07/12/22 02:42:13 O61TdN3n
愛と言う言葉が出てこないあたりが佐々木らしい。
だがなるほどな。佐々木の言いたいことがわかってきた。
強姦は少なくとも相手を人間の女と認識していて、それを手に入れようとする行為ではある。
婦女暴行は人権を踏みにじる行為ではあるが、逆説的ながら相手を人間であると認識しているからこそ成立する行為なのだ。
……認めたくはないがな。
「それに比べて、神の行為は彼女を人間扱いしてないな」
「そういうことさ。
男性を惹きつける容貌も、快感を覚える神経も、男性器を受け入れるための機能も、己が認めた相手に純潔を支える喜びも、欲望の対象としての肉体も一切不要。必要なのは子供を産む機能のみ。
これが女性に対する侮辱でなくてなんだというんだ」
そう言われてみるとこれはひどいな。世の中の女性はもっと怒っていいと思うぞ。
「そうして望まれぬ子供を生んだ古の女性が、僕は哀れでならない。
僕はそんな神など認めない。
いかなる神にもこの身体は侵させない。
僕が子供を孕むときには、この魂と本能が選び認めた男性に全てを委ねたときだ」
真っ直ぐに俺を見つめて語る佐々木の表情は、なんだろうな。
皮肉なのか逆説的なのかわからんが、そう、あえて言えば神々しく思えてしまった。
「誰だかわからんが、そいつが羨ましいよ」
佐々木が魂から認める男性というのは、それこそ神でもないといないんじゃないかと思うが、これは言うまい。
だが、俺としては友人が幸せになることを祈るばかりだ。
さてしかし、この場合何に祈ったらいいのかね。
ただどうも、佐々木が期待した回答ではなかったらしく、何やら大きなため息が聞こえてきた。
ふむ、俺がそんな奴を捜してこようかと言えばよかったのかな。
それはそれで微妙に腹が立つのでやりたくないのだ。
娘を嫁にやるわけでもないのにな。
「君という人間は……まあ、いや、それでこそキョンだよ。
ではひとまずちょっと暴食でもして涜神と洒落込まないかい」
祝福の場に喧嘩を売るつもりかよ。
だがそれも悪くないか。
俺と佐々木はひとまず手近にあった白ひげ爺さんの店に入ることにした。
後から思えば、この会話は一年少々未来の逆説的な暗示だったのかも知れん。
神を憎んでいたはずの佐々木自身が神様になってしまった。
神の横暴を憎んでいたからこそ、平穏な世界を求めようとするその意識は理解できる。
だが、あいつは誰と結ばれたらいいんだろうな。
とりあえず俺としては、親友と言ってさほど差し支えないあいつを助けてやるとするか。
おわり