07/12/09 19:53:55 Ox6aCmz7
>597
「長門」
「なに」
いつものように答えてくる長門だが、その微妙な口調の変化は俺の長門観察能力を騙しきれるものではないのだ。
「情報なんちゃら操作、しなかったか?」
俺は単勝5000円の馬券とテレビ画面を交互に見比べながら長門に問いただした。
ここはJ○Aの場外馬券売り場近くの喫茶店であり、今俺が手にしているのは12月8日の中山競馬場第二レースの
単勝馬券だったりするわけだ。
いや、もちろん学生生徒が馬券を買うのは法律で禁止されている。しかしこれは、朝比奈さんがらみの
なんでもいいから馬券を10000円分買って地域経済にバタフライ効果を起こすこと、とかいうクエストを達成しているだけの話だ。
どんな馬券を買おうとOK、という話だったのでこうして俺がおっさんジャンパーとGYマークのついたこ汚い野球帽をかぶって
いかにも社会から足を踏み外しつつある若者を装いながら場外馬券売り場までやってきたのである。
まったく同じ格好をした長門がついてきたことだけは予想外だったがな。
競馬新聞を眺めてみてもちんぷんかんぷんだったので適当に第一レースに5000円つぎ込んでみた。
あたりまえのように全部外れた。まあ、それはいい。べつに勝つ必要も無いんだしな。
で、次の第二レースにたまたま「ユキチャン」という白い馬がいたので残りの全額で買ってみただけのことだ。
パドックのTV中継で見た、その真っ白い毛並みの中の真っ黒な目がなんだか長門を想像させたから、というのも理由かもしれない。
そんなわけで俺は長門を問い詰めている。
「本当か?」
「あなたに嘘はつかない」
そう言う長門の瞳がかすかに、ほんの数ミクロンほど揺れた。
「そうだよな」
その微妙な変化は、信用されていないことに対する悲しみのようにも見えた。っていうか、きっとそうだ。
「ごめんな。疑ったりして」
俺はCのマークの入った真っ赤な野球帽ごしに長門の頭を撫でてやった。
「……」
長門は何も答えないが、その瞳はほんのごくわずかだけ嬉しいのかもしれないような色を含んでいる。
「よし、じゃあもう朝比奈さんの未来クエストは終了したから帰るか」
「……」
だまって頷く長門。
「よし、じゃあこれを換金…って、15倍?えーと、5000円の15倍って……な、七万五千円?
な、長門、この金どうしよう?」
「・・・朝比奈みくるの受けた指令はこの時代の馬券を一万円分買うこと。その配当や収支に関しては
まったくなんの指定もない。あなたはそのお金を受け取るべき」
「いや、でもこんな大金ダメだろ。・・・いや、ちょっとだけ欲しくはなくはないというか・・・でも、なんつーか
それはダメな気がする」
「朝比奈みくるはその金額を受け取らない。…こう考えてみるべき。
あなたは涼宮ハルヒとSOS団の創設に巻き込まれて以降、七万二千二十円の金額を罰金として
奢らされている。これはきわめて不当で理不尽な金銭の強要にあたる。しかしあなたはその金額を払う一方で
なんの見返りも受けていない。
今回の配当金をその穴埋めだと考えると、その被害に対する補償として正当化することができる」