08/03/21 00:52:34 7ZBt7v+F
虚無の使い魔の名前は北欧神話の精霊からですねー
たぶん(ぁ
351:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 00:52:48 qg/Cjrj6
>>338
大日如来
そして支援
352:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 00:53:20 pBBCWgeI
よく考えたらレナスが「私は神だ!」とか言い出したら
世界違うんだから邪神扱いされたあげく
下手すりゃルイズが魔女狩りくらって
散々輪姦されたあげく見せしめに火あぶりとかなりませんかね
なんつーかこの世界の貴族は腐った奴が多いからなあ……
頭がパーフェクパーフェクフリーズ支援
353:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 00:53:35 DBciDspB
>>349 ゆうこ2花映塚?
354:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 00:53:56 NsXByg0V
氷支援
355:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 00:55:48 Q4s8jHnw
関係ないけど奥様は魔女だと男は魔法使いで女は魔女。
356:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 00:56:06 mPKzXrXM
>>338
小ネタでグローランサの疫病神マリア様
氷精といえば雪女を召喚させたいのう、ぬらりひょんの孫の
そして支援
357:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 00:58:22 bv3kg+4V
>>345
来るのは確実ですよ、それとも「既に来ている」のかも(ジョゼフに召喚されて)
でも変態メガネが来たら…ルイズはかなりヤバイな
「愛しのヴァルキリー」にあんな事やこんな事やらせる訳だから「死ぬよりも酷い目」は確実
不死者化されて各種拷問用生物で……寒気がするぜ
358:⑨な使い魔
08/03/21 00:58:23 ObgiKrVQ
自分で10分後と言っておきながら投下遅れましたorz
投下開始します。
359:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 00:59:56 N5JZ2H6d
ちょwww⑨ってwwwwまさかwww
支援
360:⑨な使い魔
08/03/21 01:00:45 ObgiKrVQ
「宇宙の(ry」
もうもうと立ち込める白煙の中から現れたのは、妖精でした。
「あたいは氷精チルノ!」
氷精?氷の精かしら?背中に生えてる羽みたいなものが氷みたいだから、きっとそうね。
苦節十数年、このルイズついにアタリを引きました。
今までゼロゼロと蔑んできた連中は地べたに這いつくばってごめんなさいと言うがいいわ。
チルノ?⑨だろ?
⑨!⑨!
⑨を召喚するとは流石ゼロのルイズ!
チルノっ、チルノっ、チルノちゃーん!
外野の反応は様々だ。おい、今ゼロとか言った奴後で校舎裏に来い。
361:⑨な使い魔
08/03/21 01:02:36 ObgiKrVQ
先生たちが何か騒いでいるけど、何かあったのかしら?
あの方向はさっき私をバカにした奴を失敗魔法で吹っ飛ばしてみた方向だけど…
後ろから仕掛けたから、気付かれないわよね。
そんなことはどうでもいいとして、安心したらお腹が空いたわ。今日のお昼は何かしら?
そういえば妖精って何食べるんだろ?
さすがに他の使い魔に与えるようなものという訳にはいかないだろうし…
普通のご飯でいいのかしら。後でメイドに頼んでみましょう。
授業が終わって部屋に戻る時、通りすがりのメイドが畏まってお礼を言ってきた。
なんでも、チルノのおかげで食品の日持ちがよくなって、経費が減ったとか。
後でコック長が正式にお礼を言いに来るとか言ってたけど、面倒だし断ったわ。
別に私がやった訳じゃないしね。
他にも果物のシャーベットを作ったりしてるみたいだから、平民には受けがいいみたいね。
べっ、別に今日出たデザートのシャーベットが美味しかったから言ってる訳じゃないんだからねっ!
362:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:05:06 JwyKR3c/
コック長がパット長に見えた
支援
363:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:08:31 DBciDspB
>>362
一瞬PADが目に写ったのは種のない手品ですね
ちょっと来客らしい、こんな真夜中に誰だろう見てきますね
364:⑨な使い魔
08/03/21 01:08:51 ObgiKrVQ
その後もチルノは使い魔として本当によく働いたわ。
ちょっと頭が足りないところもあるけど、ギーシュのゴーレムを弾幕?とかいうので蹴散らしたり、
色々あって実は裏切り者だと判明したワルド様を風の偏在含めてはたき落としたり。
そうそう、アルビオンで私が虚無の担い手だということもわかったんだっけ。
…何かちょっとはしょりすぎたような気もするけど、別にいいわよね。誰が困る訳でもなし。
今の私たちは、祖国を救った英雄として「ゆにっと」というものを組んで各地を回っている。
チルノ曰く、「みんなのアイドルになれる仕事」らしい。そういうものなんだ。
一番のヒット曲は「おてんば☆ラヴガール」。
雑務を任せているシエスタによると、毎日飛ぶように売れて売り上げも上々らしい。
私たちの名声はトリステインのみならずゲルマニア、果てはガリアやロマリアにも広まっている。
エルフにまで広まってるとか聞いたけど、本当かしら?
順風満帆、すべて世は事もなし。
さぁ、今日もステージが私たちを待っているわ!行くわよ、チルノ!
「「あたい(私)ってば最強ね!」」
365:⑨な使い魔
08/03/21 01:14:09 ObgiKrVQ
以上で投下終了です。支援ありがとうございました。
ちなみにチルノの脳内には、幻想郷に帰るという選択肢はハナからありません。
だって⑨ですもの。
それでは名無しさんの次回作をお楽しみにー。
そんな訳で失礼します。
366:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:26:36 W/v322ox
乙!&GJ
367:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:37:02 7ZBt7v+F
夜遅くで申し訳ないのですが、五分後に第二話、第三話を投下します。
今回はきっちり調整を済ませたのでスムーズに行くかと思います。
368:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:38:11 l16voRsK
⑨の人乙。
ヴァルプロの人、かかってこいやーっ!
369:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:41:12 QuBrISVO
ACのナインボールが来るのかと思った…
370:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:41:16 ObgiKrVQ
ヴァルプロの方、投下ペース速いですね。
自分も見習いたいですが、なかなかまとめるということができなくて。
支援支援
371:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:43:03 7ZBt7v+F
ゼロの戦乙女
第二話
廊下を挟んでルイズの向かい側に自室があるキュルケは、己が召喚
したサラマンダーにとても満足していた。
火竜山脈に住むサラマンダーの中でも一際大きく立派で、尻尾など
は見たことがない珍しい形状をしている。売るつもりなど無いが、好
事家に売ればおそらく値段はつけられないだろう。
「フレイム~」
ベッドに寝転がりながら機嫌のいい明るい声で使い魔を呼ぶと、オ
レンジ色の大きなトカゲに似た幻獣がベッドの傍に近寄ってくる。
「……格好いい」
キュルケに呼ばれて使い魔を見にきていた青い短髪の少女─タバ
サが、ベッドの上に腰掛けて本を読みながら、片目でちらりとフレイ
ムを見て無表情に感想を漏らす。
「でしょ? タバサの風竜には及ばないけど、あたしの属性にぴった
りの使い魔だと思わない?」
「……思う」
傍から見ればお前ら本当に友達かと突っ込みたくなるようなやり取
りだが、これが彼女たちの普通だった。
お互いの生活に過度に干渉しない程度の気遣いは持っているし、話
を聞く態度で一々文句をつけるほど子どもでもないから、結構これで
上手くやっていけている。
レナスが扉をすり抜けてきたのはそんな時だった。
ベッドの前で控えている使い魔に興味深そうな視線を送る。ベッド
にはキュルケとタバサがいるが、霊体化しているレナスは二人を気に
せずに堂々とフレイムを観察する。
『炎の幻獣? 見ない種類だな。新種か?』
霊体化していれば声も聞こえなくなるので、レナスは遠慮なく声を
出す。
突然の侵入者に、フレイムが慌てて振り向いた。
「フレイム?」
「……どうしたの?」
人間であるキュルケとタバサには霊体化しているレナスの姿は見え
ない。
フレイムをレナスは珍しそうにしげしげと眺める。
『霊体化した私が見えるのか? お前にしか見えないのか、使い魔な
らば誰でも見ることができるのか、実に興味深いな』
「フレイム? 何を見てるの?」
使い魔の尋常ならない雰囲気を察したか、キュルケが真剣な表情に
なる。
372:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:43:08 LQ3fhj4N
⑨の人乙
戦乙女支援
373:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:43:36 ABIdRU04
作成段階からカウント系の機能がしっかりしてるフリーのテキストエディタ使っとけ
行・文字数の制約にはそれが一番手っ取り早い
374:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:43:48 7ZBt7v+F
「……使い魔が何もいないところを見るのは何かがいる証拠」
本を読んでいたタバサは、本に栞を挟むと立て掛けていた身体に不
釣合いな大きな杖を取り、気配を探り始めた。
心なしか顔色が青い。
「もしかして、幽霊かしら?」
何もない空間に威嚇しているフレイムを見て、キュルケがピンとき
たように言うと、目に見えてタバサの目が泳ぎ出し、挙動不審になった。
(あっちゃー、そういえばこの子、お化けが苦手なんだっけ)
キュルケは杖を抜き放ちながら、普段の落ち着きが嘘のように動揺
しているタバサを己の後ろに追いやる。
『驚かせてしまったか。だが人間には見えていないようだな。……な
らば気にするほどのことでもない』
そう一人で合点したレナスはすぐに出ていこうとしたのだが、少し
茶目っ気を起こしてタバサの背後に回る。
動きに合わせてフレイムが頭を巡らし、タバサに向き直った。
「……移動した? こっち?」
動揺したタバサはフレイムの視線から逃れるため、ベッドの上を這
いずって壁際に移動する。
レナスはアイテム生成で『ウサギの足』を創り出し、移動している
途中のタバサの肩の上に実体化させ、マイペースに壁をすり抜けてい
った。
不意に肩に重みを感じたタバサが、四つん這いのまま肩に置かれた
ウサギの足をきょとんとした表情で見る。
「タバサ……それ、何?」
続いて、慄いて乾いた声で問い掛けるキュルケにぽかんとしたまま
顔を向ける。
ようやく事態を把握したタバサは、杖も本も放り投げてウサギの足
を振り払い、声無き絶叫を上げてベッドから転げ落ちた。
「ちょっ、大丈夫!?」
慌てて声をかけるキュルケに、タバサは腰が抜けたのか四つん這い
のまま反対側の部屋の隅に高速で這いずっていく。
「ああ、もう、何なのよ」
キュルケはベッドの上に落ちたウサギの足を拾うと、まじまじと見
た。
「何よ……よく見たらただの作り物のアクセサリーじゃない」
呆れたように息を吐くキュルケの傍に、レナスがいなくなって緊張
を緩めたフレイムが、のそのそと寄ってくる。
「タバサ、幽霊じゃなくて、ただの悪戯みたいよ?」
鼻先を摺り寄せてくる己の使い魔を撫でながら、キュルケがタバサ
に声をかける。
375:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:44:27 NyYSY+f4
我と共に生きるは冷厳なる勇者、支援!
376:ゼロの戦乙女 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:44:56 7ZBt7v+F
部屋の隅でキュルケの様子を震えながら窺っていたタバサは、キュ
ルケの言葉を聞くや否や、自分の杖とベッドに投げ出した本を持って
足早に部屋から出ようとした。
「何よ、もう帰るの?」
不満そうに言うキュルケに、タバサはドアに手をかけたまま振り返
り、何やらおどろおどろしい雰囲気で言った。
「……犯人、探して仕返しする」
キュルケとタバサの間の空気が凍り、二人の間に気まずい沈黙が流
れる。
「そ、そう……。気を付けてね」
無表情でもやる気満々なのが窺えて、キュルケは苦笑いした。
数刻後、犯人を見つけられずに肩を落として戻ってきたタバサを、
キュルケがあの手この手で慰める破目になったのは言うまでもない。
377:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:46:09 qpRNwlcY
市宴
378:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:47:11 W/v322ox
支援
379:ゼロの戦乙女第二話2/3 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:47:37 7ZBt7v+F
日が沈んだので実体化して部屋に戻ると、レナスはルイズによって
そのまま食堂に連れていかれた。
通称「アルヴィーズの食堂」と呼ばれるトリステイン魔法学院の食
堂は、ヴァルハラの豪華絢爛な建物に見慣れているレナスの目を持っ
てしても、遜色ないと思えるものだった。
テーブルには灯りとしてなのか、いくつもの蝋燭が均等に並べられ、
揺らめいた光が幻想的な光景を作り出している。また、所々に花が飾
られ、見る者を目を楽しませている。
そして何よりも、晩餐に相応しい豪勢な料理の数々がテーブルに並
べられていた。
「見事なものね」
「でしょ? トリステインの貴族は、この魔法学院で魔法だけでなく
貴族に相応しい教養も身につけるの。この食堂もそのためのものなの
よ」
得意げなルイズの説明を聞いて、レナスは素直に感嘆した。
神々は本来食事を必要としないが、嗜好品としての需要は存在して
おり、現にヴァルハラでも祝勝会などが開かれた時には、酒や料理が
振舞われ、神々にとって数少ない娯楽の一つになっていた。
それはレナスにとっても例外ではなく、プラチナの記憶を取り戻し
た分、他の神々よりも食に対する欲求は強く、期待は否応無しに高ま
っていく。
そんなレナスを他所に、テーブルの合間を縫って、どこか得意げに
ルイズは歩いていき、空いている椅子の前で立ち止まってレナスを見
る。
椅子を引いて欲しいのだと理解したレナスが渋々椅子を引いてやる
と、ルイズは満足そうに優雅な動作で椅子に腰掛けた。
続いてレナスが隣に座ろうとするのを、素早くルイズが押し留める。
「この椅子に座っていいのは貴族だけなの。アンタはこっち」
指し示された指に合わせて視線を下げると、床の上に申し訳程度に
豆が浮いた塩スープと、古くなってかちかちに硬くなったパンが置い
てあった。
まるでプラチナとして生きた時代を再現したかのような献立に、レ
ナスの表情が曇る。
困った顔で己の食事とルイズの食事を交互に見るレナスを見て、ル
イズがこっそり拳を握った。
(召喚したての使い魔にはしつけが肝心。まずは食生活で主従関係を
きっちり思い知らせるのよ)
「……この扱いの差は何だ?」
感情を押さえて尋ねるレナスに、ルイズは当然のような顔を取り繕
って答える。
「そりゃ、私が貴族なのに対して、アンタが平民で使い魔だからよ。
本来なら使い魔はここに入れないんだから、入れてあげただけ感謝し
なさいよね」
尊大な態度で言うルイズは、レナスがきちんと主従関係を認めれば、
きちんそれなりのことはしてやるつもりだった。
(ほら、ご主人さまにすがりなさい! そうしたら恵んであげないで
もないんだからね!)
レナスは微妙に期待の篭ったルイズの視線を敢えて無視した。
380:ゼロの戦乙女第二話2/3 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:48:58 7ZBt7v+F
「……そういえば、今の私の立場は平民の使い魔だったな。食べられ
るものが出るだけマシということか」
ルイズを他所にレナスはため息をつくと、スープとパンの皿を持っ
て立ち上がる。
当てが外れたルイズは、きょとんとしてレナスを見上げた。
「食べないの?」
「ここでは食べにくい。外で食べてくるから、何かあったら呼べ」
「えっ!? ちょっと、待ちなさいよ─!」
何やら憤慨して騒ぐルイズを尻目に、レナスはルイズを置いて外に
出る。
外では夜空に星が煌き、それなりに落ち着いて食事ができそうだっ
た。
食堂の傍に座り込み、夜空を見上げながら硬いパンを齧る。
「そういえば、ここまで貧相な食事をするのは、プラチナだった頃以
来か……」
懐かしい記憶が甦り、レナスは感慨に耽った。
プラチナだった頃は家が貧乏で、ろくに食事をさせてもらえなかっ
た。
同じコリアンドル村に住んでいたルシオの家も同様で、ある日ルシオ
の妹が人買いに売られていったのを、レナスはおぼろげな記憶で覚え
ていた。
十四歳で神界に招致されてしまったので、ここまで貧しい食事はそ
れから取ったことがない。
戦乙女である今は無理に食事をする必要などないのだが、レナスは
何故かそうする気にはなれず、黙々と食事を続ける。献立は貧相でも、
彼女なりに懐かしい味を楽しんでいたのかもしれない。
そう考えると、具が豆しかない塩スープも何故か美味しく感じられ
た。
「……悪くはないわ」
レナスの表情が緩む。
量が少ないので、久しぶりの食事は呆気なく終わった。
暇を持て余して夜空を眺めていると、横合いから声をかけられる。
「あの、こんな所で何してるんですか?」
振り向くと、メイド服を着た短い黒髪の少女が、不思議そうな顔で
レナスを見下ろしていた。
おそらく平民だろう。まだ少女のようだが、貴族並みに恵まれた愛
らしい容姿とメイド服の上からでも分かる胸の膨らみが、将来への期
待を感じさせる。
レナスが口を開く前に、少女はレナスの横に置かれた空の食器に気
付いた。
「ああ、お食事をなさっていたんですね」
何か言う前に納得されたために会話が終わってしまったが、少女は
立ち去る様子がなく、興味深そうにレナスを見つめている。
381:ゼロの戦乙女第二話3/3 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:49:58 7ZBt7v+F
「私はこの魔法学院でご奉公させていただいているシエスタといいま
す。もしかして、ミス・ヴァリエールが召喚した平民の使い魔って、
あなたですか?」
おずおずと問い掛けてくる少女に、レナスは目を向けた。
どうやら、ルイズが平民の使い魔を召喚したという噂は、もうメイ
ドの耳にも入るほど広まっているらしい。
「……本当は平民ではないのだけれど」
プラチナの感情を引きずったまま、苦々しい顔で暗に肯定したレナ
スを、シエスタは興味深そうに見る。
「そうなんですか? じゃあ、使い魔さんはどんな人なんですか?」
ここでレナスは戯れを起こした。
この純朴そうな少女に、自分の正体を明かしてみたらどうなるだろ
うと、悪戯心を起こしたのだ。
「神よ」
シエスタは一瞬きょとんとしたあと、わあ、と喚声を上げる。
「神様なんですか!? 凄い!」
あっさりと信じたシエスタが意外で、かえってレナスの方が面食ら
ってしまった。
普通は自分のことを神だと豪語する人間は、その殆どが気違いだと
相場が決まっているものだ。実際に神であるレナスがそんなことを考
えるのは間違いかもしれないが、実際にプラチナだった頃はそう考え
ていたことを覚えている。
「信じるの?」
目を瞬いて思わず零した言葉に、シエスタは少し考え込むとにっこ
りと笑う。
「だって、召喚されたのが平民であるよりかは神様だった方がミス・
ヴァリエールだって嬉しいと思いますから」
レナスは驚いてまじまじと目の前の少女を見詰めた。
どうやらこのシエスタという少女は、純朴そうな外見だけでなく、
珍しいくらい思いやりに溢れた心の持ち主らしい。
戦乙女ヴァルキリーとして多くの人間の魂に接し、今もなおそのう
ちに個性的な二人のエインフェリアを抱えているレナスは、目の前の
少女に好感を抱いた。
「ありがとう。信じてくれたあなたに、何か礼をしたいわ」
淡い笑みを浮かべるレナスに、シエスタは慌てて胸の前で両手を振
る。
「いえ、私は何もしていませんし、お気遣いなく」
素朴で純真、さらには無欲な態度に、レナスのシエスタに対する好
感度が鰻上りに上昇した。
さらに笑みを深め、シエスタの手を握る。
「そんなこと言わずに、ぜひ受け取って。そうね、これなんてどう?」
382:ゼロの戦乙女第二話3/3 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:51:27 7ZBt7v+F
手持ちのアーティファクトから『黄金の鶏』を選び、マテリアライ
ズをかける。
その際にレナスの背中に現れた光の翼に、シエスタは息を飲んだ。
「綺麗……」
陶然とするシエスタに、マテリアライズを終えたレナスは光の翼を
消し、黄金の鶏を手渡す。
生命を感じさせる重みに、シエスタは慌てて黄金の鶏を抱えた。
「きゃっ……金色の……鶏?」
黄金の鶏はシエスタに抱きかかえられても鳴きもせず、暴れもせず
に大人しく腕の中に収まっている。
「それは黄金の鶏という生きたアーティファクトよ。しっかり世話を
すれば毎日『金の卵』を産んでくれる」
「こ、こんな貴重そうなものいただけません!」
なおも辞退しようとするシエスタに、レナスをゆっくりと首を横に
振る。
「あなたに貰って欲しいのよ」
シエスタは困りきった顔でレナスと己が抱える黄金の鶏を代わる代
わる見比べ、恐る恐る言った。
「い、いいんですか? 本当にこんなの貰っちゃって」
動揺のあまり恐縮するシエスタに、レナスは穏やかな気持ちで微笑
んだ。
「ええ。可愛がってやって」
シエスタは頬を真っ赤に紅潮させて叫ぶ。
「ありがとうございます、使い魔さん! 大切にしますね! ……あ
の、お名前を窺ってもよろしいですか!?」
自分を召喚したルイズとは違う、素直で奥ゆかしいシエスタの態度
に、レナスは好意的に己の本名を告げた。
「レナス・ヴァルキュリアよ」
「ではヴァルキュリアさまとお呼びしますね! 本当にありがとうご
ざいました!」
シエスタは尊敬の眼差しでレナスを見つめてお辞儀すると、黄金の
鶏を抱え、興奮冷め遣らぬ面持ちで食堂脇の厨房へ小走りに駆けてい
った。
その後ろ姿が完全に見えなくなってから、レナスもそろそろルイズ
がいる食堂に戻ろうかと思い、食器を持って立ち上がる。
「たまにはこういうのも、悪くはないかもしれない」
呟いたその声は、どこか楽しげだった。
383:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:52:56 qpRNwlcY
レナス太っ腹 支援
384:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:54:07 ESq6serg
シエスタにいきなり金持ちフラグが
385:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:54:58 4z5Yx4Pc
太っ腹すぎるwww
386:ゼロの戦乙女第二話3/3 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:55:28 7ZBt7v+F
第二話終了、最初タイトルに「第二話1/3」をつけ忘れましたorz
あと、一回目の2/3の最初は場が転換してます。「□ □ □」を入れて
区別するのをおくのを忘れてました。
第三話に続きます。
387:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:56:17 RV5BLcje BE:413424645-2BP(30)
>>386
乙!
そしてすかさず3話支援!
388:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:56:57 LQ3fhj4N
猫って偶に何もないトコ見てるよね!
支援
389:ゼロの戦乙女第三話1/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:56:59 7ZBt7v+F
ゼロの戦乙女
第三話
夕食が終わり、ルイズが寝静まったのを見計らって、レナスは学院
を飛び出した。
学院全体を遥かに見下ろせる高みにまで飛翔すると、全く見覚えの
ない地形が見渡せる。
そしてレナスの頭上には、大きな赤と小さな青の二つの月が輝いて
いた。
「聞き慣れぬ地名……二つの月……やはり、この世界はミッドガルド
ではないのか?」
彼女の呟きを聞くものは誰もいない。
少なくとも人間では。
「─そうみたいねぇ。ラグナロクが終わったのに、今度は異世界だ
なんて。退屈しなくて済みそうだけど」
「俺としては、戦えればそれでいいんだけどよ」
「アリューゼ……メルティーナ?」
何時の間にか、目を見開くレナスの目の前には二人の人間がいた。
いや、人間というには語弊があるだろう。何故なら、彼ら死んだ人
間の魂なのだから。
「やっぱ転生を拒否しといて正解だったわね。異世界の魔法かー、私
も覚えられるかしら?」
杖を持った女性の霊体─メルティーナが、興味深げに見慣れない
二つの月を眺める。
メルティーナは太股にまで届こうかという長さの、ダークブロンド
の髪が美しい女性だ。勝気そうな瞳は猫のように好奇心で輝き、シル
クの襟がついた袖のない単衣と民族衣装風のミニスカートという、か
なり肌が露わになった服装をしている。その代わりにシルクの長手袋と、太股までのタイツをつけているのだが、それでも太股や二の腕が
剥き出しになっているため、もし某魔法学院の学院長が彼女を見たら、
必ずセクハラしたくなるような魅力を醸し出している。
「もっとも、ヴァルキリーがあの嬢ちゃんの使い魔じゃあ、当分戦え
そうにないけどな」
つまらなさそうに鼻を鳴らすアリューゼは、華奢なメルティーナと
は対照的に、鍛え上げられた肉体を持つ大男だった。
青色のアーマーとガントレットで武装し、背中に背丈ほどもある巨
大な剣を背負っている。精悍な厳つい顔と、左目にかするようについ
た古傷が歴戦の凄みを感じさせる男だ。
彼の剣の腕は生前から凄腕の傭兵としてミッドガルド中に鳴り響い
ており、その剣腕は死してエインフェリアとなった今も全く衰えてい
ない。
彼らはレナスが最も信頼し、ラグナロクが終わった今も、転生させ
ずにエインフェリアとして残している人間たちだった。
レナスの内から見たルイズのことを思い出したか、メルティーナが
可笑しそうにニヤニヤする。
「それにしてもあのルイズって子、ヴァルキリーのことを本気でただ
の平民だと思ってたわねぇ。傍から見てて笑っちゃいそうだったわよ」
390:ゼロの戦乙女第三話1/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:57:55 7ZBt7v+F
使い魔にされた屈辱を思い出したか、レナスは驚いていた表情を消
してむっつり顔になる。
プラチナとしての記憶が解放されてから、妙に感情豊かになったレ
ナスにクスクスと笑いながらも、メルティーナは表情を真剣なものに
戻す。
「……で、どうなの? 使い魔契約は破棄できそう?」
メルティーナはどこか心配そうな顔でレナスの左手を見つめるが、
レナスは首を横に振る。
「どうだろうな。できるだろうが、今すぐには無理だろう。まずはこ
のルーンを調べてみなければどうとも言えん」
つまらなさそうにしていたアリューゼも、レナスの左手に視線を飛
ばしてため息をついた。
「破棄できなきゃこっちが困るぜ。異世界に来たのは別に構わねぇが、
俺がエインフェリアになったのは戦うためなんだからよ」
子どものお守りなんてごめんだぜ、と肩を竦めるアリューゼに、メ
ルティーナは呆れたような顔をした。
「ラグナロクが終わって随分経つのに、相変わらずの戦闘狂ねぇ、あ
んた」
「知識狂のお前が人のこと言えるかよ。ラグナロクから二十年間、飽
きもせずに魔術の研究ばっかしやがって」
負けじと言い返すアリューゼに、メルティーナは鼻で笑う。
391:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:58:48 W/v322ox
支援
392:ゼロの戦乙女第三話2/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 01:58:57 7ZBt7v+F
「当たり前よ。レザードに遅れを取ったままで済ませやしないわ」
結局、戦いと研究の違いはあれど、一つの事柄に狂っている点で二
人は似たもの同士だった。
二人のやり取りを、レナスは穏やかな表情で見守る。
嘗てアーリィに破れ、アストラルボディから精神のみが弾き飛ばさ
れた時、自分が助けを求めたのはこの二人だった。
それから続く三人の絆は、異世界に移動した今でも変わらない。
レナスは少しでも恩を返せたらいいと思い、これからを二人の意思
に委ねることにした。
「メルティーナ、アリューゼ。お前達はこの世界でしたいことはあるか?」
突然の質問に二人は面食らいながらも、思い思いに答える。
「私はやっぱり研究がしたいわ。まずはこの世界の魔法を調べて、で
きるなら使ってみたいわね。うまくやれば既存の魔法と組み合わせて
新しい魔法を編み出せるかもしれないし。ここは魔法学院らしいから、
私にはうってつけね」
「さっきも言ったが、俺は戦いだな。戦場に立てるなら言うことはね
えが、チャンスが来るまでは腕が鈍らないよう適当にやるさ。その代
わり、何かあったら必ず俺を使えよ、ヴァルキリー」
二人の意見を聞いたレナスは重々しく頷く。
「……そうか。では当面はそのようにしよう。その間、私はこの世界
を脱出する術を考えておく。ビフレストのように世界を繋ぐ場所がこ
の世界にもあればいいのだが」
深刻そうに呟くレナスに、メルティーナもまた腕を組んで考え込む。
「そうねぇ。永遠にここに留まっているわけにもいかないし、いつま
でもヴァルハラを放っておくわけにもいかないものね」
アリューゼがこきこきと首を鳴らしながらしかめっ面になった。
「ヴァルハラ側に見つけてもらうのを待つのが一番手っ取り早そうだ
がな」
同じく渋面になったレナスが困りきった様子で空を仰ぐ。
「だが、向こうに任せきりにしておくわけにもいかない。幸い、マス
ターとなった人間の証言で、私がこの世界の魔法によって召喚された
ことは分かっている。他の方法も探してはみるが、今はメルティーナ
の研究に頼るのがもっとも近道だろう。すまんな、メルティーナ。迷
惑をかけそうだ」
神妙な様子でメルティーナに小さく頭を下げるレナスに、メルティ
ーナは気の強そうな外見とは裏腹に、レナスを慈しむような微笑みを
浮かべる。
「私の趣味とも一致してるんだから、気にしないで。それよりも、明
日からは私たちも外に出ていい? 霊体でもいいから歩き回ってみた
いのよ」
断る理由のないレナスは快諾する。
393:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 01:59:17 2hhteJpw
戦乙女支援
394:ゼロの戦乙女第三話2/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 02:00:36 7ZBt7v+F
「構わない。だが、この世界の使い魔は霊体が見えるようだ。それに
だけ気をつけてくれ」
メルティーナは再び好奇心に目を輝かせた。
「使い魔か~。私もそのうちこの世界の生き物で使い魔を作ってみよ
うかしら?」
女二人が姦しい話をしていると、蚊帳の外に置かれていたアリュー
ゼがレナスに提案する。
「おい、この世界にも不死者はいるんだろ? なら腕試しに討伐に行
ってみねぇか?」
アリューゼらしい提案に、メルティーナも頷く。
「そうね、私もこの世界で魔法がどこまで通用するのか知りたいし。
私はアリューゼの意見に賛成よ、ヴァルキリー」
やる気になった二人の頼もしいエインフェリアに、レナスは微笑み
を浮かべた。
「そうだな。では、精神集中をして狩り出すとしようか」
「そうこなくっちゃ!」
「へっ、腕が鳴るぜ」
メルティーナとアリューゼの魂を内に戻し、レナスは目を瞑って精
神集中を開始した。
その夜、不死者ではないが、王都から遠く離れた村に被害を与えて
いたオーク鬼の群れが、謎の三人組に討伐されたという。
□ □ □
395:ゼロの戦乙女第三話3/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 02:01:40 7ZBt7v+F
朝起きると、見慣れない平民が部屋の床で毛布に包まって寝ていた。
「……ああ、昨日使い魔を召喚したんだっけ」
寝ぼけ眼を擦りながらベッドから上体を起こし、伸びをする。
使い魔は長い銀髪を中ほどから三つ編みにした状態のまま、着替え
もしないで寝たようだった。
事実は全く違うのだが、勿論ルイズはそんなことは知らない。
レナスの寝顔を見ていたルイズは、彼女が平民にしてはかなりの器
量好しであることに気付いた。
滑らかな光沢を放つ銀髪はとても長いのに櫛を通す必要なんてなさ
そうなくらい真っ直ぐだし、普段は無表情なので分かり辛いが、顔立
ちも女神像のように清楚で神秘的な造形だ。
身長もすらりと高く、それでいて高すぎるというほどでもない。体
型だってキュルケほどの凹凸はないが、出るところは出ていて、引っ
込むべきところはきちんと引っ込んでいる。
全体的に見るとバランスがとても良く、欠点がどこにも見つからな
かった。
「……さっさと置きなさいよ!」
見ているうちに嫉妬混じりの理不尽な怒りが込み上げてきたルイズ
は、八つ当たり気味にレナスから毛布を剥ぎ取る。
レナスは何事もなかったかのように目を開け、ルイズに視線を向け
た。
「どうした、ルイズ」
「へ?」
てっきり吃驚して慌てふためくか、眠りを妨げられたことに憤慨し
て突っ掛かってくるかと思い、それにかこつけてお仕置きする気満々
だったルイズはきょとんとした。
「何よ、起きてたの?」
不満そうに自分を睨みつけるルイズに、レナスは上体を起こして身
体を解しながら答える。
「寝ていたに決まっているだろう。お前の性格は昨日の時点で大体把
握した。今更叩き起こされたくらいではいちいち驚かん」
無理矢理起こされても怒りもせず、不機嫌にもならずに冷静さを崩
さないレナスだが、寝起きで虫の居所が悪いルイズはかえって腹が立
ったらしく、ジト目でレナスを睨む。
「むー……昨日もそうだけど、その口調どうにかならないの? 仮に
もご主人さまに向かって『お前』とか何様よ。敬語を使いなさい、敬
語を」
「断る」
にべもなかった。
拒否されるにしても、ここまであっさりばっさり切られると思って
いなかったルイズは反射的に声を荒げる。
「何でよ! アンタ私の使い魔でしょ!?」
396:ゼロの戦乙女第三話3/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 02:02:53 7ZBt7v+F
「一方的に契約しただけで、私の同意を得ていないだろう。逃げ出さ
ないだけありがたく思え」
レナスは素っ気無く言って、立ち上がり、窓に歩み寄ってカーテン
を開ける。
朝日が窓から差し込み、少しだけ部屋が明るく、暖かくなった。
しかし、それでも活火山の溶岩並みに顔を赤黒くしたルイズの心を
宥めることはできなかった。
「アンタ、今日は朝ご飯抜き!」
かくてお仕置きを言い渡されるが、昨日のような不意打ちでなけれ
ばレナスの心にはダメージを与えられない。
案の定「そうか」とあっさり返される。
「……まあ、アンタの躾は後にするわ。服、着替えさせて。下着も含
めて着替えはそこにあるから」
疲れたような顔のルイズが指差す先に視線を向けると、確かにミッ
ドガルドでもよくあるようなクローゼットや衣装棚があった。
それを確認して、ルイズに視線を戻す。
「私が着替えさせるのか?」
さすがに呆れて問い掛けるレナスに、ルイズが怒鳴る。
「貴族は使用人がいる場合は自分で着替えないの! つべこべ言わず
にさっさとする!」
レナスはため息をつき、幼い子どもにするようにルイズの頭を一撫
でした。
「やれやれ、手がかかる子だ」
子ども扱いされたことになおも騒ぐルイズを無視し、レナスは昨日
のルイズの格好を思い出して、クローゼットからマントとプリーツス
カートを、衣装棚から白いプリーツスカートと下着を取り出す。
「脱がせるぞ」
一応断りを入れてから、ルイズのネグリジェを脱がせ、下着を取り
替える。未だに膨れっ面のルイズから細かい指示を聞きながら制服を
着せ、最後にマントを着せて金具で固定する。
ルイズは部屋の姿見で制服が着崩れていないか、マントに皺が寄っ
ていないか確認すると、満足そうに笑った。
「初めてにしては中々じゃない。褒めてあげるわ」
こんなことでルイズに褒められても全く嬉しくないレナスは、心中
を押し隠して無表情で佇む。
「じゃあ、朝食に行くわ」
ルイズは杖を腰に差すと、レナスを連れ立って部屋を出る。
「あら、ルイズじゃない」
「げっ、ツェルプストー」
397:ゼロの戦乙女第三話4/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 02:04:09 7ZBt7v+F
自分達と同じように、向かい側の部屋から出てきたキュルケがルイ
ズを見つけて不敵な笑みを浮かべる。
対するルイズは顔を顰め、「朝から嫌な奴に出会っちゃったわ……」
などと小さく呟く。
キュルケはルイズの横に佇んで二人のやり取りを眺めていたレナス
に目を向け、ルイズに一度ちらりと意味ありげな視線を向けると気安
げに話しかけた。
「こんにちは使い魔さん。お名前はなんていうのかしら?」
教えようか教えまいか僅かに逡巡するレナスを見て、ルイズの眦が
釣り上がる。
「レナス、ツェルプストーなんかに答える必要はないわよ!」
猫のように毛を逆立ててキュルケを威嚇するルイズは、キュルケを
意識するあまり思い切り墓穴を掘った。
「ああ、レナスっていうのね。ルイズ、教えたくないなら名前で読ん
じゃ駄目じゃない!」
「あっはっはっは!」と腹に手を当てて大笑いするキュルケに、ル
イズは恥ずかしさからか顔を真っ赤にして反論する。
「ちちちち違うわよ! あああんたがちゃんと気付くか試しただけな
んだから!」
誰がどうみても無理のある取り繕い方をするルイズに、キュルケは
生暖かい眼差しを送った。
「はいはい、そういうことにしといてあげるわ。でもね、ルイズ。ど
うせ使い魔にするんなら、こういうのの方がいいわよ? フレイム!」
キュルケの呼びかけに、彼女の部屋からのっそりした歩みで使い魔
が出てくる。
「サラマンダー?」
思わず声を上げたルイズの目に、露骨に羨望の眼差しが浮かんでい
るのを見つけてしまったレナスは、殊勝にも見なかったふりをした。
レナスと同じようにルイズの目に浮かぶ感情を敏感に察したキュル
ケは、にんまり笑ってフレイムの尻尾を指し示す。
「そうよ? ほら見てこの尻尾。ここまで鮮やかで大きな炎の尻尾は、
間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? その中でも群れを束ねるボ
スだったに違いないわ。しかも、私の属性ともピッタリよ!」
ふぬぬ、と悔しげに歯を噛み締めるルイズを他所に、レナスはゆっ
くりとフレイムに歩み寄った。
ルイズが間にいたのでレナスの姿が分からなかったフレイムは、見
覚えのある姿に硬直する。
予想外の事態に固まるフレイムの背を、レナスは優しい手付きで撫
でた。
レナスに敵意がないことが伝わったのか、フレイムはしばらくする
と安心し、身体の力を抜いて撫でられるに任せ始める。
「立派な幻獣だな。サラマンダーというのか」
己の使い魔を撫でるレナスに、キュルケはにっこり笑う。
398:ゼロの戦乙女第三話4/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 02:05:14 7ZBt7v+F
「あら、あなた、サラマンダーを見るのは初めて?」
平民姿のレナスを見ても露骨に態度を変えない、歳に似合わぬ大人
びた物腰のキュルケに、レナスも微笑を返す。
「ああ。貴重なものを見せてもらった。礼を言う」
二人の間に穏やかなムードが漂うのを敏感に察して、ルイズが爆発
した。
「ちょっと! 何ツェルプストーと和やかに会話してんのよ! アン
タはさっさと昨日の洗濯物を洗濯しに行きなさい!」
「……先に朝食を取るのではないのか?」
「アンタは朝ご飯抜きって言ったでしょ!」
八つ当たり気味に洗濯を命じるルイズに、キュルケがしゃしゃり出
た。
「レナス、よかったら私の朝食を分けてあげましょうか?」
「人の使い魔を餌付けしようとするなーー!」
朝から騒がしい二人に、レナスはこめかみを押さえてため息をついた。
さっさと見切りをつけることにして部屋に戻り、ルイズが脱ぎ散ら
かした洗濯物を纏め、それらを抱えて外に出る。
ただし、窓から。
二階分の距離を苦もなく着地したレナスは、今もまだ言い合いをし
ているであろうルイズとキュルケを置いて、洗濯を任せられる唯一の
知り合いであるシエスタを探す。
無論、自分でやる気など端からなかった。
399:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:09:00 GqdRkUqw
支援
400:ゼロの戦乙女第三話4/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 02:09:43 7ZBt7v+F
以上、第三話終了です。
番号振り分かり辛いですね、すみません……。
次から投稿順に1から振っていくことにします。
今はまだ原作をに近いストーリーで進んでますが、段々原作と
似ているようでも中身が別物になっていきます。
ギーシュ戦とか、ギーシュ戦とか、ギーシュ戦とか。
401:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:10:40 ESq6serg
一日で一財産できて、もうメイド辞めてたりして
402:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:13:23 JwyKR3c/
乙
金の卵ってどれくらいの価値があるんだろ
シエスタなら売らずに持ってそうだけど
あとギーシュ逃げてギーシュ
403:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:14:07 kZQvN5TY
乙です
ギーシュ、レナスにフルボッコにされるかアリューゼにミンチにされるかメルに実験動物にされるか・・・嗚呼恐ろしい
404:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:14:13 UMhp1z8L
401それは無いと思う。
シエスタの性格上レナスに恩返ししようとすると思う。
405:ゼロの戦乙女第三話4/4 ◆5ZSwcPATsg
08/03/21 02:14:25 7ZBt7v+F
シエスタさんは平民ですから、
生きたアーティファクト→生き物→生き物が産んだもの
→食す
みたいな連想が働きます(ぁ
406:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:14:32 qpRNwlcY
>>401
ルイズの実家以上の金持ちになったりして
407:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:14:39 l16voRsK
ヴァルプロの人乙乙乙乙~。
408:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:18:36 XwFY/qMI
あ。何かひでえの思いついた。
使い魔召喚→何で平民なのよ!→悶々→限界
→そんな使い魔は存在しない。あなたの想像の(ry
409:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:18:38 4YAhDIe1
乙
しかし金の卵なんて平民のシエスタが売りさばくのはちとやばくないか?
410:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:25:12 RV5BLcje BE:186041333-2BP(30)
乙!
しかしレナスかぁ。
レナスが召喚されたとなると、もしかすると彼がエインフェリアに・・・
411:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:26:34 ESq6serg
金の卵って殻だけ金なの?
中味も金なら1年もすれば相当な金持ちになれそう
グラム3500円で、普通の卵は60g程度だから金なら500gぐらいにはなる?
そうすると1日150万円超の収入で、1年で6億円以上かな?
412:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:28:06 ae1YAzEP
金の卵さえあればニート生活し放題じゃないっすか\(^o^)/
413:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:29:36 sGqU08EZ
オービタルフレームジェフティをボロボロの状態で召還したら
414:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:30:33 XBnjSYYS
金の卵か…
生んだ数が不満で何度もリセット押した人間がここに。
原子配列変換で生命の腕輪にしたのはいい思い出。
415:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:32:33 ZYOYk0as
金の卵という単語が出て金玉ネタが出てないあたり皆品があるな
416:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:32:43 F8okml3/
>>405
シエスタさんなにしたはるんですかwww
417:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:33:24 +F2rtqNP
レナスの人、適当にギーシュ戦とかやってtueeee展開やったら消えそうだね
悪いけど
418:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:40:08 RV5BLcje BE:165370324-2BP(30)
>>417
そういうのは避難所の毒吐きで言ってくれ
419:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:50:54 oxJy9AfQ
⑨と言うとハスラーワンな同士が多くて吹いたww
420:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:52:56 cZQHAHD5
金の卵・・・きんのたまご・・・きんたまご・・・きんたま・・・金玉!!
,_,..,ィヽ,、 |
/;;::r‐~-ミ、 | ウ ェ ル カ ム
4~/へi::::::;/,ヘミ7 | W E L C O M E !
'-l|<>|:::::|<フ1|i' ノ ( よ う こ そ )
l! '" |::::l、~`リ へ
/`ー、 ハー;";::i:::ヾイl! ,r'~`ヽ、 \
,.ィ" ri l i ト、 1:|`丶:;;;:イ' ill!7、 、 y; ヽ、_` ー―――
,. -‐''" 、 くゝソノリ~i | - 、 , -‐'7ハ ヾニト- ~` ー- 、_
, ィ ´ ,ゝ、_ `r' l | 、レ // `テ三..ノく _ ` ヽ、
/ , -' ,、 `、_) l,i, i // (/ ...,,;;;;:` 、 ヽ
;' '" ノ ;;;;:::: i ! : // .....:::::;;イ、_、_\ _ _ノ
l ..,, __,ィ"-‐´ ̄`i::::: ゙゙゙= ...,,,,,. l | ,// - = ""::;; :/ ` '''' '"
ヾ :;;;,, ,i l,// ,,..," / _,,.....,_
,. -- .,_ \ :;,. ;' V ;! `; /;: ノ ,.ィ'"XXXXヽ
/XXX;iXXミ;:-,、 ヾ '" ''' /./! ヾ / ,. - '"XXXXXXXX;i!
,!XXXXi!XXXXX;`iー;,、 i 、. / ;:::゙i ;: , | ,. r'"XXXXXXi!XXXXXX:l!
|XXXXX;|XXXXX;|::::::::|`ヽ、 ,! ,': : :| ,.レ"::::|XXXXXXX|XXXXXXX;l!
!XXXXX;|XXXXX:|:::::::::i ` ;! : : i! / !:::::::::|XXXXXXX|!XXXXXXX|
XXXXXx|XXXXX;!:::::::::::! `. /:: | '" l:::::::::::|XXXXXXX|XXXXXXX |
XXXXXx!XXXXxリ:::::::::::! |:: | i:::::::::::ゞXXXXXツ1XXXXXXX|
XXXXX/ \XXソ::::::::::/ i!:: ノ i!::::::::::::ゞXX:/ lXXXXXXX|
XXXX:/ `ヾ::;;;;;:ツ ヾ;::: ; ノ ヾ:;;:::::::ゝ'" ヾXXXXX |
XXX/ `ヽ 、 _ゝく _,,. -`''" i!XXXXX:|
XXX7 `'''''''''''" `'''''''''''´ |XXXXX !
XXX| |XXXXX|
421:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:54:05 ENur6yVd
>「それにしてもあのルイズって子、ヴァルキリーのことを本気でただ
>の平民だと思ってたわねぇ。傍から見てて笑っちゃいそうだったわよ」
ひでえw
まだ続きがあってね。
>使い魔にされた屈辱を思い出したか、レナスは驚いていた表情を消
>してむっつり顔になる。
>「一方的に契約しただけで、私の同意を得ていないだろう。逃げ出さ
>ないだけありがたく思え」
ヘイト補正ばっちり入ってるのになに言ってるの擁護乙。
>無論、自分でやる気など端からなかった。
見下しモードもばっちり完備。
なんてことはないキャラを利用した作者の解釈が透けとります。
でもってやっぱ次はテンプレ展開なギーシュ狩りでFAな件について。
422:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 02:54:25 9MmmchWh
─┼─┐─┼─ / ,. _\ | / /
│ │─┼─ /| _,.イ,,.ィ' ‐──‐‐‐ゝ;。>>420──
│ | │ | | | イン // | \
/ / | \
/ | 丶
. . / .;∵|:・. \
∴・|∵'
,'`》'´⌒`彡
ノ,ィ∝ノノ))))) -=ニ_-この変態!
( ( ゝ(l!゚(フノ|l 三-
∠ニニニニニニ[i⊂^!、 yソ __.- ―
'´ ,く '/".rヽ -二. ―
!,ン''"´'-'
・・・ついノリでやってしまったOTL
423:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 03:08:56 NyYSY+f4
今日一日>>420よりも、お下品な事を書き込む奴はいない。
俺の120ガバスにかけて。
424:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 03:09:23 F8okml3/
金の卵というと、大胸筋矯正サポーターを思い出す
アングラなものかと思ってたら某有名メーカーのCMに抜擢されててクソワロタ
425:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 03:29:42 rcjj6yKl
戦乙女乙。
金の卵のステータスアップ効果はまさに黄金だったなぁ。
やっぱり食べるんだろうかw
>>413
ダメージドジェフティか……身長が15mぐらいだから
フーケのゴーレムもちょっとした大型OF戦といった具合で普通に戦えそうだな。
サブエネルギー∞だからサブウェポンがあれば完全に敵なしだが。
426:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 03:44:00 sGqU08EZ
たしか使える武装は
ブレード・ダッシュ・バースト・ゼロシフト
の4つだったような…
427:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 03:46:23 rcjj6yKl
>>426
ああそうか、二週目以降サブ全装備ONとかできるんだけど
物語上では使用可能装備はダッシュ、バースト、ブレード、グラブ、ゼロシフトだけだったな。
となると乗ってるディンゴと戦闘支援ユニットであるエイダも一緒に召喚されることになるんだろうか。
428:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 04:01:52 Sl8Bcorf
むしろ、捕らえたフーケを、免罪と引き換えに仲間に引き入れて、彼女の巨大ゴーレム
練成能力を味方側戦力につけた方が簡単なんとちゃう?と身も蓋もないことを言ってみる。
429:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 04:20:26 sGqU08EZ
えっと確か
通常ジェフティ・・・ゼロシフト以外の全ての武装
進化ジェフティ・・・全武装+ウィスプビット
壊れジェフティ・・・ゼロシフト以外のサブウェポン+ショットが御陀仏、但しエネルギー∞
全裸ジェフティ・・・ショット復活、弱いショットならバリアに遮られる、掴んだらそのまま頂きます?
よく考えたらたった一機でゼロ魔世界の軍事バランスをひっくり返す機体だ
430:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 04:32:19 rcjj6yKl
まさしく、コレを手に入れたものが
人類最高の権力を手に入れるっていう仕組み……だなぁ
そもそも15mという全長で空間を圧縮し、その反動で
亜光速移動をすることが出来るっていう時点でゼロ魔にはオーバースペックだな
431:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 04:35:41 W/v322ox
ゼロ戦一機ですら戦況を左右できるんだから
軍事バランスどころの話じゃないと思うw
432:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 04:42:54 sGqU08EZ
でも…
ジェフティクラスのC型(有人)OFを沢山持ってるはずなのに
なんで対ジェフティに無人機ばかり投入したんだろうバフラムは…
433:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 04:57:57 sGqU08EZ
いっそのことアヌビスVSジェフティの戦いをゼロ魔世界でやれと電波を受信した…
どうすれば良いと思う?
434:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 05:22:17 zczjvhb8
もしルイズが召喚したのがユーフロジーヌだったら。
ちょっと天然ボケだけど、使い魔契約はスムーズに行く……かなぁ。いかないか。
新しい“お父さま”になるルイズ、真面目にやってるのにドタバタになるユーフロジーヌ。
っても、書いたとて避難所向けかな?ってかマイナーすぎ?
435:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 05:22:25 cOKF2pbQ
>>433
二機が戦っている所を二機とも召喚すればいい
契約しようと思ったら、二機とも戦い始めて足元に居るだろうルイズ達は死ぬだろうがw
436:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 05:28:30 DAwCW1hA
>>433
どう考えてもやらない方がいいな
437:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 06:13:16 zczjvhb8
ちょっと書いてみた。召喚シーンだけ小ネタとして投下してもいい?
438:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 06:15:29 RV5BLcje BE:248055326-2BP(30)
>>437
OK
こちらの準備は整っている。
全力で支援させてもらおう。
439:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 06:16:03 zczjvhb8
ほんの少し、一時間で書きました的な出来だけど、いきます。
光が眩しい。
ユーフロジーヌは、瞼の上から感じるそれを感じ取り、目を覚ました。
正確に言えば、突然の衝撃で目を覚ましたのだが、まぁこの際細かいことは良いだろう。
ユーフロジーヌは、まるで生まれて初めて日光浴をするような気分だった。
ゆっくり覚醒へともってゆく間、周りがざわついているのが聞こえてくる。ここは外なのだろうとユーフロジーヌは想像する。それも、地べたに倒れているのだと分かってきた。
本来なら、うやうやしく控えた従僕<ミニストリアーレ>たちがいるはずである。しかし、それらはどうやら居ないように思われる。もっとも近しく仕えてくれていたアルマⅤが起こしたのでないあたり、それは容易に想像がついた。
「死んでるの……?」
すぐそばで少女であるらしい声がする。いきなり、なんと無礼なと言ってみたくなったが、突然くちびるを開いては体に障る。そもそも瞼もこうしてゆっくり開けなければ、あまり慌てて開いては 瞼 が 破 れ て しまう。
そうして、ユーフロジーヌはそろりそろりと瞼を開き、体の具合を確かめるようにして起き上がってみた。上半身をゆっくり、そうっとそうっと起こした。つもりだった。
「あだっ」
そう、“つもり”だったのだ。
体は思いのほか勢いよく起き上がり、何かに額をぶつけてしまった。凹んでなければいいのだけれど。
「いきなり起き上がるんじゃないわよ!」
額を押さえ、涙目になった少女がこちらに叫んでいた。
ユーフロジーヌは、安堵した。
あの少女が無事なのだから、自分の頭も問題ないだろう。
もし、自分が砕けているとすれば、彼女の頭などぐちゃぐちゃになってしまっているはずである。
ユーフロジーヌは、少々、力が強い。
「ここは?」
ユーフロジーヌが口を開いた。
芝生の上に寝転がっているのは見ればわかったが、どうやらお父さまの研究室ではないらしい。見ればわかる。
「ここはトリステイン魔法学院です。お嬢さん」
眼鏡をかけた男性が声をかけてきた。その姿を見止め、ユーフロジーヌは問いかけた。
「あなたが新しいお父さま?」
かの男性は驚きの表情を見せる。どうやら違うらしい。
よくよく見渡してみれば、若い少年少女たちがあたりを取り囲んでいる。さっき頭をぶつけた彼女も、そうした周囲の者達と同じ服装で、同じ年恰好であった。
440:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 06:16:46 zczjvhb8
そこで一歩おくれて“魔法学院”という言葉を反芻する。
決してユーフロジーヌの頭の回転が遅いわけではない。ただ、起きたばかりで頭が上手く働いていないのだ。
もしかしたら、ブドウ糖が足りないのかもしれない。起きてから食事をするまでは血糖値が上がらないものなのだ。だから頭の回転が悪くなるのも仕方ないに違いない。
一旦、そう結論づけてから、自分の体に血液なんて残ってないなとあえて気づいてみた。
ああ、突っ込み役が欲しいわ。アルマⅤ。
「あなたは、わたしの使い魔として、呼び出されたのよ。でも、あなた何処の人……?」
桃色がかったブロンド髪。その少女の特徴だ。あとは声がとても可愛らしい。とにかく、その子が言うには私は小間使いにされるということだろう。まぁ貧乏なお父さまもいらっしゃったから出来るだろう。ちょっと時々物を壊してしまうこともあるだろうけれど。
「ええ、分かったわ」
「……? ああ、うん」
会話が成り立たないのはアルマⅤがいないからだ。そうに違いない。
「平民ってわけでもなさそうだけど……貴族にしてはボロだし」
後半はぼそぼろと言ったのだが、ユーフロジーヌは耳がとても良い。ついでに目も壊れやすいことを除けば、良い部類であったし、体の質も元が良いから当然良い。ちょっと縫い目だらけだけれど。
ユーフロジーヌは、ボロを纏っていた。
着た当初は、とても良い素材を使ったすばらしいドレスだったのだが、時間というのは残酷である。
少しユーフロジーヌが眠りすぎたせいで、衣服がぼろぼろになってしまったのだ。たった百年程度のことだというのに、時間というのは残酷である。もっとも、ユーフロジーヌはその具体的な時間経過を知りはしないが。
「まぁ、いいわ……。死体を呼んだかって大騒ぎしちゃって疲れたし……契約しちゃいましょ」
「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
この子はルイズというらしい。
そんなことを考えたら、ユーフロジーヌは口づけをされてしまった。
「最近の子って大胆なのね」
ユーフロジーヌは暢気に感想を述べた。
すると、ルイズは険しい目つきでこちらを見た。
「うぐっ……あなた臭いわよ……」
そういって口を拭うルイズ。
ゾンビが臭いのは当たり前である。
継ぎはぎの縫い目だらけになったその体。その手術痕がそれまで美しいと羨望の的であったユーフロジーヌを化け物と呼ばしめるようになったのは、十四の時。それ以来、継ぎはぎこそすれど、ずっと変わらぬその蒼白の技術の結晶。
あるゾンビ少女は、思いもよらぬ災難に巻き込まれたらしい。
441:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 06:17:50 zczjvhb8
召喚のところだけでしたので、以上です。
442:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 07:47:17 iPb6CGGB
過去ログひとっつも読んでなさそうな方ですね
443:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 08:21:51 ASeLWfSj
>443
話としては面白そうなんですけどね。
初めて投下するときには「タイトル」と「元ネタ」と「召喚キャラ」くらいは出しましょうよ。
444:443
08/03/21 08:22:35 ASeLWfSj
間違えた。アンカー>>443ぢゃなくて>>441だよ。
445:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 08:30:51 zczjvhb8
>>443
それか。書いたつもりになってた。申し訳ない。
臭いがやりたかっただけで、>一発ネタ等でばらすと面白くない のつもりでした。
行数ひっかかったときやらかしたらしい。
タイトルは考えてませんでした。
あるゾンビ少女の災難から、あるゾンビ少女の思いがけぬ災難です。
446:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 08:38:49 zczjvhb8
申し訳ないついでにもう一本、美味しい所だけを書いた単発をやりたいのですが許可はいただけますでしょうか?
本来、そっちを落としに来たはずだったのです。15kbほどなので二度に分けて落とそうかと考えているのですが。
447:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 08:44:34 LSgzlMqD
825 844
448:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 08:47:32 hWtE9dQF
提督こないかな
449:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 08:50:07 PXJap0zY
パエッタでいいなら
450:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 09:14:17 +JaNaggz
>>448
あんなもんを連日投下って、どんな野生のプロなんだw
ニートでも無理じゃ
でもビッテンフェルトかオーベルシュタインなら来て欲しいな
451:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 09:32:31 tFFG9KrT
世の中にはろくに小説も書かずに漫画の原作とか文庫化で食いつないでるエロゲデブもいるんだぜ?
452:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 09:38:57 oxJy9AfQ
お前が佐藤大輔が嫌いなのはわかったから俺と一緒に皇国スレ帰ろうか…
453:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 10:04:40 OL9G1rua
前スレでギルティギアのテスタメントを召喚したいみたいな意見があったが…
ギルティのキャラはみんな化け物じみてるから扱い難しそうだよな
魔法の理論化に成功した世界だし
俺もテスタで妄想してみたが俺Tueee展開にならない様にするのが大変だし
何より人間嫌いのテスタが素直に使い魔になるとは思えないし
ルーンの影響でジャスティスの指揮下からルイズの指揮下に上書きされた、みたいな展開もあるかも知れないが…
アルビオンやらとドンパチしている場面を見て
「やはりどの世界でも人間は愚かだ」って思って協力してくれないだろうなあ
454:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 10:32:32 V22cLw9b
>>453
そうだね。
比較的真面目に働いてくれそうなのはカイかガチか、或いはジョニーくらいかなぁ?
遊びで髭とか。正義だと終わるし…
455:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 10:33:41 NKZkwGDy
>>420
ギーシュ戦直前で止まっている、『召喚!変態仮面!』を思い出してしまった
続き読みてーなぁ……
456:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 10:45:27 li2A9Pf+
チップは?
目指せ大統領とは言うものの、大統領が何なのか今ひとつ理解していない忍者。
……そういやγブレード以外の技は純粋な体術なんだよな。
457:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 10:46:47 KQIP5/9f
そもそも俺TUEEEEのなにがいけないのかわからない。クロスSSでも原作でも俺TUEEEE主人公で楽しいのはいっぱいあるけどな。
クロスSSは荒れそうだから名前ださないけど原作ならラグナロクかな。戦闘描写がすごいのと一人称でのキャラの語りと人間ドラマ、ギャグがおもしろいから俺TUEEEEは全く気にならない。
そういえばふと思ったんだがラグナロクが使えるノルンってそのまんま「虚無魔法が影響を与えて事象を発生させる原子より細かい物」そのものなんだよな。
エクスプロージョンとかノルンを使った破壊にすごい似てるし。
パクリとは思わないけど、この設定の酷似でおもしろいネタが書けそう。
458:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 11:03:14 ASeLWfSj
俺TUEEEEが駄目って訳じゃないよ。
ちゃんとキャラの特徴を掴んだ上で、ちゃんと話を作ってればね。
問題は、俺TUEEEEの話が、作者の自己投影的で自己満足な話になりやすい、って事。
TUEEEなキャラに大暴れさせて原作キャラの見せ場を奪ったりチャラい説教かましたりして。
それで話が面白ければまだ救いはあるけど、つまらないことの方が多いから。
459:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 11:07:14 2vurRWYg
まあ、世の中には良い俺TUEEEEと悪い俺TUEEEEがあるゆえ。
爽快感だのカオスさを演出するボーボボみたいなのがいい例ですかな?
やたら高ランクだの、かっこつけた厨二くさい都合よすぎるキャラが悪い例と
自分は記憶しております。
460:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 11:21:29 kKDYERc7
そういえば、良い意味での俺TUEEEEEEEな宵闇の使い魔はもう続きは来ないんじゃろうか…
461:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 11:22:44 uAL0cvQ7
強いのが悪いんじゃなくて、
なんでもかんでも主人公の望み通りになるのがつまらないんだろう。
戦いという戦いを全て楽勝しているのに、
世界情勢が何故か悪い方向に悪い方向に流れていって
気が付いたら/(^o^)\ナンテコッタイみたいな話は面白いかも。
462:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 11:32:36 cboIJIgb
TUEEEって言葉自体が馬鹿にした言葉だろ
強い描写がちゃんとバランス取れたシナリオになってるのはTUEEEじゃない
表現が稚拙でボキャブラリーが貧困な子が何でもかんでもTUEEETUEEE言ってみたり
煽りたいだけの奴が故意にTUEEE連呼して馬鹿にしてるだけだから鵜呑みにするない
463:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 11:35:27 SpjHGsYq
そこで俺YOEEEですよ
464:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 11:39:50 lfeKcawm
>>463
やわらか戦車の事かーっ!?
あれは面白かった
465: ◆ywwFnu6EWE
08/03/21 11:46:24 oxJy9AfQ
ルイズの使い魔が倒せない
気がついたら いつも香水 落としてる
そして使い魔に 拾われてる
相手によっては 香水スルーするけど代わりに メイドが拾っている
とぼけてみたりもするけど すぐにKY共 騒ぎ出すよ
何回やっても 何回やっても 決闘フラグ
避けれないよ あの腹黒 わざと拾ってんじゃねえの?
僕のじゃ ないって言ってんだから 少しは察して下さい
言い訳 なんかも 試してみたけどモンモン相手じゃ意味がない!
だから つぎはフラグ潰すために
僕は 香水だけは ちゃんと管理しておく
そして僕は またヴェストリに来ている
使い魔の実力 見せるために
序盤だけは ちょっと押したりもするけど 多分最初だけだと 思うよ?
貴族の 威厳があれば 他の平民 怖くはないけど
何回やっても 何回やっても ガンダールヴ
倒せないよ あの使い魔 能力(ガンダールヴ)なくても強くね?
どっちに しても 相手は伝説 こっちはただのメイジです
7体 同時も 試してみるけど チートな相手じゃ 意味がない!
だから次は瞬殺避けるため 薔薇の花びら 後に 何枚か取っておく
466:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:06:22 vlpjSSJV
ニコ厨はかえれ
467:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:07:57 RV5BLcje BE:186041333-2BP(30)
>>465
能力(ガンダールヴ)なくても強くね?
がツボに入ったwwwww
468:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:08:03 9CoXEMXY
ギーシュが瞬殺はテンプレというが
本当に殺害されるパターンも見てみたい
469:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:08:42 nHcicbxg
>>461
つまり「90式戦車はブリキ缶だぜ!」ですね
470:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:08:57 V22cLw9b
アーカードの旦那とかじゃん。
471:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:09:42 4XMNRfT6
愛野狩人の弱さも捨てがたい。
472:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:12:55 Kbso7uIy
姉妹スレだとけっこう死んでるな
473:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:22:22 PXJap0zY
殺しそうなのは…
浅倉威とかか?
474:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:25:07 uAL0cvQ7
毎回毎回ギーシュじゃ可哀想だから
たまにはマリコルヌあたりと決闘させようぜ。
「僕の前でメイドといちゃいちゃして当てつけのつもりか? 決闘だ!」とか。
475:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:26:25 lfeKcawm
>>474
確か、マリコルヌと決闘してる作品もあったと思う
476:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:30:04 DAwCW1hA
>>474
その状況のぽっちゃりさんはギャグ補正で無敵だぞ
477:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:34:15 FbH7trkB
まあどんなに俺TUEEEEEでもギャグキャラの理不尽さには勝てんわな
478:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:42:57 RV5BLcje BE:744164249-2BP(30)
俺TUEEEEEキャラを召喚する
↓
作品全体のバランスが著しく崩れる
↓
じゃあ、敵も強くしてしまうか?
↓
従来のキャラの出番が大きく減少する
↓
だったら皆強くしてしまおう
↓
作 品 崩 壊
やはりバランスというのは大切なんだな
479:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 12:58:11 onH7UwbW
>>468
ジョジョスレの『ゼロの兄貴』
480:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 13:00:39 K6CcJyHo
面白いは正義
481:チキの人
08/03/21 13:49:06 yVsBjILq
チキを召喚するにおいて俺TUEEE! な展開にならないように。
頑張れギーシュ、アリューゼにお前の顔も見飽きたぜ! っていわれないように。
と言うわけで第六話、『デルフ自重』編を5分後くらいから投下しても良いでしょうか?
482:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 13:57:43 uGgw+np6
いまだに爆裂やるいとらを名作だ名作だと持ち上げる層がいるあたり、
やっぱ俺Tueeeeeeは需要がなるんじゃねえの?
ま、自演乙の可能性には目をつむっての話だがな。
483:チキの人
08/03/21 13:58:06 yVsBjILq
「アーッ! もっと優しく握ってくれやお嬢!」
「うるさいわね! あんたの方こそもっと軽くなれないの、インテリジェンスソードは無理をすれば道理が引っ込むんでしょ!」
「これでも気合入れて軽くしてんだ、振り上げられないのはお嬢が悪い」
ルイズです。
夕日に染まる広場でデルフを振り上げようと四苦八苦しとるとです。
ルイズです。
あーもう、何でこんなに重いのよ剣って! 杖と同じくらい軽くなれないの。これだから平民が使う武器っていうのは野蛮なのよ。
しかし、重い。剣先が地上から50サントくらいしか上がってない。このままじゃあ、右手にデルフで左手に杖、我ら魔を断つ二刀流という掛け声は夢のまた夢だ。
何故こんな事になっているかというと、本日マリコルヌが授業に復帰したことが関係している。
“それでもボクはやってない”と、シエスタ事件の冤罪を主張したのだ。
周りの生徒達も、非はあるかも知れないがギーシュの行いは異常という結論に達し、困ったそのギーシュが私に決闘を申し込んだのである。
ゼロのルイズの策略によって僕とマリコルヌの名誉が傷ついた、決闘をしてどちらが本当に悪かったか決めようじゃないか。
こうして、私&チキとギーシュ&マリコルヌの決闘が授業中に開始された。
結果の方は言うまでも無い、レイピアはアーマー系に強いんだよ、という謎の言葉を発したチキが鬼神のような動きで八体のワルキューレを薙ぎ倒した後、ギーシュに参ったと言わせた。
マリコルヌは私のファイアーボールの魔法の失敗により、宝物庫のある塔まで吹っ飛ばされた。モンモランシーによれば、また救護室は彼の物ね。とのこと。
話はまだ終わらない、私の魔法の近くにいた(ギーシュも巻き込まれて吹っ飛んだ)チキがルイズのお姉ちゃんのボルカノンは危険、これは人に対して使う物じゃないからデルフを使うべきだよ。との魔法禁止令を出されてしまった。
「はぁ……しかし重いわ」
「だがよ、お嬢。そんな使い魔の言う事を」
柄を握る力を強くする。
「いい、チキの事を使い魔って言ったら、キュルケに溶かさせるわよ」
「あい」
チーキのためーなーらエンヤコーラ! もう一つおまーけーにエンヤコーラ!
もう一度デルフを振り上げる、今度はさっきよりも剣先が地面から離れた。
まだまだ、今は両手にデルフを持っているけど、いつかは片手でこれを振り回せるようになるんだから。
そのためには努力を惜しまない、明日に向かって振るべし! 振るべし!
「相変わらず無理してるわね、ルイズ」
四苦八苦してると後ろからキュルケの声をかかった。
振り返るとやれやれと言わんばかりの表情をしつつ、面白い物を見るかのようにデルフに視線を送った。
「重いわよ、重すぎるわよこの剣、キュルケどうにかならない?」
「私やタバサや果てにはチキまで振り上げた剣をどうして持ち上げられないのよ、力無さ過ぎなんじゃないの」
だって、剣なんて振るう機会なんて無かったし。
唇を突き出して拗ねてみるけど、デルフに可愛くないと呟かれた。
くそぉ、この剣いつか完璧に使いこなせるようになって、汚れ仕事ばっかりやらせてやる。
「それにしても、あんなに魔法に拘ってたルイズが、チキの一言で剣を使い始めるなんてどういう風の吹き回し?」
「んあ?」
デルフを振り上げる最中だったので思わず変な声を上げてしまった。
「半年以上ゼロのルイズって蔑まれてても、諦めなかった魔法に対するこだわりを捨てたのはどうしてって事、まあ、私もマリコ……マリコリュヌ? だっけ、彼みたいな目に合うのは勘弁だけどね」
うん、とりあえずマリコルヌだから。
「まー、うーん、キュルケなら話してもいいか」
少し前にチキを助けてくれたし、プレゼントもしてくれたし。
何より、キュルケがいなかったらチキは殺されてたかもしれないしね。
ミスタ・コルベールはサモン・サーヴァントの試験を神聖な物と言っていたけど、それは建前に過ぎない。
気に入らない使い魔を殺す主人というのは実在するし、それを特に何も思わない奴もいる。
「私はもう、魔法で後悔したくないんだ」
もし、使い魔を殺す事を厭わない相手だったら。
もし、タバサやキュルケが気が付いてくれなかったら。
私は、自分の魔法の失敗の爆発音で大切なパートナーが襲われたことすら気が付かなかったのだ。
「ふぅん、なんかメイジにあるまじき発言ね」
「私もそう思う」
キュルケも私も笑いを堪えながら、その後も会話を続けた。
484:チキの人
08/03/21 13:59:22 yVsBjILq
Side チキ
わたしは恵まれた状況にあると思う。
ルイズのおねえちゃんは優しくしてくれるし、キュルケもタバサもいい人だ。
この世界に来た時に近くにいたミスタコルベールという人も、時折世話を焼いてくれる。
ロングビルもたまに目が怖いけど、優しい。オールドオスマン……たぶん、あの人はわたしと同じマムクートだと思う。
竜石を捨てたマムクートは、代わりに様々な能力を得る。
チェイニーは変身能力を、ガトー様は膨大な魔力を。オールドオスマンもガトー様と同じような能力を持っていると推測できる。
わたしは前にルイズのおねえちゃんに説明した通り、二つの竜石を身体に含んでいる。だけど、実はそれらだけじゃない。
マムクートが捨てた竜石は、人の世界で取引されているのだ。
わたしは別にいらないと言ったんだけど、ジェイガンは私に様々な種類の竜石を持たせた。部隊が一時撤退するとなれば、私がしんがりを務めた。
魔道士がいれば魔竜に、氷竜がいれば火竜に……そして逃げる時には飛竜に変身して。
マルスのおにいちゃんは優しかったけど、他の軍人の人は怖かった。
大きな力を持っているからわたしを兵器みたいに……ううん、あの戦争はもう終わった事だから。今はこの世界で幸せに過ごしてるんだから。
ルイズのおねえちゃんもキュルケやタバサ、少なくてもこの学院にいる生徒では敵わないほどの力を持っている。今はまだそれを発動させてないみたいだけど、行使出来るようになればどうなるか。
トリステインだけじゃなく、このハルケギニアという世界は戦いに溢れてる。少なくても人が人に魔法(魔道書とは違う種類みたい)を遠慮なく放てる状況っていうのは異常だ。
わたしはルイズのおねえちゃんとは違って、この世界がわたしのいた世界ではないことは分かっている。今のところは上手く誤魔化しているけど、勘が強いキュルケやタバサは薄々気が付いているかもしれない。
ルイズのおねえちゃんはわたしを守ってくれると言うけど、平気。
そうじゃなくて、優しくしてくれるルイズのおねえちゃんをわたしが絶対に守ってみせる。
デルフと一緒に剣の修行に出たおねえちゃんを見送った後、大きすぎて宿舎に入れない使い魔が滞在している場所へと向かう。
485:チキの人
08/03/21 13:59:43 yVsBjILq
この世界の竜は、わたしみたいなマムクートとは違って竜石を使って変身するわけじゃない……みたい。韻竜っていうみたいだけど、ちょっとわからない。
風竜のシルフィはその韻竜っていう、この世界の一般的に言われる竜とは違った存在みたい。
子どもっぽくていつもタバサに叱られてばっかりの女の子、わたしみたいに人の姿になることもできて、ちょっとパオラに似ている。
だけど、ルイズのおねえちゃんには秘密。
「きゅーい(おはようございますなの、チキちゃん)」
「もう夕方だよ、シルフィ」
竜の姿をしている時には人語を発することは禁止されているので、鳴き声だけでお話をする。同族のよしみなのか、不思議と言葉が理解できるから平気だ。
「(初めて会った時は、おはようございますなの、これ、常識なの)」
今日もタバサと一緒にどこかへ飛んで、さっき帰って来たところみたい。
行き先はもちろん秘密、上手く聞けば答えてくれるだろうけど、そんな事すればタバサに本気で怒られると思う。
「(ねえねえ、今日は見せてくれないの? チキちゃんの竜の姿)」
「飛竜以外の姿はちょっと大きいから……」
「(いいなぁ、私ももっと大きくなってお姉さまを助けるの!)」
神竜の時はシルフィの三倍くらい大きい。いくら夜になると途端に警護が甘くなる学院とはいっても、目撃者は出てくるはず。むしろ、出てくれなきゃルイズのおねえちゃんが危ない。
「シルフィは喋ってない? チキ」
「うん、きちんと言いつけを守ってるよ」
「えへー、撫で撫でして欲しいのー」
油断大敵、タバサが戻ってきて安心したシルフィは思わず人語を発した。
周りを見ても人影は全くない……というか、元々人が来辛い場所なんだけど。
召喚しておいて放っておくって言うのはいまいち理解できないんだけどなあ。
「チキ、お仕置き、きりのブレス」
「そんな事したらシルフィが死んじゃうよ」
タバサの秘密を知ってしまったと言うことで、変わりにわたしの秘密もタバサには打ち明けてある。韻竜とは違うけど、シルフィみたいな竜の姿になれる。火のブレスとは違うきりのブレスと言うのを吐くことが出来る。と。
「(でも、いつかは見せて欲しいの、チキちゃんの竜の姿)」
シルフィの言葉に苦笑いしながら、できればずっとそんな日が来ないで欲しいと思うのだった。
少なくても今は、人として生活できているんだから。
486:ゼロの使い魔とマムクートプリンセス 第六話
08/03/21 14:01:39 yVsBjILq
ジェイガンの呪い絶好調発動中。
まさか全部タイトルを入れ忘れるなんて……投下終了です。
支援や感想いつもありがとうございます。感謝感謝です。
487:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:01:43 DNrae2pl
東方から呼んだら最強だ、RX呼んだら最強だ、あのロボットは最強だと、
雑談を見てたら俺TUEEでも受け入れられると思いそうだが。
ただ頭に置いておかないといけないのは、東方キャラTUEE言ってる奴は東方以外のキャラが最強だったら文句言うし、
RXTUEE言ってる奴も以下同文。
自分の好きなキャラだったら俺TUEEしててもストーリーに活かせてるって思い込むもんだ。
488:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:05:48 LQ3fhj4N
チキの人乙
素でタイトルと見間違えておりましたw
489:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:12:25 S1JQDPdp
>>487
お前が東方厨でRX厨なのはわかったから少し黙ってろ
490:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:18:55 ASeLWfSj
チキの人乙です。
ルイズ、すっかりただの姉バカになってるなぁ。
チキの力を知ったとき、果たして平静でいられるのか。少々不安ですなぁ。
491:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:25:25 eXfIIrX9
チキの人乙
ところでいつもとは逆にギーシュがルイズの使い魔をなぶり殺しにした作品はあるんだろうか
まいど負けっぱなしとはいえ一応ギーシュはゼロの使い魔を殺すつもりなんだよな?
仮にもヴァリエール家の使い魔たる者を殺した後はどう落とし前つけるつもりだったんだろうか
492:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:26:54 sHSWLCkZ
何でもかんでも俺TUEEEE言うなというが、
強い力を持ちながら俺TUEEEに見せない作品なんて
片手の指でも余るくらいに稀少なんだがな。
戦闘描写を極力排したサイヤとか、
とにかく下ネタのインパクトの方が強烈なご立派とか、
とっさに思いつかないなあ。
493:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:26:56 A7st0ekN
>>491
逆に問いたい
あの時点でのギーシュがそんなことまで考えが及んでいると思うか?
494:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:30:18 sHSWLCkZ
>>491
ニュースを見てたら分かるだろ。
オヤジ狩りやホームレス狩りをして、まさか死ぬとは思わなかったとか、
ふざけてプロレスごっこしてただけです、とか言いながらクラスメイトを苛め殺したとか。
本人は痛め付けるだけで終わらせるつもりでも実際は、ってことだな。
495:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:33:15 li2A9Pf+
>>492
煉獄の虚神はサイト、ルイズ、タバサ辺りを主役にしてるからTueeeに見えないな。
グレンは単体でレコンキスタの航空勢力を一掃したりしてるけど。
496:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:34:06 ma3e+XHN
>>491
それを理解したからサイトに降伏勧告したんじゃん。
サイトがギーシュに剣を向けた時点で落とし前は関係あるまい。
平民が貴族に牙を剥いたんだ、あの世界じゃ親類縁者皆殺しにしてくださいと言う様なもんだろ。
………親類縁者までは言いすぎか。
497:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:35:33 ma3e+XHN
おおう、なんか日本語変だった。
まあ口答えした平民が拳を振るって来たのに謝罪すれば許すと言ったギーシュはむしろ「優しい」部類に入ると思うよ。
498:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:36:04 4z5Yx4Pc
>491
ルイズキングダムのギーシュはルイズの使い魔を大量虐殺した「鮮血」のギーシュの二つ名を頂いてるぞ?
499:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 14:45:21 SYvz8jqb
>>446
だから元ネタ教えろユーフロジーヌだけじゃ分からん
500:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 15:19:55 rbuRQT+Z
>>469
戦車に対して120mm数発でトップアタックはオーバーキルだぜ外人部隊。
501:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 16:32:32 HfzTID3D
「仕掛人 藤枝梅安」読んで梅安先生が召還されたらで考えてみたんだけど、
ギーシュもフーケもワルドも"仕掛"で絶命してしまうと思われるのでボツった。
502:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 16:48:15 prY/rOf9
梅安やパトレイバーの後藤さんのような昼行灯キャラはよく合いそうだ
今までの作品では提督が近いかな
503:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 16:51:11 qRUrMRVU
たまには決闘回避しちゃう頭脳派がいても面白いとおもた
そういうキュラのコルベールとの絡みも見たいし
504:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 16:55:23 T8XQF0Br
キュラ…
サモンナイト2からキュラー召喚
あ、だめだこいつじゃ決闘回避しようと思わないな
505:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 16:55:47 fZQCqfs2
こんなゼロ魔は嫌だ。
(魔法が使えないので)家の恥だと幽閉されているルイズ。
506:使い魔はじめました ◆xq/C1v8U32
08/03/21 16:56:43 hDp12KpP
こんにちは、予約もないようですので
投下させていただきたいと思います
507:使い魔はじめました ◆xq/C1v8U32
08/03/21 16:58:57 hDp12KpP
使い魔はじめました―第五話―
トリステイン魔法学院の食堂に辿り着いたサララとチョコは言葉を失っていた
長いテーブルが三つ並んでおり、百人は優に座れそうだ
それぞれのテーブルに幾つも蝋燭が立てられ、花が飾られ、
フルーツの乗った籠が並んでいる
幾度か訪れたことのある王城の中と並ぶくらい、あるいは
それ以上に豪華な施設に、ただただ目を丸くする一人と一匹
その様子を見たルイズが、鳶色の目を輝かせながら自慢げに語りだす
「魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃあないのよ。
貴族たるべく教育を存分に受けるのよ。
だから食堂も、貴族の食卓に相応しいものでなければならないの」
「ふーん……ねえじゃあさあ」
この食堂は貴族のもの、という趣旨の言葉を聞いたチョコが疑問を口にする
「ぼくたちのご飯はどーするのさ?」
「あ」
ルイズは食堂の入り口で頭を抱えた
一応魔法使い崩れとはいえ、彼女は平民であり、ましてや使い魔である
本来なら、使い魔は外の宿舎か床で食事を取らせるのだが、
そもそもサララの食事の手配すら忘れていた
忘れていた、というよりは出来なかった、というほうが正しいのだが
「……どうしよう」
「えー!お腹空いたよー!ご飯ご飯ー!」
にゃあにゃあと騒ぎ立てるチョコと、いざとなったら
『あの鍋』に石ころでも投げ込もうと考えているサララ
そして頭を抱えたままのルイズの下に一人のメイドが駆け寄ってきた
「あの……どうかなさいましたか?」
「あ、え、ええと、あなた!」
閃いた!というような顔をしてルイズは、びしっと音がせんばかりに
そこにやってきたメイド―シエスタ―を指さした
「ちょっとした手違いで、私の使い魔の食事の用意が出来てないの!
し、仕方ないから、何か適当に食べさせてやってちょうだい!」
「は、はい、分かりました」
いきなりそう言われてびっくりしたものの、食事が出来ずに困っているのが
今朝会ったサララだと分かると、シエスタは一人と一匹を厨房へ案内した
「マルトーさん」
「おう、シエスタじゃねえか。……何だ、そのちっこいのは」
丸々と太った男性にじろり、と睨まれてサララとチョコは思わず身震いする
「こちらはサララさんと、それから飼い猫のチョコさんです。
ほら、使い魔召喚の儀式で召喚されてしまったって言う……」
「おお、デカい鍋と一緒に召喚されたって噂のあいつらか。
で、その貴族様の使い魔が何の用だ?」
何処か不機嫌そうに問いかけるマルトー
どうやら、彼はあまり貴族が好きではないようだ、とサララは考える
「実は、ミス・ヴァリエール……彼女を召喚した貴族の方が、
彼女に食事を用意するように、とおっしゃられて……」
「何ぃ?」
再びじろり、と睨みつけてくるマルトーだったが、やがてくるり、と背を向けた
「仕方ねえな。賄いのシチューがあっただろ。あれでも食べさせてやれ」
「ぼくにはお肉だけちょうだいね。熱いの嫌いだから」
ワガママを言う飼い猫を目線で嗜めた後、サララはほっと一息つく
そして、今はまだあまり好かれてないらしいマルトーとも
いつかは仲良くなりたいな、と思うのだった
無論、人に嫌われるのがあまり好きではないというサララ自身の性分ゆえに、だが、
こんな所で料理長をやっているし、服装も綺麗だし、
きっと結構な収入があるから、あわよくば常連さんに……という
商売人ならではの打算も、ほんの少しだけ入っている
508:使い魔はじめました ◆xq/C1v8U32
08/03/21 17:01:37 hDp12KpP
おいしいシチューを存分に味わった後で、
サララは何か手伝うことはないか、とシエスタに問いかけた
世の中はギブアンドテイクである
「今は特にありませんが……では、昼食の後で、
デザートを配るのを手伝ってくださいませんか?」
その言葉に了解の意を示し、マルトーにも丁重に礼を言うと厨房を出た
「ちゃんと食事はとれた?」
幸いにも厨房から出てすぐ、ルイズと合流できた
「これから何処行くの?」
「勿論授業よ。といっても、今日のは復習程度の簡単なものだけどね」
チョコの問いにルイズが答えた通り、次に辿り着いた場所は広々とした部屋だった
「うわぁーひろーい。ここで勉強するんだ?」
「ええ、そうよ」
階段状に机と椅子が並んでおり、一番下の段には黒板と変わった机がある
多分、あそこで教師が授業をするのだろう、とサララは予想した
学校というものには馴染みがないが、何かの書物でこういう風な教室を見た気がする
二人と一匹が入っていくと、教室の生徒達が一斉に振り向き、
くすくすと小さな笑い声を立て始めた
「何なんだよもう、感じ悪いなあ……」
チョコが不満を漏らす中で、サララは辺りを見回した
皆、様々な使い魔を連れていた
キュルケのサラマンダーは椅子の下で眠り込んでいる
少しぽっちゃりした生徒の肩にはフクロウが乗っていた
窓からは巨大な蛇が頭を覗かせていたし、カラスも、
チョコと同じような猫もいた
六本足のトカゲもいたし、目玉のオバケに蛸の人魚もいた
見慣れない生物達にサララは目をぱちくりさせる
もし、あれらと戦うことになったとして勝てるだろうか、
元居た場所と違って彼らは喋ってくれなさそうであるから、
交渉をするのも難しいだろうなあ、とため息をつく
戦って勝てそうなら戦う、駄目なら逃げるか、交渉
ダンジョンで鍛えた戦略も通じなさそうで肩を落とす
「ほら、椅子を引きなさいよ、気がきかないわねえ」
ルイズにそう言われて、慌てて椅子をひいた
そして、自分もその隣の椅子に座ろうとする
「おい、ゼロのルイズ!使い魔を椅子に座らせるのかよ!」
フクロウを肩に止めた少年が、ニヤニヤと笑いながら声をかけてきた
「うるさいわね!でもあんたのフクロウはそこでいいんじゃない?
やわらかくて、さぞ居心地がいいでしょうよ、風邪っぴきのマリコルヌ!」
ちょっと気が大きくなっているルイズが少年に言い返した
「風邪っぴきじゃない!僕は『風上』だ!」
ぎゃあぎゃあと言い合いを始めた二人をサララはおろおろとしながら見る
扉の開く音がして見やれば、紫のローブに身を包んだふくよかな女性が入ってきた
ローブと揃いの色の帽子を被り、手には小ぶりな杖を持っている
彼女は言い争いをしている二人を見るとため息をつき、呪文を唱えた
立ち上がり言い争っていた二人は、糸が切れた操り人形のようにすとん、と席につく
「ケンカはおよしなさいな。さて、皆さん。春の使い魔召喚の儀式は
成功したようですわね。こうやって様々な使い魔を見るのが、このシュヴルーズの
楽しみですのよ。……中には、少し多めに召喚なさった方もいるようですが」
サララとチョコを見たシュヴルーズのとぼけた声に、クラス中が笑う
「ゼロのルイズ!召喚できなかったからって、その辺の子供と猫を連れてくるなよ!」
「違うわ!ちゃんと召喚したもの!」
「そうだそうだ!」
ルイズに同調してチョコも抗議する
「嘘つ……むぐ」
さらにからかおうとした生徒の口に、赤土の粘土が貼り付く
「およしなさい、と言っているでしょう。さあ、授業を始めますよ」
シュヴルーズが杖を振ると机の上に石ころが幾つか現れる
509:使い魔はじめました ◆xq/C1v8U32
08/03/21 17:03:16 hDp12KpP
サララは始められた授業を興味深く聞いていた
ダンジョンにおける『熱』『冷』『雷』の法則はこちらに存在しないようだが、
魔法の四大元素が『火』『水』『土』『風』であることは変わらなさそうだ
さらにこの世界には、失われた系統である『虚無』が存在するそうである
シュヴルーズの言葉によれば、『土』は建物を建てるのにも、
金属を加工するのにもかかせない系統であるらしい
自分の知る限りでは、魔法は攻撃や治癒、身体能力の一時的向上などに使われるが
この世界では生活自体に密接に関わっているんだな、と感心しきりである
「今から皆さんには、『土』系統の魔法の基本である『錬金』の魔法を
覚えてもらいます。一年生の時点でできるようになった方もいるでしょうが、
何事も基本は大事です。では、手本を見せますね」
シュヴルーズは石ころに向かって小ぶりな杖を振り上げた
そして短くルーンを呟くと石ころが光りだした
その光がおさまったあと、石ころはピカピカひかる金属に変わっていた
「ゴゴ、ゴールドですか、ミセス・シュヴルーズ!」
キュルケが興奮した様子で身を乗り出した
「違います。ただの真鍮ですわ。ゴールドを錬金できるのは
『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……」
もったいぶった咳をして、シュヴルーズは続けた
「『トライアングル』ですから」
「ね、ルイズ」
チョコが、ちょいちょい、とルイズの腕をつついた
「なによ。授業中よ」
「スクウェアとかトライアングルって、どういうこと?」
「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの」
「え?どういうこと?」
ルイズは小さい声でチョコに説明し出す
サララもそれに耳を傾けた
「『火』『土』のように二つの系統を足せるのがラインメイジ、
『土』『土』『火』のように三つの系統を足せるのが、
シュヴルーズ先生みたいなトライアングルメイジ」
「同じ系統を足してどうすんのさ?」
「その系統がより強力になるのよ」
異世界だと、やはり魔法も随分と違うらしい、とサララは説明を聞きながら頷く
「で、ルイズは幾つ足せるの?」
チョコの問いに、ルイズは押し黙ってしまった
そんな風に喋っているのを見咎められ、錬金の実践を求められた
途端、教室の中がにわかに騒がしくなる
「先生!危険ですのでやめてください!」
キュルケが立ち上がり進言するが、シュヴルーズはそれを却下する
ルイズは緊張した面持ちで机の前へと向かった
生徒達は、慌てて椅子の下に隠れ出している
「え?何?何なの?」
事情が分からずサララとチョコはうろたえながら辺りを見回すばかりである
ルイズはルーンを唱え終わり、杖を振りおろす
その瞬間、石ころは机ごと爆発を起こした
510:使い魔はじめました ◆xq/C1v8U32
08/03/21 17:03:56 hDp12KpP
爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズが黒板に叩きつけられる
爆発に驚いた使い魔達が暴れ出し教室の中は阿鼻叫喚の地獄絵図である
「だから彼女にやらせるな、と言ったじゃない!」
キュルケがフレイムを落ち着かせようと必死になりながら叫ぶ
「あー!俺のラッキーが蛇に食われたー!!」
使い魔のカラスを飲み込まれた様子の生徒が慌てている
カラスって不幸を呼びそうな生き物なのに、ラッキーってつけるのは
随分無茶なネーミングだな、などと爆音にふらつき
まともな思考のできていないサララはその叫びを聞きながら考える
煤で真っ黒になり、ボロボロになったルイズは
大騒ぎになっている教室を意に介した風もない
取り出したハンカチで顔を拭きながら、淡々とした声で言った
「ちょっと失敗みたいね」
その言葉に生徒達が猛然と反撃した
「何処がちょっとだ!!」
「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!」
「いつだって、成功の確率ゼロじゃないかよ!」
サララはやっと、どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているか理解した
自分と同じ『魔法の使えない』魔女だからなのだ、と
511:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 17:05:26 49oCYaiY
支援
512:使い魔はじめました ◆xq/C1v8U32
08/03/21 17:07:59 hDp12KpP
以上で投下完了です
自分の書くルイズは使い魔に優しすぎますね……
あと、『我らの○○』イベント前なのでマルトーさんがツンです
決闘イベントも今の所発生予定はありませんし
さて、いかにして彼をデレさせるかが思案のしどころです
それでは、支援ありがとうございました
513:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 17:11:41 ma3e+XHN
乙。
>デレ
そんなときこそ「スキヤキ」の出番でしょう!
514:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 17:56:01 5HPis2eY
はじめました氏に乙&GJを。
何をどうやってサララ&チョコがゼロ魔キャラ達とつながりを深めていくのか、今後に期待したい。
515:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 17:57:17 K6CcJyHo
遅レスですが、チキの方 はじめましたの方投下乙です。
516:名無し
08/03/21 18:19:29 Dtb9r5Mt
はじめまして。皆さんが書かれている面白いSSを見て小ネタを思いつきましたので、投下いたします。
かなり火葬ですが。
517:レッドサン・ゼロ・メイジ
08/03/21 18:22:49 Dtb9r5Mt
―あの日々を想起し、一言で言うのならば、私たちはあまりに幼かった、と言えるのではないだろうか。
ほんの20年前までハルキゲニアは貴族制の王国が分立し、相互に戦争を繰り返し、あるいはまとまってエルフとの小競り合いを繰り返していた。
それは、ひとえに「魔法」という中途半端に万能な力を貴族たちが独占し、文明の根幹を握っていたからにほかならない。
だが、彼らが来てからそれは恐ろしいスピードで変化していった。
トリステイン王国で試みられた立憲君主制と民主共和政の樹立、そして高度産業革命に付随する様々な改革。
これは連邦国家となったアルビオン王国、ついで帝政ゲルマニアに波及した。
この波は魔法先進国であるガリア王国をも飲み込み、彼らが建造した中央大陸ハイウェイで東方からエルフ合衆国からも押し寄せ、ついにはロマリア連合皇国までこの恩恵を受けることになった。
そして、ルネサンスと呼ばれる啓蒙思想の発展は、ハルキゲニア連邦政府の誕生と、この世界をゆるやかに統合する地球連合の誕生へと突き進むことになるのだ。
この間に繰り広げられた激動の時代は、私と、その仲間たちがよく知っている。
なぜなら、私たちは良くも悪くもその中心の近くに位置したのだから。
518:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:25:43 MRabRrfz
はじめました氏へ乙とGJを
>>516
sageろ
519:レッドサン・ゼロ・メイジ
08/03/21 18:26:19 Dtb9r5Mt
20余年の時を経て思い返せば本当にいくつもの出来事が私たちを変えていったのだと実感できる。
今や大陸全土に電気網や通信網、鉄道や舗装された幹線道路網は張り巡らされ、
超音速で数千キロ離れた国同士を結ぶ旅客機が飛びまわり、
地には新幹線のような高速鉄道や自動車が一家に一台という勢いで普及。家庭を見るならば洗濯機や冷蔵庫に代表されるダイニングキッチン、蛍光灯、冷暖房設備がいかに便利なことか。
平民や貴族を問わずに行われる義務教育や、これを支える基本的人権の思想は、国家の一体化と人類の協和を促進。
その集大成があの双月にアンリエッタ船長やギ―シュ・ド・グラモン飛行士たちが立てたハルキゲニアと全ての国の旗にはあった。
人は、あそこまで行ける。その感動が私たちにそう実感させたのは記憶に新しい。
私は、それを見てふと思い立った。
520:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:26:28 oxJy9AfQ
とりあえずsageを… 支援?
521:レッドサン・ゼロ・メイジ
08/03/21 18:27:30 Dtb9r5Mt
あまりにも激しく変化し、そして実現された「日本による平和(パクス・ニッポニア)」に生きる私は、その成立を最も間近で見た人間だ。
特に、あの統一戦争と呼ばれる一連の紛争について、私は当事者だったのだから。
ならば独断と偏見に満ちたものでも、血に染まったあの戦場を経験し、生き残り、そしてその原因にして結果だった私には、見聞きし、感じたことを後世に残すのが私の務めではないだろうか。と。
傲慢にすぎるかもしれない。
私は自分がそれほどいい人間だとは思わないし、夫や友人たちが言うような優しい人間ではないとも思う。それゆえ、この手記は大変に不愉快に思われる人がいるかもしれない。
記すにあたって公平を期し、当時の関係者や友人たち、かつて敵だった人々にも意見を求め、可能な限りの修正を加えた。
読者諸君においてはこれを資料としてではなく、一人の女性と、その周囲の目から見たあの戦争とその後の風景として読んでいただくことを願いたい。
522:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:28:19 ABIdRU04
age荒らしの発生を確認
これより叩きモードへ移行する
523:レッドサン・ゼロ・メイジ
08/03/21 18:28:56 Dtb9r5Mt
(謝辞)
執筆にあたり、
ハルキゲニア連邦大統領 テファニア・テューダー
同 首相 イザベラ・ド・ガリア
連邦アカデミー校長 シャルロット・エレーヌ・オルレアン
同 主任教授 ジャン・コルベール
炎竜グループ 総帥 キュルケ・フォン・ツェプルストー
連邦宇宙局長 ギ―シュ・ド・グラモン
連邦国防軍参謀総長 ジャン・ジャック・ワルド元帥
駐日連邦大使 ウェールズ・テューダー
同 公使 アンリエッタ・ド・トリステイン
エルフ合衆国統領 カエサリア・アウグストゥス・ゲオルギウス
同 外相 ポンペイア・ビザンティヌス・クラッスス
同 国防相 ビダーシャル・ルミア・コンスタンティヌス
(中略)
524:レッドサン・ゼロ・メイジ
08/03/21 18:29:29 Dtb9r5Mt
彼らに特に大きな感謝を延べ、
そして、ハルキゲニア連邦・日本合衆国、エルフ合衆国、東方、和の国で出版にかかわり、協力してくれたすべての人々と父と母、二人の姉、そして読者諸君に感謝する。
そして、私の愛する夫にも。
ハルキゲニア連邦 外務大臣 ルイズ・フランソワーズ・平賀
統一暦 0014年12月12日
日本標準暦 西暦2057(黎明36)年12月12日
なお、敬称は省き、旧姓を使用した。
―「統一戦争回顧録」(講談・トリスタニア出版)序文より抜粋
日本列島を召喚。
525:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:30:00 prY/rOf9
C・ブロンソンと三船敏郎のレッドサンだと思ってたのに
526:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:30:02 MRabRrfz
テンプレ読んでくりゃれ?
527:名無し
08/03/21 18:30:29 Dtb9r5Mt
投下終了です。本当にお粗末さまでした。
528:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:33:42 ABIdRU04
まかり間違ってもテンプレの投稿規約すら読まん馬鹿者のwiki登録は無し
その点だけは異論無いな?諸君
他の扱いはどうであれ
こういうのを邪気眼と言う、知らなかった者は覚えておこう
529:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:34:54 LSgzlMqD
支援
530:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:35:29 uY7x4XGz
えんさつこくりゅうは?
531:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:38:39 qwHDR+Aw
これはひどい
532:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:39:56 p28jVLKw
>>528
確かにこれは酷い。登録されないようにしたほうがいいな。
533:名無し
08/03/21 18:40:42 Dtb9r5Mt
>528様
本当に失礼しました。
問題あるようなら削除願います。
534:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:42:09 NyYSY+f4
つURLリンク(nukoup.nukos.net)
535:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 18:44:14 xw90Zu5d
未だage続けるって事は荒らしだなこりゃ
536:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:00:57 LSgzlMqD
支援支援
537:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:17:35 4XMNRfT6
メール欄には半角英小文字でsageと入力するのがここのルール。
538:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:24:22 sGqU08EZ
優しいなぁ
そんなときは>>1嫁とか半年ROMれ
と突き放すのも手だぜ
539:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:31:31 EGW9NscJ
>>537
優しいなお前。抱いてくれ(鯖折り的な意味で)
540:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:38:50 4XMNRfT6
>>539
ジーグブリーカー!死ねぇ!
541:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:39:08 wcLAi6a0
>>539
「抱擁」と書いて「ベア・ハッグ」と読むアレか?
542:チキの人
08/03/21 19:41:08 zMJLtzvq
ヴァルプロと言えば、一番最初のダンジョンがクリアできなかった。
カタツムリが進むくらいの物語スピードですが、投下だけは早くしないと……
と、書きながら思ったのです。このルイズ、ツンとデレ分が少ない。
そんなルイズはルイズ足るのだろうかと思いつつ、投下しても宜しいでしょうか
543:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:42:41 sGqU08EZ
家紋
544:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:44:04 wcLAi6a0
もーまんたい
545:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:44:05 uAL0cvQ7
>>542
>>446とかでも思ったけど、
投下前に必要なのは確認であって許可じゃないと思うよ。
せいぜい他に誰か投下予定があるなら控える、ってだけで。
なのでGOGO!!
546:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:44:09 NyYSY+f4
チキ支援
あとカシム死ね。
547:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/21 19:44:53 4XMNRfT6
幼女にまで当たるのはむしろやりすぎ。せれもまた彼女の一面ということでいいのでは?
548:チキの人
08/03/21 19:45:53 zMJLtzvq
「あ~っ!」
「筋肉痛の発症が早いのは若い証拠よルイズ、あと運動不足」
「水の、水のメイジを呼んで頂戴キュルケ、一生、一生のお願いよぉ」
「いくらあんたが一度始めると周りが見えないメイジだからって、五時間も剣を振る運動したらこうなるって、理解できないとは思わなかったわ」
そうなのである。
私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは慣れない筋肉の酷使を続けた結果、デルフを振り上げた瞬間にその勢いのまま倒れた。
今の私はデルフを上段に構えたまま、指を動かすことすらかなわない。
当然起き上がることなど不可能である。
見下ろすキュルケは呆れた表情のまま、私を魔法で持ち上げた。抵抗することもできないので風の流れに身を任せていると、見慣れぬ竜がタバサの風竜と飛んでいる姿が見えた。
遠目なのでよくは分からないが、大人の三倍くらいの大きさで、巨大な羽と細い体躯が特徴だ。
タバサの風竜に比べれば小さいけど……もしかしてここの生徒の使い魔? 私自身も全ての使い魔を把握してるわけじゃないから分からないけど。
「キュルケー」
「たまに飛んでるのを見るわ、でも、クラスの誰かの使い魔じゃないわね」
私が弱弱しく訴えかけると、貸し一つでキュルケが答えてくれた。
タバサは誰の使い魔かは知ってるみたいだけど口を割らない。ただ一つ言えるのはあまり正体を詮索しない方が良いとの事。
「へぇー、ああいう使い魔も良いなあ……」
「浮気かしら、ダメなルイズ」
「違うわよ、チキはパートナー。ああいうのがいたら、移動が楽でしょ」
あんな竜に乗ってどこまでも遠くチキと二人で……ヴァリエールの領地に着いたらちいねえさまにチキを紹介して。
ああでもエレオノール姉様には会わせない様にしよう、ただでさえ婚期が遅れているのに、チキを見せたら喜び勇んで研究に没頭しそう。
私がパートナーだって言っても、使い魔としか見てくれなさそうだし。
「そういえばルイズ、最近夜はお早いみたいね」
「チキがいるからね、お姉ちゃんが早く寝ればチキも早く寝付くと思って」
唐突に何を言い出すのだキュルケは。
私にはあんたみたいに恋人もいないし、そういう相手を作る気もない。夜が早かろうが遅かろうが良いじゃないの。
そんな事を考えていると、キュルケは意味深な笑みを浮かべて私に言った。
「あの竜を見るのは大抵、コトが終わった後なのよねぇ」
なんだ自慢か。
ここで文句を言って、後は自分で帰りなさいとか言われても困ってしまうので、だんまりで押し通してみる。
キュルケも私が反応を返さないのが不満らしく 不機嫌そうな表情のまま宿舎に入ろうかとした。
すると唐突に地面が揺れる。
「な、地震!?」
私の体は浮いてしまってるのでどれくらいの揺れかは分からない。
ただ、このキュルケの慌て様はちょっと面白かった。
もしかしてゲルマニアは地震が少ないとか? ようし、今度ベッドの下に爆発魔法を発動して驚かせてやろう。
「ルイズ、アレ!」
「んあー?」
キュルケの指さした先には……ゴ、ゴーレムがっ!
今日戦ったギーシュのワルキューレなんてもんじゃない、巨大ゴーレムと呼称できるほどの大きさを持つゴーレムが宝物庫の壁を殴りつけている。
「ど、どうするのよキュルケ!」
「どうするって、あんた、何で土メイジの魔法が建築や工事に向いてるか考えればすぐに分かるでしょう!」
滅多な魔法や攻撃じゃ破壊できないからです、はい。
って、事は? 何か。
「もしかして逃げるの?」
「当たり前でしょ、まだこっちには気が付いてないみたいだし」
「い、嫌よ! 例え筋肉痛が酷くなろうとも、敵に背中を見せられるかっ!」
身体が浮き上がったと思うと、どさっ、と私の体が宝物庫近くの草むらに落とされた。
魔法による見事な跳躍だった。
「あ、あ、あーっ! このー! はくじょーものー!」
いくら叫んだって何メイルもある宿舎には聞こえない。
さすが微熱のキュルケ、彼女の言葉通り友情も熱しやすく冷めやすいなんて。
これだからゲルマニアの女は!
いや、ある意味私の意志は尊重してるけどね!
549:ゼロのルイズとマムクートプリンセス 第七話
08/03/21 19:47:08 zMJLtzvq
「あ、デルフ……なんとか、何とかしなさい」
「オレは武器だぜ、使い手も無しに動けるか」
「くそっ、この、役立たず!」
上段に構えたデルフと言い争いをしていると、ゴーレムの肩の上に立つローブを纏ったメイジと目が合った……気がした。
だって、もう仕事は終わってるはずなのにゴーレムは私の方を見ているんだもの、どう考えても狙われているとしか思えないじゃない。
「デルフ! 踏み潰されて死ぬわよ!」
「あー、なんかもう何千年も生きてるからどうでもいいや」
「私はまだー! 十六年しか生きてないのよっ! いやー、たーすーけーてーチーキー!」
声を上げて叫ぶも、ゴーレムの足はぐんぐんと迫ってくる。
あんなになって守ってあげると言っていたチキに、助けを求めてしまうなんてお姉ちゃん失格だ……。
と、そんな風に思ったのは、足が眼前にまで迫ったから。
走馬灯ってやつかも知れない……いや、違うか。
その時目に捉えられないほどのスピードで、黒い陰がゴーレムにぶつかった。
片足でバランスの悪いゴーレムはそのまま倒れるかと思ったけど、何とか持ち直した。
その際に私の数十センチ横に足を着地させたので肝をつぶしたんだけど。
「あー、デルフ、助かった?」
「絶体絶命のピンチは変わらねーよお嬢」
確かに、ゴーレムに体当たりしたと思われる竜は、その身体をホバリングさせたまま様子を伺っている。
たぶん、私を助けようにもゴーレムの足が近すぎるのだ。
本当にダメかもと思った時、視界の端に十サントほどのタバサの風竜が見えた。あー、この茶色の竜は随分と高速で飛んできたのね……なんてありがたいの。
しっかし、このデルフを上段に構えたまま倒れてる私って格好悪いなあ。こんな所は絶対チキには見られたくないよ。
「あー、デルフ、私の声を大きくできる魔法とかってない?」
「おう、さっき踏み潰されそうになった際に思い出したぜ」
……なんか壊れかけのオルゴールは叩いて直せるってやつみたいね。それ。
だけどそんな神様に都合の良い出来事を利用しない手はない!
「じゃあ、行くわよ! ……ドロボー! ドロボーが出たぞー!」
学院を超えて、トリステインの城下町にも届きそうなくらいの大音量。
寝てる人には申し訳ないけど、これも私が助かる為よ。
怪盗は目撃者を少なくしようとして私を殺そうとしたわけだから、誰かに見られるリスクが上がった今、逃げるしかないはず。
私の思惑通り怪盗はフライを使ってゴーレムから飛び降り、何かを脇に抱えたまま逃げ出した。その背中を見送り何となく安心する、良かった。
「だがよお嬢、これ、崩れちまうんじゃねえか?」
「あは、あははは……」
確かに術者の精神力が途切れれば、ゴーレムは固定化でもしてない限り土や石に帰るよね。
事実、ゴーレムはゆらゆらと動いて今にも崩れそう。
「いやー、たすけてー!」
私が叫んだ所、さっきの竜が体を咥えて飛び上がった。
ふわりと気絶しない程度のスピードで空中に静止する。
ガラガラと崩れ落ちる土や石の塊を空から見て、私は今度こそ助かったのだと気付いた。
ただ、叫んだり咥えられたりした際も、筋肉痛が身体を締め付ける。
それにさっきから何があるわけじゃないけど、竜に咥えられているという状況は恐怖感抜群だ。
そんなことを考えていると、やがて風竜に乗ったタバサが到着。
呆れ返った様にも見える無表情のまま、大きな杖を振るうと、竜の口が開いて私の体がふわりと浮いた。
ああ、唾やらでちょっと汚れて空気がちゅめたいし、鼻がムズムズする!
「へっくしっ!」
ちょうどタバサの前に移動してきた時、豪快にくしゃみをした。
当然手を口の前に置く余裕はなかったので、唾やら鼻水が眼鏡と髪に飛び散った。
……何だか、ちょっと寒さが厳しくなったなあ。
「タバサ……ごめん」
「いい、永遠の借しにしてあげる」
え、それ許してくれないってことですかタバサさん?
「ねえ、ちょ……」
「ごめん」
風竜の背中に身体が横たわった瞬間、大きな杖が頭に直撃する。
ああ、これが永遠の貸しの一部なのか……勘弁してよ、タバサぁ。
なんて考えながら見える景色が黒ずんでいった。