07/12/23 01:03:10 Kar7fNnI
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既に第七ドールの雪華綺晶と槐が、ジュンがそこへ入る前、ローゼンの屋敷の中へと進入していた。
屋敷の中は見放されたように明かりが一つもついていない。細長いアーチ型の窓から差し込む光だけがなかを照らす。
その廊下で、雪華綺晶と槐は十フィートほどの距離をおいて向き合っていた。二メートル近くある長身の人形師と、1メートル足らず
の白い人形。ぶつかる視線のラインはその高度の落差より斜めの直線を描いている。
「私が薔薇水晶に手かげる前…」先に槐が口を開く。「そうだ…思いだしたぞ…私の夢の中にお前が姿を現したな…この私を
お前のアリスゲームに利用していたのか」
雪華綺晶は顔を持ち上げ彼を見上げると、答えた。暗がりの中、窓ガラスから差し込む光だけが彼女の顔を明るみに出し金色の瞳を
あらわにする。「あなたはお父様の弟子の人形師になるときから…アリスゲームの糸に捉われている」
「…薔薇水晶に命を吹き込んだのはお前なのか」
「巡る運命の一つ…"でした"」
槐は片手で頭の額を抱え、雪華綺晶を睨もうと試みる。だが、自分と薔薇水晶のことを利用したその張本人だとしても、薔薇水晶
にあまりにも似た雪華綺晶の姿に槐は形見の感情を持たずにはいられなかった。似ている…似すぎている。
彼女の姿が薔薇水晶と重なってしまう。「う…くそ」
憎しみと懐かしみの親近感、交差する感情と戦いながらどうにか彼は続けていう。その様子を雪華綺晶は少し面白がっているようにも
見えた。「…ローザミスティカもない薔薇水晶がなぜ生きた人形のように動き出したのか、当時はあまり気にもしなかった…薔薇水晶
と話せることが嬉しかった…だが全てはお前の思惑の内だったのか」
無音のままただ雪華綺晶はきいている。
「そうだとしたら…お前にお願いがある」槐は言った。自分達をはめたことへの憎しみより、結局薔薇水晶への気持ちが勝った
のだった。「私はもう一度…薔薇水晶を創りなおしたい。そのときはまたお前から薔薇水晶に命を与えてほしいんだ」
当然、自分の運命のことしか頭にない雪華綺晶にはその願いの意味すら分からなかった。
「その糸はもう切れました」
「ならば、せめて…」槐の目に狂気じみたものが走る。「お前は薔薇水晶に似ている…そう、似ているんだ…だから…薔薇水晶の
ドレスをいまここで着てくれないか。ああ、右目の薔薇はそのままでいい…」
雪華綺晶は笑った。愚かな人間の心の一端を、またしてもこの左目を通じて見れたわけだ。