08/05/03 01:19:04 v6FOPE8M
崖に向かって疾走。跳躍。
がごんっ、という鈍い音をたてて蹴り足の岩を蹴り砕きながら、そのまま逆方向へ跳躍。
その先には、反対側の崖がある。同じように岩壁を足場にして、さらにジャンプ。
それを繰り返し、崖から崖へジグザグに、まるで忍者映画のアクションのように、耕一は跳び昇っていく。
「あいつらかっ!」
崖の上まで跳び上がると、武装した男が十数人、呆然とした表情で耕一を見上げていた。
ぐぐぐ、と腕に力を込め、まっさかさまにそのど真ん中へと落下する。
着地と同時に、その鬼の腕を振るった。持っていた弓で受け止めた数人が折れた弓ごと吹き飛ばされ、ごろごろと転がった後に動かなくなる。
「抜刀! 散開ぃ!」
リーダーらしき重武装の男が指示を出すまでもなく、残った男達は剣や槍を構え、耕一に向ける。
しかし、そこには既に人の姿はなかった。
「遅い」
耕一を包囲しようと動いていた男達を、その端にいる者から順に張り倒していく。崖に落とすとちょっと死にそうな高さだったので、逆方向に。
数秒もすると、その場にいた全員が、気絶か、呻き声を上げながらうずくまるか、といった状態になっていた。
そのまま油断なく周囲に目を配っていると、
「相棒~、俺を使えよぉ~」
腰から、どこか情けない声が響いた。
「す、すまんデルフ。でも、お前を使ったら、峰打ちでもあいつら殺しちゃいそうだったからさ……」
「はぁ。ったく、甘いこったねえ相棒は」
呆れの言葉でありながら、その口調にはどこか弾むような響きが混じっていた。
「……もう終わっていたか。さすがだね、ミスタ」
「ワルドさん。大丈夫ですか?」
「ああ。こちらに怪我はないよ。ありがとう」
そうしていると崖からグリフォンが頭を出し、跨っていたワルドが硬い声を出した。
「こいつらは? 敵の襲撃でしょうか?」
「どうだろうね。ただの野盗であってほしいが……おい、起きろ」
耕一に拳を打ち込まれた腹を押さえて呻いていた男を蹴り上げるように起こすと、ワルドは尋問を始めた。
しばらくすると、男はばたりと倒れて気絶し、ワルドが苦い顔をして戻ってくる。
「……さて、ただの物盗りだ、とは言っているようだがね」
「本当に敵勢力の刺客だったとしたら、バカ正直に言うわけがないですね」
「そういう事だな。確実にメイジであろう密使への襲撃にメイジもいない刺客とは、いささか間抜けではあるが……このタイミングでの襲撃を偶然と捨て置くのは、ちと楽観が過ぎるだろうね」
シミュレーションゲームの聞きかじり知識だったが、まぁ正しいものであったらしい。ワルドは盗賊達を全員気絶させて縄に繋ぐと、緊張した面持ちでグリフォンに跨り直した。
「急ごう。あの賊どもはラ・ロシェールの官憲に任せる。ミスタも疲れただろう。今日は一晩宿を取り、明朝一番の船で出るとしよう」
「わかりました」
男二人が頷きあうのを、ルイズはやるかたなく見やっていた。
§