07/06/17 01:35:07
「チェック・メイト」
ニキに冷徹に告げられ、マークは漸く自らの負けに気づいた。
嘆息して椅子の背凭れに寄り掛かり、言う。
「きみに勝つのは難しいな」
「決して勝てないということではありません」
無表情を崩し、眉を顰めて諭してくるニキの生真面目さを、マークは好ましく感じた。
数秒の間を置き、ほんの僅かに微笑んでニキは続けてくる。
「希に、あなたが大勝する対局があります」
「数十に一つの勝ちを誇れはしないさ」
「いいえ」
マークの、なにげない台詞を、ニキは否定してきた。
「理性と感性の差異です。原因と結果を考えなければなりません。数十、数百の勝ちを重ねても―」
自説を論じかけて口元を片手で覆い、ニキが目を伏せて謝ってくる。
「ごめんなさい。休みにそぐわない話ですね」
「んんっ……」
マークは、はっとして呻いた。ニキに見惚れ、相槌を打つことさえ忘れていた。
「わたしは、つまらない女でしょう?」
「きみは素敵だ」
ニキの自嘲の問いに、マークは、椅子から立ち上がりながら答えた。
世辞でも冗談でもなかったが、ニキは首を横に振った。
「機械と評されるわたしに、なにがあるというのですか?」
「きみは機械ではない」
マークは、躰が重なるようにニキに近づいた。
「いっそ、わたしは機械であればいいのです。戦う為の装置であれば―」
マークは、ニキの震える声を、抱き締めることで遮った。
「きみは人だ……人であってくれ……」
静寂に包まれた部屋の中、ニキの躰を感じながら、マークは囁いた。