08/06/05 22:00:12
「教会の連中は何をとち狂っているんだ。なぜ自滅を望む?」
「よほどアスモダイの血が憎いんでしょうね」
「アスモダイへの憎悪とリリンの滅亡に何の関係があるというんだ」
463:冴えない著者 ◆YUq/JXG2n2
08/06/05 22:01:42
「まず、初めにヒトがいました。第一始祖民族とも呼ばれる人型種族は、銀河系の各地に生命の種をばら撒き始めました。
その理由が何だったのか、何を目的としてたのか、今となってはわかりません。彼らは我々からすれば、まさしく神に等しい存在です。
創造物が創造主の思考を理解しようなどと言うことは愚かな行為です。まあ、はっきりしてる事は複数の種がばら撒かれたことです。
運の悪いことにそのうちの二つがたまたま同じ星に落ちました。 白い月のアダム、そして黒い月のリリスです。
アダム族とリリス族による種族繁栄を賭けた戦いが始まりました。長い時が経ち、知恵の実を持つリリス族はロンギヌスの槍を作り上げ、アダムの封印に成功します
。彼らが第二始祖民族と呼ばれる存在です。彼らは一つの書物を後世のリリンへと残しました。
そして、時は流れ、二万五千年前。その書物を手に入れたリリンの末裔は、原罪からの開放を望み、そして、その手段も手に入れました。
ぼくも彼らに利用されるだけの存在だったんですよ。そして、知恵の実を食してしまったリリンの贖罪が行われました」
「きみが起こした三度目の滅びの時の事だな。しかし、リリンはなぜその時に死滅しなかったんだ?」
464:冴えない著者 ◆YUq/JXG2n2
08/06/05 22:04:03
「三度目の滅びの時がこの星に舞い降りた後、全てのリリンは生命の源たる赤き海へと姿を変えました。
元の姿に回帰することが彼らにとっての贖罪だったようです。そこに広がったのはお互いに傷つけ合うことのない永遠に続く安寧の世界。
しかし、リリンの中にはその世界を拒絶する者もいました。お互いに傷つけあうこともなければ、お互いに愛し合うこともないからです。
あるのは自己愛と自慰の感情だけ。傷ついてもいい。それでも、人から愛されたい。そう強く願った者達は赤き海から、再び一個の人としてこの世界に還元されてゆきました。こうしてリリンは滅亡から免れたのです。
その後、少しずつではあるが、リリンはその数を増やしてゆき、数千年後、新たな文化を得るまでに至りました。
時を同じくして、この星にイレギュラーが舞い落ちます。それこそが第三の生命の源たるアスモダイ、そのキャリアである赤き月がハルケギニアに衝突したのです。
これが四度目の滅びの時。もっともリリンはこの時も辛うじて滅亡を逃れましたが。それからは、ぼくらアダムより生まれし天使とアスモダイより生まれし悪魔との対立が始まりました。
ああ、天使や悪魔という呼び方はあくまでもあなた方リリンの言葉を借りた便宜的なものです。ぼく自身がそう思っているわけではありません。
アダムから生まれし者も、リリスより生まれし者も、アスモダイより生まれし者も、姿形は違えど同じヒトなのですから」
465:冴えない著者 ◆YUq/JXG2n2
08/06/05 22:06:06
ジュリオは小さく咳払いをしてから言葉を継いだ。
「二つの種族の対立を尻目に、リリスより生まれしヒトは、失ってしまった文明、つまり知恵の実の奪還に躍起になっていました。
天使と悪魔の対立はいよいよ激化していきましたが、ぼく達アダム族の圧倒的優勢は揺るぎませんでした。
アスモダイ族は、リリンと同様に心の壁を発現できなかったからです。存亡の危機に晒されたアスモダイ族は偶然発見したリリスの肉体を自身に取り込みました。
彼らからすれば苦渋の選択だったでしょう。こうして生命の実を得たアスモダイは心の壁を凌ぐ強力な力を得ました。それが虚無です。
しかし、皮肉な結果も待っていました。リリスの肉体を取り込んだ彼らの姿はリリンに酷似していたのです。そうアスモダイの系譜エルフ族はこうして誕生したのです。
リリス族のリリンとアスモダイ族のエルフは、アダム族を共通の敵と認識し結託しました。この頃から、リリンとエルフの間で積極的に交配が行われるようになります。
ここまで言えば分かりますよね? 魔法を扱うリリン、つまりメイジの誕生ですよ。魔法とは文字通り悪魔の法、あなた方リリンが憎むべきアスモダイの力というわけです」
いつの間にかジュリオの怪しい瞳の輝きに引き込まれていたワルドは言葉を失っていた。こめかみから大粒の汗を流し、息は短く、荒くなっていた。
「どうしました、具合でも悪くなりましたか?」
ジュリオは微笑みながら、ワルドの肩にそっと手を置いた。ワルドはその手を振り払ってから口を開いた。
466:冴えない著者 ◆YUq/JXG2n2
08/06/05 22:08:45
大丈夫だ。話を続けてくれ」
「聖書の内容と同じことですよ。アダムと仲違いをおこしたリリスは悪魔アスモダイの元へと赴き、彼らとの間に子供をもうけた。
それがあなた方人類、リリンです。二百年前、ある高名なメイジがアスモダイのキャリアに捨て置かれていた預言書、―裏ブリミルの書を手に入れ、この事実を知ってしまった。
リリンにとってエルフは憎むべき存在、アスモダイも同様です。しかし、憎悪してやまないアスモダイの血が自身に流れている。
この事実を知った彼は驚愕し、絶望したのです。彼は有力な貴族で、誇り高かった。だからこそ、その事実を許すことが出来なかった。
そして、思い立ったのです。悪魔の血を持つリリンはエルフと共に滅ぶべき種族ではないのか、と。純然たるヒトであるアダム族に、このハルケギニアの未来を委ねるべきではないか、と。
それこそが我々リリンに残された唯一の贖罪の道なのではないか、と」
「……正気の沙汰じゃない」
「ぼくもそう思いますよ。しかし、彼の考えに賛同する貴族もいたのです。こうして秘密結社教会は発足しました。
彼らは歴史を裏から操り、リリンとアスモダイ族の滅亡を画策していたのです。そして、現代に至り、彼らの念願も成就されようとしています。
レコン・キスタによるエルフの殲滅、その後に行われる滅びの時の儀式によって、アダム族の楽園が誕生し、彼らの贖罪も行われるというわけです」
ワルドは大きく深呼吸をした。
467:冴えない著者 ◆YUq/JXG2n2
08/06/05 22:09:42
「なるほどね、小難しい話だ。ただし、一つだけ分かったこともある」
「なんですか?」
ワルドは風のような流れる動きで杖を引き抜くと、ジュリオの首元に切っ先を据えた。ジュリオは驚いた様子も見せずに冷ややかな微笑を浮かべながら、紅茶を口にした。
「きみは生きていてはならない……!」
「賢明な判断です」
「ほざけっ!」
首もとに伸びる切っ先をすんでのところで避けたジュリオは、ティーカップの中身をワルドに向かって浴びせかけた。ワルドは背のマントを翻しそれを凌ぐと、椅子から立ち上がり、背後に飛んだ。
「さすがは魔法衛士隊長殿。実に洗練された動きですね」
「立ち上がらないのか?」
「その必要もないので」
「……なめるなよ!」
ワルドの詠唱に呼応した空気は刃に変わり、ジュリオに襲いかかる。ジュリオの首を切断するかに思えたワルドの魔法は、突如現れた赤く輝く障壁によってかき消された。
「心の壁か……!」
ワルドが忌々しげに呟くと、役目を終えた赤き壁は空中に霧散していった。
468:冴えない著者 ◆YUq/JXG2n2
08/06/05 22:10:25
「教会やオールド・オスマンが碇シンジくんに夢中なのは、これが理由ですよ。ぼくは楽園創生計画の要です。心の壁を持つぼくに打ち勝てる者といえば、虚無を持つ者か、もしくは同じ心の壁を持つ者だけです」
「なるほど。彼というよりも、彼の従えるアダム族が重要ということか」
「それもあるでしょうが、それよりも、忘れてならないのは彼がガンダールヴであることです」
「不完全ながら、生命の実と知恵の実を合わせ持つ神に最も近い存在。場合によっては、世界は彼が思うように作り変えられる。彼が真摯にそれを望んでしまったら、教会でも留めることは難しいでしょう」
「ガンダールヴとは一体なんなのだ? ただの使い魔じゃないのか?」
「単身で、全てをゼロに戻すことが可能な唯一の存在です。彼の前では心の壁も無力ですよ」
「きみは彼に何を望む?」
「彼のしたいようにさせたい。彼がどういう道を選ぼうと、そこにぼくの自由があるから。彼がこの世界に留まるもよし。世界を二つに分けるもよし。彼が何をしようとぼくは口を挟もうとは思いません」
469:冴えない著者 ◆YUq/JXG2n2
08/06/05 22:12:12
「世界を二つに……?」
「交わるはずのなかった二つの平行世界。それを融合させてしまったルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。彼女が背負う原罪は、リリンの比ではありません」
「何の話だ……?」
「さて、ぼくはもう部屋に戻ります。旅の疲れも溜まっていますしね」
そう言ってジュリオは腰を上げると、ワルドに向かって会釈をし、踵を返した。
「待て、まだ話は終わってない」
「あなたも早くこの場を離れた方がいいですよ。この部屋には鼠が潜んでいるようですから」
ジュリオは肩越しに忠告をすると、食堂の外へと消えていった。青年の言葉通り、この部屋には鼠が潜んでいた。オスマンの使い魔である。そして、二人の会話は、この使い魔を介してオスマンに筒抜けだった。
それを悟ったワルドは舌打ちをし、食堂の出口に向かって駆け出した。
「俺のなすべきことは一つか……」
ワルドは決意の篭った声でそう言った。
470:冴えない著者 ◆YUq/JXG2n2
08/06/05 22:12:55
投下終了です。
471:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/05 22:26:23
乙でした!
472:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/05 22:50:00
長台詞でなおかつ説明しなくちゃいけないって所為でカヲルっぽさがちょっと薄れちゃったね
投下乙!
473:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/08 02:38:17 QKrM6B01
保守
474:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/29 23:40:32
moukokoiranainnzyane
475:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/30 08:28:31
過疎にもほどがあるなwww
476:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/07/14 03:47:58
期待保守
477:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/07/21 14:54:17
ゼルエル咀嚼中のエヴァ召喚、中の人いない
478:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/07/24 01:48:41
アレを見て食欲を刺激されたのは俺だけではないはず
479:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/07/27 02:55:22
(口の中)カチッ
咀嚼そぉーち!
びゅーん!!!
480:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/07/31 21:02:18 W3Vrzt3N
旨そうに喰ってたよね
481:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/08/04 19:05:20
もしもルイズが召喚したのがアスカだったら・・・
482:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/08/04 20:02:07
ヒステリー同士で救いようがないな