【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】 - 暇つぶし2ch150:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/14 23:00:31 j/L6kcGY
おk!
偽クソ銀の作文野郎追い出すんなら応援するぜ、そしてカナSSも書いてくれ

151:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/14 23:19:30 edWJNChU
ここに…思いの丈をぶつけてこい…

ローゼンメイデン系スレ荒らし対策本部@シベリア
スレリンク(siberia板)

152:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/14 23:27:35 70OBUHAd
結局>>150一人がこのスレから消えれば平和になるんだよなあ
>>135>>141もこいつの自演なんだし

153:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/14 23:44:42 B6lzQpte
書いてるうちに未来っぽくなったんだが流石にこれはNGか。

154:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/15 00:01:58 tX5aelXs
その後みたいな感じか?おkだろ

155:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/15 00:47:39 Z7PWp6mw
書いてるうちにいろいろと設定変わって数百年後になったがとりあえずw

ふと蒼星石は考える。
・・・あれからどれだけの年月が経ったのだろう。
最も鮮明に憶えているのは日本という国で出会った少年のことだけ。
彼は僕達に課せられた宿命や存在を変えてくれると期待したけど・・・結局何も変わらなかった。
あれからまた何度も目覚めて、眠って・・・。
こんなことを思い出すということは、再び目覚めの時が来ているのだろうか?
あれから50年?100年?どれほど長い年月が経ったのかすらわからない。
姉である翠星石を殺してしまってからはもう何もかもがどうでもよくなってきた。

瓦礫だらけのビルの一室に取り残されたひとつの鞄。蒼星石の眠る鞄である。
そこへ薄汚れた、汚い男二人が近づいてきた。
「おい、高そうな鞄があるぞ!
「中身は何だ?早く開けてみようぜ」
男の一人が鞄を開けようとするが開かない。
「硬くて開かねえ」
「レーザーで焼きってみよう」
もう一人の男が小型のレーザーカッターを取り出し、光度を丁度良いくらいに調整する。
その光を鞄の鍵の部分に当てると、金属の部分は見る見るうちに溶けていった。
「もう少しだ」
ジジジ、と鍵を切っていく。
「これでいい」
鍵は完全に壊された。
男が鞄に手を伸ばそうとした瞬間、二発の銃声がコンクリートの部屋に鳴り響いた。
二人の男は頭を撃ち抜かれ、一人は鞄の上に倒れ臓物と大量の血をぶちまけていた。
「こちらオーウェンス。クズを二人始末。サンプルケースを回収する」
人を二人殺した男は、まったく顔色を変えずに倒れた男を蹴り飛ばし、鞄を持ち去った。

156:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/15 10:23:55 tX5aelXs
また連投できない?とりあえず続き期待

157:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/15 20:16:42 0zceHhDX
サイバーなローゼンメイデンキタw

158:アイ・アム・レジェンド(謎)
08/01/16 01:32:57 qa1xfOM/
>>155
『おい・・・冗談だろ』
蒼星石は意識がほとんどない状態だった。ただ人の声だけは聞こえる。
声の持ち主は、先程自分を持ち去った男の声だ。
程なくして蒼星石は目を覚ました。
「ここは・・・」
はっきりしない意識の中で蒼星石はおぼろげに言った。
「喋るアンドロイド。実に良くできている」
男はすぐさま腰のホルダーから銃を引き抜き、蒼星石の頭に突きつけた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!それにアンドロイドって」
無表情な顔が余計に恐怖を煽る。
「自らが作られしものということすら自覚できなくなるほど、優れた人格形成。新型か」
「確かに僕は作られた存在だけど・・・」
咄嗟の出来事で戸惑いを隠せない蒼星石。そんな姿を見て、男は特に警戒すべき相手でもないと考えたのか、銃を下ろした。
「いいだろう。お前のことを話してみろ。ただし少しでも不穏な動きをすれば破壊する」
再び男から殺気立った気配を感じ取った。この感じはどうも好きになれそうもないと思った。

蒼星石はこれまでの経緯を男に話した。自分はローゼンという人形師によって創られたこと、アリスゲームという戦いのこと、そして自分の姉妹達を殺してしまったこと。
男は黙って聞いているだけだった。
「というわけなんだ。信じてもらえる確信はないけどね」
「いや、納得した。そのおとぎ話のような設定によって自己を確立させているというわけか。確かに国立図書館あたりを漁ればそれらしい話くらいは見つかる。連中は頭がいいから捏造された記憶を植えつけることも可能だろう」
「連中?」
「お前を造ったアンドロイドどもだよ」
男の話によると、世界はアンドロイドという機械による攻撃で荒廃しており、すでにほとんどの人間は死んだか地下に潜伏しているらしい。
彼はその中でもアンドロイドを駆逐することで生活の糧を獲ているハンターだという。
「アンドロイドは元々俺達が作業用として作ったものなんだ。それが今じゃこの有様さ。まったく親不孝な連中だ」
その時初めて彼は表情を、苛ついた顔に変えた。
・・・話す言葉がない。お互いによく喋る性格ではないため、時間が止まったかのような感覚に陥る。
「さっきも言ったように僕はそのアンドロイドとかいうものじゃないんだ」
なんとかこの空気を追い払おうと蒼星石は口を開いた。
「ああ、わかった。これからの会話ではそのことを前提とした上で話そう」
男から人間らしい感情のこもった言葉が出てくる。
「しばらくまともに口を聞けるヤツとは会ってなくてな。・・・ところでさっき言ってた自分の姉妹を殺したって話だが」
蒼星石の脳裏にかつて姉妹だったドール達が過ぎる。
「あれは仕方なかったんだ。馴れ合いだけじゃ何も解決しない。隙があれば命を奪う。それが宿命なんだ」
自分に言い聞かせるように言った。
「同感だな。生きるためには仲間だろうと殺す。たとえ血の繋がりがあろうと」
男は手に装着した金属の物体を取り外すと、傷ついた手の平を蒼星石の顔の前に差し出した。
「この手にはな、何百人という人間を裏切り、殺してきたやつらの血がついてるんだ。その中には家族や兄弟もいる」
言葉が出なかった。

159:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/16 09:09:29 Bx7FJqp9
世紀末か!
ケンシロウでも出てきそうだ乙

160:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/16 16:54:00 NNaSFCkP
すごくウマいな、引き込まれるぜ

161:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/16 22:31:29 VI62y1fR
また金糸雀アンチの作者か…
蒼星石とかどうでもいいっつーの

↓カナのSSよろ

162:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/16 22:40:50 r8RZVxmf
ひぐらしのなく頃に

 カナカナカナカナ・・・

163:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/17 00:37:16 BgoiJGb4
どのドールも嫌いじゃない俺から見ると、どうして自分の好きなドール以外を否定しようとするかまるで分からん。

164:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/17 00:41:19 prr/SnwN
>>163
151のスレで聞けば大体わかるがな、これが

165:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/17 02:33:58 XuWd6Ra5
>>163
いやだって161は職人叩いてこのスレ潰そうと1人で必死になってるアンチローゼンだし……
そいつの言ってる事について深く考えない方がいいよ

166:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/17 15:59:07 0cONP4cQ
金糸雀信者は他ドール信者からは考えられないような行動を平気でするからな~
こいつらはローゼンファンと思わない方がいいよ

167:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/17 17:29:41 N8YApGiv
>166
うん、アンタはファン名乗んなくていいよ

168:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/17 21:03:25 iC/nEs6G
60 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/31(月) 15:39:50 ID:Ps4hwycP
ちょっと豪華な長編SSで胃が重たいから、
次は軽めの明るい話を頼む。


61 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 02:10:56 ID:2zDZDvVW


━  強く貴方が望むなら 強く貴方が願うなら 強く貴方が想うなら  ━

━  きっと “ それ ” は貴方に答えるでしょう  ━

━  貴方の生を持って 貴方に伝える為の言葉を持って  ━





              貴方の生を頂きながら


流れを読まずにクソ作文を流し始めたこいつが全部悪い。
だから早くカナのSS書けよクソ共がっ!!!!

169:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/17 21:29:26 N8YApGiv
>>168
自分で書いてください
お待ちしております

170:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/17 22:21:38 0bq3qGMX
でもここに投下しなくていいよ
金糸雀個別にでも投下し・て・ね♪

171:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/17 22:25:44 prr/SnwN
相手すんなよ、痛い人になりきってると思ってる本当に痛い人だから

172:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/18 00:52:00 r+PmDzea
ID:iC/nEs6Gは一人で毎晩荒らしに来るあたりがまた痛いwww
こいつが自演してもすぐ分かるww

173:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/18 00:53:00 gTPiX2W5
>>158
「無口だな。俺が怖いか?」
「そうじゃないんだ。さっき僕は宿命のために大切な姉妹の命を奪ったと言ったけど、それだけが解決の道じゃないという考えもどこかにあると思ってるんだ。そう考えると苦しくなってきて」
「だがお前の答えは『裏切り』だった」
「裏切りだって?これは僕の信念に基づいた結果だ。他のドール達が甘すぎたんだ。皆平凡な毎日を過ごそうと必死で、でもそれも長くは続かないものだってわかってるくせに。内心イライラしていたんだ」
蒼星石は自業自得だよ、とでも言いたげな表情で語った。
「随分と殺気立った考え方だな」
「お互いにね」
蒼星石は思った。こんな何もない草臥れた世界でも自分と似通った人間がいるのだと。

-僕は今幾多の人々を殺していた男と会話をしている。
でもただの人殺しじゃない。青い瞳からは殺めたことによる後悔や罪の意識が感じ取れる。そういう目だった。
それはどこか遠くを見ているような気がして、とてももの悲しげだった。
蒼星石は思う、この男もまた、自分と同じように心に深い傷を負った人間なんだと。

「ねえ、ところでさっき話したように、僕はマスターを探しているんだ。良ければ君に…」
「冗談はよせよ。今の状態でも十分危険なんだ。その上で得体の知れないヤツらの抗争に加担するなんてヤバすぎる」
「そう、無理強いはしない」
「この世界のことが理解できたら、それどころじゃないってこともわかるさ」
男は立ち上がって、遥か遠くの方を眺めた。
「どうしたの?」
「来るぞ」
「来るって?」
「アンドイドどもだ!」
そう言うと男は窓から飛び降りた。
「死にたくなければついて来い!」
蒼星石は一瞬戸惑ったが、すぐに意を決して窓から飛び降りた。
「うわ!」
落とし穴にはまったかのようにとてつもなく高いビルから落下していく。
このままでは男は地面に叩きつけられて死んでしまう。
そんなことを考えていると、先程男が眺めていた方角から轟音とともに建物が崩壊していくのが見えた。
一体あれはなんなんだろう?
そして目を下に向けたとき、すぐ目の前には地面があった。
「レンピカ!」
咄嗟に人工精霊の名を呼ぶと、蒼星石は何事もなかったかのように地面に着陸する。
「彼は?」
「ここだ」
「あの高さから落ちて無事だったの?」
男は青く光る靴を鳴らした。
「衝撃吸収ブーツだ」
「へえ、そんなすごいものがあるんだ!」
蒼星石はなんだか好奇心が沸いてくる気がした。
「話している暇はない急ぐぞ!」
「わかったよ」
瓦礫の街の中を軽快に駆け抜ける男。
間違いなく危険な状況だが、蒼星石はそんなに焦りは感じなかった。
大昔に人間や姉妹達と遊びまわった時のような感覚。何かとても充実した気分に満ち溢れていた。

174:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 03:10:02 G0FMlmAv
水銀灯が目覚めてから、男の日々は今までになく充実していった。

親とも連絡を取る事も無く、友人らしい友人もいなかった男にとって、
水銀灯と言う命を持った少女人形が、掛け替えの無い存在になったのは言うまでも無く、
水銀灯の方も、自分を目覚めさせてくれた男を父親だと感じて大層慕っている日々だった。
また、男の手ほどきで料理なども覚え、
小さな身体で甲斐甲斐しく嬉しそうに料理を作っては、男に振舞うまでになっていった。
男もどうにか警備の仕事にありつき、以前より安定はしないものの、何とか暮らしは成り立っていた。

朝。男はいつもの様に目覚め、上半身を起こして軽くベッドで伸びをする。
中々爽快な目覚めだと男が思うと同時に、すぐその鼻にご飯の焚ける甘い匂いと、
味噌汁の香ばしい香りがもぐりこんで来る。水銀灯が作ってくれている朝ごはんだ。
流しの方に目をやると、小さな椅子を台にして炊事をしてくれている水銀灯の姿と、
美味しそうな匂いを醸し出している味噌汁の鍋が見える。


( おはようございます お父様 起きられましたか )


男が起きた事を感じ、にっこりと振り向く水銀灯。
その美しいドレスには不恰好としか言いようが無い、小さな白い割烹着のような服を上から着込んでいる。
水銀灯のドレスを汚さないようにと、どうにかこうにか男がこしらえた物らしい。
美しい銀が揺らめく長い白髪も、綺麗に纏め上げられている。
まるで昭和の時代に見られた、食事を作る地方家庭の母親の様な水銀灯の姿に、
男は毎朝えもいわれぬ嬉しさと懐かしさと温かさを感じていた。

「ああ。おはよう水銀灯・・・悪いな、いつもいつも・・・」
( それは 言わない約束ですよ )

「ははは 毎朝この会話から始まるな」
( でも わたし楽しいです こういう朝のごあいさつ )

男は苦笑しながら顔を洗ってくると水銀灯に言い、洗面所に向かう。
水銀灯は( はい )と笑顔で答えながら、小さな折り畳みテーブルに
よいしょよいしょと朝食を運んで行く。
男はその姿をチラチラ見ながら、この上ない幸せを感じつつ顔を洗った。

「それじゃあ、いただきます」
( はい いただきます )

熱々のじゃがいもと玉ねぎの味噌汁に、かりっと焼けた たこさんウィンナーと市販の漬物。
そしてふっくらと炊き上がった山盛りのご飯。男と水銀灯は手を合わせて朝食を口に運ぶ。
ふかふかのご飯の甘さと、絶妙な味加減の味噌汁が、男の胃と脳を一気に活性させていく。

「ズズッ・・・っ くあー・・・美味い、美味いなぁ!ほんとに美味い!」
( うふふ お父様 毎朝ちいさな男の子みたいですよ )

「そうは言ってもなぁ、本当に美味いんだから。でも、よく短期間でこんな味が出せるようになったなぁ」
( お父様のお教えが お役に立ってますから )

嬉しそうに微笑みながらそう言う水銀灯に、一人の時には絶対に感じ得なかった
安堵や幸せ、大事な者を庇護したいと言った感情と愛情が、男に湧き上がってくる。
この感情はあの日からずっと耐える事無く、男に生きる源のようなものを与え続けていた。

175:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 03:11:50 G0FMlmAv
今日もその幸せを感じつつ、男は水銀灯にこう話す。

「今日の現場な、 モグモグ ちょっと・・・ズズ・・・遠いんだ」
( 食べながらのお話は おぎょうぎが悪いです お父様 )

「んグッ・・・モグモグ・・・ す、すまん。でな、今日は結構距離のある所での誘導なんだ」
( はい )

「それで帰りが結構遅くなると思うんだ。晩飯は買って帰るけど、その・・・暗くなるから」
( はい わかっています  わたし 暗いのへいきですから 気になさらないで下さい )

「すまんな、留守で誰も居ないはずの部屋に、明かりが点き出すと不振がられるから・・・」
( ごめんなさい 一度しっぱいしちゃいまして・・・ )

「ああ!いやいや、幸い両隣は今も空き室だから、そんなに気にするな。 な、水銀灯?」
( はい・・・ じゃあ暗くなるまでは ご本を読んでいてもいいんですよね? )

「そうしてくれるとありがたい。TVとかはカバー被せてイヤホンでなら、見てもだいじょうぶだから」
( わかりました )

どうと言うこと無い出社前の会話だったが、
水銀灯を迂闊に人目にさらす危険を避ける為に、毎朝確認する事でもあった。
その後は他愛も無く和気藹々とした会話で朝食が済み、男は出社の用意を、水銀灯は洗い物を始めた。
やがて水銀灯は洗い物を終え割烹着を脱ぎ、纏め上げた髪を下ろして、男を見送る準備をする。
身支度を終えた男は、ドア口で靴を履きながら水銀灯の方を振り返った。
その愛らしく美しい笑顔に、銀がきらめく白い長髪。そして水銀灯を纏うゴシック調のドレスとブーツ。
そのドレスとブーツの滑らかなほどに鮮やかだった白色が、日を追うごとに黒くなっているのを男は申し訳なく思った。
あの店主の、水銀灯が目覚めれば手入れは不要と言った事を鵜呑みにした自分を恥じながら、水銀灯を見つめる。
自分を見上げて、にこっと笑顔を返してくれる水銀灯に父性愛をくすぐられながらも、男は申し訳なさそうに口を開く。


176:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 03:12:39 G0FMlmAv
「じゃあ、行って来るよ。近い内にそのドレス、ちゃんと洗ってやるからもう少しだけ、我慢してくれな」
( お気になさらないでください お父様  なんだかこの服 じぶんで黒くなってゆくんですから )

「いやいや・・・それが汚れというんだよ水銀灯」
(   ?   )

きょとんと首をかしげる水銀灯と苦笑する男。
自分の言っている事と水銀灯の言っている事にはどこかズレはあるが、それもまた会話の味と言うものだ。
男はそう思うことにした。途端にめまいがする。

( ! お お父様! )
「ん・・・んん、大丈夫、いつもの事だよ。もう気にしなくていいから、後はゆっくりしてなさい」

( ・・・でも・・・ )
「さ、もう行かなくちゃ。そうそう、本は新しいの図書館で借りてきてるから、続きが読めるぞ」

( ・・・はい・・・  じゃあ 気をつけて行ってきてくださいね )
「ん。行ってきます!なるべく早く帰ってくるから、留守番宜しくな」


( はい! お父様 )


男は微笑んで、水銀灯に小さく手を振りながらドアを閉めた。
ドアの内側には、水銀灯の少し寂しそうな顔だけが残っている。



やがて男の足音が聞こえなくなると、水銀灯は少し背伸びをしてそっと・・・ドアの鍵を掛けた。



177:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 03:15:30 G0FMlmAv
アンカー打てばよかった…
>>173さん、割り込みしてしまい申し訳ないです。

178:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 10:50:46 kXJaEPo2
二人とも乙!

179:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 17:07:03 d0R3vhfi
糞銀燈や糞星石のSSはつまらない

180:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 18:10:01 hjUKsJMd
>>174->>176
続きが気になるなぁ・・・。個人的な予測だが折り返し点が近い気がしたw
乙です

181:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 19:32:39 BwGGBKRc
ふふ、なんという素晴らしいもの出してきやがる・・・
しかし途中どうしてもこれがよぎった

               。    _|\ _
            。 O   / 。  u `ー、___
          ゚  。 \ヽ / u ⌒'ヽ゛  u /   ゚
          -  ・。 / ; ゚(●)  u⌒ヽ i   @ 。
        ,  ゚ 0 ─ { U u r-(、_, )(●) .| / 。  ,'´ ̄ ̄`',
         ゚ ,,、,r-'⌒l u //トェェェ、 ) 。゚ / o    ,! ハ ハ !
      。 ゚ r-'⌒`ー-'´ヾ,. ir- r 、//u / 。 ・゚  l フ ム l
        ヾヽ、_,,,、-、/ミ,ヽヽ/ ノ_, -イ-、\   ∠  ハ ッ j
          ー = ^~、 ̄r'´ ̄`''jヽ、  〃ヾ ゚ 。 ヽ フ   /
 jヽjvi、人ノl__     / /  ヽ´{ミ,_   ̄`'''-ヽヾ    ` ̄ ̄
 )   ハ   7      /  / `'='´l  ̄i'-、_,,ン ノ 。
 )   フ    て   /  /   !。 l  l  - ニ
 7   ッ    (  __ヽ、__l ___ .!。 l__l__,-=-,___
  )   !!     ( ,-=-, ∠ヾゞゝヽ ,-≡-,l  l-=二=-,
  ^⌒~^⌒^~⌒^└==┘   ̄ ̄ ̄ ヽ==ノヽ=ノ\__/


182:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 19:36:51 wpcooCqi
>>173の続きまだー?

183:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/19 23:33:44 r1iWVjbq
>>179
同意。カナのSSの方が面白い

184:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 00:02:43 L0HVGbQI
>>183自演乙

185:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 00:10:41 aucMtYa9
自演荒らしの相手なんざしなさんな
せっかく投下もあったってのに

186:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 00:57:54 p/DoHqHy
いつもの事とは言え、やっぱり少し退屈。

水銀灯は男が仕事に出かけてから少しの間だけ、そう思っていた。
だけどこれから楽しい家事が出来る。男の為に、自分の父親の為にしておいてあげられる事が出来る。
男がやらなくてもいいよといっていた洗濯物。しかし水銀灯は洗いたくて仕方が無かった。
普段はコインランドリーを使用する男が、念のためにと買っておいた洗濯板と大きな洗面器。
いや、洗面器ではなく、むしろタライと言った方がいいだろうか。
水銀灯はそれで洗濯物を洗い始めた。洗い方は男がやっていたのを見ていたので覚えている。
小さな手で こしこし こしこし と一生懸命洗う。洗剤をつけて こしこし こしこし と一生懸命洗う。

( お父様の しゃつ・・・ おおきい・・・ )
( お父様の おしごとの服 おおきい・・・ )
( お父様の くつした・・・ おおきい・・・ )
( お父様の したぎ・・・ ・・・ ・・・おおきい・・・ )

それぞれを洗いながらクスクスと楽しそうに小さく笑う水銀灯。
さすがに脱水は出来ないので、そのまま漬けおき洗いにしておく。これも男がやっていた事だ。
気がつくと水銀灯のドレスと顔は、泡まみれの水びたしになっている始末。

( びしょびしょ・・・ お父様もいないから あれ 使おうかしら )

水銀灯はそう思い、左手を上に挙げて人差し指を立てながら目を瞑る。
するとうっすらとした光が水銀灯の身体を纏い、ドレスや顔についた水と泡を消していく。
まるで水銀灯が頬を濡らす前のように、水銀灯がドレスを濡らす前のように、消えていく。
何も無かったように水銀灯の顔とドレスが、水と泡に塗れる(まみれる)前の状態にもどっていった。
何故水銀灯がこういう事を出来るのか当の水銀灯にも解らず、
いつの間にか出来るようになっていた、としか本人にも言いようが無かった。
何度か、割れた食器や濡れた衣服を男の前で元に戻して見せた事があったが、
それを見ていた男が度々苦しみだしたので、これは男が、父親がいる時に使ってはいけないものなのだと
無意識的に悟り、それ以来使わない様にと自分に言い聞かせていた事だったが、
今は男は仕事で居ないので、水銀灯はちょっとだけ使ってしまったのだった。

( きれいになった・・・ )

水銀灯は満足そうに頷き、洗濯物を漬けおきにして男が借りてきてくれた本を読み始める。
挿絵の入った童話が水銀灯のお気に入りで、それを色々と読んでいった。
中でも水銀灯が気に入ったのは「不思議の国のアリス」で、夢中になって読んでいた。

やがて安アパートのガラス窓に入る日差しの角度と量が変化し、昼の光が夕の赤みを含みだす。
視界に入る光の色が変化を帯びた事にようやく気付き、水銀灯は、ふっと顔を上げた。
夕方だ。ちょっと寂しい色。もうすぐしたらお父様が帰ってくる時間。
いつもなら。
でも今日は遅いと言っていた。本当なら夕飯を作ってあげて待っていたいけれど、誰かに見られたりするといけない。
だから大人しく待って差し上げるのが今の自分に出来る大事な事。
この空の灯りが続く間、本を読みながら、お父様が帰ってくるのを待とう。
水銀灯はそう思いながら、窓越しに夕の空を見上げた顔を下げ、また本を読む事にした。


187:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 00:59:22 p/DoHqHy
 ・
 ・
 ・

( ・・・ ・・・ お父様 )

窓の外。

既に夕の赤が描いた世界の公演は幕を引かれ、変わって夜の濃紺と星の瞬きと言う新たな舞台へと、空は変化していた。
直視する事の叶わなかった、太陽と言う光に代わり、その姿を面々と直視する事が出来る月の光が、
水銀灯の薄く美しい色合いで作られた赤紫のグラスアイに、灯(ともしび)をともす様に反射する。
あれから更に時間は流れていたが、未だに男は帰っていなかった。
水銀灯の不安そうな呟きが、明かりと人気(ひとけ)の無い部屋に零れ落ちる。
お父様はどうしたんだろう・・・。ご連絡をしていただけないほど忙しいのだろうか・・・。
直接床においてある、型の古い電話機に目をやる水銀灯。
それが何なのか、どういう物なのか、どう使うのかは男・・・父親から教えてもらっていた。

遅くなる時はそれで連絡をくれていた。3度音が鳴って切れた後、もう一度鳴るのがお父様からのご連絡の証し。

( お父様・・・ もう まよなか です・・・ どうされているんですか お父様・・・ )

不安が募ってくる。
自分を包んでくれる温かくて大きな存在である、子供の様な一面を持つ優しい父親。それが今は影も形も見えない。


プルルルル! プルルルル!


電話だ!
水銀灯の心に光の花が開く。しかしここで取ってはいけない。そういう約束だ、男との・・・父親との約束だ。


プルルルル!


ここで一度切れるはず。水銀灯は待った。


プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!
プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!


切れない?!どうして?!お父様じゃないの?!
だれ?!わたしはしらない!わたしは取れない!お父様とちがうと取っちゃいけないんだもの!


プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!
プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!


別の意味で水銀灯の不安が見る見るうちに膨れ上がってくる。
こんな夜中に電話なんか一度もかかってきた事など無かったからだ。
しかもこの電話は男からでは、父親からではない。明らかに知らない者からだ。
でも、もしも、もしも・・・男からだったら、父親からだったらどうしよう。
水銀灯の心は葛藤を続けていた。そんな水銀灯を誘うように電話の音はいまだ続いている。


188:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:07:31 p/DoHqHy
プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プッ・・・


189:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:08:42 p/DoHqHy
5分ほど鳴っていただろうか。
水銀灯が意を決して恐る恐る受話器を取ろうと手を掛けようとした時、急にそれまで鳴っていた音が消えた。
あ・・・ と水銀灯が思うと同時に、月の灯りに照らされた窓の外に奇妙な影が入り込み、
そのシルエットが水銀灯を覆い隠そうとしてきた。そして再び電話が鳴り響く。先程よりも大きく。

プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!
プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!


( ひっ!? )


人ではない水銀灯が恐怖を感じる。
拙いながらも人と同じ感情が育ち、人として愛されてきただけに、それはもはや当然の心理だった。

ブツッ!

その恐怖を膨れ上がらすかのように、受話器も取っていないのに電話が勝手に喋り出す。


…ヒトヲマタセルノハ アマリヨロシクナイ…  ソウオシエラレマセンデシタカ… アナタノダイスキナ オトウサマニ… クククク… ブツッ!


奇怪な声が途切れる。同時に ゴッ… という音が水銀灯の後ろから聞こえた。
あの影が黒さを増しながら窓ガラスを抜けてくる。物理的に遮断された空間を無視して “ ヌメリ ” と入り込んでくる。

( なに・・・ これ・・・ )

それを水銀灯は怯えながらもただ見据える事しか出来なかった。
見据える事でしかこの恐怖に対抗する術が無かったからだった。
黒いそれは、ガラス窓の上部に上体を下に反らすようにして “ ズルン ” と入り込んできた。
いや、“半分”だけ入ってきたと言えばいいだろうか。
そして顔らしき部分に赤い二つの光が、縦を裂くように細長く光り始め、
頭らしき部分からは二つの細長い影が更に伸びだすと同時に、怯えて動けない水銀灯の意識に直接声が響いた。

((燭台は同なれど、ともる明かりは異に等しき。永久(とこしえ)には到底及ばぬとは言え、見事なものです))

喋った?!目の前の何かがわたしの心に直接話しかけてきた?!
わたしがお父様に話しかける手立てと同じ事をしてきた?!
自分が全く経験した事もない未知の何かが目の前に現れて、自分と同じ能力で自分の心に入り込んでくる。
水銀灯は混乱した。

((異形の奇である己が人である為の演者を続けても私には無意味。怖さなどお前には無の心理でしょう?))


190:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:09:37 p/DoHqHy
逆さ状態の影が水銀灯の心にそう喋る。
この得体の知れない何かが何をしたいのか分からないが、自分に危害を加えるつもりは無いらしい。
そう思うと恐怖心は薄れ始める。しかしこの影の言った意味は判らない。

( あ・・・あなたは・・・ なにですか? どうして・・・ここにきたのですか? )
((ふむ。器は完全に形成されていますか・・・宜しい))
( こ 答えてください! )
((お前をその身体に呼び、器を形成させた者はもうすぐ死ぬでしょう・・・))
( !? ど どういう意味ですか?! )
((お前は何故そうしていられると思うのです。何故・・・お前が意思を持ち、その身体で動く事が出来ると思うのですか))
( 何を  言っているんですか?・・・わからないことは言わないで下さい )
((万物はすべからくその命を他に寄生する事で、他の命を奪う事で成り立っているのです))
( わたしには わからないです それにそんなことを聞きたいのではありません )
((笑止な事を。では砕いて教えてあげましょう。お前はあの者の命を吸い取る事で、今を生きてきたのです))
( ?! わ・・・わたしが お父様のいのちを 吸う?! そ そんな事などしていません! )
((信ずる信じずに関わらず、お前がこうして己の意思を持ち、動き、伝える事が出来るのが全ての証))
( ・・・い いったい何が言いたいのかわかりません! )
((お前は命を吸い続けました。男の命を糧にして。契約の指輪すら形成できない贋作の、抑制無き吸引で))
( わた・・・わたしは 何も知りません! それに わたしはお父様を愛していますから そんな事はしません! )
((では問いましょう。何故“ 時 ”を巻いたのです。指輪無き吸引は無作為の命吸。それを何度繰り返しました))
( とき? ときなんて知りません!わたしはお父様に何もしていません!どうしてそんないじわるを言うのですか? )
((幼きは残酷な罪の証。お前は昼間、自分の身体に何をしましたか。思い出しなさい))
( ひ ひる ま ? ・・・!? あ あれは・・・お お父様がいないから ・・・だから )
((存在の可視、不視は関係有りません。“ 時 ”を巻く事は、命の吸引を急速に増長する要因なのですよ))
( わた わたしはそんなこと  し  知らなかったんですもの! )
((お前は今知りました。生きて動けるこの事実を今知りました。それは偽り無き真実にして、今ここで発生し続ける現実))
( わ・・・ わたしが・・・ おとう さまの・・・いのちを吸って  生きてきた・・・ )
((お前が昼間“ 時 ”を巻いた事で、あの男は事故に遭いました))
( じ?! じこ!? )
((誘導の最中に飲酒をした者の暴走車に轢かれ、瀕死の状態になっています))
( ど どうして!? そ そんなのうそです!!! )
((逃げる時間はありました・・・しかし・・・“ 時 ”は男を弱らせ、暴走車を避ける事すらさせ得なかったのです・・・))


( あ   あああ・・・  そ  そん な・・・ )



((贋作であれ、真作であれ・・・時の流れは平行にして非ず。
  繋がりの環を望むも永久に遠き、成就無に等しく、都合届かぬメビウスの環になる表裏にしか成らず・・・))



191:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:11:58 p/DoHqHy
188だけああいう風に区切らないと後がうp出来ませんでした。すいません。

192:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:18:07 J8f27UfT
だから糞銀燈のSSつまらんっつーの
もう投下すんな

193:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:24:12 jcJX9Tom
>>173
「やけに楽しそうな顔だな」
「昔を思い出しちゃってね」
「スリル大好き大いに結構。だが今はマジで危険だ。スピードを上げるぞ」
男の全身が薄っすらと赤く光ると、今までの倍の速度で走り出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
不規則に積み上げられた瓦礫が蒼星石を邪魔する。対照的に軽快に瓦礫をジャンプで飛び越えていく男。
「これじゃ置いていかれてしまう!邪魔だ!」
蒼星石は鋏を出現させると、衝撃波で瓦礫の山を吹き飛ばした。スクラップや建造物の一角が飛び散る。
走りながら男が後ろを振り返ると、瓦礫が次々と吹き飛ばされていくのが見えた。
「なんてヤツだ!あんなエネルギーギアを内蔵しているとは!」
次の瞬間には蒼星石は男のすぐ横を走っていた。
「やっと追いついた」
「そこのビル!」
落ち着く暇もなく男は正面のビルを指差し、人間とは思えないほどの跳躍力で飛び込んだ。
蒼星石も後に続く。
「なにしてる!こっちだ!」
瓦礫の中の小さな隙間に潜り込む男。
慌てて蒼星石が中に飛び込む。
「君はあいつらを倒すのが専門じゃなかったの?」
「君というのはよせ。ラスティだ」
男が自ら名を語るとは思わなかった。
「それじゃラスティ。なぜ戦わないの?」
「時と場合ってのがある。今はその『時』じゃない。アレが通り過ぎてからだ」
「アレ?」
「見ていろ。面白いものが見れる」
ビルが微かに振動し始める。やがて地震のように振動し始めた。
「来るぞ!」
「な、何なのあれ・・・」
二人の目の前には全長五十メートルほどの高さのロボットが立っていた。
四本足と青いカメラアイが不気味に光る。
「まるで蜘蛛だ」
「生物捕獲用装甲体『スパイダー』だ。アンドロイドどもが狩りのために造った悪趣味なデカブツだ」
「狩りって・・・人間を!」
「まあ見てろ」
四つの足に支えらた中心部から数本のケーブルが伸びてきた。
それらは瓦礫を弾き飛ばした。そこには外れなく、人間が隠れていた。
ケーブルの先からクローアームのようなものが出てきた。
それは怯える人間に迫ろうとしている。
「あの人、殺される!助けないと!」
蒼星石が飛び出そうとすると、ラスティは肩を引っ張って引き止めた。
「馬鹿言うな。俺が殺される。『時』を待て」
「そんな!目の前で人間が殺されようとしているんだよ!」
「もう遅い」
蒼星石が人間の方を振り返ると、人間は頭をクローで粉砕され、脳が飛び出していた。そこにケーブルからさらに小さなケーブルが出てくると、一気に人間の脳に向けて突き刺した。
「ひどい・・・なんであんなことを」
不機嫌そうな顔をする青星石。ラスティも良い顔をしなかった。
「いつ見ても気分がいいもんじゃない」
ラスティは地面の方を向いたまま目を瞑った。

194:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:29:31 8JCnD0qW
なんというコンボ・・・お二方gj過ぎる・・・

195:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:31:02 aucMtYa9
二人とも乙であります

196:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:35:21 jcJX9Tom
なんか独自のSFワールド展開しちゃってすいません。
最終的に人情ものに縮めるつもりなんで。

197:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:36:59 5veWRCUw
>>192
禿同!!!もっもっとノイローゼになって自殺するくらいにののしってやれーーー!!!
ほんとマジでニセ銀作文書きは新打法がいいよ?

198:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 01:37:46 8JCnD0qW
チジメルなんてもったいないぜ!

199:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 12:51:29 I7TabeKT
>>191>>193
乙なんだぜ!
続きがwktk!

200:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 16:48:44 rH6CLoKM
>>191
分かっていたとはいえこの展開はきつい、これからどうなるんだろう
男はこのまま死ぬのか、水銀灯が吸ってきた命を戻すのか(出来るかは知らんけど)、それとも両方とも…
あと兎、死ね

201:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 23:07:04 I7TabeKT
いやもう俺は贋作だろうが銀様と一緒に暮らせるならば死んでも悔いはない

202:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 23:17:01 wHzeMJdo
水銀灯の心は砕け散ってしまいそうになっていた。
自分がこの世に生を受けた事で、自分が目覚めた事で、自分の父親である男の命を削り続けていた事実に。
その父親である男が今、自分の存在がきっかけで、自分の力がきっかけで、確実な死を迎えようとしている。

((やがてお前の意識もその身体から剥離し、消滅、人で言うなれば死を迎えるでしょう))

呆然となってうなだれていた水銀灯に、影が追い討ちをかける様に話す。
うなだれていた水銀灯の顔が、錆びたゼンマイのようにぎこちなく回り影を見る。
影を見る美しいガラスの瞳は、今まで男から頂いていた生気の宿り火を失いかけていた。

(  し・・・ ぬ・・・ )

水銀灯のその声は、もはや先ほどまでの透き通る美しいイメージは無く、壊れたトーキングドールの様な濁った声になっていた。

((そう。誰にも変え得る事が叶わぬ終着の場、お前と男の舞台は、閉幕を迎えます))
( わた しが  めざめてしまった から・・・すべては  わたし の せいな のです か? )
((男が望み、お前と言う意識を呼び、お前が目覚め、男と共にこの今を生きてきた、それは誰の罪でも有りません))
( それ な のに  それなの に  わたし は   どうして・・・ )
((男の命を削り続けたのが罪だと感じるのであれば、それは正解では有りません))
( な ぜ ? )
((お前は壊れかけた男の心を救い、癒し、生きる力を与えました。それは抗えぬ死への運命とは異なる、希望の力))
( わたし が  お父様 を  ? )
((お前も感じてきた筈です。男の愛情と抱擁の温かさを。お前が男を癒し、愛を芽生えさせたからこそ、得られたお前への愛を))

男の愛情と抱擁の温かさ。
影のその言葉に、目覚めてから今までの、男との楽しい日々や想いが、水銀灯の心に幻灯の様に映し出される。


わたしが初めて目覚めた時に、涙ぐんで強く温かく抱きしめてくれたお父様。
わたしの膝枕で、子供の様に安らかな寝顔を見せてくれたお父様。
わたしの手を取って歩く練習をさせてくれたお父様。
わたしが初めてお風呂に入った時に、優しくお湯を掛けてくれたお父様。
わたしの身体を優しく、そっと丁寧に洗ってくれたお父様。
わたしに大きなシャツを優しく着せてくれたお父様。
わたしに読み書きや挨拶を教えてくれたお父様。
わたしに色々な本を読んで聞かせてくれたお父様。
わたしに料理の仕方や掃除の仕方を教えてくれたお父様。
わたしを色々な所に人目を忍びながら連れて行ってくれたお父様。
わたしに人々の暮らしの色々な事を教えてくれたお父様。
わたしとテレビを見て涙を流していたお父様。
わたしとニュースを見て怒っていたお父様。
わたしにおどけて見せて、わたしを笑わせてくれたお父様。
わたしのちょっとした事に感動して、涙ぐんでくれたお父様。


203:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 23:21:02 wHzeMJdo
わたしと過ごしてくださった全ての日々に、笑顔と温かい抱擁が満ちていた。
わたしがずっとわたしでいられたのは、お父様がわたしを導いて、目覚めさせてくださったから。

わたしを人として見て下さって、妻として、恋人として、そして・・・お父様の最愛の娘として接して下さった想い。
その全てが、わたしが、わたしとして、今まで活動して来られた・・・生きて来られた証し。

楽しかった・・・ 嬉しかった・・・ ずっとこの時間が続くと・・・ ずっとそう信じていた・・・
それなのに・・・ それなのに・・・ わたしの為に・・・ わたしのせいで・・・
わたしの大好きな・・・ わたしの愛してやまないお父様が・・・ いなくなってしまう・・・



( お  おとう さま・・・  おとう さま・・・ )



胸に湧き上がる切なさと、失いたくない記憶、想い。
失いたくない、大きな、大きな、父親と言う、掛け替えの無い愛。
光が消えかけた水銀灯のグラスアイに雫の潤いが満ち、それが涙となって、水銀灯の頬を伝った。

( おとうさま・・・ おとうさま・・・ )

水銀灯の華奢な両腕がキシキシと力なく動き、小さな白い掌が自身の顔を覆う。
影はその様子を沈黙を持って見ていたが、やがて静かに、水銀灯の心にはっきりと問いかけてきた。

((男はもう死ぬでしょう。それは免れぬ黄泉への出立。しかし・・・お前はまだ動けるのです。・・・お前はどうしたいのです))

その言葉に水銀灯の顔を覆っていた掌が降ろされる。
憔悴の表情と濡れたグラスアイがあまりにも痛々しかった。

((もう一度だけ尋ねましょう。お前はどうしたいのです))

心に響いてくる影の声に水銀灯は反応しなかった。
しかし光を失いかけたグラスアイだけは、その影をしっかりと見据えている。
影は、涙で濡れた水銀灯のグラスアイに灯っていた光が、
先程より僅かに色を変えているのを確認し、それを返答だと読み取った。

((・・・自ら吸引を・・・男からの供給を絶ちましたか。成る程、その手立てをよく見つけられたものです))
( ・・・・・・ )

((では、願いなさい。強く、何よりもお前の愛しい者の為に、願うのです))
( ・・・つヨ く・・・ )

((その纏いの白が、お前に滞留している少なき命を燃して煤(すす)となり、お前の願いを光に変えるでしょう))
( ね ガう・・・  おとうさ マ・・・  お と・・・さマ )

((今まで男の安否を願う度、纏いはそれを受け煤となしてきた、その願いを今、容に変えるのです))
( お とウ さま・・・   お父様!! )


204:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 23:24:00 wHzeMJdo
言葉すら構築する事が困難になり始めた水銀灯が全ての想いで願う。
それは男の元へ、自らの身体を、意思を、父親の元へと羽ばたかせる事。
水銀灯は願う。ただ願う。傾きかけた身体を祈りの姿に変えて、ただ願う。
やがて水銀灯の背に柔らかい、しかし確かな光が宿り始め、容を成してゆく。
それと共に、黒の滲みが、鮮やかさを残していた白きドレスとブーツを覆い尽くし始め、
そして鮮やかだった水銀灯の白髪からも白を奪い始め、内に眠る銀を露にし始めた。
その白を吸い取りながら、水銀灯の背に、光を纏った容が広がり始めた。

それは、光の翼。

水銀灯の願いが、想いが容となり、その背に鮮やかに光を放つ翼を創り上げていた。
“ バサリ ” と翼が羽ばたき、祈りの姿で座る水銀灯の身体をギギギと立ち上げさせる。
その光は影だった者の姿から黒を奪い、その姿を、本来の姿を露にさせてゆく。
そして影は掻き消され、替わって、光の中に立ち上がり、タキシードを着込みシルクハットを被る、兎の顔を持つ者を出現させていた。

((偽りの纏は、清き願いの光の中では愚に等しかったようで・・・))

その姿が水銀灯のグラスアイに写りこむ。
水銀灯はその姿をどこかで見た記憶がある。
そう。まるであの本に出てくる、不思議の国のアリスに出てくる、ウサギの様だと。

( あ・・・ アリ すの  ・・・ヒ ト )

((逆十字(リバースクロス)が黒を退け、白に染まりし今こそ・・・お行きなさい、偽りの燈(ともしび)、あの男のアリス・・・水銀灯))

兎の顔を持つ者はそう恭しく(うやうやしく)言い、
ダンスを求める礼の様にシルクハットを脱ぎつつ、水銀灯にうなだれながらガラス窓を掌で指し示す。
その掌の求めにガラス窓は消え、濃紺な色の夜空と月が水銀灯を出迎えた。

水銀灯は、目覚めたあの時の様なぎこちない動きで二歩三歩と窓辺に足を運び、
そしてその身体を月の夜空に飛翔させていった。
やがて水銀灯の姿が見えなくなると、兎の顔を持つ者も虚空へとその姿を掻き消してしまう。
意図を解さぬ言葉を残して。



     二つの光 交わりて 紅の結晶を創り給わんとす
     幾年月 真作生まれし度 業に塗れ

     人を模し物を創りし度 寄代を求め
     二つの光 紅の結晶に創り変えん

     ただ それだけの業を願うが為に
     魂の光が 真の燈の呼び水となりて



     『 罪深きは   ローゼンなり 』




205:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 23:29:32 wHzeMJdo
あと1/3ぐらいです。展開がナニでアレですが、どうか多めに・・・

206:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 23:35:51 8JCnD0qW
あれ、目から液体が・・・

207:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/20 23:59:55 I7TabeKT
投下連日のGJです!

208:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 00:01:19 MhLEZ9IY
ああ…なんか変な言葉でレスしちまったorz

209:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 01:33:55 YGjcAVEN
さっさと終わらせろよ糞銀燈の糞SSなんか

210:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 12:44:30 61hqxqaj
乙です
水銀灯の純情さに(ノд`)
「紅の水晶」に別のドールたちの気配を感じたが、さてこれからどうなるのだろう

211:ロックマンJUM
08/01/21 21:40:58 /zu9eoHw
何か荒れてるなぁ


このタイミングで投下しても大丈夫かな?

212:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 22:39:50 YehQ3Lnt
荒れてるのはいつものあの件、誰が何投下しても同じ事しか言わない人
投下はばっち来い!

213:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 22:58:44 wPpl9o0G
209が一人で荒らしてるだけ
投下は誰でも大歓迎さ

214:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 23:23:56 TOMLt5zW
濃紺の月夜に薄い光の粒子が、細く儚い帯をなして糸の様な線を描いてゆく。

水銀灯は飛んだ。愛しい父親の元へ。
どこに居るのかなんて判らない。どこに行けば父親を見つけられるのかなんて判らない。
だけど解る。はっきりと解る。
心が、自分と言う魂が、自分をこの身体に呼び寄せてくれた父親の心を、魂を求めている。


会いたい 逢いたい ごめんなさい わたしの為に わたしのせいで
こんなわたしを呼んでくださって こんなわたしを目覚めさせてくださって こんなわたしを愛してくださって
でも嬉しかった 本当に嬉しかった 今まで育ててくださって 今まで愛でてくださって
逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい

わたしの・・・ わたしの愛してやまない・・・ ただ一人のお父様!


水銀灯の懺悔と後悔、愛された想いと愛する想いに呼応するように、光の翼は水銀灯の身体を男の元へと導いていく。
光の帯が夜空に軌跡を残すにつれ、水銀灯の白い身体も少しづつくすみ、ピシピシと小さな亀裂を作り始めていた。
そして翼の光が強くなり、更なる速みを増しながら水銀灯の身体を男の元へと導く。


 ・
 ・
 ・


有栖川と言う珍しい名を持つ大学病院の
集中治療室のカーテンが引かれた一角に、助かる見込みの無い人間が運び込まれていた。
水銀灯の父親を演じ続けてきた、あの男だった。
身体の損壊が酷く、病院に運び込まれた時点で既に手の施しようが無い状態だった為、
出来うる限りの応急処置と延命措置が施される他、手立てが無かった。
目は開いているものの、意識らしい意識は殆ど無く、脳死に近いような状態であり、
ベッドの側には人工心肺装置と心電図、無数の包帯とギブス、点滴と保護カバーが、損壊した男の身体を覆っていた。
シューシューと言う人工心肺の音と、 ピッ   ピッ と言う不安定な音を立てる心電モニターだけが、
男が今を辛うじて生きている事を知らせていた。
その灯り(あかり)の落ちた一室の窓側に、 ふっ と、うっすらと淡い光が灯る。
鍵が掛かっている筈の窓が少しだけ開き、外界の空気を導き入れながら、男が寝かされているベッドのカーテンを僅かに揺らした。

  カツッ ドッ…

何か小さな物が落ちる様な音がしたかと思うと、続いて少し硬さのある音が、
何かを引きずるような音と混ざりながら男のベッドに近付いてゆく。

  キシッ  ズズ  コツッ  ガタッ…   キシッ  ズズ  コツッ  ガタッ…


215:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 23:25:03 TOMLt5zW
それは水銀灯だった。
必死に飛び続け、遂に男の元に辿りついた水銀灯の身体は、かつての柔らかさを失いあちらこちらがひび割れを起こし、薄黒く くすんでいる。
光の翼に想いを注ぎ込み、男からの命の吸引を、供給を自ら断ち、滞留した残り少ない命を使い続けた為の結果だった。
水銀灯の願いと命を吸い取り続け、色の変わったドレスとブーツだけが、嫌味の様に滑らかな黒色の無傷さを誇示している。
ボロボロになり、光の翼も消えた小さな身体の水銀灯は、自由に動かせなくなった腕を何とか使い、男のカーテンを必死にめくっていく。

( ヲ オと おさマ・・・  おとう サま!! )

そして、命の灯火を殆ど失ってしまった水銀灯の赤紫のグラスアイに、
変わり果てた男の姿が映ると、水銀灯の顔がすぐにくしゃくしゃの泣き顔に変わった。
しかし・・・涙は出ない。とめどなく溢れる筈の涙すら、もう・・・流せなくなっていた。
生気溢れる人の命を持つ“ 者 ”から、生気枯れ果てようとしている人を模った(かたどった)“ 物 ”へと変わり果てようとしてる証だった。


こんなに悲しいのに・・・ こんなに辛いのに・・・ もう・・・ 泣いて涙を流す事すら・・・ 出来ないなんて・・・

お父様が・・・ こんな・・・ こんな痛々しい姿になってしまったのは・・・ 全てわたしのせい・・・


何とか気を保っていた水銀灯の心が、今度こそ砕けてしまいそうになったその時。
水銀灯の心に声が流れてきた。

(・・・その声は、水銀灯なのかい・・・)

( ?! ォ お トウさま? )

水銀灯は自分の心に流れ込んできた声に自分自身を疑った。
それは間違いなく自分の愛する男の声だったが、
明らかに喋ってはいない上に、瞳孔の開きかけた目は病室の天井に向いたままだったからだ。

(・・・ごめんな、帰れなくなって・・・晩飯買えなくて・・・)

( お・・・とう・・・s ま )

男は損壊した肉体に辛うじて繋ぎとめられている魂で、その自分の心で、直接水銀灯の魂に話しかけてきていた。
枯れ尽きた筈の涙という泉が、水銀灯のガラスの瞳に再び潤い、くすんで表層が剥離しかけた水銀灯の頬に伝う。

( おとうさま・・・おとうさま・・・おと ぅ ・・・s )

濁り、言葉も不明瞭になりかけていた水銀灯の言葉が再び透き通りだし、そしてそのまま嗚咽に変わる。


216:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 23:26:19 TOMLt5zW
( ごめ ん なさ い  ・・・ごめん なさい・・・ わた s ・・・ わたしの せ いで・・・ )
(・・・何故泣くんだ・・・これは俺自身が避け切れなかった不注意からさ。ははは、情けないもんだ・・・)
( ちが・・・ 違うんです・・・ わたしが わたしが今ま で  ・・・お父様のいのちを吸ってきてしまったk から・・・ だから )
(・・・そうか・・・感じてない訳じゃなかったけど、でも、そんな事俺には関係なかったんだぞ、水銀灯?・・・)
( どうし て? だって・・・だってあのアリスの人が・・・そう言ったんです )
(・・・ああ、誰の事だか何となく判るよ。でもな水銀灯、俺だっていつかは死ぬんだし、それが早いか遅いかだけさ・・・)
( そんなのいやです!! お父様はしんではいけません!! お願いです!! しなないで!! しなないで!! )
(・・・水銀灯。きっと悲しい顔で泣いてくれているんだろうね。でもごめんな、もう何も見えないんだ、動けないんだ・・・)
( あ ああ・・・ いや・・・ いやです・・・ いやです!! そんなこと言わないで!! 言わないで!! )
(・・・水銀灯、泣かないで聞いてくれるかい。俺、すごく嬉しかった、お前と出会えて。お前が目覚めてくれて・・・)
( うっ・・・ う・・・ おとう さま )
(・・・お前と出会えなかったら、きっと自暴自棄になって、本当に自殺とかしてたかもしれないんだ・・・)
( おとう さま・・・ お  とうさ ま・・・ )
(・・・お前は、俺に生きる希望と力、大事な人を愛する事や、守りたいって心から思える感情を育んでくれた・・・)
( お・・・とう さま )


(・・・・・・愛しているよ 水銀灯 ずっとずっと  誰よりも一番に 誰よりも君を愛してい る・・・水銀 灯・・・・・・)


自身の心に優しく流れた男の心からの言葉。だが、男の心がその言葉と共に消えかける。
水銀灯は “ ハッ!? ”として男を呼び戻そうと必死に声を掛けた。


( わたしも誰よりもお父様を愛しています!!! だから! だからしなないで!! )


必死に水銀灯の腕が保護カバーが被さったままの男の身体に触れようとするが、
ギチチチと鈍く音を立て動かした片手がブヂンと音を立ててダランと下がる。

( おねがい!! まだこわれないで!! わたしのゆうことを聞いて!! わたしのうで!! )

その言葉に相反するように、どうにか水銀灯の身体を支えていた、
かつて美しかった片脚が、膝の球体関節からバギッと壊れ、水銀灯の身体を床に倒してしまう。

( っ・・・く お父様! お父様!! お父様っ!!! )

お父様の意識が、魂がいなくなってしまう・・・そんなことはさせない!誰にもそんな事はさせないっ!!


( もうわたしの身体はチリになってもいい!! だから、だからもう一度! もう一度だけお父様をわたしのこの胸に!! )


その悲痛なほどの魂の叫びに、水銀灯の背が最後の灯火を宿し、光の翼を甦らせる。
しかし飛ぶ事はもう出来ない。
水銀灯の身体を持ち上げ、かろうじて動かせる事が出来るもう片方の腕を、
保護カバーから辛うじて覗く男のボロボロの腕に添えることしか出来ない。
だがそれで十分だった。
男のベッドにもたれかかるように半身を預け、砕け、千切れ下がった片脚と片腕を投げ出しながら水銀灯は更に願う。


( お父様! お父様!! お父様っ!!! わたしは! わたしはお父様と一緒です!! いつまでも! どこまでも! )



その言葉に翼が今までにない白色の光を放ち、男の身体と水銀灯の体を瞬時に包んでいった。



217:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 23:28:00 TOMLt5zW
━水銀灯? 水銀灯・・・来ちゃったのか・・・こぉら、ダメだろ━

 ( お父様こそ、だめです。こんな所に来ちゃ い け ま せ ん )

━ふぅ・・・そんな子供に言うような言い方やめてくれよ。俺いいオッサンなんだから━

 ( わたしにはお父様はお父様ですけれど・・・わたしの子供みたいなものですもの )

━な?そんなの初めて聞いたぞ。俺そんなに子供っぽいところあったか?━

 ( だって、わたしの膝に甘えに来てくださる時なんて、可愛い子供そのものですもの )

━は ははははは! い、いやその・・・まいったなぁ・・・だって水銀灯の膝は気持ちいいし、安心できるしさぁ━

 ( でしょう? うふふ。これからもずっと一緒です、お父様。行きましょう )

━・・・いいのか水銀灯は?━

 ( はい!わたしはずっと・・・ずっとお父様のそばにいます。ずっといつまでも愛してください・・・ )

━水銀灯・・・もちろんじゃないか!俺は永遠にだってお前を愛すると誓える!誰にも邪魔はさせない━

 ( じゃあ・・・ )






━行こうか━

 ( はいっ! )




俺と水銀灯の
わたしとお父様の


あの世界へ。



218:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 23:31:40 TOMLt5zW
    ピ―――――


重態患者の命を知らせる心電モニターが甲高い音を立てて鳴り響く。
僅かに心音を表していた小さな波は、何の変化もない平坦な図を示すだけだった。

男は死んだ。

そのすぐ側には、焼け焦げたような色の1メートル前後の大きさを持つ、少女を模した人形がベッドにしな垂れかかっている。
あちこちがひび割れ、片手片脚が砕け千切れている、バサバサの長い髪を持つ、出来損ないの焼け焦げたマネキン。
ただ、その人形に着せられている服とブーツだけが、新品の鮮やかな滑らかさを持つ、生地の黒さを輝かせていた。
そして、マネキンの長い睫毛に覆われた赤紫の濁ったガラスの瞳が、モニターの薄緑色を反射させていた。



ただ無機質に・・・反射させていた。


   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・



219:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 23:38:39 YehQ3Lnt
ここで終わり、か…?

俺は今・・・猛烈に感動している…
ぬあああああああああああくぁwセdrftgyふじうこいぉ;p

220:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/21 23:41:38 TOMLt5zW
なんか見もフタもない内容ですいません。
次の更新で本来書きたかった部分に到達しますんで・・・

221:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 00:49:19 EJio1SMG
>>193
蒼星石が男の肩に触れると、脳裏に残像のようなものが流れ込んできた。
(これは・・・彼の記憶の一部?)
若い女性、中年の女性、飛び散る血、そして涙の雫。
グロテスクなものが次々と蒼星石の頭に、目に明確なビジョンとして流れ込んでくる。
(ひどい・・・なんて苦しい過去なんだ)
彼女がラスティの記憶の断片を見ている中、彼はスパイダーをじっと観察していた
研ぎ済まれた感性を集中させ、鋭く中央コア部分を凝視する。足やケーブルは止まっていて、完全に停止している。
「時間だ。何を泣いている」
「え?」
蒼星石は気がつくと、頬から涙が零れ落ちていた。
「涙を流すなんて久々かな」
「赤の他人のために泣く必要はない」
ラスティの顔が始めて会った頃のように無骨なものに戻っている。
「泣いたことはないのかい?」
スパイダーのコア部分から人間の形をした物体が降りてくるのが見えると、ラスティは体性を起こした。
「涙?そんなものは枯れ果てた!」
そう言って瓦礫から飛び出すした。
正面に銃を構える人間のような姿をした物体、アンドロイドに突っ込んでいく。
ラスティは速かった。アンドロイドが銃を構える頃には既に終わっていた。
アンドロイド達は綺麗な断面図を描き、胴体を切り裂かれていた。
「終わった」
蒼星石は壊れたアンドロイドの中に佇むラスティの方へ向かった。
「今日はもう終わりだ」
「君は本当に人間?」
「ああ」
どう見ても人間とは思えない動き。彼もアンドロイド?という疑念が過ぎったが、きっと進んだ世界の技術なんだろうと結論付けておくことにした。
それよりも今は一刻も早くこの場から離れたかった。臓器や血が飛び散り、生々しい殺戮現場と化しているようなところには一分一秒でもいたくなかった。
「ねえ、そろそろ帰ろうよ」
「俺に帰る場所はない。ただ放浪するだけだ。それに」
ラスティは言葉を切ると、今はただの死体と化した人間のところへ行き、ナイフで胴体を切断した。
死体は強力な酸を浴びたかのように蒸発していった。
「こいつらの後始末もしておかないと後々厄介なことになる」
そう言ってスクラップとなった車の下敷きになった死体へ近寄る。
その時、蒼星石の脳裏に死体が動き出すビジョン、デジャヴが起こった。
「危ない!」
「!?」
ラスティが気づいたときには、死体の手は鋭い剣のようなものになっていた。
蒼星石は咄嗟に鋏を投げつける。
「間に合え!」
死体が手を振りかざした瞬間、鋏は脳を貫き、そのまま蒸発した。
ラスティは蒼星石の方を振り返った。
「つまりこういうことになるわけだ」
「ここからは危険な匂いがする。早く離れよう」
「そう言うなら仕方ない。命の恩人に逆らうわけにもいかないからな」
「恩人だなんて。大げさすぎるよ」
「この世界で他人を救うようなヤツはいない。お前くらいなもんさ、そんなお人好しは。さ、行くぞ」
二人はすぐにその場を去った。

222:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 00:59:05 gY0Fi4qa
>>220
>>221
お疲れ。二人ともGJ過ぎる!!

223:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 01:10:35 EJio1SMG
>>221
一応ラスティには寝場所にしている隠れ家はいくつかあるらしく、その内で最も近い場所に寄る事にした。
そこはこの荒廃した街の中では唯一まともに形が残っている木造の家―といっても屋根は穴だらけで窓ガラスも割れているが―で休むことにした。
隠れ家に着いた頃には既に外は真っ暗で、荒廃した街並みがより一層不気味さを高まらせていた。
「ここが家なんだね」
「とはいっても勝手に住んでるだけだがな」
ラスティは家に入ると、正面の階段の裏に回り地下室への秘密のドアを開けた。
「こっちだ」
中に入って電気をつけると、そこは先ほどまで見てきた街とは打って変わってとても綺麗な部屋だった。
「この家の持ち主が避難シェルターとして使っていた場所だ。電力は永久供給できる。植物栽培もできる」
「へえ、こんなすごいところ初めて見たよ」
蒼星石は驚きの眼差しであたりを見回す。
「適当な場所を探して休んでくれ」
「ラスティは寝ないの?」
「お前が寝てからにする」
ラスティは蒼星石を寝室へ案内した。
「ここだ」
「あの、できない相談かもしれないけど」
「なんだ?」
「できれば鞄の中で眠りたいんだ」
「鞄?最初に入っていたあの鞄か?」
「そう」
ラスティは少し考えた。蒼星石は不安そうな顔をした。
「今日は無理だ。後日考えよう。今日はここで我慢してくれ」
「いや別にいいんだ。無理を言ってごめん」
寝室には大きなベッドが二つ並んでいた。
蒼星石はベッドの中に潜り込むと、疲労からすぐに寝てしまった。

それから1ヶ月ほど、そういう生活が続いた。
1ヶ月も暮らしていると、この世界の状況が大よそつかめてくる。
蒼星石も何度かラスティとともにアンドロイドを破壊したが、あまり気分の良い物ではなかった。
自分達と同じ造られし存在を破壊する行為というのはどうも気分が悪い。
ちなみに鞄はラスティがいつの間にか見つけてきてくれたらしく、蒼星石が寝室に入った時無愛想に床に置かれていた。
寝室はあるのに、彼が寝ている姿を見ることは一度もなかった。
そんなある日の夜、蒼星石は思い切って尋ねてみることにした。
「ねえラスティ」
「なんだ?」
「君はどうして寝ないんだい?」
「関係ないことだ。それに俺は必要最低限の睡眠に相当する薬を投与している」
「そんなことして体に良いはずがないよ。前から気になっていたんだ」
「話したところでつまらんことだ」
「僕達は仲間だ。つまらないと思うことはないよ」
ラスティは黙り込んだが、しばらくして重い口を開いた。
「あれは十年前、俺がまだガキのころだった。まだ人間が社会の最高地位に存在していた時代。それが終わりを告げた日だった」

224:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 01:32:36 EJio1SMG
>>223
その日ラスティは政府軍大学の講義を終え、家に帰るところだった。
いつものようにスーパーカーでハイウェイを爆走していた。
彼の家は街から数十キロ離れた郊外にあった。住民はごくわずかで、静かなところだった。
「まったく、世界最高府の大学とはいえ、軍隊に関することばかりじゃ体が持たないぜ」
車のスピードを上げ、次々と車を追い抜いて行く。この疾走感が心地良い。
「遅い遅い!ん?なんだあれ?」
モニターに映っていたのは、都市のビル群に接近しつつある筒状の物体であった。
「ミサイル?映画の撮影か?」
そう考えたがこれは大胆すぎる。ではいったい何か、などと考えているうちにミサイルはビルに衝突した。
途端にとてつもない爆発が起こる。
ラスティは目の前が真っ白になった。わけもわからずただ叫んだ。
それからしばらくしてふと目が覚めた。
あたりは炎に包まれ、ハイウェイは半壊していた。
ほとんどの車は使い物にならなくなっており、人々も死に絶えていた。
「(俺は助かったのか?一体何が・・・)」
家族のことが頭を過ぎる。
「(そうだ、親父、母さん、エリン!)」
ラスティは走った。壊れたハイウェイをひたすら走った。
体のあちこちが痛む。それでも走った。
走り続けて数時間、家に着いた時には息も切れ切れ、今にも倒れそうだった。
ラスティは家のドアを蹴り飛ばし中に入った。
「親父!どこだ?母さん!」
すると、家の奥から懐中電灯の小さな明かりが見えた。
段々と近づいていくる。
「ラスティ!無事だったんだな!」
「ああ。それより一体何が?母さんとエリンもいないし」
「さっきニュースで世界各地で戦争が起こったと言ってた。ここも安全じゃなくなる」
「戦争?ああ、なんてこった!でもそれより母さんたちは?」
「街へ出かけた。俺は今から探しに行ってくる。お前は家の中で待ってろ」
「あ、ああ。俺にはもう何がなんだか」
父親が出て行くと、ラスティはすぐに自分の部屋に戻って寝てしまった。
結局その日、父親が帰ってくることはなかった。

「それでお父さんはどうなったの?」
「帰ってきた。俺を殺しに家族と一緒にな」
「殺しにって・・・お父さんじゃないか!」
「街へ行ったときにスパイダーに頭をやられたんだ。外見は人でも中身は殺人マシーンだ」
「そんな!ひどすぎる」
「親父はまだ意識があったのか、俺を撃てと言った。だがそんなことできるはずがない。しかしやらなければ殺される。泣く泣く俺は護身用の銃で親父の頭をぶち抜いたさ。そのままお袋と妹もな」
蒼星石は胸が辛くなるのを感じた。
「あれ以来、寝ていると誰かが殺しに来る夢を見るようになり、恐ろしくて眠れなかった。実際に遅いに来たやつもいる」
ラスティの顔はとても悲しげだった。
蒼星石は触れてはいけないところに触れてしまった気がして申し訳ない気持ちになった。
「ごめん。無理な詮索をしちゃって」
「いや、いい。ただ、俺もお前も仲間を殺しながらも生きている。その事実だけは忘れないようにするんだな」
そういってラスティはベッドに入った。
「あれ?今日は寝るの?」
「話したら久々に眠りたくなってきた。今日は眠らせてくれ」
「うん、睡眠は大事だからね」
徐々に心を開きつつあるラスティのことを嬉しく思い、蒼星石もまた深い眠りに着いた。

225:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 01:57:17 EJio1SMG
>>224
しかし別れは突然やってきた。
この世界に平穏などありはしない。
いつものようにラスティはアンドロイド狩りに出かけて、帰ってくる。
それだけのはずだった。
部屋の隠し扉が開く音がした。
「おかえり」
蒼星石が出迎えるが、ラスティは無反応だった。
いつもなら無愛想ながら返事はしてくれた。明らかに様子がおかしい。顔も青ざめている。
「どうしたの?」
「お前に頼みがある」
「なんだい?」
「俺を殺してくれ」
「え?」
蒼星石は一瞬、凍ったかのように止まった。
「頼む。俺を殺してくれ!」
ラスティは普段の調子を取り乱して叫んだ。
「一体何があったの?いきなり殺せだなんて!」
ラスティは蒼星石の両肩を着かんで、目を見つめた。
「よく聞け。アンドロイドに捕まって変な改造をされた!多分このままじゃ洗脳されて俺じゃなくなる。くそ!なんて失敗だ!俺はもうおしまいだ!」
ラスティは気が狂ったかのように壁を叩いた。
「お、落ち着いて!なんとかなるよ!」
とは言ったものの具体的な案はなかった。
「なんとかなる?ふざけるな!こうしている間にも俺の脳は破壊されてるんだ!すでに自殺できないようにプログラムが働きかけてる!畜生!なんてこった!」
「だからって・・・僕に殺せだなんてやめてよ!もう嫌なんだ!」
蒼星石は涙を流した。
「もうこれ以上大切な人の命を奪うのは・・・嫌なんだ」
取り乱していたラスティは蒼星石の頭に手を置いた。
「良かった。お前はまだ生きる資格がある」
「え?」
「俺は何人も殺しているが、既に罪悪感なんてない。それどころか生き甲斐とすら感じる時もあった。こんなの人じゃない。ただの殺人鬼だ。だがお前は違う。罪の意識があるだけでも十分だ」
「そんなことない!君だって罪悪感を感じていたはずだ」
「大昔の話だ。ここまできたらもう後戻りはできない。だがお前にはまだ未来がある。悔い改めることはいくらでもできる。そんなヤツに殺してくれだなんて言った俺が馬鹿だった」
ラスティは腰からナイフを取り出した。
「さあ行け!俺はなんとか頭を掻っ切ってみる」
ラスティは頭にナイフを向けた。蒼星石はそれを掴んで必死に止めた。
「駄目だよ!今までだってなんとかなったじゃないか。今度だって!」
「もう無理なんだ!頭を弄くられたら死ぬしか道はないんだよ!」
二人が争っていると、いきなり部屋自体が揺れた。
「うわあ!」
激しい揺れに二人は床に叩きつけられた。
「いたた、一体何が・・・あ・・・」
蒼星石が顔を上げると、そこに立っていたのはアンドロイドだった。
青い目を光らせ、右手のソードで蒼星石を貫こうとしていた。
アンドロイドが腕を振り上げる。
蒼星石は鋏を構えようとするが間に合わない。
「くっ!」
やられた、と思った。恐る恐る目を開くと、そこに立っていたのはラスティだった。
「手間かせさせやがって・・・うぐ・・・」
アンドロイドのソードは見事にラスティの胴体を貫き、腹からは血が大量に零れていた。
「ラスティ!」
ラスティは渾身の力を振り絞ってナイフでアンドロイドの首を切り裂いた。
アンドロイドはその場に立ち尽くしたまま機能を停止している。
「ここがバレるとはな」
ラスティは突き刺さったソードを抜き取り、その場に倒れこんだ。
「しっかして!ラスティ!」
ラスティは息も絶え絶えながら、震える手で蒼星石の頭に手を置いた。
「これで楽に死ねる。お前に殺してもらわなくて良かったよ」
大量の血が口から流れている。

226:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 02:20:12 EJio1SMG
>>225
「もう喋っちゃダメだよ!」
「いいんだ。俺はもうすぐ死ぬ。だから最後の言葉だけ聞いてくれ」
蒼星石はこれ以上何も言わなかった。彼が死ぬのを止めることはできない。
それに死ぬことが彼の望みでもあったのだから。
「わかったよ」
「このメモリーペンダントを持っていてくれ」
ラスティはポケットから小さなクリスタルのようなものを取り出し、蒼星石に渡した。
「これは?
「俺の今までの生きた証が入ってる。つまり日記だ。これから先はお前がこいつに日記をつけてやってほしい」
「約束する。必ず」
「それを聞いて安心した。これでやっと逝けるぜ。蒼星石、会えて嬉しかったぜ。久々に人間に戻れた」
死んだ。そして最後に初めて名前で呼んでくれた。
蒼星石はラスティの瞼を伏せてやった。
「ラスティ、君のことは忘れないよ。短い間だったけど、それはとても貴重な時間だった。それは絶対に忘れない」
ラスティは自分のことを殺人鬼だと思っていた。しかし少なくとも蒼星石はそうは思わなかった。
彼は非常に人間的で、物事を罪深く考えすぎていただけなのだと蒼星石は思っていた。

停止していたアンドロイドの腕が動き出す。
ソードはラスティの前に立っている蒼星石の胴体を切り裂く。
それがアンドロイドの最後だった。それとともに蒼星石の最後でもあった。
「う・・・(動けない。それに段々意識も遠のいていく)」
蒼星石はああ、これが死ぬってことなんだなと思った。
(もういいや。これで死ねるなら。僕も後を追うよラスティ)
「いいわけないよ・・・」
蒼星石は泣きながら独り言を言った。
「たった今交わした約束を反故にするなんて・・・いいわけないじゃないか」
しかしもはや蒼星石に起き上がるだけの力はなかった。
クリスタルを取り出す。録音のスイッチを入れた。
「最初で最後の日記だ。ラスティ、初めての日記だけどこれが最後になりそうだよ」
蒼星石は笑った。
「こんな時に笑うなんておかしいけど、こんな時だからこそなんだ。僕はもう逝く。ラスティや翠星石、君達のいるところにね」
もうダメだと体が言っている。それでも最後の力を出して蒼星石は喋った。
「きっといいところなんだろうなあ。僕の大切な人達がみんないるんだから」
蒼星石は動かなくなった。ゼンマイが切れたわけではない。二度と起き上がることのない深い眠りである。
彼女の最後の顔は微笑んでいてとても美しかった。

おわり


227:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 02:25:13 EJio1SMG
結構勢いで書いてたんで文章ごっちゃですいません。
それもこれも手違いですべて消してしまい、一から書き始めるハメになってしまったせいですが。

228:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 02:26:03 U6g/64Re
(;ω;)

229:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 09:07:43 VU7T19HV
なんという欝エンド・・・
ドールズの行き着く先もBAD ENDなのかと想像してしまった

230:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 18:44:44 s6JTSvca
ようやく糞星石の糞SSが終わったか
最初から最後までつまんなかったな

↓そろそろカナのSSよろ

231:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 19:05:00 chzHM5Ww
金「みっちゃーん」
み「カナー」
今日も平和でしたとさ
―FIN―

これで満足か

232:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/22 19:12:28 QRTAyYH9
>>231
俺も似たような事書こうとしてたw

233:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/23 08:33:32 O8mymW5c
哀れな>>230

234:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/23 18:20:30 3oXkDjNs
ある工房の一室に、その男はいた。

彫りが深い美男子顔を持ち、
柔らかくウェーブがかった金髪の少し伸びた後ろ髪を束ねた長身のその男は、
重々しい顔で、工房の大きな机の上に置かれている“ 物 ”を見つめていた。
それは二つあり、そのどちらも“ 物 ”としては壊れていた。

背の高いその男は、それを見下ろしている。
男のその側には小さな姿がある。それは“ 生きている ”少女人形だった。
左の目に紫の薔薇をあしらったアイパッチを付け、薄い紫の色調を基本とし、
開きかけた薔薇の蕾を逆さにしたようなデザインの、透き通るような錯覚を思わせる生地で作られた
鮮やかなドレスを着込むその美しい少女人形は、男を見上げていた。
男の重々しいその表情に悔しさとも、悲しさともつかない色が混じり始めると、
表情の乏しかった少女人形に、僅かに切なさのような表情が浮かび上がってくる。

「お父様・・・」

男を見上げ少女人形がそう小さく呟きながら、白い小さな掌を、
そのドレスの鮮やかに美しく長い袖に覆われた細い腕を、そっと男の脚に添えてゆく。

「・・・薔薇水晶」

そう少女人形の名を呼び、
視線をその少女人形・・・薔薇水晶に向けた男が少し悲しそうに微笑んだ所で、後ろから声がかかった。


「滞りなく筋書きは演じられ、また、幕は引かれました。どちらの演者にも・・・今上がる舞台は用意されておりません」

「・・・ラプラス」


声をかけたのは、タキシードを着込み小さなシルクハットを被った、男にラプラスと呼ばれたあの兎の者であった。
男はラプラスに向き合う。ラプラスはそれを会話の了承と取り、男に話し出す。

「坊っちゃんの夢から御出で頂く方(ほう)には少々骨が折れましたが、あの者・・・いえ・・・あの方の所からは問題無く・・・」
「・・・それで、あの男は・・・満足だったのか・・・?」

「それを私に問うまでもなく、槐(えんじゅ)・・・目覚めすら出来なかったあなたの娘が全てを語っているではありませんか」
「・・・私の娘などではない・・・私の光が生み出した・・・ローゼンが創り上げた者を模した・・・ただの人形だ・・・」

「・・・そうでしょうか。例えそうだとしても、あなたの水銀灯を手にし、愛で、育て、共に過ごしたあの方はそうは思わないでしょう」
「・・・・・・」

「ローゼンが、あなたの師が生み出し創ろうとした水銀燈を模したとは言え・・・あの方を父親として目覚めさせ、
 目覚めぬ人形を水銀灯として、娘として目覚めさせたのは、偽りなき事実にして、あなたにとって誇るべき現実・・・違いますか」
「・・・・・・」

「確かに、無から創造を育み創り出し・・・未完であったローゼンの作を模しただけのあなたの娘は、
 厳密にはあなたの娘ではないでしょう。ですが、今あなたに寄り添い、あなたを父親として愛してやまないその薔薇水晶は・・・
 あなたが無から創造を育み創り出し、生み出し、魂を呼んだ、間違い無きあなたの愛娘。
 あの方が無から水銀灯としての確かな魂を創造し、呼び、育み、娘として愛す事が出来たのは・・・
 あなたに創造主としての確かな力があるからです。それはローゼンにすら覆す事は出来ません。
 そして、あの方にとっては贋作ではなく、真作以外の何者でもなかったのです」


235:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/23 18:21:49 3oXkDjNs
槐(えんじゅ)、そう呼ばれた男はラプラスのその言葉に、
机に横たわる焼け焦げたような裸身を晒すひびだらけの人形に目をやった。
その槐の姿を見上げていた薔薇水晶が、槐を見上げたまま、静かに槐に話しかける。

「お父様・・・この者は・・・私のお姉様です。私がお父様をお慕いしてやまないように・・・あの人を愛しました・・・
 こんな姿になったのは・・・あの人を愛したからこそ・・・だから・・・お姉様の気持ちがわかります・・・」
「・・・薔薇水晶・・・」

「ですから・・・認めてあげてください・・・お父様が嫁がせてあげた・・・お父様の娘として・・・」
「そうだったな・・・私があの男に対した厭わしい(いとわしい)業を・・・自分が造った娘を受け止める責を負わねば・・・」

槐はそう言って再び机に目を向けた。
その机の上には二体の少女人形が横たわっている。
一体は身体の部分部分がひび割れ、焼け焦げたように黒くなった裸身を晒しているものの
腹部のみが元の素体の白さを残していた。
もう一体はどこにも傷は見られない美しく白い裸身を晒していたが、腹部のみ、どこにも見当たらなかった。
それは共に同じ姿形を持った少女人形“ すいぎんとう ”と呼ばれる少女人形だった。
槐は焼けた水銀灯のボロボロの裸身に、そっと、そっと、自分の大きな手を添え、
その指先で表層の剥がれた水銀灯の黒くくすんでしまった頬を優しくなぞる。
水銀灯の濁った赤紫のグラスアイは、それに答える事無く、長い睫毛に覆われた瞼を動かす事無く、虚空を見続けているままだった。

「私の造った・・・私の娘・・・あの男が愛でた・・・あの男の命を吸い・・・寵愛を受け続けた・・・あの男の娘・・・・・・すまなかった・・・」

そう呟く槐の表情が、ともすれば泣いてしまいそうなものに変わってゆく。
その言葉と表情はあの男へのものなのか、それとも自分が造りだした偽りの娘へのものなのか。
いや・・・あるいは、そのどちらへのものなのかも知れない。

「・・・お父様・・・」

槐の、その懺悔とも後悔ともつかない感情の流れを受けた薔薇水晶が悲しそうに呟き、身体を寄り添わせ槐を見上げる。
薔薇水晶の柔らかい身体の温かさと、自分を労わるかのような仕草を受けた槐は、
何でもないと静かに優しく呟き、その長身を屈めて薔薇水晶をそっと抱き上げ、
薔薇水晶の身体を机の上に柔らかく立たせてやっていた。
その机の上に横たわる二体の“ すいぎんとう ”を、薔薇水晶は見つめる。
薔薇水晶はそっと片膝をつき、腹部の無い片方にその小さな手を添える。

(この者は知らない・・・同じ姿だけれど・・・この者は私のお姉様ではない・・・だけど・・・悲しい意識が残留している・・・)

そして、黒くボロボロにひび割れたもう片方にも手を添えた。

(感じる・・・お父様がお造りになられた・・・私のお姉様・・・奥に眠る器に・・・残していった想いを感じる・・・)

薔薇水晶はボロボロになった水銀灯の虚空を見つめ続けるその瞳を、そっと閉じてあげた。
槐は、薔薇水晶のその行動を見終えながらラプラスの方に振り向き、尋ねた。

「師の・・・私の光であるローゼンの掌で踊れというのか、貴様は」

その言葉にラプラスの兎の面がにやりと歪む。しかしすぐにその表情を消し逆に槐に問いかけた。


236:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/23 18:22:51 3oXkDjNs
「そう取るも、取らざるも、あなた次第。幾世に渡りローゼンメイデンを追いその業を絶つと、
 あの時から誓ったのはあなた自身。この地に全てのローゼンメイデンが集い、目覚めた今、
 用意された舞台に出番を待つ演者を欠いたままで、その責を取り得る事など不可能。
 誓いが偽りのまま煙(けむ)となる事を、あなた自身が望んではおられないでしょうに。
 その為にあなたは、幾世にも誓い渾身の意を持って、その末に偽りではないあなた自身の創造した薔薇水晶を生み出した。違いますか」

「・・・・・・わかったような事を・・・迷宮の彷徨いへ導く者がその口で・・・よく言う」


「全ての紅の結晶はあなたの師、あなたの光であるローゼンが与えた物。
 あなたも後を追うようにこの水銀灯を糧にして、あの方の命と魂を、水銀灯の魂を糧にして、
 結晶を残したまま彷徨う真作の意識を呼び戻す為の器を創る事を認めたのは事実。
 紅の結晶がどう生み出されてきたのか、理解し、そしてここに実践された。それはあなたにとっての、担うべき罪」

「・・・これが、最初で最後だ。そうでなければ誰がローゼンの後を追い、このような罪を犯すものか・・・・・・薔薇水晶・・・」


槐は、睨むように向けていた視線をラプラスから外すと、
二人の話を聞いていた薔薇水晶の方に向き直り、その小さな肩に自分の手をそっと添えて優しく囁いた。

「この今から、私達は完全な罪人(つみびと)になる・・・悪と言う名の役を演じきらなければならない。それでも君は・・・私を父と呼んでくれるか・・・」
「お父様・・・」

何かを背負う意思を見せた槐のその言葉に、小さく柔らかに首を縦に振った薔薇水晶は、
金色(こんじき)の瞳を閉じ、肩に添えられた槐の、父親の大きな手の上に、自分の白く小さな手のひらを添えながら、
美しく長い白髪が映える頭をそっと擡げ(もたげ)かからせた。



237:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/23 18:25:53 3oXkDjNs
うまく行けば、今日中にもう一度投稿できるかも知れません。
一先ずはこれで。

238:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 00:17:41 2rtlmJm8
乙~

239:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 01:52:51 8Uo4wSvS
その、自分の全てを信頼し身を委ね、共に罪人となる事を受けてくれた表しに、
槐は薔薇水晶の白く滑らかな美しい頬をそっと撫で、ラプラスに振り向きながら問いかけた。

「これがローゼンの生み出した傀儡(かいらい)である・・・貴様の筋書きだとしても、私は貴様の傀儡にはならんぞ」
「滅相も無い。創造主であり、またその影である貴方を操るなど」

「なら、お前の身体に纏わり付いた見えぬ糸を操るローゼンに伝えるがいい・・・
 奔放な気まぐれの愛の為に、地獄に垂れた蜘蛛の糸を昇らなければならない、薔薇乙女に負わせた業を悔いろと」
「・・・あの方は創造の雲をたゆたい、奔放の海を彷徨う光・・・巡る事叶う時あれば、お伝えしましょう」

槐は、捕まえようの無いラプラスの返答に一瞥をくれると、薔薇水晶に向き直り話しかける。

「・・・もう、後には戻れない。いいね、私の娘・・・薔薇水晶」
「はい・・・お父様」

そう言って互いの瞳を見つめあった後、槐は水銀灯の黒くボロボロの身体をそっと持ち上げ、
白さを保ったままの腹部を優しく外すと、腹部の無いローゼンの真作である水銀燈に、その腹部を接合し始めた。
腹部が付いた水銀燈のその部分に、薔薇水晶が囲うように両手をかざすと、やがて徐々にではあるが腹部が淡い光を放ち始めた。
その光は環になりながら腹部からゆっくりと浮かび上がり、
更に眩さを放つ何かを伴って、水銀燈の身体の上で立体の円を描く輝きを放ち始める。
その眩さと、光の円の中央で更なる光を放ち続ける物を見たラプラスが、ほぅ… と感嘆の呟きを放った。

「素晴らしい・・・互いの想いがこれ程までに繋がり・・・真なる容となって実を結ぶとは・・・」

それに続いて変化の少ない表情を、やや驚きに変えた薔薇水晶も小さく呟く。

「これが・・・私の身体にも・・・」

そう言って愛しそうに自分の胸に手を当てる。
それを見てラプラスは、にやりと頬をゆがめた。

「ローゼンの“ 者 ”であればまさしく・・・紅の結晶・・・ローザミスティカだと言えましょう。
 媒体の少女人形を創り出し、それを主にふさわしい者に与え、魂を宿させ、その主の命を吸いながら、
 互いの想いと時間を、愛と記憶を、器に変えて、紅の結晶となす。
 その確かな容は、何百体に一つ生成できるかどうか。
 薔薇乙女はそれを真の器として、元より授かり幾世を渡り、
 想いを受け続けながらそれを育み、一つに成す業を背負っているのは・・・既にお分かりですね」

薔薇水晶それを黙って聞いている。

「しかし・・・残念ですが、これはローザミスティカとは言えません。何故ならローゼンの創った人形が宿した器ではないからです。
 これは真作の意識を呼び戻す、媒体の器。紅にあらざる白色の光。お分かりですか・・・薔薇水晶。
 等しく率は同じでも、魂を宿した・・・いえ・・・宿していた器でも、成り立ちの質は違うのです」

それを聞いていた槐が、表情を変えずにラプラスの話をさえぎる。


240:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 01:54:10 8Uo4wSvS
「もういい。そんな事は元より承知だ。・・・続けよう、薔薇水晶」
「・・・はい。お父様・・・」

薔薇水晶は頷くと立体の円の中で光を放ち続ける、ローザミスティカに成り損ねた眩き白の結晶に、両の掌を近づけてゆく。
結晶は光を放ちながら手の中に静かに収まりだし、薔薇水晶はそれをそっと自分の胸元に近づけると、
それに呼応するように薔薇水晶の胸が薄く光を放ち、結晶が薔薇水晶の胸にゆっくりと吸い込まれていった。

(はっきり解らないけど・・・気持ちが・・・私の胸に広がってくる・・・)

「・・・大丈夫かい・・・薔薇水晶」
「はい・・・お父様」

槐の気を使うような問い掛けに薔薇水晶は静かに頷き、両膝を突きながら、横たわる水銀燈の胸元に両手を添えてゆく。
薔薇水晶は自身の身体を媒体として、男と水銀灯の想いを結晶となした器を媒体として、
彷徨いの海を漂う水銀燈の意識を紅の結晶・・・ローザミスティカに呼び戻そうと意識を集中し始めた。

(・・・ ・・・ ・・・浮かび上がってくる・・・私の胸の奥から・・・想いが・・・)
(伝わってくる・・・この者に残っている・・・思いが・・・)


二つの結晶から開放され、浮かび上がり、流れてくる想い。
創り出され、生み出されても、完成すらしてもらえなかった身体。創造主から宿らされた想いが深い故に宿ったその魂。
愛をその未完成な一身に頂きたいが為に、必死になって自らの身体を接合した魂。
疲れ、困憊し、この世に諦めを見せていながらも、その者が一身の愛を捧げたが故に宿った魂。
目覚めて初めての、涙を流して送られた愛に包まれた魂。

暖かな記憶。切ない思い。
残留した二つの記憶と想いが薔薇水晶の心で入り混じり、流れあう。
父親への記憶を呼び覚ます為に、父親の愛を受けた鏡映しの自分の想いを、
水銀灯の想いを、真作である水銀燈のローザミスティカに送り続ける薔薇水晶の心に、
唐突な悲しみと絶望に近い想いが浮かび上がってくる。


241:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 01:59:08 8Uo4wSvS
( じ?! じこ!? )
( ど どうして!? そ そんなのうそです!!! )
( あ   あああ・・・  そ  そん な・・・ )
((やがてお前の意識もその身体から剥離し、消滅、人で言うなれば死を迎えるでしょう))
( わた しが  めざめてしまった から・・・すべては  わたし の せいな のです か? )
((男が望み、お前と言う意識を呼び、お前が目覚め、男と共にこの今を生きてきた、それは誰の罪でも有りません))
( それ な のに  それなの に  わたし は   どうして・・・ )


わたしが初めて目覚めた時に、涙ぐんで強く温かく抱きしめてくれたお父様。
わたしの膝枕で、子供の様に安らかな寝顔を見せてくれたお父様。
わたしの手を取って歩く練習をさせてくれたお父様。
わたしが初めてお風呂に入った時に、優しくお湯を掛けてくれたお父様。
わたしの身体を優しく、そっと丁寧に洗ってくれたお父様。
わたしに大きなシャツを優しく着せてくれたお父様。
わたしに読み書きや挨拶を教えてくれたお父様。
わたしに色々な本を読んで聞かせてくれたお父様。
わたしに料理の仕方や掃除の仕方を教えてくれたお父様。
わたしを色々な所に人目を忍びながら連れて行ってくれたお父様。
わたしに人々の暮らしの色々な事を教えてくれたお父様。
わたしとテレビを見て涙を流していたお父様。
わたしとニュースを見て怒っていたお父様。
わたしにおどけて見せて、わたしを笑わせてくれたお父様。
わたしのちょっとした事に感動して、涙ぐんでくれたお父様。


楽しかった・・・ 嬉しかった・・・ ずっとこの時間が続くと・・・ ずっとそう信じていた・・・
それなのに・・・ それなのに・・・ わたしの為に・・・ わたしのせいで・・・
わたしの大好きな・・・ わたしの愛してやまないお父様が・・・ いなくなってしまう・・・


( お  おとう さま・・・  おとう さま・・・ )
((男はもう死ぬでしょう。それは免れぬ黄泉への出立。しかし・・・お前はまだ動けるのです。・・・お前はどうしたいのです))
((もう一度だけ尋ねましょう。お前はどうしたいのです))
((では、願いなさい。強く、何よりもお前の愛しい者の為に、願うのです))
((その纏いの白が、お前に滞留している少なき命を燃して煤(すす)となり、お前の願いを光に変えるでしょう))


会いたい 逢いたい ごめんなさい わたしの為に わたしのせいで
こんなわたしを呼んでくださって こんなわたしを目覚めさせてくださって こんなわたしを愛してくださって
でも嬉しかった 本当に嬉しかった 今まで育ててくださって 今まで愛でてくださって
逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい

わたしの・・・ わたしの愛してやまない・・・ ただ一人のお父様!


身体が自由に動かない・・・ああ・・・もうわたしの身体が・・・硬くなってきている・・・・・・痛い・・・痛い・・・
だけどこんなの・・・今までずっと・・・お父様がわたしに下さった痛みには絶対に及ぶことすら・・・・・・ない・・・
逢いたい・・・逢いたい・・・  お父様・・・  お父様・・・



242:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 02:00:33 8Uo4wSvS
( ヲ オと おさマ・・・  おとう サま!! )


あああ・・・お父様・・・  お父様・・・ こんな・・・こんな事って・・・  ぜんぶ・・・ わたしが悪いんだわ・・・
こんなに悲しいのに・・・ こんなに辛いのに・・・ もう・・・ 泣いて涙を流す事すら・・・ 出来ないなんて・・・
お父様が・・・ こんな・・・ こんな痛々しい姿になってしまったのは・・・ 全てわたしのせい・・・

(・・・その声は、水銀灯なのかい・・・)
( ?! ォ お トウさま? )
(・・・ごめんな、帰れなくなって・・・晩飯買えなくて・・・)
( おとうさま・・・おとうさま・・・おと ぅ ・・・s )

( ごめ ん なさ い  ・・・ごめん なさい・・・ わた s ・・・ わたしの せ いで・・・ )
(・・・何故泣くんだ・・・これは俺自身が避け切れなかった不注意からさ。ははは、情けないもんだ・・・)
( ちが・・・ 違うんです・・・ わたしが わたしが今ま で  ・・・お父様のいのちを吸ってきてしまったk から・・・ だから )
(・・・そうか・・・感じてない訳じゃなかったけど、でも、そんな事俺には関係なかったんだぞ、水銀灯?・・・)
( どうし て? だって・・・だってあのアリスの人が・・・そう言ったんです )
(・・・ああ、誰の事だか何となく判るよ。でもな水銀灯、俺だっていつかは死ぬんだし、それが早いか遅いかだけさ・・・)
( そんなのいやです!! お父様はしんではいけません!! お願いです!! しなないで!! しなないで!! )
(・・・水銀灯。きっと悲しい顔で泣いてくれているんだろうね。でもごめんな、もう何も見えないんだ、動けないんだ・・・)
( あ ああ・・・ いや・・・ いやです・・・ いやです!! そんなこと言わないで!! 言わないで!! )
(・・・水銀灯、泣かないで聞いてくれるかい。俺、すごく嬉しかった、お前と出会えて。お前が目覚めてくれて・・・)
( うっ・・・ う・・・ おとう さま )
(・・・お前と出会えなかったら、きっと自暴自棄になって、本当に自殺とかしてたかもしれないんだ・・・)
( おとう さま・・・ お  とうさ ま・・・ )
(・・・お前は、俺に生きる希望と力、大事な人を愛する事や、守りたいって心から思える感情を育んでくれた・・・)
( お・・・とう さま )


(・・・・・・愛しているよ 水銀灯 ずっとずっと  誰よりも一番に 誰よりも君を愛してい る・・・水銀 灯・・・・・・)


( わたしも誰よりもお父様を愛しています!!! だから! だからしなないで!! )
( おねがい!! まだこわれないで!! わたしのゆうことを聞いて!! わたしのうで!! )
( っ・・・く お父様! お父様!! お父様っ!!! )

お父様の意識が、魂がいなくなってしまう・・・そんなことはさせない!誰にもそんな事はさせないっ!!

( もうわたしの身体はチリになってもいい!! だから、だからもう一度! もう一度だけお父様をわたしのこの胸に!! )

( お父様! お父様!! お父様っ!!! わたしは! わたしはお父様と一緒です!! いつまでも! どこまでも! )





243:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 02:01:52 8Uo4wSvS
━水銀灯? 水銀灯・・・来ちゃったのか・・・こぉら、ダメだろ━

 ( お父様こそ、だめです。こんな所に来ちゃ い け ま せ ん )

━ふぅ・・・そんな子供に言うような言い方やめてくれよ。俺いいオッサンなんだから━

 ( わたしにはお父様はお父様ですけれど・・・わたしの子供みたいなものですもの )

━な?そんなの初めて聞いたぞ。俺そんなに子供っぽいところあったか?━

 ( だって、わたしの膝に甘えに来てくださる時なんて、可愛い子供そのものですもの )

━は ははははは! い、いやその・・・まいったなぁ・・・だって水銀灯の膝は気持ちいいし、安心できるしさぁ━

 ( でしょう? うふふ。これからもずっと一緒です、お父様。行きましょう )

━・・・いいのか水銀灯は?━

 ( はい!わたしはずっと・・・ずっとお父様のそばにいます。ずっといつまでも愛してください・・・ )

━水銀灯・・・もちろんじゃないか!俺は永遠にだってお前を愛すると誓える!誰にも邪魔はさせない━

 ( じゃあ・・・ )






━行こうか━

 ( はいっ! )




俺と水銀灯の
わたしとお父様の


あの世界へ。


244:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 02:03:33 8Uo4wSvS
「あ・・・あっ・・・あ・・・うぅ・・・」

水銀灯の最後の記憶が、父親と共に旅立っていった最後の想いが、
薔薇水晶の胸の奥で輝く偽りの白きローザミスティカから溢れ出してくる。


(こんな・・・こんな・・・こんなに胸が切ない・・・どうして・・・)


愛してやまない最愛の父親が死んでしまう。己が存在し続けた事がきっかけで。
もしもこれが自分なら、この事実を受け止められるだろうか。
そんな事などある筈が無い。今自分の側に居て下さって、自分を支えて下さっておられるお父様が死んでしまうなんて。
そんな事など起こる筈が無い。信じれる筈が無い。私を愛して下さるお父様がいなくなってしまうなんて。
でも、もしも、もしもこんな事が現実に起きてしまうなら、自分に耐えられるだろうか。
自分は受け入れる事が出来るだろうか。判らない、判らない、判らない、判らない、判らない・・・
でもお姉様は、これを受け入れ、自分の身体を燃しながら、自分のお父様の元に向かって、光になった・・・

こんな事が現実であって欲しくない。こんな思いはしたくない。私はお父様から離れたくない。
お姉様の様に・・・この世界から共に消える事が・・・二人の行く幸せの道だなんて・・・私は・・・私は・・・
こんな想いのカタマリが・・・ローザミスティカだなんて・・・
こんな想いが渦巻いたまま・・・こんな想いを抱いた器を胸に秘めて・・・薔薇乙女の者達は・・・幾世を渡っているだなんて・・・


「お・・・お父様・・・お父 様・・・」
「ば?薔薇水晶!?」

「お願 いです・・・抱きしめて・・・ください・・・切なくて・・・苦しくて・・・ああ・・・ああああ・・・」
「薔薇水晶!!」

何かが起こっている。このままでは薔薇水晶の精神が崩壊してしまう。
そう思った槐は慈愛の限りで薔薇水晶を抱きしめた。
乏しかった表情を、切なさと悲しみで溢れ出した泣き顔に変えて、
アイパッチに覆われていない金色の瞳から、あらん限りの涙を流す薔薇水晶が受けた想いが、槐にも流れ込んでくる。

「あ? ぅ ああ・・・ああ・・・」

この時槐は初めてローザミスティカの真意を・・・いかにして紅の結晶が想いを糧に生成されていたかを知った。
こんな想いを抱いて・・・命と愛と時を吸い取り、創られていたのかと。
ローゼンはこんな物を器にして、薔薇乙女達を自分のアリスへ昇華させる為に、
自分の愛を受けさせる為だけに、こんな想いを犠牲にさせてまで、薔薇乙女達に業を負わせたのかと。
あの男と、自分の造った模造品である水銀灯の心の繋がりは、これ程までに強かったのかと。

(もし・・・これが私と薔薇水晶だったら・・・私は・・・薔薇水晶を失う事に・・・耐えられないかも知れない・・・)

薔薇水晶を抱いたまま、強く瞳を閉じ、歯軋りを見せる様に口元を歪めた槐の頬から一滴(ひとしずく)の涙が流れる。



245:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 02:05:39 8Uo4wSvS
ローザミスティカの真意を知らぬまま別たれた影である槐と、
薔薇乙女を模して創造された薔薇水晶の流す涙を見たラプラスは、何も言わなかった。
いや、言えなかったのかも知れない。
常に達観の極みにあり、傍観の席で人の営みと言う演劇を見続けてきたラプラスも、
事実を知らぬまま運命を追い続けて来た者達には、さすがに酷だと思ったのだろう。
しかし操りを演じる者としては言葉せぬわけにはいかない。
ラプラスは静かに口を開いた。

「・・・夢の狭間をたゆたう意識は間も無くその道を見つけ、自分の在るべき場所に戻り、ひと時の眠りに付くでしょう。
 真作の内に存在する器が、真作の胸に光る燈(ともしび)が・・・そう答えています」

槐は何も答えなかった。

「いずれ近い内にその水銀燈にも、マスターをあてがわねばならぬでしょう。
 それを花開かせた時、舞台は真の演劇へと加速の時を進めましょう。
 私は乙女達に踊って頂く為の、筋書きを考察しますゆえ・・・今宵はこれにてお暇(おいとま)致します」

そう言ってラプラスは空間を裂き、消えてしまう。
後に残された槐と薔薇水晶は、今だ抱き合ったままだった。

槐は改めて誓った。
ローゼンの蒔いた気紛れとも呼べる愛の種を全て摘み取ってやると。
想いに縛られ、想いを糧にして刻(とき)を彷徨い続ける、哀れな薔薇乙女達の業を絶ってやると。
自分の薔薇水晶をあえて悪へと染めさせ、ローザミスティカを奪わせ、アリスへと昇華させ、
ローザミスティカに込められた薔薇乙女達の想いを全て、自分と薔薇水晶が背負ってやると。
貴様が忌み嫌った、不完全と己から剥離した、欠点である、貴様の影である、この槐を認めさせてやると。

薔薇水晶も誓った。
お父様の為に、悪を演じようと。冷淡な役に徹しようと。
今自分を抱きしめて下さり、自分が感じた想いに共に涙を流して下さるお父様が側に居て下さる限り、
薔薇乙女達の想いを受け止める事が出ると。
偽りの水銀燈を、逢う事すらなかった自分の姉妹の想いを、改めて心に受け止めようと。




二人の側で、水銀灯の身体が崩れていった。
器に残した父親との想いを託し、崩れていった。



水銀灯と言う名の偽りの灯が・・・遂に・・・消えていった。



246:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 02:08:08 8Uo4wSvS
次回のエピローグで終了します。

247:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 05:32:27 4ovTp8Lp
>>230
このキモ妄想のデムパSS書きを早く追い出して
ほかの作家にカナのSSを書かせてくださいお願いします

248:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 12:04:14 mga7JN11
>>246
投下乙です
水銀灯と男の最後の会話は何度読んでも切なくなる……

249:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 12:44:30 kpaLxS9c
>>247
>>231

250:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 12:54:31 hvCOfN5P
いちいち相手するな、いつものアレだ。と釣られてみたりもする

251:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 13:08:43 wF2/VWHg
URLリンク(yy63.60.kg)
みんななかよし掲示板できたよー

252:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/24 19:58:58 2rtlmJm8
>>246
乙乙乙~

な、泣いてなんかないんだからねっ!!///

253:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/25 00:49:55 fKDJk2+E
変な横棒で区切ってた文章はずっと中二病文章だと思ってたけど、なるほどなぁ…
ちゃんと回収して一応分かるようにまとめられてる…

254:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/25 03:32:05 qWs9xdST
中二病だとか捉え方は人それぞれなんだし読者としては面白ければそれでいいよ
ローゼンメイデン自体を厨臭いって言ってた奴が前いたくらいだし
まあアンチだろうけど

255:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/25 21:06:16 iMzFlTNh
ま、『面白い』SSじゃないのは確かだ

256:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/25 23:55:02 okVUlf8f
中二病ってキム信者のことだろwwwwwwwwwwwwwww

> 636 名前:名無したん(;´Д`)ハァハァ[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 21:13:44 ID:28s6kpFF
> カナリア好きは、「敢えて不人気なデコ出しキャラを好きな自分」が好きなんだろ^^
> 正直に言えよw
>
> 642 名前:名無したん(;´Д`)ハァハァ[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 22:20:16 ID:33NEsrw+
> >>636
> 確かに金糸雀信者ってそういう中二病っぽいイメージがある

257:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/26 11:23:36 jsvPnbE5
>>246
乙です
完全な番外編にみせて微妙にシリアスにアニメ本編と関わってるタイプのSS好きだ

258:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/27 01:27:58 UA0iph6O
ところで保管庫はいつになったら更新されんのさ?

259:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/27 03:02:55 ClSkyWXc
━ エピローグ ━



槐と薔薇水晶の誓いは、ラプラスに造りだされたアリスゲームと言う大舞台に幕を開き、
そして薔薇乙女達の、余りある紅の想いを受け切る事無く・・・儚く散っていった。

余りに大きすぎる刻(とき)の想いと、姉妹達の心の繋がりに・・・
全てのローザミスティカの想いを受け止めること叶わずに、その身を半壊させ父の名を呼び続けた、薔薇水晶。
最愛の娘がその全ての想いを受けきれず壊れてゆく様に・・・
半狂乱になりながら娘を抱きしめ、薔薇水晶の名を叫び悲痛な涙を流した、操られし影の創造主、槐。

共にその身を光の中に散らし、現世から消えていった。
あの男と水銀灯の魂が・・・旅立っていった様に。


 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・



260:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/27 03:16:38 rcwFFZu2
姉妹の命とも、想いの全てとも呼べるローザミスティカを奪い合う・・・
想いを受け継ぎ昇華の道を辿る果てに、穢れや醜悪とは無縁の美しき存在に孵化するアリスへと、
その身を花開かせる筈であった愛憎の舞台遊戯の終焉から、数ヶ月が経とうとしていた。


有巣川大学病院。

病院の窓が開いた一室に、その儚い美しさを湛えた少女は居た。
少女の名は柿崎めぐ。
胸に難病を抱え、死ぬことも叶わず、生きる事すら間々ならず、
死を夢見て、生を疎ましく思うその少女は、横たえていたその身をベッドに起こし、
窓の外の青空を見つめていた。その窓辺を、二羽の白い蝶が舞っている。

(珍しい日・・・こんな高い所まで蝶が昇ってくるなんて・・・)

そう思いながら暫くその空を見ていた柿崎めぐは、
やがて静かに、透き通る儚さを纏った綺麗な声で、誰も居ない薄い青の空間に話しかけた。

「ねぇ・・・もう、争う事なんて・・・・・・無いんでしょ・・・」

その言葉に、共にベッドにその身を座らせていた小さな“ 者 ”が、静かに答えた。

「・・・さぁ・・・どうかしらね」

その小さな姿には見覚えがある。いや、忘れる事など決してない。
その“ 者 ”は、真作のローゼンメイデンにして、真の燈(ともしび)である・・・あの水銀燈だった。

「ふふっ・・・やっぱり素直じゃないのね、水銀燈って」

柿崎めぐは、自分の左手薬指にはまる、薔薇をあしらった美しい指輪を嬉しそうに見つめながら、そう答えた。
その薔薇の指輪は、淡く薄い紅(あか)の暖かな光を柔らかく放っている。
まるで (もう・・・そんな事はしないわ・・・) と言いたげに、柿崎めぐの心に優しく触れる様に、
ほんのりと薄い明滅を繰り返していた。
水銀燈はほんの少し照れたようなそぶりを見せると、ベッドから立ち上がり、
背に生えた小さな黒い翼をそっと優しく羽ばたかせながら、開いた窓枠にその身を立たせた。
柿崎めぐは、水銀燈の小さな背中を少しだけ悲しそうに見つめながら、そっと問いかける。

「・・・また行っちゃうんだ・・・」

寂しそうなその問いに、水銀燈は首をすくめるようにして柿崎めぐに振り向くと、優しい目をして答えた。

「・・・散歩よ、散歩・・・まったく・・・そんな顔で見ないで欲しいわぁ・・・」
「だって・・・この前なんて二日も帰ってこなかったじゃない・・・」

「色々する事があるのよ。あのおバカさん達の近くに居るんだから、気が休まる訳ないでしょぉ?」
「・・・私の側じゃ、だめなの・・・?それとも・・・また何かするの?」


261:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/27 03:19:49 rcwFFZu2
不安そうな柿崎めぐの表情と問い掛けに、水銀燈はほんの少しだけ優しい笑顔を見せ、
背中を向けながらぶっきらぼうに小さく答えた。

「ちょっと・・・空が見たくなったのよ・・・高いあの空のずっと向こうが・・・だから、すぐ帰ってくるわ」

柿崎めぐは、
薬指にはまる指輪の暖かさが、先ほど以上に優しい暖かさに変わったのを感じ、
その答えがはぐらかしではなく、本当の事だと理解した。

黒い姿と黒い翼を持つ、美しく儚い、生きている少女人形。
黒い纏を持った、本当は光る心の白さと優しさを持つ、自分に遣わされた黒き天使。
あのアリスゲームから帰還した水銀燈の心が、より一層自分に伝わってくる。
以前の様な、悲しさと、切なさと、ぶつけようの無い怒りと、絶望の様な感情は、もう流れて来ない。
時には荒々しかった、泣き出しそうな感情の波はもう・・・穏やかな波に変わっている。
自分の心に、大事な存在への愛しさと慈愛の感情が芽生え、ここまで育めたのも、
この水銀燈が自分の側に居てくれたから・・・
そしてこれからも、きっと側に居てくれて、自分を導いてくれる・・・


柿崎めぐはそう改めて心に感じると、ベッドからその身を下ろし、


「そう・・・気をつけてね、水銀燈」


水銀燈の言葉に答えを返しながら、窓枠に立った水銀燈の小さくなめらかな頬に、優しく口付けを送った。

「!なっ?!なにを!・・・・・・?!」
「!?・・・・・・」

柿崎めぐからの思わぬ愛情に驚き、顔を赤らめて彼女の方に振り向く水銀燈。
その水銀燈の美しい赤紫のグラスアイに柿崎めぐの瞳が映り込んだ時、一瞬だが何かが心をよぎっていった。
自分が見た事もない、記憶にすらない、冴えない中年男の優しそうな微笑みが・・・よぎっていった。
柿崎めぐの脳裏にもまた、自分が見た事が無い水銀燈の姿が、
白いドレスに包まれ、本当に嬉しそうに微笑む水銀燈の笑顔が・・・よぎっていった。
ほんの一瞬のビジョン。ほんの一瞬触れ合った、感じたことも無い二つの心。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

水銀燈と柿崎めぐ。
お互い、瞳を見つめ合ったままだったが、互いの瞳に映るその像は今までと何も変わっていなかった。
何も変わらないお互いの姿。
しかし先ほどの姿は、どこかで知っているような気がした。
お互い尋ねあった所で何も判る筈など無い。だから聞く必要も無い。
柿崎めぐは水銀燈からそっと離れ、水銀燈は再び空の方を向いた。
そして水銀燈は自分の背に生える、黒く小さな翼を大きく開かせた。


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch