07/12/11 22:48:12 IDt/LhFF
あくまで確認だけだ。
佐々木にそう言われた時に中学の頃の自分の役割を思い出したのは誰が責められようか?
あの頃は受験生で佐々木に色々と教わる事が多かった俺は、佐々木の口調や状況であいつが何を望んでいるかを考え、望み通りの答えをしてやる事にある意味で充実感を感じていたのだ。
大きく分けて4つのパターンに分けられる。
・君は憶えてくれたかい?(勉強モード)
・君の考えならばどうだい?(プロファイルモード)
・君はどう思う?(予定調和モード)
・君だったらどうする?(雑談おちゃらけモード)
まぁ、こんな感じだろう。
突拍子もない事を言って瞳に喜色を浮かべている佐々木を見た俺は、これはおちゃらけな質問だなと思い、それに即した答えを導き出そうとしたのは、俺としては極めて自然な考えだった。
いま俺達がいるのは純喫茶(純じゃない喫茶って何だ?)の中で、机の向こうの目の前にいる佐々木は挑発的とも思える瞳で俺を見てる。
手近にあるおしぼりで手を拭いつつ、俺はひとつのいたずらを考え付いた。
――なぁ、佐々木。瞳を閉じて決して開けてくれるな。
「ああ、いいよ。キョン。目を閉じればいいんだね」
おしぼりはまだ温かかった。
俺は左手でおしぼりを掲げて、右手を前に出して人差し指を鍵のようにして佐々木に突き出した。
「君は僕に何をさせようというのかね?君の口から是非とも詳細に説明をして貰いたい」
そうなる筈だった。
佐々木は確かに反応した。
おしぼりが発する熱赤外線を感じ取り体を動かした。
佐々木は両手を机に置いて音も出さずに体を乗り出すと、ごく自然な動作で俺の付きだした右手の人差し指に唇を重ねた。
驚いた様子で睫毛を上げた佐々木だったがすぐにさがって、いつもの微笑むような表情に変わった。
やがて頬が見る間に赤く染まり、緊張感が無くなり幸せそうな表情のまま俺の人差し指に唇を重ねていたのだった。
きっと普通に付き合っている男女でも、こんな時の女の表情の変化を見る事は決してないだろう。
1秒が10秒に感じ、10秒が100秒に感じ、俺にとって何も考えられない無限のような時間が流れた。
やがて佐々木の頬を一筋の涙が流れた時、自分がとった行動の意味とその罪深さを思い知る事になった。
「佐々木!」
おれは両手で佐々木の顔を包み、やっとあいつは瞳を開いた。
「・・・・キョン。ありがとう」
俺は返す言葉もなかった。
気まずい時間がしばし流れ、耐えきれなくなった俺は佐々木の手を引いて喫茶店を出て家まで送っていった。
佐々木は何も言わず、俺の袖を摘んでついて来た。
近所の公園まで来て佐々木は立ち止まり、今日は有り難うとつぶやいた。
佐々木は大きく手を振って家まで掛けていった。
あいつが帰った後、俺は右手の人差し指を見詰めた。
不意に人差し指にキスをした。
甘酸っぱい味がした。
今夜は眠れそうにないな。