07/12/15 17:27:31 TXvh9j7m
辺りを捜索中だったチェスは奇妙な音を聞いた、それは少年ならば見逃してしまうかもしれない。けれど不死者として世界を回った彼には聞き覚えがある音だった。
「これは…」人間がいる、しかしこの様な音を立てているということは…恐らくはこのゲームに乗っている人間。
もしくは警戒の足りない一般人、それもこのようなものを使うのは大人数。
力と知識が無くとも数がいれば使い方はある、前者だとしても遠くから見てまずそうなら逃げればいい。
そう考えたチェスはそちらに行ってみることにした。
ドドドドドドドドドド
「ひゃっはぁ!!いいね!いいね!いいね!!こんなものまで入れてるったぁ…最高だぜ、この大会は!!開いたやつは!殺すけどな!」
「…」
バシャ!
「こういうの一回乗ってみたくてさぁ、なんていうの?大船じゃない不安定感が堪らないってうやつ
ん?どうしたんだブラザー、方針は派手にいくんじゃねえの?ちがうのか、俺の勘違いか?」
「…勘違いだ。」
顔に当たる川の水が気持ち悪い…清麿は頭を抑えてうめいた、まさか「コレ」を見たラッドがあんなに興奮するとは思わなかった。
―なにこれ??ってマジ、マジで?マジでジェットボ-ト!?何で入るのコレ。
―おい、何で川の方に行くんだ。くっ、ボート引っ張ってるのになんて早さだ。
まあ、デイバックはラッドに押えられていたため、阻止するのは不可能だったが…
ボートに乗ることで危険性は高まるが、それでラッドの機嫌を損ねたらたまらない。頭を切り替え今後の予定を考えてみる。
たとえば人に遭遇したら…
1・いきなり撃たれる
2・相手は見た瞬間逃げる、もしくは隠れる
3・やってきて交渉を持ちかける
4・それ以外
1は論外、警告も無しの攻撃は恐らくこのゲームに乗った者だろう。
錯乱してるとしても同行には危険すぎる、逃げるもしくは反撃だ。
2なら説得の余地がある、もし複数いればゲームに乗ったものの可能性も低い。とりあえず交渉から入ろう。
3と4は要注意だ、こちらの武装を見て声を掛けれるのは相当の自信か覚悟がいる。
悪人という保証はないが、相応の技能保有者―最初の犠牲者の様な―である可能性が高い。注意するに越したことはないだろう。
……ラッドもいるしな。
考えを纏めて顔を上げると、川が分かれていることが解った。
方角は今までどうりの西と、南。
「んじゃあ、あそこらへんに止めるか。」
「降りるのか?」
その案には賛成だった清麿は、船を縛るロープを結んでくれるようたのんだ。
「さあ、捜索と行くぜぇ。まってろよ俺のかわいい子猫ちゃんたち。」
36:死ぬよりも忌むべきもの ◆it6ZZg7l4s
07/12/15 17:28:12 TXvh9j7m
チェスは上陸する様子を高台から見ていた。
--2人組みか、この時点でゲームに乗っているとは考えにくいな。交渉役の男と戦闘員…いや保護者と被保護者の2人連れか。
もし考えているとおりの人間達なら、保護することを断ることはないだろう。
ジェットボートなどという目立つことこの上ない物を移動手段としている以上、先ほどの女同様何も考えていない(チェスはそう判断している)人間かもしれないが。
--逆に多少の襲撃者ぐらい問題に入らないぐらいの力があるとも取れるからな。
手早く思考を纏め、行動に入る。
彼らは2手に分かれたようだ。先ずは…
「しけてるな、誰もみつかんねぇ、この溜まったテンションをどうするよ。」
「あんま物騒なこというなよ…、2手に分かれて探してみたらどうだ?効率よく見つけれるかもしれない。」
「いいね、のった!集合時間はテキトー、各自やって殺ったぜともったら此処に戻ってくるでOK?」
殺らねえよ…、そういうまもなくラッドは飛び出していった。
「どうせ返答聞かないなら、疑問系つけるなよ…」
--さて、今のうちに行動しないとな。
清麿がいざという時のラッドからの援護も、ラッドの制御も放棄して別行動を提案したのには訳があった。
上陸のときに見えた影、恐らく人間…それも子供だろう。ラッドの基準は常人と大きく異なる、見つけたとたん襲わない保障は無かった。
--さっきの子供はこの辺か?
歩きながら茂みに入っていく。すると後ろから声が響いた
「お兄ちゃん…誰?怖いよ、何で銃持ってるの。」
現れたのはやはり少年、恐らくは小学生ぐらいだろう。持ち物はバッグの中か、手ぶらであることからしてもゲームに乗っている可能性は今のところは低い。
「大丈夫だゲームには乗っていない、俺は清麿。君は?」
「ドモン…僕ドモン・カッシュっていいます。」
唇の動きを見た瞬間、背筋に寒気が走った。極力顔色を変えないように質問する。
「変な事を聞くが君はアメリカの生まれなのかい?それと昔親戚の誰かが外国から来たとか聞いたことあるかい?」
「はい僕はアメリカの生まれです、親戚とかは聞いたことはありませんけど。どうしてです?」
「いや言葉が意味が通じるように翻訳されてるみたいなんだが、唇の動きが昔かじった古典英語に近くてな。」
--やはりアメリカの出身…じゃあ、なんで「土門」なんだ?
清麿はひそかに警戒を強めていく、よく考えればこれは先ほどの想定ケース3…要注意に当たる人物だ。
「ねえお兄ちゃん、さっきは2人いたけど何で分かれちゃったの?」
「ああ…別行動を取った方が良いと思ってな。所でデイバック見せてもらえるか?何かこの島からの脱出に役立つものがあるかもしれない」
ラッドについてはお茶を濁され、別の質問をぶつけられた。
「え!でも…」
怯えたような声を出しながら、チェスは思案する。
--まさか感づかれたのか?先ほどの奇妙な質問はそのために…。
チェスという錬金術師をして考えつかなかった「翻訳」という発想。
そして口の動きで「翻訳」元の言語が判る、一般人ではありえない知識。
迂闊なことを言った…この切れすぎる頭は少しまずい。
チェスは荷物を見せることにした。
これからのことを考えるといつまでも一人よりは同行者がいるほうが良い。
たとえゲームに乗った者と出くわしても、殺されない自信は有るが。壁はあって困るのもではない。
「今までどうしてたんだ?他の参加者には出会わなかったのか?」
「いえ、一人ちょっと年上の女の子と出会ったんですけど先にいっちゃって。」
適当に声をかけながら相手の銃に狙いを定める。
--壁はあって困るものではない、その壁がこちらに害を及ぼさない範囲においては。
だが私の障害になるのなら…こいつを殺して、もう一人に庇護を頼めばいい。
走っていった方角から捜索すると此処にくるまでに後15分はかかる。せいぜい取り込む演技の準備でもしよう。
「そういえば、お姉ちゃんは同じぐらいのお兄ちゃんを追っていっちゃいました。そのお兄ちゃんはゲームに乗ってる様じゃなかったんですけど。」
「ふむ…好戦的なのか?いや…」
考え込んだその背中に向けて、手を伸ばす。
--甘いよ、その情報はあの世でゆっくり考えればいい。
37:死ぬよりも忌むべきもの ◆it6ZZg7l4s
07/12/15 17:29:19 TXvh9j7m
パン
銃声がなる「超伝導ライフル」の
「あ、、、、、、」
チェスは片膝を付いて前のめりに倒れこんだ。
「な、何がおこった!?」
清麿は銃を構えて前を向く、その正面をかすって次のライフルが打ち込まれた。
「おーーーい、ブラザー。反応が鈍すぎるぜ、俺が早すぎる?いやいやジャック・ジョンソンとかに比べれば全然下だから、知ってるかボクシング?」
--アレは!?
そこには、朝焼けを背後に真っ白な服を着たラッドが立っていた。
銃口から硝煙は出てはいないがあれで撃ったのは明白だ、同時にもしや自分が狙われていたのではという考えにいたる。
しかしそれでも…
「おい!!いきなり何をしてるんだ、普通の子供だったかもしれないんだぞ?!」
「んな事関係ねーよ、そいつは俺が大好きな眼をしてたんだ。理由なんざそれで十分だろ?」
それ以外に何かあるのか?本気でラッドはそう考えている
怒りに任せラッドに掴みかかろうとした清麿は、地面に起きた変化に驚きの声を上げた。
--血が戻って……
そしてその血はチェスの体に吸い込まれた。
あっけに取られる清麿を無視して、チェスはムクリと起き上がり不気味な笑いをあげる。
その口調も気配も先ほどとはまったく異なるものだった。
「くくく、ずいぶん乱暴なことをしてくれる。まさか連れが殺人鬼とは、おまけに行動力もあるなぁ。あなたが来るのは十分後だったんですがね。
まあいい、私の仲間になりませんか?この島の人間を皆殺しにしてくれるだけでいい、報酬としてこの体と同じ体を与えよう。
老いることも無い不滅の体を、どうだ?悪い取引じゃあないはずだ。」
逆光になって、ラッドの表情は見えない。静かにライフルを上げる。
緊張が一気に上昇する--まずい、ラッドなら乗りかねない。ガッシュと会う前に死ぬわけには
パン
一度目と同じライフルの音、倒れたのは…やはりチェスだった。
ラッドは黙々と騙りだす
「そんなもんになっちまったら…オイ、自分が一番の殺害対象になるじゃねえか。
何やっても死なねえんだぜ!?そんな奴は殺すしかねぇ…だけど死なねえ。関係ねえ殺す
でも死なないでも殺すでも死なないでも殺すでも死なないでも殺す殺す殺す殺す……………………殺す!」
チェスはおろか自分でさえ理解できない内容であったが、どうやら救われたようだ
「狂ってるな、使えない奴ばかりだ…本当に運が悪い。」
チェスはそうつぶやいて逃走する。
「まてよ、こんなに美味しいそうな獲物を逃すわけねぇだろ!」
まて…そう言う間もなくラッドは歓喜の雄たけびを上げ追跡を開始した。
はあ、はあ
息を切らしながらチェスは逃走する、不死人でも疲労はするがそれでも常人よりはるかにタフだ。
痛みを無視すれば、筋肉が裂けて物理的に限界が来るまで走ることすら出来る。
--しかしなんだこの違和感は?
そう、チェスは先ほどから違和感を感じていた。なにやら胸の辺りが苦しい、息苦しいのではない「くるしい」のだ。
気のせい、そう考えるには奇妙な感覚。とは言え今は逃走中だ、じっくり確認とは行くまい。
--とりあえず逃げてからの話だな…見えた、川だ!
目的の場所を見つけてニヤリとするチェスの体がふらりと揺れる。
「ぐぁ!」
見れば足にナイフが突き刺さっている。
--こ、これは!?
考えるまでも無い、追いつかれたのだ。障害物の向こうから音がする、ラッドはその感覚だけでナイフを命中させていた。
そして死刑執行人が現れる
「よ~う、びびったか~い?俺もびっくりだ!まさか当たるなんてな、神様に感謝しなくちゃいけない。
ちょっと待ってな、今10秒ほど祈りをささげる。」そしておもむろにしゃがみ込むと、チェスの手を取った。
「いーち」そして指に手を添え……小指をへし折った。
「ぐあぁあ!?」「にーい、さーん」「やっやめ」
絶叫が上がってもラッドの行動は止まらない。「ごー、ろーく」
ゆっくり、ゆっくり、一秒に一本。
38:死ぬよりも忌むべきもの ◆it6ZZg7l4s
07/12/15 17:30:08 TXvh9j7m
「じゅーいち」
「…!!」
再生した小指をもう一度へし折られた。
「なんつーかな、あんまり変わんねーな不死者ってよ。最高にスカッとするけどふんぞり返ってる成金ぐらいか?
とりあえず、一辺死んどけ。」
ドン、すざまじい打撃がチェスの胸に叩き込まれた。…そしてチェスの心臓は停止した。
「んで、さっきみたいに生き返るんだよな、な?起きろよ千本ノック行くぜぇ!…って死んでんのか?
なんだよ、適当言うなっーの死なねえんじゃねえかよ。冷めちまったぜ…戻るか。」
ラッドが去ろうとする中、チェスは暗闇の中にいた
--なんだ此処は、私は不死者ではなかったのか!?
叫びは無常に消える…、チェスの心を冷たい絶望がながれた。
--私は死ぬのか…
それも良いかも知れない、この体が停止する以上元の状態に戻そうとする『不死の酒』の効果は消え失せるだろう。
そうなれば、最低でも死ぬより忌むべきあの事は永遠に葬られる。
--それでいい
本当に?優しかった錬金術の仲間にはもう出会えない、ナイル、田九朗、そしてマイザー。
--ばかな!全員食らうはずの対象に過ぎない、あんな奴らの事など!
本当に?
もちろんだ、それに死ぬよりも忌むべき「あのこと」を消し去るチャンスじゃないか。喜べ、死ぬだけでそれは叶う!!
『本当に?』
気がついたら涙を流していた。
--い、いやだ…私は…僕は死にたくない。
『死にたくない!!』
体が動く、呼吸が出来る。
--逃げないと、あそこまで行って逃げないと。
「ひゃっは!すげえ!!本当に生き返ったぜ!!」
物音は怪物を引き寄せる。
目的地はもう直ぐだ、逃げろ逃げろ、さあ付いた!!
ラッドは歓喜の中にあった、死んだと思った獲物が生きていたのだ。
すばらしい、本当に素晴らしい。無限回殺してもいなくならない、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも!!
「さあ、みつけたぁ!!」
その獲物はボートでラッドを待っていてくれていた、結んでいたロープを解いたようだがもう遅い。
ボートが出てもラッドは追いつき、それに乗り込めるだろう
--溺れさすのもいいな!一体どうなるんだ、水を吐き出すのか?残った水でまた溺れるのか?
ラッドは満面の笑みを浮かべてボートに乗り込もうとする。
絶体絶命のその状況、少年の口から出た言葉は悲鳴ではなく、一つの意味を持っていた。
それは聖杯に選ばれた騎兵の力。
「騎兵の手綱(ベルレフォーン)!!」
その言葉はボートを加速する、その言葉はボートに翼を与える、その言葉はラッドの手を振り払う!
「うぉぉおぉおっぉぉっぉお!」
ラッドの叫びさえ飲み込んでボートは消え去った。
「ふっざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!!」
遅れてきた清麿が見たものは、叫ぶラッド、そして破壊された川辺だった。
39:死ぬよりも忌むべきもの ◆it6ZZg7l4s
07/12/15 17:32:41 TXvh9j7m
ラッドが去ろうとする中、チェスは暗闇の中にいた
--なんだ此処は、私は不死者ではなかったのか!?叫びは無常に消える…、チェスの心を冷たい絶望がながれた。--私は死ぬのか…
それも良いかも知れない、この体が停止する以上元の状態に戻そうとする『不死の酒』の効果は消え失せるだろう。そうなれば、最低でも死ぬより忌むべきあの事は永遠に葬られる。
--それでいい 本当に?優しかった錬金術の仲間にはもう出会えない、ナイル、田九朗、そしてマイザー。--ばかな!全員食らうはずの対象に過ぎない、あんな奴らの事など!
本当に?もちろんだ、それに死ぬよりも忌むべき「あのこと」を消し去るチャンスじゃないか。喜べ、死ぬだけでそれは叶う!!
『本当に?』
気がついたら涙を流していた。
--い、いやだ…私は…僕は死にたくない。
『死にたくない!!』
体が動く、呼吸が出来る。--逃げないと、あそこまで行って逃げないと。
「ひゃっは!すげえ!!本当に生き返ったぜ!!」物音は怪物を引き寄せる。
目的地はもう直ぐだ、逃げろ逃げろ、さあ付いた!!
ラッドは歓喜の中にあった、死んだと思った獲物が生きていたのだ。
すばらしい、本当に素晴らしい。無限回殺してもいなくならない、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも!!
「さあ、みつけたぁ!!」
その獲物はボートでラッドを待っていてくれていた、結んでいたロープを解いたようだがもう遅い。
ボートが出てもラッドは追いつき、それに乗り込めるだろう
--溺れさすのもいいな!一体どうなるんだ、水を吐き出すのか?残った水でまた溺れるのか?
ラッドは満面の笑みを浮かべてボートに乗り込もうとする。
絶体絶命のその状況、少年の口から出た言葉は悲鳴ではなく、一つの意味を持っていた。
それは聖杯に選ばれた騎兵の力。
「騎兵の手綱(ベルレフォーン)!!」
その言葉はボートを加速する、その言葉はボートに翼を与える、その言葉はラッドの手を振り払う!
「うぉぉおぉおっぉぉっぉお!」
ラッドの叫びさえ飲み込んでボートは消え去った。
「ふっざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!!」
遅れてきた清麿が見たものは、叫ぶラッド、そして破壊された川辺だった。
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
【状態:追跡の軽い疲労】
【装備:無し】
【所持品:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾23/25)】
【思考・行動】
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
1:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す
2:ひとまずは仲間である清麿に同行
3:不死者(チェス)を殺す、死ななくても殺す
※チェスの名前を知りません
※不使者の制限に気がついていません
※騎兵の手綱が自分が巻いたロープだと気づいていません
※チェスの名前をドモンだと思っています
※石版編終了後のどこかから呼ばれてす
効果が切れる、その瞬間衝撃が走りチェスは地面に投げ出された。
--あの紙本当だったんだ…
ボートが縛られていたロープ、ラッドがデイバックから無造作に取り出したそれには説明書が付属されていた。「騎兵の手綱」これはそう呼ばれる宝具らしい。
バチ バチ ボートが燃える、じきに騎兵の手綱も灰に帰るだろう。
--そして僕も…
全身の血管が破裂している、両手の筋肉は断絶し、胸は大きく裂けている、説明書に書いてあった魔力と言う奴が足りなかった代償だろう。
致命傷だ、不死の力をもってしてもほおって置けば長くは無い。それが制限されていることは先ほど証明済みだ。
「死にたくないよ、マイザー…」
そうしてチェスの意識は途切れた。
※騎兵の手綱およびボートは燃え尽きました
※チェスが何処にいるのかは次の書き手さんにお任せします
40: ◆nZppKxGxio
07/12/15 17:36:41 vaEO01XT
投下します
41: ◆nZppKxGxio
07/12/15 17:38:22 vaEO01XT
■
夜闇の中、月明かりを受け煌く金色が揺れていた。
十字架だ。それを首から提げているのは、西洋の黒い僧服を纏った長身の影。
言峰綺礼、聖杯戦争というバトルロワイアルの監督役であった神父――しかし、今は参加させられる側。
その表情は常と変わらない。癖のある前髪の下から覗く黒瞳は、僅かに細められている。
西へと歩き出したあと、彼は幾つかの情報、推測を得ていた。
まず一つ。それは、原因の分からない魔術回路の不調だ。
本来、聖堂教会の人間にとって、魔術というのは最大の禁忌だ。だが、彼は遠坂時臣に師事し、数多くの魔術を修めていた。
――自らの心に空いた虚、それを埋める術を魔道の鍛錬に見出せるかという試みは、全くの見当外れであったが。
ともあれ、言峰綺礼はれっきとした魔術師でもある。魔術回路に不自然な負荷が掛かっていればそうと知れる。
結論を示すなら、彼の身体に刻まれた魔術刻印――言峰の家系が伝える、過去の聖杯戦争で使い残された令呪――を消費しなければ、常の効果には届くまい。
一流の域にある治癒魔術とて、致命傷を癒すには及ばないだろう。
だが、それだけなら大きな問題ではない。言峰綺礼は、元より魔術を以って戦場に臨む者ではないからだ。
聖言、秘蹟、祝福された武装――そして何より、鍛え上げられた肉体を以って魔を撃滅する神罰の担い手。
言峰綺礼が直に戦いに臨むのは、必ず聖堂教会の代行者としてだ。
やろうと思えば、足場の悪い森林の中を時速五十キロメートルで疾走できる。細剣の投擲によって生木を貫通させられる。防弾装備さえあれば、機銃弾の嵐を真っ向から突っ切ることもできる。
――無論、何の魔術の助けも借りず。
しかしそれ故に、二つ目の問題が重い。即ち、身体能力の低下。
秘門まで極めた八極拳士であれば――と言うより、武術の類の鍛錬を積んだ者ならば、座り、立ち上がるだけでも体内の不調は把握できる。僅かな違和感を感じた彼は、その場で幾つかの套路を試したのだ。
その結果分かったのは、単に筋肉が衰えているのとは違い、発揮できる最大の筋力が落ちているということ。通常の行動では何ら問題ないが、戦闘での無茶はできまい。
少なくとも、一瞬で十メートルを跳躍するような超人芸は不可能だろう。
原因は全くの不明だが、二つの――制限とでも呼ぶべきものが存在することを裏付ける情報。
そしてそれこそが、最大の解を示す。
優秀な螺旋遺伝詞を持つ個体を選び出す為の生き残りゲーム――螺旋王ロージェノムとやらは、確かにそう言った。
ならば何故、参加者が本来持っている能力を制限するような真似をする?
『優秀な螺旋遺伝詞を持つ個体』が指すのは、単純な能力値の高さではない――そう考えると、逆に個体差を中途半端に残した理由が分からない。
圧倒的な能力値が選定の邪魔になるというのなら、あの男――モロトフとやらのような存在は、最初から排除しておくべきだろう。
完全に制限するか、極端な話、能力に差のない人形にでも精神を移し変え、そして争わせればいい。
そして、今はデイパックの中に納まっている槍。
考えれば、それぞれに異なる武器が支給されるのもまた不自然。わざわざ殺し合いなどさせるのだから、機械的検査では『優秀さ』を測定できぬのだろう。
では、運だけで生き残る弱者が出てきてしまえば? 当然、あちらの目的は果たせない。否、失敗と分からぬままに失敗するという、最悪の状況に陥ることとなる。それさえ考えていないほど愚鈍ではあるまい。
能力をある程度平均化へと近付けながら、しかしトップとボトムの差は莫大、弱者が運に頼って勝ち残ることも充分にあり得る――
この不自然を、容易く解決する仮定がある。
優秀な個体が云々というのは建前で、実際の目的は別――そう考えるのが自然ではないか。
言峰綺礼、彼がその考えに至ったのは、聖杯戦争が同様の構造を持っていたからだ。
共通するのは、参加者に伝えられた殺し合いの目的と、その実情が全くの別ということ。
42: ◆nZppKxGxio
07/12/15 17:40:36 vaEO01XT
制限と幸運から生まれるのは、弱者であっても強者に勝てるのではないか、あるいはゲームそのものを打破できるのではないかという希望。
だが、誰かが希望を抱くということは、誰かが絶望するということだ。弱者の希望が潰えた時に生まれるものか、強者が制限と不運によって敗北した時に生まれるものかは分からないが。
つまり、ロージェノムの目的は――憎悪と苦痛、悲嘆と憤怒、歓喜と快楽、あらゆる感情が互いを喰らい合う、この状況それ自体ではないのか。
何にしろ、言峰綺礼の行動は変わらない。
あの正義の味方が他人の幸福に至福を感じるように、彼は他人の不幸に至福を感じる。それをより多く観られるよう、場を動かしていくだけだ。
故に、自身を正と信じる者こそが、彼にとっては望ましいのだ。
例えば、衛宮士郎のような。
例えば、パズーのような。
――例えば、八神はやてのような。
■
「むう……」
H-2と3の境界線上、木々の一つに背を預け座り込む人影があった。影は小柄で、肩の細さから女性と知れる。
グレーを基調とした服を着た彼女は、あぐらをかいた上に一枚の地図を広げていた。
「……拙いなあ、チャンスではあるんやろうけど……」
彼女、八神はやてが夜闇の先に見たのは、学校へと入っていく人影だ。
それはいい。元より学校を通過する際は、人を探す心算だった。
だが、その人影が二つだったのがまずい。やたらと金色に光っていた鎧姿と、影のように付き従うもうひとつ。
たとえ出会った人物がゲームに乗っていたとしても、単独であれば対処することは決して不可能ではない。だが、二人が相手であればその難易度は急激に上昇する。
ましてや武装の差すら測れないのであれば、乗り込むのは自殺行為に等しいだろう。
はやての武器はトリモチ銃と――『レイン・ミカムラさん愛用のネオドイツマスク』は使えまい。そこらで拾える石くれの方がまだマシだ。
対して相手の武器は、少なくとも防具が一つ。あの黄金の鎧だ。そして、はやてに鎧を素手で破れるような腕力はない。
彼女は地図を見下ろし、思案を続ける。
「選択肢、というか取れるルートは、と……」
一つは、予定通りに学校を経由してモノレールの駅に向かうというもの。
メリットは、あの二人との情報交換や、あるいは強力な仲間を作れる可能性があるということ。
デメリットはその逆。つまり、あの二人を敵に回してしまう可能性――そうなれば、無傷で逃げられることは期待出来ない。
二つ目は、このまま森沿いを進み、H-1の中心辺りから一気にモノレールの駅まで全速で進むというもの。
距離およそ七百メートル、全力疾走ならば、足場の悪さを考慮しても精々五分。近場で狙撃が可能な高所は、学校とモノレールの駅ぐらいだ。
あるいは彼女の親友のように、キロメートルオーダーでの遠距離砲撃が可能な者もいるかも知れないが、広範囲を恒常的に探知できる手段を併せ持っているとは考え辛い。何故なら、それならばとうの昔に吹き飛ばされている。
そこで、八神はやては気付いてしまった。幸運にも、気付けた。
43: ◆nZppKxGxio
07/12/15 17:42:33 9hDzPUUx
「あたしは、石田幸恵いいます」
その言葉を聴いた瞬間、言峰綺礼は右脚で地を蹴った。
自分の名前を知っているのは、衛宮士郎、ランサー、ギルガメッシュ、イリヤスフィール、そしてパズーと名乗った少年のみ。この女はその誰でもない。
そして何より、石田などという名前は名簿の中には存在しなかった。彼の名を知る、偽名を使い銃を構えた女――あの少年に出会い情報を引き出した『ゲームに乗っている』人間ではないのか。
彼とて殺されてやる気はさらさら無い。先制攻撃で抵抗力を奪おうと考えたのなら、一辺の躊躇も無く行動に移す。
六メートルの距離を一息で殺しつつ長身を回し震脚、左半身にて靠法一打。女の身体を軽々と吹き飛ばし、傍の樹に叩きつけた。
呻きを聞き流し、鋼じみた硬さに握り込まれた拳の一撃。締めていた脇を開き、遠心力を乗せる。
コンパクトな円弧を描いた左拳が着弾し、粘着質の音が響いた。
――八神はやてにとって致命的だったのは、男が神父だという先入観。その戦闘力を、さして高いものではないと考えてしまったこと。
神父は眉一つ動かさず、粘性の液に塗れた拳を見つめる。
そして、口を開いた。
「……殺意のある反撃ではない。敵意は無かった、ということか?」
トリモチによって樹に接着された拳を見つめ、神父はそう言った。
およそ二歩。それだけ離れた距離で立ち上がった彼女に向けて。
「……本当の名前を、聞かせてもらおうか」
■
――言峰綺礼にとって誤算だったのは、八神はやての対応能力。制限下とはいえ、一般人ならば初手で即死しかねない拳技を生き延び反撃さえしてのけたのは、実戦に身を置き続けた経験ゆえだ。
打撃による骨折はデイパックで緩衝することによって防ぎ、背を樹に打ち付けたときは受身を取った。
身を捻って離脱し、右手に持っていたトリモチ銃を撃ち放つ。下半身不随だった頃ならいざ知らず、今の八神はやてに不可能なことではなかった。
彼女は、腰の土を払いつつ立ち上がった。神父に対する敵意のないことを示すため、銃とデイパックをゆっくりと地面に置く。
偽名に気付く判断力と、先ほど見せたあの動き。体格に見合わぬ速度は、確固たる技術に基づいたものだ。
知りえる筈の無い名前を出したことと、偽名を使ったことが迂闊だったとようやく気付いた。
「八神はやて、です。あなたの名前は、パズー君から聞きました」
「あの少年からか……紫色の短剣を持っていただろう。私に支給された品だ。
シータという少女を、このゲームに参加させられた者達を絶対に救うと息巻いていた……誰かを殺すという覚悟も無く」
神父は、暗い息を吐く。その声は絶望でも諦観でもなく、ただ――
「あの少年は、殺さぬ限り傷つけることは厭うまい。なまじ殺さぬという覚悟を持つが故に、な。
そして自らが悪と定めた者に刃を突き立て、殺してしまえばそれまでだ。二人を殺し三人を殺し、五人目を殺す頃には、殺すべき相手を悪と考えるように歪んでいることだろう」
「そんな、こと……」
「ない、とは言い切れまい? 何かを愛する……譲れぬものがあるのなら、それを侵すものを悪と断ずるのはヒトとして当然の反応だ。
それに良心の呵責を覚え苦悶するか、受け入れてしまうかは分からんがな」
――三日月のように歪んだ口元だけが、その心中を語っていた。
頭の隅で、何かが警鐘を鳴らす。
44:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/15 18:27:59 SwbolYFA
>>2-43
どうでもいいけど速やかに出てけおまえら
邪魔だ