくなる
「・・・じゃあ次のチョコいくわよ」
「う、うん」
再び指でチョコをすくい取り、シンジの口に運んでいく
「今度はもっとしっかり舐めてよ…。アンタとろいんだから」
その後も異常にギクシャクとしたシンジの昼食は続き、チョコと口との往復を繰り返した人差し指は、すっかりふやけてしまっていた
157:パッチン
08/02/10 20:31:53
・
・
およそボールの中身が半分を過ぎ始めた頃、『ちゅっ』という音と共に指が離れた
…と同時に、シンジがアスカに向かってポツリと話しかけた
「アスカも・・・お腹減らない?」
「え…?」
シンジは、緊張によりキュッと固まっていた握り拳を解き、右手人差し指をピンと伸ばしてアスカの方をチラリと見る
「・・・チョコ甘くておいしいよ。一緒に…ね?」
トロンとした目で少しはにかんだ表情を作ると、シンジはチョコを軽くすくい、アスカの口元に近づけていく
「シンジ・・・」
そして、こちらもウットリとした表情になり、唇を開いてシンジの指を受け入れていった
・
・
・
ダイニングの部屋中に『ちゅっちゅっ』という音が小さく響いている
2人はお互いの指をしゃぶり合いながら、たまに目が合うと、照れたような表情を作りながら相手の指先をチロチロと舐めたり、軽く甘噛みしたりする
時計の短い針は5時を指し始めている
ボールの中身は既に空っぽになっていた
しかし2人はお互いの指を離そうとしない
その表情はチョコよりもずっと甘そうだった
おわり
158:パッチン
08/02/10 20:37:54
かなりフライング気味にバレンタインSSを失礼しました
バレンタインの思い出といえば、昔初めてもらったカロリーメイト(チョコ味)で、かなり凹んだ記憶があります
いや本当にどうでもいいですね。さようなら
その夜…
「シンジ!ホワイトデー楽しみにしとくからね!」
「う、うん。わかった!」
「あのさ…
ホワイトデーってさ・・・きゃ、キャンディがプレゼントなんでしょ?」
「え?」
「・・・い、一緒に食べるわよ絶対…
おやすみバカシンジ!!」
ピシャンっ!
「一緒にキャンディって・・・まさか」
159:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/11 00:10:14
フライングGJ!
160:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/14 01:40:32
ええ話や
161:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/16 11:17:26
自分はカロリーメイトチョコ味が1番好きだけどなぁ…GJ
162:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/16 12:51:13
バレンタインにカロリーメイトは絶対嫌だろw
パッチンさんにしては珍しく標準甘LASだった。ぶっ飛んだ作品も好きだが
163:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/23 18:40:06
街
164:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/01 11:26:59
職人町
165:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/08 09:17:49
街
166:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/08 23:49:32
あげちゃいましょう
167:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/15 10:34:49
町
168:パッチン
08/03/18 16:56:59
『一通を通る想いと言葉』
ミサトのいない夜
アタシはリビングでクッションを抱きしめながら、ボーっとテレビ画面を見つめている。
別に愉快な映像が動いるワケではない。黒い画面にぼんやり映った自分が見えるだけ。
夕飯も終わり、シャワーも浴びた。でもアタシの中の睡魔は、まだ殻に閉じこもったまま出て来てくれない。
「暇…だ、わ…」
明日は土曜日で学校は休み、訓練も無し。そんな夜は出来るだけ長い間起きていたいのが、人の性というもの。
そんなワケで、あまりにも退屈な画面から離れ、ウロウロと娯楽を探すアタシの青目。
・・・そして大した時間をかけずに、あっさりと最高の退屈しのぎを発見した。
広いリビングの端っこで、壁にへばり付くようにコチラに背を向けて寝転んでいるバカ。
アイツも暇そうで可哀想だし、ここは優しいアタシが相手をしてあげよう!
まずは四の字固めがいいかしら?
「シ~ンちゃ~んっ♪」
「・・・・・」
沈黙
むっ?シンジのクセに無視とは生意気だわ。
「ちょっとアンタ聞いてん・・・の?」
ピクリとも動かないシンジの身体にまとわりつく線が見える。
バカにS-DAT
バカの耳にイヤホン
169:パッチン
08/03/18 16:58:34
「・・・シンジ?」
もう一度呼び掛けてみるが
「・・・・・」
返ってくるのは沈黙のみ。
「シンジ!」
「・・・・・」
「シンジぃ~」
「・・・・・」
「シンジきゅんっ♪」
「・・・・・」
かなりの音量が耳を支配しているのだろうか。『返事が無い、ただのシカバネのようだ』と、天の声が聞こえてきそうなほど反応が無い。
ナンカムカツク…
「あ~ぁ。暇だし何しようかなぁ~?あっ!そういえばヒカリに借りた本に、胸が大きくなる体操が書いてあったっけ?やってみよっかなぁ~?」
「・・・・・」
「なになに?まずは服を脱いで…。えぇ~恥ずかしいなぁ。でもやってみよ♪ぬぎぬぎ」
「・・・・・」
「えぇっとそれから…。胸を強く揉むわけね!こうかしら?こうかしらぁ~?」
「・・・・・」
「あっあっ、なんかとっても変な気分っ!ああぁ~!!」
「・・・・・」
「…なによバカっ!!!!」
先程まで抱えていたクッションを床に叩きつけ、アタシは置物になってしまったシンジをギロリと睨む。
「どんだけデカい音で聴いてんのよバカ…」
1人で別世界に行ってしまったアイツを見てると、急に1人ぼっちになってしまった気がして猛烈に寂しくなってしまう。
170:パッチン
08/03/18 17:00:31
なんだか叩き起こす気にもなれず、アタシはずっと音楽の中にいるシンジの背中を眺める。
「・・・・・」
アンタはずっとアタシのおもちゃのハズなのに…。
アンタはアタシが呼び掛ければ必ず答える…。ううん、答えなきゃいけない。
たとえアタシの声が聞こえなくてもね。
「どうせろくでもない曲聴いてんでしょ?」
「・・・・・」
こんなことを言ってもアイツは気づかない。
「バ~カバ~カ、バカシンジ♪シンジの脳みそツルっツル♪」
「・・・・・」
ほら何言っても気づかない…。
今なら何を言ってもアイツには・・・
「聞こえないんでしょ…?」
「・・・・・」
「・・・ね?」
そんなことを思いながらシンジの背中を見つめていると、何か変にドキドキしてきた。
「・・・シンジ~?」
聞こえてないのよね?
「・・・すす、好きだぞ~」
そう言った瞬間、少し怖くなってサッと身構えてみる。
「・・・・・」
だがシンジはそんなアタシには全く気づかず、背を向けたまま無言で音楽の世界に入り込んでいる。
「ふぅ…」