08/03/02 02:12:33 IEiT6jai
夜は眠りの時間よ、とは真紅の言葉だが、ドールにも睡眠という概念があって本当に良かった。あんな喧しい人形どもが24時間営業で騒ぎ立てた日には、僕の精神が参ってしまう。
夕食を済ますと、今日も人形どもはそれぞれの鞄に引っ込んだ。唯一の例外は雛苺。蓋が開かずに半泣きで困惑している。
雛苺の鞄が開かないと知って、真紅と翠星石も少々戸惑っているようだ。
真紅がかいつまんで話した所によると、あの鞄はドールの汚損を防ぐための物であると同時に、ドールの心を調整するメンテナンスドックの役割を持っているので、他の場所で寝ることが続くと次第に心を失って普通の人形になってしまうのだという。
僕としては大喜びなのだが、今まで散々迷惑をかけてくれた雛苺にたいした復讐もできずに普通の人形になられては面白くない。なんとか手を考えるとしよう。
「お前の鞄は僕が何とかしてやるからさ、今日はここで寝ろよ。」
僕は部屋の隅の床を指差して雛苺に言った。開かない物は開かないんだから仕方ない、一晩ぐらいで大した影響はないさ、と説得して、硬いフローリングの床で寝させることにした。もちろん毛布なんてくれてやらないよ。
さて、僕の計画はここからが本番なんだ。
僕はひとまず夜中まで待ち、人形どもがぐっすり寝込んだ頃を見計らって起きだした。
部屋の隅で縮こまって寝ている雛苺を、起こさないようにそっとドアの前まで引きずる。そしてスリッパを履いた足で、思い切り雛苺の脇腹を蹴り上げた。
「お゛びぇえええ!!いだいの、おなかいだいのー!!」
雛苺がただでさえ醜い面を歪めて悶えている。あまりの騒ぎに真紅と翠星石が鞄から頭を突き出した。
「やかましいですぅ・・・。チビとチビチビが一体何をやってるですか。」
「トイレに起きたら、雛苺がこんなところまで転がってきてたんだ。寝相が悪いな、お前。」
「雛苺、大人しく寝ているのよ。今度騒いだら承知しないのだわ。」
雛苺はまだ痛みが残るのか、痙攣しながら泣きべそをかいている。部屋の隅に雛苺を戻すと、僕は部屋を出た。
一階で深夜通販を眺めること10分。そろそろ雛が寝静まった頃だろうと二階へ戻ると、案の定雛苺は良く眠っていた。さっきと同じようにドアの前まで引きずり、下腹を踏み潰す。
「ごべっ!!え゛げえっえっえええ!!」
「やれやれ、また転がってきたのか?雛苺が悪いんだぞ・・・。」
哀れな奴だ。
「いぐっ・・・ヒナ、わるくないもん・・・わるく、ぐっ、ないもん・・・」
「チビ苺、鞄が開かないのは可哀想ですが、だからって翠星石たちの安眠まで妨げるのは止めるです。仕舞にゃ外で寝かせるですよ?」
「うっ・・・ひどいの・・・ジュンもすいせーせきもひどいのー!!」
雛苺がぐずり始めたが、僕は無視してその首根っこを掴みあげると、床の隅に放り出した。
「大人しく寝るんだ。お前が変なところに転がって来さえしなければ、誰も踏んだり蹴ったりしないんだから。」
雛苺はまだ泣いている。久し振りに気持ちのいい夜が送れそうだ。明日の朝は雛苺を足元まで引っ張ってきて、ベッドから起きてきたフリをして両足で踏んづけてやろう。
そんなことを考えながら僕は眠りについたのだった。