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佐々木さんの、子猫の目の日々4
Der Mechanismus der Catzen.Auf welche Weise funktionieren Die?
というかマタタビ、マタタビ、マタタビの巻
今、ひと時の安らぎを求めて、帰宅路をのんびり歩いている俺は、SOS団所属のごく一般的な男子高校生。
強いていつもと違うところをあげるとすれば、 ポケットにマタタビが入っていることか……。
古泉が薦めてくれた、最初の1Pだけ読んだ漫画のマネはおいておくとして。
実際問題、俺のポケットには粉末のマタタビが入っている。ペットショップで数百円で手に入るものだ。
何のために買ったかといえば、
勿論こいつのためだ。
「やあキョン、おかえり。随分と寒くニャってきたね。風邪が流行っているようだから、
外から帰ったらまずうがいと手洗いをしたまえ」
俺の部屋で、炬燵に入ってくつろぐ猫耳の佐々木、本人の希望するところの呼び方ではシャシャキ。
今日はことのほかご機嫌らしく、炬燵から覗くしっぽがリズミカルに踊っている。
なんか日に日に我が部屋でくつろぐ頻度が高くなってないかシャ……佐々木よ。
しかも問題解決のための努力を最近放棄してないか。
「さあ、半分は猫ニャので、そうそう複雑なことを求められても困るのだよ。くっくっ。
まあ君に実害はかけていないと思うのだが、どうだろう」
いつもの笑顔で平然と返すシャシャキである。ああまただくそ。こっちも不本意ながら、
こいつが居座る我が部屋という状況に急速に慣れてしまいつつある。
自分の環境対応性がこういう時は恨めしい。SOS団で無駄に慣れてしまったからなあ、非常識な事態には。
しかし何時までもこのままではよろしくない。
健全な男子高校生には家人にすら伏せられるべきプライバシーな衝動が……いやそうじゃなくて。
ハルヒと顔を会わせても、何故か隠し事をしている気分になるし、気のせいか長門の視線が痛くて仕方ない時があるし。
そんなわけで買ってきたのがこのマタタビである。
誤解されることうけあいなので先に言っておくが、猫にとってまたたびは、沈静作用もあるのだ。
これで、シャシャキ化しているシャミを眠らせて、時間切れリングアウト勝ちを繰り返し、
佐々木に自分の体に戻っていただくよう遠まわしに実力行使するという、涙ぐましい作戦なのである。
確かにこの絵面は、コンパにコークスクリューをそ知らぬ顔で出し、さらに目薬まで入れるスーパーに自由な連中と
酷似していることは我ながら認めざるを得ない。だが、これはあくまで自衛手段であって、
そこに邪な感情は寸毫もない。眠った後のシャシャキをどうこうしようとかそういう考えはないんだ。ないんだったら。
「どうしたのだねキョン、入り口でずっと立っていられると冷えるだけだよ。早く炬燵に入りたまえよ」
無邪気に微笑むシャ……佐々木の顔に良心が僅かに疼くが、これもこいつ本人のためなのだ。
そう必死に自分に言い聞かせていると、佐々木が僅かに鼻をうごめかした。
「キョン。帰りに寄り道して買い食いでもしたのかな? 何か甘いような臭いがするのだけど」
「そ、そうか? 気のせいじゃないか」
鋭い。感覚器はシャミ並みか。
早速使ってしまおうかと思っていたのだが、これは隙を見つけるまで待つしかあるまい。
「そうかい。残念だニャ。最近特売チラシで、ペット用品大安売りが出ていたものだから、
劣情を持て余したキョンが、思い余ってマタタビを大量に買い込んで、僕を前後不覚に酔わせた上で、
思いのたけをありったけ肉体的にぶつけるというシチュエーションを想定していたのだが、
それも無駄となったか。
僕としても将来的にはそうした過激な方向もマンネリ化を防ぐためにアリだと思うが、
最初くらいは意識のはっきりした状態での方が望ましいと思うので、まあ仕方なしとするかニャ」
…………。
どこの三毛猫ホームズなんだ佐々木。動機と方向性は真逆だが、途中経過だけは全く推理の通りだよ。
この作戦もまた作戦だおれか。仕方あるまい。
ズボンのポケットに入れたマタタビは、後で捨てておこう。まあいい、どうせ数百円の出費だ。
ハルヒ達のコーヒーを一杯余計に頼んだと思えばいいさ。