07/12/16 23:38:08 DXC4C4og
僕はその夜、ずっと上を向いて帰った。
見上げた星空に流れ星は見えなかったけど、こらえきれず溢れた涙を隠すのには役にたったかもしれない。
いくら暗くても、流石にバレていたとは思うけど、キョンは何も言わず、一緒に星空を見上げながら帰ってくれた。
大声を上げて泣いて、キョンの胸に飛び込むことも、あの時なら出来たかもしれない。
でも、それは僕らしくないように思えたし、
「お前なら大丈夫。何があったって乗り越えられるって」と言ってくれたキョンの信頼への、
正しい答えではないような気がしたから。
僕達はとてもちっぽけで。
勉強が多少できようとできまいと、まだほんの小さな子供でしかない。
恋愛小説のように、本当に好きなもののために一直線になどなれないし、
そのために他の全てを捨てることなんてできない。
周囲が希望するものを全て足蹴にして、自分の心の赴くまま進むことなんてできない。
僕らは、地球の中心にいるわけではないのだから。
でも、そんなちっぽけな僕だからこそ、
キョン、君の小さな手のひらでも、僕の心全てをすっぽり覆うこともできるんだろうね。
君自身が気づいているかどうはさておき。
流れ星は見えなくても、空の星は強い輝きをはなっていて。
たとえ離れてしまっていても、またいつか、同じ星空を見上げることができると、
保障してくれているように思えた。まあ、全く非合理的なことではあるのだけれど。
そう。これは永遠の別れでもないし、僕らは地の果てと果てに離別するわけでもない。
たかだか、通う学校がちょっと違うだけじゃないか。
ちょっとばかり距離が離れたって、また同じ星を同じ時に見上げることができるんだ。
また、こうして星空を見上げよう。それまでに君に披露する知識をたくさん仕入れておくから、
また私を導いてね、キョン。
この季節になると、いつも思い出すことがある。
期末試験の勉強が一段落したところで、カーテンを空け、窓越しに夜空を眺める。
窓は白く曇り、外は随分と寒そうだ。
携帯の短縮番号1番を押して、空を見上げながら電話をかける。
「よぉ佐々木、どうした」
野外にいるらしいキョンの声。
「いや大した用事はないのだけれどね。SOS団で流星観察に行くと言っていたから、
調子はどうだろうと思ってね。くっくっ」
「いや今年はダメだ。全然見えねえや。もうともかく寒くてたまらんよ。とっとと帰りたい」
「くっくっ。罰が当たったのかね」
「罰って何だよ。へっくしょい!」
「気にしないでくれたまえ。試験前なのでほどほどにしたまえよ。体調を崩しては試験にさわるよ」
「ハルヒのヤツに言ってくれ。俺は今すぐ帰りたいよ。うう」
「くっくっ。もし帰りに寄り道する気力があるのなら、我が家秘伝の生姜湯を用意してあげるよ。
そこらへんの自動販売機の缶コーヒーよりは温まると思うよ」
「そ、そいつは有難い。でもいいのか、こんな遅くにお邪魔すると親御さんがいい顔せんぞ」
「何を今更。近くまで来たら電話をくれたまえ。お湯を沸かして待っているよ。くっくっ」
涼宮さんの機嫌が悪くならないうちに電話を切る。
さて、生姜湯の材料はどこにしまったものやら。母に聞けばすぐわかるのだけれど、
両親ともたまたま外出ときている。
「まぁ、だからと言って間違いが期待できる相手ではないけどね、君は」
カーテンを閉じて、教科書をしまう。さて、お湯を沸かしに行くとしよう。
見上げた空に流れ星はなくても、たとえ君の隣で同じように星空を見上げる人達がいても。
僕は諦めず上を向き続けるとしよう。
君も同じ夜空を見上げていることを信じて。
おしまい