07/06/05 23:55:45
あまりの突然に、カミーユは悲鳴すら出ない。
一瞬にして硬直したカミーユとは対照的に、エマは落ち着いていた。大人らしい余裕の表情で、「鍵をかけてあるから」とだけ囁く。
その通り、ファがノブを回しても、ただガチャガチャと鳴るばかりで、美術室のドアは禁断の二人を隠蔽し続けた。
しかし、ファも諦めない。女の勘というヤツかもしれない。
「変ねえ。電気点いてるのに…ねえ、カミーユ!本当にいないの?」
ずいぶんと長い間廊下をうろついてから、やっとファの気配は消えた。
「ふふ、驚いたわね」
囁く声は、いつものエマとは違い、ひどく艶めかしい。
漠然と恐怖を感じて、カミーユはまじまじとエマの顔を見つめた。
「エマさん?」
「見たいのよ」
母ともファとも違う、女の顔。
けれど、気高い美しさで、エマもカミーユを見つめた。
「あなたが快楽に溺れる顔を」
再びエマの指が動き始める。
「カミーユ、悩ましく悶えてちょうだい。それが芸術なのよ」
火照った頬を気にしつつ歩くカミーユへ、軽快な足音が近付く。
それは隣に並んで歩調を合わせても、しばらく言葉を発しなかった。
「なんだよ」
先にカミーユが突っかかれば、ファは眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔をする。
「なによ、その態度」
「だから、なんだよ。何の用だよ」
「別に。話し掛けちゃいけない?」
プイと横を向いたのに、ファは構わなかった。次々と質問を投げ付けてくる。
「どこに行ってたのよ?今まで何をしてたわけ?美術室じゃなかったの?」
「ファには関係ないだろ」
「エマ先生は何だったの?」
カミーユは言葉に詰まり、ただファの顔を見る。
それに居心地悪そうにしてから、ファは顰めっ面で駆け出した。
「もういいわよ!知らない!」
カミーユは、複雑な心境でファの脚線美を見送った。
多分、明日もエマのモデルになる。
ファはもちろん、誰にも言えない秘密を抱えて。