LAS小説投下総合スレ16at EVA
LAS小説投下総合スレ16 - 暇つぶし2ch170:パッチン
08/03/18 17:00:31
なんだか叩き起こす気にもなれず、アタシはずっと音楽の中にいるシンジの背中を眺める。
「・・・・・」
アンタはずっとアタシのおもちゃのハズなのに…。
アンタはアタシが呼び掛ければ必ず答える…。ううん、答えなきゃいけない。
たとえアタシの声が聞こえなくてもね。

「どうせろくでもない曲聴いてんでしょ?」
「・・・・・」
こんなことを言ってもアイツは気づかない。
「バ~カバ~カ、バカシンジ♪シンジの脳みそツルっツル♪」
「・・・・・」
ほら何言っても気づかない…。
今なら何を言ってもアイツには・・・
「聞こえないんでしょ…?」
「・・・・・」
「・・・ね?」

そんなことを思いながらシンジの背中を見つめていると、何か変にドキドキしてきた。
「・・・シンジ~?」
聞こえてないのよね?

「・・・すす、好きだぞ~」

そう言った瞬間、少し怖くなってサッと身構えてみる。
「・・・・・」
だがシンジはそんなアタシには全く気づかず、背を向けたまま無言で音楽の世界に入り込んでいる。
「ふぅ…」

171:パッチン
08/03/18 17:02:14
「…す、好きよ~シンジ~」
限りなく小声でアイツの背中に呼び掛けているアタシ。
ちょっと情けない気もするけど、何かドキドキして楽しい。

「…今日の夕飯おいしかったわよ~。いつもありがとね~」
面と向かっては口が裂けても言えないような、こっ恥ずかしいセリフも、相手に聞こえていないとわかれば素直に言えてしまうのが不思議。

「…アンタは一生アタシの夕飯作らなきゃダメなんだからね~」
なんかやってるうちに、自分の中で変なエンジンがかかってきている気がする。

「ていうかアンタは一生アタシのモノなんだからね~」
知らず知らずのうちに声のトーン大きくなってきてるし。

「だから他の女なんか相手にしちゃダメなんだからね~」
ひょっとしたらこれは何か恐ろしい遊びなのかもしれない。
危険なことはわかっているが、徐々にハマっきて抜け出せないアタシがいる。

「あ、アンタはアタシだけのモノなんだからね~」
本当に止められない…。

「アタシもアンタだけのモノなんだからね~」

そしてまた、アタシはシンジの動かない背中に語りかける。

172:パッチン
08/03/18 17:04:06
アタシは、いつシンジがこちらに振り返っても不自然じゃないように、いそいそとクッションを枕にしてゴロリと床に仰向けになる。
そして顔だけをシンジの方に向けて「…ふぅっ」と深呼吸をし、またしてもブツブツと語りかける。

「いつもありがとねシンジ。アンタのこといつもバカにしてるけど、ホントはスッゴく感謝してるのよ。・・・アンタわかってる?」
まあこんなカタチでしか感謝の言葉を言えないアタシに問題があるのはわかってるけど…

「アンタの鈍さも原因の一つなんだからね。たまに殺したくなるくらいよ?アンタの鈍感って…」
アタシがどんだけヤキモキしても、他の女にヘラヘラ笑顔振り撒くし。

「それともアンタは一生アタシの気持ちに気付かず、生きていくつもりなの…?」
言い終えたアタシは一瞬その未来を想像してしまう。

すると途端に、見つめるシンジの背中がブワッと歪む。
この危険なお遊びは、アタシの心臓だけでなくアタシの涙腺まで刺激しだしたようだ。

「アンタがいないアタシで生きていけっていうの…?」
ボロボロと頬を伝う涙がクッションを濡らしていってしまう。

173:パッチン
08/03/18 17:05:15
「・・・・・好きよ」
「・・・・・」

ほら、重大発表してるのよアタシが…

「大好きよバカシンジ」
「・・・・・」

別にこの想いが聞こえないのは今日に限った事では無い

「惣流アスカラングレーは碇シンジが大好きなのよ」
「・・・・・」

このバカはいつも気づかない

「アンタはアタシのこと好き?」
「・・・・・」

アタシはいつも叫んでるのに

「アンタの全部が欲しいのよアタシは・・・優しさだけなんかいらない」
「・・・・・」

アタシにだけちょうだい

「その代わりアタシの全部をあげてもいい。・・・ううん全部あげるわ。もらってよ」
「・・・・・」

だからだからだからだからだからだから

「シンジぃ…」

174:パッチン
08/03/18 17:07:44
一方通行な言葉を唱え続けたアタシはグルリとうつ伏せになり、そのまま流れた涙をクッションにこすりつけるように拭った。
「…は、ふぅ」
歪みきっていた視界が元通りになり、いっぱい泣いて少しスッキリしたアタシは、チラリとシンジの方を見やる。

すると、先程までピクリとも動かなかったシンジが突然イヤホンを耳から外してムクリと起き上がり、
「・・・・・」
ペタペタと裸足のおぼつかない足で無言のままトイレへ行った。

・・・危なかった。あと少しシンジの膀胱が虚弱だったらアウトだったわ。

「ふふっ、泣いちゃった…バカみたい」
単なる遊び心で始めたのに、いつしかマジになってしまった。お恥ずかしい。

アタシはうつ伏せ状態の身体をムクリと起こし、四つん這いになって、のそのそとシンジが寝転んでいた位置まで移動していく。
「まったく、アタシが一人で恥ずかしい思いしてたっていうのに…」

そこには先程までシンジが装着していたS-DATが転がっている。
「あのバカは一体何聴いてたんだか…♪」

床に置かれたS-DATを拾い上げ、液晶画面に目をやる。
そこには今までシンジが聴いていた曲名が表示されているハズなわけで
「なになに…?」




175:パッチン
08/03/18 17:10:00
トイレの水が流れる音が聞こえる。
ガチャリと扉が開き、ペタペタという裸足の足音がこちらの部屋にむかって来る。
…そしてその音の主はリビングに入ると、先程と同じようにイヤホンを耳に装着し、いそいそと壁際に寝転ぶ。

それを確認したアタシは音をたてずに起き上がり、ゆっくりとその男の背後に忍び寄る…。
そして・・・

「こぉぉの大バカシンジいいいい!!!」
「ふぎゃぅ!!」

黄金の左足で、思いっきりその背中を蹴っ飛ばした。
「な、なにするんだよ!」
「こっちのセリフよ!
アンタ、アタシの独り言を盗み聞きしてたでしょバカ!」
「え…あ…」
振り返って大声をあげた元気はどこへやら。アタシの怒鳴り声に、シンジは小さくなってしまう。
「し、知らないよ…。僕S-DATで曲聴いてたから…」
「ほほぉ~。シンジ君は『電池切れ』っていう曲が好きなんだぁ?」
「あっ!」
急いでS-DATの『カラッポの電池マーク』が表示される液晶画面を隠すシンジ。
もう遅いってーの!!
「あああムカツクムカツク!ムカツクぅぅぅ!!」
「いたっ痛いよ!ゴメンよアスカぁ!」

あんな内容の独り言をシンジに聞かれた…。
あまりの恥ずかしさから、アタシはしばらくの間シンジをポコポコ蹴り続けたのだった。

176:パッチン
08/03/18 17:12:00
「あ、アンタいつ頃S-DATの電池切れたのよ…」
蹴りに蹴り続けて少し落ち着いてきたアタシは、一旦足を止め、壁際でフルフル震えているシンジに問いかける。
「え・・・あの・・・
『ああん変な気分だわぁ~』って辺りから…」
「な、なんでよりによってソコからなのよおおおお!!!」
今度は膝をついて、シンジをグーでポカポカ殴る。

「ごめん!ごめんってばアスカぁ~」
「なんでアンタ何も言わないのよぉ!『聞こえてるよアスカ』とかさぁぁ!!」
「だって言ったらアスカ、今みたいに叩いてたんだろぉ!」
「あ!・・・う・・・」
確かにそうかもしれない…。

アタシはシンジを叩いていた手をピタリと止め、握り拳のままダラリと両手を下ろした。
「アス…カ?」
シンジは防御のために構えていた両手を下ろし、アタシの方を恐々と見る。

・・・シンジに今の顔・・・見られたくない。

「泣いてるの…?」
「・・・最悪よ」
何もかも終わった気がする。
アタシの人生もプライドも全部。
あんな遊びするんじゃなかった。
バカなのは全部アタシだ…。アタシが全部終わらせたんだ…。

177:パッチン
08/03/18 17:13:47
「…ごめんね、アスカごめんね」
そう言うとシンジは、手近にあったティッシュを数枚取り、ぐしゃぐしゃ顔になったアタシに手渡そうとする。
「ふっ…ひっく。なんでアンタが謝んのよバカぁぁ」
でもアタシはティッシュを受け取らず、両手で顔を隠す。
無様だ。情けなさすぎる。
バカシンジに、こんな泣き顔を見られるなんて。
「もうサイテーよ…」
そのままアタシはグッと押し黙り、殻に引きこもる。
するとティッシュを持ったままのシンジが、ポツポツとアタシに語りかけだした。

「違う、悪いのはアスカだけじゃないんだ。ぼ、僕も悪かったんだ!」
「・・・・・」
「アスカに好きって言われて・・・僕嬉しかったんだ」
「・・・・・」
「ずっと嫌われてると思ってたし、僕なんか必要ないのかな?って…」
「・・・・・」
「でもアスカが僕のこと好きだって言ってくれて、いつもありがとうって言ってくれて。
嬉しくて嬉しくて…だから僕、それに甘えちゃったんだ」
「・・・・・」
「ずっと聞いていたくて、アスカが僕を必要としてくれることを感じてたかったんだ
…でも僕もハッキリ言うよ。アスカに僕の気持ち」
「・・・あ・・・ま、待ってシンジ」

178:パッチン
08/03/18 17:15:07
決意の一言を声に出そうとしたシンジを止めて、アタシはグシグシとシャツの袖で涙と鼻水を拭う。
「アスカ…?」
「ふんっ。ちょっと借りるわよバカ」
床に転がっていたシンジのS-DATを拾い上げてイヤホンをはめ、アタシは立ち上がった。
「アタシ曲聴いとくからね?アンタはそこで独り言でも言ってなさい」
「え・・・・・?
ちょ、ちょっとアスカ!」
何か言おうとしたシンジだったが、アタシが背を向けてゴロリと寝転んでしまうのを確認すると
「・・・・・」
グッと押し黙ってしまった。

そして何も機能しないイヤホンと、恐らく真っ赤になっているアタシの耳の隙間からシンジの優しい言葉が流れ込んでくる。


「…好きだよアスカ」
(アタシだって好きよ)
「アスカに出逢えて、一緒にいれて…。本当に本当に幸せなんだよ僕」
(うん。ありがと…)
「ずっと一緒にいてくれる?」
(当たり前じゃん。絶対離れてやんないわよ)
「ねぇアスカ?」
(なに?)
「大好き」

「・・・アタシも」

おわり

179:パッチン
08/03/18 17:16:01
短編です以上です。

この前久しぶりに近くのスキー場に行きました。
自分では得意と思っていたので、つい調子に乗ってハシャいでしまい
・・・気がついたらタンカに乗せられ、病院送りに…
左足ポッキリいっちゃいました

仕事場からは親切にお暇を頂き、嫁はポッキリ男を家に置いて実家に帰りました。
そのお陰で時間ができて、LASを書けました。ワーイ

180:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/18 17:25:33
GJ&お大事に

181:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/18 20:25:17
ぐっじょぶ!
スキー場で骨折って事は、救助隊のスノーモービルに乗った?

182:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/18 22:26:04
楽しませてもらいました
ツンデレアスカすばらしいです

183:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/19 13:08:45
GJ
地味に今一番期待してる作家さんなので次も楽しみです

184:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/20 22:13:44
(*´Д`)GJ
次作も期待してるよ

185:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/22 23:52:42
暇の度合いが気になる

186:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/31 01:09:25
バーローでこういう話あったよな?おっちゃんと奥さんで

187:パッチン
08/04/01 23:34:46
春の風吹かない第3新東京市。
セカンドインパクト以前ならば、ポカポカと暖かくなってくる時期なのだが、今はカンカンと照りつける太陽が恨めしい。
あまりにも恨めしいので、外に出ることすら億劫になってしまったアスカは、ずっとリビングの床をゴロゴロ転がっていた。
今この部屋には彼女1人だけ。
そして何もすることが無い彼女は、ただ転がることしかしない。
ピンポーン
インターホンを聞いたアスカはムクリと起き上がり、煙たげな表情を作りながら玄関に向かって行った。
「だる…」

『エイプリルフールの訪問者』

「おお惣流!元気そうで何よりやな!」
「終業式以来じゃなかったか、俺達に会えなくて寂しくなかったか?」
「最悪…」
扉を開けた先に待っていたのは2バカコンビ。何故か上機嫌でゲラゲラ笑っている。
しかし一方のアスカは心底、扉を開けた自分を恨んでいた…。
「マジ最低…」
「なんや惣流、今日は凄い人連れて来てんで?喜ばんかいな」
気だるそうなアスカに対してニタニタ笑いながら、とても自信満々なトウジ。
「凄い人?大阪府知事の子沢山弁護士でも連れてきたっての?」

188:パッチン
08/04/01 23:36:33
「へへ、そうじゃないんだよな~?トウジ
ほら、こっち来なよ!」
ケンスケがそう言って手招きすると、アスカの死角になるケンスケの左隣から、その人はヒョッコリ顔を出した。

「こ、こんにちは。碇・・・シンコです…」

長い黒髪に黒い瞳、そして少しババくさいシャツとロングスカートという姿をした、アスカのよく知る人物にソックリな人が現れた。
「・・・・・は?」
「い、碇シンコです!」
ポカンと口を開けているアスカに、もう一度自己紹介するシンコちゃん。
「おぉ、やっぱり惣流もビックリしたか!ほんまにソックリやもんな~」
「この娘、シンジの双子の妹なんだよ惣流。だから、碇シンコ!」

双子の妹?・・・シンジの?・・・妹?

「・・・いつも兄がお世話になってますアスカ…さん」
「え、あ…。こ、こちらこそ」
頬を赤く染めながら深々とお辞儀するシンコに、どうしていいのかわからないアスカは、とりあえずお辞儀し返した後、ギロリと2バカを睨む。
「どういうことなのよ!」
「いやいや実はこの娘、とってもお兄ちゃん想いの娘でな~」
「今日は、はるばる親戚の叔父さんと一緒にシンジに会いに来たんだよ。な?」
「うん…。あっ…は、はい!」

189:パッチン
08/04/01 23:38:15
「シンジに双子の妹がいるなんて聞いたこと無いんだけど…」
髪の長さと服装が違うだけで、見た目はシンジそのものにしか見えない。
アスカは疑いの目で、シンコの身体を上から下までジックリ眺めだす。
「アンタ本当にシンジの妹ぉ?」
「おい、あんまりそんな目で見んなよ!シンコちゃんが可哀想だろ!」
「い、いいんです相田さん。あの・・・兄からよくアスカさんの話聞きます。
とっても…可愛い人だって…」

「え゛っ!?」

ボンっ!と、一気に顔がトマトになるアスカ。
「「いや~ん♪シンジったら」」
「だ、黙れ2バカ!!
・・・・・ねぇシンコちゃん。今の…本当?」
アスカはシンコに顔を寄せて呟くように問いかけた。
シンコはそんなアスカの様子を見て、少し困ったような表情を作りながらも、コクリと首を縦に振った。
「手紙にいつも書いてるから…」
「ふ、ふぅん…。そっか、そうよね!
あははっシンジもアタシにメロメロってことね!そういうことね!」
アスカはそう言うと、腰に手を当てて後ろに振り返りケラケラ笑う。

…まるで真っ赤な顔と潤んだ瞳を正面に立つ3人から隠すように。

190:パッチン
08/04/01 23:40:00
「ところでシンジは何やってんのよ!こんな可愛い妹さん放っといて」
再びクルリと3人の方に振り向いたアスカは、シンコの頭をポンポンと撫でながら、トウジを睨みつけた。
「なんか叔父さんと一緒に話したいから、喫茶店に行くって言ってたで」
「ふぅ~ん。・・・まぁいいか♪
シンコちゃん、リビングにおいで。コーヒー作ってあげるわ」
すっかりルンルン気分のアスカは、そのまま廊下を踊るように移動し、クルンと一回転してからキッチンに入っていった。


「と、トウジぃ…どうしよう…」
「くぷぷ、見たかケンスケ?あの騙されよう」
「見た見た♪やっぱ天才少女だかなんだか言っても、所詮は単純ツンデレ娘なんだよな」
アスカがいなくなった玄関でニタニタと笑う男子2人と、ずっと怯えた表情を貼りつけている『女みたいな男子』
名前は碇シンコなどではなく、碇シンジが正式である。

「でも惣流が騙されんのも仕方ないと思うで?だって完全に女やもんコレ」
トウジは隣にいるシンジの肩に手をまわし、にっと歯を出して笑う。
「ちょっとトウジ止めてよ…」
キッチンにいるアスカに聞こえないように、小さな抵抗をするシンジ。

完全に痴漢をうける可哀想な乙女だ。

191:パッチン
08/04/01 23:41:42
「シンコちゃ~んコーヒー出来たわよぉ!」
「あ、待って!今靴脱ぐから…」
キッチンから玄関に跳ねるように舞い戻ってきたアスカは、シンジの手をギュッと握ると、『早く早く』と催促するようにクイクイと引っ張った。
「おぉ、じゃあワシらもコーヒー…」
「はぁ?アンタらの分なんか無いわよ」
アスカは、靴を半分脱ぎ始めていたトウジに素早くそう言い放つと、玄関に裸足で降りて、プシューっと扉を開けた。
「アンタ達は、シンコちゃんを送ってきただけでしょ?ほら、サッサと帰りなさい」
「えっ!お、おいマジかよ!?」
「いたた!何すんのや惣流!」
アスカにガッチリと耳を捕まえられた2人は、葛城家からポイッと放り出される。
「ちょ、ちょっと!その2人は…!!」
「ん?大丈夫よシンコちゃん。今日生ゴミの日だから、捨てて大丈夫」
「だ、誰が生ゴミやねんコラ!」
「じゃあねぇ~♪新学期にまた会いましょ~」
ヒラヒラと手を振ったアスカは、そのまま扉の開閉ボタンを押した。

プシュー


「おい、どうするねんコレ…」
外に残されたトウジは、同じく隣にいるケンスケに『ドッキリ大成功』と書かれた小さな看板を見せた。

「・・・俺もうシラネ」

192:パッチン
08/04/01 23:43:20
リビングのソファーに借りてきた猫のように恐々座りながらコーヒーを飲むシンジ。
そして、アスカはその隣でその様子をまじまじと眺めていた。

「本当に似てるのねぇ、双子って…。シンコちゃんはエヴァパイロットに選ばれなかったの?」
「う、うん。その…父さんが女の子には危ない仕事だからとかなんとか…」
「あら、アタシとファーストだって女よ?」
「え!?あ…そ、そうだよね。あはは」
「う~ん、まあファーストのことを優遇してる件もあるし、自分の可愛がってる娘だけに優しくするタイプなのかしらね♪」
「あ、うんうん!そう言ってたよ確か!」
「え?司令が自分からそんなこと言ったの?」
「あ…イヤ…。言ってなかったかな…?やっぱり」

そもそも嘘があまり上手くないシンジの長髪カツラの下は、既に嫌な汗まみれになっていた。
確かに『エイプリルフールにアスカを騙してみたい!』と、トウジとケンスケに相談を持ちかけたのは自分だった。
そして女装をして碇シンジの妹になり、アスカを騙すという方法も、誰も傷つかない善良な嘘だと思いOKした。
しかし、彼はネタバラシという大きな壁を超えられなくなってしまっていた。

アスカがあまりにも楽しそうで…

193:パッチン
08/04/01 23:45:15
コクリ…とコーヒーの残りを全て飲み干したシンジは、勇気をグッと振り絞った。
やっぱり今のうちに言わないとダメだ…。

「ねぇアス…」「ねぇシン…」
「「あ…」」
言葉がユニゾンした。

「あ、いいよ。アスカさんが先に言って…」
「…うん。ありがと」
この時言葉を先に譲ったことによって、シンジはネタバラシの最後のチャンスを失った。

「さっきの手紙のことなんだけどね…。本当?」
「え…!」
恐らく『アスカをとても可愛い娘』と言った件であろう。
もちろんコレは、これを言えばアスカの正常な判断を鈍らせることが出来ると知っている『アスシンおちょくり男』の称号を持つトウジが考えた嘘である。

・・・シンジは迷う。

迷って迷って出した答えは、コクリと首を縦に振ることだった。
確かに手紙に書いたことは大嘘だ。
でもその内容は…その想いは…

「本当だよ」
「ふぅん…ありがと」
ソファーの上で、ちょこんと体育座りになったアスカは、嬉しさをグっと噛み殺すように、しばらく膝に額を擦りつけていた。

そんなアスカを眺めているシンジは、どんどん何も言えなくなってしまっていく…。

194:パッチン
08/04/01 23:47:18
「ふぅ・・・ところでシンコちゃん。さっきから思ってたんだけど」
「え…?」
先程まで小声で「キューキュー」唸っていたアスカが、突然お姉さん目線でシンジに話しかけた。
「もっとオシャレな服着た方がいいわよ?もう14歳なんだから」
「は…はぁ」
恐らくこれからの事を考えて、世話好きのいいお姉さんというのを印象付けたいのかもしれない。
…しかしまあ確かに、トウジの死んだおばあちゃんのタンスから漁りだした服を着た今のシンジは、オシャレからは程遠い姿であるのは否定出来ないのだが。

「ちょっと待ってなさいよ!服持ってきてあげるから!」
「え…!別に…」
シンジの言葉を無視して、エンジンのかかってしまったアスカはそのままピューっと廊下に行ってしまった。


10分後
未来の義理の妹に着せる自分の服を見繕っていたアスカは、何着かのお気に入りを抱えて、自室から出てくる。
小さい頃に母とお人形遊びをした記憶が蘇ったのだろうか、その表情はとても優しく、幸せそうだった。

しかし…

廊下に出たアスカの目についた1つの扉。
「あ…」

何かを思いついた彼女は、胸いっぱいに抱えていた色とりどりの服をバサバサッと床に落とし、ゆっくりとその中に入っていった。

195:パッチン
08/04/01 23:48:42



「す、すごい…。本当にそっくり…」
「う、うん…」
アスカの目の前に立つ男子制服を着た少女…いや少年。

あの後、結局アスカが持って来たのは自室のクローゼットを埋め尽くすコジャレた洋服などではなく、一般的には納屋と呼ばれるシンジの部屋から持ってきた一中の制服だった。
どうしてもこの制服を着たシンコを見てみたかった。
そして、何故か彼女にはこの制服が一番似合う気がアスカにはしたのだった。

そして、断固として着替えている姿を見られたくないというシンコのために廊下に出ていたアスカが、再び戻ってくると…

そこには愛しい人がいつもの服で立っていたのだった。

「髪が短かったら、そのまんまだわ…」
「ま、まぁ双子だしね…」
(ま、まぁ本人だしね…)
そんなことを思いながらシンジは、この異様な状況に戸惑いしか感じていなかった。
いつもと同じ服を着たシンジを、いつもと同じアスカが、好奇の目でまじまじと見つめている。

アスカはそのまま引き寄せられるようにシンジにゆっくり近づいていった。
「…なんで?なんでこんなに似てるの?」
「あ、アス…カ・・・さん」
シンジの両頬がアスカの両手に包まれた。

196:パッチン
08/04/01 23:50:10
「目も鼻も口も声も…。全部そっくり…なんで?」
「・・・・・」
「ごめんね。シンコちゃんはシンコちゃんなのにね…」
アスカの指が頬を滑るたびに、シンジの身体がピクピクと震える。
「でも…なんか変なの…。シンコちゃんの1つ1つ全部がシンジに見えて…」
「あ、あの!そろそろ着替えてもいい?」
アスカの目がおかしくなっていくのを間近で見つめるシンジの心に最初に宿った感情は恐怖だった。
離れようと一歩下がったシンジだったが、アスカは更に二歩前に進み、頬にかかった両手をシンジの首に回した。
そして、次にシンジの頬に触れたのはアスカの頬。
「匂いも同じ…。アタシの…」
「あ、アスっ!?」
「アタシの大好きな匂いだ…」



今日は早番で夕方に帰ってくることが出来たミサトは、我が家の扉の前で鞄をまさぐっていた。
「な~んで鍵閉まってるかなぁ~!?今日はアスカずっと家にいるって言ってたのにぃ!!」
左手にぶら下がったエビチュが入ったビニール袋を鬱陶しく感じながら、鍵を開けたミサトはようやく我が家の空気を吸うことが出来た。
が・・・

「ただいまぁ・・・って…なにやってんのよ、あんた達!!」

197:パッチン
08/04/01 23:52:40
玄関の直線上にある開け放たれたリビングの扉から見えた光景に、ミサトは玄関で靴を蹴り捨てて飛び出した。
リビングの床では、制服姿のシンジが仰向けで倒れ、その上から巻き付くようにアスカが抱き付いていたのだった。

「アスカ何やってんの!離れなさい!!」
「スキンシップよコレは…」
顔を真っ赤にしたアスカは、すっかりトロけた表情になっている。
そして下にいるシンジは何故か長髪のカツラを被って、こちらに助けを求めるように小さく震えている。
一体、何プレイなのだこれは!?
「何がスキンシップよ!年頃の男と女がこんなことしておいて!!」
「あはっ、アンタ馬鹿ぁ…?シンコちゃんは女の子だから、無問題なのよぉ」
そう言うと再び、ポフっとシンジの制服に顔を埋めて、スンスンと鼻を鳴らすアスカ。
「スキンシップぅ…♪」
「ちょっとアスカ!!何がシンコよ、女の子よ!いい加減にしなさ…!
・・・あっ!」
いよいよ沸点に到達しかけたミサトだったが、あることを思い出し、一気に我にかえった。

「あぁ、そうか!今日エイプリルフールだったわ!」

ポンと手を打ったミサトは、先程まで怒っていた表情を笑顔に変えて、アスカを見やった。

198:パッチン
08/04/01 23:56:01
「…エイプリルフール?」
「あはは、危うく騙される所だったわ♪おかしいと思ったのよねぇ~
しかしあたしも年かしら?『嘘ついてもいい日』なんて楽しい日を忘れるなんて」
袋からエビチュを取り出し、グビグビ飲みだすミサト。
「でもあたしを騙すんなら、もっと工夫しなさいよぉ~?
例えばシンちゃんに女物の服着せるとか、鈴原君とか相田君に協力してもらうとか…。
そんなカツラ被せただけで女の子なんてアマいアマいわ♪」

『嘘をついていい日』『女物の服』『2バカの協力』

そんなミサトのお気楽な言葉を聞いたアスカは酔いから覚めたような顔になり、ギギギッと『シンコ』を見やった。

「あ、アンタまさか・・・」
「・・・・・ごめんなさい」

アスカの手がゆっくりと『碇シンコ』の髪に伸びる。
ズルリ…と落ちる長い髪が落ちて、現れたのは、顔を伏せて泣きそうな顔になった『碇シンジ』だった



ドカバキドコ!
「あんた達さぁ~。いくら、あたしを騙せなかったからって仲間割れはよくないんじゃないのぉ?」
ドカバキドコ!
「ちょ、ちょっとやり過ぎじゃないアスカ?」
ドカバキドコ!

終わり

199:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/01 23:56:54
リアルタイムGJ

200:パッチン
08/04/01 23:59:06
あとがき
間に合ったのか間に合ってないのか…。
すごい急いで書いたから展開が早すぎ…
そしてオチが無い…

でも1日の内に投下できてよかったと思います

それではヤクルトの連勝が止まったこともエイプリルフールのせいにして今日は寝ることにしますw

201:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/02 00:02:27
おつです

202:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/02 12:58:42
ほんとギリギリでしたねw。GJ
設定もおもしろかったです

203:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/02 16:40:04
アスカのだまされっぷりにもえた
GJ

204:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/02 21:32:27
むしろ落ちが「ドカバキドコ!」なのは個人的には良かったです。
GJでした!

205:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/03 09:49:01
発想がすごいおもしろいですよね!
とても楽しめました!GJです!

206:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/04 00:06:28
投下に気付くのが遅かったorz
とりあえずGJ!!!!

207:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/07 11:20:16
つまんね

208:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/08 01:37:54
オチってか締めんの下手やな

209:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 18:40:31
つか、プロットが陳腐。

210:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 18:55:41
俺は好きだけど?

211:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 19:41:30
まあ、叩く人の素性は知れてる

212:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 20:03:32
じゃあ他の人の意見も聞いてみるか

213:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 20:05:00
シンジに告白された
シンジのことは嫌いではない、嫌いならそもそも同居はしない
だけど好きか?と聞かれたら困る
アタシが好きな人は前から加持さんなのだ、好きな人がコロコロ変わるような尻軽女ではない
「シンジ、ありがとう
だけどアタシは加持さんのことが好きなの
だからごめんなさい」
そしてシンジはこの家を出ていった
アタシはシンジのことを振ったのだから止めたくてもそんな資格はない
寂しいが仕方ない、アタシが選んだ結果なのだから 学校では毎日シンジと会うがお互い気まずく未だにに目を合わせることすらない
考えてみればアタシの毎日の生活はほとんどシンジと一緒だった
学校へ行くのも一緒、休み時間もシンジの席まで行っておしゃべりしてたしお昼は別だが帰りもだいたい一緒
シンジがいなくなって今更ながら気づいた
心にぽっかり穴が空くってこんな感じなのかな
アタシは一体どうしたいんだろう
わからない・・・

214:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 20:33:42
続きはどうしたハァハァ

なんか文体にデジャヴを感じるが・・・

215:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 20:46:19
大好きだからの移動だろ?

216:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 20:53:47
アスカに振られた
アスカはいつも僕と一緒にいた、学校でも家でも最近は荷物持ちをしない荷物持ちとして遊びに出掛けたりもしていた
きっとアスカも僕に好意を持っていると思いこんでいた
だからアスカの返事は予想外だった、目の前が真っ暗になった
使徒に胸を貫かれたときよりも痛かった
胃液が逆流してくる感じがした
そして僕はあの家を出て行った
アスカが必要な人は僕ではなく加持さんなのだ
ミサトさんも加持さんが必要なのだろう
使徒もいなくなり僕はもう誰にも必要とされない
ここに来る前の状態に戻るだけなのになんでこんなに涙が出るのだろう

217:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 21:20:47
376 名無しが氏んでも代わりはいるもの sage 2008/04/11(金) 12:18:11 ID:???
「帰るか・・・」
僕はネルフに帰る
セキュリティーの面から自由に住む場所を選ぶことはできない
できればあんな場所には行きたくないが仕方ない

「碇くん」
そこには綾波がいた、学校以外で会うのは久しぶりだ
いや、僕が意図的に避けてきたのだ
三人目となった綾波が、母さんのクローンだと解った綾波が、最後に僕を救ってくれた綾波僕には何か得体の知れないような存在に思え恐ろしく感じていただ
「何故そんなに悲しい顔をしているの?」
「なんでだろうね」
「・・・・これあげるわ」
そう言うと彼女は一つの飴玉を出した
「飴?」
「これを食べると元気が出るわ、葛城二佐から貰ったの」
僕は自分が恥ずかしくなった
こんなにも純粋な彼女をそんな風に思っていた自分を
「泣いているの?」
「あれ?ホントだ、僕泣いてるみたいだね」
「でも笑っているわ」
「嬉しかったんだ」
「そう、そんなにも飴が美味しかったのね
わかるわ、私も初めて食べたときこんな美味しいものがあるなんてって思ったもの」
「いや、飴じゃなくてね」 「?」
綾波は首を横にちょっと傾け分からないといった表情だ
その仕草が堪らなく愛おしく感じた
「そうだ、飴のお礼に僕の料理食べてくれないかな?」
「美味しいの?」
「これでも料理だけはちょっと自信があるんだ」
「ならいただくわ」

218:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 21:27:19 6Pv5x8lt
投下すんの少し待てよ
文章がゴッチャになって読みにくいったらありゃしない
後出来れば名前欄にタイトルないし、番号ないしふって頂けると有難い

219:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 21:38:04
コテつけてちょ


220:にゃあ
08/04/11 21:43:18
読みにくくてすみません
コテ付けて投下します、生温い目で見守ってください

221:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 22:10:30
ガンガレ

222:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/11 22:26:06
できるだけ早くな!
気になって眠れないからw

223:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/12 00:34:53
ツマランから要らね

224:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/12 18:50:14
wktk

225:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/12 20:12:42
ヤベー超おもれーじゃんwww
はいはいwktkwktk

226:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/16 17:58:34
投下町

227:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 15:13:13
【女神へのラヴレター ~血の13歳・原罪の15歳~】

夕暮れの芦ノ湖に僕はアスカといた。湖面は嫌になるくらいに、時を忘れたかのように静まり返っている。
石ころを積んで、持ってきた線香を立てる。マナが好きだったインド製の高級なホワイトムスクで、マナはよく
これを焚いて眠っていた。
黒く焼けた稜線に太陽が沈んでいく。相模湾、旧藤沢市沖30キロの海底。トライデント級陸上戦艦「震電」の沈没地点だ。
N2爆弾の直撃を浴びたトライデントの艦体はバラバラに四散して海底に散らばり、回収は絶望的との見立てだ。
君だろアスカ。
「なんのことよ?」
君がチクったんだろ、だからNERVが動いた!マナも、ムサシも、…お前のせいで!
「はん、なに寝言ほざいてやがんのよ…?あのN2、あれでアンタは消えちゃってるはずだったのにね…ちゃっかり生き延びやがって」
「どこまで僕のことをわかってるんだ…?」
「どこまで?ふざけんじゃないわよ、“最初から”よ!あの赤い海からすべて、アンタがアタシのすべてを
奪っていったこと、忘れるわけないっしょうが!」
最初から。赤い海から。すべてを。
そうか。

228:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 15:32:54
立ち上がり、振り向く。
夕凪の狭間に紛れ込んだそよ風と共に、飛び込んでくる拳を皮一枚で交わす。頬を裂く空気の刃を感じながら
僕はきっと、虚ろな目でアスカを見ていたんだろう。
「っぐは!」
死角から振り上げられた左が僕の腹に突き刺さる。潰れた内臓が抱えたモノを吐き出そうと悲鳴をあげる。
河原の上に崩れ落ちた僕をアスカはじっと見下ろしていた。
跪き、僕を抱き起こす。
「くくくっ…笑っちゃうじゃん?アンタなんかよりさ…アタシに、このアタシにあの馬鹿ぁ惚れ込んでたンよ?
いっつも気づかない鈍い振りして…保護者ヅラして、そのくせ美味しいとこだけ全部掻っ攫ってったアンタなんかより、
アイツは…ムサシはずっと、アタシのそばにいてくれた!」
口の中に血があふれ、押し流そうとして唾液がとめどなく噴き出してくる。口から赤い糸を零して、僕は微笑んだ。
ムサシの声が聞こえる。
お前がやんなきゃダメなんだよ。アスカはお前がやるんだ。
やるってどういうことだよ?
そうさ、アスカを止めろって。だけど僕も止まれない。

229:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 16:02:45
僕は今憎しみに駆られてる。秘めた想いがどうあれ、僕から君を奪ったのはほかでもないアスカ、だから。
弐号機の紅い機体が太陽の光を浴びて輝く。
構えた日本刀、マゴロク・エクスターミネートソード。その刃が味わう生き血は誰のものだ?
斬撃を浴びたトライデントの巨大な艦体がぐらりと傾き、被弾面が金属の悲鳴をあげて軋みへこむ。
「ふざけろよ…アスカ!」
抱きかかえられた体勢のまま、頭突きを打ち込む。鼻筋にぶち当たった感触。僕の視界も赤く染まり血の臭いが一瞬で身体中に満ち溢れる。
攻撃動作の隙に衝撃が僕の頬を貫き、僕は再び湖岸の砂利に叩きつけられた。尖った石が顔に突き刺さって皮膚を破る。
「カカカッ、あんだってェシンジ!?なんて言ったァ!?」
真っ直ぐ突っ込んでくる拳が見えて僕はとっさに頭をずらして避ける。頬骨が激しく削り取られて吹っ飛ばされ
そうになり、それでも堪えて立ち上がり間合いを取る。
上等だ。直接眼球を狙ってきやがった。
身体中の筋肉が切ないくらいに力を絞り出し、行き場のない拳を爪が手のひらに刺さるまできつく握り締める。
なぜ、戦う。
はぁ?アンタなに言ってんの。わけのわからないモンが攻めてきてんのよ。降りかかる火の粉は払うのが当然でしょうが。
前、そう聞いたよ。だけど今は違うよな。
僕たちはどうしてこんなに。

230:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 16:19:08
血の滴が舞って拳が空を切る。直後、真横から脇に蹴りが襲う。
どうして!
どうにもできない。夢中で掴みかかり押し倒す。壊せ!壊せ!壊れろ!人間の身体なんて脆いモンのはずだろ。
それなのにどうして!
顎に再び一撃を受け、噛んだ口の中が切れて僕は血の飛沫を吐いた。
僕の吐き出した血がアスカの顔をいっぱいに濡らし混ざり合って垂れていく。
やり場のないこの焦りは何なんだよ。
ワケなんて、探すだけ無駄だろ?
このまま死ねるならきっと幸せだ。
殴り合うことが気持ちいい。
やりきれない想いを拳に込めてぶつけ、そしてそれが届き、受け止められていることをこの目で確かめられる。
僕に対しても同じようにね。だから、言っちゃ変だけど信頼できる、のかな?
楽しいぜ。
「なに笑ってんのよ?…シンジィッ!」
空に散る滴が、風に吹かれる花びらのように見えた。

231:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/17 16:28:27
…どしたのコレ?

232:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/17 16:37:45
逆行?AEOE?時系列が妙な気がする
どっちにしてもLASなのか微妙じゃね?
LMSにアスカ×ムサシみたいな描写あるし

233:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/17 17:28:39
てかマナとかムサシとかどうでもよくね?
ゲームに出てるって言ったって、もはやエヴァじゃないじゃんw



234:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/17 17:31:27
ここは総合だから基本何でもありだろ

235:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 17:48:01
>>230

―西暦2014年 春

桜の花びらが舞い散る坂道を、芦ノ湖畔に広がる眩しい街並みを見下ろしながら私たちは学校へ駆けていた。
今日は第3新東京市立第壱中学校の入学式。今日から私と同じ学校へ通う友達、惣流アスカラングレーと洞木ヒカリを連れて、
私は校門前から振り向いて手を振った。
「ほら早く早くー、遅れちゃうよー?」
「まっ、待ってよもう、綾波さんったら足速いんだから…」
ようやく追いついてきた洞木さんが肩で息をしながら言う。アスカは息を切らしながら彼女のそばに寄り添っている。
昇降口前に掲示されたクラスわけをみんなで見上げる。時折あちこちから歓声があがり、私たちも自然と
気分がうきうきしてくる。
「あっ、あったわたしC組だ」
「えっうそうそ、アタシは…ああっ、A組~どうしようヒカリ~べつべつのクラスだよ~」
チルドレン候補はA組と決まってるから、アスカがA組なのは当然だけど。他に知ってるヒトもいなさそうだし、アスカ、傍目から
見てもかわいそうなくらい不安がってる。
「それじゃ、新入生はあっちで待っててね。時間になったら先生が呼びに来ると思うから」
「ええっ、あ、綾波~いっしょにいてくれないの?」
「しかたないでしょ、在校生はふつうにHRとかあるし。だいじょうぶ、式なんてすぐに終わるから。学校引けたら
3人で遊びいこ?」

236:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 18:11:30
青い瞳を潤ませてオロオロしてるアスカをなだめ、私は2年A組の教室に上がる。と、碇司令と赤木博士からのメールが届いた。
ほんと、こんなことでいちいち心配しちゃって。私はもう14歳なんだから、ひとりで大丈夫よ、っと。
窓の外には桜の花びらが、途切れることなく舞っている。この学校の裏山には桜並木があるからそこから飛んでくるんだ。
赤木博士にも見せてあげたいな。いつも本部の研究室にこもりっぱなしだから。
それはそうと、司令は博士と再婚しないのかなぁ?
ってのも、野暮な話しかな。補完計画が発動すれば、ユイ博士に会えるって信じてるみたいだし。うまくいくのかは
私にはさっぱりだけど。やっぱ、なんだかんだで怖いんだろうね。そして諦めきれてない。ユイ博士の
サルベージにこだわるのは、裏を返せば思い出を振り切ることが怖くて拒否してるってコト。結果として、前に進めてない。
本人がそれでいいって言うんならしかたないけどさ。
私や赤木博士がそれでついてきてくれるのかってのはまた別な話しよ。

入学式はつつがなく終わり、私たちはまた3人で集まった。記念写真を撮っていた先生に私たちのも撮ってもらった。
洞木さんとアスカを両脇に抱えてピース。出来上がったポラロイドの写真には、カメラ目線を外しちゃったアスカと半分はみ出した
洞木さん、そしていっぱいに大写りした私がいた。うんうん、今日もこの艶やかな黒髪に天使の輪がばっちり出てる。洞木さんの
栗毛もきれい。アスカの赤毛は、まあ。

237:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 18:33:12
「さっそく言われちゃったのよこの髪~染めてるんじゃないって言ってるのにぃ~」
頭を抱えて泣き言を言ってるアスカに私は思わず吹き出す。
「だっからぁ、そんなオドオドしてるからよ?堂々としてればいいのよ、堂々と。中学デビューしたつもりになって」
「う~」
「デビューって、綾波さん…」
中学生になったんだからそれくらいはっちゃけてもいいのに、とは思うけどアスカの性格じゃ無理かなあ?
真っ赤なアタマのスケバン刑事、なんてね。周りをよく見てみれば、やっぱりアスカは他の子たちの注目を集めてる。髪の色もそうだし、
雰囲気もどこか違うから。血に刻まれた本能っていうのかな、やっぱり人種の違いってのは生理的にわかるんだと思う。
「あっあの、綾波、ヒカリ、先行っててアタシちょっと用事あって…」
いきなり言い出したアスカに私たちは不思議がる。いつもはどこへ行くにも私や洞木さんがいっしょじゃないとぐずるのに、ひとりでどこかへ行くなんて。
「んどうしたの急に?大丈夫よ、どっか行くなら送ってってあげる」
「だっ、大丈夫よおひとりでも!アタシだってもう子どもじゃないんだからっ」
唇をとがらせて言うアスカが意外に可愛い。
私と洞木さんは顔を見合わせて、作った笑顔を満面にたたえてアスカを見送ることにした。
アスカは頬を赤くしながら逃げ出すように行ってしまう。

238:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 18:51:57
しばらく手を振ってから、私はおもむろに洞木さんにふっかけた。
「どう思う?」
「どうって」
「あの慌てよう」
「うん慌てよう」
「やっぱり」
「やっぱり」
「オトコね」
「おと…って、綾波さん!?」
いやなんというか、アスカもいつのまにかやるわねえ。私たちに黙って。なんだかんだでお年頃ですから。
洞木さんはフケツよとかぶつぶつ言ってる。

そんな私たちを遠くから見ている目があった。
「アイツぅ…あの赤頭の女ぁドコよ?」
運動場隅の体育用具室の影に座り込んでいる男子、というか不良生徒のグループ。校章の色を見ると彼らも新入生のようだ。中心に
いるドレッドに鼻ピアスの男が目を引く。彼がアタマか。
「知ってンぜアイツ仙石原小の惣流アスカだろォ?」
「あの髪ぁ染めてるんじゃねえってよ。なんでもバーチャンがドイツ人だとかでよ、クォーターっつうのか?そんなん」
「生意気だぜあんな見せびらかしてよう」
仲間たちが口々に言ってる。私は彼らの目に洞木さんが留まらないようにカバーしながら聞き耳をたてる。

239:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 19:11:57
「だけっど、あいつだあの隣にいる背たけぇシャギーの奴よ。あいつが綾波っつってよ、あいつがちょっとやべえんだ。オレも同じ仙石原小で…」
私の名前がでた。
私の何がやばいって?
「あんだァテルオ?ごちゃごちゃ言ってンなよ?」
「き、キョウジくん…」
ドレッドの名はキョウジ、か。ぱっと見でもただ者じゃないってわかる。第壱中には今まで特に派手な不良とか
特別強い奴とかいなかったから、どうなるか。知ってる3年坊連中には、話し通しておいた方がいいかもね。こんなことで
ガードを借り出すのもあほらしいし。
「綾波さんー?」
洞木さんが呼んでる。私は気取られないように渡り廊下を過ぎ、人の流れに紛れた。
予想してなかったってわけじゃないけどアスカ、やっぱり目ぇ付けられちゃったね。ここは私ががんばらなきゃ。たしかに
彼女はチルドレンとしてトップの強さを持つけど、外に出ればひとりのか弱い女の子だから。私が守ってやらなきゃ。なにより、
私たちは小さい頃からずっと仲良しの友達だったもの。
またメールが来た。今度は赤木博士。
…?

240:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 19:24:28
「どうしたの?」
「ごめんっ急用できちゃった!洞木さん、また今度、おごってあげるから今日はごめんね」
ぱちんと手を合わせる。洞木さんはすぐに察してくれたようで仕方なさげな微笑みを浮かべた。
「ううん、いいのよたいせつなお仕事だもんね」
「ほんっと、ごめんねー」
NERV本部へ急ごう。
ていうかアスカにも知らせないと、いや、彼女にも博士から連絡はいってるはず。
この用件、なにげに重大なことでしょ?
『サードチルドレンが選出された。』
いったい誰なんだろう?おなじA組の候補の子かな?それとも。

雪のような桜が舞い続ける道を、私はあたたかな希望を胸に駆けていく。芦ノ湖は今日も青く澄み渡っている。
道端に黒猫さんが、丸くなってひなたぼっこをしていた。

241:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 19:57:20
泣いてる。
アタシが泣いてる。
『外人!ガイジン!』
『逃げろ~赤鬼だぁ~♪』
奪われた上履きを投げつけられる。床に落ちた筆箱のふたがこわれて、鉛筆や定規が散らばる。それも
投げつけられて腕に刺さる。
『こいつの母ちゃん自殺したんだぜーあたまがおかしくなってなあ』
『くるくるぱーで首吊り自殺♪ぶーらぶら♪』
『はい♪じっさっつヾ(^▽^)ノじっさっつヾ(^▽^)ノじっさっつヾ(^▽^)ノ』
涙の匂い。血の匂いが満ちる。
叫んでたかもしれない。
ただがむしゃらに向かっていって、気づいたときには教室の隅にうずくまってた。倒れた机と椅子が乱雑に、クラスの
みんなが汚れものを見るような目つきでアタシを取り囲んでる。
子どもじゃない。人間じゃ…ない。
敵。
敵なのよ。
『きゃはははっははははははは!』
トイレの個室に閉じ込められ、掃除につかった汚水がモップごと降りかかってくる。ホコリのかたまりと髪の毛と靴の裏についた
ごみと砂が口の中に入る。
吐きたい。

242:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 20:20:07
床に蹴倒されて唇を切ってしまう。血が流れ出る。頭を踏みつけられ、尻を蹴られ、服は排泄物の混じった泥水でぐしょ
ぐしょに汚れていく。
それでもみんなが口を揃えて『アスカちゃんがひとりで勝手に転んだ』って言えば、それが正しいことになって
しまう。悔しくてつかみかかったりでもすれば、それはアタシが悪いことにされてしまう。
誰も味方はいない、この仙石原小学校には。
ううん、隣のクラスの洞木ヒカリさん、それから去年卒業していった先輩の綾波レイさん…彼女たちだけがアタシの友達だった。
アタシはいつもふたりのそばに。そうしなきゃ、みんなのいじめから身を守ることができなかった。
いっこ上の綾波さんはとても背が高くって力も強くて、6年生の男子でも逆らえないほどだった。ちょっと気が荒くて
怒りっぽいけれど、でも普段はとても明るくて気前のいい女の子。
そう。憧れだった。
アタシもあんなふうになりたかった。強くなりたかった。綾波さんのように強くなりたかった。
そうでしょ?世界に二人しかいない選ばれた人間、人類を守るエリートパイロット。それが自分の身も自分で守れなくてどうするの。
チルドレンに選ばれてからずっと、アタシはひたすらにシンクロテストを続け、シンクロ率はトップの座を守っていた。
だけどひとたびエヴァを降りれば、アタシは背もちっちゃくて力も弱い、無力な子どもでしかなかった。

243:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/17 20:32:56
うすうす気づきはじめてはいた。
だから余計に、エヴァに縋ろうとした。
エヴァに乗っていればすべてを忘れられる。強い力を持った気になれる。
だけど、それは自分の力じゃない。
拘束具にがんじがらめに固められ、5分しか持たない電源に縛られ、そして上官の命令には絶対服従。
それはあの小学校となにひとつ変わらない。
気づかないふりをしていた。
だけど、エヴァに嘘はつけない。
お見通しだったんだ。ママには、弐号機の中にいるママには。
低下していくシンクロ率。
焦れば焦るほど泥沼にはまる。
認めたくなかった、自分の弱さを。学校で嫌というほど思い知らされた自分の弱さを、エヴァに乗ってまで味わいたくなかった。
怖かった。
そんな折、サードチルドレンが選ばれたという知らせが届いた。
3人目の適格者。男の子だという。

彼は、NERV総司令の息子。

244:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/17 21:42:29
>>232
どうも作者のサイトでやっている再構成物FFの外伝みたいだね。
そんな物を説明もなく、いきなり投下し出す時点でよっぽどのナルな人
なんだろうかと思うがけど。

245:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/17 21:52:12
>>244
なるほど納得
作者の他の作品の傾向みたいに一筋縄じゃない展開かな
それはともかく書きながらっぽい投下は読みにくい
纏めてメモ帳に書いて投下はコピペとかは無理なんだろうか

246:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/17 22:10:43
ていうか自サイトあるなら、なんでそこでやらんの?
その作品全く知らないコチラはどうすれば…

247:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/17 22:15:55
おまえら、いい加減スルーを覚えろよ

248:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/17 22:30:00
スルーって、一応作品投下されてるワケだし、外伝作だってのも知らなかったし

249:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/18 19:36:27
>>243

たしか、梅雨が一週間ほど続いた金曜日だった。
アタシはまたいつものように学校から逃げ出して…あてもなくバスに乗って、この街へ来ていた。第3新東京市から
山を越えて、軍の基地があちこちにあって街のそこかしこを米兵が歩いているこの街へ。
静岡県御殿場市。雨に煙った山の中腹に戦略自衛隊御殿場基地が見える。街のはずれを走る東名高速のガード下に
アタシはうずくまって、泥だらけになった制服のスカートを抱え、何時間かそうしていたけれど雨はいっこうに
止まなくて、濡れた身体がすっかり冷え切ってしまっていた。
そんな街で彼に出会った。
「オイ、お前…どうしたんだよ?」
話しかけてきた声にアタシはようやく顔を上げる。
短髪とそばかすの一見気弱そうな少年、そして彼の連れらしい褐色肌の少年と茶髪の少女、それに…
「君、その制服は第壱中『イッチュー』のじゃないかい?名前は?」
「…アスカ…惣流アスカ」
「アスカか。僕は碇シンジだ。そんなところに黙ってると風邪ひくぜ、うちに来いよ。いいよなマナ?」
「大丈夫~今日は母さんも義父さんもいないから」
「あ、彼女は霧島マナ。僕の義姉貴“アネキ”だ」
アイツに初めて会ったのはこのときだ。
このときは夢にも思わなかったわよ。まさかアンタが、“御殿場中『テンチュー』の碇”と呼ばれ恐れられる程の男だったとはね。
アタシはこの日初めて、NERVの訓練以外で“外泊”をした。

250:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/18 20:13:46
それから3日間、アタシたち5人は童心に返って遊び回った。そばかすの少年はケイタ、褐色肌の少年はムサシといった。
ムサシの家はママがフィリピン人で飲み屋をやっていて、雨がやんでカンカン照りになった翌日、みんなでジュースをごちそうになった。
シンジとマナの家はママが女流作家で3階建てのとても大きくてきれいな豪邸だった。マナのママ、つまり
シンジの義母は児童文学が専門だそうだ。アタシは自分の家からママの宝石箱を持ってきた。アタシの大切な宝物だ。
わあ、きれーい。
うんこの赤いイヤリング見て、光に透かすと中に十字架がみえるの。
アタシとシンジはちらばした宝飾品に胸を踊らせながら、安全ピンで初めてピアッシングをした。慣れない痛みに
二人して半ベソかきながら、それでもなんとかお揃いのピアスを左耳につけた。
僕たちこれでほんとの友だちだね。
うん。十字架になっちゃうまで、ずっと、ずっと友だちだよね、シンジ…
当たり前じゃないか、僕たち死ぬまで一緒だよ、アスカ…
白い巨大な女神が黒球を抱え、人類は皆赤い宝石に心の十字架を携えて還っていく。みんな、女神へのラヴレターを持って。
東名高速の非常階段で、石積み遊びを教えてもらった。崩しちゃったら罰ゲーム。アタシは慣れなくてすぐに崩しちゃって、ケイタに
さんざん笑われた。悔しくて手が真っ白になるまで泣きながら石を積んでいると、ムサシが背中をさすってなだめてくれた。
本当に楽しい、つらいこともいやなことも忘れられるひとときだった。

アタシにくっついて、シンジやマナ、ムサシは第3に乗り込んでくるようになった。彼らを知っている者も
第壱中には多くいたようで、ちょっとツッパっていただけの連中はすぐにアタシを避けるようになった。それがとても心地よくて、
本当に心強い味方を得たものだと思った。いや、自分が強くなったと勘違いしていた。

251:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/18 20:53:21
ごめん。まず何の作品の外伝か教えてくれ
サッパリわからん

252:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/18 21:27:09
どうも、きつねです
ごあいさつおくれました

>>251
URLリンク(www.eva-lagoon.net)
こちらの【女神へのラヴレター】の前日譚(13歳編)を今かいてます

今ケータイしかないのでまとめ書きはチトむりぽです

ではフロはいったらまた続きをかきます

253:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/18 21:57:38
>>252
携帯でもメモ帳やメール本文部分にまとめ書き出来る

254:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/19 01:09:46
>>250

だけど、シンジたちに刃向かおうとする者たちにはそんなことはお構い無しだ。
たまたま、シンジたちがいないときを狙われた。
同じ一年生の支倉キョウジといったか…色黒でドレッド髪の男が仲間を連れてアタシを取り囲んできた。ヒカリが一緒に
いたけれど立ち向かえるはずもなく、アタシたちは校舎裏の草むらに連れ込まれて突き飛ばされた。
シンジ、ムサシ、彼らと共にいたアタシにキョウジたちは目を付けたんだ。
理由なんか、ただ目障りだ、それだけ、そして単に弱いものをいたぶって楽しんでるだけだ。ブラウスを引き裂かれてアタシは
地面に倒された。身体がすくんで立ち上がれない。
弱い自分、それをはっきり自覚した。
力が無い。
胸に刻まれた傷から血が流れて、殴られた頬が意識を朦朧とさせる。いじめっ子に囲まれていた小学生の頃、だけど今は、
獰猛な男たちに囲まれた処女。
ヒカリの悲鳴が聞こえた。アタシは声も出なかった。
助けを求めることさえできない。
シンジ、あなたならこんな奴ら、鎧袖一触に蹴散らせるでしょうね。
ムサシ、あなたがいてくれたら…!
「アスカぁーっ!いや、やあぁーっ!」
背後から羽交い締めにされ、腹を蹴られてむりやり脚を開かせられる。
「おとなしくしてろよっ」
「すぐにいい気分にしてやっからなぁ?」
「キンパツ外人女は今ぐらいが食べ頃なんだよ」
もう…やられちゃうんだ…

255:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/19 01:11:44
ガチッ、と、金属とコンクリートのぶつかる音がした。
異様な緊張が空気を締めつけてあたりに満ちる。
ヒカリの息をのむ声がした。
「ア…」
風切り音がアタシの頭上を飛び越して、肉と骨の潰れる鈍い音がした。
跳ねる黒髪、翻る長尺のスカート、そしてその右手に握られた…歪んだ鉄パイプ。吹っ飛ばされた男が血を吐きながら地面を
転がる。彼女はすぐに次の獲物を探して腕を振り上げる。唸り声とも雄叫びともつかない不気味な息遣いが聞こえた。
血の匂いだ、懐かしい。
懐かしい。
戦い。
骨を砕け。殺せ、なるたけ苦しむようにしてね。
そうでしょ…綾波…
「あっ、綾波さん…!」
しりもちをついたまま、這いずってアタシはとにかく逃げようとした。ヒカリが震える手でアタシを抱き寄せる。
泥と血に汚れてアタシたちは、二人抱き合って震えていた。
アタシたちを傷つけた。
許せるわけない。
殺してやる。

256:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/19 01:13:07
綾波はがむしゃらに鉄パイプを振るい、男たちを打ち倒していく。その表情は普段の彼女とは全く違っていた。
人間のものではないような気がした。
だけど、声はたしかに…綾波のもの。
「ぐあああっ!」
腕を折られた男が絶叫を上げてうずくまる。
綾波はさらにそいつに向けて鉄パイプを振り下ろし、アタシは思わず目をつぶって顔を背けた。
「うおらぁっこのぉ!あたしを見たなぁァッ!?」
土ボコリと血が混じって飛び散り、肉片もその中に混じる。
「上等かッ!?上等くれんのかって訊いてんのよっ!?」
三白眼になった瞳と唇の端からこぼれる涎がアタシの目に焼き付く。
何…なんなのよ、これ…
「アスカに手ェ出す奴はっ!死ねや!死んじまえよゴラァぁぁッ!」
死…ダメ、ダメよ綾波!本当に殺しちゃう!
このままじゃ…止めなきゃ!
でも身体が動かない。怖くて動かない。アタシは何を怖がってるの?男たち…それとも…
怖い、弱い、無力。無力なのはアタシ。
無力。弱いもの。
いじめられてる…

257:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/19 01:14:24
ヒカリも腰を抜かして立てない。
アタシがやらなきゃ…アタシが!
その時、アタシたちの後ろから飛び込んできた少年が綾波を取り押さえようと向かっていった。
「やめろっ綾波!もういいだろ、そこまでにしとけっ!」
綾波は彼の声も耳に入らないようで暴れ続けている。振り回した腕が彼の顔やわき腹をどついていく。
それでも少年は綾波を離さない。
「マジで殺っちまうって!おい!聞こえてんのかッ!」
肘が顔面に直撃する。
「綾波ィィッ!ってえな!」
「…!」
電池の切れたおもちゃのように綾波はだらりと腕を落とした。
アタシもヒカリも呆然として二人を見つめている。
「む…ムサシ君…?」
綾波は鉄パイプを地面に落とし、返り血まみれの顔で振り向いた。
「なぁによぅ…リーくんじゃないの、どしたのぉ?」
その声があまりに能天気すぎる普段どおりの調子で、アタシたちは再びあっけに取られた。さっきまで化け物のように
暴れまわっていたのが嘘のように、彼女はアタシたちに微笑みかける。

258:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/19 01:15:49
「だぁいじょーぶだった、アスカ、洞木さん?あ、制服いたんじゃってるね」
綾波はアタシたちの具合をみながら、ポケットから煙草を取り出して一服した。
「は…はは…」
気の抜けた声しか出ない。ムサシは呆れ気味に言った。
「ったくよう、たまにこっち来てみればコレだぜ。あんま派手なことしてっとまた停学くらうぞ?」
「あなたに言われたくないわね」
「ほっとけ」
「ところで霧島さんたちは?」
「しらねえよ、基地にでも行ってんじゃね」
向こうに転がされた男たちは時折呻いてはもがいてる。綾波はまるで他人ごとのように、早くバックレようと
言ってきた。アタシたちはそのまま、逃げるようにその場を後にする。
どうしよう。これがばれたらアタシたちまで怒られちゃう。
そんな心配をよそに、ムサシと綾波は颯爽と歩いていく。アタシたちは駆け足で追いかける。
ほどなくNERVからの呼び出しが来た。ただし綾波だけ。
ときどき司令から個人的に呼ばれているみたいだけど、何なんだろう。
綾波が行ってしまうのを待って、ヒカリがおそるおそる言った。
「ね、ねえ、やっぱりあの噂…本当なのかなあ?」
「なんだよ噂って」
「あ、綾波さん…駅裏の売人から盗んだクスリ売りさばいてるって…それで、自分でもやって…」

259:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/19 01:17:09
青ざめてるヒカリはさっきの光景を思い出してる。ラリってぶち切れてたとでも言うわけ?
「噂だろ、噂…んなわけねえって」
ムサシは気楽に否定するけど、ヒカリは心配と恐れが半々くらい。
アタシも思い出す。あの戦いぶり…エヴァで模擬戦をやったときはあんなに強くなかった。エヴァと生身は当然違うけれど、でも…
違い、その違いはなにか、アタシを強く奮い立たせてくれた。
「…かっこよかった」
「え?」
「綾波さん。アタシもあんなふうになりたい…強くなりたいよ」
見上げた空にアイツの顔が浮かんでる。ヒカリが慌ててアタシの肩を揺さぶる。
「あ、アスカ!?本気で言ってるの、だめだってそんなこと…!」
そういう意味じゃない。
「ケケケ、オメーにゃ無理だろぉアスカ?んなちっけえ身体でよ、まずぁ背ぇのばさねえとな」
いたずらっぽく笑いながらムサシはアタシの頭をなでる。
た、たしかにアタシはちびだけど。腕も細いし、これは女だから仕方ないけど、でも綾波はあんなに強い。性差なんか関係ないよ。
「いっ、いいでしょー思うくらい!アタシだって今におっきくなって強くなるんだからっ」
「はいはい、そんなら毎日牛乳のむか?カルシウムとれよお」
「むー!」
ぽかぽかとムサシの背を叩き、だけどアタシは楽しかった。こうしてみんなといられることが。
夏の太陽がアタシたちをまぶしく照らし、笑顔は輝いていた。きっとこのときのアタシたちには希望があった。
たとえそれがすぐに潰えてしまうものだったとしても。

260:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/19 17:42:29
>>259

「またなの?」
本部に着くなり、赤木博士にそう言われた。
「その顔よ」
「え、顔…あ」
そういえば、返り血を拭いてないままだった。赤木博士がため息をついて肩を落とす。
「本当に…誰に似たのかしらね。まあいいわ、腕を出して」
育ての親じゃないかなあ。皮肉屋なのは赤木博士に。喧嘩っ早いのは、若い頃の碇司令がそうだったみたいよ。
博士はいつものように“メンテナンス”の準備を進めていく。私が普通の人間と違うっていうのはわかってる。地下の白い巨人、第2使徒リリス…
小さい頃に何度も見上げた記憶がある。私はあの地下で生まれ育った。
腕を消毒し、注射器の針がゆっくりと刺し込まれる。
かすかに漏れる血がアルコールに溶けていくのを眺めながら、静脈に注ぎ込まれる薬の感触を確かめる。
「あの、赤木博士」
「なに?」
「サードチルドレン…こないだ写真見せてもらった、あの彼ってまだ呼ばないんですか?」
博士は物珍しそうな視線を私に向けてる。
「彼はあくまでも予備よ。今はあなたとアスカで十分でしょう」
それとも彼のことが気になるのかしら?
嫌みな瞳だね、博士も。私はじっと見つめ返す。もう身長165センチを超えた私は博士と向かい合っても
視線が同じ高さ。いつまでも子どもじゃないのよ、見くびってると痛い目に遭うんだから。

261:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/19 17:43:53
「でも、…アスカのこと」
「それはあなたが気にしても仕方ないわ。彼女自身の問題よ」
冷たく言い放つ。
何を隠してる?隠しごとじゃなくても、気持ちを隠してる。アスカのシンクロ率が最近、だんだん落ち気味なのはみんなわかってるでしょ。
博士はもちろん伊吹二尉も、他のスタッフも。原因の究明は当然やっているだろうし、それなのに何も言ってこないのはどういうこと?
それはそうとレイ、
「なんです?」
「あなた、こないだ“蒼龍会”の構成員とトラブルを起こしたでしょう。ちゃんと聞こえてくるのよ、保安部が仲介したから
いいけれど、あまりやりすぎるとこっちでも面倒見きれないわ」
「…気をつけます」
まあ。
やってることは、NERVの後ろ盾でもなければ一介の中学生にはとてもじゃないけど無理すぎることだし。たとえば霧島さんにしても
戦自がバックについてるからわりと好き勝手やれてる。
食い物にされてるだけだって?どうだか。
第壱中や、御殿場中の3年坊連中に流す分だけなら大したことじゃない、けど問題はそんなことじゃない。
私は間接的にみんなを守ってる、いや違うそんなたいそうなことじゃない。
ただの自分の勝手でしょ。
司令のお世話する時とか、男の子と遊ぶ時とか、あとはひとりでマッタリしたい時とかね。

262:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/19 17:45:30
蒼龍会『そうりょうかい』といえばこの街のみならず関東全域に広く勢力を持つ一大組織。代々、惣流家当主が会長職を務めてる。
…そゆこと。
お嬢様なのよね、なにげにアスカも。小学校低学年の頃は、家政夫の田宮さんによく遊んでもらったっけ。あの人も
今は組いっこ任されてるんだっけ?
博士の研究室を出ようとしたら伊吹二尉と入れ違いになった。あわてて私をよけて、レイちゃんまたですかとか怯えた声で博士に言ってる。
ヘッドハンティングだかなんだか知らないけど、きっと小さい頃から箱入り娘だったんでしょうね。やんちゃした経験がない。
司令執務室の前に立ち、いつものようにインターホンに向かって呼びかける。
「綾波レイ、参りました」
ややあって司令の返事が、待ち焦がれたように返ってくる。
サードチルドレンの彼のことを聞いてみようか?司令の息子だっていうし。それとも、できれば思い出したくないことだろうか。
顔の血はまだ洗ってないけど、どうせシャワーを浴びるんだからまあいいや。
初めて喧嘩して汚れた顔のまま帰ってきたときは司令びっくりしてたけど、今はもう慣れたみたい。ちょっぴり寂しそうに、
でも違う意味で興奮してたり。不思議なものだね人間って、ぼけっと突っ立って私はそんなことを考えていた。
疼く。
昼間のクスリがまだ抜けきってない。

263:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/25 01:04:32
ほしゅ

264:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/26 10:21:54
投下町

265:1 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 10:47:07
どれだけ長く、一体何故眠っていたのか。エヴァに乗って・・・それで・・・。

目を覚ますと、私は真っ白な砂浜に横たわっていた。
何故こうしているのかはわからない。空は暗く、星が瞬いていた。
体を起こそうと右手を着く。その腕に巻かれた包帯に気付いたが、特に痛みも無かったのでそのまま体を起こした。

顔を上げると、そこにはシンジが居た。
私の目の前で立ち尽くしているシンジの背中の更にその先には、血の様に真っ赤な海が広がっている。
「何よ・・・これ・・・」
シンジに尋ねた訳でも無く、ただ口から言葉が漏れ出た。
「アスカ!目が覚めたんだね!」
私が何の気も無く漏らした言葉にシンジは随分と大袈裟に反応した。
シンジが私の方に振り返る。その足下の真っ白な砂が舞い上がった。
「あの、その・・・ごめん」「何の事よ」
「苦しかった・・・でしょ?」「?・・・平気よ」
何か喉に鈍痛があったが、特に気にはならなかった。

私は辺りをぐるりと見回した。見慣れた物は何一つとして無い。
ここはどこで、皆はどこに居るのか。何故海が血の様に赤く、砂浜はこんなにも白いのか。遠くに見えるエヴァシリーズ。何故十字架に張り付けられているのか。
「そうだ・・・。アタシは、アイツらに・・・」
徐々に記憶が甦って来た。そう、私はアイツらに負けて・・・死んだはず。
だが、今の私には傷一つない様に思えた。まず右腕の包帯を外してみる。
やはり傷は無かった。次に恐る恐る左目の包帯を外す。
・・・大丈夫だ。ちゃんと見える。
「・・・アンタ、いつからここに居るの?」「多分、アスカと同じ。目が覚めたらアスカが横に居たんだ」
「そう。・・・ミサトは?ネルフは?皆は?」「わかんないけど・・・皆にはもう、会えないと思う・・・」

266:2 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 10:49:16
シンジの放った言葉はとても衝撃的だったが、私にも既にその予感はあった。
この世界にはきっと、私とシンジの二人っきりなのだ。
「・・・そう。皆には会えない・・・か。―これからどうするのよ?」「どう・・・しよっか」
そんな不安そうな顔されたって、アタシだってどうしたらいいかわからない。
でも、生き残る術を探すしかない。
「・・・とにかく、何か探しましょ」「あ、うん。そうだね」
私達は赤い海に背を向け足を踏み出した。何かあるという根拠等勿論無く、ただ漠然と歩を進める。
しばらく歩くと真っ白な砂浜が終わり、赤茶色の固めの地面に変わった。
だが、人工物は一向に見当たらない。そもそもここが日本と呼ばれた場所だったのかさえわからない。
ただ、歩き続けた。

足が痛み始め、地面の色がいつしか灰色に変わった頃、遥か遠くにビル群らしき何かが見えた。
「シンジ!あれ!」「うん。・・・何だろう。ビルかな」
「とにかく、あそこまで行くわよ!」
私達は休息を欲するその両足を無理矢理に進める。とにかく、何か人の痕跡を見つけたかったのだろう。

足がもはや本当に棒の様になる程に歩いた。そしてそれを目の当たりにする。
「何なのよ・・・これ」
それは私達が求めた人の痕跡に違いなかったが、もはや瓦礫の山と呼んで差し支えない物だった。
倒壊したビル群。なぎ倒された大量の家屋。ほとんど鉄骨だけになっている建物もある。
「アスカ!あの看板!日本語だよ!」
シンジが指差した先には地面に半分程埋まったボロボロの看板があった。そしてそれは間違いなく私達がよく見てきた物だった。
「じゃあ・・・ここは日本なのね」「うん。それに多分第三新東京市の近くだよ」

267:3 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 10:52:08
「何でわかんのよ」「だってほら、向こうにネルフのロゴ入りのお店みたいのもあるし」
私はまたシンジの指差す先を見た。確かにシンジの言う通り、ここは第三新東京市と呼ばれた場所の少なくとも近郊らしい。
その面影はもはや皆無と言ってもいい位だったが。
「・・・じゃあ食料もあるかも知れないわね。行きましょ」「あ、うん」
私達は殺伐とした廃墟に踏み入った。人の気配は勿論無い。
所々にネルフが携わっていたであろう建物はあった。だが、ネルフ本部があったはずのジオフロントや兵装ビル群等はどこにも見当たらない。

「ねえシンジ」「何?」
「一体ここで何があったの?」「・・・僕にもよくわかんないんだ」
シンジは一瞬間を置いて言葉を続ける。
「・・・でも、ここで戦ったんだ。人と。それと、エヴァ達と」「・・・エヴァシリーズね」
「うん。それから・・・サードインパクトが起きたんだ。・・・多分」
シンジの先を歩いていた私は足を止め、振り返る。
「サードインパクトが!?・・・じゃあ何でアタシ達は生きてんのよ?」
「それは・・・僕にもわからないよ。でも、二人だけが生き残ったんだ」
そこまで聞くと、私はまたシンジに背を向け歩き出す。
「・・・ホント、何でアタシ達生きてんのかしらね。エヴァに乗ってたからかしら?」
「そうかもしれないけど、でも弐号機は、その・・・」
シンジが言い辛そうにしているので、私から切り出す。
「そうね。目茶苦茶にやられたもんね」「う、うん」
「そう・・・アタシはあの時、死んだはずよね。・・・アタシ達、本当に生きてるのかしら」「・・・多分」
それからはただ黙々と歩み続けた。原型を留めぬ建造物達の間を彷徨い続ける。

268:4 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 10:54:13
「・・・何も無いわね」「・・・うん」
捜し回るのに疲れ果てた私達はついに足を止めた。座るのに適した瓦礫を見つけ、腰を降ろす。
「どうすんのよ。これから」「・・・わかんない」
二人で灰色の世界を眺めた。そこに希望なんてものは微塵も存在しない。
水も食料もない。足の疲れだけが残った。
「ねえシンジ」「何?」
「アタシ達、ここで死ぬのかな」「・・・」
シンジは俯き、ただ呆然と地面を見つめているらしかった。
「・・・寝る場所だけでも探しましょ」「・・・そうだね」
立ち上がる事を拒む両足をなんとか踏み出し、今夜の宿を探す事にする。

私達は屋根と壁がなるべく崩れていない廃墟を見つけ、そこで一晩を明かす事にした。
「ハァ・・・こんな所よりは病院のベッドの方が千倍マシね」「病院!?―あ、いや、何でもないよ」
シンジが何故か取り乱す。私はいちいち問い質すのも面倒だったので気にしない事にした。
何か布団の代わりになりそうな物を探しに建物内を散策する。窓にカーテンがあったのでそれを二人で引き剥がした。
更に奥へと進む。
大きなL字型のソファを見つけ、それをベッド代わりにした。二人で頭を寄せる様に横たわる。
「ところで今って夜なの?」「わかんない。でも、眠いよ・・・」
「そうね。アタシも疲れたわ。・・・明日、朝は来るのかしら」「・・・」
応答しないシンジの様子を窺うと、既に寝息を立てていた。
「・・・バカシンジ」
私も重い瞼を降ろす。一日中歩き回り疲れ果てた私はすぐに深い眠りに落ちた。

269:5 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 10:56:40
ジリリリリリリリリリリ!!!

どれ位眠ったのだろうか。私はやかましい目覚まし時計を止め、起き上がり、体を伸ばした。
真っ白な清潔感あふれる部屋。光の差し込む窓に目をやる。
そこには見慣れた青い髪の少女が居た。
「・・・ファースト!?アンタ何やってんのよ!?」「・・・新しい世界はどう?」
ファーストはゆっくりと私の方に向き直るとそれだけ言った。
「新しい・・・世界?」「そう。アナタの為の世界」
「アンタ、何言ってんの?」「―駄目よ。今更逃げる事なんて出来ないわ」
刹那、私の頭に全ての記憶が流れ込む。
「ッ・・・!ハァ・・・ハァ・・・そうだったわね・・・私は・・・」「そうよ。それがアナタの現実」
「ちょっと待って・・・。アンタさっき、アタシの為の世界って言わなかった?」「言ったわ」
ファーストは淡々と言葉を続ける。
以前会った時とは違い、なんだか妙に達観した様子だった。
「どこがアタシの為なのよ!あんな世界の!」「アナタが望んだ事よ」
「アタシが!?あんな世界を!?」「そうよ。碇君と、二人きりの世界」
「な、なんであんな奴と!!」「・・・ここでは嘘はつけないわ」
訳がわからなかった。目の前のあんなに無口だった少女がよく喋る様になったかと思えば、
全てを見透かす様な目で私の理解の範疇を超えた話を淡々と続けているのだ。
そして、ここでは嘘はつけない?じゃあ、私の考えている事は全てファーストに筒抜けだっての・・・?
「ま、まあいいわ。じゃあ世界があんな風になっちゃったのは、アタシがシンジの事を好きだったからってわけ?」「あら、そうだったの」
「ち、ち、違うわよ!!!」「・・・元の世界に戻りたい?」
「も、もちろんよ!・・・戻れるの?」「ええ。でもその世界ではアナタはきっと幸せになれないわ」
私が、幸せになれない?・・・でも今の世界に居たって、ただシンジと死を待つだけじゃないの。
そうよ。シンジと、二人きりで・・・。
「悪くない?」「ウ、ウルサイッ!!」

270:6 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 10:59:15
「・・・どうやったら戻れるの?」「簡単よ。命の海に足りないのはアナタだけだもの」
命の海?また訳の分からない事を。
足りないのはアタシだけ?何の事よ。
「アナタも見たでしょ?あの真っ赤な海の事よ」「・・・ア、アンタねえ・・・まあいいわ。じゃあアタシがその海に飛び込めばいいって訳?」
私は冗談っぽく言った。
「そうよ」「え!?そうなの!?」
「正確には溶け込む。そうすればサードインパクトは完遂される」「・・・そしたら、アタシとシンジはどうなるの?」

その答えを聞く前に強い風が吹き、純白のカーテンが大きくなびいた。それが元の位置に戻ると、もうファーストの姿は無かった。
部屋の照明が落ちる。純白の部屋は暗闇に包まれた。


バサッ
私が飛び起きた反動で薄汚れた灰色のカーテンが床に落ちる。
「・・・夢?」
嫌な汗をかいていた。
外は薄暗く、どうやら朝は来てくれなかったらしい。長く陽の光を奪われた為か、周囲は肌寒くなっていた。
「あ、アスカ。起きた?」「シンジ?・・・何よそれ」
シンジは何か缶詰の様な物を開いていた。
「非常食だよ!すぐそこにネルフの地下シェルターがあったんだ。ほら、水もある!」
シンジは満タンのペットボトルを私に差し出しながら言う。
「ありがとう」
私も喉がカラカラだったので、受け取ると一気に半分程まで飲み干した。
そしてシンジに促されるままに缶詰も完食する。
「お腹が空いてるとこんな物でもホントにおいしいわね」「ゴクッ・・・うん」
シンジは床に座り込み、二つ目の缶詰に手を着けていた。少し肌寒くなってきた。
私はソファから立ち上がり、シンジの背後に回り込む。
「うわっ!ア、アスカ?」「・・・アンタも・・・寒いでしょ?」
シンジの背中から腕を回し、抱き締める。その背中は温かく、早くなっていく心臓の鼓動も感じられた。

271:7 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 11:03:23
「・・・アンタさ、元の世界に戻りたい?」「え?どういう事?」
「だから、元の世界に戻りたいかって聞いてんのよ」「それは・・・戻りたいけど」
背中からでもシンジが困惑している様子が伝わって来た。
それでも私は続ける。
「そう・・・。じゃあ、最初の海に戻るわよ」「え?ど、どうして?」
私はシンジの腕を掴むと立ち上がる。シンジの左手から缶詰がこぼれ落ち、中身が床に散乱した。
「いいから!行くわよ!」
強引にシンジを引き連れ、私はファーストが命の海と呼んだものを目指す。
どちらに行けばいいのかを見つけるのは案外簡単だった。真っ赤な海が空を赤く染めていたからだ。

行きよりは割りと短く感じられた道中だった。途中でシンジに私が最初の海を目指す理由を説明した。
昨晩見た夢らしきもの。ファーストの言葉の一部。
シンジは黙って聞いていた。そして最後に一つだけ私に尋ねた。
「アスカはどうなるのか」と。
私は何の根拠も無く「大丈夫よ」とだけ答えた。

そして今、私達はまたこの砂浜に帰ってきた。風もなく、波の音だけが響き渡る。
「・・・じゃあ、行って来るわね」
「ま、待って!・・・その前に、言っておかなきゃいけない事があるんだ」
「何よ?」「えっと・・・その・・・ボクは、アスカを殺そうとした」
「ハア!?」「ゴメン!・・・じゃ、済まないよね・・・」
「・・・どうして?」「・・・こんな世界で、生きていける自信が無かったから・・・」
波が打ち寄せ、引いていく。空には相変わらず綺麗な星が瞬いていた。
「それで最初に・・・。・・・で、心中でもしようとしたってわけ?」「う、うん」
「ハァ・・・。ホンットにアンタはバカね」「ゴメン」
「どんくさいし、頼りないし」「ゴメン」
「謝ってばっかり。ホンット情けない」「・・・ゴメン」

「何でアンタみたいなのを好きになっちゃったのかしら」
「え?」
私はシンジに背を向け、真っ赤な海へと歩み出す。

272:8 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 11:08:16
足に波が当たった。生温かくて、少し気持ち悪い。
腿の辺りまで海に浸かった。まだファーストが言っていた様な事は起きていない。
遂に腰まで浸かる。まるで冷めたお風呂に入っている様だった。
振り返りたかったけれど、それは出来なかった。・・・泣き顔をシンジに見せたくはなかったから
そして肩まで。ファーストの話が本当だったなら、もう私はいつこの海に溶け込んでしまってもおかしくないだろう。
「アスカ!!」
私の足がピタリと止まる。
「ボクも!ボクもアスカが―!」
「バカシンジ!!」
シンジの言葉を遮り、私は振り返った。最後にその姿をこの目に焼き付ける為に。

「また会えたら、結婚してやってもいいわよ!」

一度だけ手を振ると、一気に頭まで浸かった。瞬間、意識が途絶えた。



・・・目が覚めてまず最初に目に入ったのは、見覚えのある天井。そうだ、ここはネルフの病院だ。
私は少し首を上げ、辺りを見渡す。何も無い、真っ白な部屋だった。
それに、左側の視界が無い。右手で触れてみようとしたが、右腕ごと感覚が無かった。次に左手を伸ばす。
やはり左目には眼帯が付けられているらしかった。右目だけで自分の体を確認する。
たくさんのチューブや訳のわからないコードらしきものが私の体から伸びていた。
私が目を覚ました事に反応したかの様に右手側にある大きな機械がやかましく騒ぎ立てる。
しばらくすると廊下が慌ただしくなり、白衣の男性や女性が入って来た。
その後、私の意識がある事を確認し、何やら色々と質問をしたと思ったら慌ただしく去って行ってしまった。
その人達によれば、私は随分と長い間眠っていたらしく、無理に動いてはいけないということだった。
今のところ動き回りたい気分でもなかったので従う事にする。
部屋をよく見回すと、壁にはカレンダーが掛けられていた。
「2025年!?」そう叫んだはずだったが、声にならなかった。

273:9 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 11:12:24
そういえば私は何故こんな所で寝ているのだろう。殆ど何も覚えていない。
シンジ達はどこ?・・・だが体を起こす事も出来ない私にはその存在を確かめる術は無かった。
何も出来ない。私はひたすら横たわっているしかなかった。

それから恐らく三日程が経っただろうか。
「アスカ!目が覚めたんだね!」
どこかで聞いた様なセリフだと思ったが、きっと気のせいだろう。シンジがお見舞いに来たらしい。
未だに殆ど体を動かせない私は首だけを動かしてその姿を見た。
「・・・アンタ、大きくなったわね」「う、うん」
見違える程に成長したシンジに私は驚きを隠せなかった。だが、恐らく中身は変わっていないのだろう。
「ゴメンね、アスカ。・・・ボクがもっと早く助けに行ってれば・・・」「・・・何の事よ」
また何かデジャヴの様なものを感じた。でも、思い出せない。
「そっか。・・・そうだよね」「だから何の事よ」
「エヴァシリーズと戦った時の事、覚えてない?」「・・・エヴァ・・・シリーズ?・・・!」
突然頭の中で何かが繋がった。次々と記憶が甦る。
「そうよ・・・!アタシはアイツらにやられて・・・それから・・・」
「それから奇跡的に弐号機のエントリープラグが見つかって、アスカはここに収容されたんだ」
シンジの話にどこか違和感を感じたが、どうやらそれが真実らしかったのと、
その違和感にあまりに具体性が無かったので疑問を口にする事も出来なかった。
「・・・で、アタシはいつになったら退院出来るのよ」「・・・それは・・・わからない」
「・・・そう。左目は見える様になるの?」「先生は・・・無理だろう、って」
「・・・そう。右腕はどうなってるの?」「・・・アスカが回収された時には、もう・・・」
「やっぱり・・・無いのね。・・・他には?」「脊髄を損傷したらしくて・・・下半身が・・・」
「そうね。・・・感覚、無いもん」「で、でも先生は生きてるだけでも奇跡だった、って・・・」

274:10 ◆FPBUMtkkbw
08/04/27 11:26:20
私の頭の中に、いつ聞いたかもわからないファーストの声が響き渡った。
「アナタはきっと幸せになれない」と。
「・・・そうね。全くだわ」「アスカ?」
何でもない、とだけシンジに告げると私は右目を閉じた。その右目からは、涙が止まらなかった。
シンジがそっと拭いてくれたが、正直疎ましく思えた。私は、絶望していた。

「で、アンタは何しに来たのよ」「謝りたくて・・・それと・・・」
いつまでも歯切れの悪い奴だと思ったが、シンジが言葉を続けるのを待つ事にする。
「・・・あの時の約束、覚えてる?」「あの時?」
「赤い海の海岸でした、あの約束」「赤い・・・海」
何か、思い出せそうな気がする。
「そうだよ。真っ白な砂浜だよ」「・・・白い・・・砂浜!」
瞬間、全てを思い出した。
白い砂浜。灰色の廃墟。純白の部屋。血の様に真っ赤な海。
・・・そして、最後に言ったあの言葉。
「・・・また会えたね。アスカ」「う、うん・・・」

「・・・結婚しよう」

シンジがどこからか指輪を取り出し、私に示した。
無意識に大粒の涙が右目から零れ落ちる。
「・・・ア、アタシ、もう歩けないのよ?」「うん」
「・・・色々、迷惑掛けるわよ?」「うん」


「・・・ありがとう」
私はシンジに左手の薬指を差し出した。



終劇

275:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/27 11:31:56

悲しいねこりゃ…

276:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 12:30:51
>>262

御殿場の街をブラブラと歩きながら僕はお気に入りのラッキーストライクを吹かす。マナが携帯でどこかへ掛けていたがやがて
渋い顔をして携帯を畳んだ。
「あーもう、綾波さんも出ないしぃ~暇だなあ」
ねえシンジ、なんか面白いことない?家で遊ぶ?
「だめ、今夜の体力がもたなくなるって。なんかドミニクが友達あつめてパーティーやるっていうからさ」
「それほんと?ちっくしょこの羨ましい奴」
基地の兵隊さん。
たまに、学校で彼らとトラブった女子の話しを聞くけれど僕にはあんまり意味ないな。生活指導のプリントをいつも苦笑いしながら
読んでるよ。マナも呼べば喜ぶだろうか?ウィル君とか。最近もまた女の子にふられたらしくて、リリィさんの店で飲んだくれて泣いてた。
そのたびに僕が慰めてやるわけだけれど、なんか、変な趣味にはまったりしないだろうな。
ムサシとケイタは第壱中に入り浸ってる。アスカとかいう赤髪の女の子によく構ってやってるみたい。下心丸出しだぞ、特にケイタ。
第壱中か、そういえば転校していった山岸は元気でやってるんだろうか。もしかしてそっちが目当てだったりしてな。
二股は上手くやらないとだぜ、ムサシ。いや待て三股か?僕も含めて。
含み笑いを漏らすとマナが不思議そうな顔で覗き込んできた。
いやなんでもないよ。

277:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 12:32:53
「あっ!ちょっシンジ見てあれ!あれ!ああ~」
「なんだよ」
マナが僕のシャツを引っ張って飛び跳ねる。彼女が指差す向こうに、黒い色をした古いスポーツカーが走り去っていくところだった。
太いマフラーからうるさい排気音を垂れ流してる。現代ではすっかり珍しくなったガソリンエンジン車だ。
「Zだ!S130!くぅ~、シッブ~い」
「ほんと好きだなあ」
「もう40年近くも前の車なのよね!がんばるなあ~いいなあ~」
キラキラと目を輝かせてる。この暴走族予備軍め。
僕もそんなに嫌いではないけれど。Zか、アメリカ人なら親が若い頃に流行った車だな。今度聞いてみようか。
マナの肩に寄りかかり、腰に手を回す。
何よぉシンジ?
「いつも僕のこと言うけどさ、マナだって戦自の基地によく通ってるじゃないか?あんま人のこと言えないぜ」
あれ、あれァケイタがさぁ。幼年学校で生徒募集してるっていうから、一緒に行かないかってよ。ケイタんちお父さんが戦自の
偉いさんじゃん?エリートコース予約済みだそうよぉ~。
「で、そのついでに男を漁ると」
もう!
背中を叩かれて咳き込む。ああ、僕も不良な姉貴を持ったおかげでこんなに染められちゃったよ。
わざとらしく声に出して笑い出す。マナも一緒になって笑う。
馬鹿だよな僕たち!だからどうした。

278:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 12:34:33
アタシはヒカリとムサシと一緒に学校帰りの道を歩いてた。
汚れて泥だらけになった制服、これ帰ったらまた言われるよ。ううん、なんて説明したらいいの。学校で男の子に襲われ
ましたって…いえるわけ…。
隣のムサシを見ると、綾波にどつかれた顔にすこし血がにじんでる。大丈夫なのかな。
友達と遊んでてこけたとでも言っとく?
「んじゃ俺ぁこの辺でな。お前らもマジで気ぃつけろよ、なんたって大事なのぁコレだかんな」
そう言ってムサシは腕を立ててみせる。大事なのは腕っぷしってそんな。
風になびく髪をそっと撫でる。
このストレートヘアーも、小さい頃から大事にしてきたけれど、なんか最近荒れてきてるみたい。エヴァの訓練も大変だし、学校じゃ
気が休まる時ないし。
こんなふうに安心して気を許せる友達といる時だけよ、アタシが心を休められるのは。
そう、…友達、友達だよね。
いつまでも子どもじゃない。
小学生だったのはもう昔のこと。
今はもう立派な大人へ向かって歩いていく時期だから。

279:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 12:35:59
反対側の歩道を走っていくムサシの向こうに、第壱中の制服を着た少女の姿が見える。
誰だろう?
黒いロングヘアー。ねえ。誰なのよ。
「あ…C組の」
そういえば、昼休みにヒカリのところへ行くとたまに見かけた。最近転校してきたらしい。たしかマユミとかいった。御殿場中から
来たって言ってたけれど。
そゆこと、なの?
「あれ、マユミちゃんじゃない?あら…」
口癖みたいにフケツ、とヒカリが漏らす。
口癖だってわかってても胸に刺さる。
同じ御殿場中ってことは、知り合いだとしても不思議じゃないよね。
アタシは、まだ知り合ったばかりでなんにもない。
振り返らない。忘れようよ、こんなの。
アタシはひとりでやれる…ううん、ひとりでやらなきゃならないから。
スカートのポケットに手を突っ込み、道端の石ころをけとばす。
石ころは軽い音をたてて車道に転がっていって、走ってきた車にひかれた。

280:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 12:37:22
家に帰ろうかどうか迷っていたら、アタシを探していたらしいケイタが夜の遊びに行こうと誘ってきた。今夜、シンジの友達が
パーティーをひらくらしい。アタシは促されるままケイタについてきてしまった。御殿場に着いて、シンジたちと落ち合うまでに
すっかり日は暮れてしまっていた。
家のみんなの心配する顔が頭の中から離れなくて不安だったけど、シンジの顔を見たら落ち着いた。
マナも遊び慣れてそうなふうに見える。
「なによぉケイタったら、アスカつれてきたの?やるねえ兄ちゃん」
マナにからかわれてもケイタは照れるばかりだ。
「ムサシはどうした?」
「さあ、どこいったんだか」
「まーまー来ない奴ぁしゃーないじゃん?それよりシンジ、はやく行こうよ~」
マナはシンジの肩を押して歩かせる。アタシは一番後ろをついていった。
通りをいくつか越え、やがて長く高い鉄柵が見えてくる。シンジは迷いもせずその一角に入っていった。明らかに町並みの
空気が変わった。歩いてるのは外国人ばかり、それも…
「ね、ねえケイタ、ここって…」
「ん?国連軍御殿場基地だよ、戦自と隣接してるんだ」
「そ、そうじゃなくって」
離陸していく戦闘機の轟音がアタシの声をかき消した。

281:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 12:38:46
「あっあのマナとかはよく来るの?こうゆうとこ」
思い切って呼びかける。マナはのんきそうに振り向いて、そうよ~と事もなげに言った。
シンジが携帯を取り出して電話をかける。
「Hello. Oh, Jack! How are you tonight? Ok, ok, I will show you a newcomer. Look forward to cute girl. We will arrive soon!」
慣れた英語遣いにアタシは思わず面食らった。そうよね、こういう場所で遊ぶんだから…
やがて着いた兵員宿舎にはたくさんの国連軍兵たちが集まっていた。アタシたちが入るとみんなが歓声をあげて、アタシはとっさに
マナの後ろに隠れてしまった。
シンジはにこやかにみんなに挨拶している。
さあみんな飲んで飲んでとケイタがグラスを配る。アタシも受け取ったけどそれは強い酒の匂いがして頭がくらくらした。
怖がるなよ、とシンジが一気に呷る。アタシも恐る恐る口をつける。唇が痛くなってグラスを放すと兵士のひとりがどうしたんだい
具合でも悪いのか?と聞いてきた。
「Ya, She is a baby yet. This cocktail is too strong to her.」
「なっなに言ってるのマナったらっ」
「無理すんなよ飲まねーうちから赤くなっちまって」
みんながはやし立てて、アタシは思い切って半分くらいをいっき飲みした。
たまらず足元がふらついて、アタシは近くのソファに座ってたラテン系の男の膝の上に倒れ込んだ。
抱きかかえられて、アタシは身体から力が抜けてしまう。シンジが笑って見ててくれるから…

282:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/27 12:59:23
>>265-274
GJ!カンドーした!

283:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 16:20:29
>>281

若くてちょっと優男風の金髪の兵士が気を利かせてくれて、アタシは薄いフルーツカクテルから次第に喉を慣らしていった。
とても浮ついた気分になって、抱っこされたり触られたりするのも気にならない。
マナは何人もの男にキスをあげて、制服の胸元はもう全開だ。アタシよりずっとおっきなおっぱい。
アタシはぺったんこ…。
シンジがこっちに来いとアタシを手招きした。アタシはぴょこんと男の膝から床に降りる。
「Dom! Hey, come here!You have nice coke? Let her play!」
突然マナが大声をあげて、見ると太った黒人が薬みたいな小瓶を持ってこっちに来るところだった。マナはアタシの頭をぽんぽんと
はたいてケラケラ笑う。アタシはそんなに子どもじゃないもん。
ドムと呼ばれた黒人はマナに白い錠剤をあげて、彼女はひょいとそれを口に入れて酒で飲んだ。
シンジも苦笑いしながら受け取る。
「Hey, girl. お嬢ちゃん、なまえは?」
「えっ、あ、アタシ?」
「かわいいね、染めたの?」
片言の日本語でドムはアタシに話しかける。この赤髪、可愛いって言ってくれるの?
「さ、Thanks... えっと…ま、My name is Asuka. My hair is not be color. Natural.」
「Oh, really? Are you American?」
「Ah... No, I'm Germany. I born in States. When I 4, I moved to Japan...」
ドムはそうかそうかとにっこり笑って、アタシの手に例の錠剤を握らせた。これって…

284:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 16:22:36
突然黄色い声が上がった。
さっきの金髪の男にマナが抱きついてディープキスをしてる。スカートの中も見えて、や、やだ…。
アタシが惚けて二人の乳繰り合いを見てるとシンジが後ろからアタシを抱き上げた。
あったかい…。アタシもなんだか腰の奥がくすぐったいよ。
シンジはしょうがねえなウィルのやつも、と小声で言った。
「ね、ねえシンジ…アタシあしたシンクロテストが」
「ん、なに?」
「あ、そっか…え、えっとNERVの仕事があって、えーと仕事っていうのは…」
エヴァのことなんてしゃべれないし言っても信じらんないだろうし…
「大丈夫だよなんならうちに泊まる?学校なんて気にすることないって」
シンジも酔ってる。アタシも頭と体がふわふわして、どうでもいいやって気になった。
シンジのお義母さんもそんなこと気にしないみたいだし。
ママは…?
酔いがさめてきた?
こんなことして、ママはどう思うの?
子どもなのにお酒のんで、男の人たちとエッチな遊びして、…。
マナはソファに寝転がってやらしい声を漏らしてる。アタシもシンジに…おっぱい…。
アタシはドムからもらった薬を、マナと同じように酒で胃の中へ流し込んだ。シンジが濡れた口のまわりをキスで拭ってくれる。
もう後戻りできないよね。アタシがこの身を守るためにはこうやって、この人たちの仲間にはいらなきゃ…

285:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 16:24:01
ものすごく頭がぐらぐらする。シンクロテストでプラグ深度を下げていく時にも似てる感覚。
目に入るもの、体に触れるものすべてがまるで異次元のよう。
シンジがアタシを抱きしめてるから飛んでいかない。
誰かがアタシを舐めてる…漏れそうだよお。
「アスカ、まだなんだ?」
えっなんのことシンジ?
頬を撫でるシンジの指に夢中で吸い付く。唇がぐにゃぐにゃと歪んで…ああ、ケイタ?顔がピノキオみたいに…
みんなの姿のまわりに光のもやもやが見える。これがATフィールド?
仰いだアタシの腕が…枯れ木になってる…
部屋のあちこちから光の球が出てくる。マナがゆらりと立ち上がる。アンタにも見えるの?
「あらーすっかり仲良くなってぇー」
マナの声もキンキンとハーモニクスが激しく振れる。
ねぇアスカぁ、私おなか減ったからぁ、冷蔵庫からピザもってきて?
え、ピザ?アタシはおなかへってないけどひとりでたべるの?ふとるよ?
「いいよマナ僕が行ってくる、オーブンであっためなきゃなんないだろ」
シンジがアタシを離してキッチンへ行こうとする。アタシは床に転がり落ちた。
あれれ床がぬれてるよ?マナおもらししたの?なんだかねばねばするよ?
「マナ?」
「シンジぃ…私は“アスカに”言ってんのよ…?」
寒気がした。
ドスの利いた声に一瞬でトリップから引き戻される。

286:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/27 16:24:15
なんで自サイトでやれんかね。そんなに目立ちたいのかなあ。


287:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 16:25:20
意識は醒めても、クスリの回った体は自由に動かない。
思い切り喉元を持ち上げられる。息が詰まる。マナが開ききった瞳孔でアタシを睨んでる。
これが…人間の力なの?喉が握りつぶされる…!
「あぁっ、アスカ!あんたイッコ上のパシリもできねぇくれー偉くなったっての!ちょっとムサシに気に入られてっからって
チョーシくれてっとブチ殺すわよ、聞いてんのっ!」
大声を聞いてみんなも異常事態に気付く。
「Mana! Be cool down, release her!」
「落ち着け、な、マナ!落ち着けって!」
締め上げられたまま、つま先が床を離れる。
シンジが必死でマナの腕をゆすってる。アタシはどうすることもできない…
やっと体が自由になったと思ったら、アタシはさっきマナがエッチしてたソファにうずくまってた。その相手の金髪男…
ウィル、がタオルでアタシの顔を拭いてる。マナは向こうの壁にもたれてシンジに宥められてる。
「Asuka... Are you ok?」
「Yes... All right, don't worry...」
アタシはもう大丈夫だと言ってタオルを受け取った。首を絞められて泡を吹くなんて…ほんとにあるんだ。
たしかに今は成長期とはいえ、ひとつしか歳の違わないマナがあんなに、体格も腕力もあるなんて…アタシは綾波のことを
思い出して、無性に悔しくなった。アタシだって大きくなればもっと強くなれるのに…!
マナはふてくされたまま出て行った。シンジは気にすることない、どうせ朝になったら忘れてる、と言った。
アタシはドムから薬をピルケースいっぱいに貰って、その足でNERV本部に行って仮眠室で休んだ。
今日はこのままシンクロテストに臨む。

288:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 16:32:22
ようやくプロットの半分くらいー

現状ネット環境がないのでうpはできないですー
投下でなんとかー

289:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/27 20:00:03
よく見たら愛以外にも投下あったんだね

乙。悲しいハッピーエンドだ

290:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 22:28:12
>>287

「プラグ固定、ハーモニクス正常位置。双方向回線開きます」
いつものように伊吹二尉がオペレートする。
そう、いつものように…神経接続。インターフェースヘッドセットが帯電するかすかな感覚をつかむ。今アタシの脳神経にはかつてない
ブーストが掛かってる。コクピット前面に投影されたインストゥルメントパネルにはいくつものメーターが輝き、アタシの疼きを
これ以上ないくらいに表現してる。
こんなチンケな目盛りの数字に一喜一憂しなけりゃいけないなんて、馬鹿らしいと思ってた。だけど今ならわかる。限界に挑戦する
人間のあくなき本能ってやつがね。
惣流アスカラングレー…その力を解き放て!
「リミッター解除。アイドリングからレーシングへ。エヴァ零号機、エヴァ弐号機、テストモード起動。テストプログラムスタート」
「レイ、アスカ。集中して、いつも通りにね」
赤木博士の言葉を最後まで聞かないうちにアタシの意識は弐号機へ向かってダウントリム最大で急速潜行していった。
ブリッジからの声がはっきりとドップラー偏移する。目を閉じて…瞼の裏の光が赤方偏移する。
何てこと…これがエヴァの本当の力。乗ってる人間の脳の働きを、ここまで意のままに操れるなんて。今までアタシは弐号機の
本当の力の、ほんの3割も引き出せてなかったんだ。
加速する。弐号機コアのパルスが幾重もの光の波動になって見える。そう、波動の次元をアタシの精神は超える!
浮つく体がまさにLCLに溶けていくみたい…リツコが組んだシンクロテストプログラムとやら、今のアタシの感覚からはどうしようもなく
チャチでいかにも機械的に見える。生演奏には、エヴァの奏でる音楽にはそれじゃあノれない…さあ、地獄の舞踏会へようこそ…!

291:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 22:30:15
…気付いた時にはLCLは排水され、弐号機との接続は切れていた。
ゆっくりと深呼吸する。唇のしびれにシンクロの余韻が残ってる。
綾波がプラグのハッチに寄りかかり、腕組みをして不敵に笑っていた。
「何よ…テスト、もう終わったんでしょ?」
「どうしたの今日は?やけに気合い入ってたじゃない。赤木博士たちびっくりしてたわよ?」
「別に…結果、どうだったの?」
「あなたの?シンクロ率では瞬間最大265%。ハーモニクスは1.7まで掛かったわ。テストシーケンスはスコア98.5で完走。飛ばしすぎよ
アスカ、もう少しでコアが圧潰するところだったわ」
そう言って綾波はハッチに背をもたれたまま、クククッと笑った。そのいやな笑い方は司令譲り?ともかく…
「…トンでもない数字が出たものね」
「まあ、私の零号機ならハーモニクスは2.0まで掛かるけどね」
よっこいしょ、と呟いてプラグを出たアタシの肩をつかんで、綾波は耳打ちした。
「私の口からは博士には言わないけど…ドラッグシンクロには手を出さない方が賢明よ。今の弐号機コアはまだ出力が低いからいい
けれど…じきに載る実戦仕様エンジンで同じことやったら間違いなく脳細胞が焼き切れるわよ」
「…そりゃまた、まるで経験者みたいな言い方ね?」
綾波は何も言わず流し目をくれる。
「ご忠告感謝しとくわ」
ともかく体を洗って水分補給だ。アンビリカルブリッジを歩きながら、建造途中で素体むき出しにセンサーアイのみの弐号機を見やる。
ハーモニクス2.0?プロトタイプのくせにエンジンに無理をかけて…制式型のアンタなら軽くひねれるスコアでしょ?
「保護者気取りが…!」
アタシがシャワーを浴びてる間、綾波はケイジから戻ってこなかった。

292:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 22:31:35
実験管制室に戻ったアタシは有無をいわさず病院に放り込まれ、精密検査をされた。脳圧と脳脊髄液温度がヤバいことになっていたらしい。
ようやく解放されて本部を出た時には、もうすっかり真っ暗になっていた。
綾波はご苦労にも駅のベンチで待っていた。アタシの姿を見るや、絞られたようね?とまた不敵に笑う。
「まあねー。薬の残りも没収されたし」
リツコは凄い形相で、こんなものどこでと詰問してきた。アタシは友達から貰ったと正直に答えた。そうでしょ…あの黒人はシンジの友達。
だったらアタシの友達でもあるでしょ…
綾波の住んでるマンションはアタシの家とは正反対の方向だ。駅で別れてひとりになってから、昨夜の狂騒を振り返る。
何故アタシのガードが、あんな遊びに誘われたアタシを見過ごしたか…理由は分かってる。
「パパの馬鹿…」
いや、パパなんかじゃない。あの男がアタシの父親だなんて…ママの死に目にも来なかったくせに…!
「どいつもこいつも保護者気取りはうんざりなのよ…!」
シンジ…。アンタは…こんなしがらみに悩んだり、しないの…?
アンタはサードチルドレンに選ばれた…いずれ本部に呼ばれるはず。その時…アンタは、碇司令…自分の父親に、どう向き合うつもりなの…?
「…田宮さん?」
サングラスにスーツ、純金の装飾に身を包んだ男がアタシに礼する。小さい頃と違ってすっかり他人行儀だ。そう…あの家にとって
アタシは、次期惣流家当主、蒼龍会総会長に成ることを運命づけられているひとり娘なんだから…
「お嬢様、お迎えに上がりました。車の用意はできております。本日は綾波様共々お疲れ様でした」
黒塗りのベンツが静かに跪く。
「パパは…?」
「は、旦那様は日重共本社での式典に出席し…」
「わかったわ。もういい…」
「は、失礼しました」

293:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 22:32:59
「…ちょっとここで止めて。買い物してくるわ」
アタシはコンビニの前で車を止めた。
入り口の棚から適当な新聞を取りレジに放り出す。お金を払おうと小銭入れを取り出した指が震えていることに気がついた。
薬のせい…わかってる。このキズは取り返しがつかない…。
「あれーキミ今帰り?塾でお勉強?気分転換にオレらと…」
高校生?アタシはわざと車のドアに手をかけてから振り返った。黒塗りのいかにもな車を見て軟派そうな高校生たちはそそくさといなくなった。
馬鹿…。
シンジに逢いたい。でも…今夜は無理だよね。
それに…マナ。いくら家族っていったって、血のつながってない義姉弟…アタシが割り込んでいけば、昨夜みたいなぶつかり合いは
避けられない。アタシは…マナに負けたくない。強い生き物に成る…。
だから…弐号機。アンタは正真正銘、アタシ自身の力だよね…
そうよね…ママ…

授業をさぼってひとりで来る、何度目かの屋上。空はどこまでも澄んでいる。
「屋上にて孤独に浸る…まさにヒーローの図ね」
「綾波…」
いつものピースの黄色い紙箱を手に綾波はアタシの隣に来た。
アタシはパーラメントをくわえなおし、綾波にライターの火を差し出した。二人揃ってフェンスにもたれ、煙を吐き出す。
「どういう風の吹き回しかしら?」
「別に…アンタの方が先輩だし、年上だし」
綾波はひざ下いっぱいに下げた長丈のスカートを揺すって笑った。何よ、そんなにおかしい?

294:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 22:34:15
戦闘機が上空を旋回してる。御殿場基地の訓練かな。
アタシを介抱してくれた金髪の国連軍兵は戦闘機パイロットだって。彼もあんなふうに飛ぶのね。
アタシも来年の今頃は…完成した弐号機に乗って戦ってる。
だからなによりも…強くならなくちゃいけない。
負けてられないのよ…こんなとこで…!
「そうそう」
やおら身体を起こすと綾波が言った。
「今日正式に葛城一尉が作戦部長に就任するそうよ」
「ミサトが?」
「ええ。まあ、しばらくはドイツ支部での研修だけど」
「てことは、加持先輩といっしょってワケね」
「でしょうね」
アタシは煙草を踏んで火を消すと階段へ向かった。綾波がアタシの背中に声をかける。
「碇―シンジくんだっけ?彼と次遊ぶ時は私も誘ってくれる?」
「…そのうちにね」
保護者なんかいらない!パパもミサトも、リツコも綾波も…!
階段を降りきったところでアタシはまた囲まれてしまった。
絆創膏だらけのドレッド頭が手下を連れ、鼻ピアスを鳴らす。
「は…支倉君…」
「おーおーアスカちゃあん…オレの名前覚えてくれてたんだねえ…嬉しいぜ?あぁん…」
「今度ぁ綾波も助けに来てくれねえぜ?だからオレらとたーっぷり遊ぼうなあ」
にじり寄られる。ピアスを開けた右耳が…痛い。

295:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/27 22:56:35
執筆に集中しすぎてハナヂがでました。

枕が血まみれーすこしひとやすみします



ちにゃ!(;´∀`)・:'、

296:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/28 08:29:11
>>265-274
バタフライエフェクトっぽいなあと思った。面白かったよ

297:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/28 18:30:52
>>265-274
良かったよ~


298:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/28 22:24:38
>>294

わたしがまたいつものように図書室の当番をしていると、ムサシさんが遊びに来ました。
これで授業をサボるのも何度目でしょうか…
確かに、わたしは学校に自分の居場所を見つけられなかったのは事実です。でもわたしには勇気…逃げ出す、いいえ、自分の足で
居場所を捜しに行く勇気がなかったのです。だからいつしか…わたしは彼がこうやってわたしを誘いに来ることを楽しみにしていました。
それはきっとズルいことです。だからわたしは…今日も、彼との逢瀬を味わい尽くします。
『なんだぁガキが?生意気に昼間っから女つれまわしてんじゃねェゾ?』
わたしを守る為に…
『テメー知ってんだかんな?御殿場小のムサシっていやあ米兵のレイプで生まれたガキだってなあ』
彼は…
『“日本人じゃねえ”くせにこの国の土を踏み荒らしてんじゃねぇってンだよ!』
自分の誇りを賭けて…
「ムサシさん、わたしに構わず逃げてください!警察を呼びますよ!」
「マユミ…!てめェらッ、マユミに指一本でも触れてみろッ!ブッ殺すぞ!」
自衛官くずれのチンピラ集団が彼を捕まえて…わたしは何も出来ずに見ているしかありませんでした…
「はっ!警察でも機動隊でも呼んでみろってんだ、結局ブチ込まれんのはテメェだぞ?」
「ムサシ=リー=ストラスバーグ、てめぇは何を持ってんだ?日本国籍か?永住権か?てめぇは何も持たずに好き勝手してんだよッ!」
「うるせえッ!オフクロは、俺のオフクロはなあッッ!…!」
彼の叫びがどこまでも…この無機質で無慈悲な街、第3新東京市にこだましました…

299:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/28 22:26:03
目の前が真っ暗で…揺れてる。キズだらけの木板敷きの床に赤い血が流れて広がっていく…
これ、アタシの血…?
「くはは、どうだよアスカちゃん?“初めて”のご感想はよォ…」
初めて…?
「う…ああ…」
んー?何かなあ?聞こえねーなあ?
「き…キョウジくん…」
血溜まりの中、男二人に両腕をつかまれて、破られた股の間から血と白濁を流して…アタシは正気を失ってる。
やっと口に出した名前に、アタシを囲む男たちが下品に笑い転げる。
「おいおいぃ…ずいぶんと馴れ馴れしいじゃねェかよ?あん?」
「せっかくオレらが“護って”差し上げようとしてんのによォ…?」
うなだれていたあごを掴んで顔を持ち上げられ、乱暴に唇を吸われる。
甘ったるい…トルエン?
「うう…んっ」
痛い…あそこが裂けちゃうよう…
「ああぁ…」
ほらほら、もっぺんオレを呼んでみな?
そしたら可愛がってやんぜ、なあ?
「は…はい…キョウジ…さん…」
ハーイよっくできましたあ!男たちがいっせいに手をたたいてはやし立てる。
アタシは動けない…体から魂が逃げ出しちゃった…

300:霧島愛 ◆MANA20euME
08/04/28 22:27:16
自分の心臓の音が聞こえない…アタシは生きてるの?
『死ぬのは嫌…』
口々にアタシの肉体を指差して笑う男たち…
『死ぬのは嫌…』
これは誰のカラダなの…?
『今動かなきゃ、みんな死んじゃうんだ!』
アタシが…?
『そんなのもう嫌なんだよ…!』
だってアタシは…
『“一緒”に、“死んで”ちょうだい』
“強い生き物”に成る…!
『死ぬのは嫌…ッッ!』
「…ッァァぁぁああああああ!!!」
アタシの心臓が、再び強く…どんな人間よりも強く、動き出した。
視界が跳ねる。絶叫にうろたえた男の顔面めがけて腕を伸ばす。掴む!肉に指がめり込むステキな感触!
「ぐう、うあああ!」
「ウフフフフッ…ハア!」
アタシはキョウジの顔面を握り締めたまま、右腕を掃除用具入れのロッカーにブチ込んだ。床用洗剤の缶が破裂して、緑色の粘液が
飛び散る。強アルカリの液に皮膚が溶けるステキな感触…!


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