07/12/10 00:55:37 fYTdFVPc
「……それだけなのか?」
"彼"の声だけが聞こえる。
わたしはいつの間にかうつむいていた。"彼"の顔が見えない。
彼女の伝言は、最後の一言が残っている。それを、告げなければ。
……でも、それは彼女の言葉。
わたしの言葉では、ない。
そうであっては、ならない。
「……長門?」
わたしは機械的な動作で"彼"に向き直り、その顔を見つめた。
ありがとう。
まるで機械のようだったわたしが、こんな気持ちを抱くようにしてくれた。
あなたたちとの係わり合いの中で、わたしはここまで来ることができた。
いえ。
やはりそれは、あなたのおかげなのかもしれない。
自然とその言葉が口から出るのは、でも止められなかった。
「あなたのことが、好きです」
とても鈍感で、わたしがどんな気持ちでいるのかわからない、あなた。
でも、だからなのだろうとわたしは思う。
人ではないわたしに、何の偏見も持たず、接し続けてくれた人。
彼女のこの気持ちに、"彼"はどう応えるだろうか。
涼宮ハルヒがこのことを知ったらどうなるのか、予測は少しだけど、今はできる。
思考領域に明るく響く笑い声を感じていた。それはけっして外部に発現することのない、
わたしの忍び笑いの声。
でも、とわたしは思う。
人の気持ちに真摯に向き合うこと。それがどんな結末であれ、それは人にしかできないこと。
だから"彼"がどんな選択を行い、自分に好意を寄せる人に対するのか、それを見届けようと思う。
さあ、どうするのだろう。
わたしが、好きだった人。
"彼"は困惑の表情をたたえたまま、わたしの顔をじっと見続けていた。
なんて言うつもりだろう。
閉鎖空間事件の時のように、"どうすりゃいい?"だろうか。
でも、とわたしは思う。
今回、あなたに対して助け舟を出すつもりは、まったくないの。
わたしは彼の困り果てた表情を前にして、もう一度―心の中で微笑んだ。
―おわり―