【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】 - 暇つぶし2ch513:雪華綺晶はここにいる 29/38
08/07/02 02:29:16 Vu3UqG8N
やわらかな微笑を浮かべ、陶然とその名を呼んだ雪華綺晶は音もなくその場から消失した。



「金糸雀…。金糸雀…。起きなさい。金糸雀」

闇の中から、誰かが名前を呼んでいた。過酷な運動に身体は軋みを上げ、まだまだ彼女は
休息を必要としていたが、無遠慮な呼び声に意識は覚醒を迫られる。
金糸雀がすっと目を開けると、そこに見えたものは自分の前に並ぶ真紅と雛苺と翠星石と…
自分を無表情に見つめる金色の瞳が一つ。その目の隣に咲く薔薇の花と、白い長髪。
刹那、金糸雀の脳裏に去来する雪華綺晶との遭遇の記憶。
鏡の中に引きずり込まれ、玩弄され、唇を奪われて覗き込んだ瞳の奥に垣間見えた
身の毛立つ歪んだ心。
おぞましい恐怖の体験が高速で回想され、金糸雀はたまらず悲鳴の声を上げた。
しかし恐慌も長くは続かない。その場にいた誰よりも金糸雀の悲鳴に驚いたのは、他ならぬ
彼女自身だからだ。一瞬後には雪華綺晶に関する記憶の輪郭は薄れ、煙のように形を
失い、跡形もなく霧散していた。
なぜ自分が悲鳴を上げたのか理由が分からずにきょとんとする金糸雀は、悲鳴を喚起したと
思われる人物の風貌をよく確認し、それが既知の知り合いであることに気がついた。

「う…あ…あれ…? バラバラ、かしら…?」

「何をそんなに驚いているの?
 薔薇水晶には貴女も何度か会っているでしょう?」

真紅の指摘にも、金糸雀はしばしの間反応することができない。それほどまでに彼女は
誰かに似ていた。それが誰で、自分とどういう関係なのかはまるで思い出せないが…。
金糸雀の斜め前で淑やかに座る人形は、その名を薔薇水晶という。
金色の瞳をもち、左目には紫色の薔薇をあしらった眼帯をつけている。純白の長髪に
紫水晶の髪飾りを添え、薔薇の花弁を想起させる意匠のドレスをまとう寡黙なドールだ。
彼女の創造者である人形師は、ローゼンの弟子を自称する槐という青年だ。
槐はジュンの住む街に工房を構え、ドールショップ「Enju Doll」を営業している。
ローゼンメイデンを凌駕する至高の少女人形を創ることを目的としているが、その活動は
人形創作のみで、アリスゲームに関与したりローザミスティカを奪ったりすることはない。
槐の紹介でジュンの家に住む薔薇乙女達と薔薇水晶は知り合った。
互いはその存在の種類や意義が似ているため仲が良いのだ。
薔薇乙女を超える人形を創るために、真紅達の外見や言動、雰囲気や魅力などを探る
ための調査を槐から仰せつかっているのか、薔薇水晶は時々ジュンの家に遊びに来ている。
nのフィールドから金糸雀を連れて帰還した真紅達は、金糸雀との戦闘で受けたダメージや
体力の消耗を媒介のジュンから力を受けることで回復させていた。
その最中に偶然、薔薇水晶がジュンの家を訪れたのだ。
薔薇水晶の姿を見て思うところがあった真紅は、自分達が回復し金糸雀に尋問を始めるまで
ジュンの家に留まるように頼み、それを彼女は事も無げに了承した。
時刻は19時を過ぎ、すっかり暗くなった頃にようやく真紅達は完全に回復した。
一息ついた彼女達は、未だ眠ったままの金糸雀を起こし、質問を始めることにしたのだ。

「え…? あれ…? カナ、どうして動けないのかしら?
 …し、縛られてるのかしら…!?」

「ごめんねぇ金糸雀ー。でもげんこうはんたいほ、なのよ」

金糸雀の手首と足首には、雛苺の苺わだちが絡み付いて縛り上げ、身動きを封じている。
朗らかに笑う雛苺は、幼児ならではの無邪気さと残酷さが同居しているようで
金糸雀にはその無垢な笑顔がどこか恐ろしい。



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