【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】 - 暇つぶし2ch511:雪華綺晶はここにいる 27/38
08/07/02 02:25:34 Vu3UqG8N
そうして再び金糸雀に飛び掛ろうとする彼女の前には、真紅と翠星石が立ちはだかっていた。

「どうして私を止めるの!? これだけ馬鹿にされて貴女悔しくないの?
 穢れた罠でアリスゲームを貶めたその子には、当然の最後だわ!」

鋏の切っ先を鼻先に突きつけられても、真紅はまるで揺らがない。
翠星石も怯えた様子はあるが、ほぼ同様だ。

「す…水銀燈…! オマエがやる気なら、翠星石達が相手になるですよ!
 その鋏も、レンピカも蒼星石のローザミスティカも取り返してやるです!」

『我慢しなさい。翠星石』

懸命に声を張り上げる翠星石に、真紅が小声でそっと囁いた。

『私達はnのフィールド内で力を使いすぎた。その上あの子とまで戦ったら、
 力を使い果たして螺子が切れてしまうわ。そうなったら全滅よ。
 気持ちは分かるけど、ここは引くべきだわ』

「うう……。チクショウ…チクショウ…ですぅ…」

涙目で歯を食いしばる翠星石。交渉においては相手に弱みを見せてはいけないように、
真紅は凛然と水銀燈を真っ向から見据えた。

「金糸雀は、私達が連れ帰ってよく言い聞かせるわ。
 それに、この子の様子は普通じゃなかった。
 謎のドールが絡んでいる可能性もあるの」

「言い聞かせる…? 謎のドール…? また訳の分からないことを…。
 まともだとは思ったけど、やっぱり貴女イカレちゃったんじゃなぁい?
 まだそんなおかしな格好をしてるし」

挑発する水銀燈は、真紅がいまだ身に付ける帽子と探偵ケープをふたたびあざ笑う。
これには真紅も怒りが噴出しかかったが、今彼女と戦ったところで、先に真紅自身が
話した理由からデメリットの方がはるかに大きい。それを冷静にわきまえている彼女は、
内心でたぎる怒りをぐっとこらえた。

「………何とでも言いなさい…。それより貴女こそいいの?
 その壊れた右の翼…私達3人を前に、足かせにならなければいいのだけれど」

「………ッ」

これには水銀燈も閉口するしかなかった。翼から羽を射出して相手を矢ぶすまに仕留める、
という戦法を主として採る彼女からすれば、片翼になった今は戦力が半減したことに等しい。
1対3という状況だけでも厳しいのに、その上力が半分になった今となっては、水銀燈の
勝利はほとんど望めないことになる。

「……まぁいいわ。私も今日は疲れちゃったし、特別に見逃してあげる。
 その子が起きたら伝えて頂戴。またこんな下らない真似をしたら、
 今度こそ水銀燈がジャンクにしにいく、って」

いくら好戦的な水銀燈でも、勝ち目のない戦いに自分から臨むほど無謀ではない。
アリスゲームを制してアリスに至り、ローゼンに逢うという悲願をもつ彼女からすれば、
戦略にはできる限り磐石を期する必要がある。
状況から撤退が必要だと判断した水銀燈は理性で強引に溜飲を下げた。
肩をすくめながらそんな事を嘯いて、レンピカに庭師の鋏を消させた後、
真紅達に背中を向ける。

512:雪華綺晶はここにいる 28/38
08/07/02 02:27:43 Vu3UqG8N
そうして空に飛び立とうとした時に、真紅が彼女に声を掛けた。

「水銀燈。助けてくれてありがとう。
 あの時貴女が金糸雀を止めてくれなかったら、私はきっとやられていたわ」

「…………」

真紅はうっすらと笑みを浮かべて水銀燈にそう伝えた。
彼女は忘れもしない。金糸雀の致命的な追撃を受けざるをえないと思われた瞬間、
彼女の腕を締め上げた黒い羽を。そのおかけで真紅は今もこうして立っていられるのだ。

「……何勘違いしてるの? 貴女に借りをつくるなんて冗談じゃないの。
 借りを返しただけよ。助けたなんて思わないで」

水銀燈は真紅に振り返りもせず、抑えた声でそう切り返した。
真紅も彼女と同様に、金糸雀の一撃から水銀燈の窮地を救っている。自身を愚弄した
金糸雀の狼藉を阻止し、同時に真紅を絶体絶命の危機から救い出すことが、彼女に
とって受けた屈辱をすすぐ上で最も効率が良いと判断したのだろう。その算段の裏に
どんな思惑が潜んでいるのかは分からないが…。
素気無く空へと舞っていく水銀燈の後姿を見て、真紅はそっと微笑んだ。
そして地に倒れ伏したままの金糸雀へと向き直り、事後処理に取り掛かることにした。



倒れた金糸雀を囲む真紅、雛苺、翠星石の3人。それを人知れず樹上から俯瞰する
白い薔薇乙女が一人。戦いの動向を見守っていた雪華綺晶だ。
気絶している金糸雀は、物理的に動作を停止している。こうなると雪華綺晶が得意とする
心理操作を及ぼすこともできず、したがって金糸雀を自害させることも叶わない。
これから彼女は、真紅達に事件についての様々な尋問を受けることだろう。
自身の意図や能力が露呈する事を快く思わない彼女は、金糸雀の雪華綺晶に関する
記憶の全てを抹消し、逆探知を不可能にするために傀儡の操り糸を惜しみなく切り捨てた。
それっきり雪華綺晶は、無関心もあらわに金糸雀には一瞥もよこさない。
用済みの金糸雀などよりも、よほど注目すべき薔薇乙女がいるからだ。
彼女の仕掛けた巧妙な罠はあと一息というところで失敗した。終わってみれば、
アリスゲームから敗退した薔薇乙女は一人もいない始末だ。
敗因を挙げるとするならば、真紅の秀逸な機転、といったところだろうか。
伊達に薔薇乙女の大半を束ねているわけではないようだ。その実力は確かなものである。
雪華綺晶の金色の瞳は、他の薔薇乙女には目もくれず、真紅だけを凝視していた。
その目には愛情の色を湛えて余りある。その瞳の奥にどんな忌まわしい心情が
巣食っていようと、傍目には姉を慕う妹の優しい眼差しにしか見えないだろう。
今回の"実験"から、力をもって正面からぶつかる正攻法は得策でないということが判明した。
煩雑ではあるが、気配をさとられない雪華綺晶の特性を生かした暗躍に打って出て、
他の薔薇乙女達の隙を衝き彼女らの媒介を密やかに奪い取ることが必要だ。
そのためには、現実に影響を及ぼすための実体がどうしても要る。
彼女はnのフィールドでしか存在できない、虚ろで儚い亡霊のような存在でしかないからだ。
世界と薔薇乙女に対して確かな作用を与えることができる、実体の身体。
それを得るために、計画の一つとして姉妹の誰かを"喰う"ことにしよう。
雪華綺晶が見下ろす4人の薔薇乙女のうち、一際弱小で思慮に欠けるうってつけのカモ。
真紅の隣で疲労のあまりへたり込む雛苺は、雪華綺晶の向けるおぞましい視線に
気づけるはずもなかった。
そして真紅。雪華綺晶がアリスに至る上での最大の難関が彼女であり、同時にアリスゲーム
攻略の要となる存在だ。

「真紅。私の大事な紅薔薇のお姉さま」

513:雪華綺晶はここにいる 29/38
08/07/02 02:29:16 Vu3UqG8N
やわらかな微笑を浮かべ、陶然とその名を呼んだ雪華綺晶は音もなくその場から消失した。



「金糸雀…。金糸雀…。起きなさい。金糸雀」

闇の中から、誰かが名前を呼んでいた。過酷な運動に身体は軋みを上げ、まだまだ彼女は
休息を必要としていたが、無遠慮な呼び声に意識は覚醒を迫られる。
金糸雀がすっと目を開けると、そこに見えたものは自分の前に並ぶ真紅と雛苺と翠星石と…
自分を無表情に見つめる金色の瞳が一つ。その目の隣に咲く薔薇の花と、白い長髪。
刹那、金糸雀の脳裏に去来する雪華綺晶との遭遇の記憶。
鏡の中に引きずり込まれ、玩弄され、唇を奪われて覗き込んだ瞳の奥に垣間見えた
身の毛立つ歪んだ心。
おぞましい恐怖の体験が高速で回想され、金糸雀はたまらず悲鳴の声を上げた。
しかし恐慌も長くは続かない。その場にいた誰よりも金糸雀の悲鳴に驚いたのは、他ならぬ
彼女自身だからだ。一瞬後には雪華綺晶に関する記憶の輪郭は薄れ、煙のように形を
失い、跡形もなく霧散していた。
なぜ自分が悲鳴を上げたのか理由が分からずにきょとんとする金糸雀は、悲鳴を喚起したと
思われる人物の風貌をよく確認し、それが既知の知り合いであることに気がついた。

「う…あ…あれ…? バラバラ、かしら…?」

「何をそんなに驚いているの?
 薔薇水晶には貴女も何度か会っているでしょう?」

真紅の指摘にも、金糸雀はしばしの間反応することができない。それほどまでに彼女は
誰かに似ていた。それが誰で、自分とどういう関係なのかはまるで思い出せないが…。
金糸雀の斜め前で淑やかに座る人形は、その名を薔薇水晶という。
金色の瞳をもち、左目には紫色の薔薇をあしらった眼帯をつけている。純白の長髪に
紫水晶の髪飾りを添え、薔薇の花弁を想起させる意匠のドレスをまとう寡黙なドールだ。
彼女の創造者である人形師は、ローゼンの弟子を自称する槐という青年だ。
槐はジュンの住む街に工房を構え、ドールショップ「Enju Doll」を営業している。
ローゼンメイデンを凌駕する至高の少女人形を創ることを目的としているが、その活動は
人形創作のみで、アリスゲームに関与したりローザミスティカを奪ったりすることはない。
槐の紹介でジュンの家に住む薔薇乙女達と薔薇水晶は知り合った。
互いはその存在の種類や意義が似ているため仲が良いのだ。
薔薇乙女を超える人形を創るために、真紅達の外見や言動、雰囲気や魅力などを探る
ための調査を槐から仰せつかっているのか、薔薇水晶は時々ジュンの家に遊びに来ている。
nのフィールドから金糸雀を連れて帰還した真紅達は、金糸雀との戦闘で受けたダメージや
体力の消耗を媒介のジュンから力を受けることで回復させていた。
その最中に偶然、薔薇水晶がジュンの家を訪れたのだ。
薔薇水晶の姿を見て思うところがあった真紅は、自分達が回復し金糸雀に尋問を始めるまで
ジュンの家に留まるように頼み、それを彼女は事も無げに了承した。
時刻は19時を過ぎ、すっかり暗くなった頃にようやく真紅達は完全に回復した。
一息ついた彼女達は、未だ眠ったままの金糸雀を起こし、質問を始めることにしたのだ。

「え…? あれ…? カナ、どうして動けないのかしら?
 …し、縛られてるのかしら…!?」

「ごめんねぇ金糸雀ー。でもげんこうはんたいほ、なのよ」

金糸雀の手首と足首には、雛苺の苺わだちが絡み付いて縛り上げ、身動きを封じている。
朗らかに笑う雛苺は、幼児ならではの無邪気さと残酷さが同居しているようで
金糸雀にはその無垢な笑顔がどこか恐ろしい。


514:雪華綺晶はここにいる 30/38
08/07/02 03:01:41 Vu3UqG8N
「金糸雀…。オマエは今、籠の鳥ですぅ。
 生かすも殺すも翠星石達次第なのです。
 翠星石達に働いた狼藉の数々…よもや忘れたとは
 言わさん…ですよ…?」

翠星石の瞳には、意地悪な嗜虐の色など灯っていない。そこにあるのは、掛け値なしの
怒りの感情だけだ。暗く冷たい眼差しを向けられて、まるで身に覚えのない金糸雀は
どう対応していいのかすら分からない。
困惑もあらわな金糸雀を見て、さらに突っかかろうとする翠星石。
彼女を鶴の一声で黙らせた真紅は、無感情な声と表情で金糸雀に問う。

「金糸雀。はじめに聞くわ。アレは貴女が自分の意思で起こしたことなの?
 それとも誰かに指示されてやったことなの?」

「あ、アレ…? 一体何を言ってるのかしら、真紅?」

「とぼけるつもりかですぅ! このチビカナ! オマエのせいで翠星石達が
 どれだけ危ない目に…」

真紅は翠星石の眼前に腕をかざして無言で制すると、まるでこうなることを可能性の
一つとして想定していたかのように、淡々と金糸雀を捕らえた経緯を説明した。
鏡に現れた犯人を追ってnのフィールド内を探索していたら突如金糸雀が出現したこと。
金糸雀と戦闘を強いられたが危ないところで勝利し、気絶させた彼女をここまで運んだこと。
それを聞く金糸雀は驚きもあらわで、その表情や仕草はごく自然であるように真紅は思った。
記憶喪失を装って自分の起こした凶行を誤魔化しているようには思えない。
そもそも真紅達に友好的だった金糸雀が急に豹変し、姉妹達を葬ろうとすることの方が
不自然なのだ。
金糸雀が言うには、全く身に覚えがないらしい。
昼にジュンの部屋に遊びに来たが、それからの記憶が今まで綺麗に抜け落ちているという。
それを聞いた真紅は頷いて、次の質問に移った。

「金糸雀。薔薇水晶の姿に何か感じるものはある?
 今日、彼女と会ったり話したような感じはしない?」

金糸雀は斜め前に座る薔薇水晶を凝視するが、彼女を見つめ返す無感情な薔薇水晶の
顔からは何も思い出せない。ただかすかに不快感らしきものを覚えるだけだ。
かすかな記憶と感情の残滓は、それらをかき集めても明確な言葉で説明ができない。
無表情な薔薇水晶は何を考えているか分からず、どこか捉えどころがないように思えるが、
その金色の瞳には紛れも無い確固とした意思と理性が宿っている。
どこかで自分は、それと似たような目を見たことがあるのではないか?
澄んだ金の瞳に宿る、慈愛と憎悪。理性と狂気。秩序と混沌。歓喜と悲哀。
対立し相克する感情が同居する、矛盾に満ちた不可思議な眼差し。
薔薇水晶と似ているようでいて、決定的に一線を画す不気味な視線。
それをいつかどこかで向けられたような気がするが、単なる気のせいのような感じもして、
確かなことはまるで分からない。

「分からない…かしら…。でも、何だか不思議な感じはする、かしら」

「…………」

そんな答えに、真紅はあごに手を添えて黙考する。
くんくん変身セットこそもう身に着けていないが、今の彼女には少しだけだが探偵じみた
雰囲気が漂っていた。

「……私は前に、ジュンの心の領海で薔薇水晶によく似た白いドールに
 会ったことがあるの」

515:雪華綺晶はここにいる 31/38
08/07/02 03:04:57 Vu3UqG8N
「僕の心の中で……!?」

それまで少女人形達のやりとりを静観していたジュンも、これには驚きの声を上げた。
自分の心の中に正体不明の存在が徘徊していると聞かされて黙っていられるほど、
彼の神経は太くない。
静かに頷いた真紅は、白いドールと出遭ったいきさつを話し始める。

「ジュンの無意識の海に、その子は突然現れた。
 外見は薔薇水晶にそっくりで、全体的に白色が強いドールだったわ。
 あの時、ジュンの領海には他の多くの世界からの海流が流れ込んでいた。
 その海流に乗ってどこかから現れたのね、きっと…。
 その子は私に見つかると、その場からふっと消え去ったの。
 まるで幽霊か何かのように」

真紅は事実を事実のまま話しているだけなのだが、怪談じみたその内容は場の空気を
重くする。臆病な翠星石に至っては震えを隠せない様子だ。意外にもホラーに対して
強い耐性をもつ雛苺はきょとんとしていたが。

「じゃ、じゃあまさか…昼間、鏡の中に現れたというのも…」

「その白い子の可能性が高いわね。水銀燈ではなかったのだし。
 薔薇水晶。念のために聞くけれど、貴女じゃない…わね?」

「はい」

真紅の問いに、薔薇水晶は鷹揚に頷いた。

「わたしは昼間、お父様の工房に控えていたので」

真紅とて下手人が薔薇水晶などと本気で疑っているわけではない。白いドールと薔薇水晶は
驚くほど似ているが、細かなところで確かな差異がある。白いドールが右の眼窩から白薔薇を
生やし純白のドレスに桃色がかった白い長髪という姿なのに対し、薔薇水晶は左目に眼帯を
添えて紫色のドレスをまとう紫がかった白い長髪という格好だ。
真紅は白いドールの姿を一瞬しか目視することができなかったが、それでも彼女が薔薇水晶で
ないことはそれらの差異と雰囲気の違いから明らかだ。
考えられる可能性の一つを確実に潰すことで真相に至る道をより堅固にするために、真紅は
彼女に確認したのだ。

「薔薇水晶でもないのなら…その白いヤツは一体何なのです……?
 ま、まさか…のりが言っていたみたいに、ほ、本物の幽霊が……」

怯えた翠星石は、誰に問うともなく震えた声でそう訴える。今にも泣き出そうかという声だ。

「………ドッペルゲンガー…なのかもな。
 薔薇水晶の」

「ど…どっぺる……? 何ですそれ…?」

「生霊のことだよ。生きている人間の分身の幽霊で、外見がそっくりなんだ。
 自分のドッペルゲンガーを見た人間は、近いうちに死ぬって言われてる。
 ここにいる薔薇水晶の影みたいなものか」

「や、やめるですジュン! このバカチビ人間! 怖いこと言うなですぅ!」

机の椅子に座るジュンのすねを翠星石は思い切り蹴り上げ、ジュンは悲鳴を上げて悶絶する。

516:雪華綺晶はここにいる 32/38
08/07/02 03:09:01 Vu3UqG8N
怒りに目をむくジュンと、そんなことにはまるでかかわらずに頭を抱えて震える翠星石。
今までの状況と彼女なりの推理からある事実を確信した真紅は、逡巡の後、話そうとする。
真紅とて認めたくのない由々しい内容の推測だ。ならばいっそう姉妹には打ち明けたくない。
真紅がこれから口にする内容は、ただ彼女達の不安を煽る禍言でしかないのだから。

「その白いドールはきっと、貴女達ローゼンメイデンの姉妹の一人でしょう」

真紅に先んじて声を上げたのは、意外にも薔薇水晶だった。
真紅の躊躇を見取ったのか、それとも彼女自身思うところがあったのか、低く落ち着いた
薔薇水晶の声色は、いつにも増してなお重い。
寡黙な薔薇水晶には珍しい発言に、ジュンと翠星石の喧嘩によってやや浮ついていた
空気が再び緊張感を帯びる。

「お父様は、ローゼンメイデンの一人を模してわたしを創ったと仰っていました。
 その白いドールの姿がわたしに似ているのなら、それはわたしの原作となった
 ローゼンメイデンなのでしょう」

自らの出自の由縁を淡々と話した薔薇水晶は別段変わった様子も見られない。
その無感情だった瞳が、ただかすかに憂いの色に滲むだけだ。
その微少な変化に気づいたのは彼女の顔をじっと見つめていた真紅だけだった。
薔薇水晶の生まれた理由を今初めて知った真紅の胸に、痛ましい感情が広がっていく。
コピーはオリジナルを越えることはできない。いかにそれが出色の出来であったとしても、
模造は模造でしかない。原作を真似ている時点で、それは唯一性と独創性を欠いた
追従でしかないからだ。
ジュンが謎の白いドールを薔薇水晶のドッペルゲンガーうんぬんと言った事は、期せずして
薔薇水晶への痛烈な皮肉となってしまった。厳粛にその存在価値をオリジナルの下位に
位置づけられる彼女は、言わばオリジナルが日の光を浴びて輝いた結果、その足元に
形作られる地面を這う暗い影でしかない。
白いドールが薔薇水晶の影ではなくてその逆なのだ。
薔薇水晶のオリジナルが現れた以上、そのコピーである彼女の立場はどうなるのか。
真紅の胸を不憫の情で締め上げるのは、世界に2つとない薔薇乙女の第5ドールという
自負からくる優越感の裏返しなどではない。創造者によって一方的に運命と存在理由を
背負わされる人形の悲痛を、真紅だけでなく、薔薇水晶もまた彼女とは違う形で
胸に抱えていることを知ったからだ。

「真紅」

真紅の悲しげな顔を見て、薔薇水晶は無表情のまま声を掛けた。

「わたしは自分がローゼンメイデンの模造であっても構わない。
 ただお父様の望むがままに。
 それがわたしの願いであり、わたしが在る理由なのですから」

一文字だった唇の両端が、ほんのわずかに釣り上がる。それは本当に淡い、薔薇水晶の
微笑みだった。
愚直なまでに創造者に忠実であろうとする薔薇水晶は、たとえその出自に思うところは
あっても父親である槐を深く愛し、その身の器に誇りをもっている。
それに対して真紅は、アリスを生み出すためのアリスゲームをローゼンの意向に反する形で
終わらせようとしている。果たして自分は度し難い逆徒なのか。そんな皮肉に我知らず
苦笑した真紅は、厳粛な面持ちでそっと薔薇水晶に頭を下げた。

「御免なさい。失敬だったわね」

「いいえ」

気にせず話を進めて欲しい、という薔薇水晶の意を酌んだ真紅は、彼女の配慮に甘えて
自分の意見を述べることにした。

517:雪華綺晶はここにいる 33/38
08/07/02 03:13:18 Vu3UqG8N
「私も薔薇水晶と同じことを考えていたわ。
 昼間鏡の中に現れた白いドールは、薔薇乙女の第7ドールだと思うの」

「だ、第7……?」

「ヒナたちの妹…なの?」

「ほ、本当なのかしら…? 真紅…」

翠星石と雛苺と金糸雀が驚いて声を上げ、真紅を不安げな面持ちで見つめる。
真紅は今まで、この推測を彼女達に伝えなかった。事件の下手人を捕まえにいく時にも
言葉をにごし、容疑者は水銀燈もしくは"不審なドール"程度にしか説明しなかったのだ。
それは確信ももたず、いたずらに彼女達を怖がらせてはいけないという真紅の配慮だった。
第1ドールの水銀燈から第7ドールの全てが同時に目覚めているということは、アリスゲームが
本当に開始したということに他ならないからだ。姉妹と戦うことを厭う彼女達からすれば、
それは最も忌まわしい事態だろう。
困惑もあらわな翠星石と金糸雀、きょとんとしている雛苺の視線を受けて真紅は先を続ける。

「私ももしかしたらとは思っていたけれど、薔薇水晶の証言から
 確信したわ。今日起こった事件の首謀者は第7ドールよ」

「ど、どういうことです…!? 説明するです、真紅!」

「水銀燈も鏡に現れた姉妹の誰かを追ってnのフィールドへ来たと言っていた。
 私達と状況が同じだわ。
 私達は水銀燈と同じように、第7ドールにnのフィールドまで誘い込まれた」

「……つまり翠星石達も水銀燈も…踊らされたってことです…?」

「ふぇ…ダイナナはすごいのよー」

「そして私達3人と水銀燈が集まったところで金糸雀…貴女が現れた」

「うっ……そんなこと言われても、カナ、覚えてないのかしら…」

「ここからは私の推測よ。
 金糸雀。貴女は第7ドールに接触し、操られていた可能性が高い」

「カナが…!? 第7ドールに…!?」

「そうよ。私達4人を一箇所に集めていたのが第7ドールなら、
 その後の展開も第7ドールによる計画のうち、と考えるのが自然だわ。
 貴女は今日、ジュンの家を訪れた後に第7ドールに捕まって
 何かの方法で操り人形にされたのよ。
 そして私達と水銀燈を倒すための手駒にされた」

「そっ、そんなはずはないかしら! よりにもよって薔薇乙女一の
 策士のカナが敵の罠にはまるなんて…」

「金糸雀…。オマエ、少し黙れ。……ですぅ…」

「は、ハイ…かしら…」

名誉毀損とばかりに反論しわめき立てる金糸雀の頬を、翠星石が乱暴に掴む。
未だ縛られて身動きの取れない彼女は、怒りに暗く燃える翠星石の眼差しを至近距離から
突きつけられて気圧され、言われたとおりにするしかない。
真相がどうあれ金糸雀に痛めつけられたという事実に、翠星石はまだ怒っているのだ。

518:雪華綺晶はここにいる 34/38
08/07/02 03:17:55 Vu3UqG8N
「危ない戦いだったけれど、私達は何とか勝つことができた。
 もしも負けていたら、私達4人はもちろん用済みの金糸雀も
 第7ドールの手でローザミスティカを奪われていたはずよ。
 本当に危なかった。最悪の場合、今日中に薔薇乙女は
 第7ドール以外全滅していたはずだから」

そんな真紅の言葉に、翠星石と雛苺は背筋を凍らせる。
彼女達からすれば、ささいな事件を解決するために遊びで探偵ごっこを楽しんでいただけだが、
彼女達が関わった事件にはそんな破滅的で悪辣な罠が潜んでいたというのか。

「捕まえた金糸雀から第7ドールのことを探れないかと思ったけれど、
 金糸雀の記憶は消されている。
 第7ドールと薔薇水晶の姿は似ているから、彼女を見て何か思い出すかと
 期待したのだけれど…。
 でも金糸雀は薔薇水晶を見たときに、明らかに混乱していたわ。
 記憶の消去は完璧じゃない。金糸雀は確実に第7ドールに何かをされている」

「何か気味が悪いのかしら…。
 何かをされて、何も覚えていないなんてあんまりかしら…」

「なーにをのん気なことをほざいてるですオバカナ!
 オマエの頭の中に! 謎を解く鍵が入っているのです!
 さっさと思い出しやがれですぅ!」

「うぐぐっ…や、やめるのかしら翠星石…!
 し、真紅…! カナはもう暴れたりしないから
 自由にして欲しいのかしら…!」

「あら。そういえばそうだったわね。
 すっかり忘れていたわ」

真紅は雛苺に指示し、金糸雀を縛っていた苺わだちを解かせた。
真紅が金糸雀の身体を拘束させていたのは、まだ金糸雀が操られている可能性が
あったからだ。これまでの会話と金糸雀の様子から彼女が正常であることを確認した真紅は
金糸雀を解放することにした。
しかし場合によってはまだ第7ドールの支配下にあった方が良かったかも知れない。
金糸雀が気絶している間に、何かされた形跡はないか、何かの力の影響下にないかと
真紅は彼女を入念に調べた。
あわよくば金糸雀を操る糸をたどり、下手人まで至ることはできないかと期待したのだが、
結局金糸雀を操った犯人の手がかりは何も得られなかった。

「その第7ドール…自分からは姿を現さず、自分の正体に繋がる
 手がかりも残さず消していく。
 かなり周到で用心深いドールですね」

ゆるんだ空気を締め直そうという配慮からか、そんなことを淡々と話す薔薇水晶に、
真紅も真剣な面持ちを取り戻して頷いた。

「そうね。まるで実体が掴めないわ。
 姉妹の身体を乗っ取って戦わせて、その正体は誰にも分からない…。
 本当に幽霊のよう。のりは先見の明をもっていたようね」

「そんなもんアイツにあるわけないよ。ただの偶然だろ」

「何もしてねーくせに偉そうなこと言うなですチビ人間。
 第7を見つけたのりの方がオマエよりずっと役に立つのです」

519:雪華綺晶はここにいる 35/38
08/07/02 03:21:00 Vu3UqG8N
「なっ何だとー!? お前達の手当てをするのに、
 今日僕がどれだけ力を吸い取られたか…」

「そんなの媒介として当然の務めですぅ。
 むしろ翠星石に力を貢げて光栄に思えですぅ」

再びいがみ合い場の空気を乱す翠星石とジュンを軽くたしなめて、真紅は第7ドールに
対する総括を話し始めた。

「金糸雀を操って私達を襲わせたり、足取りや正体を掴ませないところから
 かなり狡猾で慎重な妹よ。罠の内容も悪質に過ぎるわ。
 正面から攻めてこないで姉妹を罠に陥れようとする分、
 好戦的な水銀燈よりもよっぽど危険でたちの悪い薔薇乙女だと考えていいわね。
 その正体も能力もほとんど不明だけれど、分かっている範囲では
 姉妹の身体を乗っ取る力をもっていて、外見が薔薇水晶に似ていること。
 それと鏡の中に現れるらしいから不用意に大鏡には近寄らないこと」

真紅の分析と留意点に、その場の薔薇乙女達は頷きを返す。
雛苺はその中でも特に幼稚で思慮に欠けるので、真紅は彼女には念を押して注意をした。
そんな折、ドアをノックする音が部屋に響く。

「ジュンくーん、それにみんな~。お夕飯ですよー」

ドアを開けて笑顔を覗かせるのりに、雛苺がはしゃいで両手を挙げる。雛苺の後に
金糸雀がそろそろと続き、翠星石に睨まれてばつが悪そうな表情を見せていた。

「わたしはそろそろ帰ります」

そう一人呟いて立ち上がる薔薇水晶に、真紅が微笑んで声を掛ける。

「たまには夕飯を一緒にどうかしら?
 のりの料理はなかなかのものよ。
 貴女にも事件の解決を手伝ってもらったのだから、
 せめてお礼くらいはさせて欲しいもの」

「…………」

薔薇水晶は逡巡していたのか、しばしの沈黙の後、こくりと頷いた。



「今日は薔薇水晶ちゃんも食べていってくれるのねぇ。お姉ちゃん嬉しいわぁ」

のりの爛漫とした笑顔を向けられて、薔薇水晶は無表情のままかすかにうつむく。
どうもそれが彼女の照れの仕草であるらしい。
テーブルの上には真紅、雛苺、翠星石、金糸雀、薔薇水晶、のりの分の料理を載せた
皿が並べられている。ジュンはこういった団らんの空気は苦手なので、テーブルから
離れたソファーに座ってテレビ番組を観賞していた。
メインの料理は定番の花丸ハンバーグで、ソースのかかったハンバーグの上に花を模した
形の目玉焼きが乗せられている。その端にはパセリとニンジンも添えられ色合いも豊かだ。

「みっちゃんにはかなわないけど、ノリノリのご飯もけっこういけるのかしら」

「…ケチつけてないで黙って食べるです」

翠星石の睨みにも耐性ができたようで、金糸雀は相変わらずの様子でハンバーグを
ほお張っている。

520:雪華綺晶はここにいる 36/38
08/07/02 04:03:03 Vu3UqG8N
香り立つ花丸ハンバーグを前にしても、翠星石の瞳にはかすかな憂いが灯っている。
今日、珍しく水銀燈に遭遇した彼女は、蒼星石のローザミスティカを彼女から取り返す
チャンスがあった。しかし金糸雀の妨害のせいで水銀燈には逃げられ、結局悲願を
果たすことはできなかったのだ。
今日の事件が第7ドールが仕組んだことだとしても、翠星石からすれば蒼星石の復活を
叶えられなかったことを悔やむ気持ちがいつまでも残る。
しかしものは考え方次第だ。水銀燈に出会う機会はいつかまた訪れるだろう。
その時こそローザミスティカを奪還し、蒼星石を元に戻せばいいのだ。

「(蒼星石…翠星石がいつか元通りにするですからね…!)」

胸の内で誓いを改めた翠星石は、蒼星石と一緒に食卓を囲む日が訪れることを夢見て
ハンバーグにナイフとフォークを添えた。

「お味はいかが? 薔薇水晶」

「おいしい」

真紅の問いかけに、薔薇水晶は黙々と口に運んでいたハンバーグをそう評した。
彼女は朴訥でお世辞が言えるほど器用ではない。本当に美味しいと思っているのだろう。

「あらあら。嬉しいわぁ薔薇水晶ちゃん。お姉ちゃん頑張った甲斐があるわ」

「のりの花丸ハンバーグはもうさいこうなんだから!」

朗らかな笑みを送るのりと雛苺に、薔薇水晶は無表情な顔を少しだけゆるめて、
そっと笑顔を浮かべた。
そんな食卓の光景を見て、真紅は想いに耽る。
第7ドールが現れたということはアリスゲームが本当に始まったということだ。
得体の知れない白い妹の悪辣な罠に嵌められて危険な目に遭ったが、結果としては今日も
こうして安らかな夕食を皆で迎えることが出来ている。
第7ドールが画策しようと、真紅が姉妹を守るのだ。真紅には優しい姉妹達がついていて
くれている。皆で結束すれば、何を恐れることがあるだろうか。
それに水銀燈。好戦的なのは相変わらずだが、真紅を絶体絶命の窮地から救ってくれた。
アリスゲームに対する姿勢の違いから相容れず、2人の間には深いみぞがあると真紅は
思っていた。しかしそのみぞが今日少しだけ埋まったように彼女は感じた。
いつの日か、水銀燈とも理解し合えるかもしれない。
そんな幸せな想像に、真紅は優しい笑みを浮かべた。

微笑む真紅をジッと見つめる瞳が一つある。
それは薔薇乙女たちが囲むテーブルの傍の、食器棚の中からの視線だった。逆さにされた
硝子のコップの一つに金色の瞳が悪趣味な模様のように浮き上がり、誰にも知られることなく
真紅と、姉妹達を静かに観察している。
その瞳には優しげな色が宿っているが、暗がりに浮かぶ炯々と光る金色の目は、
まるで闇の中から息を潜めて獲物を狙う、肉食獣のそれであるかのようにも映る。
慈愛に満ちた禍々しい眼差しは、誰にも見咎められる事無くいつまでも真紅達を捉えていた。




521:雪華綺晶はここにいる 37/38
08/07/02 04:06:04 Vu3UqG8N
その夜遅く。
消灯時間も過ぎた頃になり、病室は夜闇に暗く塗りつぶされている。
めぐはベッドに横にならず、上半身を起こしたまま窓ガラス越しに空を見上げていた。
淡い月光が窓から差し、部屋を仄かに明るくしている。
やおら月明かりを超える強さの光が洗面台の鏡からあふれ出した。
鏡が眩しく輝くと、そこから姿を現したのは水銀燈だった。

「おかえり。水銀燈。帰りが遅いから心配しちゃった。
 やられちゃったんじゃないかと思って」

「…馬鹿言わないで。
 私が他の姉妹に負けるなんてありえない」

水銀燈が今まで病室に戻らなかったのは、金糸雀との戦闘で半壊した右の翼を癒していた
からだ。メイメイとレンピカのそれぞれの総力を使わせて今まで治療していた翼は、
何とか見られる程度までは回復した。
元に戻ったのは外見だけで、芯の部分は未だに傷ついているが。
なぜそんな事に今まで時間を費やしていたのかは、水銀燈自身にもよく分からない。
単にめぐに負傷を見咎められるのが屈辱だからなのか、それとも別の理由が存在するのか。
ただあのままの姿で帰りたくないと水銀燈が思ったからそうしただけだ。

「それでどうだった?
 昨日の白い天使は殺したの?」

笑顔でそんな恐ろしげなことを問うめぐに水銀燈はやや呆れたが、刹那の逡巡の後に
不満げな顔で応えた。

「殺してないわ。
 でも痛めつけてあげた。
 もうここに来ることもないでしょ」

水銀燈は昨日病室に現れた雪華綺晶を金糸雀だと勘違いしたままだ。
殺さずとも真紅と共に裁きを下した金糸雀は、それに懲りて二度とやってこないと思っている。

「そっか……。
 水銀燈。貴女優しくなったわ。
 前の貴女なら、きっと躊躇わずに殺してる」

「馬鹿じゃない。単なる気まぐれよ。
 私は最凶の薔薇乙女なの。優しいはずなんかない」

水銀燈はさも呆れたと言わんばかりに肩をすくめて嘯いた。彼女自身、アリスゲームを貶めた
金糸雀を始末したかったのだが、状況がそれを許さずに誅戮は未遂に終わった。
そんな事実は彼女の沽券に関わるのだから言えるはずも無い。
それでもライバルの真紅を見捨てられずに助けてしまったのは、冷徹な水銀燈らしからぬ
行動だったのだが。

「ううん。貴女は変わってしまったわ。
 私のつまらない命も使ってくれないくらいに」

「!」

めぐの言葉は水銀燈を不安にさせる。秘め隠していた認めたくない部分を揺さぶられるようで、
水銀燈は不快な気持ちになり言葉に詰まった。
水銀燈は仏頂面のままめぐから目を逸らし、黙り込む。
そんな彼女を見て、めぐはやわらかく瞼を下ろし、唄うように呟いた。

522:雪華綺晶はここにいる 38/38
08/07/02 04:08:57 Vu3UqG8N
「私が関わったことで、貴女の大切な部分を歪めて
 壊してしまったのだとしたら…それはとても罪深いことね。
 私には本当に生きる価値がない。
 早く死んでしまえばいいのにね」

「…………」

めぐは目を閉じたまま、誰かに懺悔するかのようにうつむいていた。
水銀燈が本当に稀にしか見せない、痛ましいものを見るような眼差しにも
彼女は気づいていなかった。
2人は歩み寄れば寄るほどに、本質的な部分で遠ざかっていく。
めぐは死から、水銀燈は媒介の獲得から。
お互いが望むものから離れていく。
水銀燈は自分の気持ちと今の雰囲気が息苦しくなって、窓辺に寄り空を見上げた。
空には白く輝く月が浮いている。
水銀燈の銀色の髪も、紅い瞳も、物憂げな表情のかんばせも、等しく淡く照らしていた。


                                      
                                              fin

523:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/02 04:10:42 Vu3UqG8N
ローゼンメイデンのSS初挑戦です。
動く蒼星石も書きたかったなぁ…orz

524:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/02 18:30:16 Mw7LDZS3
続きが気になる
乙です

525:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/02 21:38:39 LF9HLXae
これは読ませる

526:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/03 14:50:40 KFIthV0f
乙です
文章・展開ともにうまい はらはらしたぜ

527:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/05 11:57:14 DJuccZ0K
乙です。
久々に読ませるSSが来た。
続きを是非!

528:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/05 13:26:23 4Zg+VWmk
なww

529:「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
08/07/06 23:53:34 Su/gm5gQ
真っ赤になって動けなくなっちゃった水銀燈を抱いて入った倉庫の中。
そこは埃にガソリンやオイル。それに錆臭さが漂う馬鹿の城。
一般ピープルも“それ”に興味がある人も引くゴミ置き場。
“それら”を見た水銀燈は溜息を吐いて。
「確かにジャンクねぇ…どうするのよぉ…この壊れたバイク…」
バラバラ…。
そう、冗談抜きでバラバラになってる古いバイクを眺めながら言う。
「いや、壊れてない。修理中」
ジャンクじゃないやい!…と、ムキになった俺。
こっちはすぐエンジンかかる、これは磨くだけ…これも磨いて塗装すれば…。
必死にゴミじゃないと言い続ける。
「…修理中ねぇ…」
どーでもいいわよぉ、そんなのぉ…と、バイクと俺から興味が無くなりつつある水銀燈。
こっちもボロボロ、これは錆だらけ…あら?これはパンクねぇ…。
そんな事を言いつつウロウロ。挙句の果てに冷蔵庫を見つけてヤクルトを要求する始末。
…そーかい、そーかい…そんなに興味が無いのかい。
そう一人で拗ねていると水銀燈がヤクルトを2本、持って来た。
…1本くれるの?

530:「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
08/07/06 23:53:54 Su/gm5gQ
埃の積もった椅子に腰掛けた水銀燈は楽しそうに2本目のヤクルトを飲み始めた。
ちょっと残念。
「…何よぉ、その目の意味する所はぁ…」
「一本くれるのかと思っただけ」
いじけてレンチを弄ってる俺を哀れに思ったのか、
彼女は飲むのを一時中断して溜息を吐いた後、にっこり微笑んだ。
「仕方ないからジャンクの名前聞いてあげるわ。感謝しなさいよぉ?」
この時俺は『砂漠で遭難中、オアシス見つけました!』とか『ココにいても良いんだ!』な顔をしていた。
冗談抜きでホンマにあんたは天使様やぁ!
「ふふっ…おだてても何も出ないわよぉ?」

531:「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
08/07/06 23:54:18 Su/gm5gQ
調子に乗った俺、聞かれたのをいい事にバイクのことを喋り倒してました。
まずは1963年式ホンダCB72型レース仕様。
当然、ライト、ウィンカー、ストップランプなぞ付いてやしません。
色は昔のホンダレースバイクのお約束の赤。
「…で、色から付けた名前が“真紅”」
「しん…くゥ?」
右から左に聞き流してた水銀燈から再び立ち昇る、殺気。
これはヤバイ。
「でー、その白と銀色のが“水銀燈”」
“真紅”を壊されちゃならんと別のバイクを指差す俺。
「…これが…“水銀燈”?」
彼女はバイクを指差して聞き返してくる。
眉の間の皺が『勘弁してくれ、マジで』と言っている。
今度は機嫌を損ねたんかい、お前は…。

532:「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
08/07/06 23:54:40 Su/gm5gQ
フレームと足回りをメッキしてタンクと外装をミッドナイトブルーに塗って…。
…それでホンダ翼マークを黒にして銀でMercury Lampeと書けば最凶のNSR250完成…。
てな事を20分ばかし語った結果水銀燈のご機嫌は回復。…ちょっと、疲れた。
ニコニコ顔の水銀燈、
「オレンジと青銀はぁ?」
と、他の名前を聞く余裕も生まれたみたい。
最も他のは名前決めてないんだけど。
「本当にお馬鹿さんねぇ…」
…今回は微笑み入った優しい“お馬鹿さん”ですなぁ…。

533:「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
08/07/06 23:58:15 Su/gm5gQ
ンでもってバイク弄ってる所を見たいと水銀燈が言うのでそのままお楽しみ時間突入。
現在サービスマニュアル片手にシリンダーヘッドの組み立て中。
水銀燈はちょっと退屈そう。
…そうだよね…女の子こーゆーの嫌いだよね…オイル臭いし…。
「…で?…何で“水銀燈”より“真紅”を先に治すのぉ?」
…やっぱり飽きてたみたい。
今日はもう終わりにしよう。
その一言を言う前、
「ひょっとして浮気してるとかぁ?」
水銀燈は、言った。
お前は何を言ってるんだ?
振り向いてそう言おうとして、俺は驚いた。
…コイツ…立派な女の目をしていやがる!!
まあ、それはさて置き…。
「…お、置かないでよぉ…い、意識して…その…そ、そういう顔したんだからぁ…」
…演技かい…。

534:「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
08/07/07 00:00:08 vHubGRKN
とにかく。
「前のオーナー…まあ、マスターみたいな人と約束したんだ。
 サーキットを走らせる…って」
馬鹿みたい。
自分でも、そう思う。
免許も無い上にピザデブなんだし。
けど水銀燈はちょっと夢見る表情に。
「…サーキットを走らせる…かぁ…素敵ねぇ…」
…夢見てからかちょいとロマンチスト入ってますな。
そして夢から覚めて。
「…けど…その体型でぇ?免許はぁ?」
「お願いそれ言わないで」
一気に現実に引き戻された。
…そーいや水銀燈に免許用の金、注込んじゃったよなぁー…。
一人落ち込む俺に水銀燈は何故か優しい笑顔を見せていた。

535:「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
08/07/07 00:01:12 vHubGRKN
ンでもってその日の夜。
水銀燈が寝床に収まったのを確認して消灯。
近くに誰か居ると言うのは安心すると実感。
「…ねぇ…もう寝たぁ?」
瞼を閉じて10分ほどした頃、水銀燈が問いかけて来た。
「いんやー…まだ起きてる…」
とは言うものの半分寝ています。
水銀燈が何言ってるのか良くわかりません。
とりあえず、“水銀燈”を先に治せと言ってたのでやんわり断りました。
意識を手放す前に聞こえたのは…。
「お休みなさぁい…イビキの大きな…」
と言う水銀燈の呟きです。
続きが気にはなります。
なるんだけど…何だろう、この頭痛は…。

536:「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
08/07/07 00:02:56 vHubGRKN
「今日もお仕事…お休みねぇ…」
外を眺めながら気だるそうに呟く水銀燈。
「それ言うなっての…」
体温39度で返事すら辛い俺。
取説に起動直後は体調不良になると書いてたから
覚悟はしてたもののココまでとは思ってもいなかった。
昨日頭痛を感じたときに風邪薬飲んで置きゃよかった。
そう思っても後の祭り。
水銀燈はそんな俺をチラッと見て翼を広げ。
「じゃあ私は少し散歩してくるわぁ」
…薄情者めぇー…。
そんな事を考えながら俺は目を閉じた。

537:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/07 20:45:10 vHubGRKN
…で。
…何でこうなってるんだろう…。
俺は眠ったはずだ。
…なのに何で水銀燈に服を脱がされてるんだろう…。
そして、何で全裸の水銀燈に押し倒されてるんだろう。
全く理解できない。
「これは夢よぉ?だからぁ…私を楽しめばいいのよぉ?」
水銀燈が俺にキスをする。
酷く妖艶に微笑みながら。
「理性を解き放って獣になっちゃいなさぁい」
彼女の赤い瞳が暗く輝いた。
「…理性を…解き放つ?」
「そうよぉ?そしてぇ…この水銀燈を玩具にしなさぁい」
甘い声が頭に響く。
心のどこかで、糸が、切れた。

538:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/07 20:46:00 vHubGRKN
「…なのに何でこうなっちゃってるのよぉ…」
困った顔の水銀燈(全裸)。
「うはwww水銀燈マジやーらけーwwwwww」
理性が解き放たれ獣になった俺(全裸)。
「押し倒してきたら吸いつくして殺してやるつもりだったのにぃ…」
「ほっぺフニフニwwwおっぱいもーみもみもみwwwwww」
「お馬鹿はさっきから芝大量生産してるしぃ…」
 …この芝ラプラスの口にでも詰め込んでやろうかしら…」
ぬふぅ!俺様以外の名を呼ぶとはぁああぁぁッ!!
かくなる上は最終奥義発動で俺様の虜にしてくれるッ!!!
「水銀燈モフり祭り開催!!1!!wwwwww」
「いい加減に落ち着けぇ!!」
水銀燈に剣でぶん殴られて奥義発動失敗。
変わりに発動したのは水銀燈のスーパー説教タイムだった。

539:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/07 20:48:22 vHubGRKN
「だいたい貴方はお馬鹿さん過ぎるのよぉ!何が水銀燈モフり祭り開催よぉ!!
 どこの世界に理性を解き放ったら目の前にいる女の子を抱きしめて撫で回す奴がいるって言うのよぉ!!
 こんなに綺麗な女の子…いえ、ドールが目の前にいたらぁ…ほ、ほほほ他の事するのが常識でしょ!?
 貴方って本当に本当に本当ぅ~にお馬鹿さんねぇ!そんなだから友人も恋人も居ないのよぉ!!」
…姐さん、この子止まりそうにありません。
しかも何、微妙に赤面してやがりますか。
何が『ほ、ほほほ他の事するのが』ですか。
具体的に言いなさい。
…と、落ち着いた挙句、妙に冷静な俺(全裸で正座中)。
「お、おおおお馬鹿さぁーんっ!そんなの私の口から言えるわけ無いじゃないのよぉ!!
 察しなさいよぉ!愛し合ってる男と女が二人きりで…その…す、する事よぉ!!」
混乱して挙動不審でトマトみたいな顔色の水銀燈(全裸で不思議な踊り)。
…何このカオス…。

540:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/07 20:52:06 vHubGRKN
不思議な踊りを踊り続ける水銀燈と正座したままそれを眺めるとも無く眺める俺。
二人の間に流れる珍妙不可思議な時間。
…何とかしないといかんよなぁ…やっぱし。
「いい加減にお前も落ち着け」
「もう!また抱きしめるぅ!、すぐそうやって撫で回す!放しなさいよぉ!!」
何この駄々っ子。もう苦笑止まりませんなぁ。
「…わ、笑わないでよぉ…」
「ほんにも~…めんこいめんこい」
「だ、だからぁ…な、撫でないでよぉ…笑わないでよぉ…」
だが、断る。
撫で撫で撫で撫で…。
優しく、それでいてねちっこく、気持ちを込めて撫でる。
「…も…、やぁ…」

541:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/07 20:56:16 vHubGRKN
一通り撫でて満足したので…。
「…あ、あれのどこが一通りなのよぉ…満足するの遅すぎよぉ…」
…とにかく真っ赤っ赤になった子猫ちゃんを抱いて、
「ちょっ!?…な、何す…きゃっ!?」
横に、ゴロン。
さすが夢の世界。
思うだけで布団出てきましたぞ!?初夜の雰囲気ですぞ!?
「ちょ!?…し、しししし初夜って何よぉ!?
 そ、そりゃあ誘いはしたわよぉ!?でもその前にしなきゃならない事がぁ~…!!」
言ってみただけ、言ってみただけ。
少しは落ち着け。
「…ふ、布団の中で裸で抱き合って落着ける訳無いじゃないのよぉ!!」
はーい、はい。良いから落ち着きましょうねぇ~。
撫で撫で撫で撫で…。

542:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/07 20:57:45 vHubGRKN
再び真っ赤になって沈黙する水銀燈。
言いたい事をもう一度言うのは今しかない。
「性処理に買ったんじゃない。一緒に居たいから、作った。
 俺にとってのアリスが水銀燈だったから、お前を選んだ。
 今はただ、そばにいて欲しい。ずっと抱きしめていたい。
 それが俺の望み。
 だからこうして抱きしめて撫でてるんだ」
「そ、それは前にも聞いたけどぉ…」
顔色が戻らない水銀燈を抱っこしつつ撫で撫で。
極楽ですな。
「…ちょっと待って」
「何?」
素に戻らないでよう。
…と、ちょっと落ち込んでる俺。
「今言ったの本気?」
…と、何故かやたら真剣な水銀燈。
どったの?何かミスった?…俺。

543:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/07 21:02:05 vHubGRKN
「だから“自分にとってのアリスが水銀燈”ってのは本気なのかと聞いているの」
あ…そっちね?
…よかったよぅ…。
おいちゃん、何かとんでもないポカしたのかと思ったよぅ…。
「よーし、こっちに帰ってきなさぁい」
よしわかった水銀燈…?
「何でお前服着てるの?さっきまで全裸だったのに…」
「真面目な話だからよ」
かわされた。
さてはマジか!?
「そう、言ったわ」
「そうか」
「そうよ」
そう言う事に、なった。

544:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/07 21:03:23 vHubGRKN

「確かにお前は俺のアリス…つまり理想の少女だけど…」
「ふざけないで。これは真剣な話よ」
凛…ッ。
とした声が、響く。
「そう…真剣な話なの。
 二人にとって…ね…」
そう言って微かに微笑む水銀燈はまさしく、アリスだった。
どんな花よりも気高くて、
どんな宝石よりも無垢で、
1点の穢れもない、
世界中のどんな少女でも敵わないほどの至高の美しさを持った少女。
それが、水銀燈だった。

545:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/08 16:22:47 Sc3Ph1pj
妄想系のSSは、「作者は俺か?」ってくらいに同調できないと
正直読み辛いのぅ。

546:「週刊ローゼンメイデン(書いてる人)」
08/07/09 02:23:24 ZS62iRhg
>>545
ごめんよぅ…
エンジュ、ばらすぃ、兎が出てくるの早くするよ。

547:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/10 19:40:33 LRMwjdAD
>>523
無駄のない文章の構成力と、話への引き込ませ方が凄いな。
所で再開された原作にも薔薇水晶って出てくるの?ここだけよく解らなかった。
オレも続き期待

548:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/11 20:27:52 yHUNEpCA
>>547
薔薇水晶はアニメだけのオリジナルドール
原作準拠で進めながら薔薇水晶を終盤で、しかも味方で登場させるなんて
この作者さん何か狙ってるぽいな
続きがあるとみたよ
期待します>>523

549:523
08/07/13 01:36:20 9p7EDpCP
拙作を読んでいただき、その上感想まで書いてくださった方々、
どうもありがとうございます。

>>547氏、>>548
薔薇水晶は>>513のメル欄に記してある通り単なるゲスト扱いで、
深い意味や何かの伏線といったつもりで書いた訳ではありませんでした。

投稿させていただいた拙作のテキストデータの容量が101KBあり、
続きを書くとすると確実に50KBをオーバーすると思われるので、
スレの残りの容量(現時点で454KBが使用済み)の関係から
今のスレへの投下は無理そうです。
何か書けそうであれば次スレに続きらしきもの、もしくは新規の話を
投稿させてもらいたいと思います。

550:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/18 21:38:51 fsG1YByY
けど、ぶっちゃけ流れに付いて行けません。
俺、空気読解力0だし。
「で?何ゆえ水銀燈はそんな真剣に?」
「そうねぇ…私が貴方と契約したくなったから…でしょうねぇ…」
「契約?ミーディアムとかの?」
「そうよぉ?その、ミーディアムとかの契約」
水銀燈はそう言った後、くすっと小さく笑った。
確か契約って跪いて指の薔薇にキスするんだっけ。
よーし、土下座でも何でもするぞー。
そう喜んでいたら水銀燈は。
「さあ、お父様…手をお出しくださいませ」
優雅に跪いて、そう言った。
…って、それ違う!違うそれ!
逆逆逆逆逆逆!!

551:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/18 21:39:55 fsG1YByY
「どこも、可笑しくないわぁ。
 私が貴方をお父様と認めたからよ…それがほんの気紛れだとしても…ね…。
 それより怪しい踊りを踊るのは止めなさぁい。これは神聖な儀式なんだから」
「いや、いきなりそんな事言われても何かその…恥ずかしいし…」
「ふふっ…貴方…いえ、私を作り上げたお父様に『可愛い』とか、
 『お前は俺の理想の少女だ』とか言われたりする方が何倍何倍も、恥ずかしかったわよぉ?
 おまけにお父様は生まれたての少女をぎゅっとずっと抱擁してくださって…。
 その上、優しく慈しむように私の全身を余す所無く愛撫してくださったんですものぉ…。
 私の髪の毛一本、ドレスの刺繍一針…私の全てはお父様のものよぉ?
 私の全てにお父様との絆が詰まっているのよぉ?」
水銀燈は挙動不審な俺に一気にそう言った後、クスリと笑って。
「さあ、お父様…手をお出しくださいませ」
もう一度、催促した。
…何この羞恥プレイ。
胃がチクチクツネツネと痛いんですが。

552:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/18 21:40:40 fsG1YByY
何もない、ただ、広いだけの空間。
最初、そんな所で水銀燈に押し倒されてたのは、覚えている。
次にあったらいいなと思ったら布団が出てきたのも、覚えている。
…なのに何故、荘厳な雰囲気と薔薇の香り漂う優雅な庭園にいるんでしょうか。
「なぁ…水銀燈…」
「どうしたのぉ?」
返ってきた満面の笑みに溜息一つ吐いて質問。
「ここ、何も無い所じゃなかった?
 後、何でそんなに性格急変したの?」
「契約と言う神聖な儀式にあのフィールドは似つかわしくないわぁ。
 それからぁ…私は元々こぉ~んな性格よぉ?」
…いぢわるなのは“地”ですか…。
「それより…契約先に終わらせなぁい?
 話が進まないからぁ」
「…そだね…話…進まないよね…」

553:「週刊ローゼンメイデン(契約)」
08/07/18 21:41:45 fsG1YByY
俺の前に跪いた水銀燈。
そして彼女に促されるまま手を差し伸べた。
彼女は俺の手を取り…。
ほんの一時、視線が合う。
水銀燈は柔らかに微笑んだ後、俺の手の甲に顔を近付け――。

光が

溢れた。

554:久保竣公@匣の中の人形
08/07/19 19:33:54 twd7itnr
コソコソ
こっちに転載するよ・・・。
誤字はゆるしてちょ

狭い


暗い


怖い



今私は箱の中にゐる。
箱の中に独りでゐる。
もう数へるのも億劫なほど時間が過ぎた。
幾年が過ぎただらうか。
此処から出たい。


555:久保竣公@匣の中の人形
08/07/19 19:34:54 twd7itnr
ふと目が覚めた。
時計の針は6時を指してゐた。
なんだ未だそんな時間か。
私はまた眠る事にした。

最近妙な夢を見た。
私は暗闇にぽつんと一人で立つてゐた。
其の向かふには白い…いや銀色の髪を生やした少女がゐた。
私は救ひを求めて少女の元へもがくが体は一向に動かない。
少女は逆を向ひて去つてゐく。
私はもがくのを止める。
なにか空虚を感じた。

私は眠れ無かつた。

556:久保竣公@匣の中の人形
08/07/19 19:35:52 twd7itnr
早起きは三文の得と云ふ。
今日は早起きして朝食を作る。
一人で住むには廣すぎる家だ。
昨日の作り置きの味噌汁を温める。

私は温まる間に新聞に目を通ほした。大正12年8月12日と日付はなつてゐた。
さふいへば夏だつたな
と独り事が出た。
季節は夏だ。元来外に出ない質の私は季節感がずれて仕舞つてゐるやうだ。

朝食を済ませて居間に向かふ。
何時もの様に書き物をする為だ。最近ネタに困つてゐる。
ふと足元に感触がある。
見てみると見慣れない箱が在つた。
体は無意識に手をのばす。まるで取り付かれたやうに。
左の手はぎうと握り拳を作つてゐる。汗がしみ出た。


557:久保竣公@匣の中の人形
08/07/19 20:20:41 MSRuuyYU
中には人形がゐた。
見るからに西洋人の顔立ちだ。
私は異人を見た事はないが明らかに日本人ではない。第一髪の毛が銀色をしてゐる。
手を伸ばす。
抱き上げる。
良く出来てゐる。
曇り一つない肌
漆黒のドレス
頭にはカチウシアを着けてゐる。鞄をもう一度みる。
中には大層豪華に装飾された螺があつた。

558:久保竣公@匣の中の人形
08/07/19 20:25:33 MSRuuyYU
手にとるがずつしり重い。
何の螺だらうか。
昔見たことがある。薇式の人形用だらう。となるとこの人形は動くのか。
螺穴を探すが見つからない。
大抵は背中に在る筈…
あつた。
小さな孔があつた。
がちあ…
刺さつた。
きり…きり…きり…
薇の音が響く。
時計の薇を巻く様に。
時計の薇を巻けば時計は息を吹き替へす。
人形も又息を吹き替へした。
顔が此方を向く。良く出来てゐる。
「やあ お人形さん」


559:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/23 02:26:41 qUtgnEwO
突然だけど英語読める人には是非紹介したかったローゼンSS
URLリンク(www.fanfiction.net)
URLリンク(www.fanfiction.net)

水銀燈なSSでかなり面白い。バトルモノ。海外二次創作サイトfanfiction.netより。
現在120個ほどローゼンSSがある

ただちよっと癖のある使われた方をしてる英単語があるので列挙すると
own = 直訳なら"所有"だが、ここでは「オリキャラ」という意味で使われているらしい。
例) I do not own rozen maidens 「このSSにオリジナルのローゼンメイデンは登場しません」

WTF,WTH = What the fuck , what the hell の略で「何ですって!?」「何なの!?」
例)Megu... You really ... WTF!? 「めぐ…あなた…どんだけぇ!」

lol = lots of laugh の略「笑」「w」 みたいな感覚

時間があったら翻訳もしてみるかもしれない

560:久保竣公@匣の中の人形
08/07/23 07:16:26 hgLxv9cv
私は人形に喋り掛けた。
別段私は人形愛者では無い。

人形は此方を向いた。
カラクリだらう。
陶器の様な肌。
さらりとした髪の毛。
美の集大成だ。
「貴方が私を目覚めさせたのかしら」
体に雷が落ちた。
人形が話したのだ。
きつと カラクリだ
きつと 蓄音機だ
きつと…
私は様々な思惑を巡らせる。
しかし其の蓄音機は間髪入れずに私に電流を流す。
「汚い部屋ね。」
確かに話してゐる。
「お前、名は。」
名前を尋ねて来た。
私は名前を答へた。
全く…人形相手に…
「不本意だけど仕方ないわね。
早くこの薔薇の指輪に誓いなさい」
さう云ふとそれ(彼女と云ふべきか)は手をさしのべて来た。
白い細い指には大層な装飾が施された指輪が填められてゐた。
無意識に体が動く。

こうして私の非日常的な受難の日々が幕を開けた。

561:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/26 11:21:55 xEYCZJB1
注意:ウルトラファイトを知ってないと全然理解出来ないネタです


ローゼンファイト!! 「早すぎた葬送曲」

翠星石と蒼星石の二人が物陰に隠れて何かやっております。

「翠星石の言う通り、挟み撃ちで一網打尽にするですよ。」
「うん。分かったよ。」

そこで現れましたはローゼンメイデン第五ドール真紅。二人が待ち構えている事も
知らず、のん気に歩いております。

「それ! 今です!」

真紅へ一気に前後から襲い掛かる翠星石と蒼星石。袋叩きであります。
さしもの真紅も一溜まりも無く倒れる。

「やった。真紅を倒したですよ。」
「それじゃあ葬式をしよう。」

真紅の葬式を始めた翠星石と蒼星石。両手を合わせ、念仏を唱え始める蒼星石ですが、
そこで翠星石が突き飛ばした。

「翠星石はクリスチャンですから十字を切るです。」
「ダメだよ。念仏を唱えて。」
「蒼星石こそ十字を切るです。」

二人は双子とは言え、それぞれ宗教観が違う様であります。双方一向に引くつもりはありません。
そして、今度は二人の殴り合いが始まってしまいました。

「姉妹で争うなんて醜いわ。」

そこで真紅が立ち上がり、二人を一網打尽。真紅の勝利であります。

562:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/28 05:42:47 PI16leAd
書き手のレベルが高すぎるうぅぅ…
これじゃ俺のSSなんて投下できない……


563:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/28 18:36:41 E87G45ex
さあはやく勇気を出して投稿するんだ

564:久保竣公@匣の中の人形
08/07/28 22:07:48 8WN/M5rS
「ああん?餡掛炒飯?」
ラヂヲから人の声がする。
「最近だらしねエな。最近だらしねエつ「。:2008/08/16(土) 14:06:59 ID:5uHzk3Re
ローゼンメイデン ハリウッドで実写映画化

ワーナーブラザースは15日、『ローゼンメイデン』の実写映画化を正式に発表した。
同作品はPEACH-PIT原作の人気漫画及びアニメ作品で、一部のファンからは熱狂的な支持を得ている。
大ヒットとなった「マトリックス」シリーズを手掛けたウォシャフスキー兄弟が、今回は何とも意表をつく作品に手を出した。
日本のアニメの大ファンで知られる彼らだが、まさかこの作品を手掛けるとは意外に感じるファンも多いのではないだろうか。
『実は2年前からこの作品にハマってしまって、自分の手で実写映画にしてみたいと思っていたんだ』
堰を切ったように、アンディ・ウォシャフスキーは興奮気味に熱く語り出した
『オタク・アニメのカテゴリに分類されて、一般受けしなさそうだという意見もたくさんあったよ。でも僕はそうは思わないんだ。
 魂を持つドール達が、愛する父に会うために悲しい運命を辿っていく、これはもう誇るべきストーリーなんだ。
 実写にすればこの作品が本来持っている素晴らしさが存分に表現できると確信しているんだ。
 だからこそ今回、周囲の反対を押し切り踏み切ったのさ。期待は絶対に裏切らない。
 哀しくて儚い、でも美しいアリスゲーム(作中でドール達が戦う行為)をお見せできると思うよ。』
物語の“主役”ともいえる“ドール”は子役にCG加工を加え人形と人間の中間のような雰囲気を出す手法を取るという。
製作の中心となるのは日本製アニメの海外配給を多数手がけてきた米国のADV Filmsで、
製作費は6億ドル、公開は再来年夏になる見通し。

【ジュンが】ローゼンメイデン実写映画化 part6【ジョセフに】
スレリンク(comicnews板)l50

565:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 20:23:54 +D+i9Rx5
yippee ki yay , mother f*cker


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