07/11/14 02:11:23 lHzaNKNF
「ん……」
彼女の閉じられた口から、小さな声が漏れる。
唇を重ねる。こんな単純な行為でさえ、今の俺の不安を吹き飛ばすには十分な力だった。
そしてゆっくりと、彼女の顔が離れていく。それと共にねじっていた上半身が再び俺の腕へと委ねられ、普通のお姫様抱っこの形に戻る。
そんな愛しい者の顔を、俺は目を細め、ただただ見つめていた。
「稟さま」
ネリネの笑顔。
それは、過去の寂しさと悲しさが篭った、それでいて沈みを感じさせない笑顔。
もう一人の分の命も背負って生きていこうとの誓いを込めた笑顔。
「ネリネは、強いな」
「いいえ、稟さまが居るから、私達は笑っていられるんですよ」
そう言ったネリネの笑顔は、眩しいほどに輝いていて。
やはりネリネには、笑顔が一番似合う。
不安など、今は毛の末程の欠片さえ無い。
だから、俺は問える。
今度こそ、本当に。
「あの日、何が起こったのか─話して、くれないか?」
「─はい」
肯定の言葉を聴き、止めていた足を動かし、再び歩き始める。
ネリネも笑顔のまま、口を開く。
そして、俺に聞かせる言葉を、紡ぎ始めた─