あの作品のキャラがルイズに召喚されました part122at ANICHARA
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part122 - 暇つぶし2ch750:ゼロのエルクゥ 6/6 ◆yxbMPy6fic
08/03/22 03:14:55 8ILSl5U3
「わかったよ。帰るのを諦めるつもりはないけど、手がかりが見つかるまでは君に従おう」
「……態度が気に入らないけど、まあいいわ。ゆっくり上下関係を思い知らせてあげるから」
「王様にそう言われて心から忠誠を誓えるなら、そうするといい。子曰く、天下は恐怖でなく仁徳にて治めるべし、ってね」
「……ふん。もうその手は喰わないんだから」

 物騒な事を口走るルイズに苦笑しながら、お手柔らかに、と握手を求めると、見事に無視されてしまった。
 代わりに、手の甲を差し出される。一瞬意味がわからなかったが、昔見た演劇を思い出して、もう1回嘆息。
 そして、膝をつき、せいぜい精一杯恭しく、その甲に口付けた。

「そうそう、あんた、君とかルイズちゃんとか呼ぶのやめてよね。ご主人様に向かって馴れ馴れしいわよ」
「ふむ。じゃあ……ミス・ヴァリエール?」
「……あんたに言われると、なんかムズムズするわね」
「ルイズ?」
「気安く呼ばないで」
「じゃあ、ルイズちゃんで」
「……うー。なんか納得いかないけど、それが一番マシな気がするわ」

 そんな会話をしている内に、他の生徒たちが次々と到着して、門をくぐっていく。

「はあ。私たちも教室に行くわよ。えっと……カシワギコーイチ?」
「耕一、でいいよ。柏木が苗字で、耕一が名前だ」
「そう。まあ……ありがと。あんたのおかげで授業に間に合ったわ。あのまま歩いてたら、きっと間に合わなかったもの」

 それだけ言うと、ぷいっと踵を返して、門に向かって歩き出してしまう。

 ルイズちゃんの方はこれで様子を見て、とりあえずコルベールさんと話してみるか……と、これから取るべき手段を考えつつ、耕一は少しだけ微笑ましい気分でルイズの後についていった。

751:ゼロのエルクゥ ◆yxbMPy6fic
08/03/22 03:15:25 8ILSl5U3
以上です。楽しんでいただければ幸い。
支援ありがとうございました。

752:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 03:18:02 igyqvRQk
乙~

753:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 03:18:52 jr4enrn+
乙。
頑固なルイズを見てると何故か安心してくるw

754:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 03:19:23 x8S/lQjU



755:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 03:21:25 7566qMyG
乙!

756:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 03:31:59 TeNqq3Sx
乙!

>「『今からお前とそいつを永遠に会えなくしてやる』」
>「『お前は今から見知らぬ土地でどこかの誰かに一生奉仕しろ。お前の一番好きなそいつは、お前に二度と会えない』」

改めて言葉に出されると本当にぞっとしない話よのぅ。
真っ向から本人に突きつけたのってコレが初めてな気がするぜ

757:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 03:37:17 KRjZlFpS
北朝鮮の拉致の様だ

『今からお前とそいつを永遠に会えなくしてやる』
『お前は今から見知らぬ土地で将軍様に一生奉仕しろ。お前の一番好きなそいつは、お前に二度と会えない』



758:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 03:42:08 gV9lXPbm
乙です
面白いSSは原作に興味を持ってしまうから困る

759:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 04:00:15 fOo2BnAZ
エルクゥの職人さん乙!耕一の例え話の切り出し方が上手いなぁと思ったら
それに対するルイズの強引な返しが実にルイズらしくて吹きますたw

760:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 04:00:34 jrQcNBIz
乙です。

さすが耕一、小さい娘の相手は慣れてるなあ
これから初音ちゃん相手みたく
ルイズへセクハラ三昧なのだろうか

761:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 04:32:05 qVR9XKjj
乙です!
う~ん 手慣れてるなぁw

762:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 04:56:24 PwP7objP
おつー>エルクゥのひと

 しかし、こうしてあらためて書かれてみると、
召喚者に無条件に服従する(=洗脳)って効果は
或る意味、被召喚者にとって救いなのかもしれんな。
まともな精神だったら、こんな悪夢みたいな状況にそうそう耐えられんぞ。
まあ、逆にいえば、だからこそ、そういう効果が付与されたのかもしれんが。
(力ある存在が一方的に呼び出されて戻れないとなったら、
 怒りの矛先は真っ先に召喚者に向かうだろうし)
「狂気こそが救い」とでもいうことなのかね。

 そう思うと、随分と綱渡りな儀式だよな。使い魔召喚って。
この効果なしだったら、危険すぎて昇級試験如きに使う儀式にはならんかっただろうし。
変な言い方だが、そういう意味では原作でも今回でもルイズって幸運なのかもな。

763:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 05:05:53 Z/TCz/M5
エルクゥ氏乙&GJっした。
耕介といいチキといいサララといい耕一といい温厚な人物が呼び出される話は見てて和むから好きだ。今後に期待してます。

764:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 05:26:48 h78jwcIe
エルクゥ氏乙&GJ

765:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 06:24:04 BxD1HToH
エルクゥ氏おつー
例えばルイズが、別の身分社会の、例えばゲルマニアの皇帝なんかに呼び出されて同じこと言われた場合従えるかは甚だ疑問ですね。

766:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 07:19:32 7kMWMtqn
>>719
最近今川義元が愚将であったというのは否定されてるぞ?桶狭間で酒宴なんてしてない。
織田信長が奇襲かけて勝ったのは確かだが。
後の創作で勝手にイメージを作られてしまった故の悲劇。

767:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 07:24:44 tg7YEcBL
みなさんおはようございました

ウルトラマンシリーズからウルトラマン達が超人化した原因である
人工太陽プラズマスパークを召還したら?



768:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 07:36:13 f/IDu2R0
>>767
間違いなくウルトラマンキングが取り返しにやってくるだろうな
あれがないと光の国は滅ぶ

というか、イーヴィルティガの群れが出現するようなものだぞ

769:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 07:46:00 FKQy/EUU
真の東海一の弓取りだからなー。
桶狭間の二万は明らかに多すぎってのが最近の通説らしいが

770:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:05:18 YGnNfiW4
>エルクゥの人

ついついエルルウの人と読みたく…
秘薬集めとか戦闘時の治療には役立ってくれそうだな

宝物庫にあるのは「破壊のキノコ」か「破壊のガチャピン」か…

771:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:16:36 tg7YEcBL
破壊のキノコ…?

赤い帽子と青いつなぎのMr.テレビゲームですか?

772:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:20:59 yWua7hph
>>770
つ【破壊のフォーク】

773:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:22:26 rFM2DAjv
>>707
戦争のために政略結婚を考えたり、国同士の関係とパワーバランスを考えたりする行動の
全てが「戦略」だよ。

774:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:24:22 sfoihce0
支援

775:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:25:10 skcO0bsW
でっかくなるキノコ食ったガチャピン(中の人付き)か。

七万も鎧袖一触、エルフも裸足で逃げ出すなwww

776:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:42:23 rs9rphcl
ツンデレが性格反転茸食べるとどうなるんだろう?

777:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:49:48 H2Rfq1MI
それはもうでれでれになるのですよ!

778:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:50:22 tg7YEcBL
ヤンデレになる

ごめん言ってみただけ

779:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 08:51:43 0e/UHK6V
普段デレ、二人きりでツン。
……ルイズが自分のサディスト振りを隠したい場合に発生しそうだ。無論デレはカモフラージュ。

780:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 09:20:07 psw2UjN9
人前では周囲も疎ましく思うほどのバカップルだが
二人きりになると途端に冷たくなる

世間でおしどり夫婦と言われてたけど実はアレだった芸能人夫妻とか
舞台を降りるとお互い一言も口をきかない漫才の名コンビみたいなもんか

781:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 09:31:59 rbXQwijj
性格反転キノコか・・・
タバサママにあげたら一時的に正気に戻ったりしてw



ガチャピンと聞くと最近見た某同人誌の傭兵なガチャピンを思い出してしまいました・・・orz

782:チキの人
08/03/22 09:35:36 NhqWJlK7
投下予約は入っていないでしょうか、それで無ければ第八話、投下します。

783:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 09:40:37 H2Rfq1MI
支援砲撃、開始!
弾種、キャンデー!
ッテーー!!

784:ゼロのルイズとマムクートプリンセス 第八話
08/03/22 09:43:24 NhqWJlK7
 ふと気がつくと、私の手を握りながらチキが眠っている。
 暑いくらいの陽射しで徐々に意識が覚醒して来る、それと同時に昨日の出来事を思いだして背中がぞっとした。
 タバサの顔に鼻水を……!
 いや、そっちじゃない。
 と、心の中で彼女に突っ込まれた気がして辺りを見回す。
 うん、普通の自分の部屋だ。筋肉の痛みもないし健康状態は良好。
 これならすぐに起き上がっても大丈夫そうと思うけど……。
 チキの寝顔可愛い、可愛すぎる。
 ルイズのお姉ちゃんとしてあるまじき、私が先に寝て早く起きる生活をしてたから、寝顔を見るのは初めてだ。
 運んできてくれたのはタバサかキュルケか。
 どっちでも良いんだけど、チキにうまい事話してくれたかなあ?
 デルフをいっぱい振ってたら、筋肉痛になって動けなくなった。
 それだけならまだしも、キュルケの謀略によってゴーレムの近くに飛ばされ、肝を冷やす事態に陥ったなんて。
 あんな頭悪そうな姿、チキに見られてたら……だめ、だめよ。
 きちんと誤魔化さなくちゃね、
「ん……ぅ、んー?」
 と、考えている所に身動ぎをするチキ。
 このまま起きるかな? 背筋が無駄に緊張した所で、
「んぁ、あ、おねー……ルイズのおねえちゃんだ」
 まだ寝ぼけてると見える。
 しばらく右を見て左を見て、そして繋がれた手を見て。 
 チキはがばっといった勢いで私に抱きついてきた。
「ルイズのおねえちゃん! よかったよぉ!」
「え?」
「周りの人が皆寝ているのに、ルイズのおねえちゃんは泥棒に立ち向かって。動けなくなるまで戦ったんだってね!」
 違う違う。その泥棒に立ち向かう前に、筋肉痛で動けなかった。
 と、口の寸前まで、“ち”まで出た所でごまかそうとしたのを思い出す。
「……あー、誰から聞いたの、それ」
 キュルケか、はたまたタバサか。
 しかし、私が聞いてみると途端にチキは困ったような表情を浮かべる。
 何か、真実は知ってるんだけど、言ったらお姉ちゃん傷ついちゃうね!
 そんな声が聞こえる。被害妄想かな?
「シ……シ……シルエスタ」
「シルエスタ?」
 確かにトリステインの城下町で、そういった名前の舞台俳優のポスターを見た気がするけど。
 私が首を傾げていると、チキは大げさに手を顔の前で振った。
「シ、シエスタだよ、シエスタ」
 ああ、あの変わった使用人の。
 前まで学院に務めている使用人と変わらないと思ってたけど、なかなかに度胸があるし腕っ節も強いし。
 何よりチキを怖がらない、それだけで好感が持てる。
 しかし、ゴーレムが現れたのに逃げずに私の姿を確認するなんて。
 すぐに逃げたキュルケとは大違いね、まったく。
「でも、昨日の朝にシエスタはこの学院を辞めちゃったんだ」
「昨日の朝?」
 あれ? 昨日の夜にゴーレムに殺されかけたんだから。
 いやいや、この体調の戻り具合と今の発言から察するに。
 もしかして一日中眠りこけていたとか! 筋肉痛で?
「そうなの……ま、シエスタなら他の所でもやっていけるでしょう」
 仮に彼女が事実を知ってるとして、鉢合わせをした時に憐憫の表情でも浮かべられたら……いけない、筋肉痛で倒れたなんて事がチキにバレる。
 シエスタには悪いけど、このままフェードアウトしてもらわなくちゃ。
「うん、ところでルイズのおねえちゃん、デルフはどうしたの?」

785:ゼロのルイズとマムクートプリンセス 第八話
08/03/22 09:44:08 NhqWJlK7
「デルフ?」
 どうも静かだと思ったら部屋の何処にもデルフの姿が無い。
 そういえばあいつも事実を知ってるのよね。
「えと、デルフ……は」
 考えるんだルイズ。
 どうにかしてシエスタを亡き者にしたみたいに。
 そうだ。
「うぅ!?」
「お、おねえちゃん、どうしたの」
「デルフはね、私がゴーレムに立ち向かった際に、うぅ、折れて! 最期に剣としての仕事が良かったぜお嬢って! おのれゴーレムめ!」 
 泣いたフリをしながらデルフの死を悼む。
 あいつは良い奴だった、もし目の前に現れたらへし折ってくれる。
 しかし悲しきかなチキの目は、どうしてそんな嘘をつくんだろう、私はすべて知ってるのに、ごまかしたほうが良いのかな? 
 いけない、さっきから被害妄想が過ぎる、チキに嘘をついているからか?
「そっかぁ、だからタバサのお部屋にあったんだね」
「タバサの?」
 確か、タバサにぶん殴られて永遠の借しだって。
 てことは、ここに運んで来てくれたのはタバサなのか、また一つ借しが。
 膝と手をついて四つん這いになって、私は一生タバサの犬ですって宣言したい。
「でも、タバサはすごいね、折れたデルフを直しちゃうんだね」
「はは、すごいね……」
 あー、こりゃ青い髪の彼女に頭が上がらないわ。
 とてもとても顔を拝見できない、もういっそ忘れたいくらい。
 そしてチキの無邪気な驚きが心に痛いなあ、あと一日くらい休めないかな。
「そういえば、チキ、声は聞こえなかった?」
 デルフの最期の……もとい、魔法によって私の声が学院中に響いた夜。
 当然チキにもその声が聞こえてるはず、あの声はなぁに? なんて聞かれてしまえば自分にマイナスになるのは確実。
「うん、聞こえたよ。でもアレは、学院の皆に危険を知らせるためにしたって」
 わー、誰がそんな都合よく解釈してくれたんだろう。シエスタ?
 やっぱりあの子には消えてもらうしか、少なくとも目に見える範囲で。
 しかし、もう今の話の範囲でゴーレムに立ち向かったけど、デルフをへし折られて自身は動けなくなり、挙句の果てに助けを求めたって考えられない?
 妙にチキが私の言葉を好意的に解釈しているような……気がする。
「まあ、いいや」
 変に口を開いてボロを出すよりも、チキの素直な心に感謝しよう。

786:ゼロのルイズとマムクートプリンセス 第八話
08/03/22 09:45:54 NhqWJlK7
 虚無の曜日ではないので、当然のように授業はある。
 休んだ方がいいんじゃないかな、とチキは言ってくれたけど。
 あいにく体調はすこぶる良かったので、気が引けた。
 どうにも暑いと思ったら、私が目を覚ましたのは昼過ぎだったらしい。
 食堂で食事を採った後、チキを連れて教室に入る。
 まだ大多数の生徒は警戒感を持っていているのが癪だけど、口にするのは憚られた。
 チキも自分が原因で喧嘩なんてされたくないだろうしね。
 ただ、キュルケとタバサの姿が無い、どうしたんだろう? 
 疑問に思うけど、ボロは出したくないのでそのまま一緒に席に着いた。
「はい、皆さんごきげんよう」
 ミセス・シュヴルーズの授業が始まる、ただ若干元気がないな。
 なんとなく声に張りが無いし、やつれてる気がする。
「今日の授業は土……いえ、風に関する授業を」
 風? それはミスタ・ギトーの分担じゃなくて? 
 あの、なんか陰気で風に自信持ってる先生よりはマシか。
 と、思い直して授業に臨む。
 ただ、多くの生徒より私のパートナーのほうが真面目に取り組んでるって。
 魔法学院の生徒としてそんな態度で良いの? 
 クラスメート達を見ながらそう思う、私のチキはこんなにノートも取って、しかも可愛らしいのよ?
 ぽっかりと周りが開いた席で、私はそんな事を考えていた。
「そういえば今日はフリッグの舞踏会ですね」
 授業も少し退屈になっていた頃、ミセス・シュヴルーズが雑談の種を蒔いた。
 ここの所の騒ぎで忘れていたけど、そんな行事もあったっけ……。
 特に興味も無いなあ、チキがドレスを着て私と一緒に踊ってくれるんなら参加しなくもないんだけど。
「一昨日の晩盗まれた破壊の杖も無事に戻り、開催できてよかったですね」
 そうなんだ、戻って来たんだ……。
 私が眠りこけてる間に誰かが取り戻してくれたのかな。
 もしかしたら今いないキュルケとタバサだったりして、それで二人は授業をサボることを許されたとか。
 うーん、無茶だけど納得はできる理由かも、キュルケがいないのはいつものことだけど。
「やはり今日の舞踏会の主役は、ミス・ツェルプストーと、ミス・タバサですね。爵位を与えられるほどの活躍をした……」
 しかし、ミセス・シュルヴーズはさっきから自慢してばっかりだなあ。
 よほど怪盗が捕まったことが嬉しかったのか、教えている生徒が活躍したのが良かったのか。
 ただ、キュルケたちが自慢してるんなら喜んで聞くんだけども。
 ああでも二人であのゴーレムを打ち破ったのか、私とは大違いだ。
 チキも私じゃなくって、あの二人の内どっちかが主人だったら肩身の狭い思いもせずに済んだのかな?

787:ゼロのルイズとマムクートプリンセス 第八話
08/03/22 09:46:26 NhqWJlK7
 いかんいかん、思考がマイナスの方に向かってる。
「ねえ、チキ」
「うーん?」
 雑談に花が咲いてしまっているので、すっかり手持ち無沙汰になってたチキに声をかける。
「もっと魔法が使えるお姉ちゃんの方が格好良かった?」
「ううん」
 意外にも即答だった。
 あまりに早い答えに思わず、チキは優しいからそう答えるに決まってる。
 何を聞いているのだ私はと反省してしまうほどに。
「私は、ルイズのおねえちゃんの使い魔で、良かったと思うよ」
「そう……」
 たぶん、紛れも無い本音だと思う。
 そうなんだけど、違う。このままじゃダメ。
 チキは使い魔だと言った。
 でも、私はチキをパートナーだと思ってる。使い魔じゃない。
 私はチキを使役したりなんかしない。
 先の事は分からないけど、一緒にいたい。
 そう、私とちいねえさまのような関係になりたいのだ。
 ちいねえさまは身体は弱いけど、トライアングルクラスの魔法が使える。
 お父様やお母さま、エレオノール姉様だけじゃなく、動物にも慕われて、温和で綺麗でスタイルも良くて。
 私なんてちんちくりんで、魔法も使えなくて、口も悪いし。
「だめ、ダメよチキ……」
「る、ルイズのおねえちゃん、授業中だよ」
「いけないわ! やっぱりね! お姉ちゃんはスクウェアメイジになるまで旅に出るわ!」

788:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 09:48:13 COR0ehql
支援!

789:チキの人
08/03/22 09:48:18 NhqWJlK7
投下終了です。
シエスタorz ですが。たぶん、ま、まだ出る機会は……

790:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 10:12:09 7eewP+oD
コイツは嫌な展開だ・・・

791:549
08/03/22 10:14:29 C+ge85FZ
>>667
ですよねー。構想はあったので残念。

792:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 10:29:44 H2Rfq1MI
チキの人、投下乙でした。
見せ場をまるっきりカットした英断に拍手(w
これでほのぼの路線(?)続けられますね。

793:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 10:35:07 /8y21Y+b
>>789GJ!
シエスタはモット伯かね?仮にそうだとしてもほのぼの路線で何とかなる
と信じつつ次回を待ってますー。

794:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 10:50:32 BOFHLgyK
だがほのぼのレイプ

795:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 11:27:38 qVR9XKjj
チキの方乙です
シエスタがwwでもキュルケが暗躍して戻ってくるんだろうなぁ~チキへのポイント稼ぎ&ルイズへの嫌がらせで

796:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 13:36:26 3YUycUq7
ゼロの世界って黒人ていないのかな?

797:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 13:38:48 fOo2BnAZ
ハルケギニアの南方にいるんじゃないかな?
ゲルマニアも色黒な人がいるし、そっち方面からの混血だったりするのかもしれん。

798:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 13:40:56 fkQUe3nE
女神転生ifから教師オオツキを召喚

フーケに負けて自分を改造
ワルドに負けて自分を改造
タルブ戦で負けて自分を改造

そして七万人戦
そこには既に元の姿がわからない程に魔改造が施された改造教師オオツキの姿が!

「お前達が、この街道を通ってもいい科学的根拠はないのだ!」

でもたぶんやっぱり負ける。

799:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 14:11:56 fZdww9qh
虚無魔法がプラズマで説明できると申すか

800:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 14:40:21 oRiIP0CF
誰もいないようなので、小ネタをば投下させていただきます

801:無敵で不死身の使い魔
08/03/22 14:42:21 oRiIP0CF
 せまる七万の大軍勢を目前にしながら、ルイズは考えていた。
 どんなピンチにもいかなる強大な敵にも打ち勝つ、絶対無敵の英雄。
 それはおとぎ話や空想の世界には実にありがちな存在だ。
 男の子はそんな存在に憧れて英雄ごっこをし、女の子はそんな英雄に助けられるヒロインになれたらと夢想する。
 しかし、そう長くはない時間の中で、子供はそれがあくまで空想の中の存在であることを知る。
 英雄と呼ばれている人間も、その実は傷つけば血を流し、命を落とせばそのまま土に還る、そんな当たり前の人間でしかないことに気づく。
 それでも、そんな英雄の伝説や神話が語り継がれるのは、はかない現世でのせめてもの慰みなのかもしれない。
 (そんな風に思っていた時期が、私にもありました)
 ルイズはため息をつく。
 こんなことがあればいいな、こんな英雄がいてくれたら。
 人は誰でもそんなことを思う時がある。
 でも? もしも、そんな空想だけの存在が、実在するとすれば、人ははたして素直に喜べるのだろうか?
 やったあ、ラッキー!! で、すむものだろうか?
 否。断じて否である、と今のルイズは断言できる。
 不気味な怪物のようにせまってくる敵軍を見ながら、ルイズは初めてあいつに出会った時のこと、サモン・サーヴァントの儀式を思い出す。
 最初は絶望した。
 何故なら、そいつはどう見ても死体だったからだ。
 何らかの処置がされているのか、ボロボロに腐っているということはなかったが、顔はもはや生前の様子すらわからない骸骨となっていた。
 その格好や全身に施されている黄金の装飾からして、どうも生前はメイジのように思われた。
 もしかすると王族かもしれぬ。
 だが、死体ではどうしようもない。
 それでも、規則は規則ということで、ルイズは泣く泣く死体に契約のキスをした。
 胸に使い魔にルーンが刻まれると同時に、死体だと思っていたそれはむくりと起き上がった。
 「お化け?」
 「幽霊?」
 そんな声がこだましたのをおぼえている。
 驚く中、そいつはマントをなびかせ、高笑いと共に空高く飛び去っていき、そのままどこかへ消えてしまった。
 あのおかしな骸骨を使い魔にしなくてラッキーだったのか、使い魔に逃げられたのを悲しむべきか、正直微妙だった。
 多分二度と会うことはない、と思っていたのだが、そいつは思わぬ時に戻ってきた。
 土くれのフーケが、学院を襲った時である。
 使い魔召喚にすら失敗した今、ここで名誉を挽回するしかないとルイズは無謀にも巨大なゴーレムに向かっていった。
 あわやつぶされそうなになった時、あの使い魔が高笑いと共にやってきたのだ。
 使い魔は縦横無尽にそれを飛び回り、その銀色の杖でゴーレムを破壊した上、フーケを捕らえた。
 フーケの正体ことミス・ロングビルはよほどショックだったのか、すっかりダメな人になっていたそうだ。
 その代わり、寛大な措置とかで、死刑は免れたらしい。
 その後も、アルビオン、タルブの村、とルイズがピンチになった時には、使い魔はどこからともなく飛んできて、悪を蹴散らしていった。
 まさにおとぎ話の英雄が実在化したようだ。
 顔が骸骨というのはどうにもいただけないが。
 そこでルイズは思考を迫る軍勢に戻した。
 ここまでは、確実にやられるどころか、勝負にすらなるまい。
 しかし。
 「いつものやつね」
 いつの間にか自分の周辺を飛び回っている金色に輝くコウモリに、ルイズはため息をつく。
 あの使い魔の現れる前兆。
 そして、当然のように使い魔は高笑いと共にやってきた。
 銀の杖を手に、黒いマントをなびかせて。
 そして、やっぱり当然のように敵軍に向かっていくが、ルイズは心配などしない。
 あいつはフーケのゴーレムに踏み潰されようが、ワルドの魔法を食らおうが、戦艦の砲撃が直撃しようが、何事もなく復活し、恐怖する敵をなぎ倒したのだから。
 今も、敵兵たちは阿鼻叫喚の騒ぎになっている。
 何をやっても通じず、疲れさえ欠片も見せない使い魔に、それはもうボコボコにされていくのが遠目にもよく見える。
 あ、大砲の弾を受けて墜落した。
 一瞬敵は沸いたようだが、歓声はすぐにそれ以上の悲鳴となる。
 使い魔は何事もなかったように復活し、また敵に向かっていたのだから。
 もはやルイズにさえトラウマになりつつある、おなじみの台詞を叫んで。

 「黄金バットは無敵だ!!」

802:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 14:47:29 qVR9XKjj
支援です

803:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 14:54:15 4T/ySJV5
ググッてみたら漫画版の画像を見つけた
なるほどこれはトラウマになるのも当然w

804:無敵で不死身の使い魔
08/03/22 15:00:10 oRiIP0CF
 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。
 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。
 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 そして最後にもう一人……。

 それは記すことさえはばかれる神の心臓。何者にも敗れぬ神の杖。不死の体と無敵の力、いかなる時にもいかなる場所にも、我を救いに現れる。



 以上で投下終了です
 この分は若干おまけ的でありますが……
 支援してくださったかた、感謝です


805:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 15:05:05 fOo2BnAZ
>>801
超元祖無敵のヒーローキタコレw

806:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 15:08:40 qc1v4UIY
蝙蝠だけが知っているッ

807:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 15:15:03 NJlkGKwL
ルイズ「コウモリさん コウモリさん」

808:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 15:22:01 +2nLuuyr
歌詞を見た限りマッハで空とぶのな金色のアレが

809:黄金バット!
08/03/22 15:27:26 1DFaxRuG
なんと懐かしいものを!おっさんホイホイもええとこやんけ!(私が住んでいた辺境地域
では、小学生時代に何度も再放送していた)

わが幼少時の懐かしきヒーローを思い起こさせてくださったことに感謝しつつ、小ネタに
終わらせず、是非とも長編をお願いいたします!!>ID:oRiIP0CFさま

810:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 15:47:02 tQFftqv/
次は月光仮面か力道山を(無理)。

811:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 15:50:23 fOo2BnAZ
少女椿のワンダー正光とかw

812:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 15:53:18 aXwfGjuv
小ネタ乙、再放送見たことあるな。

813:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 16:04:01 rs9rphcl
で、その黄金バットのオマージュがワッハマン

814:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 16:05:06 9g7uKlN/
のらくろとかどうだ?猛犬連隊を武装含め丸ごと召喚。

815:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 16:11:05 x8S/lQjU
だから動物呼ぶのは普通だって。
人間呼び出すのがあの世界の常識からして異常なんだって。

犬呼び出してもルイズも喜びそうなんだが。
二足歩行したり人の言葉しゃべったりするぐらいなら、
驚いたとしても優れた使い魔だとして自慢できるぐらいじゃない。

816:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 16:14:54 rs9rphcl
さすがに紙芝居で見てたっていう人はいないか

817:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 16:16:42 3QS8szip
ここにおるぞ
昭和末期だと普通に紙芝居も巡業してたし

818:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 16:32:24 s9eRlyAP
>>817
最後の紙芝居師というドキュメンタリーを思い出した。
咽頭癌の手術で声が出なくなる前に録音した自分の声で紙芝居巡業してる人の話

819:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 16:47:32 y9BBWdFz
仮面をつけた三人の部下を持ち、更に「ブキ96」なる乗り物に乗った使い魔の影響で
「そんなことでくじけるような 風呂の入り方はしてません!」
とか言っちゃうルイズ…

820:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 16:49:45 pB41Xidr
獣耳ついてたりしたら亜人として喜ばれるのかな?
単なる変態と思われることはない?

821:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:02:24 fOo2BnAZ
紙芝居がありなら、児童文学からの参加もありかな?
犬が好きなルイズの為にねじめ正一のピーコポンチャンからピーコ(ポンチャン)を召喚したりとかね。
あの侘しい結末の後にハルケギニアに流れ着いたピーコ(ポンチャン)に第3の飼い主現る!てな具合に
ルイズが新しい飼い主になったのはいいが、待遇が悪くて最後はやっぱりルイズの所からも逃げ出すというオチなんだが…。

822:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:06:52 VWFqq83r
>>821
昔話や夏目漱石からの召喚もあったからなぁ。
同人媒体でなきゃなんでも良いんじゃね?

823:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:13:21 UnfHY6fx
「あなただったのね、いつもクックベリーを持ってきてくれたのは」とか
『百万回死んだ使い魔』とかうっかり想像しちゃって涙腺がエラいことになったw

824:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:16:57 rs9rphcl
>>823
ごん狐を思い浮かべた。

涙腺エラいことになるのは同じ

825:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:21:21 qc1v4UIY
蝙蝠にはアニメも白黒実写映画もあるからな
創作物なら固い事言いっこなしで良いのは事実だが
その流れで紙芝居OKって発想はおかしい

826:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 17:34:41 qBQ2ZZxO
視界良好であれば五分後に第四話を投下したいのですが、
よろしいでしょうか?

827:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:37:46 VWFqq83r
視界良好。よーそろ。

828:ゼロの戦乙女第四話1/8 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 17:40:17 qBQ2ZZxO
第四話


 幸運なことに、シエスタは厨房の裏庭の水場でちょうど洗濯をしているところだった。

「シエスタ」

 声をかけると、顔を上げたシエスタがレナスの姿を見つけ、慌てて泡だらけの手を濯ぎ、立ち上がってお辞儀する。

「おはようございます、ヴァルキュリアさま!」

「洗濯を頼みたいのだが……一緒に頼めるか?」

「ヴァルキュリアさまのお召し物をですか!? よ、喜んで!」

 「神様に衣服の洗濯を頼まれた!」と妙な舞い上がり方をするシエスタに、レナスは微かに苦笑して訂正する。舞い上がっているせいか、レナスの口調が昨日と違うことにも気にならないようだ。

「私ではない。ルイズの洗濯物だ」

 早とちりに気付いたシエスタは、顔を真っ赤にする。

「そ、そうですか、では洗濯物をこちらへ」

「感謝する」

 洗濯物を渡して、言いつけられた仕事を終えたレナスは、これからどう時間を潰そうかと歩きながら考え始め、その背にシエスタが声をかける。

「あの、ヴァルキュリアさま」

 レナスが振り返ると、シエスタはおずおずと切り出す。

「昨日くださった黄金の鶏が、卵を四つも産んだんです。料理長のマルトーさんが私たちのまかないに出してくれるそうなので、洗濯が終わったあとでよろしければご一緒しませんか?」

 売れば一生遊んで暮らせる財産が築けるだろうに、売るよりもまず食べることを考えるシエスタが微笑ましく、レナスは笑った。

「喜んで馳走になろう」

「はい! じゃあすぐに終わらせちゃいますね!」

 シエスタは余程嬉しかったのか、あっという間に大量の洗濯物を洗い終えてしまった。
 さすがはプロのメイド、仕事が早い。
 洗濯に使った道具を片付けながら、シエスタは昨日から気になっていたことを何気なくレナスに尋ねる。

「ところで、ヴァルキュリアさまは神様としてどんなお仕事をなさる方なんですか?」

 言葉を並べずに、レナスは力を行使することで示す。背中から光の翼が勢いよく飛び出し、光の羽が幻想的に舞い踊る。

829:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:41:17 FaMm9ueO
エーテルストライク支援

830:ゼロの戦乙女第四話2/8 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 17:41:41 qBQ2ZZxO
 それと共に、レナスとシエスタを挟むようにアリューゼとメルティーナがマテリアライズされて実体化した。
 予想外の出番を与えられた二人は、不思議そうな顔でレナスとシエスタを代わる代わる見比べる。

「おいおい、どういう風の吹き回しだ?」

「あら? 珍しいわね、戦闘でもないのに私たちを呼び出して実体化させるなんて」

「ど、どなたですかーー!?」

 突然現れた二人に度肝を抜かれ、シエスタが声を裏返らせて絶叫し、思わず尻餅をつく。
 レナスはシエスタに手を貸して起き上がらせ、きょとんとしているメルティーナと、戦いの場に呼び出されたわけではないので仏頂面になるアリューゼをちらりと見やり、説明する。

「戦乙女ヴァルキリーとして、彼らのような死者の魂を英雄として選定し、神界に送るのが私の仕事だ。今はそれと同時に、神界の創造主になっている」

「神様の世界を作った方だったんですか!?」

 地位の高さに驚いたシエスタが、両手を振り回して絶叫した。
 殆ど崇拝の念に近い尊敬の眼差しで見つめられ、キラキラしたシエスタの眼差しにレナスの顔が微かに赤くなる。
 昨日のうちに、レナスの内でシエスタとのやり取りを見ていたメルティーナが前に出て名乗った。
 
「私はメルティーナ。今はヴァルキリーのエインフェリアをしてるわ。ついでにこいつはアリューゼよ」

「おいコラ。ついでだからって適当な紹介の仕方すんじゃねえ」

 杜撰な扱いにアリューゼが文句を言ったが、メルティーナは澄ました顔で無視した。
 理知的な魅力に溢れたメルティーナに、シエスタはぽーっと顔を赤くしていたが、メルティーナが手に持っている杖に気付いて目を見張る。

「メルティーナさまはメイジなんですか?」

「一応そういうことになるのかしら。でも、私の故郷ではメイジではなく魔術師と呼ばれていたし、貴族の出身でもないから畏まる必要はないわ」

「魔術師? もしかして、お二方は『ロバ・アル・カリイエ』のご出身なんですか?」

「……ええ、そうよ」

 シエスタの言うロバ・アル・カリイエがどの場所を指すのか、メルティーナには分からなかったが、ここは話を合わせておいた方がいいと判断して頷く。
 異世界から来たことを簡単に知られるわけにはいかないし、自分からわざわざ騒動の種を蒔く必要はない。

831:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:42:15 XoXnYXMK

支援します

832:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:42:48 oRiIP0CF
支援

833:ゼロの戦乙女第四話3/8 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 17:46:24 qBQ2ZZxO
「そうなんですか……」

 二人を未知の領域である『東の世界』の人間だと思い込み、感心するシエスタだったが、心の中でレナスの説明を反芻していると、見逃せない事実に気がつく。

「え? ということは、メルティーナさんとアリューゼさんは─」

 心なしか青い顔で自分達の顔を見つめるシエスタに、メルティーナはニヤリと笑った。

「私たちは死者よ。ヴァルキリーの選定を受けて英雄─エインフェリアに選ばれたの。ちなみに生前は、アリューゼは傭兵、私は魔術研究者として生きていたわ」

 シエスタはぽかんとした表情でメルティーナを見つめる。
 目の前にいる彼らが死者だなんてシエスタには信じられない。二人とも顔の血色はいいし半透明でもなく、シエスタの目にはどこからどう見ても生きている人間にしか見えない。
 聞けば聞くほど、シエスタはこうして三人と一緒にいるのが場違いなんじゃないかと思えてくる。レナスたちはこんな所で自分みたいな平民と一緒にいるのではなく、貴族のように誰かに傅かれている方が似合っているのではないかという気さえする。
 どうしようもない劣等感を感じて、シエスタは惹かれていながらも光を嫌うかのように、レナスたち三人から目を逸らした。

834:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:47:41 x8S/lQjU
支援

835:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:50:07 XoXnYXMK
お前は吹かれっぱなしの草か支援

836:ゼロの戦乙女第四話3/8 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 17:50:27 qBQ2ZZxO
何故か60行未満でもエラーを喰らったので3/8は3分割です。
以下続き↓

「ヴァルキュリアさまは神様、お二人は英雄、それに比べて私は……」

 力なく呟いて項垂れるシエスタの脳裏に、ハルケギニアの人間ならば身分に限らず知られている有名な童話が過ぎった。
 『イーヴァルディの勇者』。
 平民の身で有りながら、始祖ブリミルの加護を受けて竜や悪魔、怪物といった強敵と戦ったとされるイーヴァルディの物語は、平民が主人公ということで、貴族だけでなく平民の間でも親しまれている。
 平民は虐げられる身分だ。貴族の気分一つでその命すら左右される。こうして魔法学院でメイドとして働いているシエスタも、そこまで極端ではなくとも、理不尽な目に遭ったことは一度や二度ではない。
 シエスタには目の前の三人が眩しく思えて仕方なかった。誰も恐れずに、自由に生きてみたいと心の底から願った。でも、平民の身分では叶えられるはずがないことをシエスタは知っていた。
 黙ってシエスタの嘆きを聞いていたレナスが口を開く。

837:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:53:26 XoXnYXMK
文字数でエラー掛かってない?
4096bytesで制限掛かってるから2000字くらいで制限掛かる計算なんだけど

838:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:54:32 r1Zvq5Sa
黄金バットが来てるwww
あれってたしか微塵に砕かれようと
かけらも残さず消滅させられようと
宇宙の果てに放逐されようと
「なぜなら黄金バットだからだ」
で一切理由の説明なく復活するどうしようもない無敵のヒーローだったよなw

839:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:56:10 r1Zvq5Sa
リロードしてなかった
戦乙女さんごめんちゃい
支援

840:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:56:25 wCC6zYBw
ファイナリティブラスト支援。

841:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:58:44 wCC6zYBw
素晴らしいぞこの力!! 支援。

842:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:58:53 Q84sl4ti
お前の顔も見飽きたぜ、支援

843:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 17:59:26 KKxrzGxq
避難所で代理頼むよろし
【代理用】投下スレ【練習用】2
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

844:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:02:12 gV9lXPbm
支援せざるをえない

845:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:03:15 wCC6zYBw
セレスティアルスター支援

846:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:04:00 /7Zc3m93
本当に食べたのかw
支援 ニーベルンヴァレスティ

847:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 18:04:51 qBQ2ZZxO
投稿してたPC中がフリーズ起こしましたorz
原稿も入ってるPCなので、復旧させ次第代理スレに投下します。
復旧したらまた報告します。

848:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:06:51 wCC6zYBw
他の可能性……仮に一切の文字無しでエンターで最初の行を改行してる場合、異次元の彼方に放逐されるんで注意…とか?

849:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:09:38 BVD7zSP8
>>825
紙芝居に何か問題が?

850:ゼロの戦乙女第四話3/8 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 18:13:35 qBQ2ZZxO
復旧しました。
これを書き込めるようならこのまま投下、
書き込めない又は、投下時にエラーがまたきたら代理スレに投下します。

851:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:15:02 wCC6zYBw
総員、ニーベルン・ヴァレスティ支援!!

852:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:15:11 x8S/lQjU
支援

853:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:18:22 qc1v4UIY
ほぼ確実に文字数エラーだな
> 平民の身で有りながら(ry
の行一つ見ても全角90字ほどあるって事は
23~4行もあれば確実にレス容量超える
wiki登録後の読み勝手考えても40~50字程度が1行文字数の目安
それ以上は意図外の自動折り返し食らうからレイアウトの無意味化も招く

854:ゼロの戦乙女第四話3/8 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 18:18:49 qBQ2ZZxO
エラーの原因が分からないので、代理スレに投下に行きます。

855:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:21:19 qc1v4UIY
>紙芝居に何か問題が?
問題は紙芝居そのものじゃない
黄金バットに紙芝居もあった→紙芝居もOKなら(ry
と言う発想の流れだけに問題がある

856:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:26:30 x8S/lQjU
紙芝居だと一発ネタならともかく
長編やろうとするとほぼオリキャラになっちゃうからな。

857:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 18:28:34 qBQ2ZZxO
代理スレに投下しようとしたら今度はPCの電源飛びました。
復旧までしばらくお待ちください……
今日は運が悪いみたいですorz

858:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:30:27 gmOqRLRh
投稿前に神様に挨拶をしておかないから(ry

859:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:32:54 rgbx/PFs
電源が神に召されたのか

860:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:34:37 wCC6zYBw
つまり電源がレナスのエインフェリアに(ry

861:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:44:47 x8S/lQjU
戦乙女殿乙

続きはノンビリ待たせていただきます。

862:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 18:49:11 8vybLJJ8
それは>>>>857の日頃の行いがわ(ry

863:代理 ゼロの戦乙女第四話3/8
08/03/22 18:50:54 gmOqRLRh
以下本編続きです↓

「……弱さは悪いことではない」

 聞き捨てならない台詞に、シエスタは出会って初めてレナスを睨みつける。すぐに不敬だという気持ちがシエスタの中に沸き起こるが、湧き上がる怒りがそれを掻き消す。
 レナスは平民の現状を知らないからそんなことが言えるのだ。シエスタは知っている。例えば、魔法学院では不定期にメイドがいなくなる。
いなくなったメイドは、貴族の屋敷に夜の相手込みのメイドとして無理矢理囲われている。でも、知っていてもシエスタにはどうすることもできない。

「何も知らないくせに、適当なことを言わないでください! 私たち平民がどんな目に遭っていても、貴族であれば、それで全てが許される。ここはそういうところなんですよ!」

 威嚇するかのようにレナスを睨みつけるシエスタの言葉を、レナスは首を横に振って否定する。

864:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 18:52:47 qBQ2ZZxO
復旧&代理投下支援させていただきます。
支援ありがとうございました。

865:代理 ゼロの戦乙女第四話4/8
08/03/22 18:53:48 gmOqRLRh
「でも、弱くとも立ち向かうことはできる」

 シエスタは本気でショックを受け、その場にへたり込んだ。
 平民のシエスタでは、立ち向かったって死ぬだけなのに、それが分からないのか。何も変わらず、貴族に嬲られて無意味に殺されてしまうだけなのがレナスには分からないのか。
それだけならまだいいが、もしタルブの村にいる家族にまで責任が及んだら、それこそ死んでも死にきれないのに、それすら理解してくれないのだろうか。
 レナスの表情は崩れない。片膝をついてシエスタと視線を合わせ、あくまで淡々と、感情を感じさせない声で言葉を紡ぐ。

「死を覚悟すれば、人はどんな障害にも立ち向かえるものだ。己の道を貫いた結果ならば、例えその結果がその途中で迎える無残な死であっても、残るものがある」

「ありませんよ、そんなもの─!」

 咽喉から搾り出すようにシエスタは叫んだ。
 本当にそうだったらどれだけいいことかと思うけれど、現実は甘くないことをシエスタは知っている。
 死はあくまで死で、死んでしまったらそれで終わりで、その時は悲しむ人がいても、時が経てば悲しむ人は減っていき、やがて忘れ去られる。
平民の死はハルケギニアではとても軽くて、死んだことすら誰にも気付かれないこともあるほどだ。
 なのに、レナスは分かってくれない。

「─誇りだ」

 思いもしない答えを聞かされ、シエスタはレナスを仰ぎ見た。
 シエスタは誇りなんて持ったことはなかった。誇りを掲げられるのはいつだって貴族や王族といった選ばれた立場の人間で、
平民であるシエスタは、彼らの怒りに触れないように生きていくのが精一杯だった。
 レナスの言葉は、シエスタの憤りに水をかけるかのように告げられる。
 
「例え死んでも、己が信じるものを貫き通したという誇りは残る。あるいは生き様と言い換えてもいい。それこそが、魂の価値を決めるもの」

 少しずつ、シエスタの心の中で燃え上がっていた炎が消えていく。炎が燃え尽きた跡に、その言葉がすとんと落ちる。
 シエスタは自問する。今まで一度でも貴族に対して歯向かったことがあっただろうか。貴族に逆らい、理不尽に真っ向から
反発してみせたことが一度でもあっただろうか。
 あるはずがない。シエスタは、貴族に逆らうことよりも、従順に振舞うことで生きてきたし、平民には多かれ少なかれ、
皆その傾向があるはずだと思っている。
 心に刻み込まれた貴族に逆らうことへの恐怖はそう簡単に消せるものではない。シエスタだって怖いものは怖いのだ。
逆らうことを考えるだけで、シエスタの心は凍りつく。
 それでも、あと一つ何かきっかけがあれば天秤が傾くほど、シエスタはレナスの言葉を聞いて揺れていた。

「そして、残された人間は死者の背に、英雄の姿を見出すのだ。かくて誇りは受け継がれ、新たな人間を英雄に導いていく」

 レナスの言葉に、シエスタは思わずアリューゼとメルティーナに顔を向け、仰ぎ見る。彼らなら、レナスの言うような誇りを
貫けるだろうが、ただの平民に過ぎないシエスタには誇りを貫くために必要な力がない。
 悩むシエスタの頭上から声が降ってきた。

866:代理 ゼロの戦乙女第四話5/8
08/03/22 18:55:04 gmOqRLRh
「プライドを貫くのに、力なんていらないのよ」

「……え?」

 シエスタは意外そうな表情でメルティーナを見上げる。
 力なしにどうやって誇りを貫けるというのか、シエスタには理解できない。力がなければ、貴族に逆らうことができないと痛感しているシエスタは、縋るような目でメルティーナを見上げる。
 しかし、メルティーナはシエスタを突き放した。

「でも、今のあなたみたいに、平穏にしがみ付いて生きていると、例え力があっても絶対にプライドは貫けないわね」

 シエスタの胸に、メルティーナの言葉がナイフとなって突き刺さる。
 貴族を恐れながらも、シエスタはその貴族によって与えられた平穏を愛していた。目的もなく、心の底で反感を抱きながらも表面上は貴族に従い、降りかかる理不尽に怯え、
同僚の不幸に目を瞑り、それらを代償に得た平穏の中で惰性に生き続けていた。
 ─これではプライドなど、最初から貫けるわけがない。
 揺れていた心に最後の一押しを押され、心の天秤が完全に傾く。逃げ続けて生きてきた人生への後悔が心に重く圧し掛かってきて、シエスタの目から涙が零れ、頬を伝う。
 気付いてしまった以上、貴族に怯えつつも、貴族に与えられた平穏に浸り続けるような、恥知らずな真似はできない。自らの力で勝ち取る平穏の中で生きることこそが、
シエスタの望むものであるが故に。

「今からでも、私みたいな人間でも、皆さんのようになれるでしょうか─?」

「覚悟さえあれば、何だってできるだろうよ」

 嗚咽交じりに小さく呟いた疑問は、野太く力強い声で返される。その人生の多くを、戦場で過ごしてきた男の声だ。
 はっとしてアリューゼを見るシエスタに、鍛え上げられた彼の肉体が目に入る。彼もまた、その覚悟を以って平穏を捨てた末にその肉体を手に入れたのだろうか。
 真剣な表情で俯くシエスタの、その小さな両拳がきゅっと握り締められる。大男のアリューゼと比べれば、小さすぎるシエスタの手。どんなに華奢であっても、
その拳だけはどこまでも硬くなれると信じて。

「シエスタ」

 貴族の理不尽に立ち向かう覚悟を決めようとしているシエスタを、レナスの声が遮った。
 冷厳な声に振り向くと、優しい銀色が視界を過ぎり、全身が温かい何かに包まれる。

「……ヴァルキュリアさま?」

 思わずといった様子で、シエスタは幼い声を漏らした。
 抱き締められたことよりも、まるで我が子を戦地に送り出す母のような態度をレナスが取っていることにシエスタは驚いた。
 シエスタにとってのレナスは憧れと憧憬の対象だった。初めて会った時、シエスタはレナスを平民だと思っていて、貴族の使い魔にされたレナスに同情を抱いていた。
 でもそれは間違いで、レナス自身の口から神だと告げられた。口では肯定するようなことを言ったけれど、シエスタはその時心の底から信じていたわけではなかった。
ただ、何となくそうだったらいいのにと思っただけだった。

867:代理 ゼロの戦乙女第四話6/8
08/03/22 18:56:10 gmOqRLRh
 その後で黄金の鶏を貰い、シエスタはレナスのことを神だと認めた。レナスがルイズではなく、自分を見てくれたことが嬉しくて、シエスタは感動してレナスに崇拝の念を抱いた。
 レナスのことを神だと思っていたから、まさか抱き締めてもらえるとは夢にも思わなくて、シエスタは恐る恐るその背に手を回す。全身でレナスの温もりを感じて、思わず赤子のようにすがりつく。
 かけられる声は相変わらず厳しかったけれど、シエスタは声よりも表情よりも、抱き締められたという事実に、レナスが自分を心底心配しているのを感じ取った。

「けしかけた私たちが、こんなことを言ってはいけないかもしれない。でも、その決断をする前に、もう一度よく考え直してみて欲しい」

 シエスタはレナスの言葉に小さく笑った。
 今更そんなことを言われても、もうシエスタに止まるつもりはない。貴族の横暴に見て見ぬ振りをして過ごす平穏に比べれば、今からシエスタが生きる人生は、きっと輝きに満ち溢れているはずだ。
 少なくとも、シエスタはそう信じている。

「その道を選べば、お前はきっと悲惨な死を迎えるだろう。誰にも理解されずに果てる未来しか、その道にはない」

 レナスの言う通り、確かに道は険しいに違いない。
 例え下げたくない頭を下げろと強要されようと、卑怯な手段で以ってこの身体を求められようとも、毅然として反抗することは、何の力も持たないシエスタにはとても難しいことだ。
 貴族に手打ちに遭うかもしれない。巻き添えを恐れる同じ平民に、裏切られて人身御供として突き出されるかもしれない。もがき苦しみ、のた打ち回り、血反吐を吐いて死ぬかもしれない。
どちらにしろ、安らかな死は迎えられないに違いない。
 だが、それでも。

「─ヴァルキュリアさまが、残るものがあると教えてくれましたから」

 死ぬまでその理想を貫いたという誇りを残せれば、シエスタはそれで充分だった。
 おそらく、誰にも理解されないだろう。殆どの人間が、死んだシエスタを見て馬鹿な奴だと蔑むだろう。シエスタ自身、心が挫けそうになることだってあるだろう。
 それでも、その道を歩こうと決めたのだ。このハルケギニアで、多くの人間が憧れる童話の主人公のように、誇りを持ってこの生を駆け抜けると決めたのだ。今更迷いなど、あるはずがない。
 答えを聞いたレナスは、シエスタを抱き締めたまま、僅かに身体を離して額に口付けを落とす。
 その瞬間、神として冷徹に輝く瞳の中に優しい光が灯っているのを、シエスタは確かに見た気がした。

「ならばヴァルキリーとして、私は新たな英雄の門出を祝福しよう。お前は人として、最も辛く困難な道を歩み始めた。その死後は私が約束する。─ここに英雄の選定は成された」

「あ─ありがとう、ございます─」

 心が奮え、感動に満ち溢れてくる。死後まで約束されたシエスタにもう怖いものはない。何の力がなくても、毅然として貴族の理不尽に立ち向かっていける。
その先に待っているものが何であれ、理想を貫いて生きていける。
 今日この日、幼い英雄が平穏を脱ぎ捨てて産声を上げた。

868:代理 ゼロの戦乙女第四話7/8
08/03/22 18:57:04 gmOqRLRh
場面転換してます。以下本編続きです↓


 その後、どこか照れ臭そうな顔のシエスタの案内で、レナスたち三人は厨房にやってきた。
 厨房では大勢のコックが自分達の賄いを食べているところで、三人を引き連れたシエスタは、その中でも壮年のコック長に話し掛ける。

「マルトーさん、例の賄いはできてますか?」

「おう、シエスタか。できてるぜ。聞いてたより人数が多いみたいだが、量だけはあるからそこで食べてくれ。連れの嬢ちゃんもだ」

 シエスタは予め話を通していたようで、厨房の隅のテーブルにサンドイッチが山盛りに盛られた大皿が置かれていた。

「お、美味そうじゃねぇか」

 舌鼓を打つアリューゼにシエスタは微笑み、レナスとメルティーナに顔を向ける。

「いっぱいありますから、皆さんも遠慮なく食べてくださいね」

 シエスタは三人に席を勧め、残った椅子に座る。
 サンドイッチは美味だった。
 賄いといえども、基本的に余った材料で作っているから素材は貴族に出すものと変わりない。貴族が暮らす魔法学院に勤めるだけあって、コックたちの腕も確かだ。
 その中でも金の卵のサンドイッチは絶品で、初めて食べるシエスタなどは傍から見ても丸分かりなくらいに顔が緩んでいる。
 メルティーナもご満悦なようで、満足そうな表情をしており、見る見るうちにサンドイッチは数を減らし、なくなった。
 豪快に一番沢山食べたアリューゼ、一見してそうは見えないが同じくらい食べたレナスとシエスタ、実は四人の中で一番小食なメルティーナと食べた量こそ違うが、概ね皆満足している。
 レナス達三人は、シエスタとマルトーに例を言うと、食堂を出た。
 用を終えたレナスがメルティーナとアリューゼの実体化を解こうとしていると、後ろからシエスタが走って追いかけてきた。

「あのっ、皆さん」

 三人が振り返ると、シエスタははにかんだ笑みを浮かべる。

「ありがとうございました。私、これから頑張ってみようと思います」

 シエスタの透明な笑顔に、レナスが神としての冷徹な表情を和らげる。ここでようやく、シエスタはレナスの雰囲気と口調が昨日と違うことに気付いたけれど、今はもうどうでもいいことだ。

「お前は自分の手で自らの進むべき道を決めた。─ならば私はその道を照らそう」

 レナスが口にした言葉は、それこそ魔法のようにシエスタの心を捉える。そこまで言って貰えるのが嬉しくて、シエスタはレナスに感謝の気持ちをこめて深く頭を下げる。
 そのシエスタの頭を近寄ってきたメルティーナが撫でた。シエスタが顔を上げると、メルティーナはいつも浮かべる不敵な笑顔ではなく、柔らかな微笑を浮かべた。

869:代理 ゼロの戦乙女第四話8/8
08/03/22 18:58:00 gmOqRLRh
「途中で呆気なく死んだら笑ってあげるから、根性入れて生きなさいよ」

 かけられる言葉は相変わらずきついけれど、メルティーナの表情を見たシエスタは嬉しくて頬を綻ばせた。
 アリューゼが目を閉じて喉の奥で微かに笑う。

「まあ、頑張るんだな」

 無骨な顔に浮かぶ笑顔が珍しくて、シエスタは思わずクスクスと笑う。

「ったく。笑うんじゃねぇよ」

 額に手を当てて顔を顰めたアリューゼが、不満そうに文句を言うので、シエスタは満面の笑顔で笑って謝った。

「はい。すみません」

 他愛無いこんなやり取りですら、温かい。
 背を向けて遠ざかっていく三つの背中を、シエスタは見えなくなるまでずっと見つめていた。
 いつか、自分も彼らのようにあの場所へ。そう思いながら。


以上、第四話投稿終了です。

870:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 19:01:42 qBQ2ZZxO
代理投下ありがとうございます。
そうか、一行の文字数をオーバーしてたんですね……。
次から気をつけます。

871:代理 ゼロの戦乙女
08/03/22 19:02:33 gmOqRLRh
1行が長すぎて書き込みにエラーが出たので一部改行を加えました。
作者様に確認をする前に修正してしまったことをお詫びします。
正式な物は代理投下スレにありますのでそちらをご覧下さい>読む人

872:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/22 19:05:54 qBQ2ZZxO
>>871
こちらこそ、改行を加えずに投下してしまって申し訳ないです。
手間を掛けさせてしまったことをお詫びします。
ありがとうございました。


873:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 19:10:56 qc1v4UIY
てかwiki登録後ですら
UXGA全画面表示でも自動折り返し入るってドウヨって事なんだけどな

874:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 19:14:52 KkcQnPmN BE:1322957388-2BP(30)
戦乙女さん乙です!
いや~、シエスタが仲間フラグとはな。
シエスタが使う必殺技・・・・以外と叫んでるのが目に浮かびやすいwww


875:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 19:17:56 wCC6zYBw
シエスタがエインフェリアになったら、どの武器を使う事になるんだろうなぁ…?

大剣か、槍か、弓か……まず片手剣は無いだろうな(ぉ

876:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 19:21:43 4cTI8cfI
GJ!
さて、ギーシュ君はどんな必殺技で昇天するのかw

877:無重力巫女の人
08/03/22 19:32:32 fXGk/1A7
どうも、お久しぶりです。
前の投稿から二ヶ月と随分経っていますが第7話を投下致したいと思います。

40分ぐらいからの投下を予定していますのでもしよろしければ支援の方お願いします。

878:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 19:36:40 KkcQnPmN BE:124027823-2BP(30)
なんとなくシエスタの決め技セリフっぽいを考えてみた

「私は……もう逃げない!」

「奥義!(必殺技名)」

「ヴァルキュリア様に楯突く者は、私が全てなぎ払う!」

879:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 19:38:13 KkcQnPmN BE:496109546-2BP(30)
支援だ!
待っていたぞ!

880:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 19:39:25 LY+3lRsS
誇りある惨めな死か
惰性なる安穏な生か
それが問題だ・・・

GJです


ところで金の卵入りサンドイッチてw

881:無重力巫女の人
08/03/22 19:40:01 fXGk/1A7
     
   
「ヴァリエール家やトリステインの貴族様ってのはどうしてこう見栄を張るのかしらねぇ~?」
「あ、アアンタたちとは違ってこちらには貴族として、てのプププププライドドドドがあ、あるのよ!!」
安易な挑発に乗りまくってどもりまくっているルイズに対しキュルケは顔に微笑を浮かべながら挑発している。
置いてけぼりにされたタバサは活字に目を通しながらもちらちらとその光景を眺めていた。
詳しいことは知らないが代々ツェルプストー家とヴァリエール家は犬猿の仲らしい。
お互い戦争の時には殺し殺され、ヴァリエール家はツェルプストー家に愛人を寝取られまくったりと、色々と凄まじい。


ふとタバサは肩を振るわせ顔を真っ赤にして怒鳴っているルイズを見て、彼女が召喚した変わった服を着た少女の事を思い出した。
あの時自分はキュルケと一緒にギーシュとの決闘を見に行ったが序盤から度肝を抜かされた。
使い魔召喚の儀式で見た針投げと、先住魔法と思われる空中浮遊。

そして一瞬でギーシュの背後に移動した正体不明の魔法、それに青銅のゴーレムを一撃で粉砕した謎の紙。
どういう仕組みか少し分からないが彼女はあの少女が持っている力をもっと知りたくなってきた。
そんなことを考えつつもタバサは活字から隣にいる紅白の少女へと視線を変えた。
――隣には誰もいなかった、見えるのは棚にたくさん詰められた分厚い辞典だけ。
「?」
何処に行ったのかと思い、顔を動かすといつの間にかあの少女は書店の出入り口へと足を運んでいた。
ふと視線を動かすと表通りで一人の貴族―確かモット伯とかいう名前だったはず―が給士の手を掴んでいるのが見えた。



「いい加減見栄張るのはどうかと思うわよ~?」
「アンタなんかに張ってないわよ!!」
一方ルイズとキュルケの二人の口げんかはそろそろキュルケの勝利で終わりそうであった。
ルイズは大声で叫んでいるため、息切れしそうなのだが…それにもかかわらず更に声を上げて叫んでいる。
店の者達が止めればいいのだがここを経営しているのは全て平民であるため。下手に声を掛けられないでいた。
「だいたいアンタたちゲルマニアの貴族は不躾なのよ!聞けば金さえ出せば平民でも貴族になれるらしいわね!!なんて非道い国!」
「毎年伝統やしきたりに拘りすぎてどんどん国力を減らしてる国が言える言葉?」
「うっ!!そ…それは。」
弱いところを突いたと思っていたら逆に突かれてしまい一瞬怯んだルイズだが再び口を開いた。

「と、トリステインの貴族達はアンタたちとは違って皆上品よ!!それだけは他の国に負けはしないわ!」
「じゃあ表で痴漢行為を働いている貴族は何処の国から来たのかしらね?」
そう言ってキュルケが外の方を指さし見てみると王宮勅使であるジュール・ド・モット伯爵が真っ昼間から女性の手を無理矢理掴んでいる光景があった。
一瞬ルイズは目を見開き口をポカンと開けていた。キュルケはそれを見てクスクスと笑うと追い打ちを掛けかの如くこう言った。
「あれじゃあ貴族の数が減るのは当たり前ねぇ。上品の『じょ』の字も無いわ。」
次の瞬間ルイズは荒ぶる獅子の如く猛ダッシュで入り口へと向かい突っ立っていた霊夢を突き飛ばし外へと出た。
キュルケと事がよくわからないタバサは口をポカンと開けただただ見つめていた。



882:無重力巫女の人
08/03/22 19:41:34 fXGk/1A7
   

「ルイズっ…!全くあの子…。」
さっきまでルイズをおちょくっていたキュルケが苦笑混じりにそう言い、床に倒れている霊夢に目を向けた。
「突き飛ばされたそこの紅白ちゃんは…大丈夫?」
「だから紅白紅白言うなって…あいてて。」
霊夢はズキズキと痛む頭を抱えてゆっくり立ち上がった。
突き飛ばされた霊夢はそのまま後頭部を本棚で強く打ってしまっていた。

「何かあった?」
事を理解していないタバサが少し目を丸くしてキュルケに話しかけた。
「あぁ…いやね?あの子をおちょくってたら外から声が聞こえて見たらトリステインの貴族さんが痴漢紛いの行為をしてるのを見て…。」
「それで止めに行ったって訳?イテテ…。」
霊夢は後頭部を手でさすりながらも外の方へと目をやった。


その頃、数時間ほど前にルイズが入った杖専門の店から出てきた男が騒ぎに気が付いていた。
「何かあったのか……?」
男は被っていた羽帽子を上にずらし音のする方へ目を向けた。
そこでは数人の人だかりが出来ており、新たに二、三人来るとほかの数人が追い出されるように去ってゆく。
それだけならただ一瞥するだけに終わり他の所へ行くつもりだったが人だかりの真ん中に貴族と話し合っている少女の姿が見えた。

その少女は綺麗な桃色のブランドヘアーで、まだまだ小さい身長。
それは親同士が決めた婚約者であり。小さな小さな彼の恋人であった。
「僕のルイズ…。」
彼はそう呟くと少女の元へと歩を進めた。


「あ~らら、何か大変なことになってるわね?」
「なにがあ~らら、よ。」
とりあえず外へ出たキュルケ、タバサ。それに霊夢は随分と展開が早くなったことに驚いた。
あの後猛ダッシュでモット伯の所へ接近したルイズがモット伯の手を掴み。素早く給士を自分の後ろへ下がらせた。
突如出現した少女に少し怒ったモット伯は今にもルイズに掴みかからん勢いだったがルイズも負けじとモット伯を睨む。
どうやら彼は相手があのヴァリエール家の三女だと知らないらしい。
「あなたの御主人様が大変な事してるわよ。止めに行かなくて良いの。」
行ってこいといわんばかりな風に言うキュルケはいかにも面白いものが見れるという目で霊夢を見ていた。
霊夢は首を横に振って返事をした。
「いやいや。いつあいつの従者になったのよ私は?でも…」
一呼吸置いて続けた。
「でもまぁ、確かにマシな食事と寝床を提供してくれているし。今日だってお茶を買って貰ったからあいつを守ってやらないとね。」
霊夢はそう言いルイズの所へ行こうとしたが自分の他にルイズの所へ行こうとした男を見つけた。


「ん、誰かしらアレ?」
霊夢は足を止め、その男を見て首を傾げる。
そのとき横からタバサが丁寧にも説明してくれた。
「恐らく、王宮の魔法衛士隊の一つ、グリフォン隊。」
「あれ、あんたも外に出てきたの?影が薄いからわからなかったわ。」
「………酷い。」
タバサのその言葉に霊夢は気まずそうな顔をして頭をかいた。
先ほど打った後頭部を掻いたため、再び頭を押さえることになったが…。



883:無重力巫女の人
08/03/22 19:43:36 fXGk/1A7
「すまない、モット伯とお見受けしたが。」
「あ……貴様、衛士隊の者か?」
ピンク髪の少女もといルイズと睨み合っていたモット伯は最中突如声を掛けてきた男に視線を向ける。
羽帽子を深く被っていて顔がよく分からないが付けているマントでその者が魔法衛士隊とわかった。
「左様。私は魔法衛士隊の内一つ、グリフォン隊の隊長です。」
男は帽子を取るとその場でモット伯に頭を下げた。
顔から見て年齢は20代後半といったところで。もう少し若ければ「美男子」と呼ばれるほどである。
ルイズはその顔に見覚えがあり思わずその男の名前を言ってしまった。

「し、子爵!ワルド子爵ですか!?」

ワルドという名前にモット伯は驚いた。
「なに!あの「閃光」の!?」
最近モット伯は「閃光」の二つ名を持つ魔法衛士隊隊長が活躍しているという話を聞いていた。
その仕事ぶりは熱心で、常に自身の魔法もしっかりと磨いているらしい。
「いかにも。」
そう言ってワルド子爵は笑顔でそう言った。
モット伯は数歩後退すると服装を正し、口を開いた。

「して、そのワルド子爵が何用でここに?」
最近街では悪徳役人、徴税官がいるらしいのでそれを取り調べるため街のあちこちに調査員や衛士隊が送られている。
モット伯自身はそのような事はしない。するといえば街での美少女さがしなものだ。
しかし万一と言うこともある、モット伯は冷静に対処することにした。
「いやなに、今日は非番でして。それを機に少し調子が悪かった杖の修繕をして帰るところでしたのだが…。」
ワルドはそう言い後ろにいるルイズへと視線を移した。

「何分そこにいるヴァリエール家の三女とあなた様が喧嘩をしていたので…。止めようとついつい。」
「ヴァ…!?ヴァリエール家の三女…まさか!」
モット伯は先ほどまで睨み合っていた少女があの名家の三女だと信じられない顔つきでルイズの方を見て、すぐに なるほど… と呟いた。
「…目元はあの「烈風カリン」にそっくりだ。」
「でしょ?だから今正に起ころうとしていた荒事を止めに来たのです。」
そう言ってワルド子爵はモット伯の傍によるとポンポンと肩を叩き、あることをモット伯の耳に直接吹き込んだ。
「それにミス・ヴァリエールはあのアンリエッタ王女と幼少の頃遊び相手として付き合っていて、私とは親同士が決めた婚約者
もしここで厄介事を起こしてしまい彼女が怪我をしてしまったら王女様に何を言われるかわかりませんよ。まぁそれ以前にこの私が許しはしませんが。」

884:無重力巫女の人
08/03/22 19:46:00 fXGk/1A7
 
ボソボソ声だったので周りには聞こえていないが遠目から見たらモット伯は体を小刻みに震わせていた。
「もしあなたがここで下がってくれるなら今回のことは目をつむっておきましょう。」
「あ…ああ。」
モット伯はコクリ、と頷くと後ろで待っていたお供の傭兵達を連れ急いで町の中へと消えていった。
そのあとルイズは大きくため息を吐くとそのままペタンと地面にだらしなく座った。
「やぁ、久しぶりだね。大丈夫だったかい?」
ワルドは凛とした声で地面に座ったルイズに手を差し出すとルイズはワルドの手を取り再び立ち上がった。
「あ…?えぇ、子爵様も…」
その時ルイズの後ろから出遅れてしまったキュルケ、タバサ、霊夢の3人がやってきた。
「あら?いい男じゃない。」
「全く…助けがいたなら最初から言いなさいよ。」
「………。」
ワルドはやってきた3人の内、特に変わった服装をした霊夢を見て、興味深そうに言った。

「ほぉ、後ろの3人は君の友達かい?」
「いえ、友達とかそういうのでは…というか霊夢は私が召喚の儀式で呼んだというか…呼んでしまった…とか。」
ルイズはワルドの顔を見てしどろもどろに言った。
ワルドはそんなルイズに軽く微笑むと霊夢の方に顔を向けて話しかけた。
「と、いうことは君は彼女の使い魔かな?」
ワルドの発した「使い魔」という言葉に霊夢はムッとしながらも返事をした。

「使い魔っていうな。私には博麗霊夢っていうちゃんとした名前があるのよ。」
霊夢は鋭い睨みでワルドを見つめてそう言った。
ワルドはそれに両手前に出し苦笑いしながら答えた。
「あ…気を悪くしたなら、謝るよ。何せ人一人が召喚されたという前例は見たことも聞いたこともなかったから。」
「別に、気を害したわけじゃないから。」
いっそう強まる霊夢の睨みにワルドはただただ苦笑いするしかなかった。



885:無重力巫女の人
08/03/22 19:47:36 fXGk/1A7
 
後味悪くワルド子爵と別れ。ある程度の本を買った霊夢とルイズ達はすぐに学院へと戻っていた。
ちなみにキュルケとタバサはまだ買いたい物があるから残ると言い、ルイズが助け学院の給士はもう少し寄る場所があると言って町の入り口で別れた。
帰ってきてから机に買ってきた新書を置き、霊夢はとりあえず一冊を手に取り開いてみたが文字が分からないためチンプンカンであった。
「まず…するべきことは文字の勉強ね。」
そんな霊夢を見てルイズは額に手を当てため息を吐くとタンスから紙と黒インクが入った瓶、それに羽ペンを出し机の上に置いてある新書の上に紙とインク瓶を置いた。
「あんた、私の言葉はちゃんと分かるんでしょ?」
「うん。ちゃんと分かるわ。」
霊夢がそう言うとルイズは羽ペンの先にインクをつけ、紙に文字を一つ書いた。
その字を見て再び頭を傾げる霊夢。
「なにこれ?」
「これは『あ』よ、『あ』。」
それを聞いて霊夢は「なるほど…」と言った。

文字は読めないが言うことはわかる。つまり「聞かせて覚える」という方法である。
ルイズは次に四つの文字を書き霊夢に見せた。
「これが『い』、これは『う』。んで『え』と『お』よ。」
霊夢の耳にはちゃんと自分の世界の言葉で流れてくる。非常に不思議だがこれはこれで便利である。
(でも…これってなんか凄く恥ずかしいわね。平仮名を教えて貰うなんて子供の頃以来だわ。)
心でそんなことをぼやきながらも仕方ないと割り切り、ルイズに文字を教えて貰っている霊夢だった。

トリステイン魔法学院のとある一角。

そこはとある塔の頂上にあり、ドアを開ければ目の前には大きな門がそびえ立っている。
その門の前にフードを被った一人の女性がいた。懐から杖を取り出し短い詠唱の後、門の鍵を閉めている錠前目掛けて杖を振る。
杖から出た緑色の霧はしかし、あっさりと拡散してしまい。『解錠』の呪文を無効化してしまった。
女性は小さく舌打ちすると腹いせに門を一蹴りしてやろうと思ったが先ほど入ってきた出入り口から人の声が聞こえてくることに気が付き、慌てて柱の影に隠れる。
「ここが宝物庫か…赴任してから初めて見るな。」
「ま、ここの警備は退屈だからいつもよりかは昼寝できると思うぜ。」
その言葉遣いからして学院の警備をしている衛士達であろう。着込んでいると思われる金属が擦り合う音も聞こえる。
「そういえばこの前コルベールっていう教師がここについて詳しく教えてくれたんだよ。」
「なになに?」
「『この門は多数のスクウェアメイジ達があらゆる呪文に対抗するために設計したのだ。』って言ってたんだよ。」
「へぇー…それじゃあ俺たち平民どころか並大抵のメイジでも開けれそうにないな。」
そこまで聞き、女は忍び足でここから出ようとしたが次に出た言葉で思わず足を止めた。
「でもその代わり塔の外壁は滅茶苦茶でかいゴーレムが物理攻撃をくわえれば簡単に壊れるらしいぜ?」

その言葉を聞き、女はフッと小さく鼻で笑い、静かにその場を去った。

日が開けて翌日…ルイズに一通り文字を教えて貰い。続きは今日の授業が全て終わった後にという事となった。
ルイズと朝食を食べ終えた後、霊夢は厨房の方へと足を向けた。
霊夢が足を止め、目の前にある大きな建物を見上げていると中へ入る前にこちらに気づいた一人のシェフが霊夢に近づいてきた。
「お、誰かと思えばレイムじゃねえか。どうしたんだ?」
彼の名前はマルトー、この厨房を取り仕切る料理長である。


886:無重力巫女の人
08/03/22 19:52:38 fXGk/1A7
  
何故マルトーが霊夢のことを知っているかといえば…それはギーシュとの決闘から翌日の夜である。
夕食を食べ終えた後、今更ながら風呂に入っていないことに気づいた霊夢はルイズに風呂がないかと聞いてみた。
どうやら貴族専用と平民専用の風呂が二つあるらしくそれを聞いた霊夢はとりあえず貴族専用の風呂に足を運んだ。
そこは水面に色とりどりの花が浮いており、空間を香水の匂いで満たしていた。どうやら香水風呂だったらしい。
こんな風呂に入りたくない霊夢は諦め平民専用の風呂にも寄ってみたがそこも駄目であった。

霊夢にとってそれは『サウナ風呂』であり、まともなお風呂がないことに霊夢は思わず舌打ちをし辺りを見回した。
ふと一人のコックが大きな建物の入り口の横に大人三人くらいが入れそうな大鍋を置いているところを見た。
そして近くに置かれている大量の赤レンガ。ふと霊夢の頭にある考えが浮かぶ。

『お風呂が無ければ自分で作ればいいのだ。』

すぐさま行動に移すべく霊夢は早歩きで建物の入り口で休憩している男の近くに寄った。
「ねぇねぇちょっと。」
「ん?おめぇは昨日魔法を使ってた…貴族様が何のようですかい?」
男は明らかに嫌な目と言い方で霊夢に言った。
マルトーは貴族が大嫌いな平民であり、理由は魔法を使えると言うだけでいばり、食事を提供しているのにお礼の一つもしないからそりゃ嫌いになる。
どうやらこの男、貴族嫌いの平民らしい。霊夢は察知し、ため息を吐くと口を開いた。
「失礼ね。私は貴族とかそういうのじゃないわよ、それに貴族も平民も同じじゃないの?」
「ほぉ、何処が違うんだい?」
その後数分くらい話しが続き「魔法さえ使わなければ同じ人間。要は公平に見ればいいだけのことよ。」という言葉で終了した。
男は最初こそは嫌な目で見ていたが段々と目の色が変わっていき、話が終わった後は笑顔で霊夢の背中を軽く叩いた。
「公平に見ろ、か………貴族様々の世間にまだそんな考え方をする奴がいたとはな。気に入った、お前さん名前は?」
「博麗霊夢。霊夢って呼び捨てにしても構わないわ。」
「レイムか…変わってるが悪い名前じゃねぇ。俺はマルトーだ。」
そういってお互い握手した後霊夢はマルトーに事の用件を話した。
「成る程、まともな風呂がないからこの大鍋とレンガを使って自作するのか…お前一人で運べるか?」
マルトーがペチペチと大鍋を叩きながらそう言い、今日と昨日の疲れがまだ少し残っていた霊夢は思わず首を横に振った。
それを見たマルトーが「なら運ぶのを手伝ってやるよ。なに、仕事ならもう終わったしな。」と言い鍋を人が余り来ない草むらへと運んでくれた。
次に霊夢は持ってきた大量の赤レンガを暖炉のように積み重ね、その上に鍋を置いた。

「で、後は鍋の底に木の板を敷いて…中に水を入れて暖炉に薪をくべたら…あとは燃やすだけ。」
それを見ていたマルトーは思わず手を叩き、満面の笑みで霊夢の側に寄った。
「おめーさん結構風呂が好きなのか?こんな面倒くさいこと、魔法使う連中はやりそうにねぇぜ。」
その後霊夢はマルトーにお礼を言った後、服を脱いで風呂に入ろうかと思ったがマルトーが「一杯飲んでいかないか?」という誘いで風呂にはいるのは明日にすることにした。

そして再び今の時間に戻る…


887:無重力巫女の人
08/03/22 19:55:16 fXGk/1A7
 
「ほぉー…ティーセットを一つ貸して貰いたいと。」
「昨日町でルイズにお茶を買って貰ったから飲んでみようと思って。」
「そんな事ならおやすい御用さ。ちと待ってろ。」
そう言うとマルトーは厨房の奥へと消えていった。
数分入り口で立ち往生しているとマルトーが一人で戻ってきた。そしてその後に黒い髪と黒目の給士がティーセットを持ってついてきた。
「あれ!あなたはあの時ミス・ヴァリエールの後ろにいた…。」
「ん、シエスタ。レイムと昨日何処かであったのか?」
「この子町で何処かの変態貴族に手を無理矢理掴まれていたところを見かけてね…まぁ助けたのは別の奴だったけど。」
「あの時は本当に助かりました。なんとお礼を言えばよいか…。」
「いやぁ~私が助けた訳じゃないからそんなお礼されても…。するならあの羽帽子を被ってた男の方に…」


そんなとき、何処からか物凄い爆発音が聞こえてきた。


888:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 19:56:42 /tMZuTkR
誰かメトロイドシリーズで書いてくれないかなぁ


889:無重力巫女の人
08/03/22 19:58:39 fXGk/1A7
以上です、今回は少し長かったと思います。
これから少しペースを速めていきたいと思います。


あと最初に書き忘れておりましたが最近になってまとめwikiに掲載させて貰っている話しをちょくちょく加筆、修正しております。
今回の話しも先にまとめに載せてある話しを一通り全て見れば分かると思います。


890:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 20:10:41 x8S/lQjU
無重力の人乙

>>888
さぁ、今すぐまとめスレを隅から隅まで読む作業を再開するんだ。

891:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 20:11:04 KO5FFUao
戦乙女の人乙!
VPはかなり好きだから期待

ギーシュ戦からどう変わっていくのか気になるところ

892:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 20:17:07 p+JDvPk3
金の卵…
シエスタのステータスが大変な事にならないか?w

893:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 20:25:03 VS55zK88
無重力の人乙。霊夢らしい。
というかほんと貴族社会は酷いなおい。

ところで、BIOSHOCKのビックダディ召還とかはどうだ?
「やっちゃえ、ビックダディ!」と言うルイズを見てみたい。

894:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 20:26:15 7ZD8UhIv
ビッグダディはすごく…臭いです…

895:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 20:26:37 +2nLuuyr
その後ギーシュに注射器突き刺すんですね

896:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 20:29:38 KkcQnPmN BE:124027632-2BP(30)
神ぬ(待て!)巫女の人GJです。
普段はほとんど働かないくせに必要となるとちゃんとがんばる所なんかは実に霊夢らしいな。

897:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 20:47:06 yWua7hph
(一応は)一般人のシエスタを安易に強キャラ化するのはどうかと思うけどねー

898:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 20:51:25 tg7YEcBL
メトロイドのサムス召喚最後の四行

今日のアンリエッタ女王
銀河ネットワークの魔法少女ものハマッてしまい、今日も変身してマザリーニの胃にクリティカル!

今日のマザリーニ
アンリエッタと子供達から怪人扱いされて不貞腐れて寝る。

鳥の骨哀れ



899:ドキドキ☆第五ドール真紅のレズビアン・レッスン
08/03/22 21:04:36 FR6NO5Du
こんばんは。
10分後に投下します。

900:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 21:08:02 Ved4hkq0
そのタイトルなんとかしれ

901:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 21:08:51 d4hj84sF
じゃあドキドキ第五ドール真紅さんの後に予約させて下さい。
投下終了後十分後ぐらいを目安に投下しますです。

902:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 21:09:02 fOo2BnAZ
>>899
ウェルカム!

903:ドキドキ☆第五ドール真紅のレズビアン・レッスン 1/3
08/03/22 21:14:33 FR6NO5Du
 深い赤色のボンネット帽から流れ落ちる金の髪は、勢いと重さが同居しあい波打つ滝の
ように、肩口を撃ち、そして幾重もの円を描いて足元まで靡いている。人間の容姿は乱数
によって決まるものだ。神がデザインした、そういう表現も耳にすることはあるが、神が
デザインしたという表現に恥じぬ容姿を偶然によって持ち生まれた、正しくはこうだろう。
その幸運を手繰り寄せた誰かが、例えば王族であったり、あるいはそれに順ずる何らかの
説得材料を併せ持っていたとき、神がデザインした、という言葉に説得力が生まれるのだ。
 この少女の容姿には、別段説得材料がない。私のサモン・サーヴァントに喚ばれて現れ
た、それが何だと言うのだ。そこまで自意識過剰じゃない。つい先ほど見せた摩訶不思議
な魔法? これもだめだ。魔法において異端であることは嫌悪の対象となる。私は知って
いる。
 だからそう、人によってデザインされた、あるいはだ。人の執念によって生み出された。
そういう印象を、私は彼女から受けた。私の使い魔、使い魔となるべき者の向こうに、誰
かの意志が見える。ぞっとしない。私は首を振って、持ってしまったイメージをどこか彼
方に捨てた。
 今はそれよりも、「完全に逆よ。お話にならないわ。ルイズが私の下僕、私は主人」こ
の澄ました顔の使い魔に、己の立場を諭すことが先か。これは深刻だ。
「真紅、あなたも聞かないわね。私とキスしたでしょ? あれはコントラクト・サーヴァ
ントっていって……」
「指輪へのキスが従順の、契約の証なのだわ。今更言い逃れしたって」
「とにかく! あなたは私の使い魔なの!」
 言葉も通じるし、話も通じている。ただ、お互いに認められない一点があって、解らな
いふりをしているだけだ。一度通した指輪は、するりと私の指の上を滑り、一切の抵抗な
く嵌ったというのに、上手く抜けない。こそこそと、彼女が主張する方の契約の証らしき
指輪を隠せぬものかと服の袖を引くが、無理があったようだ。誰も居ない授業中の廊下に
立つ私がなんだか矮小で、唇を噛んだ。
「そもそもね、体のどこかに契約のルーンが刻まれているはずよ。それを見れば、あなた
も使い魔って立場に納得するでしょ」
 そうだ。それを見れば真紅だって、自分の立場を理解するはずだ。
「それを言うなら、ルイズ。あなたが指に嵌めた薔薇の指輪。それがあなたが私の下僕で
ある証拠だわ。納得した?」
 私は自分の手を見た。薔薇の意匠の指輪が私を見返した。むかつく。
「無理に決まってるでしょ。……そうね」
「そうよ。無理に決まってるのだわ」
 一拍の間が、私たちの間を通り過ぎていった。塔の中央を貫く螺旋階段は静かだ。私の
足音が煩い。いくつかの教室のドアから漏れる、教師たちの声は小煩い。そういえば授業
中だった。憚らぬお喋りは拙いかもしれない。
「保留よ!」私は主導権を持ちたくて、若輩を諭す年長者の顔を繕って彼女を見つめた。
「……そうね。そうしましょう」
 もう少し話し合う時間があったら、私の使い魔だってことを絶対に認めていたわ。そう
口に出していたら、負け惜しみになってしまっただろうか。

904:ドキドキ☆第五ドール真紅のレズビアン・レッスン 2/3
08/03/22 21:16:14 FR6NO5Du
 後れ足を最後の階段から離す。真紅を抱えながらの移動は些か厳しかったようだ。乱れ
た息を整えることに少し時間を費やす。教室のドアは開いていた。
「ヴァリエールです。ただいま戻りました」
「おや、待っていたよ。早く入りなさい」
 そういえば、監督はミスタ・コルベールだった。今どき流行らない、生徒思いの良い先
生だ。終わってみて、使い魔召喚の儀の監督が彼で良かった。
「ゼロのルイズじゃないか。道草でもしてたのか? 広場からこの教室まで、障害物は無
かったはずだよ。少し息が上がってるじゃないか」入り口に近い席に座る生徒が、私の悪
口を言った。声音で誰だか解ったので、見ても不快になるだけの顔は見ない。代わりに彼
の隣の、敷かれたハンカチに座っている使い魔を見る。ねずみだ。
「ごめんなさい。授業中だし、話があるならまた今度にして」
 そう言って、私は彼の前を通る。他の生徒の目がなければ、不躾にも、鼻で笑ってし
まっていたかもしれない。
 教壇まで歩き、簡素な椅子に座るミスタ・コルベールの前に立った。彼の手の中には、
生徒全員の使い魔の種族が書かれていると思しき紙と、それが貼り付けられた板がある。
私以外の欄はもう埋まっているのか、彼は提出用の紙を渡すことなく、「口頭でかまわな
いよ」と言った。
「彼女はローゼンメイデンという種族で、真紅と言います」
 ミスタ・コルベールがさらさらと書き取る。ローゼンメイデン、小人? 少女の姿。こ
ういうメモが付け加えられた。あまり綺麗ではないが、どこか味のある字だ。中年で髪の
貧しい教師だが、見た目通りの字を書くのだな。そう思った。
 少し意識が他所に行っているのを見咎めたのか、声が私の耳を打つ。
「何の話?」視線を手元に落とせば、真紅が私の顔を見ている。
「私の使い魔が誰か、っていう話よ」
「……卑怯なのだわ」彼女は拗ねたように眉を寄せ、唇を尖らせた。
「そういう授業なんだもの」
 私の腕の中で、小さなあごを引き、僅かに膨らんだ頬が愛らしい。ずるをしたという自
覚はあったが、仲違いはしたくない。下僕は駄目だ。下僕は駄目だが、どこかに妥協点を
見つけられはしないだろうか。
「ああ、そうだ。小さいとはいえ、君が召喚したのはその、女性だろう?」
 教壇の前で、少ないやり取りとは言え立ち話をしてしまった私たちに、ミスタ・コル
ベールが言った。何かを躊躇うように口を噤み、一拍の間を置いてもごもごと動かした。
「ええと……いや、ほら。解ってくれ。その場で印がどこに刻まれたか、調べるわけにも
いかないというか……」額や手の甲に印が現れたならともかく、と彼は付け加えた。
 確かに。青空の下で淑女の服を脱がせるだなんて、そんな馬鹿なことはない。私は真紅
を上手い具合に抱えなおして、軽く頭を下げた。
「解りました。後で確認しておきます」
「ああ、頼むよ。問題はないと思うが、何かあったら私か、そうでなければ女性の教師を
探して相談しなさい」
「はい」私は少し笑みを漏らして、頷いた。やはり良い先生だ。

905:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 21:17:55 COR0ehql
支援ッ

906:ドキドキ☆第五ドール真紅のレズビアン・レッスン 3/3
08/03/22 21:18:51 FR6NO5Du
 
 インクの海にペンの先を漬け込んで、打っては寄せる黒い波。またやってしまった。私
はため息と共に塵紙を取り出して、ペン先をぬぐう。光の角度によって青くも黒くも見え
る愛用のインクが一際青く見えるとき、私は無性にそれを波が立つまでかき混ぜたくなる
のだ。悪癖だという自覚はあるが、なかなかどうして直らないものだった。
「何をしているの?」ベッドに腰掛けた真紅が言う。
「日記を書くの。お昼だけど」
 そう、昼間だけれど。部屋に戻って、マントを壁にかけ、私はポケットから出した手帳
を机に置いた。母の助言が沢山書かれた手帳だった。そして、インクにペンをつけた。今
日の成功を、書き残して置こうと思ったのだ。記憶は鮮明な方が良い。幸い今日の午後に
は用事がなかったし、まだ昼だというのに、書きたいことが沢山頭に浮かんで消えていく。
全て消えてしまう前に、出来るだけ残しておきたい。
 ふとした拍子に、インクのキャップが机から落ちた。ベッドの近く、真紅の足元まで転
がっていく。
「あ、真紅、取って。お願い」机を向いたまま言ってみる。
 真紅は一言頷いてから、短い体をぐっと伸ばして床に降り立ち、音を立てずにキャップ
を拾い上げたようだった。そのままとことこと私のところまでやってくる。
「はい。不注意ね」
「ありがとう、うん。気をつけるわ」
 背伸びして私にキャップを差し出す彼女の姿が愛らしかったこともあるが、それは小さ
いことだ。私の声一つでベッドから立ち上がり、キャップを拾い、ここまで持ってきた。
私のために何かをしたということが重要なのだ。
 初めはどうなるかと思われたが、次第に使い魔の立場を解ってきたようだ。私はこの文
を手帳の最後に記して、ペンを置いた。夜にまた書くので、スペースは半分空けておく。
「あ、そうだわ。ルイズ?」再びベッドに腰を据えた真紅が言う。
「なあに?」
「膝掛けが欲しいの。あなた、ハンカチを一枚貸して」
「良いわよ」
 私はペン立てにペンを預け、椅子から立ち上がった。淑女としてポケットにも一枚用意
してはいたが、自室に居るのだし、そもそもポケットに入れたハンカチは人に貸す物では
ない。箪笥から白いそれを一枚出して、ついでとばかりに真紅の膝にかけてやった。
 真紅が私の顔を見る。結んであった唇が開く。さあ、使い魔らしく主人に礼を言いなさ
い。頭はきっちり六十度下げて、ありがとうご主人様。こうよ。
「ありがとう。下僕の立場が解ってきたようね」
 私は椅子に座りなおし、閉じた手帳を開いた。そして最後の一文に取り消し線を引いた。

907:ドキドキ☆第五ドール真紅のレズビアン・レッスン
08/03/22 21:20:28 FR6NO5Du
投下終了です。
ありがとうございました。

>>901さんを支援

908:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/22 21:30:21 ZxCjMKCT
すげえ、真紅とルイズ、二人ともタチだわ。
近い将来お互いを牽制し過ぎて、回りからレズだと思われてしまう気がする。
デレる姿がまったく想像できないのが凄い、ぐっじょぶです。

909:アクマがこんにちわ
08/03/22 21:33:23 d4hj84sF
「あんた誰?」

はじめに視界に入ったのは、抜けるような青空だった。
そのとき自分は呆けていたのだろう、口を半開きにして、頭にクエスチョンマークを浮かべていた気がする。

「ちょっと、何か言いなさいよ?」

空は青い。
ボルテクス界の淀んだ明かりではなく、敵意を含んだ光でもなく、ひたすら重く暗い闇でもなく、ただひたすらに青い。

「ちょっと!聞いてないの?」
「ミス・ヴァリエール、下がりなさい」

視線をほんの少し下げると、ほんの三メートルぐらい向こうに、ピンク色の頭髪を持ちマントを付けた少女がいた。
その少女の肩に、おでこと頭頂部を中心に肌色が見える細面の中年男性が手を置いて、少女を下がらせようとしていた。

「で、でも、召喚が」
「下がりなさい」

男性は先ほどよりも静かな、それでいて強い意志を秘めた言葉で少女を下がらせる。
その瞳は殺気こそ含んでいないものの、警戒心を決してゆるめない強靱な意志を感じさせていた。
それよりももっと後ろの方では、遠巻きに少年少女達がこちらを見ている、よく見るとバグベアーやサラマンダー、フクロウにカエル、竜のような生き物までこちらを注視していた。
少年少女達は、年の頃14~18だろう、それに比べて目の前に立つ頭の禿げた男性は明らかに年長者だ。

「……貴方は何者ですか?言葉が通じるのなら、返答して頂きたいのですが」

「へっ?」

俺は思わず、気の抜けた返事をしてしまった。
改めて目の前の男性を見る、相変わらず気を抜かずこちらを見据えて、右手に何か棒のような物を持っている。
周囲は草原、ビルも見えなければカグヅチの光も見えない、そして闇の行き着く先にあった皆既日食のようなものも無い。
何よりも大地が…大地がどこまでも広がっている。

「えーと、あの、すいません。ここ、どこですか?」
「ここはトリステイン、魔法学院の管理する草原です」
「トリステイン?」
「はい」

頭の禿げた人が俺の質問に答えてくれる、最初は警戒心が強そうな怖い人かと思ったが、もしかしたら悪い人じゃないかもしれない。そう考えて俺は照れ隠しに後頭部をポリポリと掻いた。

「!」

照れ隠しの動作にも、頭の禿げた人は過敏に反応する、棒のような物を一瞬だけぶれさせたが、その先端は明らかに俺の胸、首、口を狙っている…って言うかもしかして俺は警戒されているのだろうか?

「あのー、ちょっとお伺いしたいんですが、わたしはどうしてこのような場所にいるんでしょうか」
「……それは、ここトリステイン魔法学院で行われた儀式のためです」

儀式とは、何の儀式だろう?そう思った俺が質問すると、先ほど禿げの男性に下がらせられた少女が俺の前に立ちはだかり、言葉を遮った。
「儀式、ですか。それって何の」
「使い魔召喚の儀式よ! 言葉が通じてるならちゃんと質問に」
「ミス・ヴァリエール!下がりなさい!」

禿頭の男性は、ピンク髪の少女を咄嗟に下がらせた。
どうやらあの少女はミス・ヴァリエールと言うらしい、でもミスってのは未婚の女性のことだよな、ということはヴァリエールって名字か名前だろう。
しかしちょっと待って欲しい、今とても聞き捨てならない単語が出てきた気がする。

910:アクマがこんにちわ
08/03/22 21:34:12 d4hj84sF
「使い魔召喚って…え? じゃあ、まさか俺呼ばれたの!?その、召喚で!?」
「………」

辺りをキョロキョロ見回しながら狼狽える俺を見て呆れたのか、少女は不機嫌そうに眉をひそめて俺を睨んだ。
禿頭の男性も呆気にとられたのか、口を半開きにしている。

「ミスタ・コルベール!召喚のやり直しをさせてください!こんな変な格好をした平民が召喚されるなんて、間違いです!」
「ななな、なんと!」

ヴァリエールという少女が禿頭のミスタ・コルベールに詰め寄る、変な格好とはまた酷い言われようだ、思わず心中で『おまえらの髪の毛の色も変じゃ!』とツッコミを入れたかったが、大人としてちょっと情けない気がしたので我慢した。

「待ちなさい。とにかく、一度オールド・オスマンに相談をしましょう!」
「で、ですが…」

納得いかない、といった顔でこちらの顔を伺う少女と、何か腫れ物をさわるような目つきでこちらをチラ見するコルベールさん。
このままだと話が進まなそうなので、とりあえずこちらからもう一度質問してみた。

「とりあえず、ここに呼ばれた経緯とかをもうちょっと細かく説明してください。それと……あんまり考えたくないんですが、後ろにいるドラゴンとか、うねうねした動物たちも『召喚』されたんですよね?」
「え、ええ」

引きつった笑顔で答えるコルベールさん。その表情にはどこか申し訳なさも感じられた。
それにしても皮肉な物だなあ…と思ってしまう。今まで仲魔を集め、時には力でねじ伏せて言うことを聞かせ、必要な時に呼び出して利用してきた。
そんな自分が召喚されてしまった、これもきっと仕方のない事だろう、いつの間にか俺は半人半魔から、ただの悪魔になってしまったのだ。
……半人半魔と言えば、ダンテならこの少女にも『格好いい』なんて言われてただろうか?もうちょっと格好いい姿になりたかったなあ。

「とりあえず、トリステイン魔法学院の責任者に会って頂きたいのですが、よろしいですかな?」
変な妄想に囚われた俺に、おそるおそる声をかけてくるコルベールさん。
「わかりました。ええと…コルベールさんでしたっけ」
「はい。自己紹介が遅れました。私はジャン・コルベール。トリステイン魔法学院の教師です。今回行われた『春の召喚の儀式』で引率を勤めています」
「へえ、教師…ってことはこの子も後ろの皆さんも生徒?うわー国際色豊かだなあ」
「国際色ですか…まあ留学生もおりますから、あながち間違いではありませんが。歩きながら話を続けてもよろしいですか?」
「ええ、お願いします。いやあ僕召喚されるなんて初めてなんでびっくりしちゃって…」
ちょっとだけうち解けたのか、コルベールさんは笑顔を見せてくれた。
でもヴァリエールさんは俺を睨んでた、ちょっと悲しい。
このままでは悲しい気もするので、俺は勇気を出して少女の前に手を出した。

「俺は……人修羅。よかったら君の名前も教えてくれないか」

「……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

少女の名前は長かった。覚えきれないからルイズと呼ぼう、ルイズちゃんは俺の差し出したてを一瞥すると、不機嫌さを隠さずにそっぽを向いて歩き出してしまった。
…俺はやっぱり変態とか変人だとか思われてるんだろうか、ボルテクス界で洋服拾っておけば良かったかなあ。

911:アクマがこんにちわ
08/03/22 21:35:43 d4hj84sF
■■■

トリステイン魔法学院は、ハルケギニアというこの世界でも由緒正しい魔法学院らしい。
コルベールさんがそんなことを話してくれた。
折角だから学生だった頃を思い出してコルベール先生と呼ばせてもらうことしたら、ひどく驚いた様子だったが気にしない。
コルベール先生は、ドラゴンを従えた青い髪の小柄な少女と、ポケモンより大きそうな火トカゲを従えた学生とは思えない色気の女性に何かを言付けていた。
青い髪の少女は一言で言ってロリだ。もう一人は赤い髪の毛に褐色の肌、ものすごく健康的な大人の女って感じだ。

二人と、他の生徒さんたちは皆空を飛んで行ってしまった。
人って空を飛べるの!?と驚いた、呆れた。
正直言って、メギドやディアの魔法より、空を飛ぶ魔法を覚えてみたかった。
空を飛ぶ魔法が俺にも使えるなら、是非覚えたい。タケコ○ターで空を飛ぶ夢がちょっと違う形で叶うかもしれないのだから。

前を歩くルイズちゃんを見る、ボリュームのあるピンク色の髪の毛が力なく揺れていた、考えてみればこの子もけっこう綺麗だ、不機嫌そうな表情が笑顔になったらグッと来ちゃうんじゃないだろうか?
それにしても髪の毛の色が多種多様でしかも鮮やかだ、染めているのか気になったが、コルベール先生がそれを否定してくれた。
古くから血を継承し続けている貴族は、皆特徴的な色を継承しているらしい、貴族ではないが黒髪の人も茶髪の人もいるとか。

「ところでコルベール先生、俺みたいにこの…模様みたいなのが入った人っていますか?」
「いや…それは私の知る限りでは見たことはありませんね。東方や南方には、こことは異なった風習の人も住んでいると言われています、そういった人達ならあり得るかも知れませんが」
「なるほど」

こんな調子で、コルベールさんはいろんな質問に答えてくれた。
ハルケギニアという世界、東方にあると言われるロバ・アル・カリイエ、ハルケギニアの貴族の祖となった始祖ブリミル。
改めてここが別の世界なんだと思いつつ、空を見上げた。

空は青くて、雲が時々流れてくる。
澄んだ青空の下を歩ける幸福感は、すぐ別の、申し訳ないという感情に変化してしまった。
先生と、千晶、勇……自分のせいで再生することもなく滅んでしまった東京、日本、世界に申し訳が無くて、心の中で『ごめん』と呟いた。


■■■


魔法学院の本塔。
ビルみたいに大きい塔の中に、学院長の部屋があった。
コルベール先生に連れられて部屋に入ろうとしたが、その前にルイズちゃんは部屋で待機するようにと言われ、眼鏡をかけたこれまた綺麗な女の人に連れ添われてどこかへ行ってしまった。
エメラルドグリーンの頭髪は、初めて見るとキツイ、けど二~三度まばたきをしているうちに慣れてしまった、だって美人なんだもんあのお姉さん…。

気を取り直して、学院長室に入ると、貴族が魔法を学ぶ学校らしく学院長室も綺麗に整えられていた。
悪魔になる前に、NHKの深夜放送で見たイギリスだかフランスだかのお城の一室に雰囲気が似ている気がする。

「ようこそ。ワシがこのトリステイン魔法学院の学院長オスマンじゃ」
「どうも。はじめまして。僕は人修羅といいます」

俺が名前を名乗ると、オスマンという老人は顎から伸びる長い髭を撫でながら、不思議そうな顔で俺を見た。
くすんだ紺色のローブに、長い杖、長い白髪と、口元をほとんど隠してしまう立派な髭、いかにも魔法使いって感じのオスマンさんを見て、俺は内心で『魔法使いだ!漫画みたいだ!』と叫びながら小躍りしたい気分だった。
とりあえず学院長というぐらいだからオスマン先生と呼ぼう。

「ふーむ……君がミス・ヴァリエールに召喚されたのかね?」
「自分ではよく解らないんですが……コルベール先生が一部始終を見ていたらしいですし、僕も仲魔を召喚していたことがあるので、僕も同じように召喚されたんじゃないかと思っています」
「ふむ。コルベール君から話を聞いたかもしれんが、君のような魔力を持つ存在が召喚された前例は、ワシの知る限りでは存在しないんじゃ。コルベール君が君を警戒したかもしれんが、生徒の安全を思ってのことじゃ、許してくれないかのう」
「はぁ……そうなんですか」

912:アクマがこんにちわ
08/03/22 21:37:27 d4hj84sF
思わずため息をついてしまった。
危険物扱いされているのはうすうす感づいていたが、改めて言われるとちょっとショックだ。
ハルケギニアという世界に聞き覚えはないが、ここにいる人たちは間違いなく『人間』だ。
久しぶりに人間と会話できて喜んでいたが、その人間から危険視されてしまうこの現実が辛かった。

「ところで、俺の扱いはどうなるんですか?召喚された以上は、無茶な事でない限りあのルイズって女の子につきますけど」

俺がそう言うと、コルベール先生とオスマン先生は驚いたような顔をした。
「使い魔になるというのかね?」
オスマン先生はテーブルに肘を突いて、こちらをのぞき込むように身体を前に傾けた。
「条件次第ですかね。コルベール先生が教えてくれましたけど、この世界の使い魔ってメイジと一生を共にするとか……それが僕の考えてる『仲魔』とは違うんで、説明をしてほしいんです」
「ふぅむ…そうじゃなあ、まず、サモン・サーヴァントについて説明しておかねば」


オスマン先生との話では、サモン・サーヴァントは使い魔を『ハルケギニアから呼び出す』ものであり、別の世界から呼び出されることは無いらしい。
それだと自分が呼ばれた説明が付かない…と思ったが、ハルケギニアでアクマが召喚されるようなことでもあれば、俺が呼び出される可能性はゼロではない。
もっともその場合、この世界には俺の仲魔も召喚されているかもしれないのだが……アマラやボルテクス、仲魔などの言葉が知られていないので、その可能性は低いだろう。
何らかの要因で、突発的に、俺だけがこの世界に呼ばれてしまった…そう考えた方がいいかもしれない。

ついでに、『風韻竜』『エルフ』といった単語に心当たりがあるかとも聞かれた。
エルフはまあ存在しないことも無いが、この世界で言われているエルフはサハラという砂漠に住む存在らしいので、俺が知っている仲魔とは違うだろう。
風韻竜についてはまったく心当たりがない、風韻竜とは人語を理解する程の知能を持ち、もはや存在しないと言われる希少種らしい。
『夕飯に中国料理が食べたい』と言って青龍を困らせていた俺には、喋る竜なんて珍しいと思わなかったが、この世界では違うようだ。

話が進み、俺が半人半魔の存在だと話したところで、何かひらめいたのかコルベール先生が「それが原因かもしれません」と呟いた。
亜人と呼ばれる人間に近い存在なら、召喚されることもあるらしい、つまり俺は人間としてではなく悪魔として呼び出されたのではないか…とのことだった。

サモン・サーヴァントで召喚される使い魔は、メイジと一心同体であり、使い魔の契約は一生の物、そして未だ才能の開花しないメイジにとっては、メイジの性質や方向性を決める大事な存在でもあるらしい。

魔法学院では二年目からより専門的な分野の学習をするので、二年生への進級テストを兼ねた使い魔召喚の儀式で、その生徒の力や方向性を見るそうだ。

…俺って何だろ?
車椅子に乗った、金髪の老紳士は俺を見て『新たな闇の悪魔が産まれたのだ』と言ってたから、俺の属性は闇なのだろうか?
でも、それはおかしい。
俺が得意とする技『破邪の光弾』はその名前の通り邪悪を排する、けれどその一方で『ベノンザッパー』みたいに毒々しい技も使える、仲魔だって魔神もいれば天使もいる。
あえて言うならカオスだろう。

…ルイズって子は、魔神と神を従えた俺を召喚した。
どういう事だ?

「すみません、あのルイズって子について質問があるんですけど」

913:アクマがこんにちわ
08/03/22 21:39:07 d4hj84sF
■■■

「…………。」
人修羅が学院長室で話し込んでいる頃、ルイズは自室の椅子に座っていた。
両手は膝の上で握りしめられており、服にはいくつもの涙の痕がある。
ルイズは泣いていた。

自分が召喚した使い魔が、変な格好の平民だった。
他の同級生達は皆ちゃんとした動物を召喚している、しかもその中には風竜や、サラマンダーまで存在していた。

ルイズは、使い魔召喚の儀式に尋常ならざる意気込みで挑んでいた。

メイジとして、魔法を行使する貴族として、自分の魔法を知る最後の機会がこの『使い魔召喚の儀式』だった。
もし風竜などのドラゴン種が召喚されていたら?きっと意気揚々としてその背に飛び乗り、魔法学院に帰ってきただろう。
だが実際はそんなに甘くなかった。

表れたのは平民、上半身が裸で、黒いズボンをはいていた。
あの奇妙な姿からすると、東の果てや、西の海の向こうに居ると言われる蛮族かもしれない。

しかもそいつは、ミスタ・コルベールの手で学院長室に連れて行かれてしまった。
平民が召喚されるなんて話は古今東西聞いたことがない、たぶん、あの平民の処遇をどうするのかを学院長達が話し合っているのだろう。

…もし、召喚が失敗したとみなされたら、自分は進級できなくなる。
二学年になれず、一学年をやり直すことになる。
使い魔召喚の失敗は、二学年進級試験の失敗でもあるのだから、情けなくて涙が出てくる。

ルイズは思う。
使い魔の召喚に失敗しなければ、今頃は…いや、使い魔の召喚に失敗したなら、やり直せばいい、やり直したい、もう一度召喚すればいい!

ルイズはマジカルタクトと呼ばれる杖を手に取り、それを撫でた。
魔法を使うには杖が必要であり、杖がなければ魔法を使うことはできない。
杖に向かって、ルイズは何度も何度も念じた、今度こそ、今度こそ成功してくれと。

「宇宙の果ての、どこかにいる、私の使い魔よ……」


■■■


「爆発ですか…そりゃ何て言うか、過激ですね」
人修羅の言葉に、コルベール先生が同意する。
「ええ。原因が全く分からずに難儀しておりますが、とにかくミス・ヴァリエールは魔法が成功せず、いつもいつも爆発させてしまうのです」

そう言いつつ、コルベール先生は杖の先端に灯した火を消した。
先生が簡単な魔法を見せてくれたおかげで、ボルテクス界で使っていた魔法や技とちがう、別の魔法の世界だというのがよく理解できた。

そのお返しとして、吹雪を作る魔法『ブフ』を胸の前だけで行使し、氷を作り出す。
その様子に二人ともものすごく驚いたようだったが、あんな簡単に空を飛ぶこの世界の方が驚きだ。
後で俺も空を飛べるか聞いてみよう。

「ミスタ・人修羅。そちらにとっては不本意かもしれんが、我々はサモン・サーヴァントで呼び出した使い魔を一生のパートナーとする。元の世界に帰す方法は研究されていないのじゃよ。衣食住はこちらで保証するので、返る方法が解るまで大人しくしていてくれないかね」
「人修羅で結構です、ミスタなんて呼ばれるのはなんかむず痒いですし…。それに俺が変なことしたら、俺を呼び出したルイズさん迷惑がかかるでしょう」
「そう言ってくれるとありがたい」
オスマン先生は人の良さそうな笑みを浮かべた、つられて俺も笑顔になる、何て言うかこの人も悪い人じゃ無さそうだ、ボルテクス界で感じたような邪気がまったく感じられないし…。

「あ、そうだ、ルイズさん…じゃなかった、ルイズさんは今後どうするんでしょうか、なんか俺、嫌われちゃったかもしれないんですけど」
「それについてはワシから直接話そう、人修羅…くんを呼び出したというだけでも驚くべき事じゃし、使い魔召喚の儀式を再度行わせるなどして調節することになるじゃろうなあ」
「それが失敗したら落第ですか?」
「…残念じゃがそう言うことになるのう」
「あのう……ルイズさんがなぜ魔法を失敗するのか、それを解決できるか解りませんが…何か手伝えることはありませんか?」

914:アクマがこんにちわ
08/03/22 21:41:34 d4hj84sF
俺の言葉に、オスマン先生とコルベール先生がまたもや驚いた顔をする。
もしかして俺は甘い言葉で小学生を誘拐する誘拐犯のような存在だと思われてるんだろうか、だとしたら凄くショックだ。

「すまんが、こちらから質問させてくれんか、君はなぜそこまでしてくれるのだね?」
オスマン先生がテーブルに肘を突いて、身を乗り出すようにして質問してきた。

「…まあ、先ほども説明しましたけど、世界を破滅させて作り替える儀式に巻き込まれて、半分悪魔になってしまった俺は、人間のいない世界で悪魔や精霊や妖精や…
とにかく人間とは違う存在と戦ったり、仲魔になったりして暮らしてきたんです。久しぶりに人間に会えたんですから、その機会をくれたルイズさんには感謝しないと」

「なんとまあ。いまどき見上げた心がけじゃなあ」
呆れたように呟くオスマン先生。
「いやはや、人は見かけによらないと言いますが…。」
こちらも呆れたように呟くコルベール先生。
二人とも俺のことどんな風に見てたんだろう。

苦笑いを浮かべた俺の目の前に、光り輝く鏡のようなものが突然あらわれた。

■■■

目の前には、サモン・サーヴァントによって開かれた、使い魔召喚のゲートが浮かんでいる。
部屋の中に大きな使い魔が召喚されたらどうなってしまうのか、まったく考えていなかった。
ルイズは、自分の部屋の中にあらわれた召喚ゲートをまじまじと見つめた。

いったいここから、何が出てくるのだろうか、小さな猫だろうか、ネズミだろうか、トカゲだろうか、それとも大きなミノタウロスやドラゴンだろうか、それとも亜人だろうか?
ゲートが開かれてからまだ十秒しか経っていないのに、ルイズにとってはそれが一時間にも感じられた。
頭の中では、めまぐるしい勢いで、いろいろな言葉が浮かんでいる。
その中には八つ当たりもあり、始祖ブリミルへの懇願もあった。

(どんな使い魔でも文句は言いません!だから、今度こそ成功してっ……)

ルイズは、泣きはらした眼と、まぶたの周辺を赤く腫れさせながら、唇をかみしめて必死で祈っていた。

そこに、ぬっ…と、先ほどと同じ奇妙な格好をした平民が、身体にいくつもの線を描いた平民が姿を現した。

■■■

ゲートをくぐり抜けると、そこにはルイズさんがいた。
ルイズさんは、この世界では高校二年に相当する年齢らしい、あの草原で見かけた青い髪の毛の少女は、この娘よりさらに小さかったが、発育の差異だと思えば納得できる。

そんなことを考えながら、ルイズさんの前に立つ。
薄暗い部屋の中で、俺の身体を走るいくつもの線が青白く、ぼんやりと光を放っていた。
呆然としていたルイズさんは、はぁとため息をつくと、右手に掲げていた杖を力なく降ろした。

落胆されている。そう感じた俺は、どんな風に声をかけて良いか思いつかないまま、膝を突いて目線を合わせた。

『使い魔になってやろう!』では傲慢すぎる。
『使い魔にしてください』ではちょっと俺の立場が弱くなるかもしれない。
『踏んでください!』だめだ、俺にそんな趣味はない、無いはずだ。

俺は、上手い言葉が思いつかないので、そっとルイズさんの右手を左手で優しく掴み、その上に右手を重ねて、ルイズさんの手のひらを包み込んだ。

「ルイズさん…だよね。改めてこんにちは。俺は『人修羅』。今後とも、よろしく…」


第一話おわり


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