07/12/15 17:27:31 TXvh9j7m
辺りを捜索中だったチェスは奇妙な音を聞いた、それは少年ならば見逃してしまうかもしれない。けれど不死者として世界を回った彼には聞き覚えがある音だった。
「これは…」人間がいる、しかしこの様な音を立てているということは…恐らくはこのゲームに乗っている人間。
もしくは警戒の足りない一般人、それもこのようなものを使うのは大人数。
力と知識が無くとも数がいれば使い方はある、前者だとしても遠くから見てまずそうなら逃げればいい。
そう考えたチェスはそちらに行ってみることにした。
ドドドドドドドドドド
「ひゃっはぁ!!いいね!いいね!いいね!!こんなものまで入れてるったぁ…最高だぜ、この大会は!!開いたやつは!殺すけどな!」
「…」
バシャ!
「こういうの一回乗ってみたくてさぁ、なんていうの?大船じゃない不安定感が堪らないってうやつ
ん?どうしたんだブラザー、方針は派手にいくんじゃねえの?ちがうのか、俺の勘違いか?」
「…勘違いだ。」
顔に当たる川の水が気持ち悪い…清麿は頭を抑えてうめいた、まさか「コレ」を見たラッドがあんなに興奮するとは思わなかった。
―なにこれ??ってマジ、マジで?マジでジェットボ-ト!?何で入るのコレ。
―おい、何で川の方に行くんだ。くっ、ボート引っ張ってるのになんて早さだ。
まあ、デイバックはラッドに押えられていたため、阻止するのは不可能だったが…
ボートに乗ることで危険性は高まるが、それでラッドの機嫌を損ねたらたまらない。頭を切り替え今後の予定を考えてみる。
たとえば人に遭遇したら…
1・いきなり撃たれる
2・相手は見た瞬間逃げる、もしくは隠れる
3・やってきて交渉を持ちかける
4・それ以外
1は論外、警告も無しの攻撃は恐らくこのゲームに乗った者だろう。
錯乱してるとしても同行には危険すぎる、逃げるもしくは反撃だ。
2なら説得の余地がある、もし複数いればゲームに乗ったものの可能性も低い。とりあえず交渉から入ろう。
3と4は要注意だ、こちらの武装を見て声を掛けれるのは相当の自信か覚悟がいる。
悪人という保証はないが、相応の技能保有者―最初の犠牲者の様な―である可能性が高い。注意するに越したことはないだろう。
……ラッドもいるしな。
考えを纏めて顔を上げると、川が分かれていることが解った。
方角は今までどうりの西と、南。
「んじゃあ、あそこらへんに止めるか。」
「降りるのか?」
その案には賛成だった清麿は、船を縛るロープを結んでくれるようたのんだ。
「さあ、捜索と行くぜぇ。まってろよ俺のかわいい子猫ちゃんたち。」
36:死ぬよりも忌むべきもの ◆it6ZZg7l4s
07/12/15 17:28:12 TXvh9j7m
チェスは上陸する様子を高台から見ていた。
--2人組みか、この時点でゲームに乗っているとは考えにくいな。交渉役の男と戦闘員…いや保護者と被保護者の2人連れか。
もし考えているとおりの人間達なら、保護することを断ることはないだろう。
ジェットボートなどという目立つことこの上ない物を移動手段としている以上、先ほどの女同様何も考えていない(チェスはそう判断している)人間かもしれないが。
--逆に多少の襲撃者ぐらい問題に入らないぐらいの力があるとも取れるからな。
手早く思考を纏め、行動に入る。
彼らは2手に分かれたようだ。先ずは…
「しけてるな、誰もみつかんねぇ、この溜まったテンションをどうするよ。」
「あんま物騒なこというなよ…、2手に分かれて探してみたらどうだ?効率よく見つけれるかもしれない。」
「いいね、のった!集合時間はテキトー、各自やって殺ったぜともったら此処に戻ってくるでOK?」
殺らねえよ…、そういうまもなくラッドは飛び出していった。
「どうせ返答聞かないなら、疑問系つけるなよ…」
--さて、今のうちに行動しないとな。
清麿がいざという時のラッドからの援護も、ラッドの制御も放棄して別行動を提案したのには訳があった。
上陸のときに見えた影、恐らく人間…それも子供だろう。ラッドの基準は常人と大きく異なる、見つけたとたん襲わない保障は無かった。
--さっきの子供はこの辺か?
歩きながら茂みに入っていく。すると後ろから声が響いた
「お兄ちゃん…誰?怖いよ、何で銃持ってるの。」
現れたのはやはり少年、恐らくは小学生ぐらいだろう。持ち物はバッグの中か、手ぶらであることからしてもゲームに乗っている可能性は今のところは低い。
「大丈夫だゲームには乗っていない、俺は清麿。君は?」
「ドモン…僕ドモン・カッシュっていいます。」
唇の動きを見た瞬間、背筋に寒気が走った。極力顔色を変えないように質問する。
「変な事を聞くが君はアメリカの生まれなのかい?それと昔親戚の誰かが外国から来たとか聞いたことあるかい?」
「はい僕はアメリカの生まれです、親戚とかは聞いたことはありませんけど。どうしてです?」
「いや言葉が意味が通じるように翻訳されてるみたいなんだが、唇の動きが昔かじった古典英語に近くてな。」
--やはりアメリカの出身…じゃあ、なんで「土門」なんだ?
清麿はひそかに警戒を強めていく、よく考えればこれは先ほどの想定ケース3…要注意に当たる人物だ。
「ねえお兄ちゃん、さっきは2人いたけど何で分かれちゃったの?」
「ああ…別行動を取った方が良いと思ってな。所でデイバック見せてもらえるか?何かこの島からの脱出に役立つものがあるかもしれない」
ラッドについてはお茶を濁され、別の質問をぶつけられた。
「え!でも…」
怯えたような声を出しながら、チェスは思案する。
--まさか感づかれたのか?先ほどの奇妙な質問はそのために…。
チェスという錬金術師をして考えつかなかった「翻訳」という発想。
そして口の動きで「翻訳」元の言語が判る、一般人ではありえない知識。
迂闊なことを言った…この切れすぎる頭は少しまずい。
チェスは荷物を見せることにした。
これからのことを考えるといつまでも一人よりは同行者がいるほうが良い。
たとえゲームに乗った者と出くわしても、殺されない自信は有るが。壁はあって困るのもではない。
「今までどうしてたんだ?他の参加者には出会わなかったのか?」
「いえ、一人ちょっと年上の女の子と出会ったんですけど先にいっちゃって。」
適当に声をかけながら相手の銃に狙いを定める。
--壁はあって困るものではない、その壁がこちらに害を及ぼさない範囲においては。
だが私の障害になるのなら…こいつを殺して、もう一人に庇護を頼めばいい。
走っていった方角から捜索すると此処にくるまでに後15分はかかる。せいぜい取り込む演技の準備でもしよう。
「そういえば、お姉ちゃんは同じぐらいのお兄ちゃんを追っていっちゃいました。そのお兄ちゃんはゲームに乗ってる様じゃなかったんですけど。」
「ふむ…好戦的なのか?いや…」
考え込んだその背中に向けて、手を伸ばす。
--甘いよ、その情報はあの世でゆっくり考えればいい。
37:死ぬよりも忌むべきもの ◆it6ZZg7l4s
07/12/15 17:29:19 TXvh9j7m
パン
銃声がなる「超伝導ライフル」の
「あ、、、、、、」
チェスは片膝を付いて前のめりに倒れこんだ。
「な、何がおこった!?」
清麿は銃を構えて前を向く、その正面をかすって次のライフルが打ち込まれた。
「おーーーい、ブラザー。反応が鈍すぎるぜ、俺が早すぎる?いやいやジャック・ジョンソンとかに比べれば全然下だから、知ってるかボクシング?」
--アレは!?
そこには、朝焼けを背後に真っ白な服を着たラッドが立っていた。
銃口から硝煙は出てはいないがあれで撃ったのは明白だ、同時にもしや自分が狙われていたのではという考えにいたる。
しかしそれでも…
「おい!!いきなり何をしてるんだ、普通の子供だったかもしれないんだぞ?!」
「んな事関係ねーよ、そいつは俺が大好きな眼をしてたんだ。理由なんざそれで十分だろ?」
それ以外に何かあるのか?本気でラッドはそう考えている
怒りに任せラッドに掴みかかろうとした清麿は、地面に起きた変化に驚きの声を上げた。
--血が戻って……
そしてその血はチェスの体に吸い込まれた。
あっけに取られる清麿を無視して、チェスはムクリと起き上がり不気味な笑いをあげる。
その口調も気配も先ほどとはまったく異なるものだった。
「くくく、ずいぶん乱暴なことをしてくれる。まさか連れが殺人鬼とは、おまけに行動力もあるなぁ。あなたが来るのは十分後だったんですがね。
まあいい、私の仲間になりませんか?この島の人間を皆殺しにしてくれるだけでいい、報酬としてこの体と同じ体を与えよう。
老いることも無い不滅の体を、どうだ?悪い取引じゃあないはずだ。」
逆光になって、ラッドの表情は見えない。静かにライフルを上げる。
緊張が一気に上昇する--まずい、ラッドなら乗りかねない。ガッシュと会う前に死ぬわけには
パン
一度目と同じライフルの音、倒れたのは…やはりチェスだった。
ラッドは黙々と騙りだす
「そんなもんになっちまったら…オイ、自分が一番の殺害対象になるじゃねえか。
何やっても死なねえんだぜ!?そんな奴は殺すしかねぇ…だけど死なねえ。関係ねえ殺す
でも死なないでも殺すでも死なないでも殺すでも死なないでも殺す殺す殺す殺す……………………殺す!」
チェスはおろか自分でさえ理解できない内容であったが、どうやら救われたようだ
「狂ってるな、使えない奴ばかりだ…本当に運が悪い。」
チェスはそうつぶやいて逃走する。
「まてよ、こんなに美味しいそうな獲物を逃すわけねぇだろ!」
まて…そう言う間もなくラッドは歓喜の雄たけびを上げ追跡を開始した。
はあ、はあ
息を切らしながらチェスは逃走する、不死人でも疲労はするがそれでも常人よりはるかにタフだ。
痛みを無視すれば、筋肉が裂けて物理的に限界が来るまで走ることすら出来る。
--しかしなんだこの違和感は?
そう、チェスは先ほどから違和感を感じていた。なにやら胸の辺りが苦しい、息苦しいのではない「くるしい」のだ。
気のせい、そう考えるには奇妙な感覚。とは言え今は逃走中だ、じっくり確認とは行くまい。
--とりあえず逃げてからの話だな…見えた、川だ!
目的の場所を見つけてニヤリとするチェスの体がふらりと揺れる。
「ぐぁ!」
見れば足にナイフが突き刺さっている。
--こ、これは!?
考えるまでも無い、追いつかれたのだ。障害物の向こうから音がする、ラッドはその感覚だけでナイフを命中させていた。
そして死刑執行人が現れる
「よ~う、びびったか~い?俺もびっくりだ!まさか当たるなんてな、神様に感謝しなくちゃいけない。
ちょっと待ってな、今10秒ほど祈りをささげる。」そしておもむろにしゃがみ込むと、チェスの手を取った。
「いーち」そして指に手を添え……小指をへし折った。
「ぐあぁあ!?」「にーい、さーん」「やっやめ」
絶叫が上がってもラッドの行動は止まらない。「ごー、ろーく」
ゆっくり、ゆっくり、一秒に一本。
38:死ぬよりも忌むべきもの ◆it6ZZg7l4s
07/12/15 17:30:08 TXvh9j7m
「じゅーいち」
「…!!」
再生した小指をもう一度へし折られた。
「なんつーかな、あんまり変わんねーな不死者ってよ。最高にスカッとするけどふんぞり返ってる成金ぐらいか?
とりあえず、一辺死んどけ。」
ドン、すざまじい打撃がチェスの胸に叩き込まれた。…そしてチェスの心臓は停止した。
「んで、さっきみたいに生き返るんだよな、な?起きろよ千本ノック行くぜぇ!…って死んでんのか?
なんだよ、適当言うなっーの死なねえんじゃねえかよ。冷めちまったぜ…戻るか。」
ラッドが去ろうとする中、チェスは暗闇の中にいた
--なんだ此処は、私は不死者ではなかったのか!?
叫びは無常に消える…、チェスの心を冷たい絶望がながれた。
--私は死ぬのか…
それも良いかも知れない、この体が停止する以上元の状態に戻そうとする『不死の酒』の効果は消え失せるだろう。
そうなれば、最低でも死ぬより忌むべきあの事は永遠に葬られる。
--それでいい
本当に?優しかった錬金術の仲間にはもう出会えない、ナイル、田九朗、そしてマイザー。
--ばかな!全員食らうはずの対象に過ぎない、あんな奴らの事など!
本当に?
もちろんだ、それに死ぬよりも忌むべき「あのこと」を消し去るチャンスじゃないか。喜べ、死ぬだけでそれは叶う!!
『本当に?』
気がついたら涙を流していた。
--い、いやだ…私は…僕は死にたくない。
『死にたくない!!』
体が動く、呼吸が出来る。
--逃げないと、あそこまで行って逃げないと。
「ひゃっは!すげえ!!本当に生き返ったぜ!!」
物音は怪物を引き寄せる。
目的地はもう直ぐだ、逃げろ逃げろ、さあ付いた!!
ラッドは歓喜の中にあった、死んだと思った獲物が生きていたのだ。
すばらしい、本当に素晴らしい。無限回殺してもいなくならない、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも!!
「さあ、みつけたぁ!!」
その獲物はボートでラッドを待っていてくれていた、結んでいたロープを解いたようだがもう遅い。
ボートが出てもラッドは追いつき、それに乗り込めるだろう
--溺れさすのもいいな!一体どうなるんだ、水を吐き出すのか?残った水でまた溺れるのか?
ラッドは満面の笑みを浮かべてボートに乗り込もうとする。
絶体絶命のその状況、少年の口から出た言葉は悲鳴ではなく、一つの意味を持っていた。
それは聖杯に選ばれた騎兵の力。
「騎兵の手綱(ベルレフォーン)!!」
その言葉はボートを加速する、その言葉はボートに翼を与える、その言葉はラッドの手を振り払う!
「うぉぉおぉおっぉぉっぉお!」
ラッドの叫びさえ飲み込んでボートは消え去った。
「ふっざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!!」
遅れてきた清麿が見たものは、叫ぶラッド、そして破壊された川辺だった。
39:死ぬよりも忌むべきもの ◆it6ZZg7l4s
07/12/15 17:32:41 TXvh9j7m
ラッドが去ろうとする中、チェスは暗闇の中にいた
--なんだ此処は、私は不死者ではなかったのか!?叫びは無常に消える…、チェスの心を冷たい絶望がながれた。--私は死ぬのか…
それも良いかも知れない、この体が停止する以上元の状態に戻そうとする『不死の酒』の効果は消え失せるだろう。そうなれば、最低でも死ぬより忌むべきあの事は永遠に葬られる。
--それでいい 本当に?優しかった錬金術の仲間にはもう出会えない、ナイル、田九朗、そしてマイザー。--ばかな!全員食らうはずの対象に過ぎない、あんな奴らの事など!
本当に?もちろんだ、それに死ぬよりも忌むべき「あのこと」を消し去るチャンスじゃないか。喜べ、死ぬだけでそれは叶う!!
『本当に?』
気がついたら涙を流していた。
--い、いやだ…私は…僕は死にたくない。
『死にたくない!!』
体が動く、呼吸が出来る。--逃げないと、あそこまで行って逃げないと。
「ひゃっは!すげえ!!本当に生き返ったぜ!!」物音は怪物を引き寄せる。
目的地はもう直ぐだ、逃げろ逃げろ、さあ付いた!!
ラッドは歓喜の中にあった、死んだと思った獲物が生きていたのだ。
すばらしい、本当に素晴らしい。無限回殺してもいなくならない、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも!!
「さあ、みつけたぁ!!」
その獲物はボートでラッドを待っていてくれていた、結んでいたロープを解いたようだがもう遅い。
ボートが出てもラッドは追いつき、それに乗り込めるだろう
--溺れさすのもいいな!一体どうなるんだ、水を吐き出すのか?残った水でまた溺れるのか?
ラッドは満面の笑みを浮かべてボートに乗り込もうとする。
絶体絶命のその状況、少年の口から出た言葉は悲鳴ではなく、一つの意味を持っていた。
それは聖杯に選ばれた騎兵の力。
「騎兵の手綱(ベルレフォーン)!!」
その言葉はボートを加速する、その言葉はボートに翼を与える、その言葉はラッドの手を振り払う!
「うぉぉおぉおっぉぉっぉお!」
ラッドの叫びさえ飲み込んでボートは消え去った。
「ふっざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!!」
遅れてきた清麿が見たものは、叫ぶラッド、そして破壊された川辺だった。
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
【状態:追跡の軽い疲労】
【装備:無し】
【所持品:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾23/25)】
【思考・行動】
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
1:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す
2:ひとまずは仲間である清麿に同行
3:不死者(チェス)を殺す、死ななくても殺す
※チェスの名前を知りません
※不使者の制限に気がついていません
※騎兵の手綱が自分が巻いたロープだと気づいていません
※チェスの名前をドモンだと思っています
※石版編終了後のどこかから呼ばれてす
効果が切れる、その瞬間衝撃が走りチェスは地面に投げ出された。
--あの紙本当だったんだ…
ボートが縛られていたロープ、ラッドがデイバックから無造作に取り出したそれには説明書が付属されていた。「騎兵の手綱」これはそう呼ばれる宝具らしい。
バチ バチ ボートが燃える、じきに騎兵の手綱も灰に帰るだろう。
--そして僕も…
全身の血管が破裂している、両手の筋肉は断絶し、胸は大きく裂けている、説明書に書いてあった魔力と言う奴が足りなかった代償だろう。
致命傷だ、不死の力をもってしてもほおって置けば長くは無い。それが制限されていることは先ほど証明済みだ。
「死にたくないよ、マイザー…」
そうしてチェスの意識は途切れた。
※騎兵の手綱およびボートは燃え尽きました
※チェスが何処にいるのかは次の書き手さんにお任せします
40: ◆nZppKxGxio
07/12/15 17:36:41 vaEO01XT
投下します
41: ◆nZppKxGxio
07/12/15 17:38:22 vaEO01XT
■
夜闇の中、月明かりを受け煌く金色が揺れていた。
十字架だ。それを首から提げているのは、西洋の黒い僧服を纏った長身の影。
言峰綺礼、聖杯戦争というバトルロワイアルの監督役であった神父――しかし、今は参加させられる側。
その表情は常と変わらない。癖のある前髪の下から覗く黒瞳は、僅かに細められている。
西へと歩き出したあと、彼は幾つかの情報、推測を得ていた。
まず一つ。それは、原因の分からない魔術回路の不調だ。
本来、聖堂教会の人間にとって、魔術というのは最大の禁忌だ。だが、彼は遠坂時臣に師事し、数多くの魔術を修めていた。
――自らの心に空いた虚、それを埋める術を魔道の鍛錬に見出せるかという試みは、全くの見当外れであったが。
ともあれ、言峰綺礼はれっきとした魔術師でもある。魔術回路に不自然な負荷が掛かっていればそうと知れる。
結論を示すなら、彼の身体に刻まれた魔術刻印――言峰の家系が伝える、過去の聖杯戦争で使い残された令呪――を消費しなければ、常の効果には届くまい。
一流の域にある治癒魔術とて、致命傷を癒すには及ばないだろう。
だが、それだけなら大きな問題ではない。言峰綺礼は、元より魔術を以って戦場に臨む者ではないからだ。
聖言、秘蹟、祝福された武装――そして何より、鍛え上げられた肉体を以って魔を撃滅する神罰の担い手。
言峰綺礼が直に戦いに臨むのは、必ず聖堂教会の代行者としてだ。
やろうと思えば、足場の悪い森林の中を時速五十キロメートルで疾走できる。細剣の投擲によって生木を貫通させられる。防弾装備さえあれば、機銃弾の嵐を真っ向から突っ切ることもできる。
――無論、何の魔術の助けも借りず。
しかしそれ故に、二つ目の問題が重い。即ち、身体能力の低下。
秘門まで極めた八極拳士であれば――と言うより、武術の類の鍛錬を積んだ者ならば、座り、立ち上がるだけでも体内の不調は把握できる。僅かな違和感を感じた彼は、その場で幾つかの套路を試したのだ。
その結果分かったのは、単に筋肉が衰えているのとは違い、発揮できる最大の筋力が落ちているということ。通常の行動では何ら問題ないが、戦闘での無茶はできまい。
少なくとも、一瞬で十メートルを跳躍するような超人芸は不可能だろう。
原因は全くの不明だが、二つの――制限とでも呼ぶべきものが存在することを裏付ける情報。
そしてそれこそが、最大の解を示す。
優秀な螺旋遺伝詞を持つ個体を選び出す為の生き残りゲーム――螺旋王ロージェノムとやらは、確かにそう言った。
ならば何故、参加者が本来持っている能力を制限するような真似をする?
『優秀な螺旋遺伝詞を持つ個体』が指すのは、単純な能力値の高さではない――そう考えると、逆に個体差を中途半端に残した理由が分からない。
圧倒的な能力値が選定の邪魔になるというのなら、あの男――モロトフとやらのような存在は、最初から排除しておくべきだろう。
完全に制限するか、極端な話、能力に差のない人形にでも精神を移し変え、そして争わせればいい。
そして、今はデイパックの中に納まっている槍。
考えれば、それぞれに異なる武器が支給されるのもまた不自然。わざわざ殺し合いなどさせるのだから、機械的検査では『優秀さ』を測定できぬのだろう。
では、運だけで生き残る弱者が出てきてしまえば? 当然、あちらの目的は果たせない。否、失敗と分からぬままに失敗するという、最悪の状況に陥ることとなる。それさえ考えていないほど愚鈍ではあるまい。
能力をある程度平均化へと近付けながら、しかしトップとボトムの差は莫大、弱者が運に頼って勝ち残ることも充分にあり得る――
この不自然を、容易く解決する仮定がある。
優秀な個体が云々というのは建前で、実際の目的は別――そう考えるのが自然ではないか。
言峰綺礼、彼がその考えに至ったのは、聖杯戦争が同様の構造を持っていたからだ。
共通するのは、参加者に伝えられた殺し合いの目的と、その実情が全くの別ということ。
42: ◆nZppKxGxio
07/12/15 17:40:36 vaEO01XT
制限と幸運から生まれるのは、弱者であっても強者に勝てるのではないか、あるいはゲームそのものを打破できるのではないかという希望。
だが、誰かが希望を抱くということは、誰かが絶望するということだ。弱者の希望が潰えた時に生まれるものか、強者が制限と不運によって敗北した時に生まれるものかは分からないが。
つまり、ロージェノムの目的は――憎悪と苦痛、悲嘆と憤怒、歓喜と快楽、あらゆる感情が互いを喰らい合う、この状況それ自体ではないのか。
何にしろ、言峰綺礼の行動は変わらない。
あの正義の味方が他人の幸福に至福を感じるように、彼は他人の不幸に至福を感じる。それをより多く観られるよう、場を動かしていくだけだ。
故に、自身を正と信じる者こそが、彼にとっては望ましいのだ。
例えば、衛宮士郎のような。
例えば、パズーのような。
――例えば、八神はやてのような。
■
「むう……」
H-2と3の境界線上、木々の一つに背を預け座り込む人影があった。影は小柄で、肩の細さから女性と知れる。
グレーを基調とした服を着た彼女は、あぐらをかいた上に一枚の地図を広げていた。
「……拙いなあ、チャンスではあるんやろうけど……」
彼女、八神はやてが夜闇の先に見たのは、学校へと入っていく人影だ。
それはいい。元より学校を通過する際は、人を探す心算だった。
だが、その人影が二つだったのがまずい。やたらと金色に光っていた鎧姿と、影のように付き従うもうひとつ。
たとえ出会った人物がゲームに乗っていたとしても、単独であれば対処することは決して不可能ではない。だが、二人が相手であればその難易度は急激に上昇する。
ましてや武装の差すら測れないのであれば、乗り込むのは自殺行為に等しいだろう。
はやての武器はトリモチ銃と――『レイン・ミカムラさん愛用のネオドイツマスク』は使えまい。そこらで拾える石くれの方がまだマシだ。
対して相手の武器は、少なくとも防具が一つ。あの黄金の鎧だ。そして、はやてに鎧を素手で破れるような腕力はない。
彼女は地図を見下ろし、思案を続ける。
「選択肢、というか取れるルートは、と……」
一つは、予定通りに学校を経由してモノレールの駅に向かうというもの。
メリットは、あの二人との情報交換や、あるいは強力な仲間を作れる可能性があるということ。
デメリットはその逆。つまり、あの二人を敵に回してしまう可能性――そうなれば、無傷で逃げられることは期待出来ない。
二つ目は、このまま森沿いを進み、H-1の中心辺りから一気にモノレールの駅まで全速で進むというもの。
距離およそ七百メートル、全力疾走ならば、足場の悪さを考慮しても精々五分。近場で狙撃が可能な高所は、学校とモノレールの駅ぐらいだ。
あるいは彼女の親友のように、キロメートルオーダーでの遠距離砲撃が可能な者もいるかも知れないが、広範囲を恒常的に探知できる手段を併せ持っているとは考え辛い。何故なら、それならばとうの昔に吹き飛ばされている。
そこで、八神はやては気付いてしまった。幸運にも、気付けた。
43: ◆nZppKxGxio
07/12/15 17:42:33 9hDzPUUx
「あたしは、石田幸恵いいます」
その言葉を聴いた瞬間、言峰綺礼は右脚で地を蹴った。
自分の名前を知っているのは、衛宮士郎、ランサー、ギルガメッシュ、イリヤスフィール、そしてパズーと名乗った少年のみ。この女はその誰でもない。
そして何より、石田などという名前は名簿の中には存在しなかった。彼の名を知る、偽名を使い銃を構えた女――あの少年に出会い情報を引き出した『ゲームに乗っている』人間ではないのか。
彼とて殺されてやる気はさらさら無い。先制攻撃で抵抗力を奪おうと考えたのなら、一辺の躊躇も無く行動に移す。
六メートルの距離を一息で殺しつつ長身を回し震脚、左半身にて靠法一打。女の身体を軽々と吹き飛ばし、傍の樹に叩きつけた。
呻きを聞き流し、鋼じみた硬さに握り込まれた拳の一撃。締めていた脇を開き、遠心力を乗せる。
コンパクトな円弧を描いた左拳が着弾し、粘着質の音が響いた。
――八神はやてにとって致命的だったのは、男が神父だという先入観。その戦闘力を、さして高いものではないと考えてしまったこと。
神父は眉一つ動かさず、粘性の液に塗れた拳を見つめる。
そして、口を開いた。
「……殺意のある反撃ではない。敵意は無かった、ということか?」
トリモチによって樹に接着された拳を見つめ、神父はそう言った。
およそ二歩。それだけ離れた距離で立ち上がった彼女に向けて。
「……本当の名前を、聞かせてもらおうか」
■
――言峰綺礼にとって誤算だったのは、八神はやての対応能力。制限下とはいえ、一般人ならば初手で即死しかねない拳技を生き延び反撃さえしてのけたのは、実戦に身を置き続けた経験ゆえだ。
打撃による骨折はデイパックで緩衝することによって防ぎ、背を樹に打ち付けたときは受身を取った。
身を捻って離脱し、右手に持っていたトリモチ銃を撃ち放つ。下半身不随だった頃ならいざ知らず、今の八神はやてに不可能なことではなかった。
彼女は、腰の土を払いつつ立ち上がった。神父に対する敵意のないことを示すため、銃とデイパックをゆっくりと地面に置く。
偽名に気付く判断力と、先ほど見せたあの動き。体格に見合わぬ速度は、確固たる技術に基づいたものだ。
知りえる筈の無い名前を出したことと、偽名を使ったことが迂闊だったとようやく気付いた。
「八神はやて、です。あなたの名前は、パズー君から聞きました」
「あの少年からか……紫色の短剣を持っていただろう。私に支給された品だ。
シータという少女を、このゲームに参加させられた者達を絶対に救うと息巻いていた……誰かを殺すという覚悟も無く」
神父は、暗い息を吐く。その声は絶望でも諦観でもなく、ただ――
「あの少年は、殺さぬ限り傷つけることは厭うまい。なまじ殺さぬという覚悟を持つが故に、な。
そして自らが悪と定めた者に刃を突き立て、殺してしまえばそれまでだ。二人を殺し三人を殺し、五人目を殺す頃には、殺すべき相手を悪と考えるように歪んでいることだろう」
「そんな、こと……」
「ない、とは言い切れまい? 何かを愛する……譲れぬものがあるのなら、それを侵すものを悪と断ずるのはヒトとして当然の反応だ。
それに良心の呵責を覚え苦悶するか、受け入れてしまうかは分からんがな」
――三日月のように歪んだ口元だけが、その心中を語っていた。
頭の隅で、何かが警鐘を鳴らす。
44:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/15 18:27:59 SwbolYFA
>>2-43
どうでもいいけど速やかに出てけおまえら
邪魔だ
45: 丁度青ざめた表情を浮かべたゆたかの位置を直角とし、Dボゥイ、シンヤが直角二等辺三角形の残り二つの頂点に位置する場所に降り立つ形となった。 その時、Dボゥイはチラリとゆたかの方向に視線を向けるがゆたかは思わず視線を落としてしまう。 (ッ!ゆたか……俺は……俺は……俺はッ!) そのゆたかの行為が今のDボゥイには残酷すぎた。 「そうかミユキのコトは関係ないか……だったら別に俺がこんなコトをやっても文句はないよなッ!」 そんな時、シンヤが更に後方へ跳ぶ。 言いようのない不安に駆られ、ゆたかの安全を確保しようと既に全速で駆け出したDボゥイを尻目にシンヤはあるものを拾い上げる。 それは先程の衝突により弾き飛ばされた、シンヤの支給品であるカリバーン。 更にシンヤはカリバーンの柄を片腕で握り、そのまま槍投げの要領で投擲を行う。 だがその標的はシンヤの宿敵、Dボゥイではない。 先程から只、Dボゥイの方だけを凝視し続け、座りこんでいたゆたかに対しての投擲。 別にシンヤにとってとても利用手段のないゆたかの死はなんら問題にはならず、同時にDボゥイがどう動くかが彼には気になっていたからだ。 『勝利すべき黄金の剣』そう謳われたカリバーンがゆたかの命を刈り取らんと迫っていく。 ゆたかがその事に気付いたのはシンヤが投擲を行ったほんの数秒にも満たない後だった。 ◇ ◆ ◇
46:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:13:50 /en75kjp
47:REASON ◆3OcZUGDYUo
07/12/16 22:14:18 93EPVZJX
なんで私Dボゥイさんと目が合った時、思わず目を逸らしちゃったんだろう?
きっと私の事を心配してくれていたハズなのに……。
一瞬Dボゥイさんの顔が、凄い悲しそうに見えたのは今でも思い出す事が出来る。
でもDボゥイさんは人間じゃない…………。
Dボゥイさんはテッカマンっていうよくわからない存在…………。
Dボゥイさんもあの黄色い人がやってた凄く怖いもの……ボルテッカっていうのを出せるかのかな…………?
なんで…………あんなに優しいDボゥイさんを……私は怖がってるんだろう……………。
Dボゥイさんはいつも私の事を守ってくれたのに…………なんで………?
そんな時シンヤさんが私の方に漫画やアニメでしか見た事がないような剣を私に投げた。
ああ……あれに当たったら私もつかささんやパズーくん、お姉ちゃんの所に行けるのかな?
運動はお世辞にも得意と言えない私は思わずそんな事を思ってしまった。
だって私きっとDボゥイさんに嫌われちゃったから…………シンヤさんの言葉を鵜呑みにしてDボゥイさんを見る目の色を変えてしまったから……。
きっと私はここで死んじゃうんだ…………そう思って私は両目を瞑ってしまった。
だって私にはあの飛んで来る剣を避わす事なんてとても出来そうにはないから。
けど突然私の身体が何かに押され、一瞬だけ宙に浮いた感じがした。
何でだろう…………? そう思って私は恐る恐る眼を開けたの。
そうしたら……そうしたら……そうしたら…………。
「がッ!」
「ふん、よくやるよ……だがそれでこそタカヤ兄さんと言えるのかもしれないな」
Dボゥイさんが私を庇ってくれたの…………。
Dボゥイさんを一瞬でも信じることが出来なくなった私を………。
右肩にあんな剣が刺さってまでもこんな私を…………。
右肩からあんなに痛そうな赤い血を一杯流してまでも私を…………。
私も……私も……私も……私も何かやらなくちゃ…………。
Dボゥイさんがあんなに痛そうな顔をしてるのに……何も出来ないなんて……嫌だ。
だってDボゥイさんは……Dボゥイさんは……Dボゥイさんは!
◇ ◆ ◇
「予想はしてたけど……俺との闘いの為に無茶はやめてくれよな兄さんッ!」
Dボゥイがゆたかを庇う事は薄々感付き、カリバーンを投げた直後から駆け出していたシンヤが叫ぶ。
狙いはDボゥイに必死に寄り添うゆたかではなく、ゆたかを庇い右肩にカリバーンが突き刺さり、地に膝を屈したDボゥイ。
「くっ……シンヤ……」
シンヤの方を振り向き、肩に突き刺さったカリバーンを武器として使用するためにそれの柄にDボゥイが手を掛ける。
だが、シンヤと闘う以前から貧血気味であり、更に血を失ったDボゥイの動きは重い。
「どうせ俺達はテッカマン……化け物である俺達が人間如きを気にする必要はないハズだブレードッ!!」
そんなDボゥイがカリバーンを引き抜く前に、シンヤが十分に距離を詰める。
更にシンヤの手にはDボゥイに近づく途中で拾い上げたテックランサーがしっかりと握られている。
体制が前かがみ気味になっていたDボゥイの隙だらけの腹に斜め方向から右足を叩き込む。
そのシンヤの右足による衝撃でDボゥイの身体がいとも容易く、数十メートル先横方向へ吹き飛ぶ。
シンヤがテックランサーで直ぐにDボゥイの身体を切り裂こうとしなかったのは、それでは味気ないと思ったのかもしれない。
48:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:15:01 /en75kjp
49:REASON ◆3OcZUGDYUo
07/12/16 22:15:01 93EPVZJX
「トドメだタカヤ兄さんッ!!」
だがもうシンヤにはそんな気は微塵にもない。
幼少の時からいつも優秀で、尊敬の対象でもありながら父からの愛さえも独占し、嫉みの対象でもあったDボゥイ。
そんなDボゥイにトドメを刺そうとテックランサーに添えた腕に更に力を込め、彼の元へ駆け出そうとする。
だが、その時シンヤは気付いた。
とても弱く、簡単に振りほどくことが出来る力ではあるが。
小早川ゆたかが身体を震わせながらもシンヤの上着を、その小さな両手で引っ張っていた。
なにかを決心したような瞳で真っ直ぐ、出来るだけシンヤのそのどす黒く、見るものに恐怖を与える瞳に視線を逸らさずに。
◇ ◆ ◇
「何のつもりだい?」
シンヤが心底不思議そうに問う。
別に今この場でゆたかをテックランサーで切り裂き、Dボゥイの反応を見るのも面白いかもしれない。
だがこの場であえて身の危険を顧みずに、ラダムのテッカマンである自分にわざわざ自分から接触してきたゆたかに対しシンヤは興味を持っていた。
そのため即座にゆたかを殺す事はせずにシンヤは取り敢えず話を聞こうと思ったからだ。
「訂正して……ください」
そんなゆたかはシンヤの威圧感に押されながらも必死に口を開く。
こなた達が死んでしまったショックも完全には癒されていなく、Dボゥイが自分を庇い重症を負っている。
いつものゆたかなら卒倒してもおかしくないほどの出来事の連続。
だがゆたかはなけなしの気力を振り絞り、必死に意識を保つ。
シンヤが言った言葉で一番許せなく、どうにかして取り消してもらいたいから。
只、その揺ぎ無い意志を糧にしてゆたかはその細い両の足で立ち続ける。
「訂正? 何のコトだ?」
シンヤがまたしても訝しげに言葉を返す。
事実、シンヤ自身は何も嘘を言ってはいなかったからだ。
そのシンヤの行動がゆたかの意思を更に強固なものとさせる。
「Dボゥイさんは……化け物なんかじゃありません」
「なんだって……?」
自分より高い位置にあるシンヤの顔を真っ直ぐ見つめ、ゆたかが声を絞り出す。
そんなゆたかの言葉をシンヤは不思議そうに眺め、シンヤによって蹴り飛ばされたDボゥイもゆたかの言葉に驚愕の表情を浮かべている。
「Dボゥイさんは私をいつも守ってくれた……Dボゥイさんはこんな私を助けてくれた
……そんなDボゥイさんが化け物のハズがありません!」
だがゆたかはそんなシンヤとDボゥイの表情を尻目に言葉を続ける。
この殺し合いが始まり、寂しさのあまり泣き崩れ、取り乱していた自分を優しく保護してくれたDボゥイ。
ヒィッツカラルドが襲撃して来た際、自分を庇いながら闘ったDボゥイ。
自分がつかさの死を知ったショックで思わず気を失っても、自分を見捨てずに傍についてくれたDボゥイ。
パズーとこなたの死を知り、再び気を失いそうになった自分を優しく
そしてたった今あまりにもリスクが高い行為でありながら、自分を庇ってくれたDボゥイ。
そんなDボゥイが化け物であると一度でも疑った自分に対しての憤りを気力に変えて、ゆたかが精一杯の大声を出す。
「ふん! だがお前はランスのあの姿を見ただろう? 兄さんがあんな姿になってもそんな綺麗事を言っていられるのかッ!?」
「もういいゆたか! もうその言葉で俺にとって十分だ……」
ゆたかの言葉に若干の苛つきを覚えたシンヤが吼える。
何故この少女はそこまで言い切れるのかがシンヤにはわからないからだ。
ゆたかの言葉に驚き、直ぐに彼女の元へ向かおうとDボゥイが叫び、必死に身体を起ち上がらせようとする。
Dボゥイはそれ以上ゆたかが何か言おうとしているのを止めて欲しかった。
きっと今のシンヤの言葉を受け、ゆたかは言葉に詰まってしまうだろう。
シンヤの言葉は真実であり、勿論ゆたかにその事について非があるとDボゥイは思っていない。
だが自分を気遣って、言葉に詰まりながら無理に自分を庇護するゆたかの姿は見たくない。
それがDボゥイの本音だったからだ。
50:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:15:46 4WMzC+yj
「シンヤ……シンヤ……シンヤぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!」
え?…………タカヤさんとシンヤさんが探しているもの?
なんで? そのテッククリスタルっていうのはその……テッカマンっていうのになるのに必要なんじゃ…………?
どうしてそんなものをDボゥイさんとシンヤさんが欲しがる必要があるの……?
口に出して質問しようと思うけど、全然口が動かない。
これ以上聞いたら何故だか後戻りできないような気がするから……。
Dボゥイさんのあの怖い顔を見るとそんな気がしたから……。
・・・・、・・・・・。・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
てのが大杉、というかキモイ
51:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:16:28 /en75kjp
52:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:16:48 SLO/5KKE
くどい
くどすぎるこの駄文
53:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:18:22 +0QpCM3D
54:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:18:37 NfuK8Yka
だからこーいう文垂れ流すの
や─────────
め─────────
ろ─────────
よ─────────って気持ち悪いんだよマジで
読んで無くても
55:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:23:44 CRaK50Pq
_,-'´ヽ
,r'´>`ヽ `、
,r‐'''''''''''‐' 7>、:.:.:ヽ i
r‐--‐‐‐-v''''‐i::. :. `'''‐-;;;! !
l;,r'´¨¨''‐;:! .::::l:: :.:. :.__::. 〈
!ヾ7;r;./ .: .:: ::/!:..i、;-''i ! ̄ヽ `、
ヽ::ヽ/: .:::.::_/___ヽ!/ l ! ! ヽ みんなこういうSSがいやにゃといってるのにゃ
`、:.:: .:;-"l ! `i、 l_,! _,-'’ ヽ こんなの書いてて俺様は頭いいと思ってるんだからどうしようもないのにゃ
_,/.:::.:/ l_,! / `'''''''''´/.: .:: .: :. : i !
// ::::::ヽ ____ ,/ ,、_丿 !::: .:::..:::: :::::. ::: l !
// / :::::: / ヽ `ー'′ !i::.::;イi::;ri:..:::::.:::: ll,!
l,!l/l :::i:::i:!::::::::::`:..、 _l!;/:::''´:/ヽ:ト、i、/
,r‐`、!:/!!::::::::::;::::::::`''''ニ=''''¨二l,イ´_ `
ヽ _ 〈 ′l;!ヾ;/`´`´_Y’‐''´ :.. i´ ` 、
l,r'''''''''ヽ /7:: ::i::!. ヽ
/:. `i-'''’/:: .:. ::. ::Y:. :. ヽ
!:::::.. .:l::!::::;!::: ..::::. :::..:::!:: _,.┬‐,〉
ヽ ______,,ノ!_!/.:::::.:::::::::... :::::::l∠-! l<_ !
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56:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:25:51 emFa5ywB
見飽きてる、
くどい、
気持ち悪い、
文体が似すぎ
頭いい人間が書いたもんだと思えない
57:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:35:30 YiMFKA8u
はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・
何をつっこんでいいかわからんが
どうみても作家の自己陶酔の駄文だろ…常考・・・・・・
見せられるほうにもつらいんですがね
これでしたらばの奴等は頭いいと自慢しやがりますか
58:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:39:32 BI1y7tr6
この人たちこんなSSに何キロバイトつかってんの?
59:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 22:41:42 qhyXp57L
そういうSS書きたいんだったら開き直れyo
妙なヒロイックとかそういう下らない
感傷的なネタは見ているほうを
よけいいらだたせるんだyo
それで自分は頭いい、天才だとおもわれてちゃかなわねえ
60:Nightmare of Mao 1/5 ◆1sC7CjNPu2
07/12/16 23:08:48 QzySime8
二回目となる放送が終わってから小一時間ほど経った頃、マオはいまだに高級マンションにいた。
正確に言うなら、マオは高級マンションの一室で休養を取っていた。
「くそっ!あの電波め……!」
毒づきながら、マオは部屋の冷蔵庫から拝借した氷嚢を額に当てる。
ガンガンと頭の中からツルハシで叩かれているような頭痛が、少しは和らいだ気がした。
風浦可符香と眼を合わせた直後と比べると、これでも随分マシになった方だ。
―うるさいとは思ってたけど、まさか悶絶するほどとは……っ!
ついその時のことを思い出しそうになり、マオは慌てて思考を切り替える。
―放送も聞き逃すし、踏んだり蹴ったりだ。
どれほど人が死のうが、マオにとっては知ったことではない。
ただ、禁止エリアの情報を得ることが出来なかったのが気がかりなのだ。
「まあ、それはギアスを使って人から教えてもらえばいいことなんだけどね……っと」
マオはそれなりに寝心地の良さそうなベッドに横になり、仮眠を取るため片手で近くにあった目覚まし時計を弄る。
もちろん、マオがこのような行動を取るのには理由がある。
少し時を遡るが、マオは頭痛に苛まれながらも逃げ出した金田一を追うためにギアスを広げた。
そしてマオは金田一の思考を捕らえ―あまりの頭痛に、その思考を理解することが出来なかったのだ。
微かに絶望したような声が聞こえ、マオはその時にやっと放送が流れていることに気がついたのだ。
慌てて放送に耳を傾けようとしたが、また頭痛が酷くなりそれどころではなくなった。
「……流石に、こんな状態で動き回ったらC.Cを探すどころじゃないしね。
ここが禁止エリアに指定されている可能性は、けっこう低いと思うけど……」
8×8マスの会場の内、すでに3マスが埋まっておりそこにさらに3マスが禁止エリアとなる。
確率としては61分の3、ハズレを引くことはまずないはずだ。
不安がない訳ではないが、現在のマオのコンディションでは出歩くのも億劫な状態だ。
腹を決めて、頭を休めることにしたのだ。
―C.Cの夢を見れるといいんだけどなぁ。
そう思い、マオは静かに目を閉じる。
結果から言ってしまうと、マオはC.Cの夢を見ることは出来なかった。
とびっきり最悪な、悪夢(ナイトメア)を見ることとなる。
■
61:Nightmare of Mao 2/5 ◆1sC7CjNPu2
07/12/16 23:11:16 QzySime8
何処かの、人気のない山の中に二人の人間がいる。
緑色の髪に紫のチャイナ服を着た美女と、まだあどけなさの残る少年だ。
―僕が、C.Cを絵に書いてた時だ。
―我ながら、ドへたくそな絵を書いてたなぁ。
―でも、そんな絵を見てC.Cは嬉しそうに笑ってくれたんだ。
―C.C。その時の笑顔を、僕はいつでも思い出せるよ。
―そう、いつだって、いつも、いつまでも。
―ほら、今だってすぐに君の笑顔と優しい声を……?
唐突に、マオは違和感を覚えた。
夢の中のC.Cが、顔を伏せていたからだ。
―おかしいな、今までこんなこと一度もなかったのに。
マオの中で何かが警鐘を鳴らしていたが、こんな時もあると自分を納得させる。
何か、強烈な不安が膨れ上がってくる。
―きっと、C.Cの声を聞いてないからだ。
夢の中にいた子供は、いつの間にかマオ自身になっていた。
マオは不安を押し隠すように、C.Cに近づく。
夢の中でもいいから、とにかくC.Cの微笑む顔を見たかった。
C.Cの顔を隠している髪を掻き分け、愛しい人の顔を見ようとしたとき―つるっと、髪が落ちた。
「なぁ!」
よく見ると、それは精巧なカツラだった。
慌てて、カツラが乗っていた場所を見る。
『こんにちは、ところでここはポロロッカ星ですか?』
「―――――――――――――――――――――――!!!」
声にならない無言の絶叫と共に、マオは飛び起きた。
肺からただ空気を搾り取るように絶叫しながら、マオはメチャクチャに暴れまわる。
とにかく体を動かさないと、気が狂いそうだった。
部屋の内装が見るも無残なものになった所で、マオはやっと暴れるのを止めた。
ぜぇぜぇと、荒くなった息を整える。
62:Nightmare of Mao 3/5 ◆1sC7CjNPu2
07/12/16 23:13:46 QzySime8
「なんだ、なんだったんだよ今のは!」
マオは、C.Cとの思い出を夢として見ていたはずだ。
しかしC.Cが存在した場所には、何故か―風浦可符香が、存在していたのだ。
「C.C……助けてよ、C.C……っ!」
そして、マオの悪夢はまだ続いていた。
夢に見ていた思い出だけでなく、マオの思い出の全てのC.Cが―風浦可符香と入れ替わっていた。
人混みの中で、心の声に苦しんでいるマオをあやしているのは風浦可符香だった。
幼い頃、お互いに抱きしめ暖めあって眠る相手は風浦可符香だった。
久しぶりに再会した時、銃を構えているのは風浦可符香だった。
クロヴィスランドで、マオが銃で撃ち抜いた相手は風浦可符香だった。
ルルーシュにギアスを掛けられ、逃げ出した先にいたのは風浦可符香だった。
人混みの中で、心の声に苦しんでいるマオをあやしているのは風浦可符香だった。
幼い頃、お互いに抱きしめ暖めあって眠る相手は風浦可符香だった。
久しぶりに再会した時、銃を構えているのは風浦可符香だった。
クロヴィスランドで、マオが銃で撃ち抜いた相手は風浦可符香だった。
ルルーシュにギアスを掛けられ、逃げ出した先にいたのは風浦可符香だった。
「いやぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ、めぇぇぇえっぇえぇぇっぇえぇぇ、ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
今度は明確な拒絶を込めた絶叫を上げ、マオはデイパックを手にとって駆け出した。
ドアを破る勢いで部屋から出る。部屋の近くには、まだ可符香の死体が転がっていた。
マオは血走った目でデイパックからステッキを取り出し、死体に向かって弾をばら撒いた。
撃つ。
撃つ。
撃つ。
まだ撃つ。
死体が原型を留めなくなった所で、やっとマオは撃つのを止めた。
また荒くなった息を整えようともせず、マオは意識を集中させる。
―C.C、シーツー、しーつー、C.C、僕の愛しい人!
『ちょっとしたディープラヴってやつですね』
元凶を挽肉にしても、やはり駄目だった。
マオはあまりの絶望に膝を着き、虚ろに笑いながら空を見上げた。
いつの間にやら頭痛は消えうせていたが、マオにはもうそんなことはどうでもよかった。
63:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 23:14:00 10AWdLnf
64:Nightmare of Mao 4/5 ◆1sC7CjNPu2
07/12/16 23:16:05 QzySime8
炎は、消える寸前が一番綺麗に輝くと言う。
マオと可符香が眼を合わせた時、可符香の命の炎はまさに消える寸前であった。
制限されているとはいえ、心を知ることに慣れていたマオが悶絶したのにはそんな一因もあったのだろう。
そしてその燃え尽きる寸前の炎は、マオの精神に意図せず焼き痕を残していった。
マオの思い出のC.Cが、風浦可符香に入れ替わるように。
とはいえ、人の心はコンピューターのように簡単に置き換えられるものではない。
マオに残された焼き痕とて数日か、ひょっとしたら数時間もしたら消え去るかもしれない。
しかし、そんなことがマオに分かるはずもなかった。
―奪われた。
―C.Cとの思い出が、奪われた。
呆然とした意識で、マオは笑っていた。笑うしかなかった。
C.Cはマオにとって唯一の思考が読めない人間で、それ故に全てだった。
その全てが奪われた今、マオは空っぽの抜け殻になってしまった。
「……しーつー」
力無げに呟いた所で、マオは首が疲れたので見上げるのを止めた。
そして―緑色の鉱石を、その眼に留めた。
それはマオに支給された品の一つで、役に立たないだろうとデイパックにしまっておいた物だ。
ステッキを取り出した時に一緒に出てきたのだろうかと思いながら、何かに引き寄せられるようにマオは鉱石を拾う。
―C.Cの髪と、同じ色だ。
そう思うと、その鉱石は他のどんな鉱石よりも価値のあるものに見えてきた。
まじまじと観察していると、その鉱石に赤黒いものが付着しているのに気づいた。
おそらく、可符香の血だろう。
緑の鉱石に付着するそれを見て、マオはC.Cをたぶらかすルルーシュを連想した。
マオはイラついて鉱石を拭い―ふと、閃いた。
「ルルーシュだ!」
一言恋敵の名を叫び、マオは立ち上がった。
生気のなくなっていた眼は、いまや爛々に光り輝いている。
「ルルーシュならC.Cを思い出せる!」
マオが閃いたのは、そんな方法だった。
ルルーシュにC.Cの情報を考えさせ、それをマオが読むことでC.Cを取り戻す。
憎き恋敵に頼ってしまう方法だが、拘ってる余裕はなかった。
65:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 23:19:08 MZaG/E4K
66:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 23:19:24 +0QpCM3D
67:Nightmare of Mao 5/5 ◆1sC7CjNPu2
07/12/16 23:20:08 QzySime8
マオは鉱石を強く握り、反対の手でステッキとデイパックを拾う。
可符香の残骸を踏みぬけて、マンションを駆け下りる。
マンションから外に出たところで、可符香のデイパックが置き去りにされているのに気がついた。
「大切な遺品を置いてきぼりにしちゃうなんて、名探偵としてどうかと思うよ。金田一くぅん」
金田一を嘲り、その間抜けさに感謝しながらデイパックの中身を確かめる。
その段階で、マオは自身がヘッドホンのことを失念していたことに気がついた。
後頭部をガシガシと掻き、反省する。
C.Cの声より、もっと根本的なものが奪われたのだから無理もない話とも言えるが。
「ヘッドホンは無いか……ちぇっ、役立たず」
ヘッドホンが入っていなかったことに落胆したが、マオは緑色の鉱石を取り出して心を落ち着けさせる。
いつの間にかその鉱石は、マオにC.Cのことを思い出させることから精神安静に一役買うようになっていた。
……明確に連想すると、風浦可符香が出てくるため難儀なものだが。
―とにかく、今はルルーシュとヘッドホンだ。
眼を閉じ、マオは周囲の心の声に耳を澄ませる。
この悪夢から目を覚ますために。愛しい人を取り戻すために。
『呼びましたか?』
幻聴は、断固として無視した。
【C-3/海岸沿いの道/1日目-日中】
【マオ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的・精神的疲労(小) 精神汚染(小)
[装備]:東風のステッキ(残弾率60%)@カウボーイビバップ マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:デイバック×3 / 支給品一式×4 / 支給品一式(食料-[全国駅弁食べ歩きセット][お茶])
オドラデクエンジン@王ドロボウJING / 日出処の戦士の剣@王ドロボウJING
アンディの衣装@カウボーイビバップ / 緑色の鉱石@天元突破グレンラガン
エクスカリバー@Fate/stay night / ライダーダガー@Fate/stay night
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION / 鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
血塗れの制服(※可符香の物)
[思考]
1:ルルーシュ、またヘッドホンを見つけてC.Cを取り戻す
2:聞き逃した放送の内容を、ギアスで確認する
[備考]
マオのギアス
周囲の人間の思考を読み取る能力。常に発動していてオフにはできない。
意識を集中すると能力範囲が広がるが、制限により最大で100メートルまでとなっている。
さらに、意識を集中すると頭痛と疲労が起きるため、広範囲での思考読み取りを長時間続けるのは無理。
深層意識の読み取りにも同様の制限がある他、ノイズが混じるために完全には読み取れない。
※また、錯乱などといった思考の暴走には対処しきれない事に気づきました。
※異世界の概念はあまり信じていない様子。
※シータの知りうるラピュタ関連の情報、パズーやドーラの出会いをほぼ完全に知りました。
※金田一と、その近辺の情報を知りました。
風浦可符香による精神汚染
マオの思い出の中のC.Cが、全て可符香と入れ替わりました。マオがC.Cを忘れたわけではなく、何故かC.Cを思い出すと可符香になってしまいます。
数時間から数日で正常な状態に戻ります。
緑色の鉱石@天元突破グレンラガン
第11話でシモンがニアにプレゼントした緑色の鉱石。
68:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 23:49:32 7HRYSRkd
また厨臭い文章がきやがりました
69:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/16 23:51:57 10AWdLnf
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、述懐する。
―初めは、ただ鬱陶しいだけの存在だった。
自分のことを美男子と自称したり、出会いがしらに変な歌を教え込まれたり、守るといいながら震えてみたり。
殺伐とした世界をぶち壊すような、スラムに迷い込んだコメディアンのような男だった。
パルコ・フォルゴレ―鉄の、無敵の男は、イリヤと菫川ねねねを守るために囮となり、そして死んだ。
放送の内容を耳に残して、もう彼に嫌味ごとを言う機会もないんだな、とイリヤは悟った。
「黙祷しましょう。我々がパルコ・フォルゴレ氏にできるのは、それくらいです」
ワイシャツを着たインテリ風の男―明智健悟は冷静な口調でイリヤと、菫川ねねねに言う。
イリヤは、明智の言うとおりに目を瞑ってフォルゴレに弔詞を読む……気になどはなれなかった。
ねねねにいたっては、目を瞑るどころかその眼光を余計にギラギラと光らせ、明智を睨んでいる。
―正午を知らせる放送が終了を迎えた頃。場所はC-5の映画館内。
今は延々とコマーシャルが流れているスクリーンの幕下で、イリヤとねねね、そして明智の三人は話し合っていた。
三人とも殺し合いには乗っていない穏健派、方針だけで言えば同志であったものの、そのムードは和やかとは程遠い。
先の放送でフォルゴレやエリオ・モンディアルなど彼女らの知人の名が呼ばれたことが第一だったが、最大の要因は明智にあった。
「さすがはエリート刑事さんだ。人が死ぬのにゃ慣れっこってわけか」
皮肉めいた言い回しで、ねねねが鋭く言い放つ。
明智はそれを受けてもクールという名の鉄面皮は崩さず、言い返す。
「心外ですね。私とて、人の死に心を痛めぬ冷血漢というわけではない。
特にあなた方と共にいたフォルゴレ氏は、詳細名簿の文面から見ても亡くすには惜しい人物でした。
機動六課のホープたるエリオ少年についても同様です。彼の死で多大な影響を受けるであろう人物にも心当たりがありますしね」
「なら泣け。もっと悲しそうな顔してみろ。あんたの冷たい顔見てるとイライラしてくるんだよ」
「おや、菫川さん……いえ、ここは菫川先生とお呼びしたほうがよろしいですか?
あなたは激情家ではあるようですが、先の物事をちゃんと見据えている聡明な女性かと思っていたのですが」
「わかってるよ。ああわかってるわよ。だけどな、あんたはムカツク。それだけだ。クソッ」
ねねねがなにをそんなに怒っているのかは、イリヤにも理解できた。
フォルゴレは銀髪の男―詳細名簿を見るに“ビシャス”という危険人物らしい―に殺された。
しかもただ殺されたわけではない。イリヤとねねねを逃がすために自らを盾にしたのだ。
選択肢はあった。あの場で逃げず、フォルゴレを助けるに行くこともできた。なのに、ねねねは逃走を選んだ。
それは武器の貧困さや自分たちの戦闘力のなさ、あらかじめ知っていた相手の力量を計っての判断だろうが、一番の理由はたぶん、自分……イリヤが子供だったから。
大人として、子供であるイリヤを死地に巻き込むことができなかったのだ。フォルゴレも、ねねねも。
イリヤたちが逃げた先、モノレールの駅にいた男が、この明智健悟だった。
偶然にもお互いが同じ詳細名簿(細部は異なるようだが)を所持しており、事前に得ていた情報から手を組むのに危険性はないと判断し、とりあえず明智と共にD-4の駅に下車した。
その後は、明智とねねねを主軸に情報交換が行われる。
D-4の駅に数時間前まで六課メンバーのティアナ・ランスターがいたこと、
錯乱状態にあった彼女の説得を相棒のデバイス・クロスミラージュに任せていたこと、
しかし戻ってきたその場に彼女らの姿はなかったこと、
イリヤとねねねが銀髪の男から逃げてきたこと、
その際フォルゴレが囮になってくれたこと、
銀髪の男がビシャスなる人物であること、
様々な情報が錯綜する中で、明智はビシャスが追ってくる危険性を考慮し、場所を映画館に移そうと提案した。
その時点でねねねは既に明智の冷静すぎる素振りが気に入らない様子だったが、安全を第一に考えた彼女は明智の案に同調。
イリヤはフォルゴレを助けに戻りたかったが、モノレールの時間を考えても、そこは折れるしかなかった。
そして、映画館に着いた頃には放送である。
イリヤはもう、フォルゴレを助けに戻りたいという願望を失っていた。
戻っても無駄だということが、放送によって判明してしまったからだ。
70:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 23:53:45 xt/Q7YdQ
71:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/16 23:54:31 10AWdLnf
「フォルゴレは……わたしたちを守るために、死んじゃったの?」
やや大きめのシートの上、脱力した肩を抱えながら、イリヤがか細く尋ねる。
「……イリヤ君、でしたね。少し厳しいことを言いますが、あなたとてこれまで死と無縁の環境を生きてきたわけではないでしょう?
聖杯戦争……魔術師……サーヴァント……それらの言葉が示す意味がどんなものかはわかりませんが、あなたは見た目ほど子供ではない。
少なくとも私や菫川先生以上には、非日常というものに慣れているはずだ。違いますか?」
イリヤが見た目相応の少女でないと知る明智は、落ち込む彼女を厳しく諭した。
「デリカシー皆無だな。ってか少し黙れ」
「……失礼。言いすぎたようです」
同じくイリヤの正体を紙面の情報範囲で知るねねねは、しかし明智のように冷徹ではなかった。
詳細名簿の内容を信じていないわけではないだろうが、それでもねねねはイリヤを子ども扱いしているのだろう。
フォルゴレの死に悲しみ、悔しさを覚え、守られて当然だと、そういう風に思っているに違いない。
今のイリヤにとっては、ありがたい心遣いではあった。
「少し外に出てきます。道中で見つけた現場の検分もしたいのでね。菫川先生、ご同行願えませんか?」
「断る。だいたい、あんたにはマッハキャリバーのお仲間と関係があるからってついて来たんだ。
この先も一緒に行動する気なんざ、これっぽっちもない」
「行ってきなよ、ネネネ。わたし、ちょっと一人になりたいの」
そう言って、イリヤは座席に深く蹲る。声からして憔悴している様子だった。
そんなイリヤを見て、ねねねがどう思ったかはわからない。
ただ歯がゆそうに顔を顰め、握り拳を作ったかと思うと、すぐに解いて一回舌打ちをした。
「……マッハキャリバー。なんかあったらすぐに知らせるんだぞ」
『はい、Teacher』
イリヤの側に喋るアクセサリーを残し、ねねねは明智に連れ添って映画館を出て行った。
向かう先はそう遠くではない。ここに入る際に見つけた、すぐ近くの事故現場を見に行ったのだろう。
スクリーンの音声以外はシンと静まり返っている館内で、イリヤはフォルゴレを想った。
馬鹿で、頑丈で、勇敢で、馬鹿で、馬鹿で、馬鹿な男だったな、と。
鉄のフォルゴレなんて誇らしげに自称していた点が一番馬鹿だった。
どんなに肉体を鍛えようが、フォルゴレはただの人間だ。死ぬときは死ぬ。
わかっていたはずなのに、フォルゴレの死をどうしようもなく重く感じている自分がいる。
それはたぶん、彼が死んだ“意味”を考えているからだろう。
(フォルゴレは、わたしとネネネを生かすために死んだんだ。……弱いくせに)
女子供は世間一般で見て、弱者の象徴である。常識ある大人の男がそれを守ろうとするのは、当然と言えた。
だけど、違うのだ。
一作家に過ぎないねねねはともかく、イリヤは明らかに一般人の域を出た存在である。
聖杯戦争を経験したバーサーカーのマスターであり、俗にホムンクルスと呼ばれる存在。
歳だって、見た目よりもずっと上だ。実年齢を考慮すれば、ただ大人に保護されるだけの対象とは言いがたい。
イリヤ自身の戦闘能力は決して高くないが、あのときだって、簡単な魔術弾でも放ってフォルゴレを援護することはできたはずだ。
なのに、しなかった。ねねねに手を引かれるまま、フォルゴレとの離別を受け入れてしまった。
それが今、後悔として押し寄せてくる。あの選択は過ちではなかったのか、もっといい方法があったのではないか、と。
「……もう、終わったことなのにね」
今さらあれこれ考えたところで、フォルゴレの死は覆らない。
どんな殺され方をしたにせよ、彼は今もどこかで息絶えている。
たぶんもう二度と、会うことはない。
72:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/16 23:56:38 10AWdLnf
「フォルゴレ……」
潤んだ瞳を空気に晒したくなくて、イリヤが顔を腕の中に沈めた、そのときだった。
バキューン、バキューン、
「えっ!? な、なに?」
と、館内に安っぽい銃声が二発分、響いた。続いて、なにやら緊張感を催すBGMが流れてくる。
異変に驚いたイリヤだったが、その銃声が実際のものではなく、目の前のスクリーンから流れているものだと知ると、ほっと胸を撫で下ろした。
人騒がせなスクリーンにむっとした視線をくれてやると、あ、と声を漏らす。
そこには、フォルゴレがいた。
「『00F 鉄のフォルゴレ バキューン!バキューン!』……?」
映し出されているタイトルを読み上げ、イリヤは目を白黒させる。
スクリーンの中には、一輪の薔薇をくわえ、銃を握るパルコ・フォルゴレの姿があった。
「どうして、フォルゴレが……?」
疑問を口に出したところで、イリヤはこれが上映予定にあった映画作品なんだということに気づく。
そんなもの事前に確認していたわけではなかったが、主演男優との思わぬ再会に息をのんだ。
意識せず、イリヤはちゃんとした姿勢で座席のシートに座りなおしていた。
◇ ◇ ◇
快晴の下の荒野。
金髪の男が、大勢のマフィアと対峙している。
マフィアは一人の女を人質として捕らえ、そのこめかみに銃を突きつけていた。
「はっはっは。馬鹿な男だ00F。いや、伝説のスパイ鉄のフォルゴレ。たった一人で来るとはな」
「フォルゴレ、逃げて!」
マフィアのボスらしき男が言い、捕らえられた美女が叫ぶ。
対峙する金髪の男―『00F』、またの名を伝説のスパイ『鉄のフォルゴレ』は、多くの戦車や戦闘ヘリに囲まれながらも悠然と立っていた。
「今日こそ始末する」
「君たちにできる……かな?」
圧倒的劣勢にも、フォルゴレは臆しはしなかった。
それどころか、前髪をかき上げながらキザっぽい笑みを浮かべ相手を挑発する。
「やれっ!」
ボスらしき男の号令が発され、数百人の部下たちが持つマシンガンが火を噴いた。
空を旋回していた戦闘ヘリからも、地上のフォルゴレ目掛け機関銃の雨が降り注ぐ。
戦車の砲身から特大の一撃が放たれ、フォルゴレのすぐ側で爆煙を上げた。
しかしそのどれもがフォルゴレには命中せず、無為に霧散していく。
BGM『チチをもげ! パルコ・フォルゴレ』
陽気な音楽の鳴り響く戦場で、フォルゴレは踊り、歌い、数多もの銃撃をすべて回避していた。
ライオンの鬣のような美しい金髪を風に靡かせて、特徴的な割れ顎を際立たせるように笑い、フォルゴレがボスと美女の下に迫る。
一瞬、なにが起こったのかわからないような一瞬の間に、ボスと美女の足元で爆発が起こった。
73:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 23:57:43 BLuhCmA0
74:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/16 23:58:53 jq8nRXGM
支援
75:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/17 00:00:02 10AWdLnf
「あ~れ~」
爆風により天高く舞い上がった美女が、悲鳴を上げる。
このまま地表までまっしぐらというところ、フォルゴレはその着地点に先取りし、落ちてきた美女をしっかりと抱き止めた。
そして、キラキラキラーンという輝く効果音に乗せ、ニヒルに笑いかける。
「大丈夫かい?(キラーン)」
「……フォルゴレ様(キュン)」
『チチをもげ!』の荘厳なバックミュージックは、依然として鳴り響いている。
その僅か3分程度の短い曲が流れる間に、フォルゴレはマフィア集団を壊滅させ、捕らわれの美女を救いだした。
お姫様抱っこの体勢で美女を抱えたまま、フォルゴレが颯爽とその場を去っていく。
「み、見事だ……鉄の、フォルゴ、レ……(ガクッ)」
ボスらしき男が、力なく倒れた。
フォルゴレは散っていた悪に一瞥もくれず、格好いい笑い声を発しながら荒野を行く。
「ははは、はっはっは、ハァーッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
END.
◇ ◇ ◇
パチ、パチ、パチ…………
僅か数分の短すぎる上映が終わり、シアター内には一人分の拙い拍手だけが残った。
唖然とも恍惚とも取れない微妙な表情で、イリヤがぼそっと感想を呟く。
「……フォルゴレって、本当に俳優だったんだ」
映画などろくに見たこともないイリヤにとっては、今の作品がどれほどのものだったのかは判定できない。
だが率直な感想として、スクリーン上のフォルゴレはとても格好よく思えた。
水族館で馬鹿やったり、ねねねにボコボコにされていたあのフォルゴレとは別人みたい。
美しくて、たくましくて、笑えて、それでいてどこか懐かしさを覚える、フォルゴレの主演作品。
イリヤは放心したように感動し、しばらくの間そのままぽーっとしていた。
そして思う。
あの姿こそが、パルコ・フォルゴレなんだなと。
「ねぇ、マッハキャリバー」
拍手を止めて、イリヤがマッハキャリバーにそっと語りかける。
「わたしに、あなたの使い方を教えて」
失意の色に染まっていた顔は、もう俯いてはいなかった。
前を見据え、力強く言を発する。
『その言葉を待っていました。仮マスターへの設定の適用化は既に完了しています』
「わたし、フォルゴレに笑われたくない。フォルゴレに負けたくない。フォルゴレみたいに格好よく生きたい」
『あなたには才能があります。しかし、訓練を積んだ魔導師というわけではない。くれぐれも無茶はなさらないように』
「もうあんな悔しい思いはしたくないから……わたしは、わたしの好きなものを守れる力が欲しい」
76:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:01:35 BLuhCmA0
77:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/17 00:03:30 10AWdLnf
その瞳に確固たる抗いの意志を灯して、イリヤは立ち上がった。
フォルゴレに生かしてもらったこの命を無駄にしないため。もう二度と悔しさを味わわないため。
殺し合いに立ち向かうための、健全なる力を欲する。
『イメージしてください。あなたの身を守る衣服の姿を』
手中に収めたマッハキャリバーが、イリヤの魔力に反応し明滅する。
薄暗いシアター内が神秘的な光に包まれ、その光源となったイリヤに変化が訪れる。
纏っていた衣服は淡く消失し、雪にも似た白い裸身をむき出しにする。
そのかわりとして、魔力によって生み出された光が、薄い衣のようにイリヤを優しく包み込む。
やがてそれらは生地に、布地へと昇華して、イリヤがイメージしたとおりのバリアジャケットを形成した。
―フォルゴレのように、格好よくありたい。
―ネネネやシロウを、私の好きなものを守りたい。
―悲しみや悔しさなんて、いらない。
抱いた願望が、イリヤを行動へと導いた。
◇ ◇ ◇
イリヤがフォルゴレの死に一切の涙を流さなかったのは、やはり彼女が人間ではないからだろうか。
などと一瞬でも思ってしまった過去の自分を殴り倒し、ねねねは自分で自分に渇を入れた。
「だぁーもう! 私はなんだ!? ただ守られるだけしか能のないヒロインか! 柄じゃないんだよ!」
男勝りな口調で喚き散らして、ねねねは地団駄を踏んだ。
仄かに焼け焦げたアスファルトが、無機質な音を立てる。
辺りには、まだ血の臭いが残っていた。
―映画館から少し離れた路上。
そこには、木っ端微塵に破壊されたバイクの残骸と、頭の割れた少年の死体と、少年とは別の人間の肉片が散らばっていた。
そう遠くはない過去、ここで誰かと誰かが殺し合っていたことが、ありありと連想できる惨状だった。
「ったく……朝方のんきに物見遊山してた私らが馬鹿みたいじゃないか」
フォルゴレとイリヤと出会い、水族館で朝を迎え、あの銀髪と接触するまで、ねねねはまだ現実に直面してはいなかった。
それも今となっては過去形だ。フォルゴレは死に、目の前には誰かの死体が転がっており、自分はなにもできなかった事実に憤慨している。
現在進行形で殺し合いが行われているという忌避したいような非現実が、目をそらせないリアルなのだと思い知らされた。
改めて、ねねねをこんな状況下に引き込んだタコハゲを憎悪する。
溜め込んだ怒りとストレスは当に臨界点を越え、ねねねの顔を真っ赤に染めあげた。
「あたり構わず取り乱していては、螺旋王の思う壺ですよ」
怒り浸透中のねねねに対し、現場を検分していた明智が言う。
その表情、口調、姿勢はとことんまで冷静で、その冷静さが不気味に思えてくるくらいで、むしろねねねにとっては怒りに対象にすらなった。
と、その明智の手にやたら物騒なものが握られていることに気づき、ねねねが尋ねる。
「なんだ、その銃」
「そこの茂みに落ちていました。弾も入っていますし、廃棄物ではないでしょう。戦闘のごたごたで誰かが紛失したものではないかと」
明智は説明しつつ、拾ってきた猟銃をデイパックにしまった。
78:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/17 00:06:11 T89P9VmD
「使うのか、それ」
「使えるものは使うべきでしょう、こんな状況なら。ああ、射撃の心得があるのか、という意味の問いなら心配は無用です。なにせロスでは―」
「知らん。興味ない」
質問から会話を弾ませようとした明智を制し、ねねねはそっぽを向く。
ねねねは特別ヒステリーな性格というわけではなかったが、貯蓄されたストレスよって、その印象を近づきがたいものへと変えていた。
そんなねねねに明智は気取ったような溜め息をつき、やれやれと呟いた。こういう細かい所作が癪に障る。
「ところで菫川先生、なにか刃物を持ってはいませんか?」
「刃物? そんなもん、なんに使うんだよ」
「……彼から首輪を採取するために使います」
僅かに熱気の残っていた事故現場の空気が、ぴしり、と音を立てて凍てついた。
途端にねねねの顔から赤みが引き、穏やかさを取り戻していく。
だが、決して怒りが治まったわけではない。
ある程度の臨界点を突破し、悟りを開いたような状態。
今のねねねの心理状態を説明するならば、そんな感じだ。
「だいたい察しはつくけど、念のために訊いとく。なんのためにそいつの首を切るって?」
「首輪を得るためですよ。これからを生き抜くには、確実にこの首輪が関門となる。後々のために、サンプルを入手したい」
「よし、一発殴らせろ」
「私とて気は進みません。ですが、これは必要なことです」
「あんたの気なんて知るか。いいから、殴らせろ」
「……どうぞご勝手に」
律儀にも明智の了解を得てから、ねねねは握り拳を作り、大きく振りかぶって、それを放った。
プロボクサー顔負けの容赦ない右ストレートが明智の顔面に迫る。
その寸前で、ねねねの細い腕は明智によって掴み取られた。
そのまま左の腕も回し取られ、明智はねねねの背後に回りこんで後ろ手に彼女を拘束する。
刑事が犯人を捕らえるときによく使う、流麗な動作だった。
「このっ! 殴らせろ馬鹿ッ!」
「少し冷静になってください菫川先生。フォルゴレ氏の一件であなたが精神的に疲弊しているのはわかります。
だからといって、怒りに身を任せては主催者の思惑どおりの結果を招いてしまう。
あなたなら、フォルゴレ氏が格好つけのためだけに囮になったのではないということがわかるはずだ」
「わかってるわよそんなこと! わかってるから、私は私が許せないんだ! クソっ、クソ……」
ねねねは拘束を解こうと力を込めるが、明智の締めは完璧で、女性の力ではどうにもできなかった。
やがて喚く気も失せ、ねねねの声は小さな呟きへと変わる。
明智への憤慨は、いつしか無力な自分へと矛先を変え、瞳に悔しさが滲み出た。
ねねねもまた、イリヤと同じように悔しさを覚えていたのだ。
あそこでフォルゴレを助けに入れなかったこと、ここぞという場面で堅実に行動してしまった自分に、嫌気が差した。
その悔しさは、明智に八つ当たりしたところで晴れるものではない。
それもわかっているはずなのに、明智に敵意を向けている自分がいて、よりいっそう腹が立った。
「クソ……」
力がないから、守られる。力がないから、守ってくれた人が死ぬ。
冷たい現実を前に、紙を操れない、物語を作るしか能のないねねねは、なにもできなかった。
それがたまらなく悔しくて、悔しくて悔しくて悔しくて仕様がない。
79:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:07:39 M9d79lNr
80:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:08:45 sCMGcZ0D
81:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/17 00:09:36 T89P9VmD
「私の周りはそれはそれはスペクタルな奴らばっかりだったよ。でもな、私はそいつらの中にただ“いた”だけだ。
それでも、私は私なりに抗ってきたさ。納得のいかないことに、片っ端から首つっこんでいった。
そんな私が、なんだよこのザマは。菫川ねねねはあそこで逃げるような女じゃない。だってのに……!」
ザ・ペーパーや三姉妹を取り巻くトラブルの中に、ねねねはなぜかいつも紛れていた。
ただし、その中心に立ってトラブルを終息に導いてきたわけではない。大半は傍観者か被害者の役だった。
ここでもそれは変わらない。菫川ねねねは、特別な役目を持たぬ数合わせの登場人物にすぎない。
これまでならそれも容認してきただろう。だが、フォルゴレは違う。
「あいつは、私がなにもできなかったから死んだ」
責任を説いたところで、誰もねねねを非難したりはしないだろう。これは、彼女自身の気持ちの問題である。
強くあろうとした。読子と離れ離れで、アニタ死んでしまった世界で、強くあろうとした。
その意志とは逆の道を行く、不甲斐ない自分が許せなかった。
ただそれだけのことで喚き散らしている、子供みたいに傍迷惑な自分に、余計に腹が立った。
「そうやってあなたは、自分を悲観し、また過ちを繰り返すのですか?」
「……なんだと」
「彼の死に、彼の死を回避できなかった自分に苛立ちを覚えているなら、なおさら前を向くべきでは?」
「だから、何度も言ってるだろ! そんなのはわかってるんだよ!」
姿勢を崩さぬ明智の態度がまたねねねの心理を刺激して、怒りを誘発させた。
「なら、あなたは気持ちの整理をつけるべきだ。そのイライラが私を殴ることで発散されるというのであれば、それも甘んじて受けましょう」
言うと明智は拘束を解き、自由になったねねねは間髪いれずに明智を殴り飛ばした。
全力による鉄拳が明智の頬を打ち、その強烈さに彼の体は地を滑る。
やや遅れて鈍い音が鳴った後、ねねねの荒い息遣いだけが鮮明に響いた。
「……これで、満足ですか」
「ああ、すっきりしたよ。でも感謝なんてしないからな」
「私としても、殴られた相手に礼を言われては気持ちが悪い」
「……あんたも言うじゃんか」
ずれた眼鏡を優雅な仕草で直し、明智は立ち上がる。
殴られてなお崩れぬキザったらしい姿は、見ているだけでムカついてくる。
それでも、前に比べれば幾分かマシに思えているのを、ねねねは実感していた。
「おや?」
立ち上がる途中で、明智は地面にキラリと光るなにかを発見する。
赤黒い血に塗れたそれは、僅かな隙間に太陽光を反射して、本来持つ銀の色を鮮やかに主張していた。
拾い上げると、どうやらその物体が輪の形状をした金属物質であることがわかった。
「首輪、か? それ」
「そのようですね。どうやら、その少年の首を刎ねる必要はなくなったようです」
道端に伏せられていた少年の遺体を一瞥した後、明智は改めて首輪を見回す。
血に塗れて銀色の部分が少なくなった首輪。その僅かな隙間に、所有者を識別するためであろう刻印が刻まれているのを発見した。
「……『Caro-Ru-Lushe』。この首輪が嵌っていた者の名前ですね」
「キャロって、たしかそれ……」
「ええ。おもしろくもない偶然です。この事故現場には、機動六課のキャロ・ル・ルシエさんが巻き込まれていた可能性が高い」
82:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:09:47 JLCQsZi3
83:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:11:57 JLCQsZi3
84:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/17 00:12:28 T89P9VmD
反射的に周囲に散らばっていた肉片らしきものに目がいき、ねねねは眉をひそめる。
そもそも首輪が一個の固体として存在している時点で、その持ち主がどうなったかなど容易に想像がつく。
そして、周囲にはこの注視しがたい惨劇の跡。深く考えるまでもなく、キャロがどういう死に方をしたのかが推察できた。
「腐ってるな。こんな殺し方をする奴も、それを強要しているタコハゲオヤジも」
「同感ですね。警察という立場を棚に上げて言わせてもらいますが、このような真似ができる下種を罰するに、日本の刑罰は生温い」
「なんだ、意見合うじゃん」
「光栄ですね。私としても、あなたとは今後も蟠りなくいきたいものですが」
「あなた“方”、でしょ?」
「……フッ、失礼。そうでしたね」
互いに軽く微笑みあった後、ねねねと明智の二人は自然な動作で肩を並べ、イリヤの待つ映画館へと戻っていった。
戦利品に一丁の猟銃と、少年のものらしきデイパック、そしてキャロの首輪を持って。
◇ ◇ ◇
数分前までフォルゴレ主演の名作が上映されていたことなど露知らず、ねねねと明智の二人は映画館へと帰還した。
今はなにも映さぬスクリーンの下で、待ち人たる仲間の姿を視認する。
「おかえりネネネ! それとアケチも!」
先ほどとは打って変わり、心を裏返しにしたかのような元気なイリヤに出迎えられ、ねねねと明智は唖然とした。
「も~、あんまりにも遅いから、迎えに行こうとしてたのよ?」
いや、それは唖然というレベルではなかった。
あまりにも想定外、それでいて衝撃的な光景に、二人は息をすることすら忘れ、その場に立ち尽くす。
「ちょっと、二人ともどうしちゃったのよ?」
イリヤがちょこんと首を傾げて見せるが、ねねねも明智もリアクションを取ることができない。
半開きになった口からはひたすらに無音。完全に機能が停止していた。
「ねぇマッハキャリバー、これってどういうことだと思う?」
『おそらく、お二人とも仮マスターの変貌に驚かれているのではないでしょうか?』
「変貌って、こんなにかわいくドレスアップしたんだから、“変身”って呼んでよ」
『失敬。しかしやはり、お二人が戸惑いの渦中にあるのは事実なようです』
平然と話を進めるイリヤとマッハキャリバーに対し、二人は一言も喋れず。
長い間絶句して、ようやくねねねが口を開いた。
「……その、すがた、は?」
「マッハキャリバーの力を借りて“変身”したの。バリアジャケットって言うんだって」
「ギャグじゃ、ないよ、な?」
「ひどーい! これでちゃんと性能も伴ってるのよ。でしょ、マッハキャリバー?」
『はい。外見は仮マスターのイメージから抽出したものであり、しかしその魔力耐性は見た目に反し……』
マッハキャリバーが小難しい説明を述べるが、それでもねねねと明智は戸惑いから抜け出せなかった。
目に映るイリヤの現在の姿を思えば、それも仕方がないことなのである。
なにせ今イリヤが纏っている上下の服を簡潔に言い表すとするならば……
85:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:12:31 M9d79lNr
86:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:13:16 M9d79lNr
87:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:13:37 sCMGcZ0D
88:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:14:30 JLCQsZi3
89:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/17 00:15:15 T89P9VmD
“体操着”と“ブルマ”
たったこれだけで説明終了。大半の人間には伝わる。
つけ加えると、体操着は襟首に紫のラインが入っており、その他装飾等は一切ないシンプルな作り。
ブルマは昔ながらの紺色で、イリヤの小さな臀部をふっくらと覆っている。
発育し切っていない未熟な肢体に、それら健康の象徴とも言える神秘の組み合わせが見事に調和。
プラチナブロンドがギャップにより際立ち、粉雪のようなきめ細かい肌もより目を奪うよう強調されている。
俗に、『タイガー道場のロリブルマ』と呼ばれる少女……に、そっくりな外見(ねねねたちが知るよしはないが)。
防護服(バリアジャケット)などと言われようが、その違和感は拭えるものではない。
こんなものは一昔前の小学生ならば誰もが身につけていたものであり、スポーツ専門店に行けば今でも手に入りそうな品だ。
機動性を重視した作りであるため動きやすくはあるだろうが、こんなもので魔力耐性がどうのこうの言われても、困る。
「……あのさマッハキャリバー。一応訊いとくけど、あんたの趣味じゃないよな、これ?」
『? 仮マスターのこの姿がなぜ私の趣味に繋がるのかはわかりませんが、これの性能は確かです。露出は多めですが、これといって問題はありません』
「イメージしてって言うから、動きやすそうのを思い浮かべてみたの。そしたら、こんなん出ました~!」
「あー………………いや、もうなにも言うまい」
ねねねは軽く頭を抱え、イリヤの格好を受け入れた。
心にかかっていた重苦しい靄を、一瞬で吹き飛ばすほどの破壊力があったわけだが、逆にありがたいかもしれない。
明智にいたっては、隅でひっそりと失笑を漏らしている。嘲りの笑いではなく、心の底からおかしくて笑っているようだった。
なんだ、こいつもこんなんで笑うんだ。とねねねは妙に納得し、釣られるように笑顔を作った。
そんなねねねと明智を見て、イリヤだけが不思議そうな顔をする。
「なんで二人とも笑ってるのよ~?」
しばらくの間、和やかな時間が続いた。
◇ ◇ ◇
「それで、これからどうするの?」
横一列にズラーッと伸びる観客席の最前列。
その左端から順に、明智、イリヤ、ねねねと座っていた三人は、これからの方針について話し合う。
「そうですね……お二人の希望は?」
「わたしはシロウを捜したいけど、やっぱりどこにいるかわからないし、これまでどおりネネネについて行くわ」
「目的地としては図書館だけど、それも根拠の薄い理由だしねぇ。明智警視殿に妙案があるってんなら、私はそっちに従うわ」
イリヤ、ねねねと順に意見を述べ、その決定権は明智に委ねられた。
その様子からも見て取れるように、もはや二人に明智と行動を共にすることへの不満はない。
それを再確認し、明智は改めて己の意を述べる。
「では、しばらくはここに留まり、休憩としましょう」
飛び出した案は、意外にも待ちだった。
「しばらくはって……夜までここで休憩ってこと? 昼の内に動いたほうが色々と都合がいいんじゃないの?」
「確かに、襲撃をする側にとって夜は絶好の機会でしょう。だからといって、事を急いでは何事も仕損じてしまいますよ」
「こっちからは動かないで、誰かが近寄ってくるのを待つってこと?」
「そのとおりです。この施設は隠れるのにも適している上、会場の中心地という人が集まるには最高の立地条件を備えている。
さらに、我々の手元には訪れる人間が善悪かどうか、殺し合いに乗っているかどうか判断できる材料が、二つもある」
90:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:16:42 sCMGcZ0D
91:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:16:50 JLCQsZi3
92:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/17 00:16:58 T89P9VmD
明智の言葉にねねねはハッとして、数時間前に発覚した偶然を思い起こす。
「私と、あんたの詳細名簿か」
「ええ。最低でも明日の朝を迎えるか、夜間に安心して行動できるほどの戦力が整うかしたら、こちらから動きます」
「ひとつ訊いていい?」
「なんでしょう」
「そりゃ私ら二人がお荷物だから……誰かに襲われたら対処しづらいからってんじゃないだろうな?」
明智の提案は、理に適っているものだった。
しかし同時に、このメンバーがいかに貧弱な面子であるかも物語っている。
特に女子供の類に分類されるねねねとイリヤは、明智に変に気を使われているようで、釈然としないものがあった。
「無力という観点で言えば、それは私も変わりませんよ。
戦闘機人、テッカマン、英霊、HiME、どれと相対しても満足に対応できる自信はありません。
それに私は既に一度、“焔の錬金術師”に一杯食わされていますからね」
「機動六課の……ティアナって人はどうするの?」
「彼女のことは気になりますが、捜そうにも行方が掴めません。会場内を東奔西走するリスクについては、我々“三人”の戦力の心許なさに要因があります」
「無闇に動き回るよりは、人が集まりそうなここで待ち伏せたほうが得策ってわけね」
「そういうことです。それに、これを調べる時間も欲しいですしね」
明智の手には、血が洗い流され綺麗になったキャロの首輪があった。
最終的にここから生きて帰るのに、最大の障害となるであろう戒め、首輪。
遠くない未来、必ず看破しなければならないそれを調べるなら、今が最適だった。
「は~い! なら私も、色々と試してみたいことがあるの。マッハキャリバーに『べるか式』ってのを教えてもらいたいし」
「時間は有効に活用すべきです。後を生きるためにどう行動するかは、各々の判断に任せますよ」
「なら私は……なにしようかな」
「紙とペンがあります。ここでの体験談を本にでも起こしてみてはどうですか」
「……自伝にしても売れなさそうだな」
これからしばらくの時間を“休憩及び待機”と定めた三人は、各々どうすごすか思案に暮れた。
首輪の調査、魔法の習得と、明智とイリヤはそれぞれの目的を得て、ねねねだけが手持ち無沙汰になる。
仕様がないから映画館外の見張りでもしてようかと言ったところ、
「ああ、それなら必要ありませんよ。先ほど便利なものを手に入れましたから」
明智はさらっと言ってのけ、事故現場から持ってきたデイパックに手をかける。
出てきたのは、珍妙なカプセル型の機械だった。
ちょうど人と同じ大きさはあるだろうか。中心にカメラらしきものを備え付けた謎の機械は、不気味に宙を佇んでいる。
「デイパックに残ってたのこれ? たしか支給品リストで見たような……なんだっけか」
「ガジェットドローン。正式にはガジェットドローンⅠ型。こちらのプログラム通りに動いてくれる、便利な機械人形ですよ」
「あんた、プログラミングなんてできんの?」
「ロスで一通り学びました。もっとも、これはある程度の知識を持った人間なら誰でも細工できるよう簡略化されているようですが」
言いながら、明智はガジェットドローン側面部のコンソールを弄る。
ねねねとイリヤが見つめる中、プログラミングはものの数分で完了し、ガジェットドローンは映画館外へと飛び去っていった。
「どこへ行ったの、あれ?」
「映画館周辺の索敵に出しました。参加者を発見次第その姿を撮影、速やかにここに戻ってくるようにと。
参加者が見つからなくとも、30分ごとにはここに戻るよう指示しています。本体に異変が起きても、すぐに対応できるようにするためです」
「へー、便利なもんだ」
93:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/17 00:18:59 T89P9VmD
感心すると同時に、ねねねは自分の仕事が機械に奪われたに気づいて落胆した。
もういっそ不貞寝でもしようかと思ったが、明智が注意を促す。
「監視係ができたからといって、くれぐれも油断はしないように。
私はあれの性能を把握しきっているわけではありませんし、中には監視の目を掻い潜ってここに潜入できる者もいるかもしれません」
「はいはい。心得ていますよ明智警視殿。本当に小説でも書いてようかね、ったく」
「もう、ネネネったら不貞腐れないの。大丈夫よ。もし誰かが襲ってきても、私がついてるんだから!」
「そうだな。そりゃ安心だ。せいぜい頼りにさせてもらうよ、ちびっ子」
こうして、三人の昼は過ぎていった―
(見ててねフォルゴレ。私、フォルゴレに負けないくらい強くなるから。シロウもきっと……)
(クロスミラージュ君の説得は上手くいったのでしょうか。できればまた会いたいものです。さて、次なる問題は……)
(これで図書館で本読んで待ってました、ってんなら笑い種だけど。お願いだから、元気でやっててよね……)
―三者三様、喧騒とは無縁の静かな映画館内で、未来を、そして現在を案じる。
【C-5・映画館/一日目・日中】
【明智健吾@金田一少年の事件簿】
[状態]:右肩に裂傷(応急手当済み)、上着喪失
[装備]:レミントンM700(弾数3)、フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師、参加者詳細名簿
予備カートリッジ8、ダイヤグラムのコピー、首輪(キャロ)
[思考]
基本思考:犯罪芸術家「高遠遙一」の確保。ゲームからの脱出。
1:首輪を調べる。ただし不安要素が多いため解体作業には着手しない。
2:明日の朝方か、もしくは夜間行動するに十分な戦力が整うまで映画館に待機。
3:ガジェットドローンを介し周辺の索敵。協力できそうな人物がいた場合はこちらから接触する。危険と判断した相手は無視。
4:ゲームに乗っていない人間を探しつつ施設を回る。
5:金田一等仲間の知人を探す。
6:明日の正午以降に博物館の先に進む。信頼できる人物にはこのことを伝える。
[備考]
※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。
※明智の命令で、映画館周辺をガジェットドローンが飛び回っています。命令内容は以下のとおり。
・参加者を発見次第その姿を撮影し、速やかに映画館内に戻る(基本隠密行動。撮影も相手にバレないように行う)。
・参加者を発見できなくとも、30分ごとには映画館に戻る。
・AMFの展開はオート。抗戦はなし。
94:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:19:02 M9d79lNr
95:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:19:05 JLCQsZi3
96:幼年期の終わり ◆LXe12sNRSs
07/12/17 00:20:39 T89P9VmD
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、詳細名簿+@アニロワオリジナル、手書きの警戒者リスト
:ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
[思考]:
1:暇だ。本当に小説でも書いてるか?
2:明日の朝方か、もしくは夜間行動するに十分な戦力が整うまで映画館に待機。
3:図書館に行く。誰も見つけられなければ本がある場所へ(しばらく保留)。
4:読子等仲間の知人を探す。
5:詳細名簿を参照に、危険人物、及び死亡者の知り合いを警戒する
6:柊かがみに出会ったら、ボン太くんのぬいぐるみと『フルメタル・パニック!』全巻セットを返却する。
7:読子が本当に自分の知る人物なのか確かめる。※
最終行動方針:打倒タコハゲ
[備考]:
※詳細名簿+はアニタと読子のページだけ破り取られています。
※思考7、パラレルワールド説について。
富士見書房という自分が知り得ない日本の出版社の存在から、単純な異世界だけではなく、パラレルワールドの概念を考慮しています。
例えば、柊かがみは同じ日本人だとしても、ねねねの世界には存在しない富士見書房の存在する日本に住んでいるようなので、
ねねねの住む日本とは別の日本、即ちパラレルワールドの住人である可能性が高い、と考えています。
この理論の延長で、会場内にいる読子やアニタも、ひょっとしたらねねねとは面識のないパラレルワールドの住人ではないかと考えています。
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、バリアジャケット
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル、支給品リスト@アニロワオリジナル
[思考]:
基本行動方針:シロウに会うまで絶対生き残る。
1:マッハキャリバーからベルカ式魔法について教わる。
2:明日の朝方か、もしくは夜間行動するに十分な戦力が整うまで映画館に待機。
3:シロウ等仲間の知人を探す。
4:放送で呼ばれた死亡者の知り合いを警戒する。
[備考]:
※フォルゴレの歌(イリヤばーじょん)を教えてもらいました(イリヤ向けに簡単にしてあります)。
※チチをもげ!(バックコーラスばーじょん)を教えてもらいました(その時にチチをもげ!を完璧に覚えてしまいました)。
※バリアジャケットが展開できるようになりました(体操着とブルマ)。
【ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
スカリエッティが開発した機動兵器。カプセル状の形をしたⅠ型。
側面部に設置されたコンソールから命令をプログラミングすることができ、その命令に従い自立行動する。
命令プラグラムは、セットした本人でなければ解除不能。上書きも不可。
プログラミングは簡略化されているが、ある程度の機械技術がなければ難しいものと思われる。
また、アームケーブルとAMFは健在なものの、光学兵器等の武装は撤去されている模様。
監視のためのカメラも備えられており、側面部の簡易モニターに映し出すこともできれば、アームケーブルを通して他の映像媒体に出力することも可能。
シモンに支給されたもの。
97:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:24:54 uvUjIlbd
483 名前:A 投稿日:2007/12/17(月) 00:14:07 HOST:KHP059139089113.ppp-bb.dion.ne.jp
どこかの誰かが勝手に決めた『2ちゃんねるの削除ルールに』従う必要なんか無い!
今の住人が変えると言ったら変わるんだ!
スレタイも>>1もテンプレも関係無い! そんなのはきっとしたらばか何処かが勝手に作ったんだ!
だから、俺は今からこのスレで自分の好きなことを話すからな!
……ということですか?
それこそスレ違いなんだけど……そこで適切なスレに移動する気は無いんですよね、やっぱり?
移動する気があるなら批判要望板辺りにどうぞ。
どっかで見たような臭い文章ですねー
98:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:25:46 NoJcSusJ
本当だ
…………………
99:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:28:02 XH6Jwyi3
自分のSSがバカにされてファビョってんじゃねーの?
私怨だな
100:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:29:20 h+Vlg4Qe
KHP059139089113.ppp-bb.dion.ne.jpってそんなに偉かったんですね~
初めて知りました~
101:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 00:50:27 G6wCt/4w
まったく
102:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 01:10:57 Ycdxm5mK
負け犬の遠吠えw
103:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 13:09:32 g5yG4RVi
質問
ここに投下されたSSでどれが本当の歴史?(どれが削除対象?でも可)
104:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 14:23:40 rNUaRIcW
>>1
105:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 22:05:29 cxxkub1P
とりあえず地図みたいなものを作ってみました
つっても例のCGIのバトルロワイアルの地図を見てぱっと考えただけなんですがw
(参考)
■凸凸凸凸凸凸■■~~~~~~~~~~~~~~~~~~~凸凸凸~~~~
■■■■■凸凸凸凸~~~~~~~~~~~~~~~~~凸凸□□□凸凸凸~
■~~~~~~~~~~~~~~~~□□□□□□□凸凸凸
■■■■森■■ ■~~~~~~~~~~~~~~~~凸凸□民 学□□□□
~~~■■■森 ■~~~~~~~凸凸~~~~~~~□凸凸病 凸凸□□□
~~~~~~ ■~~~~~~~~凸凸~~~~~~凸凸 □凸凸□□
~~~~~~ 森森~~~~~~~~凸民~~~~~~凸凸□□ □凸凸□□
~~~~~~ ■森~~~~~~~~凸港~~~~~~港□□凸 □□
~~~~~~ 森■~~~~~~~~凸凸~~~~~~凸凸凸凸 □凸凸□□
■■■■■森■■森~~~~~~~~~~~~~~~~凸凸□民 学□□□□
~~~■■■森■森~~~~~~~凸凸~~~~~~~□凸凸病 凸凸□□□
~~~~~~■■■~~~~~~~~凸凸~~~~凸凸凸凸凸凸 □凸凸□□
~~~~~~■森■□□浜浜浜浜浜浜浜浜浜浜浜浜浜浜凸凸 □凸凸□□
~~~~~~■森■浜浜浜浜浜浜浜□凸民凸凸□□□凸凸□ 凸民~~~~~~
~■■■森■□凸凸□□□凸凸□□□凸凸□□凸□凸凸□□ 凸凸凸凸□凸凸
~~~~~~■森■ 凸民 凸凸□□ □凸凸□□凸凸
凸凸□□ □凸凸□□凸凸病凸 凸凸 凸凸□□
凸凸□□□凸凸□□□凸凸□□凸□凸凸□□凸凸□□□凸凸□□□凸凸□□凸
~ 海
凸 山
浜 砂浜
民 民家
学 学校(大学)
病 病院
森 森
□ 平野
■ 高地
空白 道路
あと、CGIの方では、東西南北に分けてましたが
人数多いので、1マスを9に分けてブロックにするとかどうでしょう
106:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 22:12:08 I3SBIFsb
考え方は面白いね
でもなんか大戦略みたいだな
107:邪魔する虫 ◆RwRVJyFBpg
07/12/17 22:41:13 JLCQsZi3
青空の下、鈍い銀色の構造群が輝く。
黒い海を足元に跪かせ、己が威容を主張する工場の只中を、走る影が一つ。
倉庫の屋根を蹴り、太いパイプを伝い、梯子を掴んで影は昇る。
赤と白の縞模様に塗り分けられた煙突を上へ上へと進んでいく。
薄汚れた赤マントが高所の風に吹かれてばさばさとなびく。
されど、ドモン・カッシュは煙突の先だけを見つめ、足早にただ駆け上がっていく。
彼自身の切実な目的のために。
◇
時はわずかに遡る。
言峰との接触を終えたドモンは、ある工場の事務室で体を休めていた。
双剣の少年、傷の男、そして言峰。
一筋縄ではいかぬ強者との連戦に体力を根こそぎ奪い取られ、休息を余儀なくされていたのだ。
もちろんこれは、一刻も早い螺旋王打倒に燃える彼にとっては、いささか不本意なことではあった。
しかし、万全ではない状態で無理に戦い続けても、いい結果が得られないことが分からぬドモンでもない。
その後、水分を補充し、緑の毛布で覆われた柔らかいソファーに体を沈めて休むこと数時間。
体を蝕んでいた不快な消耗の疼きは薄れ、ほとんど消えかけていた。
「……やはりここにもないか」
そして、疲労が概ね回復したことを感じ取った彼は、何を思ったのか突然立ち上がり、部屋の中を漁り始めた。
備え付けの戸棚を開け、机の引き出しをまさぐり、シンクの下の収納を覗き込む。
しかし、どうやら、そのような探索は思わしい成果をあげられていないようであり、ドモンの口からは愚痴がこぼれている。
一体、どうして彼はこのような行動をとっているのか?
その答えは、彼が休憩中に思い至ったある『こと』に起因している。
人心地ついたのちに、今後の方針に思いを巡らせようとした時、彼は不意にその『こと』を思いついた。
いや、正確を規すならば思い出したと言った方が当たっているかもしれない。
その『こと』は、とても重要なことであるにもかかわらず、ここに来て以来ずっと忘れられていたのだ。
だから、一度思い出してしまうと、ドモンの頭と神経はその『こと』に釘付けになった。
「ちっ、ここでは無理だな。他を当たるか……」
部屋を一通り検分し終わると、忌々しげに呟く。
ここで目的を達することは難しいと考えたドモンは、ソファに掛けてあったあったマントを無造作に掴むと
そのまま、出口へと足早に歩を進める。だが
「さて、二度目の放送を行う。
無事にこれを聞いていられる貴様達には、ひとまずおめでとうと言っておこうか―」
彼の手がドアノブにかかる前に、二回目の放送が始まった。
108:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 22:42:13 rhQTjAm8
109:邪魔する虫 ◆RwRVJyFBpg
07/12/17 22:42:27 JLCQsZi3
◆
「風浦可符香が死んだ……」
事務室のドアの前に立ったまま、俺は呆けたように呟いた。
目を閉じ、頭を目の前のドアにもたせかけると、そのまま、固めた拳を金属の戸板に叩きつける。
ベギンと重い音がして表面がわずかに凹んだ。
「気づけたはずだろう……こんな殺し合いの場にただの少女が一人きり……どれだけ危険なことなのか」
俺は自らの浅はかさを悔いていた。
いくら自分の道を示されて興奮していたとはいえ、あそこで彼女を置き去りにするのは取り返しのつかない失態だ。
だいたい、俺があのとき、エドを探す手間も惜しんで走り出したのは何のためだった?
ファイトを通じて外道を倒し、仲間を集め、“弱者を守る”ためじゃなかったのか?
弱者を守る―なら何故、真っ先に目の前の少女を守ることを考えなかった!?
「……俺は結局、ファイトの期待に酔っていただけなのか」
もう一度両の拳をドアに叩きつけ、自分を戒めるように歯を食いしばる。
そう、俺は強い奴と気兼ねなく戦える興奮に身を任せるあまり、大事なことが疎かになっていたのだ。
今になって冷静に思い返してみれば、俺の失態が風浦可符香の一件だけではないことに気づく。
まずエドだ。
この世界に来てすぐに出会ったいたいけな少女を、俺はどうした?
……置き去りにしたんじゃないのか。死んだ風浦可符香と同じように!
それも、注意が逸れている間に、どこかへ消えてしまったという、普通に考えれば危険な状態であったにもかかわらず……だ。
放送を聞く限り、エドはまだ生きているようだが……この調子では、いつ殺人鬼の餌食にならないとも限らない。
何せ、この半日で二十人そこそこの人間が死んでいるんだからな。
……いや、もしかしたら、既に悪漢の牙に晒されたが
合流していた風浦可符香がそれをうまく逃がしたのかもしれない。
そして風浦可符香はエドを守るためにその命を……という可能性も十分にあり得る。
だとしたら、彼女は俺が殺したようなものだ。
それから、双剣の男と銃使いの女。
俺はあの二人、特に双剣の男とはお互い丹念に拳を交わし、心を通じさせることに成功した。
だが、その後、俺がとった行動は一体何だった?
―『俺はこれからこの会場を戦って回る。お前はさっきの女と合流しておけ』
―『な、に?』
そうだ。新たなファイトを行うことばかりに気がいき、完全に本来の目的を、“仲間を集める”という目的を失念していた。
もし、あそこであの二人と合流していれば、今頃、俺は有用な情報を手に入れ、螺旋王と戦う道筋を見出していたかもしれん。
だが、それに比べて現実の俺はどうだ?
未だあの男に至る方法どころか、今、自分のいる場所すら満足に知ることすらできていない。
こんなことをいつまでも繰り返していては、螺旋王の打倒など夢のまた夢だ。
「反省を……せねばならんようだな」
110:邪魔する虫 ◆RwRVJyFBpg
07/12/17 22:43:24 JLCQsZi3
俺はドアに頭をつけたまま考える。
額越しに感じるひんやりとした金属の感触は、心なしか精神を研ぎ澄ましてくれる気がした。
一体、何が間違っていたというのだろう?
やはり、誰彼構わずにファイトを挑むというやり方が正しくなかったのか?
否。それは違う。
風浦可符香が俺に授けてくれたこのやり方は間違ったものではないとはっきり言える。
傷の男や言峰との闘いがそれを証明している。
傷の男。
凄まじい力を持つ奴の心を俺に伝えてくれたのは、紛れも無くあのガンダムファイトだ。
あのファイトを通して、俺は奴の拳の裏にある奴の思い、奴が抱える怒りや悲しみ、そして復讐の心を知ることができた。
おそらく、奴のあの頑なな心に、生半可な言葉は通用しまい。
奴の心を溶かすことができるとしたら……それは拳だ。魂の篭った拳同士の闘いだけだ。
……かつての俺がそうだったように。
そして、言峰。
あの男についても、拳をあわせてはじめて分かったことがある。
それは、あの男が紛れも無い『悪』を抱え込んだ男だということだ。
確かに、奴は武道家としては気持ちのよい男。
天から授かった恵まれた肉体を、禁欲的に研ぎ澄まし、丁寧に丁寧に完成させたクンフーは素直に尊敬できる代物だ。
……だが、奴の拳に込められているのはそれだけではない。
例えようもなく黒く、粘りつくように邪な何かが、奴の技には宿っている。
言峰と対峙していると、ときおり、その『悪』が俺を丸呑みにしようと口を開けるような感触に襲われる。
まるで、黒いヘドロでできた獣が俺の体を覆いつくそうとしているような、そんな感覚に。
そしてそれは、かつて俺がデビルガンダムと対峙したときに感じたものと……極めて近い。
俺が奴に仲間として合流を申し出なかったのも、その『悪』の感触ゆえだ。
見たところ、殺し合いに乗っている様子はなさそうだったから捨て置いたが
もし、再び見えることがあれば、注意する必要があるかもしれん。
この二人に関するこういう事実は、もし直接ファイトすることがなかったら、分からなかっただろう。
自慢じゃないが、俺は頭も悪いし口も巧くない。
そんな俺が仲間を集めるためには、このやり方をとるのが妥当であるのは間違いない。
では、間違っていたのは何か?
決まっている。ファイトという手段の使い方が間違っていたのだ。
そう、俺は今まで、ファイト自体に拘るあまり、その後のことを全く考えていなかった。
とにかくファイトしなければ!一人でも多くの人と、一刻も早く!
俺は今までそれだけを考え、本来の目的を見失っていたのだ。
だから、これからはそんなんじゃいけない。あくまでファイトは手段。
敵を打ち倒し、仲間を集め、弱きを守るための手段だ。
これからはそれを肝に銘じ、確固たる目的を持って戦わなければならん!!
「『漢』とは、拳を通して分かり合う者……か。
すまなかった、風浦可符香。人と分かり合って何を為すのか、俺はそこをすっかり忘れていた。
やはり俺はまだまだ修行が足りんようだ」
風浦可符香の言葉を思い出し、顔を上げる。
さっきの放送によれば、この六時間のうちに殺された者の数は十六名。
殺し合いは確実に加速している。
一刻も早く止めなければさらなる犠牲者がでるのは必至だろう。
もう、目先の戦いを楽しんでいる暇は無い。
「だから……そのためにもまず……」
俺は、放送が始まる前、自分がしようとしていたことを不意に思い出す。
その『こと』を果たすため、俺はドアを開け放ち、部屋の外へと歩み始めた。
111:名無しさん@お腹いっぱい。
07/12/17 22:43:54 rhQTjAm8
112:邪魔する虫 ◆RwRVJyFBpg
07/12/17 22:45:09 JLCQsZi3
◆
ばさばさと風に翻弄されるマントを意に介すこともなく、ドモン・カッシュは立っていた。
煙突が誇る地上150mに臆する様子を微塵も見せず、ただ下界を睨みつけている。
北には黒く輝く海を挟んで、芝とコンクリートのだだっ広い平地を備えた滑走路。
東と西には灰と銀の威容がこちらを圧する大工場群。
そして、南には青々と茂った緑も眩しく、山峰が連なる。
その光景はまさに大パノラマと言ってよかったが、別に彼は景色を楽しむためにここへ来たわけではない。
ドモンがここに来た目的、それは有り体に言ってしまえば「人探し」である。
最早、間違ったファイトをせず、敵を倒し、仲間を集め、弱きを守ることを決意したドモンであったが
そのどれも、とどのつまり、他人がいなければ行うことができない。
加えて、彼には一刻も早く他人を見つけたいもう一つの理由があった。
それは―
「……グキュゥーーーーー……」
どこからともなく、動物がいななくような音が聞こえてくる。
その音源を探ってみれば……然り。音はドモンの腹の辺りから聞こえてくる。
「……ちっ!武士は食わねどなんとやらと言うが……
やはり荷物を全部やってしまったのは間違いだったか?」
つまるところ、ドモン・カッシュは空腹だった。
体を休め、とりあえずの疲労が体から去ると、入れ替わるように激しい空腹が彼を襲った。
これまでの激しい戦いが彼の中に貯蔵されたエネルギーを根こそぎ奪い去っていったため
彼の体は代償物としての食べ物を求めて、一斉に騒ぎ出したのである。
その要求に答え、自分の本能を抑えるため、ドモンはあの事務室を探してみたのだが……結果はご存知の通りだ。
あの後、食料を求めて、目ぼしい工場の食堂や売店をあたってみたのだが
運の悪いことに、そこには何一つ食べられるようなものは置いていなかった。
そこで高所に上り、レストランや市場など食料のありそうな場所を探そうとしたのだが、これも失敗。
煙突の周囲には工場地帯と住宅街が広がっており、それらしい建物を見つけることはできない。
結果に絶望した彼は、方針を切り替えて、まず他人を探し、間接的に食料を得ることに決めたのだ。
(これからもまだまだ厳しい戦いは続くはず……
そんなときに空腹が原因で負けたとあっては、一生の不覚だからな。
……とりあえず、人を見つけたら、まず今まで通りファイトを仕掛ける。
そして、相手が悪人なら斃して食料を手に入れる。相手が善人なら謝って食料を手に入れる。
相手がどちらか分からなければ……何とかして食料を手に入れるッ!!)
「その過程で仲間にふさわしい人間に出会えればなおいい」などと
ずれたことを考えている男を尻目に、風は青空を吹き渡っていく。
山から降りてきた強風はドモンの傍を通り過ぎて狭い海を渡り、広がる滑走路にまでその手を伸ばす。
「キャッ!」
「…………どうした?」
「……いや、あの……その……ちょっとスカートが……」
「そ、そうか……それは……スマン」
……そうして伸びた風の手は、奇妙な二人を優しく撫でた。
◇
漢の決意、邪魔する虫は腹の虫。
コンテナの齎す影を抜け、二人が漢の視界に入るまで、あと、少し――