07/12/02 06:08:51 gX6lhtC4
137
マスター達三人を閉じ込めていた水晶は全てついに砕け、開放されたみつ達がそれぞれゆっくりと浮遊するように地面に降り立ってきた。
三人ともそれぞれ契約していたドールのローザミスティカを胸に抱えている。
「カナの声が聞こえたわ…」みつは呆然と呟き、あたりを見回した。まだ頭が回っていないらしい。「ここはどこ…?」
ジュン、真紅、翠星石…みんないる。そして、いつしか金糸雀を探していたときに出会ったあの白いドールが目に入った。
あの白いドールが金糸雀の居場所を知っているといって…案内してもらって…それから…
「カナは…」みつは仇敵によって隅に追い詰められたときのような危機感を覚えていた。「カナはどこ…?」
だが白い人形は黙ったままで何も言わない。
つぎに口を開いたのは柿崎めぐだった。
「私…」胸元に収まるローザミスティカを抱え不思議そうに見つめている。「眠り姫になった夢をみてた…」
翠星石もまた、何が起こったのかを思い出そうとしていた。記憶のなかで一番最後に残っていること。真紅がマスター達を救う方法が
ただ一つあるといい、それをするように勧めたら…そこで真紅の手が自分へ伸びてくると同時に意識が闇に落ちたのだった。
彼女は一瞬真紅に対して恐怖心を覚えたが、まわりに柴崎を初めとする草笛みつやその他人間がいることを見てみると、本当に
真紅はマスター達を第七ドールから救ってのけたらしいことを認知した。改めて翠星石は真紅という第五ドールには敬服してしまった。
「翠星石、ごめんなさい。他に方法はなかったの…」
すぐに真紅が駆け寄ってくる。
「い、いえ…、真紅、…真紅はやっぱすげーやつですよ」やっとの思いで翠星石は答えた。「マスター達を救ったのですね。
白薔薇は?」
「私にもいえることかもしれないけれど、彼女は気の毒に、永久にアリスへの道を絶たれた」
遠く壁際の雪華綺晶を見つめながらこれまでの経緯をごく簡潔に話した。「私は指輪を放棄し誓いを解いたわ…ジュンはもう私の
マスターではなくなった」
「そ…そうしてジュンやマスター達を護ったのですか…」彼女はどうにか真紅の行動を理解することが出来たが、何より驚いた
のはそれを実際に行動に移す真紅の勇気と度胸だった。マスターを護るためにそこまで出来るものなのか。
一方、せっかくここまで集め閉じ込めたマスター達を解き放たれてしまった雪華綺晶はそうした真紅に敵意を剥き出しにした。
丸い瞳を細めて睨む。
その刹那、床の茨の罠が再び力を取り戻したように活発になり、真紅の身体を何重にも縛り付けた。「う…!」
「真紅!」
「ふふ…ふふふ…」
雪華綺晶は壊れたようにしかし静かに笑いながら茨の床の上を一歩一歩進み、真紅ににじり寄りだす。「ふふふふ…お姉さま…
紅薔薇の…美しいお姉さま…私のたった一人のお姉さま…」
まずい…!
絵画の偽りが消えたいま、雪華綺晶の殺しの本能欲と衝動に歯止めをかけるものがない。
一瞬どうするべきなのか分からなくなり、ジュンはもう一度助けを求めるかのように顔の向きを変えてラプラスに視線を送った。
だがラプラスはただ凛とそこに起立しているだけで今度は何もしようとしない。まるでこの先どうなるかを既に知っているかの
ようだ。彼はもうあてにできない。