【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】 - 暇つぶし2ch1:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/24 11:00:42 uiySuxju
ここはローゼンメイデンの一般向けSS(小説)を投下するスレです。
SSを投下してくれる職人は神様です。文句があってもぐっとこらえ、笑顔でスルーしましょう。
18禁や虐待の要素のあるSSの投下は厳禁です。それらを投下したい場合は、エロパロ板なりの相応のスレに行きましょう。
次スレは>>950を踏んだ人が、またはスレ容量が500KBに近くなったら立てましょう。

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保管庫
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URLリンク(www.geocities.jp)
URLリンク(rinrin.saiin.net)

2:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/24 11:01:46 uiySuxju
は・や・く!

つ・づ・き!

は・や・く!

3:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/24 12:17:41 35EUoMFi
1乙

4:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/24 20:15:01 B4T/bGX5
>>1乙女
>>前スレラスト
真紅そっちいっちゃらめぇぇ!!!!!

5:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/25 21:33:42 Y18Ofy+V
ここって前々から誰か専用SSスレだよね!

6:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/25 23:38:01 L3yr4pUw
>>1
乙です

このスレは変な金糸雀厨に荒らされないといいなぁ

7:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/26 00:37:41 /xh01Jgy
続きマダー
たった二日の放置プレイに切なさ爆発で俺もそろそろ限界だずぇー

8:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/26 00:37:45 yqRgmVoM
>>6みたいな奴がいると初めて来た人なんかは本当に金信者が荒らしてるとおもっちまうんだろうな

9:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/26 02:20:17 NvK9Kv0Q
>>1
乙~


10:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:33:01 v+k5TiQ4
>>1乙です

152~164(一部カット、一部修正) 164~168(終わり)までいきます


152

僕は部屋から出して貰った。ローゼンは他にやらなければならないことがあるらしい。一体いまになっても何をしているのか、
考えるだに恐ろしい気がする。廊下に出るとスゥーウィーはもういなかった。
もし、薔薇乙女達がいまのローゼンの話を聞いたらどう思うだろうか?
みんな自分自身に誇りを持っている。みんな自分を生み出してくれたローゼンを愛している。でも、その愛は決して返されない。
頭が疲れきった状態で屋敷の廊下を渡り、角をまがって入り口近くまで戻ってきた僕は、壁際に腰掛けている真紅に一方的に
話している雪華綺晶を見かけた。
僕がローゼンと話しているあいだに、2人は屋敷のなかでふっと出くわしたのだろう。

「確かに、確かに、あの人間は普通ではない。マエストロの業も間違いはないでしょう。あなたは知っている…お父様は、
お父様は…あの人間を気にいっている。本当に気にいってるのです。」

真紅は放心状態のまま、ただ愛しげな瞳で末の妹を眺め続けているだけだ。
ほとんど自分の言葉が彼女の耳に入っていないことにも気づかずに、雪華綺晶は永延と話を続けていた。
またいま近くに僕がきていることにも気づいてはいない。

「アリスとしか会わないはずなのにお父様はあの人間と会った。はなしをした。関係があるといってもいいかもしれない。
お父様とあの人間のあいだにはなにかある。お父様はあの人間のためになにか心のなかで考えている。気になりませんか?
あなたはどうなのです?…何かが起こりつつある。そうです、お姉さま。あなたが知っていないことを私は知っている。
きっと…お父様は心が死にかけているように見えます。お父様の業は健全で、誰も適わない…私達に愛を注いで…考えが明晰で…
でも、その愛が壊れてしまっている。愛が壊れて…お父様はこうしたこと全てを憎んで、…憎んでいるのです!でも、私達のお父様は…
…あー…お父様は私達に手を触れる。分かりますか?…あの手、あの指先が…。お父様は真紅のマスターを気に入っている。
あの人間について何か計画している。アリスでない者に、会ったのですから。わたし?ちがう。ちがう。わたしはあなたを助けませんよ。
わたしがお父様に関わる役は降ろされた。かれがお父様に関わるのです。かれがお父様をたすけるのです。つまり…
もしかれがアリスの代わりに、わたしたちを止めたらどうなります?お父様は、あなたは、みんなはなんていうのでしょうか?
え?かれはドールを愛していた。強さだけが少女の気高さを決めるものでない。かれはマエストロだった。かれは計画をもっていた。
戦うことなんてまちがっていたの…?とんだ嘘っぱち!こうしたことすべてをひとつにまとめるのはわたしの役目なのかしら…?…
わたしが?……お姉さま、わたしを見てください。ちがう!あの人間がなすのです!」

11:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:35:10 v+k5TiQ4
155 - recut

激しいめまいが襲い、軽快で緩慢な死の香りがした。僕は死のうとしているのかもしれない。ここでアリスが完成しない限りは、
少なくともこのローゼンの世界からは絶対に出れないのだ。水分を渇望する喉…。

屋敷の廊下を、再びあてもなく歩き回る。残された命のエネルギー…ATPとADPの交換が行われ、着実に底へと近づきはじめる。
あいかわらず絵画の両側には、いろんな人を映した絵画がかざられている。

大きな部屋へといきついた。明かりも消えて、廃れてしまっている部屋だが、もしここが人の住処として正常な状態であったのなら、
たいそう豪華な部屋だったに違いない。部屋の隅に置かれた立派なピアノ、並べられた書棚、美しく凝った装飾の窓ガラス…。
この部屋で、薔薇乙女達四人が集合しているのを見つけた。みんな眠っている。壁に寄りかかり、翠星石は雛苺を抱いている。
同じく壁に背を任せ、真紅と雪華綺晶は肩を寄せ合って眠っている。少しびっくりする光景だ。草笛みつさんもそばで同じように
寝ている。

眠りを邪魔するのも悪いかなと思い通り過ぎようとしていたが、真紅が鋭く自分の気配を見抜いてきた。「ジュン…いるのね?」
「真紅」こうなっては仕方ないので、彼女に応じ方向転換する。
真紅は目を薄く開き、眠気と戦っているようだった。「お父様と…話したの?」次第に意識を取り戻し、動き出す。すると真紅の
肩に寄りかかっていた雪華綺晶が重力の支えを失い、すてんと床に落ちた。彼女もすぐに金色の目を開ける。
なぜなら彼女に真の眠りなどないからだ。
「ああ…、ローゼンと話してきたよ」そう薔薇乙女に話すことは、どうしようもなく心を申し訳ない気分にさせた。
また三日水も含んでいない喉から発せられる声は、自分でも驚くほど枯れていた。
「そう…」真紅は答え、視線を下を落とす。「どんな話を…?」
僕は昨日のかれとの会話を思い出そうとした。「お前たちには何が足りなかったのか聞いてみたよ…」
「お父様はなんと?」
「それは…」続きをいおうとすると、翠星石や雛苺までじっと僕を見つめていることにふと気づいた。みんなが僕の言葉に耳を
傾けていた。くそ…、これからの僕になにが起こるというんだ。「アリスに足りなかったものがおまえたちに足りなかったもの
だって…」
「そんなの答えになっていませんよ!」信じられないというように翠星石が悲鳴を上げた。「ふざけるなです!」
「翠星石落ち着いて」真紅がなだめる。「続きを、ジュン」
僕はうろたえた。この続きに真紅は希望を賭けているが、本当の絶望はこっからなのに。鋼鉄より重たい口が開かれる。
「アリスが…完成するまでは…薔薇乙女の…歴史は終わらない…って…」
「そんなのできっこありませんよ!」再び翠星石は言い、真紅のところへかけよると彼女の手を持った。「私の言ったとおりです。
真紅、私達はかえりましょう!いくらなんでもばかげています、こんなこと!ローザミスティカは新しい持ち主を拒絶し、
堪えきれず壊れ、また作り直される。そんなんでお父様は道は開けている、っていうんです。考えても見てください、真紅。
誰が気にするってんです?」
「…帰れなどしないのだわ」真紅の青い瞳は絶望の色をしていた。「帰ることなど…できないのだわ…いえ違うわ…帰るところが
ないのよ…」
「ジュン!お願いです」
今度は僕に翠星石の矛先が向けられる。僕はどきっとした。「お願いです、ジュン。もうこの糞溜めに梯子をかけられるのは
お前しかいないです、ジュン。お父様に言ってください。目を開けて、閉じ篭ってないで私達をちゃんと見てくださいって!」

アリスゲームの盤はすでに機能を失っていた。
薔薇乙女たちの交わす囁きにもはや意味はなく、うつろなる声だけがこだましていた。

12:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:37:20 v+k5TiQ4
156

「だが、なぜ……なぜすべてがだれかのものであり、おれのものではないのだろうか? いや、おれのものではないまでも、
せめてだれのものでもないものが一つくらいあってもいいではないか。時たまおれは錯覚した。工事場や材料置き場のヒューム管
がおれの家だと。しかしそれらは既にだれかのものになりつつあるものであり、やがてだれかのものになるために、おれの意志
や関心とは無関係にそこから消えてしまった。あるいは、明らかにおれの家ではないものに変形してしまった。では公園のベンチ
はどうだ。無論結構。もしそれが本当におれの家であれば、棍棒を持った彼が来て追い立てさえしなければ……確かにここはみんな
のものであり、だれのものでもない。だが彼は言う。"こら、起きろ。ここはみんなのもので、だれのものでもない。ましてや
おまえのものであろうはずがない。さあ、とっとと歩くんだ。それが嫌なら法律の門から地下室に来てもらおう。それ以外の所
で足を止めれば、それがどこであろうとそれだけでおまえは罪を犯したことになるのだ。"さまよえるユダヤ人とは、すると、
おれのことであったのか?」

人形師ローゼンは、手に古そうな本を持ち、その内容を床に腰掛け僕に音読していた。
僕はただ黙って聞いている。恐らくそれは日本の書物だとは思うが、僕がさっき初めて彼と会話したときに日本人と名乗ったことから、
彼はこの選出し読み上げているのだろうか。僕がもしイタリア人だと名乗れば、…あるいはアリスゲームの勝者が別の国の時代で
でたときの契約者がイギリス人だったら…彼は別の本を音読していたのかもしれない。

「…家……消えうせもせず、変形もせず、地面に立って動かない家々。その間のどれ一つとして定まった顔を持たぬ変わり続ける
割れ目……道。雨の日には刷毛のようにけば立ち、雪の日には車のわだちの幅だけになり、風の日にはベルトのように流れる道。
おれは歩き続ける。おれの家がない理由がのみ込めないので、首もつれない。おや、だれだ、おれの足にまつわり付くのは?
首つりの縄なら、そう慌てるなよ、そうせかすなよ、いや、そうじゃない。これは粘り気のある絹糸だ。つまんで、引っ張ると、
その端は靴の破れ目の中にあって、いくらでもずるずる伸びてくる。こいつは妙だ。と好奇心に駆られて手繰り続けると、
更に妙なことが起こった。しだいに体が傾き、地面と直角に体を支えていられなくなった。地軸が傾き、引力の方向が変わったの
であろうか?コトンと靴が、足から離れて地面に落ち、おれは事態を理解した。地軸がゆがんだのではなく、おれの片足が短く
なっているのだった。糸を手繰るにつれて、おれの足がどんどん短くなっていた。擦り切れたジャケツのひじがほころびるように、
おれの足がほぐれているのだった。その糸は、へちまのせんいのように分解したおれの足であったのだ。もうこれ以上、一歩も
歩けない。途方に暮れて立ち尽くすと、同じく途方に暮れた手の中で、絹糸に変形した足がひとりでに動き始めていた。するすると
這い出し、それから先は全くおれの手を借りずに、自分でほぐれて蛇のように身に巻き付き始めた。左足が全部ほぐれてしまうと、
糸は自然に右足に移った。糸はやがておれの全身を袋のように包み込んだが、それでもほぐれるのをやめず、胴から胸へ、
胸から肩へと次々にほどけ、ほどけては袋を内側から固めた。そして、ついにおれは消滅した。後に大きな空っぽの繭が残った。
ああ、これでやっと休めるのだ。夕日が赤々と繭を染めていた。これだけは確実にだれからも妨げられないおれの家だ。だが、
家ができても、今度は帰ってゆくおれがいない…」

13:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:38:53 v+k5TiQ4
「坊や、彼が何を言っているのか果たして分かりますかな?」
僕の前にラプラスの魔が屈み、指を立てて聞いて来た。
「彼が何を言っているか、坊やには分かりますかな?これは簡単な弁証法のたとえ。それも極めてシンプルな弁証法ですよ」
ラプラスの顔をこんなにも近くから見るのは初めてだ。
「さあ、坊っちゃん。クールに振る舞い、リラックスして、かれを理解するんです。至って簡単な弁証法…自分という存在の
位置づけは何処なのか帰るところとは何処なのか、突然朝目覚めたら巨大な虫になっていたことを発見しただとか自分から
自分の名前が逃げ出してしまっただとかそんな変異はまずございません…自分は自分であり続けます。あなたはあなた私は私。
この私がいるときあなたは私でないし私がいればまた薔薇乙女は薔薇乙女。あなたが他のだれでもない限り、あなたはあなた
という罪を担っている。これが弁証法の考えの例えですよ。よろしいですかな?その論理にあるのは愛と憎悪のみ。
愛するか憎しむかだけなのです…」
「黙れ!野良兎め!」
ローゼンは怒りに高ぶった声を出し、手に持っていた本をラプラスに投げつけた。「野良兎め…失せろ…フィールドの
目め…忌々しいフィールドの目め…」

するとラプラスは立ち上がりそわそわと僕の前からこういい残しながら立ち去った。
「それではそろそろ私はずらかるとしましょうか、ソーン。翌日道化師が汽車の踏み切りとレールの間で見つかったりしないようにね。
最後に人を怒らせたりすれば、兎は夜彼の息子のおもちゃ箱に移されてしまう」

ラプラスが部屋を去ってからしばらく。ローゼンも僕もずっと口を閉ざし、沈黙だけが流れた。
ずっと彼と一緒にただ同じ部屋にいる。自分でなにをすべきかは分かっていた。だが、そうはならなかった。
そうもしているうちに彼は本を床に置くと、僕の前から歩き去っていってしまったのだった。
一人その場に残される。

「あ、あれは…?」
そうしてローゼンがいなくなったことで初めて、僕は後ろで横たわっているある人影をやっと見つけたのだった。
それはドールショップの店主であり彼の弟子の、槐の姿だったのだ。ずっと闇のなかでローゼンの背中のうしろに隠れていた。

僕は理解した。
槐がもう呼吸をしていないことを…。酸素を吸い生命活動をしていないことを…。彼は死んでいた。
なにがどうしてこんなことになったのか何がしたいのが自分でも分からなかった。ただ顔と頬がどうしようもなく熱くなり、
僕は泣いた。老婆のように泣いていた。…槐と薔薇水晶。師であるローゼンに挑み、薔薇水晶を創り上げ、アリスを目指した
彼と彼女の願いと野望は、こんな形で終わってしまったのだ。自分でも悔しかった。どうしてこんなことに?槐は殺されてしまったのか?
でもだれが?どうして殺されなければならなかったんだ?槐の姿そして薔薇水晶の一途にアリスを目指し戦い続けた姿を思い出す
たび、悔しさで涙は増したのだった。
生まれて初めて、僕は神に本気ですがりたい気分になった。

だが神はおろかこには自分以外のだれもいない。床を這い、手をのばす。取り囲む闇ばかりが方向感覚を失わせ、
ついに体力の限界を悟ったとき、最後視界が完全に閉ざされるまでに見たものは、地に落ちてゆく自分の右手の先だった。

14:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:39:28 v+k5TiQ4
157 - recut

「あああ、おなかへったなの~」
急にぎゅうとお腹をならし、雛苺は床に転げて呟いた。「最近ずっとなにも食べていないのぉ~!」
真紅は無言で頷く。薔薇乙女の長い長い一生のうち数えるほどの、それは珍しい雛苺への賛同だった。
「私もここ最近紅茶も飲んでいないのよ…そうだわ!」急にポンと手のひらをグーで叩き、真紅は提案した。「姉妹みんなで
なにか食べられるものを作りましょう。鍋料理のような、みんなで楽しく食べれるものを!」
「さんせーなの!」
「な、なんか真紅が料理の話をしだすと危ない流れになる気もしますが、ここは翠星石も協力せざるを得ないのです。やってやりますよ。」
「みっちゃんさんもどうかしら?」真紅はみつも誘う。
「えっわたしも?いいの?ありがとう!」ここにカナもいてくれれば。みつはぎりぎりでその言葉を心にとどめたのだった。

15:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:41:23 v+k5TiQ4
160 - recut

「真紅~、とりあえず食べられそうなものいっぱい集めてきたなの~」どっかの見つけた来たのか、木製の小さなかごの中に、
見たこともない大量の植物っぽいのを入れて雛苺がやってきた。
「そう、雛苺。ではこっちに運んできて頂戴」真紅またやはりどっから取って来たのか鍋を用意し、蒔きとなる木を重ねた上に
設置している。鍋は、蒔きを囲むように置かれた三つの石に丁度支えられていた。
「いえっさ~なの」
雛苺が運んできたそれを見て、翠星石は面食らった。「それはなんです、チビ苺」
「きのこに、白菜に、」濃いエメラルド色の植物を指して雛苺はいう。「これはレタスに…」
「ちっげーですぅ!」翠星石は悲鳴をあげ、地を踏みしめた。「いったい何処の惑星からとってきた植物なんです?こんなの
毒はいってますよ毒。ローザミスティカを腐られる効能があるに違いありません」
「いいじゃないの、翠星石。気にしすぎよ」真紅があやしてきた。「お父様だってここにいるんだから、食べられるわよ。
さ、ホーリエ」名前を呼ばれた人工精霊が真っ赤に発光し、蒔きに火をつけた。すでに鍋の湯を熱し始めている。
「な…。ところで、真紅、その鍋の湯はまさか…」
「無意識の海から汲んで来たわ」
「闇鍋をするなんて聞いてませんよ!!」翠星石は叫喚した。
「あら、大丈夫よ。それに他にないんですもの」真紅は自信たっぷりに鍋の中の水をかき回す。「無意識の海だって熱すれば
無難な水ができるに違いないのだわ。知らないの、翠星石?向こうでも海の水は熱して塩分をとれば飲める水になるそうよ」
「そ、そんなバカな…」
「さ、雛苺、それらを入れてしまいなさい。いえ全てではないわ。鍋料理に適したものを私がこの目で選び抜いてみせるのよ」
「ああ…予感は的中したです…。真紅とその地獄の闇鍋パーティーが始まりました…」
「なんかいった、翠星石?」
「いえいえ、じゃあ私はだしになりそうなものでも探してきますよ」
そして踵を返し、進もうとした矢先 -「きゃあ!」翠星石の目の前になにかが空より隕石の如く落下してきた。
「掴まえましたわ!」
雪華綺晶だった。両手には、見たこともない鳥類が握られている。「これもきっと食べられますでしょう!」
「白薔薇はなんか肉系をとってきたですか…まあ雛苺のやつよりはましそうですね…」
「でかしたわ、雪華綺晶」
既に真紅の闇鍋の悪魔的儀式の準備は着々と進められていた。
鍋に入れられた怪しげな植物が湯の中でゆでられ、出てきたダシが湯を緑色っぽく染め始めている。
「さあ、その鳥をこの鍋に入れておしまい!」
すると雪華綺晶は顔を青ざめさせて退いた。「その鍋はなんですの紅薔薇のお姉さま?」
「名づけて…"真紅オブザハッピネス"よ」
やはり何処からひろってきたのか、小さなおわんの器にスープを入れて味見すると真紅は言った。
「いい具合ね。きっとおいしく出来るわ」

16:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:42:34 v+k5TiQ4
ところが、雪華綺晶は明らかにその鍋に恐れを抱いていた。「"真紅オブザダークネス"なのでは?」
「末の妹の癖に生意気な口を叩くわね」
味見を続けながら真紅は雪華綺晶を横目でにらみつけた。「さっさとこっちに来て座りなさい。姉の命令よ」
言われたとおりに、恐る恐る雪華綺晶は真紅の隣に座った。まるで未確認生命体を見るような目つきで鍋を眺めている。
不意をついた真紅の手がぱっと伸び、雪華綺晶の手から二匹の鳥を奪い取ると鍋の中に放り込んだ。
「あああああっ!」
雪華綺晶は声を張り上げ、信じられないという風に真紅を見つめた。「何を、何をなさるのです!?せっかくの鳥さんが!」
「なに、あなた、生で食べるおつもりだったの?」
真紅もまた非難するような視線で白い妹を見返す。「鶏肉は煮るとおいしいと思うのだわ」
「なんてもったいない!」
それから雪華綺晶は半べそかきながら身を乗り出し、鍋の中の可哀想な鳥さんたちを見つめた。
「肉は生で戴くものでしょうに?折角の新鮮で赤色の肉が廃れてしまう!」
「肉を生で…」味見しながらリピートし、真紅は雪華綺晶の口元を眺める。
それから、突然その口の中に人指し指を突っ込んだ。
「あがが!」急な侵入にびっくりする雪華綺晶。
「その獣のように尖った犬歯!」真紅はまさに指摘したその犬歯の上に指を置く。「それでも乙女なの?こんな歯をしてるから、
肉を生で食うものだなんていえるのよ!少しはハンバーグだとか上品で高潔な食べ方も知りなさい。あなた今までその歯で肉食獣でも
噛み切ってきたのかしら?」
「ふがーっ!がー!」雪華綺晶は反論しようとするが、歯の上に指が置かれてはうまく喋れない。
憤慨した顔をみせつつようやく真紅の指を口から追い出すと彼女は言った。「既に死んだものなんて喰らっておいしいのですか!?」
「まあ、呆れた!」口に手を添えて真紅は大げさに返す。「思考そのものが獣そのものなのだわ。雛苺よりひどい。やはりあなたは
雛苺より幼い妹ね。というより、幼さの次元がもはや人心を超えてしまおうとしているわ」
「それに、そっちのはなんなのです?」
しかめっ面で鍋の中の別の物体を指差す雪華綺晶。
「ジャ・ガ・イ・モよ!」真紅が言った。「そうだわ、鍋料理というよりシチュー路線なんてどうかしら?」
「…どうとでもするのがいいです」
雪華綺晶は言い捨て、その鍋から離れるとゴロゴロ野原を寝転がった。「ジャガイモ、お姉さまが食えばいいですわ」
また一口スープを味見しすると、真紅はため息をついた。「はぁ…、救いようがないわね…」

17:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:44:24 v+k5TiQ4
161

いまごろ現実世界では天と地がひっくり返っているのだろうか。真紅の闇鍋は成功した。
ドールたちはほとんど鍋料理をみつと楽しく食べ終えてしまった。もとより食材がよかったらしい。というより、唯一その場
の人間だったのみつがどうにか助けて、料理らしい料理になるようへと手助けしたのだった。
さすがに鳥まるごと鍋にいれたものはドールたちから遠慮されたが、耐え切れず結局雪華綺晶がそれを平らげた。その噛み砕きっぷり
はまたしても姉妹達を恐怖に陥れた。

「いやぁ、びっくりですよ。まさかこんな味が作られるなんて、鍋料理っておいしいんですね」満足そうに言う翠星石は、
まだどこかそれが信じ切れていない様子だ。「いまごろルーヴル美術館のなかでモナリザの顔が怒り狂っているんじゃないんですか?」
「どういういみ?これは必然なのだわ」口元を拭く真紅。「当たり前のことでしょ?」

「あれ、真紅は、それはなんです?」
まだ何か残されている長細いビンを翠星石は指差した。
「ああ、これは…」真紅もおもむろにそれを手に持ち、キャップをあける。「多分なんかの飲み物よ。紅茶はどうしても見つからないから
諦めたけれど、代わりにこれで喉を潤しましょう。さ、あなたも。」
「あ、真紅ちゃん、それ…」みつが警告しようとした時は手遅れだった。
恐らく酒瓶だと思われるそれを真紅は直接口に含んでいる。人形とはいえ10代前半の少女の為の飲み物ではないそれ。
真紅の口からビンが離れた。「ぷは…なに…これ?」
既に真紅の顔の頬は紅く紅潮し、視線が泳ぎ始めている。そして突然、こういった。「おいしいのだわ!」
「え?」
「ちょっとあなたたち!!翠星石雛苺雪華綺晶!こっちにきなさい。すぐに!」
まるで命令口調で言った真紅に2人ほどのドールが振り返ったが、いつもの真紅がそこにはいなくなっていることを悟るのはほぼ
それと同時だった。
「なにしてるの!くるの。い・ま・す・ぐ!」
「マイヤミコンサートでも開くのですかお姉さま」皮肉めいた質問をしてきた雪華綺晶にいきなり真紅がブチ切れた。
「訳の分からないこといってないできなさいっていってるの!!」声の勢いだけで雪華綺晶の白い髪がはためき舞い上がる。真紅は
完全に頭に血が上っていた。雪華綺晶の首を片手でつかまえ、足で彼女の左足を払うと手痛く彼女を野原にたたきつけた。
上から七体目を押さえつけたまま、真紅は自分の飲みかけのビンの残りを無理やり雪華綺晶に飲ませた。
「これで姉のほんとの愛ってのが分かるものよ!!」と真紅。すでに翠星石と雛苺は十分に2人から距離をとっていた。

ビンは空になった。終始見開きっぱなしだった雪華綺晶の目。
頬を紅潮させたまま、上からふっと真紅は悪女っぽく微笑みかける。「どう?最高でしょ?」
「あ…あっつ…」真紅をふりほどき、雪華綺晶は独りでによろよろ立ち上がろうと試みた。「体があつ…でし」
そうしても間にも真紅は二瓶目に手をかけ、やはり直接飲みしていた。もしかしたら本当にそれを心からおいしいとは思っていなかった
のかもしれない。だがアリスゲームを一度仮にも制して尚足りないといわれる自分に完全にぐれ、酒にあけくれるように堕ちて
しまった少女のようにそれは思えた。
「あっつ…胸が…あつい…」一方無理やりそれを飲まされた雪華綺晶はふらふらと野原をふらつきながら自分のドレスに手をかけて
いた。「熱い…脱ぎた…」
「あわわわわ白薔薇のやつほんとにやらかしそうです!」いつかした翠星石の予言をまさに七体目はその通りに実行しそうに
なっているのだった。
「どうせ見たいのでしょう!?」
よろめきつつかなりきている台詞を言い出す。胸の露出されている部分のドレスをはためかす。
「私が究極の少女になるかどうかより、そこを気にしているんでしょうが!そうですか!これが気になるのですね!レディー?
レディー?レディー?レー、レー、レー、レー、レー、レー、エあ!わお!wah!ah!oh!hah!」
「いえいえいえいえ誰も気にしてませんからもうこれ以上狂うなです!」

18:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:45:05 v+k5TiQ4
「waahh!」
真紅に続いて雪華綺晶まで酒が効き酔っ払い、完全に発狂してしまった。片脚でくるくる跳ねながら空に向かって絶叫する。
「ohコックロビン!ひとのこころを奪ってアリスに昇華ってなんなの?自分の手ですりゃいいのに!wah!woow!
愛?愛?愛?愛?愛?愛?愛?愛?ohブルシットどうせ私の踊る姿が見たかっただけだったのしょう??」
天を仰ぐように両手を持ち上げ、くるくる踊り出す。「踊ればいいのね。ohシット!ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる見える
見える話したいことはこれだけ!?」さらに驚くほどの大声が発せられる。「まわるわたしはまわるアリスゲームはまわるる
ゲームはまわるくりかえされるなんてなんて無意味なの!!ohシット迷子になる遠くはなれるまたあえる!ファックアップ
だれがとめるのこんなこと?ohおとーさまがとめてくれるの?oh-とーさま!6x[:xpo」
そこへ、同じく頬を真っ赤にして酔っ払い状態の真紅が加わった。「しんじてきたただ一つのこと!ずっとねがってきたただ一つのこと!
だれが一番叶えてくれるのかしら?何度も何度もいってるのに絶対わかってくれないのだわ!!」

真紅と雪華綺晶は泥酔状態のまま互いに肩を組み、続きを歌うように叫びだした。

「きいてくださいおとーさま!3le:¥ゲームのおきてに幻でないものがひとつもなかったのです!ともにいって、
死体を焼く蒔き「わたしたちは永遠の姉妹」となって一緒に燃え上がる「ずっとずっと、」のが「ローザミスティカ」美しい…
お父様のばかっ!なぜわかってくれないの??」

「うう…、真紅も白薔薇も2人してなんだかちょっと楽しそうです…」
きっと近いうち自分もそれになる。いやそれを望んでいるのだった。

「ぜぇ…はぁ…はぁ」真紅と雪華綺晶は力尽きたように床に手を就き、互いに離れた。「嘘だと知っていても…魂に火を点す…」
ふっとなにかに気づいた様子の雪華綺晶があれっと顔を上げる。「私に火が点ったら…融けてなくなるのでは…」
「いっそ融けてなくなりたいわ」真紅の首から上は真っ赤に高揚していた。いまそれを懸命に冷やそうとしている。「ああ…
一度くるってみるって…気持ちいいわね…自分が自分でなくなりそう。お父様はどこ?」
「だから、すぐ近くにいますよ」体を休めるように野原を転げ仰向けになって雪華綺晶が答える。「私なにを喰わされたのかしら…」
「はぁ…、はあ、そう」息を乱しつつ真紅は自分の手をみつめる。「はあ…わたしさっき…お父様のことをなんと…?」

もし四日前の真紅がいまの2人を見たりすれば、顔を手で覆うに違いない。そして何時間も鞄の中に閉じ篭るに心二つを賭けてもいい。
前の真紅もこうなることなんて望まなかっただろう。このような糞穴から生まれたことを知ったいまとなる前までは。

「そのミニスカートでドロワーズが見えないってどういうことなの、雪華綺晶?あなた、下着は履いているの?」
「やだ、そんなこと聞かないでください、お姉さまぁ」
雪華綺晶のミニスカートをめくろうとする真紅の手から、彼女は野原を転げて逃げる。
ローザミスティカもマスターもなかった。

19:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:47:42 v+k5TiQ4
162 - repaired

「はぁ……ねえ翠星石、雪華綺晶、それに雛苺も」野原に突っ伏した状態のまま真紅は姉妹達を呼びかける。「聞かせて頂戴…
いまのあなた達にとってのアリスゲームって、何?」
「私は…そうですね…いまとなっては、ですか…二度と繰り返したくない過去というか取り戻したい過去というか…です」
「もうアリスゲームはいやなの。でも、いなくなっちゃったかなりあや水銀燈や蒼星石にも戻ってきて欲しいの」
「虚偽な踊り」
「はぁ……」ドレスを地面に密着させたまま、真紅はため息をつく。「翠星石は正しいかも。アリスが完成するなんて夢の
また夢だったのかしら。私は疲れちゃったわ…。ねえもしかしてアリスゲームって、もともとちゃんとしたゲームとして成り立って
なかったんじゃない?」
「そ、そんな根本からひっくり返るようなこと言うなですぅ…」
「だってぇ…」へんな真紅らしくない声を喘ぎ出して、彼女は野原をまた転げていう。「ローザミスティカは集めすぎると壊れるしぃ…
新しい方法が見つかったと思えばそれも没ぅ…マスターたちと一つに繋がってもだめぇ…」
語尾を延ばして、まるで水銀燈のように真紅は喋っている。

「結局どうすればアリスになれたのか知りたいわぁ…。私のしたことは正しいの?お父様は何も告げては下さらないのよ。
いまだからいえちゃうけど…生きることは闘うことといってたのは…そうして自分の気持ちに逆らって私の意向をゲームの
宿命に向けさせようとしてただけなのだわぁ…本当は逃げたくて逃げたくて仕方なかったの…だって闘う建前でのうのう生きる
ことだって出来たじゃないの…ああお父様ぁ、どうしてお父様は私達にアリスゲームを課したの?」

「決まっているじゃないですか。アリスを完成させるためですよ」
「ああ…そう、そうよそう…そうだわ。すっかり忘れていたのだわ」ごろっと野原を転げる。「アリスゲームはどうすれば
勝てるんだっけ…?」
「方法など見当たりませんです」
「あら…?私としたことが、どうもおかしいわ。何も思い出せない。アリスゲームの勝者って何故そんなにも求められていたの
かしら?教えてくれる?」
「私達が大地に触れている限りは分かりっこない気がしますよ。これからどうしましょう、真紅?やけを起こしてないで、
大真面目になっていまこそそれを決める時です。アリスに孵化するか、家にかえるか。ですよ」

20:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:49:32 v+k5TiQ4
163 - repaired

僕とローゼンが再び対話するときがきた。
体力消耗で一度気絶した自分のもとへ、再びローゼンが闇の中を歩いて迫ってくる。

「お前は真紅と契約してそれ以来…アリスを求めた私の神聖なるゲームを見てきた…。私のアリスゲームを見たお前はそれと同時に
恐怖を味わってきた。幾度とない恐怖を…。生死の危機を、倫理道徳モラルの恐怖を…」

彼の姿は闇そのものとなっており、影と本人が逆転しているのではないかと思ってしまう。
その人の形をした闇の影…ローゼンは僕の目の前に腰掛けて問いてくる。「お前はその恐怖に陥れた真紅や私を憎んだことがあるか?」

いまこの状況で僕に彼と会話しろというのがあまりにも酷だった。きっと四日…四日たったのだ。飲まず食わずが。
枯れきった喉。長い間使われず衰退しきった筋肉の神経。それらを必死に目覚めさせて喋る。
「………僕は彼女達に…合えてよかったと思っています…」

「お前は私の作った薔薇乙女に出会い、真紅と契約し、アリスゲームを見てきた。お前はドールたちを…真紅を愛しているか?」

ローゼンは僕の目の前でじっと顔を見つめる。彼をこんな近くでみたのは初めてだった。こんなにも近いのに、金髪の髪が見える
だけで顔は完全に闇に隠されてしまっている。

「僕は…真紅と一緒に…アリスゲームを終わらせようと協力してきました。その過程で辛いことも…楽しいことも…思い出がたくさん
出来ました。彼女たちのおかげです…」

相手の目を発見できないまま交わすこの会話は、間に一線を引かれたような奇妙な空間での行いに思える。
ローゼンの顎が持ち上がった。なにやら奇妙な種のようなもの持ってを口に含んでいる。

「お前はどんな方法で私のアリスゲームを終わらせようとした?なぜ終わらせることを望んだ?ドールの中に、今頃アリスを諦めた
姉妹や私に会うことを恐れる姉妹が出てきているだろうか?人の愛に疑問を持つということの意味を知らない者に、アリスを
求め続けてきた私の数百年間を言葉で説明することは不可能だ。愛…愛にはその蔓に多くの棘を持っている」

手に見えない薔薇を横に持つような仕草をしつつ、ローゼンは続ける。「愛とは……呪縛だ。愛に捉われたとき、人は自由を失い、
同時にあらゆる目に入るであろうことを失う。愛という名の呪縛を解こうと…、相手の愛を求める心、渇望する心…支配欲、
愛への脅威、それらに必要なものが目に見えないとき…やがて人は愛の対象を殺すことで己を解き放とうとする本能に目覚める
ことがある。多くの人間が心の奥に持っている闇であり…獣であり…棘(いばら)だ。"心の棘"とは友にならねばならない。
棘を友に持ったドールこそが全てを殺し、アリスゲームを制することも出来た」

21:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:50:48 v+k5TiQ4
人形師ローゼンは間をおき、床の闇を見つめると、再び顔を上げなおし続けた。

「自分が真に生きるていることを明かす為には、愛することと殺すことを知らなければならない。誰かを愛することと、
同時に誰かを殺すことは生きることの本能だ。全てのドールに、お前にも、私にも愛する権利と殺す権利は盤によって与えられる。
愛し殺す権利はな...だが、愛と殺しを美化する権利はない。愛することと殺すことが噛み合わない"心の棘"は…相手と自分…
二つの魂が完全に相容れないときに生まれる」

ローゼンは一端話を止める。次の言葉を考えているようだった。

「本能のみに従って、人を愛し、殺すことの出来る透き通った精神を持つ者が愛の呪縛に捉われた自分自身を開放するために必要
だったのだ。だがその者は決して心と道徳、力の化け物なのではない。彼には愛に満ちていて、心があり..道義心も兼ねている。
誰よりも相手の愛を理解できる。相手の全てを本当に理解し…その上で、だからこそ、その相手を憎み苦しめようとすることでもなく、
哀れむことでもなく、戒めることもしないで、原始的な殺戮本能を発揮して殺せる者だ。それが実現したときのみ、彼は相手の
魂を自分のものとして得ることができるだろう。ドールを倒し、ローザミスティカを奪い自分のものにしたアリスゲームと同じに...
二つの魂は真の純粋さを以って融合できるのだ。それそのものになり、見て触ることが叶い、ついにそれは実現する。
だがもし相手の魂を十分に理解せず、或いは望まない死を相手に与えれば、魂は新しい持ち主を拒絶する。魂に拒絶された身体
と心は永遠に苦しめられるだろう。いかに愛しい存在であっても、愛する者を殺さなければならないとき…それを自分で美化
してはらない。美化せずに、感情を持たず、殺すことの出来る天性的な本能が求められる。なぜなら、有終という意識の瞬間
こそが愛において最っとも恐るべき心の棘の突き入られるところだからだ。」

僕の前でローゼンが顔を揺れ動かした。語調が変わる。
僕は、ローゼンがいま本当の願いを告げようとしているんだと察した。

「薔薇乙女達は、私の催したゲームの意味、私のなろうとしたものを理解できないのかもしれない。もし私が殺されなければ
ならぬ運命にあるのなら、少年…誰かが行って、薔薇乙女達を再生させてほしい…。私のしてきたこと、お前の見てきたことを
使って…なぜなら、ドール達は既に呪縛の連鎖を憎しみ始めているからだ。もしお前がこれらのことに真に理解できるなら…、
ジュン、おまえがそうしてくれ…わたしのために。」

22:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:54:51 v+k5TiQ4
164

久しい外。
ローゼンとの最後の会話も終えた僕は、久々に屋敷の外に出た。
四日ぶりの空…だが、この空もまたnのフィールドの夢のなかのものなのだ。

頭痛を覚えながらもどうにか階段をくだり、野原に出ると、四人の薔薇乙女たちと草笛みつさん、柿崎めぐさん全員が一斉に
集まっているのが見えた。

そのとき…僕はなんかのドラッグを口に含み、また新たなビジョンでも見つけたのかと錯覚した。

真紅と雛苺に翠星石、雪華綺晶の四人が両手を広げて鳥の真似をしながら輪を作って走り回っている。気高さもなにもなく、女児のように。
しばらく見なかった四日のあいだに、一体彼女達になにがあったのだ。互いに闘おうとする意思の糸は完全に途切れていること
は分かったが、それ以外の部分でも、ローゼンの予言と独白はアリスゲームのことを言い当てていた。

彼女達の走り回る輪の中心には、蒔きが燃やされる炎と、その上に置かれた鍋があった。僕のいない間に食事会でもあったのか?
鍋は既に空で、ドールやマスター達が既に食べつくしてしまったように思える。

「輪になってバラの花輪を作ろうよ。ポケットいっぱいのお花~」輪をつくりながら歌う雛苺。
「ハクション!ハクション!」その続きを真紅が歌う。まるで子供のようだった。
「みんな倒れちゃった。」最後雪華綺晶が歌うと、それと同時にいきなり全員野原に転んだ。一挙に崩れ落ちる四人。まるで
怪しい儀式かなんかを連想させる。

薔薇乙女たちは戻りつつあった。新しい姿を求めて。

「はぁ、はぁ」野原にぶっ倒れた真紅は息を荒げ、姉妹達に向けて聞いた。「次はなにする…?」
「鬼ごっこ~」雛苺がすぐさま言った。「鬼を決めるなの。イーニーミーニーマイニー・モ~、足の指をつかまえろなの~」
「もう疲れたから却下なのだわ。走りたくない」
「木登りはどうです、真紅?私の世界樹は手ごわいですよ」「落ちたら壊れてしまうわ」
「レミングスでもやりますか?」その次に雪華綺晶が提案する。
「レミングス?」野原に寝転がったまま真紅が聞き返した。「きいたことないわ」
「"自殺ねずみ"です」やはり仰向けになっている雪華綺晶がそれを説明しだした。「年に一度数が多くなりすぎたかれらは…
みずからの数を調節し生き残るためにその一部が自ら崖から海に飛び込むのです。少数を犠牲にして大数を生き残らす賢いかれら」
「薔薇乙女が自殺するの?あっちの岸辺から列を成して無意識の海に飛び込むの?もっと静かで無難なものにしない?」
結局次の遊びが浮かばず、全員沈黙していたところ。

「ねぇねぇななばんめ、七番目は何でできているんだっけ?」雛苺がいきなり身を乗り出し、野原を転げる雪華綺晶に
むかってききだした。「からだが普通じゃないんだよね?七番目って。アス…えっと…アスファルト体でできているんだっけ?ね?」
雪華綺晶は何かに噛み付かれたように天を見上げた。"アストラル体"です。道路のコンクリートと一緒にしてくるなんて。
一度真紅に破れ、敗者となったのにも関わらず、真紅の下僕となってまだ動いていることを水銀燈が"姉妹が怒っている"と言った。
その水銀燈がもし、一度死ぬ前にマスターと契約していたのならば私はいまごろオディールと契約して、あなたを孤独の底に
放り落として最後喰らってやったところなのに。あるべき姿に戻していたのに。そういう意味では…自分にとってすれば水銀燈
も十分神聖なアリスゲームを穢していた。マスターとも契約せずにゲームを戦う?
いえ。
もうゲームの盤のことは考えても無駄だった。もっと新しい、別のことが始まろうとしている。
「甘いおさとう、すぱいすに他すてきなものすべて。そんなもので私はできていますよ。雛苺」雪華綺晶は答えた。
「だから七番目はそんなにしろいんだ…」
雛苺は本気にしているようだった。「あっ!」それから、急に目を輝かせて他のなにかに興味を移す。

23:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 22:57:14 v+k5TiQ4
「ジュンなのー!」久々にでてきた僕に最初にきづいたのは、雛苺だった。駆け寄ってくる。「ジュンが戻ってきたなのー!」
雛苺は顔に満面の笑みを作り、僕の足にしがみついてくる。
やめてくれ…もう体力がないんだ。僕は棒のように立っていた。「ジュン!ジュン!」彼女はやめない。
「ジュン、しばらく見なかったわね」真紅や翠星石までやってくる…視界がぐらつき、地軸が揺れる。「ジュン…」
僕は、バタとその場で槍に貫かれたように倒れた。

「ジュン!」
真紅がすぐに駆け寄ってくる。
「あ、ああ…大丈夫…だが、ちょっと横にさせて…」
野原を背に倒れ、空を虚ろに見上げる僕の顔を、心配げに見つめる真紅、雛苺、翠星石の目。そしてすっと出てきた7つめの目
だけが嘘を僕に向けていた…。そう、僕を心配する六つの目は、もう一つのことを僕に迫っていた。もう分かっていた。

そして、全てが一つにきちんとまとめられる方法も分かり、それは許可されている。

「お父様と…話してきたのね?」
「ああ…真紅」
弱りきった体で、僕は答える。
この目は完全には開かれていない。頭痛はさらに激しくなる。
「真紅…水銀燈の剣を持ってきていたよな。あれはどこにある?」
唐突で突飛な質問に、一瞬真紅の青い瞳が戸惑いに見開かれた。しかし程なくして、おろおろと真紅は答えた。
「…無意識の海のちかく、浜辺のほうに…」
「そうか。体を起こしてくれ…」僕は手を伸ばし、真紅にそれを引っ張ってもらった。立ちあがり、いつまた倒れてもおかしくないと
自分でも分かるほどのがくがくした足取りで、僕は浜辺を目指して進む。
一歩一歩すすめる毎に両足はひどく痙攣していた。まるで故障したロボットのような歩き方だ。

「真紅、真紅、ジュンは一体なにをするつもりなんです、これから?水銀燈の剣を持ってどうしようというのですか?」
翠星石は真紅の横に並び、問い掛けた。
「始まるのだわ……これから。"解決が"」
真紅の青い目には恐怖と確信、ディレンマを兼ね添えていた。

「"ジュンが薔薇乙女長女の剣を使って、解決をもたらす"」

その言葉を受け止め、ついに理解した翠星石は石のように固まった。「…いまはじまるのですか…?」
「…いまよ。」恐らく翠星石と同じ恐怖を真紅は味わっていた。「いま。時間の猶予はきえた。ジュンはもう動き出している」
真紅の目を、に翠星石や雛苺、雪華綺晶が取り囲むように見つめていた。

「歌がはじまる。それは私達にも奏でられる、終わりの歌よ…」

24:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 23:03:18 v+k5TiQ4
165 - end

これで僕も元の世界から完全に離れることになる。だが僕はもう糞みたいな人間世界の制約に縛られるつもりはなかった。
僕が習ってきたことは決して紅茶の入れ方だけではない。
薔薇乙女達は自分を探しながら成長していた。
アリスを忘れ、乙女として始め出した彼女達は自らの原点を探していたのだった。ここから始まった、0からの新しい成長を。

真紅、翠星石、雛苺、雪華綺晶は野原で再び鍋の回りに集まっていた。その中心で雪華綺晶が両手に氷のステッキのような
棒を握り、鍋をしきりにリズミカルに叩いている。氷と鉄の奏でる、原始的なドラム音。それは再生の祭祀に思えた。
そのドラム音がけたましく鳴り響くなか、真紅と翠星石が頻繁に口を開き、なにかの言葉を交し合っている。だが2人が何を
話しているのか僕には聞き取れなかった。

"誰もが僕にそうすることを望んでいた。"
中でもローゼンがそれを強く望んでいた。彼は屋敷の中で、僕が蔓の棘の苦痛を取り除いてやるのを待っているように思えた。
同時に彼の魂を理解し受け入れることの出来る、真に純粋の存在の到来を求めていた。

第七ドールの叩くドラムの音のテンションが高まる。取り囲む薔薇乙女たち。
その音楽は、はっきりとこう主張していた… "Father?"  "yes , son?"  "I want to kill you ..."

ローゼンはただ望んでいた。棘から解き放たれることを。ただの、自分の作った人形に殺し合いを課した悪趣味な人間ではなく、
人形師としてアリスへの夢を残しつつ、きちんと人形や人間の為になって去りたいというのが彼の望みだった。
薔薇乙女たちもまた、救いの手を求めていた。薔薇の魂の開放を。

無意識の海に身をゆだねる。全身を包む冷たい感覚と彼の記憶の溶媒。全て彼のものであり、無意識の海のものである。

みんながローゼンを心から愛し慕っていた。姉妹達にはそれが出来なかった。アリスゲームの存在と共に自分のすべきことを失い、
ただ呪縛のみが残されたとき、そのしがらみの棘から己を放つ為の原始的で真に純粋の心を持てなかったのだ。

"Mother?..."

nのフィールドそのものさえ、彼の呪縛からの開放を望んでいた。
ローゼンが宿命を受けていたのは、アリスですらあり、紛れもなくそのnのフィールドであったのだ。

"I want to .... fuck you"

ジュンは無意識の海から顔をだした。その瞬間フィールドに雷が打たれ、迸る光が海のジュンの姿を浮き彫りにし、人形師ローゼン
に約束の刻の到来を知らせた。終わりが始まったのだ。
ジュンは陸地にあがり、水銀燈の剣を右手に取った。剣にはいまだ乾いた血がついている。また彼には理解出来ない文字がそこには
刻まれていた。

25:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 23:06:09 v+k5TiQ4
第一ドールの剣。

その剣を地面に突き立て、ジュンは膝をついて屈むと、しばらくこれからのことを黙想した。
やがてそれを終えると目を開け、自分の手のひらを見つめつつ、ゆっくりとその場で立ち上がった。
原始の姿に変身しつつ首を上げ、フィールドの空を覆う渦巻く雲を見上げる。
目に見えぬ子供達が歌を歌っている。かもめのように声をあげている。
もう一度雷がフィールド内に打たれると、それに呼び醒まされたようにジュンは動き出した。

    come on , baby take a chance with us...

   "さあ…、おれたちと一緒にやろうぜ…さあ、おれたちと一緒にやっちまうんだ…"


 《姉妹達やマスターとの絆なんて馬鹿げているわ。くだらない戯言。世界に必要なのは私とお父様だけ……》

 《お父様が愛しくて愛しくて…殺したい程愛しくて…狂うほどの愛はやがて壊れて 別の感情に変わってしまった》

 《大切なのは姿なのではなく、存在そのもの。お父様はお父様なのだわ》


    come on , baby take a chance with us...

   "さあ…、おれたちと一緒にやろうぜ…さあ、おれたちと一緒にやっちまうんだ…"

ジュンの目に涙はなかった。
小走りで野原を通り過ぎていくと、一瞬雪華綺晶とじゃれあう真紅と目が合った。真紅はジュンが水銀燈の剣を持っていることに
気付いたが、何も言わなかった。隣の雪華綺晶だけがジュンに意味深に微笑みかけていた。ジュンは素早く2人の横を通り過ぎる。
階段を駆け登る途中で、次に雛苺とその髪を楽しげにいじっている翠星石を見かける。一瞬だけ翠星石と目をあわせると、
すぐに翠星石はジュンから目を逸らして深々と目を瞑った。

         come on,baby take a chance with us!

     And meet me at the back of the Blue bus Doin a Blue

     rock On a Blue bus Doin a Blue rock Come on , yeah... 

   "青色のバスの後ろで落ち合うんだ 青色の岩にしたがってやるんだ さあやっちまうんだ…"

ジュンは階段を登りきり、屋敷の入り口に吸い込まれるように入っていった。
屋敷の中に明かりはまったくついていない。ジュンは闇と一体化しながら剣を右手に持ち屋敷の中をつき進んだ。
雷鳴が再び轟き、屋敷に入り込む光がジュンの行く先の道を白く照らす。その白い印を追ってジュンは通路を進む。
外では子供達が歌っている。さっきと同じ所と思われる部屋から、ローゼンの声がこちらへ聞こえてきた。

「ドール達は…命を持っている…だが偽物…偽物なんだ…その器が人形である限り…。器がない幻は神秘だ…しかし…命はない…」

ローゼンは地面に座り込み、頭を両手で抱えながらぶつぶつ独り言をいっている。
扉の前にたち、部屋の中に入ると、ジュンはローゼンに近づいていった。

剣を両手に持ち直す。暗闇の中に浮かぶ薬指の指輪が赤く発光する。
ついに忍び寄ってきたその闇の影に気付くと、ローゼンは独り言をやめて首を上げると気配のした方向にゆっくりと顔を向けた。
彼の前には闇の中にそそり立ち、深呼吸をして剣を握りしめる漆黒の姿のジュンがいた。
闇の最終点で最後2人の目が会う。

《どうして人形を作っているの? それはね…》

ジュンは剣を片手で持ちあげると、勢いつけてローゼンめがけて振り下ろした。

  come on with me!

  "俺とやっちまえ!"

26:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 23:09:05 v+k5TiQ4
同じころ、外の薔薇園では四人の薔薇乙女がラプラスの魔を取り囲みそれぞれの道具で寄ってたかってかのアリスゲームの案内役を
殺しにかかっていた。雛苺の蔓に捕まったラプラスの腹を雪華綺晶の氷の剣が裂き、真紅のステッキが頭を殴り、翠星石の如雨露が
腰を砕いた。ラプラスは抵抗もせずに殺されていく。

生存本能の働いたローゼンは床を転げ、振り下ろされる剣先から逃げた。水銀燈の剣が地面を叩き火花を散らす。
ジュンは剣を振り上げると再びローゼンに襲い掛かった。ローゼンは転げてよける。剣がまた地面にあたる。
さらにもう一度ふり落とされる剣先から逃げると、人形師ローゼンはジュンの腕の下を掻い潜り体を起こした。
闇と同化した神の姿がジュンの目前に立ちはだかる。

  all right!

 "いまだ!"

ジュンは殺人本能を全開にさせて剣を振った。ローゼンの身体に剣身が食い込む。
まだ足りない。ジュンはローゼンの体から剣を引き抜くと、二度目両手で思いっきり今度は腹に剣を食い込ませた。
鈍い音が鳴り、彼の腹部から赤い血の飛沫が飛び出す。その反動で死を味わうローゼンの表情が一瞬暗がりから明るみに出る。
ジュンはさらに剣を腹から引き抜いた。血の色を再び帯びた水銀燈の剣が赤く煌き、闇の中で鋭い光を嬉々として反射する。
改めて剣を振りもう一度斬りつける。ゴッと音が鳴り、流れ出る血の量が増す。さらにもう一度差す。ローゼンの影の形は崩れていく。
剣を持ち替え、別方向から振る。血だらけになったた彼の顔は目を瞑っていた。

     yeah!

    "いいぞ!"

水銀燈の剣に切り刻まれたローゼンの身体はバランスを失い、ふらつき床に倒れ込んだ。
子供達の歌声が大きくなり、行為は絶頂に達する。…人形師は生の極点にいきついた。

    kill , kill , kill , kill , kill , kill , kill ,

    "殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、"

ラプラスの魔の腹には裂け目が開いた。中身にはぬいぐるみのように綿がつまっている。容赦なくその裂け目に追撃を食らわせ
裂け目を大きくする雪華綺晶。真紅も、翠星石も無言だった。ラプラスの魔の首がこぼれ落ち、横たわっていく。もう一度氷の剣が
振られると完全に胴体は真っ二つに割れた。


        kill...

     "コロセ.."

そしてジュンは部屋をあとに出で、ただ呪われた空を見つめるのだった。

27:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 23:09:59 v+k5TiQ4
166 - The rozen end

血まみれになって横たわった人形師ローゼンは最期、つぶやくように、
「アあ…やっと…休めるのだ…だが、今度は…帰っていく私がいない…」
とことばを言い残し、やがてもう動かなくなった。

彼の身体がついに息絶えたその闇の奥より、生暖い風が勢いよく空間を吹き抜けた。

28:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 23:11:26 v+k5TiQ4
167- finale

光の消え失せた暗黒の屋敷の廊下。ジュンは自分の人生全ての体力をここで消耗しきってまったような足取りで歩いた。
視界が揺らぐ。向こうへ続いていく廊下がねじれている。
満身創痍。手を壁ついて体を支え、一歩一歩ごとにふらつきながら、必死に進む。
壁の両側に飾られた絵画が自分を見つめている。ロウソクのおぼろげな明かりだけが頼りだ。

身体の重度に衰弱した、亡霊のような状態でジュンは長い間歩き続け、ようやく目指していた場所へ辿り着いた。
そこは先ほど見たローゼンの人形師としての、光のない暗い作業場だった。そこにもう一度入る。
作業場にはいってすぐの机。そこに先ほどにはなかったものが、今はあった。

一枚のメモと、そこに書かれた文字。日本語だった。

  "全ての薔薇乙女を殲滅させ、アリスゲームを振り出しにせよ!"

ジュンはそのメモに目を通す。
そしてそれとは別に、彼はローゼンの作業場から幾つかの裁縫の道具を手に取りだした。道具一式を裁縫箱に詰める。
それを終えると足を引き擦って作業場をあとにする。また長く暗い廊下を進む。疲労は限界を超えていたが、すでに身体が
呪われているのが分かる。ついにジュンは屋敷の出口を見つけ出し、扉を通り外に出た。
世界は変わっていた。
灰色に広がる曇り空が迎える。ジュンは広大なバラ園を前に立ち尽くした。

彼はすでに四人の姉妹達がバラ園に集まって、ラプラスを囲って殺しを済ましていたことを発見した。
対する四人の乙女たちも顔をあげ、階段の天辺に忽然と姿を現した人物を見つめた。

右手に握られた血の滴る剣。頬に縫わされた血の赤い跡。左腕には、自分達の一部を創ったものであろう道具を敷き詰めた裁縫箱が
抱えられている。ジュンが闇に隠れてそこには立っていた。

真紅、翠星石、雛苺、雪華綺晶はそのジュンの姿をただ呆然と見上げていた。何が起こったのかは歴然とていた。これが真実だった
のだ。フィールドの空は暗く曇っているが、わずかに差し込む光がジュンを照らしている。

四人の姉妹のうち、真紅が先立った。腰を下ろして地面に膝をつき、ジュンに対してひざまずく。
その輪が広まっていくように、翠星石もおもむろにそろそろと跪いた。隣の雪華綺晶も片膝をゆっくりと地面におろす。
なにか恐ろしい変化がおきたことに不安を覚えながらも、雛苺も姉妹達に則った。人間であるみつもめぐも。
六人全てが階段の上のジュンに対して跪き、誠意を示す。

29:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 23:12:54 v+k5TiQ4
真の純粋な魂は承認された。

ジュンは上から彼女たち六人おのおのを睨みつける。
そして階段をニ、三段ほど下ったのち、血に赤くきらめいている水銀燈の剣を手から放り投げた。
剣は宙を飛び、下の階段に落下すると金属音を打ち鳴らしながら数段下まで転がり落ちては止まる。

乙女達は再び立ちあがった。
ジュンに呼応し従うように、真紅、翠星石、雪華綺晶がそれぞれの武器を手から離す。
剣、ステッキ、如雨露…各々がゆっくりと地面に置かれる。雛苺が蔓を体から切り離し、その蔓が野原に垂れ落ちる。
彼女達は全て武器を放棄し、無防備となった。

それを確認したジュンは階段を下りきり、無言で姉妹達の輪に近づいていった。彼はまだ唯一指輪を手に嵌めたままの雪華綺晶に
目を留めると、彼女の左手をゆっくり持ち上げた。雪華綺晶も大人しくされるままになっている。ジュンはもう片方の手で七体目の
指輪を丁寧に抜き取り、自分の裁縫の道具の箱のなかに入れた。こうして、薔薇の指輪を持つ姉妹は誰一人としていなくなった。

だがジュンの左手のみには、まだ嵌められた指輪がそのまま彼の指に残されている。

彼は自分の裁縫箱のなかに入れた七体目の指輪に、ドイツ語ともヘブライ語ともつかない言語で次ような意味の文字を刻まれて
いるのに気づいた。

  "槍の長女に対する末の妹は、杯"

するとジュンは今度、柿崎めぐのもとへと寄った。手に黒い羽一枚を取り出して、めぐの手にそれを持たせる。
「優しい嘘も微笑みも終わり…私達が死ぬはずだった夜もまたもう残されてはいない…」

記憶のクエスト - 探求と再生は終わった。
ジュンはバラ園に立ったまま首を別方向に向け、どこか遠くを見つめ出すと、そちらに向かって歩き出した。
雛苺と翠星石は不安げにジュンを見上げる。
それでも姉妹たち四人は左右にどき、ジュンに道をあけた。
ただの一言の会話も交わすこともなく、ジュンはその間を横切り、一人バラ園から遠くへと離れていく。
バラ園に取り残された四人。これはジュンの意思によるものだ。
彼女たちは彼の後姿を見送りつつ、互いに顔を見合わせたが、やがて結論が出ると静かに、乙女達はそのジュンの背中を追い始めた。

背後に乙女達がついてきているのをしってかしらずか、ジュンはまるで人間のものとは思えないおぼついた足取りで
フィールドから出て行った。

彼の現実世界へと帰っていった。


"だが..今度は帰っていく私がいない..."


30:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 23:14:10 v+k5TiQ4
168 - crezit

誰もいないnのフィールドの夜。真っ暗闇の屋敷と、広大な薔薇園。

そこに浮かぶ薔薇乙女の煌く人工精霊たち。メイメイ、ピチカート、スィドリーム、レンピカ、ホーリエ、ベリーベル、スゥーウィ。

七つの光の球は夜の薔薇園の上を自由に飛び回っていたが、やがてそれぞれ特徴のある光の軌跡を描きながら、徐々にフィールドの
上空へゆっくりと集まっていった。
人知れず行われる夜の美しい光たちの演劇。

人工精霊たちは互いに近づいてゆき…ついに上で融合すると、一つの光りの点となった。その瞬間…新たな天体が生まれた。
真っ白な閃光が煌く。白い閃光は爆発的にフィールド中を包み込み…あろうことか、フィールドを破壊し始めた。
これは人工精霊が七つ同時に集まったときのみに行うことができる秘密の儀式…アリスゲームのハルマゲドンだった。
枯れの野原が、薔薇園が、中庭が、全てが爆破され炎上する。

<作中使ったサイト、スクリプトなど>
・AmbigramMatic
URLリンク(ambigram.matic.com)
・LiveDoor ドイツ語翻訳
URLリンク(translate.livedoor.com)
・OWN-AGE.COM online gaming media and resources
URLリンク(www.own-age.com)<)

ローゼンの屋敷は強烈な白光に晒され、ついに音を立て発火した。
窓ガラスが、壁が、柱が…あらゆるものが白銀の炎に包まれ燃え上がっていく。
屋敷の中でローゼンクロイツの絵画が炎に焼かれ、壁から剥がれ落ちる。
炎はいたるところへ燃え広がり、文字通り地獄の煉火となっていった。何もかもを焼き尽くし喰らう。そして無に返す。
薔薇園の方では、燃やされた薔薇の花弁が無数の火の粉となって飛び回り、やがて闇の中に消化されていく。

<作中参考にしたサイト、小説>
・RozenMaiden-Wikipedia
URLリンク(ja.wikipedia.org)
・Marathon.bungie.org(game)
URLリンク(marathon.bungie.org)
・闇の奥
URLリンク(www5.big.or.jp)
・フリードリヒ・ニーチェ -WikiPedia
URLリンク(ja.wikipedia.org)
・世界樹 - wikipedia
URLリンク(ja.wikipedia.org)
・マザー・グースの中の歴史
URLリンク(mothergoose-room.com)
・『ロック講談:ジム・モリソン』其の七【水晶の舟】
URLリンク(soulkitchen.blog6.fc2.com)
・クリストファー・マッキントッシュ『薔薇十字団』
URLリンク(www.isis.ne.jp)
・小説「天使と悪魔」
URLリンク(ja.wikipedia.org)
・DanBrown.com
URLリンク(www.danbrown.com)

31:Rozen Maiden LatztRegieren Ⅷ:弑殺 The End
07/12/27 23:15:21 v+k5TiQ4
屋敷の壁は大炎上し、どんどん形を崩していった。
不気味な軋みと唸りの轟音をあげて壁は崩壊し傾き倒れ、砂塵が舞い上がる。
暗闇のさなか、目も眩む白光のフラッシュが煌き、屋敷の中から大爆発が起こる。煙を上げて外部の壁を吹き飛ばす。
燃えた破片が飛び散る。光の軌跡を描きながらそれは宙を飛び、やがてゆっくりと降下を始める。
そのあいだにもフラッシュは連続的に何度も何度もあちこちで起こる。壁の断片が四方散り散りに砕ける。
巨大な建物が脆くも炎に包まれ崩れ落ちていく破壊の饗宴。

<作中登場した音楽>
・マザー・グース - Who killed cock robin? (邦題:誰が駒鳥を殺したか) phase39
URLリンク(home.att.ne.jp)
・マザー・グース - London bridge is falling down (邦題:ロンドン橋落ちた)phase77
URLリンク(home.att.ne.jp)
・シューベルト - Erlking (邦題:魔王)
URLリンク(jp.youtube.com)
・ワーグナー - ワルキューレの騎行 phase57
URLリンク(jp.youtube.com)
・LinkinPark - Numb(邦題:無感量) phase85
URLリンク(jp.youtube.com)
・ドボルザーク - 新世界 phase93
URLリンク(jp.youtube.com)
・John williams - Battle of the heroes(邦題:英雄達の戦い)phase100
URLリンク(jp.youtube.com) 
・The Doors - Break on though(邦題:突き抜けろ) phase108
URLリンク(jp.youtube.com)
・The Doors - The End(邦題:ジ・エンド)phase61,phase165 - end
URLリンク(jp.youtube.com)

まさに世界が炎に包まれ終わりを告げようとしているとき、七色のこんぺいとうのような光の粒の雨がそこには降り注いだ。
紫色や赤色、緑色や蒼色…黄色に桃色…美しい光の雫がゆらゆら舞いながら空より落ち、白銀の炎の海に飲まれていく。
一つ残らず炎と焼かれたローゼンの屋敷と薔薇園は、その炎そのものと一体化した。
残された屋敷の柱や瓦礫が焼け落ち、溶け込む。銀色の炎に飲み込まれては一つとなる。

そして……炎は少しずつ小さくなり始めた。

何もかもが炎と同化し、全てが白く燃え尽きた後には、微塵の闇も残っていなかった。

32:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/27 23:54:57 1qTn0CKb
スレを私物化してた糞作品がようやく終わったか
よかったよかった

↓ここからカナのSS

33:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/28 00:25:42 b2A8p2+W
終わってしまったか・・・
>>10-32
毎回楽しみにさせて貰ってました。相変わらずローゼンが再開される気配は無いのにここまで熱意のこもった秀作を最後まで書ける人はなかなかいないよ。
本当にお疲れさん。

34:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/28 00:30:31 nBR+7zdx
お、終わったのか?
>>31
乙!
まるで映画でも見ているかのような展開。
ラストはニーベルンゲンの指輪のような情景。
その描写だけでも凄い。

ただ、頭の悪い私はもう2回くらいはじめから読まないと
伏線やらなんやらが理解できそうにないorz

とにかくお疲れ様。

35:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/28 00:41:03 ykNl1D9w
金糸雀が主役のSSが読みたいかしら~

36:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/28 00:47:01 b2A8p2+W
ごめん間違えた・・・
>>10-32じゃなくて>>10-31ね

>>32はいつもの粘着犯だった

37:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/28 11:07:26 1UyE3fSg
いや本当にお疲れ。これだけ書くのは凄いよ。もういっぺん頭から読んでくる
しかし俺も一年くらい放置してるやつ仕上げんと

38:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/28 14:46:07 cIa2YQHe
↓ここからカナのSS

39:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/28 23:53:15 F4g+0xeQ
>>10-31
あ~とうとう終わっちゃったか。。。だが100万回GJと言いたい!
正月は暇だから俺ももう一度最初から読んでみるよ
大作お疲れ様でした

40:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/29 02:30:32 35dBtT3o
作者の自演賞賛レスうぜぇ

↓カナのSSよろ

41:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/29 04:05:49 xhURW6Q3
作者からすればマジ哀れな奴に見えるんだろうな自演とか言ってる池沼は

42:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/29 04:08:03 VBeElfW9
後書きキボン

43:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/29 04:24:38 gRYnENTK
超大作の完成乙。
ところで、ラストはJUM以外の人間の帰還過程も明示的に書いてもらわないと、何か落ち着かず。。。

44:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/29 14:24:35 35dBtT3o
↓ここからカナのSS

45:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/29 15:15:12 X22j84Pi
人気最下位のゴミ人形のSSなんかお前以外誰も望んでないよ

46:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/29 17:48:28 861MPa1J
また金糸雀信者が暴れてるのか…

47:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/29 18:39:15 35dBtT3o
アンチ必死だな
カナのかわいさに嫉妬してるんですか?www

48:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/29 23:42:53 ij+9nQyN
痛い金糸雀信者に荒らされているスレがあると聞いて飛んできました

49:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 00:13:43 9uq28c6L
このスレに投下が少なくなった理由

×一つの作品がスレを独占状態だから
○みんな金糸雀厨に嫌気がさしたから

50:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 00:28:11 AXm4NXfh
たしかに金糸雀は書きづらくなったな。金糸雀厨のせいかどうかは別にして
正直あんまり長いんでアンチの一人芝居なのか厨の仕業なのかそれとも何か
別の第三の勢力があるのかわかんなくなってきた
まぁ俺の場合最大の理由は単に書けないからなんだけどな

51:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 00:57:14 xhskCrJf
カナのSS書こうと思ってもこういうクズがいるから嫌気がさして書く意欲無くす
いや寧ろカナ信者のフリしたカナアンチでワザと荒らすことで意図的にカナSSを書かせない魂胆なのか
だとしたら見事に術中に嵌ってるな
まあ書いたとしてもこんなのカナじゃねえ 三流クズSS書きがとか文句つけるんだろうな

52:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 02:58:29 ytYQK7Jo
willcomなんか永久規制されたらええねん

53:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 04:27:03 06dCqHBK
ローゼンスレで特に書き込むことがないときに金糸雀の話題出すのはもはや信者とかアンチとか関係なしに挨拶みたいなもんだから

54:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 10:38:36 AXm4NXfh
この際だから確認したいんだが、これは最萌で過剰な宣伝や多重投票等により金糸雀が優勝したために
(この時の経緯を知らないんでこれも実際どうなのか知らんのだが)アンチが粘着してるってことでいいのか?
あるいは最萌というイベント自体にアンチがついてて、この金糸雀の件を材料に最萌の印象を
悪くしようとしているとかそういうことか?
どっちにせよこれだけの長期間粘着できる人間なんて今まで見たこと無いぞ。逆に凄いわ

55:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 13:28:55 ytYQK7Jo
その優勝もローゼン自体のアンチがこういう状況になるのを望んで
多重や宣伝しまくったからって説もある。どっちにしろ最萌が原因なのは間違いないはず。
あまりひどいなら規制依頼出したほうがいい

56:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 18:22:44 8w6eknuX
ここ と この板にあるもうひとつのSSスレ ってどう違うの?

57:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 21:34:01 xTKDvnY3
金糸雀信者が粘着してるかしてないかの違いw

58:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 21:58:40 9jW7o9+o
>>56
向こうはグロや実装石もおkとかじゃなかったかな
まぁ実装は実装スレでやれって感じだが

つーかアンチでも信者でもいいけど、いっそ全部のローゼンスレに居座るくらいの気合が欲しいな
半端なんだよなこいつ

59:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/30 22:03:06 ytYQK7Jo
ほぼすべてのローゼンスレを荒廃させて1月ほど前に規制されたじゃないか
もうあんなのは勘弁

60:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/31 15:39:50 Ps4hwycP
ちょっと豪華な長編SSで胃が重たいから、
次は軽めの明るい話を頼む。

61:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 02:10:56 2zDZDvVW


━  強く貴方が望むなら 強く貴方が願うなら 強く貴方が想うなら  ━

━  きっと “ それ ” は貴方に答えるでしょう  ━

━  貴方の生を持って 貴方に伝える為の言葉を持って  ━





              貴方の生を頂きながら






62:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 02:11:42 2zDZDvVW


「ふぅ・・・」

冬の街の中、ある一人の男が寒そうに背を曲げながら、とぼとぼと歩いている。

その男はついさっき、職を失った。いや、自分から辞めたと言った方が正解だろう。
営業職だった男の仕事は、実際は営業とは言わず、
契約店舗に設置した多数の機器の管理運営や修理、その機器から出る売上の集金や、
売り上げ増進の為の機器入れ替えやメンテナンスと言った雑多な業務を
たった一人でこなす事を強要された、言わば現場の末端に属する、
会社には使い勝手の良い雑務従業員に他ならなかった。
変に生真面目な上に不器用で、手を抜く事をあまり知らないその男は、
いい様に使われ、遂に精神面と体調面にかなりの不調をきたし、自分から退職した訳だった。

そんな経緯の男はふらふらと歩きながら、これから先をどうするか考えていた。

これからどうしようか・・・再就職なんて、俺の歳や学歴ではまともな所なんかありゃしない・・・
ほんの少しの貯えもすぐに使い切ってしまうだろう・・・
某番組みたいに1日1万円生活チャレンジなんてのも、やろうと思えば出来るだろうけど・・・
いや・・・無理だろうな俺には・・・いっそ死んじまいたい・・・ああ、だめだ、そんな度胸すらない・・・

しかし精神と肉体が弱っている男の思考は、負の面にしか向かわなかった。
そのまま公園にたどり着いた男は、水呑場で冬の寒さにキンキンに冷やされた水をグイグイ飲み、
ハァー・・・とため息をついてベンチに腰を下ろす。
ふと、男は思った。
そういえばこんな所、今まで来た事も見た事も無い・・・何処だここ・・・大体どうやって来たんだ・・・
知っている道を歩いていた筈の男が、気が付けば自身が知らない場所に来ている。
職を手放した30半ばの人間がこの歳で迷子だなんて、恥以外の何者でもない。
男は少し焦りながら辺りを見回すと、一軒の店が目に映った。


「DOLL HOUSE・・・」


人形の館?マネキンや蝋人形でも売っているのか?
しかし後に書いてある字は何と書いてあるんだ? “ かい ”と読むのか?
読み書きがそれほど得意ではない男はそう思いながら、その店に足を進めていく。


カラン・・・カラン


男が扉を開けると、来客と帰客を知らせる鈴(りん)がやや濁った音を立てて鳴る。
店内。
そこは男が初めて見る場所・・・いや世界だった。
よくある百貨店やブティックのマネキン人形などとは明らかに一線を画す、
いわゆるアンティークドールと呼ばれる多数の少女人形達が、静かに飾られている。

「西洋人形・・・」

なんでこんな所に入ったのか、男は自分でも良く理解できない上
あまりの存在感を醸し出す人形達の視線を浴び、気味悪ささえ感じた。
しかしどこか人形達の視線は物悲しく、何かを伝えかけようとしている気がして
男にその店から出る事を思いとどまらせる。


63:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 02:12:27 2zDZDvVW

「いらっしゃいませ」

少しして店の奥から、長身の優男が男を出迎えに来た。
店主なのだろうか、眼鏡をかけ、清潔に髪を整えたその姿は男よりやや背が高く、
切れ長の目を柔和に微笑ませながら、どこか男を値踏みするように挨拶をしてくる。


「皆、主に迎え入れられるべく、愛される為にその時を待っているのですよ」


店主らしき男は、展示されている少女人形の一体を愛しそうにそっと抱き抱えながら
男にその少女人形を抱く様に手渡してくる。
男は少し躊躇しつつも、その人形を店主と同じ様にそっと抱いてみた。
人の幼児ほどの大きさの人形は、自分の胸でまるで安心して眠っている様にすら見える。
暖かさは無い。が、何故か暖かさすら、体温すら感じる。
その上どういう素材で作られているのか、柔らかい弾力が男の腕に伝わってきた。
更に今すぐにでも目を開き、微笑みかけてくる錯覚すら男に伝える。

「どうやら今の貴方は、色々な事で大変お疲れのご様子」

店主は微笑みを絶やさず男に両腕を差し出してくる。
少女人形を返して頂こうと言う意味らしい。
男は少し惜しみを感じつつも、店主に少女人形をそっと抱き渡した。
惜しい・・・?人形に?少女の人形に?俺は少女趣味じゃないぞ・・・
それなのに何で?こんな感情は初めてだ。
男は少女人形を返しながら、自分の内に芽生えた感情に驚いていた。
その様子を店主は見逃さず、口の両端を上げ、男の瞳を見つめつつ問いかけてくる。

「忙しい事が、幸せを掴む絶対の条件だと思いますか?」
「え・・・?」

「文明社会の中では、金銭なくしての生活や幸せは得られません。そうですね?」
「え・・・ええ・・・」

何を言い出すんだこの店主は。
男の疑問は当然だったが、店主はそれに構わず男に問い掛け続ける。

「では心の安らぎや愛情は、貴方の求めに答えてくれる者は、金銭で得られると思いますか?」
「風俗・・・と言いたいんですか?」

「ご冗談を。一時の性の快楽で安らぎや愛しさを、貴方自身は真に得られると?」
「・・・・・・からかっているんですか」

男は少し苛立ち始めた。
飄々としたこの店主に、自分が受け持ってきた営業店舗先のマネージャーのような、
相手を舐めた、自分を馬鹿にした気を感じたからだ。

「いえいえ。ですが貴方の心の内に芽生えた気持ちは偽りだと思いますか?」
「!?・・・」


64:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 02:15:43 2zDZDvVW

客商売ならある程度相手の心内も読めなければ勤まらないのは
男も良く分かっているが、それにしても気持ち悪いくらいに
この店主は相手の心を透かして見る人間だ。男はそう思う他無かった。

「お客様は、ドールを見初めるのは今まで無かったご様子ですが」
「・・・・・・」
「どうでしょう。この店に御出で下さったのも、きっと縁あっての事」
「・・・・・・」
「お客様自身の少女を、アリスを求められてはいかがでしょう?」
「アリス・・・?」

不思議の国のアリスのことを言っているのか?
タキシードを着た時計を気にするウサギの後を追ってワンダーランドに迷い込んだ、
その少女とここにある少女人形と何の関係があるんだ?
男は少々不審に思ったが、こういう店主の心など、知るだけの努力をした所で
逆に馬鹿にされ適当にあしらわれるのがオチだ。だったらこちらも適当にあしらい無視するしかない。
どうやら自分の言葉に男が付き合うのを止めたと感じた店主は、
その微笑みを少しだけ柔らかいものに変え、礼儀正しく男に薦めの言葉を伝えた。

「どうぞじっくりと御覧なさって下さい。お客様の御眼鏡に叶う少女がおられます事を願っております」


店内の美しい少女人形は、どれも生きているとしか思えない程の存在感だった。
いや、むしろ生きていないのが不思議としか言いようが無い。
大きさや姿に差異はあれど、その全ての少女人形達に生命を感じてしまいそうになる。
そんな少女人形達の中、誰の視界にも入る事すら許されない様に、隅に追いやられ薄くほこりを被った人形があった。
頭から薄汚れたベールの様な布を被せられ、うずくまる様にしているドール。
男はそのベールを取ろうとして、店主の方を見た。

「ええ。お客様が望む物をご覧下さい・・・」

取って良いという事らしい。男はそっとベールを取った。薄く積ったほこりが舞う。
ベールを外された少女人形は、一糸纏わぬ姿だった。
その人以上の美しさと、儚さを漂わせる姿に、男は息を飲む。

「!・・・・・・これも・・・売り物・・・ですよね」
「本来なれば売るに出すものでは有りませんが・・・しかし“ それ ”を見初められるとは」

自身の身体を両腕で抱え込むようにし、両足を重ねて座り目を瞑った美しい顔の少女。
店内に入る薄明るい光を反射し、鮮やかに切りそろえられた銀色にすら見えるパールがかった、白い長髪。

「“ それ ”はイミテーションではありますが、宜しいので・・・?」
「イミテーション?贋作?・・・これが?」

「人形師には師がおりました。それは師が創り出した作品を超えるべく、造り上げられた作品の一つ。
 師のドールは途中で放棄され、完成させられることすら叶いませんでした。
 ですが人形師は師を超える為、師が完成させなかったドールを寸分違わぬまでに模して、完成させました」
「・・・それが何でこんな扱いを?」

「目覚めなかったからです」
「?目覚めなかった?」


65:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 02:17:23 2zDZDvVW

この店主はまた判らないことを言う。
じゃあ生きて目を開けるとでも言いたいのか、人形が。
男は言葉に出したかったが、そのまま店主の言葉を聞く事にした。

「そして二体目を模し、三体目を模し、四体目、五体目、六体目。
 どれも師には追い付けず、またどれも師には近づけませんでした」
「じゃあこの人形以外にもまだ同じ様なものが他にあると・・・?」
「いいえ。“ それ ”を残し、後はすべて人形師が壊しました」
「・・・どうして・・・と・・・聞いてもいいのかな?」
「“ それ ”が、もっとも可能性を秘め、また、残していたからです」
「・・・生きて動き出す可能性を・・・とでも捉えればいいんですか?・・・」
「信じるか信じないか、“ それ ”を私が決定付ける事自体愚かしいとは思いませんか」
「・・・一々癇に障る言い方をされますね・・・」
「これは失礼を。しかし、人形師は七体目にして遂に師を超えようとする人形を創り上げ、生み出せました。
 ですから、もはや“ それ ”は不要の人形。
 お客様が“ それ ”をお求め下さると仰るのでしたら、私共としましても喜ばしい限りです」

七体目?生み出せた?いい加減にしてくれ。
自分だけが理解してる道程を掻い摘んで他人に一方的に聞かせる様な人間には、ろくなのは居ない。
しかし・・・この人形だけは妙に気にかかる。どれくらいの値段がするのか知らないが、
聞いてみるだけなら金を取られる事などありはしないだろう。
男はそう思い、店主とは目をあわさず、ボソッと呟くように聞いてみた。

「・・・幾らするんですか」

「置いていてもいずれは破棄するだけの存在ですので・・・70万では如何でしょうか」
「なっ?!ななじゅう万??」

じょ、冗談じゃない!俺の貰っていた給料の3月分か、それより上じゃないか!・・・

普段ならこんなキャッチセールス以下の暴利品など、
一喝してその場から立ち去るくらいの気概は持っていた男だったが、それでも“ それ ”には
言い値だけの、いや、それ以上の価値があっても不思議ではないと、男は思った。
当然ながら持ち合わせなど無い。だが、なけなしの貯金を切り崩せば払えない額ではない。
しかしそうしてしまうと、数ヶ月もせずに自身が路頭に迷うのは目に見えていた。

「・・・・・・・・・・・・」
「ではこうしましょう。価値というものは確かに人が決める物ではあります。
 お客様がここに御出で下さった出会いもまた私共にとっては価値。その価値と、
 私共が“ それ ”に見定めた価値を差し引いて、30万落とさせて頂きましょう。如何でしょうか」

「・・・・・・この近くにATMはありますか・・・」

もう、男の心は、銀色がかった白髪の“ それ ”に魅絡められていた。

   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・

66:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 02:18:33 2zDZDvVW

「大事になさって下さい」
「・・・ええ。こんな豪華な鞄とドレスまで付けて頂いて有り難うございます」
「そのままの姿の“ それ ”を、お客様がご自宅まで連れ帰られるには世間は厳しいですので」
もっともな話だ。裸体の人間の少女にしか見えない人形を抱いて歩いていれば、
変質者として通報されるのがオチだろう。

「そうそう、言い忘れていました。“ それ ”には名前がありまして」
「名前?」
「ええ、名前です。“ それ ”の名は、MercuryLamp」
「マーキュリー ランプ・・・・・・水?電灯?」

店主は、知識の乏しい男の気持ちを害することなく微笑んで、柔らかく伝え直した。

「MercuryLamp、すいぎんとう、と、呼んでやって下さい。字で書くとこうなります」

店主はウェイターに似た服装のポケットからメモと万年筆を取り出し、
鮮やかな字でその名前を書いて男に手渡した。

“ 水銀灯 ”

「水銀灯・・・灯って街燈の燈じゃなくて?」
「“ それ ”はイミテーションですので、“自ら光る事”は叶わないのです。
 “誰かに灯してもらう”のが関の山。それを人形師は気づいてしまったのです」
「・・・それであの姿で放置ですか・・・」
「そうです。では私からお客様へもう一つ。光を閉ざすのは闇。闇から産まれ出でるのは光。
 白の装束を纏った“ それ ”は、今だ闇の中で彷徨い続けているでしょう。
 いえ、白き肌が故に、白き頭髪が故に、闇のままの心は光に塗り篭められたままなのかも知れません」

まったく・・・
意図不明な店主の言葉には、もはや苦笑しか沸いてこない男だった。
店主はそんな男の顔に、少しゾクッとするような笑みを見せ言葉を続ける。

「ですが、強く貴方が望むなら、強く貴方が願うなら、強く貴方が想うなら・・・
 きっと “ それ ” は貴方に答えるでしょう・・・
 貴方の生を持って、貴方に伝える為の言葉を持って・・・」
「そ、・・・そうですか・・・ま、まぁ・・・大事にしますよ・・・安くはない買い物でしたからね・・・」

さすがに最後の言葉に嫌なモノを感じた男は、軽く会釈だけをして足早にその店から立ち去っていった。
店主に教えてもらった、自分の知っている駅のある道を辿りながら。
その背中には届いてはいなかっただろう。店主の最後のこんな言葉など。





             ・・・貴方の生を頂きながら・・・






67:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 02:20:36 2zDZDvVW
続きは書き溜めれた時に

68:ピチカー党員 ◆7gMVTXcVsA
08/01/01 08:03:51 GKlUp5Ii
俺もカナのSS見たいな(荒らしじゃないよ)

69:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 08:41:34 zX01i7Cp
文章うまいな。お年玉かこれは

70:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 18:31:55 CyYC/QvT
↓そろそろカナのSSが始まりそうな予感

71:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 20:35:31 /VwtRvxv
キム信者死ね

72:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/01 21:22:07 O2fdjx8D
新年早々自演荒らしとは…一度脳みそくりぬいて診てもらった方がいいんじゃないか?

73:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/02 21:46:18 S5bOgsJW
一昨年くらいから長編書いてるけど全然完成しねー
はじめは勢いよく書けたんだけど途中で詰まってしまった
書けない時は書けてる分の推敲するとか音楽かけるとか逆に耳栓するとか
自分なりにいろいろやってみるんだけど、それも去年の頭くらいから効かなくなった
書ける人ってなんであんなに書けるんだ?

74:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/03 15:49:07 M9Mh0lFP
書けないものは諦めて
新しい話を始めるが吉

75:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/03 20:45:48 JhAULg5Y
最初は好調、途中から詰まる。

RPGツクール思い出した。

76:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/04 00:46:31 BW+i+YLz
>>61
俺も今年の4月から無職になるので主人公の男に親近感を覚えた。
続き期待してます

77:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/04 22:08:40 UWD/ShEU


━  扉とは 隔たる事を生み出す物です  ━

━  開く術(すべ)は容易くもあり また難在りき処  ━

━  鍵とは 隔たる事に力を与える術(すべ)です  ━

━  では その鍵を解く術(すべ)は 鍵を回す術(すべ)は  ━





           鍵は廻り始めました

           貴方の生のほころびで

           貴方の想いのまばゆさで






78:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/04 22:14:22 UWD/ShEU


あれから数日が過ぎた。

「ただいま・・・」

誰もいないアパートのドアが開き、生気を欠いた声が入り口から部屋に伝わる。

靴を脱ぎ、少し苦しそうに息を吐きながら男は思った。
やっぱり体の調子がおかしい。人込みの中に入るだけで動悸が激しくなって息が苦しい。
食材を買いに行くだけでこの調子だ・・・タバコを吸ってるからだとか、そういう問題じゃない。
微熱も続いているし、めまいもする・・・やっぱり今までの仕事や人間関係のストレスからなのか。
こんな調子じゃ仕事を探せても、まともに働けない・・・・・・今は精神や肉体を回復させるのが第一だ。

そう思いながら、男は手に提げたスーパーのビニール袋を
小さな折り畳みテーブルの上に置くと、ベッドの横に置かれた鞄に向かう。
その大変豪華かつアンティークな作りの鞄は、あの店から買ったドールを仕舞っている物だった。
男は鞄をまるで壊れ物を扱うように、愛しい異性の頬を優しく撫でるようにしながら、そっと開ける。

「帰ってきたよ・・・水銀灯」

水銀灯。
その纏い(まとい)はゴシック調と例えればよいのだろうか。
鞄の中には鮮やかな白のドレスを纏い、滑らかな白のブーツを履いたあの少女人形が、
自らの身体を抱えるようにして横になって眠っていた。
銀を蓄えるような長く伸びた白髪。羽根のように分割されたスカートには黒い逆十字の模様。
ドレスの下から覗かせ鮮やかな光を反射する下着。
そして見る者を魔性の如く魅了する、目を閉じた美しい少女の顔。
人間で言うなら十四 五歳の少女の姿を、四 五歳の少女程に縮尺した大きさ。
妖かしの精と書いて妖精と言う言葉は、この少女人形にこそ、相応しい例えなのかも知れない。

男は、自分の瞳や意識が水銀灯の身体や顔に吸い込まれてゆく錯覚を覚え、軽く頭を振った。

「きょ・・・今日こそはお前・・・いや、君を・・・」

そう言いながら男は流し台に向かい、丁寧に丁寧に両手を洗う。

男はあの日から、この少女人形に触れてはいなかった。
自分が触れる事でこの少女を汚してしまうのではないか。そう思っていたからだ。
眺めているだけでも十分満足だったし、眺める事でひび割れた心が癒される感じがした。
だが、これは自分が大枚はたいて買った物だ。そう「 物 」なんだ。

触れて手に取らずに眺めるだけで、所有欲を満たす為だけに、何十万も無駄にしたのか?
自分の好きな様にしなくてどうする。見ただろうあのエロチシズムな肢体を。
また見たくは無いのか?触りたくは無いのか?
違う。そんな事をする為に買ったんじゃないだろう!
いや、確かに触りたい、抱きしめてみたい。だけど、もっと違う何か、上手くいえないが、
吸い寄せられる、疲れた今の俺に何かを感じさせてくれる、そんな引力があったからだろう!

そんなことを自問自答しながら、今日まで数日触れることすら自重してきた。
しかしそれももう限界だった。


79:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/04 22:18:06 UWD/ShEU

「・・・・・・」

入念に手を洗い終えた男は、やはり入念にタオルで手を拭き終え、
そのタオルで服の埃を静かに払ってから、少女人形が眠る鞄の前に座った。

「水銀灯・・・お前を抱かせてくれ・・・」

そう言いながら男はそっと、そっと少女人形に触れた。
その指先は躊躇しながらも少しづつ、少しづつ、その鮮やかなドレスの素材に吸い込まれてゆく。
そして少女の柔らかい弾力が、男の指先に伝わりだした。
あの店で抱いた少女人形と同じ感触、いやそれ以上に「 人 」に触れるような感触。
風俗すら数えるほどしか行けなかった経験の少ない男には、まるで本物の女性に触れているような感触。
まるで本物の少女に触れているような、罪を犯すような背徳の感触。

躊躇するな、たかが人形じゃないか。これは俺のものだ、そうだ、俺の「 物 」なんだ。
人の少女を「 抱く 」訳じゃない。何も罪を犯すわけじゃない。
ただの人形を腕に「 抱く 」だけじゃないか。
今更童貞じゃあるまいし、何をそんなに、何をこんな人形にどぎまぎしてるんだ。

そう自分に言い訳をしながらも、男は自身の胸の鼓動が高鳴り、
顔が高潮するのを感じて仕方が無かった。
男は少女人形の両足と身体に両手を入れ、優しく、そっと抱き上げた。
銀を纏う白髪がさらりとこぼれ、えもいわれぬ芳香と柔らかい弾力が、
男の心を突き抜けてゆくと同時に、 かくっ と少女人形の首が仰向けにしなだれる。

「あっ!」

いけない!何故か男はそう思い、膝を立てながら急いで少女人形の身体を胸に抱き、
もう片方の手でしな垂れた頭を包み込んだ。

「・・・水銀灯・・・」

男の胸の中には少女人形・・・水銀灯が文字通り抱かれている。
瞳を閉じ、身の全てを男に委ねるように、眠り姫の如く抱かれている。

愛しいとはこういう事を言うものなのかと、男は水銀灯の顔を見つめながらそう思った。
誰の目にも触れさせたくない。何者からも守ってやりたい。
もしかするとこれが父親の気持ちと言うものなのか。
そう思う男を何故か言いようのない気だるさが襲ったが、それを覆い隠す満足感で心は満たされつつあった。
ふと、男の心に疑問符が浮かぶ。何故この少女人形は、水銀灯は目を瞑ったままなのだろうと。
あの店にも目を瞑ったドールは確かに何体かはあった。しかしそれらは、
身体を起こせば目を開かせたり動かせたりする、スリーピングアイやフラーティングアイとか呼ばれる物だった筈。
何故目を開かないんだろうか。壊れているとも思えないし思いたくも無い。開かないんだったら触って開かせてみるか?

・・・・・・止めよう。傷付けでもしたら台無しになるしそれに・・・・・・まぁいい。


80:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/04 22:20:16 UWD/ShEU

そんな自問自答を男はしつつ、胸に抱いた水銀灯を見つめながら心で語りかけていた。


( お前の目は・・・一体何色なんだい・・・水銀灯 )


長くゾクっとするような魅惑の睫毛に覆われた瞼は、
本来開かせるべき少女人形の瞳を覆い隠したままで何の変化も無い。
本来なら光を受け取り鮮やかな彩光を見せるべき瞳は、闇の中に埋もれたまま。

「・・・お前の身体も、柔らかいんだね。とても・・・とても綺麗だよ、水銀灯・・・」

そっと、優しく、包み込むように、自分の娘を胸に抱くように、男は目を瞑りながら
少女人形を・・・水銀灯を抱きしめる。
男の言葉に埋もれながら、男の身体に包まれながら、少女人形は揺られている。


ピチャッ・・・  ポチャン・・・


流し台の蛇口から落ちる水の滴りが、水を蓄えたままの食器に幾度と波紋を創る。
その緩やかで小さな音が、この水銀灯の鼓動のように感じられて
狂おしいほどの愛おしさが男の胸に響き渡った。


━  愛すればいい・・・父親のように  ━


ただ抱かれる為だけに費やされた時間なのに、異常なほどに時は喰らわれ、
闇が、冬の空を支配していた光をあっという間に喰らい尽くしていった。
僅かに響いた幻聴を、男の耳に残しながら・・・





           鍵は廻り始めました

           貴方の生のほころびで

           貴方の想いのまばゆさで






81:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/04 22:23:53 UWD/ShEU
スーパードルフィー水銀燈の画像にドキドキ。
続きはまた次回

82:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/04 23:55:35 N9xW/CP0
うまいなぁ。そういや前にもオリキャラ書いてる人何人かいたよな。あれ続きもうないのか?

83:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 20:19:25 YZvHzNbo
昔のやつはもうどんな話かも忘れたがな

84:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 21:22:16 dip2zQ6b
ジャンクの話なんかもういいから早くローゼンメイデン一かわいいカナのSSを書くのかしらー

85:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 21:31:16 TnHK2Agl
自演がばれたからってこっちに来るなwww

86:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 23:12:45 ZgR087PX


━  闇から産まれ出でるのは光 その色は眩き白色  ━

━  安息と回帰 生誕の前 その景色は皆 闇の色  ━

━  始まりの色 終わりの色 互いに表裏一体の色  ━

━  瞳の闇に映るのは 貴方という光を持つ命の色  ━





  蘇は贋作 なれど 貴方の想いで 真作へと換わるでしょう






87:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 23:14:10 ZgR087PX


「お気に召してくださいましたか、“ あれ ”は」


男は再度あの店に顔を出していた。その顔は以前よりもやつれている様に見える。
来店するつもりは無かったが、想いを込めて何度か水銀灯を抱いた際に
手入れの方法などを聞いていなかった事に気付き、こうして足を運んできた訳であった。

「ええ・・・不思議ですね、あの人形は。本物の少女が、ただ眠っているとしか思えないです」

相変わらず、人の心内を除くような笑みを見せる店主の言葉に
男はごく素直に答え、その心内を言葉にしていた。
店主は ほう と言うように柔らかに眉を上げ、男の言葉に答える。

「そう仰って頂けると、見初めていただいた“ あれ ”も喜びましょう」

男はその言葉を聞きながら、店内に鎮座する多数の少女人形達に目を這わせる。
ここにあるドール全てには、えもいわれぬ不思議な魅力がある。
しかし、あの水銀灯のような魔性の魅力を持った少女人形は、他には無いかもしれない。
もしかすると店に出ていないだけで有るのかも知れないが、多分、もう売りには出ないだろう。
偶然とは言え、自分が手に出来たあの水銀灯は、やはり相当な物なのだろう。
そう思いながら男は、店主にここに来た用件を伝えようと口を開いた。

「その事で少し聞きたい事が。手入れの仕方や、必要な用具を教えてもらいたいんですが」

店主はその男の言葉に、笑みを絶やさず答える。

「確かに手入れは必要です。ここに展示してあるようなドール達であれば」

店主の言葉は続く。

「しかし“ あれ ”は贋作なれど、真作の第五と同じく、オリジナルと同じく、“ 時 ”を巻く事が出来ます」
「は? 時をまく?・・・」

またか。
この店主は他人が相手の事情を知っていると仮定した上で、勝手な物事を喋る。

「目覚めれば手入れなどは不要のもの。お客様、“ あれ ”にどのような想いを込められましたか」
「目覚めるって・・・やっぱり目は開くんですか、あの水銀灯は」

「どうやら、まだのご様子。ですがご心配なく、お客様は既に“ あれ ”を名前で呼んでいらっしゃる」
「・・・・・・意味が・・・わ・・・」

意味が判らないと、そう言おうとした時、急に自分の胸が鼓動を激しく打ち出し、
立っていられないほどの息苦しさとめまいを感じて、男は思わず店主にもたれかかってしまった。
店主はまるでそれを予期していたかのように、男を受け止め肩を貸しながら、
ロッキングチェアーに座っていた少女人形を棚に移動させつつ、
その空いたロッキングチェアーに男を静かに座らせてあげた。
男の動悸と息苦しさが徐々に納まりだすと、店主はどこから取り出したのか
水の入ったグラスを男に手渡し、飲む様に勧めた。
店主に笑顔は無く、そのかわりやや物悲しい顔を携えながら男にこう言った。


88:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 23:16:20 ZgR087PX

「目覚めには苦しさが伴うものです。貴方が“ あれ ”に目覚めを欲するならば、それは必然」

何を言っているんだ。しかし息苦しさはまだ収まらず、男はそれを言葉に出せない。

「見る限り、確かにお客様の想いは通じておられるでしょう」

男の息が整いだしたが、吐き気を伴うめまい感はまだ収まらず、
店主の言葉を聞くに留まるしかなかった。店主の言葉は続く。

「真作は放棄されました。しかし自らの“ 想い ”で命を掴み取り、目覚めました。
 ですが人形師の造り出した“ あれ ”は、贋作。“ 想い ”は燈りませんでした。
 真作は師が創り出し生み出しましたが、人形師は模し造り出したに過ぎなかったのです。
 自らが無から創り上げ生み出したものでなくては、目覚めは促されなかったのです。
 人形師が思いを込めても、創造の知と労が調和をし育まれなければ、目覚めないと判ったのです」

男の動悸は治まったが、今度は意識が薄れだしてきた。

「しかし想いを込め、目覚めを促す事が出来るのが第三の立場なら、
 一心の愛を一身に注ぐ事が可能であるならば、
 マスター足りえる方であるならば、“ あれ ”は遠からず、確実にお客様に答えるでしょう。
 人形とは“ 人 ”を模した物。想いの強さと愛情は、無を有に変え、器に魂を呼び、
 やがては“ 人 ”を模した者になるのです」

そこで店主はやや間を置いて、今までの話と関連が無い、
意味をなさないとしか思えない様な言葉を話し出す。


「闇から産まれ出でるのは光、その色は眩き白色。安息と回帰、生誕の前、その景色は皆闇の色。
 始まりの色、終わりの色、互いに表裏一体の色。瞳の闇に映るのは、貴方という光を持つ命の色」


視界がクリアーになり始め、自分の意識が遠退くのを感じると同時に、
店主の声が遠くから聞こえ出し、本来の自分の意識が、自身の内に篭り始めるのを男は感じつつあった。

「さあ、本日はこれにて閉店の幕となりました。どうかお気をつけてお帰り下さいませ。
 また御出で下さる事がありますように、私から言葉をお送り致しましょう」

男の意識は深遠の闇に、甘美なる香と感覚を伴って、落ちようとしていた。
遠くから、遠くから響くように聞こえる、店主の言葉を伴って。





  ・・・蘇は贋作 なれど 貴方の想いで 真作へと換わるでしょう・・・






89:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 23:23:12 ZgR087PX


━  わたしは  闇から産まれました  ━

━  あなたが  愛をくれたから  ━

━  あなたが  想いをくれたから  ━





     わたしを  愛してくれますか






90:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 23:24:22 ZgR087PX


“機械の入れ替え、ちゃんとしてもらわないと困るんだよね”
(ですから、無理だとFAXや口頭の事前連絡でお伝えした筈です)

“売り上げが上がらないとあなたも困るでしょう”
(上部からの除却指示ですので、私には権限はありません・・・)

“この両替機、急に硬貨が通らなくなったんだよ!どう責任取る気?”
(・・・投入ガイドの底板が無くなっておりますが・・・どなたか取り外されましたか・・・?)

“じゃあ部品発注で早く直せよ!”
((こっちが設置した両替機の部品を故意に紛失させておいて・・・ふざけるな・・・))

“それじゃあ何か!うちの従業員が意図的に備品を取ったと言いたいのか!?”
(ですから、どういった理由で取り外されておられたのかお教え願いたいと言っているだけで))

“機械の位置さぁ元に戻してくんない”
((何回目だ、大概にしろ・・・ワックス移動で勝手に設置場所動かすんなら、自分達で直せ・・・))

“あ、その日応援に行ってくれ。お前の集金や機器入替はずらせばいいよ”
((・・・もう何十回目だ、こっちの仕事には一切の応援や支援は回さずに・・・))

“おかしいだろお前。何でそれお前に引継ぎされてないの”
(いや、では何故引継ぎ事項すら、部署移動の連絡すら自分に通達が無いんですか)

“あー  お前の事は信用しないからそのつもりで”
((ふざけるな・・・着任早々顔も出さずに電話でそれか・・・俺の仕事も見ないで何が判る・・・))



あれは? これは? それは? 早く! まだか! なんだこれは!
応援宜しく!なに言ってんの?なんであんたを手伝わなきゃいけないの?
いやいや手伝ってもらわないと困りますよ!体調が悪い?別にあんただけじゃないだろ?
一人?気楽でいいよねなんでも自由に出来てさ!天国だよね!わはははは!
応援が欲しい?何甘えてんの?そんなのはどうでもいいから機器修理の応援に来い!



・・・・・・いい加減にしてくれ、いい加減にしてくれ、いい加減にしてくれ!!



「  !  っ・・・はぁ はぁ はぁ はぁ・・・・・・ぅっ・・・うぅっ・・・う」




91:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 23:26:28 ZgR087PX
夜中。
閉じたカーテンの隙間から、月の光が僅かに入り込み、部屋に灯りを与えていた。
男は目を覚まし、上体を起しながら両手で顔を覆う。
鼓動は激しく打ち続け治まる様子は無い上に、寝汗で身体と寝間着は湿っている。
辞めた筈の仕事に、人間に、いまだ追い詰められている自分が情けなくなり、
男はつい嗚咽を漏らした。

もういい、もういいんだ。俺は俺なりに仕事を頑張ってきた。
ほんの少数だけどちゃんと俺の仕事振りを認めてくれた人もいたじゃないか。
こんな事ばかりじゃない、きっとこんな事ばかりじゃないんだ。
それに今の俺は一人じゃない・・・一人じゃないんだ。
水銀灯・・・

男は目の端に滲んだ涙を両手で拭い、少女人形の眠るトランクを見つめる。
何日か前。あの店から戻ってきた男は、あの日の記憶が殆ど思い出せないでいた。
どう戻ってきたのか、気が付くと自身のアパートの前に居た始末だった。
ただうっすらと覚えているのは、あの店主の言葉。

“ 瞳の闇に映るのは、貴方という光を持つ命の色 ”

男にとってそんな言葉はどうでも良かった。
今は水銀灯の顔を見たい。その頬をそっと撫でてやりたい。その髪をとかしてやりたい。
子猫を抱くように、そっと抱いて可愛がってやりたい。
いや実は慰めて貰いたいのかもしれない。
何も映さない目に、何も物を言わない唇に、偽りの少女に、母性を感じたいのかもしれない。

悪い夢から目覚めた今の男は、少女人形に会いたくて仕方が無かった。
男は部屋の明かりをつけようとするが、パチパチと音がするだけで明かりはつかない。
蛍光灯が切れたのだろうか。予備はあった筈だから昼間にまた換えよう。
そう男は思いながら少女人形・・・水銀灯の眠るトランクをそっと開け、
いつもの様に水銀灯をそっと抱き抱えると、
酒に酔うような気だるい感覚や、甘美な安息の感覚が男の心を包む。
男は小さな声で愛しそうに水銀灯に語る。

「水銀灯・・・ごめんな、情けない男で」

水銀灯は何も語らない。何も見えない。何も動かない。
しかし聞く事は出来る。感じる事は出来る。男の心を。優しさと悲しさを。やるせなさを。切なさを。

「ああ・・・ほんとごめん、こんな寝間着のままで。でも手は綺麗に拭いてるから・・・はは」

何を弁解してるんだろうか。何も喋らないこの少女に。
男は自分を滑稽だと思い、思わず小さな笑いを漏らした。
優しく、優しく水銀灯の頭を撫で、頬を撫で、
そっと指先で蕾のような紅色の唇をなぞりながら、男は水銀灯を柔らかく部屋に座らせる。

「・・・本当に綺麗だよ、愛らしいよお前は。・・・もし、許してもらえるなら・・・」

膝を出して、目を瞑ったまま座る水銀灯の前に、男はそっと手をつく。

92:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 23:27:44 ZgR087PX

「こんな情けない俺の・・・甘えを聞いてもらいたいんだ・・・いいよ・・・な?」

そう言って男はそのまま寝そべり、
水銀灯の膝に頭を預けながらその小さな細い腰に手を添える。
それは膝枕だった。男は少女人形に膝枕を求め実践した。
他人が見たら明らかに引いてしまうだろうその行為。
しかし男にはどうでもよかった。
偽りでもいい。異常と呼ばれても構わない。
この柔らかさと、ほのかな芳香に、少女と、少女の持つ母性を感じて、癒されたかった。

男は目を瞑る。
昔に感じた、子供の時に感じた母への安らぎと香りが、暖かさが、感じられる気がした。
ふいに男の瞼越しに、淡い光が反射したと同時に、
頭をくらりとさせるような感覚と、ほのかな甘さを漂わせる何かが顔にかかる。

何だ?男はそう思って目を開ける。


「!?  ぅううわわわわ!??!」


それは水銀灯の瞳に月の光が反射して起きたものであり、
顔にかかったのは、銀色を内に秘める水銀灯の鮮やかな白髪であった。
男の頭は思わず水銀灯の膝からずり落ち、そのままワタワタと後ずさりをした。

ど、どういう事だ、唐突に目が開いてるなんて?しかも顔がこっちを覗き込んでいたぞ?

男は唾を飲み込みながら、伏せたままの顔を、身体を、少しづつ上げていく。
視界に入るのは水銀灯の姿。月の灯りを纏い、首を傾けぎこちなく立ち上がる水銀灯の姿。

「!!なあっ?!あ・・・ぁゎわ・・・わわわ・・・・・・」

声にならない男の声と同時に、水銀灯は崩れ落ちた。
しかし、そのまま這いずる様に、水銀灯は男の元へ向かう。
恐怖。畏怖。
人で有るまじき「 物 」が、「 人 」と同じ姿を持って自分の元に這いずり寄って来る。
男の身体は振るえ、硬直し、動く事が出来なかった。
しかしその目だけは目の前に起きている現実を、水銀灯の姿を克明に捉えていた。
無表情の顔。人ではない美。
開く事が無かった人形の瞳は今はっきりと開き、男の姿を、顔を映し出している。
男の心が恐怖で張り裂けそうになったその時。
目の前の人形の顔が変わった。悲しさを湛え、今にも泣き出しそうな顔に。
美しい少女の、人間の少女の顔に。
その瞬間全ての恐怖は掻き消え、男の身体は水銀灯を抱きしめていた。
小さな少女の身体は震えている。確かな命を持っている。

男は確かに感じた。今自分の胸の内で息吹く存在の温かさを。
そしてあの日思い出せなかった店での記憶が、言葉が男の脳裏に思い出てくる。

生きている、生きているんだ、この少女人形は。本当に生きているんだ。
あの店主の言っていた意味は、こういう事だったのか。


93:名無しさん@お腹いっぱい。
08/01/06 23:29:47 ZgR087PX

少女の顔が不意に男の顔を見上げ、
美しく薄い赤を携えた紫の瞳で男を見つめながら、紅を含ませた艶やかな唇が動く。

声は無い。
だが、脳裏には、心にははっきりと響く。
小さく、泣くようなその言葉。





     わたしを  愛してくれますか





男の目に涙が滲み、荒み退廃した心に明かりが灯る。
ああ、これは夢なのか。
夢なら、夢なら醒めないでくれ。
この夢をずっと手元に出来るなら、これを本物に出来るなら、俺はもう何も要らない。


「水銀灯・・・俺の所に来て・・・くれたんだね・・・・・・」


男の小さな言葉に答える様に、水銀灯の細い腕がぎこちなく動き、
その細く、美しく、小さな指先でそっと男の目から零れようとしていた涙をすくい取った。
泣き笑う様なか弱い水銀灯の笑みが、僅かに差し込む月明かりに照らされ男の瞳に写り込んだ。
男は願う。この夢が永遠に醒めない様にと。そして男の意識は闇へと浮かび上がっていった。
愛しい生きた少女人形を。水銀灯を抱いたまま。





━  強く貴方が望むなら 強く貴方が願うなら 強く貴方が想うなら  ━

━  きっと “ それ ” は貴方に答えるでしょう  ━

━  貴方の生を持って 貴方に伝える為の言葉を持って  ━





              貴方の生を頂きながら







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