07/12/15 15:53:20 NAsmiosw
病院内を探り歩く何ものかの足跡に気付いき、エリオはまどろみの中から現実に引き戻された。
緩慢な動作で布団を被り直し、気配を押し殺す。
依然として焼けどの傷がうずくが、意識はさっきよりかは多少ましになっていた。
足音の主は病室を一つずつ見て回っているらしい。
音がだんだんと近づいてくる。
エリオは偽・螺旋剣を持った手に力を込めようとし、左手にほとんど力が入らないことに気付いた。
(駄目だ…今襲われたりしたら)
半死どころか瀕死の状態にあるエリオに為す術はない。
もし足音の主が獲物を探し歩いているのだとしたら、エリオなどは格好の標的である。
音はすぐ隣の部屋にまで来ている。じきにこの部屋にも来るだろう。
そしてエリオを殺し、荷物を奪い取って悠々と去っていくのだ。
(ころ…される)
思考がクリアになったことで、より現実味を持って自分の死を感じてしまう。
静かに、そして着実に近づいてくる死の恐怖は戦場のそれとは全く異質であり、抗いがたい力を以てエリオの心を蝕んでいった。
病室の扉を閉める音がした。エリオの瞳孔が収縮する。
こつ、こつと、足音が移動する。
息を殺そうとすればするほど逆に呼吸は荒くなっていった。
布団で隠れていたところで、一部屋ずつ検分されていては意味がない。
襲撃者は立ち所にエリオの存在に気が付くだろう。
エリオ自身に抵抗する力は残っていない。ランサーが戻ってくるまで持たせるしかない。
敵が近づくと同時に偽・螺旋剣を突き付ける、それができなくても投げ付けるなり何なりして大きな音を立てる。
とにかく派手に暴れて騒ぎを聞き付けたランサーに戻ってきてもらうのだ。
それがエリオの立てた、完全に他人頼りの、作戦だった。
足音は、聞こえなくなっていた。
(おか…しいな……入ってこな……あ)
エリオが、襲撃者が扉の外からでも攻撃可能な武器を持っている可能性に思い至ったとき、バァンと派手な音がした。
その音だけで、エリオは自分の体が数十センチは浮き上がったのではないかと思える程の衝撃を覚えた。
だが、それは襲撃者の攻撃によるものではなく、単に扉が勢いよく開かれたことで立てられた音だった。
扉を開けた人物はエリオが反応する間もなくツカツカとベッドに近づくと乱暴に布団をはぎ取った。
「あ……」
自分でもいやになるくらいの情けない声だと、エリオは思った。
体はぴくりとも動かない。顔だけを何とか動かす。
これから自分の命を奪うのだろう、その人物は。
完全に予想外のものを見たといった表情でエリオを見下ろしていた。
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20:不屈の心は、この胸に ◇10fcvoEbko(代理)
07/12/15 15:54:20 NAsmiosw
「いや、すまねぇ。てっきり俺が捜してる野郎が隠れてるのかと思ったんでな。
随分と驚かせちまった」
「いえ…」
奇妙な出で立ちをした中年の男は、戴宗と名乗った。
ある危険人物を捜して病院内を歩き回っていたのだという。
襲撃者どころか、エリオと志を同じくする人物だった訳だ。
「いつから、ここにいる?」
「え、と…ついさっきです」
「そうかい。俺が屋上から降りた後に来たってぇ訳だな」
戴宗は、自分が現在追っている危険人物がこの近くに潜んでいる可能性があると言っていた。
屋上から周囲を見渡したが、それらしい人影が見当たらなかったため、まだ中にいるのではと病院内を探っていたという。
「だが~どうやらそれもハズレ、だな。上にゃ誰もいねぇし、おめぇ、え~…」
「エリオ…です」
「おぅ、エリオが無事ここに辿り着いたとこを見ると、もうこの辺りにはいねぇ様だなぁ」
どこ行きゃあがったと、首を捻る戴宗。
「勘違いさせてしまって…すいません……」
「謝るこたぁねぇ。俺のミスだ。
そりゃこれだけの傷を負って隠れてたんだ。呼吸だって荒くならぁな」
戴宗が部屋に押し入るまで間があったのは、中に人がいるのを察しタイミングを図っていたためであった。
追い詰められた野郎が焦ってるとばかり思ったのよ、と多少気恥ずかしそうに戴宗は言った。
それを聞いたときには、部屋の外からでも分かるくらい慌てていたのかと、エリオこそ恥ずかしい思いがした。
「で、だ。その傷……誰に、やられた?」
エリオの右半身を覆う焼けどを見ながら戴宗が言う。
口調は穏やかだが、視線には人をここまで傷つけたことに対する怒りが込められていた。
「青い軍服を着た…男の人で……もうこの辺りには」
「そうかい。いやケガ人に無理させちまったな。
だが一人でよぉっく頑張ったぁ!あとはこの戴宗さんにどぉんとまかせろい!」
「は…はぁ……」
急に戴宗が大声を出したことに驚き、反射的にエリオは頷く。
だが驚きながらもエリオは、その声は傷ついた自分を励まそうとする気遣から発せられたのだと感じていた。
「ほら、茶だ。本当は酒を渡してやりてぇんだが、俺も我慢してるんだ。勘弁してくれ」
「あ……僕、未成年なんで」
「固ぇこと言うんじゃねぇ!はっはっはっはぁ!」
顔を合わせたばかりのときの真剣な表情から一変して柔らかい表情を見せる。
豪傑という表現がぴったりだと、快活な笑い声を聞きながらエリオは思った。
渡された水筒のなかのお茶を口に含む。
(何かさっきより元気になってきたような…)
戴宗の豪気のなせる技か、心なし軽くなった体は驚く程の勢いで水筒のお茶を飲み干していく。
半分程を一気に飲み干してエリオは水筒を戴宗に返した。
「ありがとうございます…おいしかったです」
「どうってことねぇよ。
いよぉし!エリオ、これからは俺がお前を守ってやる。
傷が痛むかもしれねぇが、そんなもん俺が吹き飛ばしてやる。
大船に乗ったつもりでいろい!」
「あの、それなんですけど僕の仲間のシャマルっていう人もここに来てて、その人がお医者さんで…」
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21:不屈の心は、この胸に ◇10fcvoEbko(代理)
07/12/15 15:56:37 NAsmiosw
冷静になった頭は、傷という言葉から仲間の一人を連想していた。
よく考えてみると、治療に使えるものを探しに行くと言っていたランサーだが、
ここの設備を扱えるだけの知識を持っているのだろうか。
それよりはどこにいるかは分からないが、専門家であるシャマルを連れてくる方が確実な気がする。
連れてくるのにどれだけ時間がかかるかという問題はあるが、
戴宗と話していると自分はまだまだ大丈夫という気がしてくるから不思議だ。
「なんでぇ!じゃあ万事解決って訳じゃねぇか!」
再び豪快に笑いだした戴宗を見、エリオは大きな安心感に包まれた。
「さて、じゃあそのシャマルさんを連れてくるとして、だ。その前に俺はちょいと上に行ってくる」
ひとしきり笑い終えた後、戴宗は再び真剣な表情になってそう言った。
「上、ですか…」
「おう。宿直室で冷蔵庫を見かけたんでな。ちょいと氷を作ってくらぁ」
「あ…なるほど」
冷やすという、火傷に対する最も基本的な処置さえも怠ってきたことにエリオは気付いた。
どれ程自分達が余裕を無くしていたか知れるというものだ。
今頃病院内を回ってくれているのだろうランサーのことを思い、エリオはそこで戴宗に自分は一人でここまで来たと思われていることに気が付いた。
「あ、あの!言い忘れてたんですけど……」
「す~ぐ戻ってくるからな。良い子はちょっとだけお留守番してな」
しかし、エリオが声を掛けたときには既に戴宗は出発しようとしていた。
そしてそのままエリオの声には気付かず、部屋を出ていっってしまった。
後には戴宗が階段を昇る音と、いつの間にか置いていった呑みさしの虎柄の水筒だけが残された。
「まあ…いいか」
エリオは気楽に考えることにした。
二人が戻ってきたときに説明すればいいだけのことである。
何も心配は、いらない。
◇
最初にエリオを見たときまた子供の死体とご対面かと、戴宗は肝を冷やした。
それほどまでにエリオ傷の惨状は凄まじく、その瞳は弱弱しかった。
廊下から中の様子を探ったときに感じた気配は、怯える動物そのものであった。
そのため自分が追っている男が、発見を恐れ怯えているのだと勘違いしてしまった。
だが結果的にそれは幸運だったと、宿直室を目指しながら戴宗は思った。
何の因果かこの場にきてから若くして散った命を連続で見せられ、いい加減戴宗も嫌になっている。
エリオの前で急に大声をだしたのは、無意識に生を諦めつつあるエリオを鼓舞するためであったが、
これ以上誰も死なせてなるものかという自らの決意を固める意味もあった。
放送で十傑集の名前が呼ばれた。
僅か6時間足らずでBF団最強のエージェントが命を落とす程に、この場は危険なのだ。
重傷を負った少年が一人でここまで辿り着けたことすら、奇跡と言っていい。
これから先は、その命は自分が絶対に守らなくてはならない。
エリオという少年、最初は弱弱しかったが茶を呑ませ段々元気が出てくると、その瞳は強い意志を感じさせた。
大作と同じ、いや心のどこかで自らの使命を重荷に感じている節のある今の大作以上に強い心をもっているかもしれない。
恐らくあの傷も、一方的に攻撃を受けたのではなく戦ってついたものなのだろう。
死なせるには全く惜しい、何だったら傷を癒した後に国際警察機構にスカウトしても良いかもしれない。
梁山箔で鍛え上げれば、かなりのものになるだろう。
片手での戦い方など、どうにでもなる。
22:不屈の心は、この胸に ◇10fcvoEbko(代理)
07/12/15 15:57:58 NAsmiosw
そのためにも、今はこの場に巣食う悪漢どもを一刻も早く駆逐し、ロージェノムを打倒しなくてはならない。
傷ついた者を仲間にすることを負担に思うどころか、より一層自らの決意を強固なものとし、戴宗は駆ける。
幾千もの修羅場をくぐりぬけた豪傑のみが纏うことのできる気迫がそこにあった。
その脳裏に一つの閃きが舞い降りる。
(医者だっていうシャマルってぇ人は…名前からして女だよなぁ)
医者。女。
女医!
うちのエリオが大変お世話になりました戴宗さんって凄く素敵な方なんですね。
私一目惚れしてしまいましたどうですかこの後ご一緒に私と。
「いやいやいやそりゃまずいって!
状況ってもんが…ああでもそんなに言うならおじさんちょっとだけご一緒しちゃおうかなぁ。
ぐふふ、よろしくお願いしますぅ……ぶべら!?」
浮かれきった豪傑は天井に思い切り頭をぶつけた。
「ふぅ…」 再び一人になったエリオは、水筒のお茶を飲んで息を吐いた。
さっき動けたのは戴宗の気迫に充てられたことが原因かと思ったが、実際水分を補給するだけでも体調は大分ましになった。 もちろん出歩く、などということはできない。
だが、冷静に思考をめぐらせるぐらいのことはできた。
そうしてみると、さっきまでの自分がいかに混乱していたかが分かってくる。
パニックになって遺言めいたことを口走るわ、人任せの作戦で立ち向かっている気になるわ、思い出すだに恥ずかしい。
(キャロのことも…探してあげないと)
正直キャロのことに関してはまだ受け止めかねているが、ランサーの言ったとおり感情は嫌でも後からついてくるのだろう。
ならば、今はできることをするだけだ。
ランサーが戻ってきたらシャマルのことを伝えよう。
一応情報交換したさいに名前は伝えてあるが、様々な情報を交換したためどれくらい覚えているか分からない。
早く言えと怒られるかもしれないが、それを受けとめるぐらいの元気はある。
襲われもしたが頼もしい人物に2人も会うことができたのだ。
自分は決して不幸ではないし、諦めるにはまだ早すぎる。
(腕だって…何とかなるかもしれない)
この事件を解決し帰還すれば、エリオは余りミッドチルダの最先端医療には詳しくはないが、腕の欠損を治す術があるかもしれない。
戦闘機人、プロジェクトFのような技術を用いれば、あるいは。
どちらもエリオにとっては非常に苦い過去を思い出させる言葉である。
だが、同時にそれらはフェイト、スバル、ギンガといった掛け替えのない仲間や家族を生み出した技術でもある。
自分が使い方を誤りさえしなければ大丈夫と、エリオは動悸する胸に強い心で言い聞かせた。
最悪の場合でも片手で戦えるように訓練するだけだ。
エリオはいつか見せられた、戦技教官である高町なのはのリハビリ映像を思い出していた。
(なのはさんだって最初からあんなに強かった訳じゃない。
再起不能って言われたこともあったんだ。
頼りになる人達が仲間になってくれたし…僕はまだ、やれる)
強い決意とともに、エリオは左手で偽・螺旋剣を握った。
「う…」
目眩がする。さすがに無理をし過ぎたらしい。
エリオは再び布団を被り直した。
すぐに眠気が襲い掛かってくる。
だが、さっきまでのブレイカーが落ちるような強制的な睡魔ではない。
安心して身を任せられる、穏やかで心地よいものだ。困憊した心身が静かに閉じていく。
意識は既に現実を離れ、夢の中にさ迷いだそうとしている。
そして、完全に眠り落ちる直前に。
鋭敏なエリオの聴覚が、何者かが扉を開ける気配を捉えた。
「ランサ…さん?たい…そうさん?」
布団から顔を出しむにゃむにゃと呟く。
帰ってきたのがどちらであれ、これでは完全に寝呆けていると思われてしまうだろう。
視線を上げる。
そこには。
見たことのない金髪の男が、口の端を釣り上げて笑っていた。
「私はムスカ大佐だ」
何かがエリオの胸に振り下ろされた。
23:不屈の心は、この胸に ◇10fcvoEbko(代理)
07/12/15 15:58:52 NAsmiosw
頭の痛みをこらえながらありったけの氷を掻き集めて戴宗が戻ったとき、病室の様子は一変していた。
足を曲げ、引っ繰り返ったベッドはかつての清潔感など見る影もない。
割れた花瓶の破片が散乱し、中の液体がぶちまけられている。
粉々に砕かれた窓ガラスから乱暴な風が入り込み、カーテンが引っきりなしに揺れている。
白くまとめられた室内のあちこちに、真っ赤な血しぶきが飛び散っている。
そして。
腹部を螺旋状の剣で深々と貫き通された、エリオの死体が転がっていた。
「ちくしょうがあああああああ!!」
あらんかぎりの怒りを込めて、戴宗は叫んだ。
誰だ。誰がやった。
自分が目を離した僅かな隙に、傷ついた子供の命を奪った糞野郎はどこのどいつだ。
まさか自分が追っていたあの男がまだこの辺りにいたのか。
「それなら俺はどうしようもねぇ馬鹿野郎じゃねぇか!くそ!」
まだ遠くには行っていないだろう。
戴宗は病室から飛び出そうと凄まじい勢いで床を蹴った。
が、腹から剣を突き出し横たわるエリオの死体を視界の端に写し、戴宗は無理やり足を止める。
「く…」
僅かな時間とはいえ気心を通わせた人物の死体。
放っておくには、その姿は余りにも無惨すぎた。
「ぐぅ…!最後だ!これで最後だからなぁ!」
これ以上絶対に自分の周りで死人は出さない。
その邪魔をする畜生どもは、一人残らず成敗する。
そう決心すると戴宗はエリオの死体に近付き、腹に刺さった剣に手をかけた。
「済まねぇ」
自分のどうしようもない未熟さを詫びながら、剣を抜こうと手に力を込めた。
そのとき、病室の入り口から凄まじい殺気が放たれた。
「貴様、何をしている…?」
「な…!」
咄嗟に戴宗がそちらを向くとそこには鉄の棒を構え、殺意に漲った目でこちらを睨み付ける長身の男の姿があった。
子供の死体から突き出した剣。
それを握る己の両手。
馬鹿な妄想にふけり、幼い命を救えなかった救い様のない愚かさ。
戴宗は、ほんの僅か、怯んだ。
「お、俺じゃあねぇ…!」
豹のように鋭さを持つ男の目が、ギラリと光った
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24:不屈の心は、この胸に ◇10fcvoEbko(代理)
07/12/15 15:59:28 NAsmiosw
やはり最初からキャノン砲を使っておくべきだったと、病院を抜け北に進みながらムスカは思った。
全身に大小様々な傷が付き、その歩みは遅い。
片足など、ほとんどひきずるようにして歩いていた。
こんなはずではなかったと、ムスカは呟いた。
やってきた二人の内、熟練した雰囲気を感じさせる長身の男が病院の奥に消えたのを見計らって、ムスカは移動を開始した。
途中から聞こえ出した憎き東洋人の声を辿ってみれば、辿り着いた先に東洋人の姿は既になく、代わりに半死人のような子供がいた。
漏れ聞こえた会話の流れから、この子供は東洋人の仲間であり、本人はすぐに戻ってくるつもりであることが分かっていた。
待ち伏せてキャノン砲でもろともに吹き飛ばしてやろうかと思ったが、そのときムスカの中で別の考えが浮かんだ。
あの東洋人が帰ってきたときに、仲間であるあの少年が死んでいればどれだけショックを受けるだろうかと考えたのである。
絶望に打ちひしがれたところにキャノン砲を打ち込む己の姿を想像し、ムスカは笑いをこらえるのに苦労した。
簡単なことのはずだった。
轟音を立てると予想されるキャノン砲を一旦デイパックに納め、酒瓶を取り出した。
少し離れた場所で割り、刃物と化したそれを少年に突き刺す。
少年は既に死人と変わらないような状態であり、ムスカは最後の一押しをするだけで良いはずだった。
だが、少年はその状態からは想像もできないような俊敏さでムスカの一撃を回避すると、あろうことかそのまま立ち向かってきた。
完全に虚を突かれたムスカ大慌てで酒瓶を取り落としてしまった。
それから後のことは、無我夢中で余り記憶が残っていない。
覚えているのは、少年が破片の一つを、自らの出血も構わず握り締め、ムスカの脇腹に突き刺したこと。
傷自体は重傷という程ではないが、筋肉にがっちり食い込んだそれは未だ抜くことができずにムスカの体に刺さり続けている。
そして、偶々手に触れた剣でムスカが少年の腹部を貫いたこと。
腹を抉り込む剣の感触がまだ両手に残っている。
散々な醜態を演じたとはいえ、それで終わりのはずだった。
だがと、ムスカはその時の光景を思い出し身を震わせる。
半身を失った上から腹に剣をぶち込まれ、大量の血を吐き出しながらもその瞳は屈することなく爛々とした光を放っていた。
既に顔は土気色に染まり、目の下にくっきりと隈を浮かび上がらせた死相をさらしながらも、その目は生きることを諦めてはいなかった。
―ひざまづけえぇぇ…!貴様は…!貴様はラピュタ神の前にいるのだぞぉおお……!!
必死で手に力を込めながら、ムスカそう叫んでいた。
だが少年はそれでも死ななかった。
25:不屈の心は、この胸に ◇10fcvoEbko(代理)
07/12/15 16:00:13 NAsmiosw
―しでん、いっせぇん!!
断末魔の叫びとともに繰り出された拳がムスカを吹き飛ばしたとき、衝撃とともに電流が体をかけめぐった。
そして、少年が事切れたことを確認するのもそこそこに、ムスカは痺れる体を無理やり引きずり逃げるようにその場を立ち去った。
東洋人のことなど頭から吹き飛んでいた。
逃げるように、ではない。真実ムスカは自分が殺した少年に怯え、逃げ出したのである。
今にいたってもそのときの恐怖はムスカの心の奥底に巣食い続けている。
「あの子供に…東洋人の男…!雷は神である私にのみ扱うことを許された力だぞぉ…!」
身一つで雷を操る者達への怒りで何とか己を保ちながら、ムスカは歩き続ける。
その右腕には少年の拳がつけた焦げあとが強く、強く刻み込まれていた
【D-6/病院北側を移動中/1日目/午前】
【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ(ムスカ大佐)@天空の城ラピュタ】
[状態]:精神・肉体共に激しく疲労。右わき腹にガラス片。右腕負傷。
[装備]:ダブルキャノン@サイボーグクロちゃん (残弾30/30)
[道具]:デイバック、支給品一式(食料-[大量のチョコレート][紅茶][エドの食料(詳細不明)])
[思考]基本:すべての生きとし生ける者に、ラピュタ神の力を見せつける。
1.今はとにかく病院から離れたい
2.東洋人(戴宗)に復讐する。
3.パズーらに復讐する。
4.出来れば『平賀源内のエレキテル』のような派手な攻撃が出来る武器も欲しい。
最終:最後まで生き残り、ロージェノムに神の怒りを与える。
【エリオ・モンディアル@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】
26:不屈の心は、この胸に ◇10fcvoEbko(代理)
07/12/15 16:00:51 NAsmiosw
【D-6/病院内の一室/1日目/午前】
【神行太保・戴宗@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
[状態]:若干の疲労 自分への激しい怒り
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-[握り飯、3日分])
エリオの治療用の氷
アサシンナイフ@さよなら絶望先生×11本、乖離剣・エア@Fate/stay night
『涼宮ハルヒの憂鬱』全巻セット@らき☆すた(『分裂』まで。『憂鬱』が抜けています)
不明支給品1~2個(確認済み)
[思考]: 基本:不義は見逃さず。悪は成敗する
0:目の前の男に対処
1.エリオを弔った後、全力で殺し合いを止める。
2.どこかで酒を調達したい。
3.菫川ねねねを捜し、少女(アニタ)との関連性を探ってみる。
4.死んでいた少年(エド)の身内や仲間を探してみる。
最終:螺旋王ロージェノムを打倒し、元の世界へと帰還する
※空になった虎柄の水筒が病室に転がっています
【ランサー@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)、激しい怒り
[装備]:鉄棒(折ったポール)
[道具]:デイバック、支給品一式(-地図、-名簿)、ヴァッシュの手配書、不明支給品0~2個(槍・デバイスは無い)
エリオの治療用の氷と包帯
[思考] 0:目の前の男に対処
基本:このゲームに乗ったもの、そして管理している者との戦いを愉しませてもらう
1.戦闘準備を整える(体力の回復、まともな槍の調達)
2.言峰、ギルガメッシュ、ヴァッシュと出会えば、それぞれに借りを返す
言峰とギルガメッシュは殺す。ヴァッシュに対してはまだ未定
3.ゲームに乗っていなくとも、強者とは手合わせしたい
※まともな槍が博物館にあるかも知れないと考えています
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◇
27:読子さん、バトルロイヤルですよ! ◆tXzDpHv2x2
07/12/15 16:20:39 Grg+Jqrv
八神はやてが目を覚ますとそこは何も見えないほどの深い暗闇だった。
ただ一面の闇しか敷き詰められておらず、その場には僅かな光も射してはいない。
はたしてここはどこなのだろうか?
そんな疑問が浮かび上がってくる。辺りを見回しても暗闇で何も見えない。
月が雲に隠れているとしてもこれはおかしい。家具の角ぐらいは見えてもいいはずだ。どういう状況なのだろうか?
そんなことをはやては考えたものの、寝起きの頭ではうまくまとまらない。
だが自室でないのは確かだ。なぜならば、複数の方角から人の声がするからだ。
誘拐でもされたのだろうか? だがそれならば拘束されていないのはおかしい。
そもそも自分は直接戦闘が苦手ではあるが簡単に負けるつもりもなく、なにより常にそばにいる家族達が黙ってはいないだろう。
濃いAMFは感じるが、これだけでは到底拘束できたとはいえない。
「誰か返事してくれへんかー?」
そうはやては声を張り上げ周りに問いかけるが、声は山彦が返ってくるように反射し、何度も何度も響いたために逆に雑音にしかならない。
さらに周囲の人間のささやき声までの自分と同じく反射し響き渡り雑音に加わっていることも、自分の声が届かない要因となっている。
(あかん、小学校の朝の朝礼といっしょや。これやと注目を集めへんと話を聞いてもらわれへん)
近ければ問題なく聞えるだろうが、離れた人物達に向けて大声を出したとしても、先ほどと同じように声が響き渡り碌に聞いてもらえないだろう。
ロンドンにあるセントボール大聖堂の回廊は、ささやき声が壁の凹曲面に反射して、遠く離れた反対側まで聞えることで『ささやきの回廊』
と呼ばれていると聞いたことはあるが、この場所はそういった場所なのだろうか?
(考えていても、らちがあかへん)
はやてはしかたなく、考えるよりも先に行動するべきだと切り替え、起き上がるために地面に手を着いた。
だが手に返ってきた感触ははやてが予想していた硬い地面ではなく、弾力のある何かだった。
(え? なにこれ?)
はやては弾力のある何かを鷲掴み、適度に力をこめつつ何度も揉んだ。
そして、気付く。この感覚は前にもさわった覚えがある。そう、あれは―――
はやてが記憶の中からそれのことを思い出そうとした。だがその行動を遮るように、奇妙な声が聞えてきた。
「人の胸を揉まないで下さい~」
女とおぼしき声の至極まっとうな抗議が、はやての右腕が揉んでいる存在から聞えてきた。
「……うわ! ごめん!」
はやてはあわてて、右手をどけた。セクハラもいいところである。
「ひどいじゃないですか」
「ごめんな、わざとやないねん。ゆるしてんかぁ?」
見えない相手に向けて、両手を合わせ平謝りする。相手からもこちらのことは見えないだろうが誠意は伝えなければ。
『機動六課部隊長八神はやて。ぺけぺけ市の丸々氏に対してセクハラ!』などと新聞に書かれるのは非常にまずい。
機動六課解散とはならないが、ただでさえ悪い立場がさらに悪化してしまう事態には陥りたくはない。なんとしても示談に持ち込まなければ。
だが、はやての前にいる女が次に発した言葉は、胸を揉まれた非難ではなかった。
28:読子さん、バトルロイヤルですよ! ◆tXzDpHv2x2
07/12/15 16:21:42 Grg+Jqrv
それは奇妙といえば奇妙な呟きであり、はやてには謎の言葉であった。
「あと5ページって何?」
5ページという単語が気になったはやてはオウム返しに聞き返す。
無論はやてには5ページという単語から連想できるものは一つしかなかったが、
聞き返さずにいられないほどに状況に合ってはいない単語であったために、つっこみ心の方が勝った。
「推理小説読んでたんです」
「……この暗闇の中で読んでたん?」
「夢の中で、読んでたんですぅ。あと5ページで、犯人がわかりそうだったのに……」
「いや、夢の中って……」
「あうう、犬神家の謎がわからないいぃ……」
なんなのだろうかこの女性は?
こんなところに連れてこられてからのファーストコンタクトだというのに、全然頼りになりそうもない。
はやては脱力しつつ他の人物を探そうと思った。この女はあてにならない。
胸を揉んだことを相手が気にしていない以上は、ほうっておいても問題ないだろう。
「って、あれ。ここどこですか? 声が響いてるから屋内? でも私、本屋の前に並んでたんですけど」
女がそうのたまった。はやては再び脱力し、つっこみを入れることにした。
「……どんだけー」
そう女に言った瞬間。視界が白に染まった。反射的に目頭に手の甲をあてる。
いきなりの展開に、はやての思考は一瞬白くなる。だが一秒後にはすでに落ち着き、事態を把握していた。
ライトアップしたことにより一瞬視界が焼け付いただけだ。なにも慌てることはない。
はやては慌てずに、闇に慣れた視界が光に慣れるのを待った。
徐々に光に慣れてきたはやての目に、まず最初に写ったのは眼鏡であった。
その男物の黒フチ眼鏡は日本人と思しき女の顔の上に乗っかっており、その女は眼鏡を僅かにずらし眠たそうに目を擦っている。
だがその動作は非常に効率が悪いと言える。
なぜならば、眼鏡をずらしその下に手を入れて目を擦るよりも、眼鏡を外してから目を擦った方が遥かに楽なのだから。
「いったい何が起こっているんですか?」
眼鏡の女はそう言った。それはここにいるすべての者の胸中にある言葉を代弁していた。
そして、その答えはすぐに返ってきた。
「その質問には私が答えましょう、The Paper!!」
謎の男の声が辺りに響き、部屋の中央と思しき場所にパックリと穴が開くと、
中から布に巻かれた杖をついた白髪のイギリス人と思しき男が迫り出してきた。
眼鏡を掛けた女が地から迫り出してきた背後にいる男に、慌てて振り向く。
「ジョーカーさん!」
「お久しぶりです、The Paper。私、大英図書館特殊工作部に所属するジョー・カーペンターと申します、以後お見知りおきを」
ジョーカーと呼ばれジョー・カーペンターと名乗った男は、最初の言葉は女に向かって、続きは自分に注目する人々に向かって話しかけた。
「ジョーカー!」「デコハゲ!」「キザハゲ!」
周りからジョーカーのことを知っているであろう、数人の叫び声が上がる。
「ここは大英図書館地下50階に、特別に用意した部屋です」
男はそう言った。大英図書館とはイギリスにある国立図書館である。
だが、ただの図書館がいったいなぜ多数の人間をここに集めたのか、はやてには理解できない。
29:読子さん、バトルロイヤルですよ! ◆tXzDpHv2x2
07/12/15 16:22:19 Grg+Jqrv
「まず要点から言いましょう。これから彼方たちには、最後の一人になるまで殺しあってもらいます」
ジョーカーはそう言った。だが全員がその言葉を飲み込み、理解する前に別の男の声が室内に響き渡った。
「そんなことは聞いていない!」
部屋の中央にいるジョーカーに向かって、ひょろ長いという形容詞がぴったりと当てはまる男がづかづかと歩いていく。
「ア、アメリカ大統領さん!?」
眼鏡の女が叫ぶ。
ミッドチルダに移住しているはやてには、現在の大統領が彼なのかは分からなかったが、
あまりに接する機会のない人物が出てきたことにより僅かに混乱した。
そして、それはジョー・カーペンターのことを知っている3人の女性も同じことであり、故に黙ったままでいるという選択肢を取らせた。
これから何が起こるのかも知らずに。
「いったい、これはどういうことだジョーカー!」
「おやおや、これはプレジデント。お久しぶりです」
怒りに顔を染めた大統領の剣幕にもジョーカーは動じずに、落ち着き払った声で答える。
「よく私の前に出れたものだな!」
「ええ、あの時は醜態を晒さしてしまって申し訳ありません。今日はおしめをはいてきましたか?」
そうジョーカーが言ったとたん、大統領の顔が赤一色に染まった。
゛おしめ″という単語は彼にとって怒りを覚える事象のことを指すのだ。
「殺れSP!」
「ハッ、閣下!」
大統領の命を受け、側に控えていたサングラスに黒服の男たちがジョーカーに銃を向け、引金を引く。
そして、数発の弾丸ジョーカーの体を射抜く。