あの作品のキャラがルイズに召喚されました part120at ANICHARA
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part120 - 暇つぶし2ch650:いぬかみっな使い魔
08/03/15 21:11:52 auiyejiG
「ありがとう、では次に、ルイズを馬鹿にしていた連中は謝罪するんだ。
これからもう悪口は言わない。そう誓ってくれ。」
これもまた快諾され、実行に移された。
 「ごめんね。」「もう言わない。」「悪かったな。」
 「すまなかったな。」「すごい人呼んだのね。」
 「おまえ将来はすごい奴になるのかもな!」
向こうから謝ってくるならルイズも素直になれる。
「私こそ、ごめんなさい。みんな、ありがとう。」

「よし、それじゃあ最後の要求だ。男子は壊れた教室の片づけを
 手伝ってくれ! シュヴルーズ先生に命令されてんだ。」
一斉に悲鳴が上がるが、それは明るく裏の無い悲鳴だった。
三々五々教室に戻ろうとする男子、別の教室で講義が続けられるとのことで
移動する女子、それについていって明るく会話するルイズ。
そのルイズの首根っこを、啓太がぐいとつかんだ。
「どこ行くつもりだ?」
「え? だから教室に行って授業を…」
「壊れた教室の片付けは?」
「え? それは男子がやってくれるんじゃ!?」
「手伝ってくれ、といっただろう? 片付けは壊した張本人がするもんだ。
つまり、お前が中心になって片付けるんだ。」
「えええええええええ!!!!」
「ほれ、いけ。」
「ちょっと、あんたは!?」
「俺はもちろん授業を受ける。ものすごく興味深いからな。
いやあ、授業時間おもいっきり損しちまった。取り戻さないと。」

つまり。
教師を含めて女子だけの教室で授業を受けるということで。
「ちょっと~~~~!!??!?!?!?!」

自分に尽くしてくれるナイトがあらわれた!
とも思っていたルイズは。
あまりの事態に絶叫したのであった。

651:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 21:14:16 OaEsvDMj
良い落ちだw

652:いぬかみっな使い魔
08/03/15 21:15:17 auiyejiG
以上で終了です。支援ありがとうございました。

653:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 21:31:59 myrZiO34
これはいいオチww
GJ!

654:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 21:49:17 DWly4Pzl
裸王かっこいいな!
しかし、ともはねの出番すくNEEEEEEEEEEEEE!!!!!

655:いぬかみっな使い魔
08/03/15 21:51:09 auiyejiG
じゃあ、ともはね系のお話書きます。
予定もあるのですぐにとは行かないですが。
ただし、薬剤師系のお話になりますよ?

656:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 21:56:10 /l1cogP3
そこは何も言わぬまま書いて投下してビックリさせるところだよ

657:いぬかみっな使い魔
08/03/15 22:01:37 auiyejiG
了解(w
とはいえ、ともはねの出番が少ない、とのご意見はとてもうれしかったのです。
啓太と同じでともはねが一番かわいいもので。
あの無邪気さがたまりません。
嫁にするならなでしこが一番ですが。

658:宴はまろやか ◆WqrvLf.tx2
08/03/15 22:07:46 qTkqbUTL
三ヶ月くらい前に更新したっきり停止してる、
宴はまろやかってやつの続きを書こうと思ったんです。
だいたいプロットに六日、書くのに三日、推敲に一日くらいかかるかな。

全部足して十分ってとこでしょうか。十分後に投下します。

659:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:09:42 G0fD4BxC
支援して待つ

660:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:09:52 PMBiZBH+
10分と言わず、いますぐオッケー

661:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:10:18 CYjsGa9Z
このレスを見たあなたの部屋にルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが現れます

その方法はただ一つ
↓このスレに行き
スレリンク(wcomic板)


くぎゅがいちばんかわいくてすごい


と書き込んでください。
書き込めば確実にルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがあなたの前に現れますよ


662:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:11:53 /l1cogP3
宴を待っておりましたともさ。喜び勇んで支援する!

663:宴はまろやか 1/5
08/03/15 22:16:19 qTkqbUTL
 人の手に指が五本あり、それぞれ関節が三つずつあるように、ゴブリンにも同じだけの
指と関節がある。特に親指、人差し指、それから中指は小器用に動く。ひょっとすると人
間よりも早いのでは。ルイズは己の使い魔の手の動きを見ながら、そんなことを思った。
 ラッキーは右手の、親指と中指をこすり合わせることに四苦八苦している。
「あ、だめよ。中指と薬指を重ねてはだめ。指を一本多く使ったからって、大きい音がで
るわけじゃないの」
 ラッキーの、眉間の先に右手を出してみせて、ぱちん、と小気味よい音を鳴らす。連動
してテーブルの上、小型のランプから明かりが消えた。ラッキーが羨ましそうに呻く。ル
イズは間を置かずにもう一度指を鳴らし、明かりをつけた。
 指の音に反応してついたり消えたりする魔法のランプは、この部屋の中では最も安価な
家具の一つだ。ルイズの部屋では、天蓋つきのベッドも、引き出しに鍵のある机も、最高
級の魔法が用いられていない家具が選ばれているが、ランプは違う。
 ルイズの部屋は統一感に欠ける。長姉は当の昔に学院を卒業してはいたが、彼女が寮に
入る際に揃えた家具はそのまま、勤務先のアカデミーの近くに構えた屋敷で使われている。
次姉は病弱故に家から出ることはなかった。そうして、二人居る姉からのお下がりを譲り
受けることなく、一年前の学院入学の折、父ヴァリエール公爵から与えられた上限の無い
予算で部屋を整えた。
 貴族、平民、それぞれ最高峰の職人が共同で作り上げた品、次に平民の職人が匠の技で
作り上げた品、続いて貴族の職人が魔法を駆使して作り上げた品、最後に平民の職人が人
数に物を言わせて数を作り上げた品。求める際の費用の高い順に並べると、こうなる。ル
イズの部屋には二番目の、平民の職人による最高級品が多い。一番目の魔法が付与された
家具には、彼女が使えない物も多いからだ。ちなみにランプは三番目の品に当たる。
「ほら、もう少しよ。一回鳴ればすぐだから。あんたにもすぐに、つけたり消したり出来
るようになるの」
「へい! がんばりやす」
 その日の晩、しばらく不規則についたり、消えたりを繰り返していたルイズの部屋は、
何かを祝うように連続で点滅した後、就寝時間を大幅に過ぎて消灯した。
 
 宴はまろやか
 「溶接工、または修繕屋、あるいは武器鍛冶―いずれもゴブリンの」
 
 
 毎朝清々しい目覚めを迎え、貴族に見合った豪勢な朝食を取り、学生の本分である学び
に精を出し、やはり貴族に見合った豪勢な昼食を取り、そして勤勉な幾人かがその日の復
習のためにテキストを開くのを横目に見ながら、各々相手を見繕って会話に洒落込む。
 魔法学院に通う貴族の子女はこうして日々を過ごす。ギーシュもその一人だが、最近は、
普段ならば気の緩む午後こそが本番だった。
「ギーシュまたなの?! あんたね最近しつこいのもうどっか行っちゃいなさいよ!」
 モンモランシーの声が中庭に響く。ダンスホールの音楽を遮らないための、手のひらで
口元を隠す上品な笑い方。貴き貴族の隠すべき姦計を、隣人の耳元で囁くときの話し方。
学生であっても貴族であれば自然と身についているものだ。歓談のための中庭とはいえ、
貴族がいくら集まっても騒々しくなることはない。
 そんな静かな場を壊す大声を出したモンモランシーに、非難の目を向けるわけでもなく、
集まっていた生徒たちは自分の連れ合いと視線を合わせて席を立った。今日はこの中庭が
戦場らしい。
「いい加減あなたには愛想がつきたって、言ってるでしょ?」
「でも、でも聞いてくれモンモランシー。あれは本当に誤解なんだよ」
「うるさい!」
 モンモランシーはギーシュの弁解を切って捨てながら、今日の授業のページを開いて投
げ出していたテキストを閉じ、テーブルの下で組んでいた足を解き椅子を僅かに引いた。
中庭を去る準備は万端、直ぐにでも立って貴男とはさよならするわ。そんなメッセージを
込めたつもりで、モンモランシーは眉を寄せた不機嫌な顔をギーシュに見せ付ける。ギー
シュの声に一層悲痛さが混じり出す。
 ちなみに見る者が見れば、一連のモンモランシーの動作で、彼女の前に一人座れるだけ
のスペースが出来上がっていることに気づくのだが、生憎と他の生徒たちは全て立ち去っ
てしまっていた。中庭にはギーシュとモンモランシーしかいない。
「今日は君のための詩を書いてきたんだ。一週間、納得のいくフレーズが見つかるまで僕
は、食事が喉を通らなかった」

664:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:16:20 QWx/jlL9
【美しい国】はてなようせいに続きぷらす・まいなす姉妹が登場【はじまったな】
スレリンク(poverty板)

665:宴はまろやか 2/5
08/03/15 22:16:59 qTkqbUTL
「昨日持ってきた五日かかった歌は何よ! 一昨日引いてきた準備に十日かかった馬は、
一ヶ月かけて見つけてきた遠出のコースはどうなったの!?」
 神妙に目を伏せてギーシュが差し出した手紙の束をひったくってから、モンモランシー
は言った。ギーシュの口もよく回るが、モンモランシーもよく覚えている。ちなみに乱暴
にギーシュの手から巻き上げられた手紙たちは、目にも留まらぬ速さで彼女のマントの裏
に仕舞われた。
「ああ、モンモランシー。怒らないでくれ。そうだね、僕もちょっと長すぎるとは思った
んだ。でも伝えたいことがたくさんありすぎて……。
 そうだ! 今この場で君のために朗読しよう。心配はいらないさ。僕の正直な気持ちの
まま綴った詩だ。内容は全部覚えてる。出だしはこうさ。
 僕のいとしいモンモコラブッ」
 ギーシュは吹き飛んだ。
 
 
 
「爆発が失敗っていうよりも、私の魔法だっていうのは解ったのよ。使いどころが難しい
けど、結構すごい魔法だってことも」
 ルイズは底に薄くワインを敷いたグラスに、蜂蜜と、レモンの絞り汁を混ぜた水を入れ
てかき混ぜながら言った。部屋の床に座るラッキーの前には、レモンを垂らしただけの蜂
蜜が置かれている。昼食後すぐに自室に戻る生徒は少ないが、居ないわけではない。
「へい。そうですね。ぼんばかぼんばかって聞こえると、おいらなんだか楽しくって」
「そうよね。ラッキーの故郷だと、毎日聞こえる音なのかしら」
 ところで、とルイズは言った。
「ラッキーの能力って、何なの?
 何か特別な力があるみたいなこと、言ってたけど」
 使い魔の前では気風の良い素振りばかり見せてきたルイズが、些か不安げに伺ってきた
ことに気づいたのか、ラッキーは胸を叩いて返事をした。良いところを見せてやりたい。
「へい! ええと、ちょっと待ってくだせい」
「準備がいるの?」
「へい。相手が必要っていうか……。ちょっとギーシュの旦那にお願いしてきます」
「ギーシュ? なんであいつに」
「一回手伝ってもらったことがあるんで」
「ふうん。解ったわ、いってらっしゃい。後から説明してくれるだけで良いから。私は部
屋で待ってるわね」
「へい!」
 慌てて立ち上がり、駆けだす。少しの間を置いてからラッキーは、自分の他にゴブリン
をもう一匹ほど連れて戻ってきた。
 
「ギーシュ、ほら、頭よこして」
「うう。僕は……」
「良くわからないけど、ルイズの使い魔があんたのこと叩いて逃げてったわ」
「なっ! ま、またルイズか……」
「ほら動かないの。あんまり可哀想だし、膝貸してあげるから」
「モンモランシー……僕は、僕は」
「はいはい。解ったからしばらくこうしてなさい」
 
 
 
 ルイズの前で二匹のゴブリンがしゃちほこ張っている。
 一匹は知れた己の使い魔だ。緑色の肌を晒して、腰布一枚だけを纏っている。剥き出し
の上半身、二の腕は特にルイズのそれよりも細く頼りない。だが、これで良く出来た使い
魔で、とても気のいいやつであることをルイズは知っている。
 もう一匹は赤い全身を覆う服、ツナギという種類の物らしい。ゴブリンの種族衣装だろ
うか。それから眼鏡と、頑丈そうな手袋。腰には不思議な道具が幾つも提げられているが、
ルイズには鉄鎚しか解らなかった。
 二人が踏ん反り返っているせいでちらちらと見える、赤みがかった鼻頭がどこか笑いを
誘っている。
「それで、ラッキー」
「へい!」
 ルイズは思い切って尋ねた。

666:宴はまろやか 3/5
08/03/15 22:17:30 qTkqbUTL
「どこから出したの」
「へい! ええと、中庭から連れてきやした」
 ラッキーがたんこぶを作って沈黙した。
 ルイズの誰何は隣へと向けられる。
「それで、あんたは?」
「へい、溶接工です。ベルドって呼んでください」
 ルイズは腕組みした。軽く名乗ってから鉄鎚をお手玉してみせたゴブリンを、上から下
まで眺めてから、指先でラッキーの腫れた頭をつつく。
「ラッキー起きて」
「へ、へい! あいたっ! 大将、何ですかい?」
「今まで気づかなかったけど、おかしいのよ。
 ゴブリンって未確認の種族でしょ? なんで最近になってこんなに沢山、しかもあんた
の友達ばっかり出てくるわけ」
「そういう能力でして」
 眉を寄せて問い詰めようとしたルイズだったが、あっさりとしたラッキーの答えに拍子
抜けしてか、浮きかけた腰を椅子に落とした。
「あ、うん。もう一回聞くわ。どうやって出したの?」
「へい。それはもう、昔々あるところに……」
「もう聞かないわよ」
「説明しやす」
 
 
 
 敵を定めて、殴る。ゴブリンを喚ぶ。ゴブリンでさえあれば、ラッキーのような下っ端
から一国の王まで、どんなゴブリンでも召喚することができる。
「ゴブリンなら誰でもって、貴族で言えば女王陛下とか、学院長とかも?」
「へい! そうです」
「ちょっと違いやす。人間で言えば女王陛下とか、学院長とかを召喚できやす。
 おれみたいな溶接工も、こいつみたいな下働きも」
 早々と相槌を打ったラッキーに追従することなく、ベルドは訂正を入れた。有用である
ことは貴族であること、魔法使いであることと必ずしもイコールではないのだ。
 ルイズは己の使い魔の、腫れた頭を軽く叩いた。
「じゃあ、たまに料理長と一緒になって遊んでる五匹組もあんたの能力?」
「へい」
「銃ぶら下げて学院の塀の外をうろついてるあれも?」
「へい」
「じゃあ、これは?」
「へい! そいつは、ええと」
「あ、おれですかい? いくらか時間を貰えれば……。
 うーん、ちょいと部屋の内装でも変えてみせましょうか」
 ルイズは腕を組んで唸った。正直に言えば、この部屋は自分なりに考えて彩ったものだ。
多少の愛着はある。ルイズは足も組んで唸った。
「おいらからもお願いしやす。ベルドはおいらたちの中でも特別賢いやつでして」
「……よし。任せてみる」
 ルイズは一切をゴブリン達にまかせて、部屋の外に出た。
 
「あっ、モンモランシー、あれ?」
「静かにして。寝てるの」
「んと。私、彼に謝りに来たんだけど。うちの使い魔が失礼したみたいだから」
「そう」
 本来向かい合う形で置かれている椅子を二つ横に並べて、モンモランシーの膝枕で眠る
男子生徒が一人。
「ふうん。へぇ。へぇえー」
「ちょっと、何よルイズ。嫌な笑い方してる」
 ルイズはギーシュが当分起きそうにないのを確認してから言う。
「いいえ、別に。ええと、そうだわ。『ごめんなさい、ギーシュ』」
「……。はいはい。『ありがとう、ルイズ』」
「どういたしまして。素直じゃない奴ぅ」
「お互い様!」
 眠っているはずのギーシュが、居心地悪げにモンモランシーの膝へ顔をうずめた。

667:宴はまろやか 4/5
08/03/15 22:18:13 qTkqbUTL
 
 
 
「張り切って大将の部屋を改造?」
「そこまではしねえよ。そうさね、おれ特製の便利道具でも造るかい」
 主人の居ない部屋で、ラッキーとベルドが向かい合い座っていた。ベルド自身は溶接工
と名乗っているが、がらくたから新しいものを造ることを得意としていた。何かと発明好
きの教師、ミスタ・コルベールの部屋ならば別だったかもしれないが、ルイズの部屋にが
らくたなど無い。
「無いものはもってこい、ってね。この椅子をばらして使おうか」
「なるほど。それで、無くなった椅子はどうすりゃいいんだ?」
「それはな、ま、ばらすってことはほら、元通りに組み立てられるってことさ」
「そうか! やっぱりお前は頭いいな」
「そんなに褒めるなよ」
 楽しそうに手を叩くラッキーに、ベルドは頭を掻きながら笑った。
「で、何造るの?」
「木っていえば棍棒だろ」
「そういやそうか」
 ベルドは取り出した刃物で、椅子の足を削り始めた。ラッキーがそれを眺める。
「上手いもんだなぁ」
「だろ? おれの得意は鉄だけどよ。こういうのも、よっ、ほっ」
「やっぱ何でも出来るゴブリンは違うね」
「そうでもねえよ。あんまり褒めるなって」
 やがて椅子の足が棍棒の形を成してきた。先端は丸く整えられ、握りを細く削る作業に
入る。最後に簡単に木屑を払って完成だ。
「お、できたぞ。……あぁ、ちょっと小さいか?」
「大将はおいらたちよりも大きいからな。すげえ小さいんじゃないか?」
「よしきた。都合良いことに椅子の足は四本あるからな。あと二回失敗できるぞ」
「三回じゃないか?」
「三回かも」
 少しして、同じ大きさの棍棒が四本出来上がった。
「……おれは頑張った」
「ああ、ベルドは頑張った」
「決めた。火薬で証拠隠滅する」
 おもむろにベルドは腰布から、黒色火薬を取り出した。結構な量だ。彼は小器用に片手
でマッチを擦って見せる。たよりなく揺らめく炎に、緑色の顔が照らされている。
「そうかい。ところでそれってぼんばかの素?」
「ああ。火薬な」
「ぼんばかの素だろ」
「まぁそうだけど」
「ところでそのぼんばかって、どれくらい?」
「どれくらいって……それなり」
「それなりかぁ」
「それなりさ。火つけるぞ」
 何かに気づいたラッキーが、突然ばねのように机に向かって飛び込んだ。
 ルイズの部屋は爆発した。
 
 
 
 突如聞こえてきた爆発音に、ルイズは慌てて自分の部屋へと駆け戻った。遠くから聞こ
えた爆発音と、すぐ近くに居るルイズの顔を見て不思議そうに首を傾げる生徒を何人も置
き去りにして走る。そして隙間から煙を吐く部屋のドアを、力いっぱい押し開けた。
「ラッキー! 何があったの!?」
 部屋の中には、うつ伏せに倒れたラッキー、仰向けに倒れたベルドがそれぞれ転がって
いた。床には煤焦げた跡が見られる。椅子が見当たらないので、木っ端微塵に吹き飛んだ
のだろうか。
「ねぇ、ラッキー。あんた怪我とかは……」
 煤の跡は、ラッキーの背中にもある。いささか淑女とは言いがたい慌てぶりを見せなが
ら、ルイズは使い魔の体をひっくり返した。腹の下から、ランプが一つ姿を見せる。
 昨日一緒に話の種にした、安っぽい魔法のランプだった。

668:宴はまろやか 5/5
08/03/15 22:18:34 qTkqbUTL
 
 
 
「次の虚無の曜日ね」
「へい?」
「買い物に行くわよ」
「わかりやした」
「まず椅子ね」
「すいやせんでした」
「それから、魔法の小物店に行きましょう」
 ルイズはベッドに座り、足を揺らしながら言った。
「きっと面白いものがあるわ」

669:宴はまろやか 6/5
08/03/15 22:19:05 qTkqbUTL
投下終了です。久しぶりに支援を置き去りにしてみました。
こそこそと戻ってきたり…。

今回召喚したのはゴブリンの溶接工/Goblin Welderです。
「ボス、あなたの金物野郎を壊してしまいやした。でも、ほら、灰皿を作ってあげやしたよ。」
このフレーバー最高ですよね。私がひいこら言って書いた話よりこれ一節の方が面白いとかは、
絶対に触らない方向でお願いします。触らないで下さいね。

670:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:24:45 G0fD4BxC
触るなといわれると触りたくなる
ともかく投下乙です

671:ゼロな提督8
08/03/15 22:37:41 +pGzJhRi
すんませーん、予約ありますか?

無ければ50分くらいから投下しますが

672:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:40:08 moBAdfqZ
なんか豊作ですねwともかくしえん!

673:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:40:40 fpfTGOU0
宇宙を手に入れたらみんなで…支援

674:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:41:14 5nVxb1H9
紅茶を用意して待ってます

675:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:45:58 jtS/YJ3Y
壷支援

676:ゼロな提督8
08/03/15 22:48:23 +pGzJhRi
 トリステイン魔法学院は、だだっ広い草原の中にある。
 その学院から少し離れた所には小さな村があり、村人は慎ましい生活をしている。
 真昼の太陽が照らす中、一人の男馬に乗り、村のはずれへと向かっていた。

 白い幅広の墓石が並ぶ共同墓地の一角に、一輪の花を持つヤンの姿があった。

 素っ気ない、墓碑銘もない幅広の墓石の前に立ち、しばしの瞑想をする。
 そして、手に持つ花を手向けた。

「必ずって約束は出来ないけど、もし元の世界に戻れたら、あなたの家族にもあなたの事
は伝えるよ」

 ヤンは馬に乗り、学院へと戻っていった。



       第八話   名も無き墓



 昼食も終わり授業が始まる頃、ヤンは学院長室を訪れた。オスマンのデスクの上には古
ぼけた手帳、ボロボロの身分証明書、その他鏡だのクシだのといった小さな日用品が並ん
でいる。そしてそれら全てには、銀河帝国の公用語が書かれていた。
 ロングビルも興味深げに覗き込んでいた。

「30年前の物じゃからな、見つけるのに苦労したわい」
「わざわざすいません。それで、墓に入れなかった遺品はこれで全部ですか?」
「うむ。そっちは墓前には行ってきたかね?」
「ええ。それでは遺品を拝見させてもらいます」
「ああ、よいぞ。まず彼の名は?墓碑銘を刻みたいのだが」
「はい、えっと…」 

 ヤンは身分証明書を手に取った。血と泥に黒く汚れ、ささくれ、ひび割れた表面から僅
かに覗く文字を読み取っていく。
「…ヨハネス・シュトラウス。帝国暦43…えと、436年かな?12月1日生まれ…帝国軍
准尉、グレ…うーん、削れて上手く読めないけど、グレゴール艦隊第12工兵隊所属…か
なぁ」

 それはヤンの記憶に無い帝国軍艦隊名だ。だが、ハルケギニアとヤンの世界に時間的ズ
レ無く往来が可能と仮定するなら今より30年程前の宇宙暦770年、帝国暦460年頃に存
在した艦隊だ。30年前の艦隊で、同盟との交戦もなく吸収合併したり名称が変わったな
ら、ヤンが知らないのも道理だ。
 ロングビルはヨハネス・シュトラウスの帝国語でのスペルと生年月日をメモする。
「後ほど墓碑に刻むよう依頼しておきますわ」
 オスマンは小さく頷いた。

 ヤンは他の遺品を一通り見渡してみる。
 クシ、鏡といった日用品は、材質こそハルケギニアの物とは違うが、これといってヤン
の役に立つ物ではなさそうだ。
「やっぱり、これだな…」
 ヤンは手帳を手に取り、中を開いてみた。やはり身分証明書と同じく所々が読めないも
のの、帝国公用語の文章が書き連ねてあった。

 手帳を開いてすぐに、ヤンは一心不乱に中を読み始めた。一言も発さず、瞬きすらしな
い。その姿を見つめるオスマンとロングビルも、ヤンの姿にただならぬ物を感じて声をか
けようとはしない。
 さほど大きくもなくページも少ない手帳ゆえ、ほどなくしてヤンは読み終えて手帳を閉
じた。だがそれでも彼は何も口にしようとはしない。ただ眼を閉じ、天を仰いでいる。


677:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:49:30 T9rgrAzt
しーましえーん!

678:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:49:35 sfx8v2by
紅茶入りのブランデーを支援

679:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:49:40 bbAMgSCB
支援します

680:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:50:02 jtS/YJ3Y
支援

681:ゼロな提督8
08/03/15 22:50:40 +pGzJhRi
 オスマンとロングビルは困惑の視線を向け合う。意を決し口を開いたのは秘書の方だっ
た。
「ヤン…どうだったの?」
 問われたヤンはゆっくりと眼を開き、俯いて、手に持つ古ぼけた手帳を見つめた。
 そして、ゆっくりと語り出す。

「彼は…ヨハネス・シュトラウスは、この手帳にハルケギニアに来てからの事を書き連ね
ていました。日記とかをつける習慣は無かったようで、時々大まかにあった事を記してい
るだけですが」
 そしてヤンは語りはじめた。30年前にオスマンを救って帰らぬ人となった、名も無き
帝国軍兵士の事を。ハルケギニアの人々には通じない言葉が混じっている事も忘れ、彼の
孤独と哀しみをそのままに。




 ヨハネス・シュトラウスは、帝国首都オーディンの演習場にて軍事演習中だった。
 彼の所属する工兵隊は装甲輸送車で走行中だった。突然正面に現れた鏡の様なものが現
れ、操縦者していた彼は回避しようとしたが間に合わず、そのまま鏡の中に突っ込んでし
まった。
 突っ込んだ次の瞬間、いきなり周囲の土地が盛り上がり、車輌真下の地面は陥没し始め
た。咄嗟にアクセルを踏み、ハンドルを切ってこれを回避したが、大地自身が敵意を持っ
て襲いかかってくるかのような状況は止まらなかった。
 急加速して逃走を続けるが、周囲の状況を見てパニックに陥る車輌内の隊員達。なぜか
彼等はオーディンの演習場ではなく、半径10kmはある巨大なクレーターの真ん中を走っ
ていたからだ。しかもクレーターの地面そのものが波打ち、車輌へ襲いかかり、地の底へ
飲み込もうとしている。
 状況も現在地も分からぬまま、とにかく必死で大地からの逃亡というあり得ない行動を
とり続けていた所、街らしきものを見つけた。彼等は希望の灯を見つけたと歓喜し、そこ
へ全速力を維持して進路を向けた。
 確かにそこは街、というか集落だった。ただし、そこに希望はなかった。街の人々が逃
げて来る車輌を見つけるや、とたんに車輌の進路が湧き出した岩に塞がれ、信じがたい程
の突然の突風が吹き荒れるなど、彼等への攻撃が激しくなったからだ。

 彼等は混乱の中、この異常な状況が目前の人々による敵対的行為だと判断した。

 工兵隊員達は車輌に備え付けの砲、輸送中だった重火器や弾薬やゼッフル粒子、携帯し
ていたビーム銃を使い、あるいは装甲車輌で街の粗末な建造物をなぎ倒し、明らかに害意
を向けてくる街の人々との戦闘に入った。
 激しい戦闘の末、車輌は大破。隊員達は彼を残して全滅した。彼も車輌を大破された時
の衝撃で気絶した。
 意識を取り戻した時、丁度、車輌の中に攻撃を加えてきた人々が入り込んで来ていた。
咄嗟にビーム銃で侵入してきた者達を殺し、車輌を再び動かそうと再起動させる。運良く
車輌は咆哮を上げ、命からがら街から逃走した。

 街から逃走し、大地や大気からの攻撃も無くなったものの、大破した車輌は砂漠の中で
動かなくなってしまった。
 砂に沈み行く車輌の中から、搭載していた一人乗りの小型ヴィークルに使えそうな武器
弾薬・携帯食料・ゼッフル粒子発生装置・燃料などを載せれるだけ載せて、仲間と敵の死
体を車輌の中に残して西に向かう事にした。別に西に何かあるとは思っていなかった。だ
が、東には彼等を襲った正体不明の連中がいる。なので、とりあえず西に向かった。
 ほどなくして小高い丘の上に無人の城を見つけた。そして麓のオアシスを中心とした小
さな交易地も。だが、発見されれば再び謎の攻撃を受けるかと思うと、とても近寄る気に
はなれなかった。

 彼は、あてもなくハルケギニアを彷徨った。


682:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:50:48 Pn8XHufq
支援

683:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:52:25 jtS/YJ3Y
重い旅だなな支援

684:ゼロな提督8
08/03/15 22:54:05 +pGzJhRi
 最初、必死で人目から逃げ回った。
 たまに民家に侵入して食料や衣服を盗み、山谷の中で野宿を続けた。
 しばらくして、最初に襲ってきた耳の長い人々とハルケギニアの人々が違う事・マント
を着た人々が魔法を使う事を知った。同時にここが帝国とは全く異なる世界という事を思
い知らされた。
 たまに野盗となって商隊を襲い、時には助けてくれた村人のために山賊を倒し、その日
その日を生き続けてた。それでも帰る方法が無いかと必死に探し続けた。星空の向こうか
ら銀河帝国の艦艇が救助に来る夢を何度も見て、幾度と無く涙と共に目を覚ました。

 そして持ち出した装備も弾薬も底を突き、ヴィークルも燃料切れで動かなくなった。




「・・・記述は、ここまでです。あとは、オールド・オスマンの語ったとおりでしょう」
 ヤンの語った物語に、オスマンは目を閉じたまま頷いた。
 驚いたように眼を見開いたままだったロングビルが、恐る恐るという感じで口を開く。
「その…知らない言葉や分からない状況が多くて、完全には分からなかったのですけど…
その人は、聖地から来たのですわね。しかも、僅か10人かそこらの小隊で、エルフの大
集団と互角以上の戦闘をした、と」
 オスマンは小さく頷いた。
「わしにも信じがたいが…しかし30年に見た『破壊の壷』、ぜっふるりゅうしはっせい
そうちとやらの威力。そしてダイヤの斧。納得するしかあるまい。
 だが、まさか聖地が何もない、盆地のような荒野の有様とは…一体、どういう事じゃ」

 ロングビルはヤンを、俯くヤンの顔ではなくジャンパーの胸ポケットを見た。
 その不自然なふくらみの下にあるヤンの国の銃は、あの恐るべきエルフ達を軽々と殺せ
るということだ。
 そんな銃が、もし自分に向けられたら…。
 ロングビルは『破壊の壷』事件の時、ヤンに攻撃をしていたらどうなっていたかと、今
さらに血の気が引いてしまう。

「鍵は聖地…エルフ、か」
 ヤンの小さな独り言は、二人には聞こえなかった。




 その日の放課後、学院長室にキザッたらしい少年が呼び出された。彼には『聖地』『エ
ルフ』等の手帳に関する情報を除いた、オスマンの恩人についての説明がされた。
「つまり、オールド・オスマンの恩人の遺品が『破壊の壷』以外に残っていないか、この
僕に調べてきて欲しい。そう言うわけですね?」
「うむ。お主の使い魔であるジャイアントモールは地中を馬並みの速さで掘り進み、様々
な鉱物を見つけてくる事ができるはずじゃ。その力をもって、探して欲しい」
 派手な服装をした少年は大仰に礼をした。
「学院長御自らの依頼とあれば、断る事など出来ません。このギーシュ・ド・グラモン、
必ずやご期待に答えて見せましょう!」




 というわけで次の虚無の曜日の朝。学院前にはルイズ・ヤン・オスマン・ギーシュがそ
れぞれ馬を連れていた。
 もちろんロングビルも同行を申し出た。が、さすがに学院長の秘書まで同時に学院を離
れると、王宮から急の使者が来た時など困るので、学院に残る事になった。なので彼女は
門へ見送りに来ている。


685:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:56:19 Pn8XHufq
支援

686:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:56:37 DqVo40aP
支援

687:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:56:37 jDCNqqX7
支援三連正射

688:ゼロな提督8
08/03/15 22:56:54 +pGzJhRi
「僕は剣は使えないって言ってるのに…」
 と、ぼやくヤンをルイズが睨み付ける。
「何言ってるのよ!せっかく買ったんじゃないの。ワイバーンがうろつくような危険な場
所なんだから、ちゃんと持っておきなさい。良い機会だから剣にも慣れておきなさいよ」
「そーだそーだ!俺を部屋にほっとくと、寂しくて泣いちまうぞ!剣としての待遇を要求
するー!」
 というわけで、ヤンはデルフリンガーを背負っている。ヤンが、だって重いし…とぼや
いた所で、ルイズに蹴りを入れられた。

 そんな彼等の足下の地面がポコッと盛り上がり、巨大なモグラが顔をのぞかせた。
「やぁ!僕のヴェルダンデ。どばどばミミズは沢山食べてきたかい?今日は君の力を存分
に振るう機会だからね」
 ギーシュはすさっと膝をつくと、巨大モグラの頭を抱きしめる。モグラも嬉しげに鼻を
ヒクヒクさせている。
 ヤンが興味津々でモグラに近寄った。
「うわぁ~、大きなモグラだねぇ。それに目が大きくて愛嬌があるなぁ。これがジャイア
ントモールかい?」
 その言葉を聞くや、ギーシュは待ってましたとばかりに立ち上がり、自分の使い魔を紹
介しはじめた。
「その通り!これが僕の可愛い使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンデだよ。ヴェル
ダンデは貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ。『土』系統のメイジの
僕にとって、、この上もない、素敵な協力者さ」
 オスマンもモグラのつぶらな瞳を覗き込んだ。
「うむ、それじゃよろしく頼むぞ。鉱石とは違うが、かなり珍しい臭いのはずじゃ。きっ
と見つける事が出来るじゃろう」
 そう言ってオスマンはヤンに視線を向ける。ヤンは頷いてジャンパーから銃を取り出し
てモグラの鼻に近づけた。
 ヒクヒクとよく動く鼻がビーム銃の臭いを嗅ぎ取っている。そして大きく頷いて再び地
面の下に潜っていった。
 
「それじゃ皆の衆、出発じゃ!」
 オスマンの言葉に、皆馬に乗る。
 ロングビルが騎乗したヤンに駆け寄った。
「無茶しちゃダメよ。ちゃんと無事に帰ってきなさいね」
「大丈夫だよ。それじゃ行ってくる」
 そんな二人の姿を羨ましそうに見つめるオスマン。
「あ、あの、ミス・ロングビル…ワシは?」
「あー学院長も怪我しちゃダメですよーえーホントー仕事溜まってるんですからねー。最
悪、右手と杖だけ無事だったらいいですよー」
 振り返りもせず棒読みゼリフを投げつけられ、老人はガックリ肩を落とした。

 馬に乗って去っていく一行をロングビルが手を振り見送った。




 太陽が彼等の真上に来た頃、一行は森の奥にいた。
 全員馬を降り、周囲を見渡している。幸いワイバーンなど危険な巨大生物の姿は見えな
い。
「さて、この辺じゃ。ギーシュ君、頼むぞ」
「承知しました」
 ギーシュが地面を叩くと、すぐにヴェルダンデが顔をのぞかせ、森の奥をジッと見つめ
る。
「さすが僕のヴェルダンデ!もう見つけたのかい?」
「あっけないわねえ」
 ギーシュを先頭に、拍子抜けしたルイズはじめ、皆森の奥へと進む。
 茨をかき分け、倒木を乗り越え、獣道を進んでいく。


689:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 22:58:27 jtS/YJ3Y
遺物捜索か支援

690:ゼロな提督8
08/03/15 22:59:01 +pGzJhRi
 だが、再びヴェルダンデがギーシュの前に顔を出した。同時に膝をついたギーシュの顔
がこわばる。
「どうしたんじゃ?」
 尋ねるオスマンにギーシュは緊張した声で答えた。
「目的の物の近くに、人です。数は5人」

 彼等は顔を見合わせた。
 こんな森の奥に人が来る。しかも自分たちの目的地近くに。何者かは分からないが、そ
れは自分たちと同じ目的で来たと見るべきだろう。
 ヤンがベレー帽を被り直しながらオスマンに尋ねる。
「学院長、この場所の事を過去に誰かに話した事は?」
「いや、無い。『破壊の壷』の一件はあったが、なぜに30年経った今になって、我々以
外に彼を調べる者がいるんじゃ?」
 ヤンの背中の長剣が鞘からヒョコッと飛び出す。
「敵か味方かしらねーけど、油断は禁物ってこったな」
「そのようね…慎重に進みましょう」
 ルイズの言葉に全員が頷き、メイジ達3人は杖を抜く。ヤンもジャンパーの胸元を開い
て銃を抜けるようする。
 そして鬱蒼と茂る木々の枝葉を突き抜けていくと、林の向こう30メイル程先にそれが
見えた。

 確かにヴィークルはあった。
 ボロボロに朽ち、ツタが絡み、サビが浮いた機械の塊が地面にうち捨てられていた。
 ただし予想通り、見つけたのはヴィークルだけではなかった。

 そのヴィークルの周りには、数人の人間がいた。黒マントを着用し杖を構える男と、薄
茶色のローブをまとい羽付の帽子を被った長身の男。そして付近で暮らしている村人とお
ぼしき初老の男。彼等は茂みの中から現れた一行を向いていた。明らかに彼等もオスマン
達が来るのを予期している。

 オスマンは一行の先頭に進み出て、大きな声で名乗った。
「怪しい者ではない!こちらはトリステイン魔法学院学院長、オールド・オスマンと生徒
達じゃ!敵でないなら名乗られよ!」
 オスマンの声に長身の男が答えた。
「私の名はビダーシャル。出逢いに感謝を」
 高く澄んだ声でそう言うと、長身の男は連れているメイジに合図し、杖を納めさせた。
それを見てヤンがオスマンの横に進み出る。
「こちらは争う意思はありません!隠れている人も出てきて頂いて結構です!」
 そう叫ぶと、ヤンは他の者に杖を納めるよう促す。
 オスマンと、渋々ルイズもギーシュも杖を納めるのを確認し、ビダーシャルは手を挙げ
る。同時にヤン達の左右の茂みからメイジの男が一人ずつ、杖を納めながら出てきた。

 オスマン達一行は安堵し、それでも正体不明の探索者達を慎重に観察しながらヴィーク
ルへ近付く。同じくビダーシャルも彼等に歩み寄ってきた。
「すまない。こちらも争う意思は無い。だが、なにぶん不案内な場所ゆえ、必要以上に警
戒せざるを得なかった」
 つばの広い羽付の、異国の帽子を被った男が長い金髪を揺らす。


691:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:00:28 Pn8XHufq
エルフキター支援

692:ゼロな提督8
08/03/15 23:01:26 +pGzJhRi
 前に進み出たオスマンが怪訝な顔をして、長身の男の青い瞳を覗き込む。そして、一筋
の汗を流した。
「お主…もしや、エルフか?」
「そうだ」
「ひぃっ!」
 長身の男は当然のように答えたが、生徒二人には当然ではなかった。小さく悲鳴を上げ
てしまい、慌てて杖を抜こうとする。ほぼ同時にエルフに付き添うメイジ達も杖を抜き放
ち、高速でルーンを唱える。
「よすんじゃ!」「撃つなっ!」
 慌ててオスマンとヤンがギーシュとルイズの杖を押さえる。同じくビダーシャルもメイ
ジ達を手で制しようとする。
 だが、一瞬遅かった。黒ローブのメイジがルーンを完成させていた。
「『エア・ハンマー』!」
 杖から凝縮された空気の塊が放たれ、オスマン達へ襲いかかる。
  ドゥンッ!
 だが、オスマン達には当たらなかった。彼等の手前で空気の塊が破裂し、周囲に突風が
吹き荒れる。

 オスマン達の前には不自然に伸びてきた枝葉が壁となっていた。樹木が自ら『エア・ハ
ンマー』から彼等を守ったのだ。

 学院長はじめ、その場の全員が目前の光景に目を見張る。誰からとも無く畏怖を込めた
つぶやきが漏れる。
「エルフの先住魔法…」
「うむ。予め精霊にお前達も守ってくれるよう頼んでおいてよかった」
 ビダーシャルとオスマンが改めてメイジ達に杖を納めるよう命じる。しばしのにらみ合
いの後、ようやく全員が杖を納めた。
 ヤンの背でデルフリンガーが安心した声を出す。
「いや~、やばかったなぁ。エルフとやり合おうなんて自殺行為だぜ」
 オスマン達の心情を代表する言葉だった。


 二つのパーティは朽ち果てたヴィークルを挟み、相対して立っている。ヴィークル横に
ヤンとオスマンとビダーシャル、他の者は少し離れて彼等の様子をうかがっていた。
 ヤンはヴィークルを調べ、その状態や遺留品を確認する。ヴェルダンデもヴィークルの
付近を調べまわり、同じく朽ち果てた帝国のビーム銃を発見して来た。それは一目見て使
い物にならないのが分かる有様だ。ヤンの背中のデルフリンガーも「ダメだな、こりゃ」
と呟いた。

 ビダーシャルは帽子を取り、長い耳を露わにしている。オスマンは彼に、ギーシュに話
した範囲の事を語った。
「・・・と言うわけじゃ。30年も前の事ではあるが、良い機会なので彼がどこから来た
のか、他に残した品がないか調べに来たのじゃよ」
 聞いたエルフは満足げに頷いた。
「そうか。『大いなる意思』に導かれたこの出逢いに感謝する。私もお前達が探しに来た
人物を追ってきたのだ。だが事情があるので、詳しくは言えない。
 後ろの者達のように、お前達蛮人の協力を得て彼の者の足跡を追ってきた」
 そう言って背後に待機するメイジ達と初老の村人を指し示す。メイジ達は軽く会釈し、
村人もペコリと頭を下げた。

「そこの老人は例の男に出会った事があるらしい。この土地にも詳しいというので、案内
を頼んだのだ」
 紹介された村人は、おずおずと口を開いた。
「へぇ…そうです。昔、あのお方はわし等の村にフラリと現れたんで。食べ物を分けてあ
げたら、そらぁもう喜んで。お礼にと、近くに住み着いていて村を襲っていた山賊共を倒
してくれたんですだ。
 だども、貴族の方々がその噂を聞きつけてやって来ると、すぐにこの森の中へ逃げてし
まわれたのです」


693:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:01:49 jtS/YJ3Y
支援

694:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:02:00 auiyejiG
大好きな提督支援!

695:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:03:08 DqVo40aP
支援

696:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:03:35 Pn8XHufq
楽しみな展開だ支援

697:ゼロな提督8
08/03/15 23:04:52 +pGzJhRi
 村人の話は手帳の手記と一致する。オスマンも、ヴィークルから顔を上げて話を聞いて
いたヤンも納得した。孤独な異境の地で絶望していた時、思いもかけず得られた親切。そ
の嬉しさは今のヤンには痛いほどよく分かる。そしてメイジを恐れる気持ちも。

 ビダーシャルはヤンが調べているヴィークルを珍しげに見つめた。
「それで、その不思議な物体なのだが…どうなのだ?それは一体何なのだ?」
 聞かれたヤンは思案する。このエルフが今頃になって、何故ヨハネス・シュトラウスを
追ってきたのか分からない。だが、同じ世界から来たと分かれば、次はヤンに興味が移る
だろう。
 彼は、この世界に来てから上手になってきた演技力で、とぼけることにした。
「うーん、さっぱり分かりません。どうやら学院に持ち帰って調べるしかないようです」
 その言葉を聞いてヴィダーシャルは少し困った顔をした。
「ふむ、それはこちらも持ち帰りたいのだ。悪いが渡してはもらえないか?」
 今度はオスマンが困った顔をする。
「いや、彼の墓はこちらで作ったしのぉ。恩人の遺品でもあるし、こちらで管理しておき
たいのじゃ」
 そう言ってオスマンはヤンの顔を見る。
 ヤンは少し頭を捻り、それでは…と提案した。
「では、これでどうでしょう。ビダーシャルさんは、我々に話せる範囲での情報を提供す
る。代わりに我々はこれを諦める」
 その提案にオスマンも、そしてビダーシャルも頷いた。
「よかろう。では、何が聞きたい?」

 オスマンは「聖地がどうなっているのか」、ヤンは「彼がどこからどうやってトリステ
インまで来たのか」と尋ねた。これにビダーシャルは、先日ガリア王の前で語った事実を
答えた。

「・・・以上だ。
 これらは別に秘密ではないから、話す事に問題はない。いや、むしろお前達にも知って
おいて欲しいくらいだ。お前達が光と崇める存在の真実と、その存在が残した物が、いか
に危険かについて、な」

 エルフの口から語られた聖地の惨状。
 聖地が吐き出し続ける未曾有の災厄から世界を守るエルフと精霊。

 それらを聞かされたギーシュとルイズは、見るからに信じられない様子で顔をしかめて
いる。いや、それはビダーシャルの同行者達も同じだった。『六千年に渡り敵対するエル
フが、自分たちの神たる存在を、大災厄の源として愚弄している』と言う所だろう。
 だがヨハネス・シュトラウスの手記を知っているオスマンの反応は違う。オスマンは、
それら全てが真実であると認めざるを得なかった。自分たちが信じてきた事実は、長い歴
史の間で歪み、曲解され、美化してきた紛い物だと理解してしまった。そしてこれらを他
言すれば、教会から異端審問にかけられ殺される事も。

 オスマンの顔は引きつり、手は汗でじっとりと濡れる。だがそれ以上にヤンの顔は蒼白
だった。彼の胸中は明らかに絶望で埋め尽くされていた。
 そしてヤンの顔が色を失っている事はビダーシャルも気付いていた。

「お前達が光と崇めていた物が、敵であるエルフに闇と断じられているのだ。受け入れ難
くもあるだろう。信じろとは言わない。
 だが私は私が答えるべき事を答えた。約束通り、この奇異なる物体は私が持ち帰るが、
構わないか?」
 ビダーシャルの言葉に、ヤンは小さく頷いた。そして、震える唇で彼に尋ねた。
「最後に一つだけ、教えて欲しい…」
「何だ?答えれる事なら答えよう」
「『悪魔』が生む嵐で大地に穴が開き始めたのは…いつからです?」
 ふむ、と呟いてエルフは首を傾げた。
「正確な年は分からないが…恐らく、ここ千年の事だ」


698:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:06:51 jtS/YJ3Y
放射能支援

699:ゼロな提督8
08/03/15 23:07:46 +pGzJhRi
 千年という年数を聞いかされたヤンは、明らかに更なる衝撃に襲われていた。

 そして肩を落とし、力なくもと来た道を戻り出す。ルイズなど他の者が、いくら声をか
けても彼は何も答えない。皆、訳も分からずヤンの後を追って、朽ちたヴィークルを後に
した。

 結局ヤンは学院に戻るまで、いや、戻ってからも無言のままだった。




 夜、ルイズの部屋では相変わらずヤンが押し黙ったまま床にあぐらをかいていた。壁に
立てかけられたデルフリンガーも、ベッドの上のルイズも、あまりに重苦しい空気で押し
つぶされそうだ。

「もうっ!いい加減にしなさいよ!あんなエルフの言う事なんて信じる必要ないじゃない
の!」「そーだぜ、一体何でそんなに落ち込んでんだ?」
 さすがに沈黙に耐えきれなくなったルイズとデルフリンガーが怒り出す。
 俯いたまま口を閉ざしていたヤンは、ゆっくりと視線をベッド上のルイズへ向ける。
 そして、けだるそうに口を開いた。
「…彼の言った事は、嘘じゃないよ。・・・そして、帰る方法が分かったんだ」  


 帰る方法が分かった


 その言葉を聞いた瞬間、ルイズは全身の血の気が引いた。
「ま!待ちなさいよ!まさか、あんた、聖地に行こうって言うの!?」
 だが、ヤンは力なく首を横に振る。
 さすがにその様子にルイズもデルフリンガーも不信がつのる。帰る方法が分かったなら
もっと喜んでいいはずだ。
「よぉよぉヤンよ、んじゃ、いってーおめーは、何でそんなに落ち込んでるんだ?」

 デルフリンガーの問に答えるヤンの姿は、まるで10歳は老け込んだように見えた。

「帰る方法は簡単さ…聖地の門に向けて、救難信号を発すれば良いんだ。そうすれば、門
の向こう側にいる誰かが、僕の助けを求める声を受け取ってくれる。誰かが確実に、ね」
 聞き慣れない言葉にルイズが首を捻った。
「きゅーなん…しんごう…って、何?」
「助けて下さいって声を遠くに届けるアイテムだよ。60年前にハルケギニアへ飛び去っ
たという飛行物体か、砂漠に沈んだ装甲車を見つけて、搭載している通信機を聖地に持っ
て行けば良いんだ。
 あとは門が開くのを聖地の畔で待っていればいい。最近活動が活発らしいから、時間は
かからない。いつかは誰かが門の向こうから駆けつけてくれる」

 聖地の畔で待っていればいい、と簡単に言うヤン。だが彼が纏う空気はあまりに重い。
「んじゃよー、ヤンよ。おめーが落ち込む理由はなんだってんだ?」
「もっと簡単な事だよ…助けに来てくれた人々は大方が、いや、確実に死んでしまうから
だよ」
 ルイズがビダーシャルの語った聖地の有様を思い出す。大地を抉るほどの嵐を生み、灰
になって死んでしまうという『悪魔』達の事を。
「死んでしまうって、エルフが言ってた『悪魔』みたいに?」
 ヤンは暗い瞳を虚空に向けたまま頷いた。
「そうさ…僕が助かるためには、助けに来てくれる多くの人を、犠牲にしなくてはいけな
いんだ」 

 ルイズは絶望を背負って床に座るヤンを見つめる。その姿は一切の嘘も誇張も含んでい
るように見えない。
 再び室内に重苦しい空気が漂う。


700:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:08:23 T9rgrAzt
支援するんよ

701:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:09:33 R/LkaNzO
氷の衛星にエンジンを付けて支援

702:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:09:34 46w4wJTM
支援

703:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:10:23 jDCNqqX7
くたばれ皇帝支援

704:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:10:25 auiyejiG
艦砲射撃支援

705:ゼロな提督8
08/03/15 23:10:44 +pGzJhRi
 デルフリンガーが、控えめにツバを鳴らして声をかけた。
「でもよぉ…なんで、みんな死ンじまうんだ?それも大嵐を起こして」
 尋ねられたヤンは、ゆっくりと立ち上がった。そしてトボトボと扉へ向かう。

「君たちには、絶対に理解出来ないよ…星の海で暮らすのが、どういう事か」

 星の海、と言う言葉が理解出来ない少女と剣を残し、ヤンは部屋を出て行った。




 深夜、赤と青の二つの月が質素な村を照らす。
 白い幅広の墓石が並ぶ共同墓地の一角に、力なく立ちつくすヤンの姿があった。
 素っ気ない、墓碑銘もない幅広の墓石を、ただ見下ろす。

「全く…始祖ブリミルって、本当にバカだったんだなぁ」

 ヤンは墓に向けて話し始めた。無論、墓は何も答えない。それはただの独り言だ。

「まぁ、しょうがない事ではあったんだ。六千年前と言えば、人類がまだ四大文明を生み
出した頃だったんだから。エジプトでピラミッドを造ってる人に、人類が六千年後には宇
宙で生活しているなんて、想像出来るはずがない。
 それでも、死後は召喚の門を閉じておくくらいの事はやっておいて欲しかったね」

 ヤンは天を見上げる。満天の星空に双月がぽっかりと浮かんでいる。

「ヨハネス・シュトラウス…君は一体、運が良かったのか悪かったのかなぁ?たまたま地
上で車に乗っている時に召喚されたから、無事に門を越える事が出来たんだ。でも代わり
に、死より苦しい孤独と絶望を味わう事になってしまったけど」

 ヤンの瞳は星空を横切る流れ星を見つけた。それは光の帯を残し、一瞬で消えた。
 そして、胸の中に溜め込まれた憤怒と絶望を叩き付けるように虚空へ向けて叫んだ。

「まったく…なんてバカな事をしてくれたんだっ!!
 私達はもう千年も前から、宇宙で暮らしているんだぞ!
 核融合炉を搭載した船に乗り!真空の無重力空間を!地上で言うならマッハ100や200
なんて楽に出せるんだ!!おまけに中性子弾頭や熱核兵器やゼッフル粒子を満載した機体
だってあるんだ!!
 そんなものが、そんなものを…いきなり地上に喚びだしたらどうなると思うんだ!?減
速無しに大気圏突入させて地上に叩き付けたのと同じだっ!!半径10kmが吹き飛ぶ!?
その程度で済んでいる事を幸運と思えっ!!」

 叫びきったヤンは肩で息をする。
 虚空に向けられた言葉は、答える者も無く虚しく空に消えていった。
 後には、何事もなく静かな夜が戻ってくるだけだ。

「…もし、救難信号を聖地から送れば、確かに助けが来てくれるさ。ただし、無事に門を
越えれるのは、ごく僅か。
 聖地の大気に対する相対速度が極めて遅く、地上に着陸出来るか大気圏内飛行能力があ
り、放射性物質の拡散を防ごうとする精霊達の自動攻撃をかわす事が出来る者だけ。…ビ
ダーシャルの言うとおり、30年に一度くらいは、そんなのも来てくれるさ。
 この事実を通信機で伝えることが出来れば、強襲上陸艇なんかに乗って来てくれるかも
知れない。けど、そんな事をノンビリ話している間に門が閉じる。閉じなくても、門から
生じる爆風で自分が吹っ飛ぶ」


706:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:12:13 jtS/YJ3Y
支援

707:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:13:42 Pn8XHufq
意外に宇宙経由で来た奴がいるかも支援

708:ゼロな提督8
08/03/15 23:13:57 +pGzJhRi
 そしてヤンは、再び口を閉ざした。
 ただ静かに白い墓を見つめる。
 もちろんヨハネス・シュトラウスは何も答えてはくれなかった。



 ヤンの背後で何かが風を切る音がした。

 振り返ると、暗い空の中に翼を広げる竜のシルエットが見えた。
 それはあっという間にヤンの頭上まで飛来してきた。タバサの風竜だ。その背には何人
もの人影が見える。
 彼等は墓地の外れに着地し、すぐにヤンの方へと駆け寄ってくる。

 ヤンはヨハネス・シュトラウスの墓を振り返る。
「済まない。もしかしたら約束は守れないかもしれない。私は…君の隣に、自分の墓を作
る事になるかも知れないんだ」

 そして墓に背を向け、歩き出した。
 駆け寄ってくる人々へ。デルフリンガーを抱えたルイズや、ロングビルや、キュルケ、
タバサ、ギーシュの方へと。

    第八話   名も無き墓   END

709:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:14:00 jxkM3bED
>>669
待ってました。
相変わらずのこの雰囲気が最高に好きですわ。
次回も期待してます。

710:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:14:15 V+KvmI4f
今かつてない急展開ktkr

711:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:14:48 a3o0xkqR
乙であります~

712:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:15:00 T9rgrAzt
>>631
職人さん乙!普段は徹底して慇懃無礼な態度で何考えてるのか判らない人だけど
その実内に熱い激情を秘めていたりもするカワリーノさんが好きでつ。
という訳でカワリーノさん支援動画貼っときますw
URLリンク(www.nicovideo.jp)

>>708
提督の職人さんGJでした!
いつも凄く面白いので楽しみに読ませていただいてますよ~。

713:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:15:53 bbAMgSCB
銀英伝知らなくても面白いです
投下乙でした!

714:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:17:13 auiyejiG
いやあ、絶望ですね。
でも、だからこそヤンらしくなっています。
すばらしい!

715:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:17:18 jtS/YJ3Y
乙です。

でも相対速度なら、惑星自転速度、太陽系公転速度、銀河系公転速度が……

716:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:17:29 fpfTGOU0
情報を圧縮した形で送信すれば…ダメなんだろうか?

717:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:18:49 NZGdRqKM
提督GJ!

やっぱり少しずつでも情報を向こうに送るしかないんだろうな。

718:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:22:03 Pn8XHufq
提督グッジョブ。
期待を裏切らないスピーディ展開です。
人類の進歩は虚無の許容範囲を越えたかww

719:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:22:29 jDCNqqX7
宇宙の何処から召喚されるかわからんから、情報だけもらっても何も出来ないんじゃないか?
戦艦やら装甲車やらが移動してる際に目の前に召喚の門が開いても、避けるなんてほぼ無理だろうし。

ともかく提督GJ、面白かった!

720:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:26:22 fpfTGOU0
宇宙広いからなあ。戦艦がくぐれるぐらいの大きさの門だとしても、宇宙の広さからしてみたら芥子粒以下だろうし
やはり聖地に何らかの指向性があって人工物だけ召喚しちまうの?

721:ゼロな提督8
08/03/15 23:26:24 +pGzJhRi
以上、投下終了です
今回はかなーりSF風味が増しております

>>715>>718
 その通りです。だから、魔力で修正しきれなくなった相対速度で突っ込んだ物体は、砕け散ります

 いやぁ~。この設定を今回投下前に書き込まれたらどうしようかと、冷や冷やしてました


 では、またー


ちなみに、>>712の動画を見て笑ってしまうと同時に悲しくなるのは何故でしょうね?

722:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:28:32 auiyejiG
普通の通信機じゃそんな機能は無いと思います。
そして、銀英伝が書かれた頃のパソコンの実態を考えると、
カード型コンピュータの支援などは期待できません。
実際ヤンのような高級将官ですらポケットコンピュータ持っていません。
それどころか携帯電話兼通信機すら持っていません。

723:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:29:55 bbAMgSCB
野暮なこと言うなよ

724:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:31:18 auiyejiG
あ、ごめんなさい、今書きなおされてるからありかも!?

725:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:33:18 fpfTGOU0
るるるや提督のような聖地の謎それ自体に触れとる作品もまたええですなあ
小松左京の虚無回廊なんかも見たいが
ハルケギニアはSSの中にあるとか
ルイズがSS召喚とか


726:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:38:16 +vh99Iio
6000年前が四大文明って時間軸合ってんの?

727:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:38:34 E9QYdDWv
いやあ、ドキドキさせてくれるぜ提督の人
GJ

728:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:39:16 sfx8v2by
>>725
潜水艦を召喚とな?
あるいは地対地ミサイルか、ナチス武装親衛隊――

729:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:48:37 jtS/YJ3Y
>>725
ポリマーで封印した敵性ユニットが自爆するシーンが印象的だったな。

4巻が待ち遠しい。出るかどうか不明だが。

730:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/15 23:52:59 RG7vSO2K
破裏券ポリマー召喚と申したか

731:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:00:56 PGvAGKaO
>>728
急速潜航!深度90!

732:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:01:16 auiyejiG
ワープ航法発見した宇宙暦で1000年。
中国が4千年の歴史。
エジプトはその前で、ワープ航法が発見されるまでも時間がある、
じゃなかった?

733:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:02:03 Xodl/Wdj
>>726
ヤンの死んだ宇宙歴800年は西暦にすると3600年。(宇宙暦元年は2801年)
その6000年前だから、紀元前2400年頃。
で、この頃にはすでに四大文明はある。
四大文明で一番最初に消えたのがインダス文明で、紀元前2000年頃だから、時期的には合ってる。

まぁ、ゼロ魔原作の西暦2000年前後を基準にして6000年前の紀元前4000年頃だとしても、四大文明なんだけどね。



734:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:08:00 BdJ6V0zJ
トリューニヒトとかは

735:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:26:52 CU9o1bbQ
>>725

ある職人さんはそれやるつもり…と思うんだが

736:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:28:19 ooru0XBT
>>734
 もちろん召喚したとたんに原子の塵へと還りますとも
 地上に叩き付けられて粉々になるか、大気との摩擦熱で燃え尽きるか!

 いやあ、是非是非召喚されてくれ。

737:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:31:29 Qd+xQ1yM
ゼロ魔世界に民主主義を浸透させるトリューニヒトは見てみたい

738:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:31:38 g8hhI6Yw
ブリミルの遺産ってつくづくろくでもないものばっかだな

739:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:36:09 9MLS1aVO
マ・クベ大佐、ぶりぶりざえもん、サイボーグ忍者、ザトー=ONEを喚んでみたら…

740:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:41:42 9umK6iuH
>>739
なぜブンドル局長を呼ばん

741:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:43:14 ciUwm57U
アーマードコアのレイヴン(ランカー等の名有りではない)をAC諸共召還。

聖地にはインターネサインがあると妄想した俺はドウカサレテシマッタヨウダ

742:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:43:26 tE0xf62a
無口な使い魔?

743:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:47:28 DCCRLSee
>>737
書きたいと思う人間がいるんだろうか?

744:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:47:34 W7KwNMy4
無口なぶりぶりざえもんだったら宝物庫にあるのが某パスと某ベルトになりそうだ…

745:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:51:11 CU9o1bbQ
>>743
悪が暗躍する話はなぁ…


クロコの人には悪いがw

746:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 00:51:25 9MLS1aVO
>>744
怪人も居そう
モモタロ○とかウラタロ○とか

747:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 01:07:00 HAtk5o4+
ブラックもんがー召喚

748:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 01:11:19 UOABTleI
ヨハネス・シュトラウス准尉>
彼らの召還、まるで戦国自衛隊のようだ。全滅エンドっぷりもふくめて(苦笑


トリューニヒト召還で民主主義>
同盟の民主主義って、社会主義的な物が多分に含まれている気がするのですがw
まあ原作者が原作者だからしょうがないとも言える(マテ

749:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 01:14:33 9MLS1aVO
中の人繋がりで…
ギーシュがスケィス(ランスロットでも可)召還

750:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 01:22:55 866Xi5h4
>>749
凄い期待
ただ、前者だと精神破壊(or想い人破壊)
後者だと性格破壊しないとならないのが難点

751:ゼロのガンパレード
08/03/16 01:35:21 hEQAiGsX
やぁ、お久しぶりです皆様。
予約がなければ投下したいのですがよろしいでしょうか。

752:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 01:38:49 k6cTrvMo
>>751
カムォーン

753:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 01:39:28 6JwSMyTa
>>751
久々!支援

754:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 01:40:34 9MLS1aVO
しえん!!!

755:ゼロのガンパレード
08/03/16 01:41:24 hEQAiGsX
鏡を見ながら身だしなみを整えるウェールズを見やり、副官は面白げに頬を緩めた。

「楽しそうですな、殿下」
「ん? 
 ああ、楽しいとも」

笑いながらそれに答える王子。既にその美しい金髪は鬘の下に隠され、質の悪い脂を塗られた髪の毛を櫛で撫で付ける。
眼帯で片目を隠せば、さきほど船上でルイズと相対した空賊の頭の出来上がりだった。

「どうだろう、おかしくはないか?」
「畏れながら殿下、何を持っておかしいと言えばよろしいのか、
 小官には判断できかねます」

遠見の鏡で船室での会話を聞き、ルイズを招いて詳しく話を聞かねばならぬと決めた彼らではあったが、
ではどのような格好で出迎えるかと言う段になって頭を悩ませた。
ことここにいたっては彼女達が貴族派に組しているなどとはウェールズも考えてはいない。
であるならば空賊の扮装は止めても良いのではないかというのが彼の選択であったのだが、
副官は静かに否やを唱えた。
物事と言うものは慎重に進めるべきであり、それが王族の行いならば尚更だと言うのである。
ここで正体を自分から明かすのは簡単ではあるが、それはいささか尚早ではないか、
貴族派に組していないとの言質を本人から取ってからの方が良いのではと具申する。

「要は形式ということか。
 遠見の鏡で覗いて知ったと言うのでは体裁が悪いと」
「御意にございます」

ため息をつき、ウェールズは先ほど外した変装をもう一度行う羽目になったのである。
最初は嫌々ながらではあったが、副官の

『よもや誇りあるアルビオン貴族が空賊に扮していたなどとは誰も考えますまい。
 あの少女が驚いた顔はさぞ美しいことでしょう』

と言う呟きを聞いたあとは態度が一変した。
それこそ意中の女性の愛を告げられた少年のように、実に嬉しそうに扮装を始めたのである。
この副官、伊達に王子に数年間仕えてはいないようだ。



/*/



 ――そのしばらく後、桃色の髪の少女にあっさりと王党派貴族であることを看破され、
       しかも最初から気づかれていたことに涙目になる主従の姿があったのはまったく持って余談である。





756:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 01:42:33 gDe25ZvV
スレが ガンパレード状況になった支援

757:ゼロのガンパレード
08/03/16 01:44:39 hEQAiGsX
/*/



「しかし、カステルモール卿、いったい何故ガリアの騎士と姫君がこのような場所に?」

尋ねてくるギーシュに、カステルモールは困ったように視線を泳がせた。
最初から答えを用意しているのならともかくも、彼はこのような突発的な事柄には弱い。
それ故にタバサとイザベラを間違え、現在に至る要因の一つを作り上げているのだがそれはさておき。

「ああ、申し訳ないが、ミスタ・ギーシュ。
 私の口からはそれは言うことが出来ない」
「なるほど、秘密任務と言うことですか?
 もしや我々のように大使の任を仰せつかったとか」

これは困った。まさかにもイザベラの我が侭だとは言えぬし、
タバサことシャルロットがよからぬ事を企んでいるのではないかと言う疑念すらも口に出すのははばかられる。
だがだからと言って沈黙すればギーシュの言を認めたことになる。
救いを求めるように視線を移すが、彼に答える者はいない。
先ほど空賊の長の部屋から戻ってきたワルドとルイズは、風に当たってくると言って部屋を出て行った。
驚いたことにこの船はアルビオン王党派のものであり、我々は賓客として扱われるのだと言う。
故にある程度の行動の自由も保障されたと言うのだが、
カステルモールとしてはいったいどうしてそんなことになったのか理解できない。
自分たちは空賊に捕まったのではなかったのか?

「野暮ねぇ。ギーシュ」

混乱し困窮する彼の窮地を救ったのは、猫のような笑みを浮かべたキュルケであった。

「お姫様と騎士が、二人っきりで小旅行よ? 
 少しは察しなさいな、モンモランシーに愛想つかされても知らないわよ」
「それだけは絶対にないと確信を持って言えるね」

胸を張って言ってのけたギーシュの横では、何を言われたか解らぬとカステルモールが不思議そうに首を傾げている。
本当に解っていないだろうその様子にキュルケがたまらず苦笑した。これじゃあガリアの王女さまも大変だ。
視線を移せば、当の王女は気難しげな顔でなにやら考え込んでいる。
おそらくは先ほどのルイズの言葉を反芻しているのだろう。
だがそれもしかたがないか。キュルケは深く深く嘆息した。
望むと望まざるとに関わらず、ルイズは人を変える。
彼女自身の言葉で言うなら嘘で嘘を切り裂く、のだそうだ。
自分には嘘をつくことしか出来ない、といつかルイズは言っていた。

『だから、わたしの言葉で誰かが変わったと言うのなら。
 それは、その人の中に真実があったと言うことなのよ』

キュルケはイザベラを知らない。
タバサの従姉妹であり、ガリアの王女だと言うことは知っていてもそれだけだ。
後わかることといえばタバサに敵意を、そしてお付きの騎士に好意を抱いているくらいか。
タバサに聞けば色々と解るかもしれないが、当の本人は部屋からの外出許可がでてすぐに使い魔の様子を見に行くと言って部屋を出た。
どうもこの王女とは仲が悪いしようだから、一緒の部屋にいたくないのだろう。
あのタバサがそこまで人を嫌うのも信じられないが、血縁だからこそということもあるかもしれない。
これについては彼女から話してくれるまで待つしかないだろう。
だがまぁ、とキュルケは肩を竦めた。
たとえタバサが嫌っているとしても、ルイズの言葉に考え込んでいるだけこの王女はましなのだろう。
魔法こそが貴族の価値だと信じている者によっては、ルイズの言葉は魔法が使えぬ者の戯言でしかなく、
行動ではなく詐術によって人を丸め込むのがお前の言う貴族のすることかと憤慨する者もいるのだから。

――ちなみにあえて明言は避けるが、魔法学院の関係者では“疾風”の二つ名を持つ男がそうである。


758:ゼロのガンパレード
08/03/16 01:47:30 hEQAiGsX
   
「しかし、エルフか。
 エルフとの混血……というか、混血できるのだな」
「確かにルイズは嘘つきだけど、そんなことで嘘はつかないと思いますよ。
 何より意味が無いだろうしな」

そんなキュルケの思いを他所に、ギーシュとカステルモールが親睦を深めている。
カステルモールにして見れば心の主人であるタバサの友人を知っておきたいということもあったし、
考え込んでいるイザベラの邪魔をするのも気がひける。
それより何より、ワルドがいない以上はお互いが唯一の同性であった。
話題は先程の貴族の話から、エルフについてに移行したらしい。

「やはり耳は尖っているのですかね?」

首を捻りながらギーシュが言った。
悪名だけが知れ渡っているが、実際のエルフについての知識は殆ど流布していない。
耳が尖っていることと、先住魔法をつかうということくらいである。

「どうだろう。
 耳が尖っていて奇妙な服を着た男ならガリアの王宮で見たことがあるが、
 あれは断じてエルフではないだろうしな」
「ほほう?いったいどんな人物なのです?」

興味深そうにギーシュが言い、キュルケも耳をそばだてる。
そんな二人を見ながら、騎士はその男を思い出したのか嫌そうに顔をしかめてこう言った。

「男の癖に顔を白く塗っていて、白い奇妙な服を着ていてな、いつもクネクネと腰をくねらせて歩くのだ」



/*/



徐々に近づいてくるアルビオンの威容を見ながら、タバサはそっと親愛なる使い魔に背中を預けた。
シルフィードがその頭の上に乗せたブータともども心配そうな目で見るのに軽く手をふり、本を開く。
だがその瞳は文字を追わず、脳裏に浮かぶのは先ほど部屋で見た従姉の姿だけだった。
ガリア王ジョゼフの娘、イザベラ王女。タバサにとっては敵の一人。
彼女は憶えている。王弟であった父に仕えていた多くの人々。
自分に優しく接してくれた、性格も身分も違うたくさんの人々。
その多くが職を追われ、あるいは殺され、罪に問われた。
自分たちが、母が、父が何をしたのか。
何の罪もなく殺された父さま。覚えのない不名誉印を受けた大公家。
自分を庇って毒を呑んだ母さま。そして狗として使われている自分。
先ほどルイズの語ったような過去の話ではなく、今も続いているガリアの、そしてオルレアン大公家の現実。
その現実を作っているのはジョゼフであり、イザベラである筈だった。
そうでなければならなかった。
タバサは一度本を閉じ、そっと空を見上げた。
雲の上にいる為に、視界には青い色しか見えない。
幼い頃から見ていた彼女自身の、そしてイザベラの髪の色だった。
タバサは知っている。王家に生まれたが故に他に友人も作れず、ずっと二人きりで遊んでいたあの従姉を。
タバサは憶えている。イザベラが正論で言い負かされた時、そしてそれを彼女自身が理解している時、どんな態度に出ていたかを。
だからタバサは気づいている。イザベラが、ルイズの言葉に本当はどんな感情を抱いたかを。

そしてそれがタバサにはどうしようもなく嫌だった。



759:ゼロのガンパレード
08/03/16 01:49:30 hEQAiGsX
膝を抱え、怯えるように身体を抱く。
そっと胸の奥の扉を開け、懐かしいあの時代に心を馳せた。
それはまだ彼女が幼く、父と母と、そして年上の従姉に守られていた頃の思い出。
魔法が上手く出来なくても、それでも自分が姉なのだと胸を張っていた優しいあの子。
いつか二人で立派な王女になって父や叔父の手助けをするのだと誓い合ったあの言葉。
血を被り、手を汚し、汚濁と憎悪の中で時間を過ごし、それでも忘れられないあの光景。
シャルロット・エレーヌ・オルレアンが雪風のタバサになるに至った理由の一つ。
もう絶対に戻らないが故に神聖視されたその情景。
帰らぬ人となった父。心を病まされた母。そして変わってしまったイザベラ――

なのに、その一つが帰ってきてしまったら。
この手にもう一度それが戻ってくるとしたら。

知らず知らずのうちに腕に力が篭る。
胸の奥に暗い何かが灯る。
イザベラがかつての彼女に戻ってくれるのはいいことだ。
本当に嬉しいことの筈なのに。
なぜだろう。
それをしたのが自分ではないと言うだけで、その切っ掛けを与えたのが自分ではないと言うだけで、
何でこんなに胸が苦しいんだろう。
何でわたしが出来なかったことを、ルイズはいとも簡単にしてしまうんだろう。
まだ出会ったばかりの頃、酔ったキュルケが言っていたことを思い出す。
魔法が使えないルイズは、魔法が使える自分たちでは出来ないことだって簡単にしてしまう。
魔法が使えないルイズが、魔法が使える自分たちよりも貴族らしい事をする。
ならば、自分たちが誇りにしている魔法に意味はあるのか。
もしも魔法が取り上げられたら、自分はルイズに勝てるのかと。
そうか、とタバサは思った。
キュルケもきっと、こんな思いでルイズを見ていたのだ。

「どうしたのね、お姉さま。
 またあの女に苛められたのね? 
 許せないのね、きゅいきゅい!」

心配そうな声のシルフィードの囁きにも返事を返さぬタバサを見やり、ブータはやれやれと首を振った。
長い年月を過ごしてきた大猫には今のタバサの想いが感じ取れた。
ブータの脳裏に車椅子に乗った青年と、整備道具を持った女性の面影が去来する。
猫は竜から下りると、タバサの横で温もりを分けるかのように身体を摺り寄せた。
こればかりは部外者が口を出せる領域ではない。
イザベラとタバサの関係をよく知らぬブータに出来るのは、タバサがそれに呑まれぬように祈ることだけだった。
それは誰しもが抱く心の陰。
ルイズの語ったゆめとは相反する、しかし人の心が生み出したことには違いないあしきゆめ。
人と違うことを受け入れられず、人と違うが故に自分を劣った者として見てしまうその感情。
大切なものを人に奪われそうになった時に抱く、暗く闇に満ちたその思い。
かつて第五世界でブータの友人たちに取り憑いた、嫉妬という名のあしきゆめだった。


760:ゼロのガンパレード
08/03/16 01:51:59 hEQAiGsX
今回は以上です。
うーむ、全然話がすすまねぇ。
あじゅじゅしたー

761:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 02:00:48 gDe25ZvV
おつつ
ブラックタバサーの誕生かね

762:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 02:38:05 1+itZy0T
>>760
おつつ~
昔の書き手さんたち全員帰って来てくれる事を祈念しつつ







パソコンを復旧させる

763:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 02:50:31 /2HmrJ1v
乙です
イワッチそこで何やってんだ・・・w

764:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 02:54:20 KKmI2yRx
>>762
せめて
「ルイズと〇〇の冒険は終わらない! ご愛読ありがとうございました」
でもいいから締めてほしい

765:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 02:55:35 S2UZpO1A
チーフとスネークとヒットマンの人たち帰ってこないかな

766:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 03:01:19 UOABTleI
投下乙です

・・・・・・・・・イワタマン(汗

767:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 03:10:46 PGvAGKaO
GPM投下乙であります。

>>765
貴様、趣味がばれるぞ。

768:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 03:20:59 uvMwG2PX
なんか芝村舞召喚とか電波が飛んで来た。
ルイズにキスされて慌てふためく舞とか
物珍しい動物の群れ(使い魔)にメロメロになっている舞とか
新聞紙でギーシュを叩き斬る舞とか
我は芝村って言いながらモット伯邸に突撃する舞とか

貴族の義務を振りかざすルイズとは割りかし相性が良いかも?
問題は青のあっちゃんが時空を超越して取り返しに来る事

769:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 03:22:21 0kUwHooy
ウルトラ系好きだからゴモラ召喚の続き来ないかな~

それとウルトラ系召喚(長編)は他はレオだけなのか
東光太郎(タロウ)召喚とか
召喚:でも本編終了後の為バッヂ無し(変身出来ない)
VSギーシュ:元々才人以上ある身体能力で圧倒
VSフーケ:ゴーレム相手に大苦戦、飛びついたりするも振り落とされる
      だが発見された「光の遺産(バッヂ)」で変身、ストリウム光線でゴーレム爆砕
何故か皆(ギーシュやマリコルヌ含む)に慕われるとか
オスマンが「一見バカバカしい作戦」を発動させて大成功しちゃうとか
実は竜の羽衣は「スカイホエール」だったとか(そしてシェスタの祖父はZAT隊長)
オールドオスマン(30年前)を救ったのはゾフィーだったとか
その時バッヂ残したのは「(30年後を)ウルトラ予知してたから」とか
最終的には「魔法に頼らず自分の力で進んで行く事」をルイズ達に教えて去って行くとか
妄想するだけなら楽なんだよな

770:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 03:23:32 /eBx29sY
GPM投下乙です。
人の胸にあるゆめふたつ。
タバサがあしきゆめに飲み込まれないことを願いながら、マーチを歌いながら応援したいと思います!


―その心は闇を払う銀の剣


771:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 03:27:42 /2HmrJ1v
>>768
青は問題かな?舞がルイズの使い魔でいることに納得してたら
舞の付属品としてルイズを守るんじゃないかな

772:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 03:35:37 9MLS1aVO
ひぐらしかられ鉈ん召還
ごめん、いってみただけ

773:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 03:41:10 rm5coyQl
「ゼロな提督」の筆者さまGJ!待望の墓参シーンもあって、大変満足できました。
しかし・・・重い、重すぎる!自分を救助するために多くの人命を犠牲にするようなマネ
は、確かにヤンの性格上、できるわけがない。

果たして、犠牲を伴わずに元の世界へ帰還する方法をヤンは見つけることが出来るのか?
続きが待ち遠しくてたまらないです。

774:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 04:32:32 I5nO+EJ8
>>725
>ハルケギニアはSSの中にあるとか

この設定でプロットを作ってる最中だ

775:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 04:52:20 QAyVq7iV
768と771見て思ったんだが、舞と青ってリィとルゥみたいだな…

776:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 05:37:04 td1V+fGV
あか天シリーズはガンパレと比べて、
いささかマイナーだと思うんだ、出版社的にも

777:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 05:47:15 bujm3BBY
超遅レスですがダニエル・ヒトラー乙
すかしゲルマニア軍、活躍するSS少ないなあ
ダニエル氏にはトリスティン分割の後、電撃線でマジノ線突破、ガリア・アルビオン連合軍をダンケルクで打ち破りガリアを制服して欲しいが
ヴィシー傀儡ガリア政権に射ルロット
亡命自由ガリア軍の長にイザベラとか

778:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 06:17:34 zPAeonu1
俺も蝶遅レス
まろやかの人お待ちしていました~ん、乙でした

779:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 06:24:02 LFwd5BU7
自分は金色狼と天使はこのスレ的に合わないと思うんだ。
シェラはまだ多少可能性あるかもだけど。

リィは寝不足で衰弱してるからって無理矢理眠り薬投与したら
起きた途端に殺しに来るキャラだから、
使い魔にした途端に首掻っ切られても可笑しくない


780:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 07:07:56 k6cTrvMo
起き抜けに一国の国王とぶん殴り合うんだもんなw
衣食住提供するっていっても狼だから狩りして生きていけるし
問答無用で叩き殺して終幕とか嫌過ぎる

やっぱレットかなー

781:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 07:54:56 QAyVq7iV
リィやルゥより、レティ。それよりさらにシエラの方が動かしやすそうな気がする。
シエラだと、女形の行者をしてた役柄、女中として仕える画がよく合いそうだし、男だと発覚したときが面白そうだ。
あんまり引っ張るのも何だから俺はここで切り上げるけど、デル戦記からの召喚モノ読んでみたいな

782:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 08:37:53 DBfsCy2F
たとえシェラでもルイズの下で忠誠誓ったらシェラじゃなくなる。
難しい。

レットが面白がって、というならまだありかもしれないが、
その場合対7万戦が存在しなくなる。
7万の指揮官を皆殺しにするからそもそも追撃できない。
それ以前にアンドバリの指輪がクロムウェルの手にある、
とわかった時点でクロムウェル暗殺、指輪奪還、
レコンキスタ瓦解という流れになる。
ガリア王ジョセフも暗殺されて終わりだね。
魔法での警戒はマジックアイテム装備&ガンダールヴの力でなんとでもなる。

783:Yes?ナイトメア0
08/03/16 08:58:47 n0AXxQPg
昨日予告したとおり、9:00より最終回を投下します。

784:Yes?ナイトメア0  最終話(1/5)
08/03/16 09:00:09 n0AXxQPg
ルイズは、自分の部屋で膝を抱えてベットに座っていた。
そんな彼女の目の前には、封を切っていない紅茶の包みが置かれていた。
『帰ったらお茶が飲みたい』と言ったとメイドから聞き、実家から取り寄せた最高級品である。
茶葉は昨日届いたが、それを飲む人はここにはいない。

「馬鹿。」
ぽろりと涙が目頭からこぼれる。
「一蓮托生のパートナーって言ったじゃない。なんで、一人で行っちゃったのよ。」
ルイズは流れる涙をぬぐいもせずに、じっと想いをめぐらせる。
「大切な『仮面』を、なんでメイドなんかにあげちゃうのよ。」
シエスタは、ルイズがいくら頼んでも、絶対に仮面を離さなかった。
部屋にある服や宝石全て(売れば新金貨1000枚にはなるだろう)と交換してと頼んでも、首を縦に振らなかった。
「わたし、あんたがくれた物、これしか持ってないのよ。」
ルイズは、自分が写っている写真をぐっと握り締めた。
写真は涙の跡で、所々にじんでいる。

「ねえ、こんな事ができる『向こう側の世界』ってどんな所なの。一度でいいから、見たかった…でも…。」
写真を抱きしめ、顔を伏せた。今までのことが頭の中を駆け巡る。

「わたしを…、ひとりにしないでよ…馬鹿…。」



785:Yes?ナイトメア0  最終話(2/5)
08/03/16 09:00:48 n0AXxQPg
とある街角で、金髪オールバックの男が働いていた。
かつては、ナイトメアの幹部だった彼も、今は別組織の一員である。

「ええと、次の奴は、目録のこっちのページの…あー忙しい忙しい。」
「ブンビーさん、お久しぶりですね。」
「カ、カカ、カワリーノさん!どうしてここへ…ってか、生きてたんですか!?」
「プリキュア達の店に行ったんですが、別の店になってました。彼女達がどこにいるか知りませんか?」
「ああ、それなら、あそこの湖の反対側に移転したんですよ。」

カワリーノは、軽くうなずくと会話を続けた。
「ブンビーさん、あなたと部下には随分とむごい事をしてしまいましたね…。」
「え…?」
「それでは、ごきげんよう。新しい仕事、がんばってくださいね。」

そういって、カワリーノの気配は消えた。
「カワリーノさん、随分と雰囲気がかわりーの…
なんていってる場合じゃない、あー忙しい忙しい!!」



786:Yes?ナイトメア0  最終話(3/5)
08/03/16 09:01:26 n0AXxQPg
ある日の昼下がり、新ナッツハウスでは、ココ&ナッツとのぞみが店番をしていた。
その扉につけた鈴がカランと鳴り、男が入ってきた。

「いらっしゃ…お!お前は!?」
「ナイトメア!?」
あまりにも意外な来客に、ココとナッツは思わず身構える。

「大丈夫だよ。カワリーノさんは、戦うつもりなんて全然ないから。」
そういって微笑む夢原のぞみに、カワリーノは笑みを返した。
「私のことを、はじめて、名前で呼びましたね…。」
「だって、今まで怖かったんだもん、はは…」
ココとナッツは、呆然とふたりの会話を聞いている。
(こんな相手を、『絶望』させようとしていたのか…私は)
のぞみの笑顔を見ていたカワリーノは、ふと、かつての自分が可笑しく思えてきた。
「わたしも…、あなたが怖かったですよ。」
「嘘!?」
「本当ですよ、夢原のぞみさん。」

カワリーノはココとナッツに向き直り、話を始めた。
「ココ王子、ナッツ王子、あなたたちには随分と酷い事をしてしまいましたね。今さら『許してくれ』などと言えた義理ではありませんが…」
「確かに、パルミエ王国はナイトメアのために一度滅んだ。だが、国民は一人も欠けることなく生きていた。
お前を許すかどうかなんて、俺にも良くわからない…
けど、戦わなくてすむなら、それが…一番いいと思う…。」
「俺も…、ナッツに賛成だ…。」


カワリーノは深々と頭を下げると、いつもの口調に戻って話しかけた。
「さて、今日は『客』としてここにきました。私の大切な方へのプレゼントを2つ、用意していただきたいのです。
一人は、そうですね…そこの夢原さん位の背格好をした女の子で…」
「それだけじゃわからないな。服装やら雰囲気によってもかなり違ってくる。」
「ああ、それなら…」
カワリーノとナッツは、話しながら色々とアクセサリーを選んでいる。
ココは、そんな様子を複雑な顔で眺めている。
のぞみは、ココの方にとびっきりの笑顔を見せると、店の奥へ駆け出していった。

やがて、カワリーノがある商品を選んだ頃、彼の前にひとつの髪飾りが差し出された。
「もう1つは、デスパライアさんの分だよね!」
「ふふ…、全く、あなたにはかないませんね…」

きれいにラッピングされた2つの包みを持ってカワリーノが消えるのとほぼ同時に、ナッツハウスに残りの4人が帰ってくる。
「あれ?…のぞみ、今、誰かいなかった?」
「うん!実はね…」



787:Yes?ナイトメア0  最終話(4/5)
08/03/16 09:02:10 n0AXxQPg
ナイトメアの円形闘技場跡に1輪のつぼみがある。
5色に光る、そのつぼみにカワリーノが触れた瞬間、彼は別の空間にいた。

「遅かったな、カワリーノ。」
「デスパライア様…。あのとき、私を助けて下さったのは貴方ですね。」
「いいや、ブラッディじゃよ。」
「え…?」
「我は、しばらく動けぬのでな。ブラッディに目となり手となって動いてもらっている。」

カワリーノの後ろから、ステッキを突く音が聞こえ、振り返ると、かつての上司がいた。
「仮面をつけるときは、かならず、先に『迷い』と『後悔』を相手の心に植えつけておけ、」
「…相手の中で、『絶望』に変わり『仮面』の効果を何倍にもしてくれる…」
それは、かつてカワリーノが何度も教えられた、仕事の基本。
「だが、お前が『仮面』をつけたときには、何の『迷い』も『後悔』もしていなかったな…
それでは、『仮面』の効果が長続きしないのも当たり前だ。この未熟者が!」

カワリーノは呆気に取られた顔でブラッディを見ていたが、やがて笑い始めた。
「ふふふ…そういえば、そうでしたね…私ともあろうものが、こんな基本を忘れるとは。」

「お前は優秀な部下だった…。優秀すぎて、このワシやナイトメアすら『絶望』させる程にな…、
それくらい抜けていた方が丁度いい。」
「私も、そう思います。」


「デスパライア様、あの日、貴方がプリキュアを選んだ理由がようやくわかりました。
あの頃…、私は、ただ一心にデスパライア様のためになることだけを考えてきました。
その心が、いつの間にか私自身を歪め、ナイトメアを歪め、お預かりした組織を崩壊させてしまいました。
懺悔の言葉もありません…。」
「もうよい、カワリーノ。その責めを負うのは我の方じゃ…。
ドリームコレットの話を聞いたときから『不老不死』と『永遠の若さ』に目がくらんで、我は何も見ていなかった。
ブラッディのことも、変わりゆくナイトメアも…ずっとそばにいたお前のことさえ何も気がついてやれなかった。
すまなかったな…カワリーノ。」
「デスパライア様…もったいなきお言葉、ありがとうございます。」

「ブラッディ、カワリーノ…ナイトメアは今日で解散じゃ…。また、『ゼロ』から新しいページを開くがよい。」
ブラッディは、微笑んでデスパライアに意見した。
「カワリーノの奴は、すでに『ゼロ』の使い魔となっております。」
「そういえば、そうじゃったな。」

「デスパライア様、これをプリキュア…いや、夢原のぞみから預かってきました。」
彼女は、包みを受け取ると、指輪をひとつ抜いてカワリーノに握らせた。
「お主の『ゼロ』によろしくな…。」



788:Yes?ナイトメア0  最終話(5/5)
08/03/16 09:02:47 n0AXxQPg
ルイズは寮の自分の部屋で、浅い眠りについていた…。
制服のまま、写真を抱きかかえてうずくまったまま、眠っていた…。
泣き疲れた彼女の寝顔をランプの明かりが照らしている…。


ルイズの顔に影が落ちたのを感じたのか、彼女はふと目を覚ました。

「お嬢様、ただいま…もどりました。」
「な、なによ、遅かったじゃないの…。」



-THE END-



789:Yes?ナイトメア0
08/03/16 09:06:13 n0AXxQPg
これにて、最終回は終了です。

初期案では「オチ」がありましたが、綺麗にまとまったのでここでラストにしておきます。
それは、「おまけ」として投下しておきますが、色々と台無しですので覚悟してご覧下さい。

790:Yes?ナイトメア0  おまけ
08/03/16 09:06:45 n0AXxQPg
「ところで、なんで大切な『仮面』をメイドにあげちゃったのよ。」
「あれですか?『力』を使い果たした『仮面』は、ただのオブジェです。誰が持っていても問題ないでしょう。」
「え?そ、その程度なの…」
「前に欲しそうにしていましたし、お嬢様の面倒を頼むのですから、捨てるよりはマシでしょう。」
「じゃ、じゃあ…わたしも、…えっと、その、なにか…」
「ちゃんと用意してございますよ、ルイズお嬢様。」


「指輪はわかるけど…、こっちのは何?」
「『向こうの世界』で売っている『ヌーブラ』というものです。
それを胸につければ、お嬢様のようなペタンコでも、少しはあるように見せかけることが…」
「うっさい、ペタンコ言うなぁ!この馬鹿っ!!」




「ところで、何で店に『ヌーブラ』なんておいてるココ?」
「プリキュアは変身したらペタンコだけど、私服の時は胸があるように見えることがあるナツ。そんなときは大抵…何をするナツやめ…(ry…grehyaneuys…のぞみgp


791:Yes?ナイトメア0
08/03/16 09:12:21 n0AXxQPg
これで本当に終了です。
SSを書くのは初めてですので、美味しいところのつまみ食いになってしまい、統一感とか出せませんでしたが楽しかったです。
また、面白いネタを思いついたら参加させていただきます。
今まで読んでいただいた方、支援や感想をいただいた方、Wikiに登録いただいた方、どうもありがとうございました。

>プリキュアどんだけ強いんだ?
こんな感じです。動画の4:30ごろにカワリーノさん(変身後)も出てます。
URLリンク(www.nicovideo.jp)

792:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 09:12:40 DBfsCy2F
ぶあははははは! 最高! 最高の落ち!
しかも本編は実にきれいにまとまっています! 感動をありがとう!
すばらしい長編でした!

793:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 09:21:48 sQdAoFKH
完結おめでとうございます、お疲れ様でした。
最初は、カワリーノなんぞで、どんなお話になるのやら、と思ったものですが、
だんだん話に引き込まれ、最後はきれいにまとまっていてとてもよかったです。
最後に、GJ!!です。

ブンビーさん、ナイトメア唯一の生き残り? どうなりますかねえ。

794:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 10:01:36 jorZqVUx
カワリーノさんの方乙でした
綺麗にまとまった本編も最後のオチも面白かったです

795:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 10:07:48 iQRnZvN6
完結お疲れ様です。

796:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 10:30:13 k6cTrvMo
いつまで経ってもHHOの本編が出ないから山口貴久でも召喚してみようかと思った
復讐を企てる者同士、シャルロットにはシンパシーを感じそうな気がする

797:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 10:32:56 BdJ6V0zJ
「あ、あんた何者よ!?」
「ただの通りすがりのサラリーマンさ。単身赴任のね」

798:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 10:36:56 k6cTrvMo
空間断裂も避けるニンジャリーマンは強過ぎるだろうw

799:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 10:38:15 37osMFk2
巌なら、全てを一人であっという間に解決してくれる
でもその前に、ARMS達が時空を切り裂いて迎えに来てくれる

バランスブレイカーであり、ストーリーブレイカーです

800:sage
08/03/16 10:46:08 srWAvDg8
久々にまとめwikiでエデンの林檎読んだが何度読んでも面白いな。
更新止まってるのが非常に残念だ。

801:人のいい使い魔
08/03/16 10:57:46 gtWrUMiq
あの、良ければ11時から投下していいでしょうか?

802:名無しさん@お腹いっぱい。
08/03/16 10:59:22 k6cTrvMo
支援

803:人のいい使い魔
08/03/16 11:00:57 gtWrUMiq
「はあ……どうにかしなきゃいけないよな……」

洗濯かごを小脇に抱え、瀬川はルイズの部屋を出る。
あの爆発事件―ルイズが『ゼロ』のルイズと呼ばれていることを知った日―から3日が経過していた。
その間、ずっと空気が重い。
確かに、よく知りもしないのに口を出した瀬川も悪かろうが、それでも何日も続くと気がまいる。
結果、余計に話しかけられなくなり、さらに空気が重くなる悪循環。
どうにかしようとは呟いたものの解決策が見つからないのが現状だ。
階段を下りて、一階の水場に歩いて向う。水道など、この世界にはないため一々行かねばならない。
「―あ、おはようございます」
井戸のそばには、もう先客がいた。ぺこりと黒い髪の頭を下げるメイド服姿の少女。
「おはようございます、シエスタさん」
こちらも軽い会釈とともに挨拶を。
本当は手の一つでも振るなりしたいところだが、手はかごをもつのに使っている。
この2,3日の間、ルイズの雑用をこなすうちに知り合ったのだ。
女物の下着の洗い方やらで手間取っている時に、通りかかった彼女に助けられて以来、
彼女にはいろいろとお世話になりっぱなしだ。
食事に関しても、そうだ。
料理長のマルトーさんの計らいとはいえ、栄養的にも十分な食事がいただけるのは、
シエスタの口添えがあったからこそなのだ。
ルーンの刻まれた使い魔の人間、というのはルイズが言う通り物珍しいらしく、
召喚されて4日ほどなのに厨房や清掃のメイドさんやコックではそれなりにうわさになっていたそうだ。
「今日は水が冷たいですね」
「いやいや、シベリアで核汚染の環境調査に行った時の水はこんなもんじゃなかったですよ。
 あれはもうほとんど氷だったからなあ……」
「『しべりあ』?」
「あ、気にしないでください、俺がいた地方にある土地の名前です」
手を動かしながらも軽い調子で口も動かす。
ルイズとあの調子なのもあって、こういう些細な会話ができるだけでもかなりの助けになる。
精神的にも、物質的な意味でも、彼女やコックの皆には頭が上がらないほどの施しを受けていた。
「よいしょ、っと……ってきゃああ!?」
洗い終えたかごをシエスタが重そうに持ち上げようとした。


804:人のいい使い魔
08/03/16 11:01:36 gtWrUMiq
絞ったとはいえ、水を吸った洗濯物の重さは相当のものなのだ。しかも、足元は石組みで、水びたしときている。
そのため、思い切り足を彼女は滑らせた。
「おっと、大丈夫ですか?」
こける前に、背中を瀬川が支える。
脇の下に手を通して持ち上げ、シエスタを立たせると、ひょいとシエスタの手のかごを持ち上げた。
「俺がもちますよ、女の子が無理に重いものを持つと体に悪いですよ」
「でも、コウジさんの分は……」
「手は二つあるんですよ? 両手に持てば大丈夫です」
肩を軽くすくめて破顔一笑、にっこり笑うと瀬川は先を歩きだす。
もう完全に自分で運ぶ気の瀬川を見てシエスタも申し訳なさそうな様子で歩き出した。
「すみません。本当に」
「いやいや、気にしなくていいですよ、男なんですから当然です」
物干し台まではせいぜいかかって10分だ。
それに、普通の人間なら重いと感じるかもしれないが、瀬川の体は特別製だ。
こんなものは軽い軽い。軽い足取りで歩く瀬川に比べて、シエスタが逆に遅れてしまうほど。
シエスタが物干し台についても、ロープ準備するまで持ち続けてもなんでもない。
「それじゃ、干しましょう」
2人してロープに服を通して行く。
なんだかんだ言って不器用な瀬川が苦戦する横で、するすると通していくシエスタ。
瀬川が半分も終わらないうちに、すべて終わらせてしまった。
追加で言うのなら、瀬川がルイズの分だけなのに対して、彼女は厨房にいる大人数の分をやっているのである。
スピードで言うと、2倍3倍では済まない。
「今度は、私がやりますよ」
そう言うと、瀬川の分までやり始めるシエスタ。今回は、シエスタのほうが頼りになる。
ここ毎日だが、何度見ても彼女の手際の良さに目を見張る瀬川。
「大丈夫ですよ、慣れです、慣れ。すぐコウジさんもできるようになりますよ」
シエスタの言葉に曖昧にうなずきながら、
『きっと自分はいつまでたってもできないだろうな』と内心小さくため息をつく瀬川であった。
「本当に、悪いね。何か手伝えることがあったら何でも言ってくれ」
シエスタが差し出すロープの端を思い切り瀬川が引くと、洗濯物が勢いよく空に舞い上がる。
風を受け、青空の下なびく洗濯物を眺めるのは、何となく気持ちがよかった。
「そういえば、明日は虚無の曜日なので、少し羽を伸ばせますね」
一仕事を終え、少し気の抜けた声で体を伸ばしながらシエスタが言った。


805:人のいい使い魔
08/03/16 11:02:35 gtWrUMiq
「『虚無の曜日』ってなんですか?」
瀬川は知らない言葉を問い返しながら、
休めるってことは日曜日とか土曜日みたいなものか、と少し想像をめぐらせる。
ここにきてから、知らない単語を聞いたらイメージでまず自分の知識内のものと当てはめるようになっていた。
そうでもしないと、色々と困るのは、さんざん思い知った。
「虚無の曜日は、学校が休みなんです。そのせいで、食事とかもあまり作らなくていいんですよ。
 それに、掃除とかも虚無の曜日だけやらなくていいんです。コウジさんも明日一日は自由でしょう?」
「うーん、それはどうなのかな……」
やはり日曜日だと分かったものの、何をするかと言われればまだ想像がつかない。
しかも、ルイズをあのまま放っておくのも果たしていいものか。そもそもルイズが自分を自由にしてくれるのか。
腕を組み、空を見上げるように視線を上げ、山にある常緑樹林が目に入った。
「そうだな……山に行くのも悪くないかな」
この世界の自然を知るためにも、そして瀬川の趣味の森林浴という意味でも、とても魅力的に思えた。
「じゃあ、パンと簡単な食事でも包みますか?」
「いいんですか?」
「ええ、この間いただいた『カンヅメ』のお礼です」
そういえば、スープのお礼に缶詰の開け方を教えて全部厨房に渡しはしたが、
あれはあくまでスープのお礼で、こう食事の準備をさせるというのはどうなのか。
というか、サバの味噌煮とかサンマのかば焼きとか思い切り日本な缶詰を彼女たちが食ったのか?
「料理長、驚いてましたよ。
 『味も良く、品質もいい。こんな見事な保存食は見たことがない』って。
 私も一口いただきましたが、とても美味しかったです。
 コウジさんのいたところではあれが普通に買えるんですか?」
……食ったようだ。
「ええ、まあ……」
こう言われると言葉を濁すしかない。
そうひょいひょい自分が異邦人だとばらすのは、あまり得策ではないとルイズで学んだからだ。
余りもものを知らない以上、いつかばれるかも知れないが、できるだけ隠しておきたい。
どう答えようかと悩む瀬川を救うように、鐘の音が空に鳴り渡る。
「あ、昼食の準備の時間ですね。じゃあ、コウジさん、また」
そう言って去っていくシエスタの背中に手を振って見送る瀬川。
彼女が見えなくなるまで瀬川は手を振り続け―
「―食事の返事をしてなかったな」
頭を掻いた。


結局、ルイズのことを考えて瀬川がいかなかったことは言うでもない。
だって、彼はそんな性格なのだから。そして、その虚無の曜日の夜。簡単な事件が起こる。


806:人のいい使い魔
08/03/16 11:03:12 gtWrUMiq
 
突然の地響きに、瀬川は目を覚ました。
結局、一日ルイズのそばにはいたが何もできなかったな、後悔交じりにまどろんでいた時のことだ。
深夜、突然巨大な音が学園に広がったのだ。
「なんだ……なんなんだ!?」
椅子からとび起き、かぶっていた毛布を脱ぐと、彼は地に伏せ、床に耳を合わせた。
先ほどほどひどくないが、やはりはっきりと感じる断続的な地鳴り。
顔をあげると、ルイズも寝ぼけ眼をこすり、あたりをきょろきょろと見ている。
「……な、なに? 何が起こったの?」
「俺もまだ、いまいち……外で何か起こってるみたいだ」
瀬川は窓を開け放ち、身を乗り出した。そして、絶句。
暗い闇の中、30m、いやこの世界の単位なら30メイルはある巨大な黄土色の何かが動いているのだ。
言葉を失い、固まる瀬川の脇の下からルイズも顔を出す。
「何あれ……ずいぶんと大きなゴーレムじゃない!?」
そうか、あれはゴーレムかと瀬川の薄い知識の中のゴーレム象と照らし合わせて微妙に納得しつつ、
なんでそんなものがこんな夜中にいて、何をやってるんだと余計に混乱する。
「30メイルなんて……普通の攻城用でも20メイルなのに」
目を細め、闇の中目を凝らす。よくよく見れば……壁を殴っている?
「大変だ! よくわからないがこの学園を壊そうとしてるぞ!?」
あわてる瀬川。しかし、ルイズは落ち着いていった。
「それは大丈夫よ。ここはね、全部の壁にスクウェアのメイジの『固定化』がかけてあるの。
 絶対に、そこいらの野党のようなメイジに破れるシロモノじゃないわ」
「でも……」
何か言おうとする瀬川を遮り、ルイズは指差した。
瀬川は、また視線をルイズからゴーレムへ戻す。その指の先では、ゴーレムが崩れ、土の山に戻っていた。
壁は……見える限りなんともない。
「だから言ったでしょ。多分明日何か連絡があると思うから、それを待ちましょ」
もう終わった以上、これ以上は確かにやることがない。
ルイズがあくびを一つし布団に戻ると、瀬川も毛布にくるまった。
「……しかし、誰も行こうとしないってのはどうなんだ?」
答える声はない。結局、もやもやも睡魔に負け、瀬川は朝までぐっすり寝ていた。

  
   ◇  ◆  ◇


「何が物理衝撃が弱点よあのハゲ……『固定化』以外はかかってなかったみたいだけど、
 厚みが厚みだけあって、やっぱり無理ね。私のゴーレムでもやっぱり駄目だったね」
山の裏手の広葉樹林の中、闇に溶け込む黒いローブの女性が独り言ちた。
人は彼女を『土くれ』と呼ぶ。世界を股に掛ける大怪盗であり、マジックアイテムの収集者。
その彼女の名は……フーケ。
手には、黒金の筒が握られている。それは、盗んだ『破壊の杖』だ。
「しかし、地面のちょっと下からは『固定化』がかかってないなんてね。
これなら下から掘りぬきゃ入り放題じゃないか。女湯とか地下にあったけど覗かれてないだろうね?」
彼女は、本壁は破れなかった。まともに魔法がかかった部分はさすがは魔法学院。
トライアングルメイジでも上位に位置する彼女でもまるで無理だった。
だが、彼女は図書館である資料を発見した。それは、この学院の設計図。
これを見ることにより、地面の下の壁には『固定化』がかかってないことを知ったのだ。
これにより勝算が生まれ……この2,3日の間にやった実験によりそれは裏づけられた。
一人になるタイミングを計って、女湯の壁に小さく錬金。
そして、花壇の下を手入れと偽って掘って、そこから見えた壁に錬金。


807:人のいい使い魔
08/03/16 11:04:01 gtWrUMiq
結果は両方が成功した。
ゆえに、彼女は行動を起こしたのだ。
ゴーレムで大きく素早く壁際を掘り、降りて即錬金。あとは、奪って逃げるだけだ。
もちろん、馬鹿な奴が近寄らないよう、その間はゴーレムに暴れさせる。
どうせ、目立つし急いで掘るさい音がする以上、そうやったほうが得策だった。
証拠に、この防壁を過信し、面倒事に巻き込まれるのを恐れた教師どもはやってこず……
まんまと本番の盗みも成功した。
「しかし、これはいったい何なのかね?」
慌てて形状だけ確認し、目当ての物を盗んだわけだが、使い方がわからずフーケは首をひねらせていた。
『破壊の杖』だけあって、一応は杖なのだろうがなんだか杖っぽくない気もする。
振っても魔法をかけてもうんともすんともいいやしない。
「はあ……獲ったはいいが使い方がわからないじゃ話にならないね」
フーケは、丘の上から身を乗り出し、学院を眺める。目に映るのは、学院の誇る大図書館。
あの図書館になら、このマジックアイテムの資料もあるに違いない。
それで駄目なら……知っている人間を見つけるとするか。
「そっちの策も考えなきゃね……」
低く舌打ちすると、フーケは、また元いた場所に帰っていく。

国家に追われる怪盗が帰っていく先は―トリステイン魔法学院だった。


  ◇  ◆  ◇

次の日、ルイズを朝食に送り出し、部屋の掃除を瀬川はしていた。
1階から持ってきて、ルイズが顔を洗った残りの水を再利用し、雑巾を濡らし、よく絞って拭く。
とある事情により子供のころから、粉塵やホコリには特別気を使う瀬川からすれば、
雑用の中でもあまりに苦にならない労働だ。むしろ、毎日こうするのは当然とすら思っている。
「埃だらけの部屋で呼吸すると体に悪いからね」
ランプも、柱も一つずつきゅっきゅっと磨いていく。最後に、窓ガラスまで丁寧に拭いて終了だ。
さて桶の水を、流すため1階に戻ろうかという最中、ルイズが部屋に戻ってきた。
「おや、遅かったね。やっぱり昨日のことで話が………」
桶の前にかがんでいた瀬川が身を起こす。
しかしルイズはその瀬川を無視し、ベッドにそのまま突っ伏してしまった。
何か調子でも悪いのかと思い、近寄って声をかけようと瀬川はした。だが、
「出てって!」
ヒステリックな声。ルイズはこちらを見ようともしない。
ただ、顔を枕に押し付けたまま、金切り声をあげた。
「いったいどうしたんだ急に……」
「もう出てって!」
肩を叩こうと、伸ばした手が行き場なく空をさまよい、わななく。
喉が一瞬で乾き、息をもらすのも痛いくらいだった。何があったのかわからない。
何を言っていいのかすらわからない。
力なく手を下ろす。酷く、壁がある気がして、瀬川は結局桶をもって部屋を出るしかなかった。

―自分が、いったい何をしたと言うのだろう?

何かもわからないまま、ただ切迫感だけを感じる。
そして、やるべきことが見えず落ち着かなく校舎をうろつくことしかできなかった。
自分がなにかルイズのためにならないことをしたというなら、自分で解決しなければならない。
だが、理由すら漠然としかわからないのだ。


808:人のいい使い魔
08/03/16 11:04:44 gtWrUMiq
どうするべきだ?
どうやればいいだ?
どこへいけばいいんだ?
ぐるぐる回る3つの言葉。しかし一つも答えは出ない。
「コウジさん……どうしましたか?」
かけられた声でハッと我に返る。後ろを振り向くと、シエスタが心配そうな顔でこちらを見ていた。
「桶の水を捨てるんですか? 水場ならこっちですが……」
「シエスタさん」
強い口調で瀬川は言った。
「朝の食堂で何があったか教えてください。知らないなら、心当たりのある人を」

―シエスタとあって20分後そのほど経ったころ。
瀬川は、朝食が終わり生徒のいないがらんとした食堂の椅子に腰掛けていた。
ここにいるのは、シエスタと金髪の若いコック、そして背の高いメイド。
この3人は朝食の配膳や運搬をやっていたらしく、今日の朝食の様子を語ってくれた。
「話に聞くに、昨日この学院に、『土くれ』という名の盗賊が忍び込んだんだとよ。
 そいつが何か大事なもんを盗んだらしいぜ。んで、居場所が分かったってことで
 先生に加えて生徒も引きつれて討伐隊を作るんだと。少数先鋭だと送った順に
 少しずつ潰されるかもしれねんだってさ。だから生徒を募って数を増やすとかなんとか……」
金髪のコックが山高帽を片手にそこまで言って言葉を濁した。
「あたしのほうが近かったし、あとは私が話すわ。
 ……それで、あんたのご主人のヴァリエール嬢が志願したんだけさ。なんていうか、その……
 反対されてね。いや、違うかな。除け者にされて嘲りモノにされたって言ったほうがいいかもね」
テーブルに腰掛け、指をいらただしそうに背の高いメイドは叩いた。
「そりゃみんな黙ってる中いの一番に志願したのは凄いさ。
 あたしも貴族は嫌いだけど、へぇ気骨のある奴もいるもんだと少し感心したもんだ。
 だけど、それに先生連中が、がん首そろえて全員嫌な顔してね。
 それを見てガキどもが調子に乗ったのさ。酷いものだったよ。学年もクラスもありゃしない」
そこまで言うと、憎々しげに周囲を彼女は睥睨した。
睨みつけているのは、食堂のテーブルではない。先ほどまでそこにいた人間たちだ。
「あれで品性豊かな貴族って言うんだからクソったれたもんだよ。
 あれだけ人数が自分が行ったなんてわかりゃしないと思ったのかね。
 どんどんエスカレートして最後にゃやれ、貴族の血を引いてない私生児だの、
 そいつ自身を否定するよな滅茶苦茶なことをどいつもこいつも平気で言いやがる。
 先生どもが止めても数が数だからね。まるで治まる気配なしってやつだ」
胸糞悪い、と吐き捨てると背の高いメイドはくしゃくしゃと頭をかいた。
「あの、それで……」
最後に口を開くのは、シエスタだ。
「私は、最後に少し配膳しただけなので、よく聞こえなかったんですが……
 『まともに召喚できず、平民を連れてごまかしてる』とかそんな野次もあって……」
一々言葉を選んで口ごもるシエスタを見かねたのか、背の高いメイドが口をはさんだ。


809:人のいい使い魔
08/03/16 11:05:43 gtWrUMiq
「ま、要約すりゃ確かにそうさ。でも、言い方や内容はもっと汚いもんだった。
 きれいなのは言葉遣いだけで、中身が腐りきってやがる。んで、誰が言ったか知らないが、
 それが連中のつぼにはまったらしくてね。使い魔の……まあ、あんたのことに関しての
 大合唱ってわけだ。別にあんた自身のことじゃない。『平民』を呼び出したってことへのアレさね」
他にも、どんな悪口があったか、どんな様子だったか彼女たちは教えてくれた。
「んで、嬢ちゃんも最初は顔真っ赤にして反論してたけど、やっぱり数が数だからね。
 内容も、今まで噂に聞くようなもんともまるで違う。そのせいで、食堂を飛び出したってわけさ。
 あとは『主賓』がいなくなった食堂は静かになり、志願者が周りに威張り散らしながら、
 何人かでグループ作って今後のために会議室へ。残りは授業で解散。これで終わり」
そう彼女たちは話を締めくくった。
「なんてことだ……」
愕然とした様子で瀬川はうなだれた。まるで……いや完全にこれではいじめではないか。
大きな原因の一つに自分がなっていることは分かったが、これではどうしようもない。
今度は一転して湧き上がってきた怒りに震え始めたこぶしを抑え、どうにか冷静に訊く。
「なんとかして、どうにかできないか?」
真剣な顔でその場にいる3人を見つめる瀬川。その様子を見て呆れた様子で背の高いメイドが言った。
「別に、放っておけばいいじゃないか。貴族なんかのためにあたしらがやれることなんてないよ。
 第一、あんただって急にこんなことにつれてこられて困ってる被害者なんだろ?」
「それでも……それでも俺は、子供には笑っていてほしいんだ。明るい未来を信じてほしいんだ―」
―だって、妹にもそうあってほしかったから……
思わず喉までせりあがった最後の言葉を飲み込み、大きく一つ息をつく。
対して、愚直なまでの瀬川の物言いに、三人は目を丸くした。
「ヒュー、立派な男だな。ガキんとき聞かされた英雄、イーヴァルディみてぇだぜ」
茶化すように口笛を吹き、コックの男が笑った。
「『イーヴァルディ』?」
「いや、ガキの物語に出てくる勇者さ。『イーバルディの勇者』。
 あんたみてぇに、ちょっとしたことのお返しに、命まで張っちまう人間さ。しかも魔法も使わずな。
 大体どこの家でも、これを聞かされて育つもんだぜ」
「別に……そんな『勇者』ってわけじゃない、俺は……」
―結局助けられなかったんだから。
だからこそ、もうあのときのような想いはしたくない。
「でも、あんたみたいなの嫌いじゃないぜ。大将、一つ解決する方法を教えてやろうか?」
瀬川は、コックの肩をつかみ、頭を下げた。
「頼む、教えてくれ」
ちょっとその瀬川の反応にたじろぎながらも、コックが答える。
「簡単さ。あんたのご主人が立派なやつで、あんたもすげぇ使い魔だって証明すりゃいいんだ」



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