種・種死の世界にWキャラがやってきたら MISSION-10at SHAR
種・種死の世界にWキャラがやってきたら MISSION-10 - 暇つぶし2ch25:通常の名無しさんの3倍
07/11/01 10:40:59
んだよ
投下されたのかと思ったぜ

26:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:00:13
投下します。

27:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:02:16
 プラント最高評議会会議室。プラント首都、アプリリウスにある最高評議会
本部ビルの一室にあるこの部屋に、最高評議会議員全員が集まっていた。議長、
副議長、国防委員長など12名からなる評議員がそれぞれ円卓の一席に座ってい
る。こうして委員長職に就く評議員が全員揃うときは、決まって重要な政策な
いし、議題の可否が話し合われるのだ。
(少し前までは、議長を除くほとんどの面々が違う人間だった)
 部屋の中の警備を担当する士官の一人が、心の中で呟いた。そう、ほんの少
し前まではこの部屋に入室する権利を持つ人間たちは全く違う人々で、それが
僅かな時間の間に様変わりしてしまった。
(あの時は、ブルーコスモスの総会と偽られた、旧連合の和平総会を襲撃する
という議題が話し合われていた)
 ブルーコスモスとファントムペインによる擬態と気付かず、議長を除くほぼ
全ての委員長がプラントへの攻撃を恐れ、襲撃作戦へ賛成票を投じた。結果と
して、それが擬態であり、取り返しの付かないことをしてしまったと気付いた
ときは、もう後の祭りだ。評議員は全員辞表を出し、反対票を投じた議長ら僅
か数人が慰留されることになった。
(議長だけは、変わらずに)
 警備士官は、卓上の最高序列ともいうべき席に腰掛ける、自分たちの国家の
代表に目を向ける。議長としても、もっといえば政治家としても随分と若々し
い、それがギルバート・デュランダルという男の第一印象だろう。
 そもそも、デュランダルは、なるべくして最高評議会議長になったわけでは
ない。市民の熱烈な後押しがあったわけでもなければ、政界内の陰謀が働いた
結果というわけでもなく、謂わば成り行きだった。というのも、前大戦終了間
際、それまで議会を占領していたパトリック・ザラを初めとする右派・タカ派
の政治家たちに対し、穏健保守派で知られるクライン派が武力を持って政治的
クーデターを仕掛けた。理由は、パトリックをはじめとしたザフト出身の軍官
僚によるプラント政界の軍閥化を防ぐため、というものであった。
 このクーデターに対して、パトリック派も市民も無抵抗であった。パトリッ
ク派は、激しい戦闘の最中、部下の裏切りにあったパトリック・ザラが射殺さ
れるという最悪の事態が生じ一気に求心力が低下し、市民としては時期的に戦
争に疲れ果てていたということもある。戦争も終わりそうであるし、そろそろ
和平路線に行くのも良いのではないかと、誰もが思い始めたのだ。
 だが、すぐに歪みが生じた。連合との和平条約を結ぶ際に、クライン派の政
治家たち、特に当時議長職にあったアイリーン・カナーバ議長は、プラントに
不利と言わないまでも、必ずしも有利ではない条約を締結するこことなった。
必ずしも自分たちが戦争に敗北したと思っていないプラント市民は、これに激
しい憤りを憶えた。無能な政治家共! 政府は何をやっている! どうして我
々がナチュラルに譲歩し妥協しなければならない! こうした声は、一応は市
民に望まれ、受け入れられたはずのクライン派政権を押しつぶさんばかりだっ
た。連日のようにメディアはカナーバ議長の政権に対し批判記事を書き、市民
もそれに同調した。
 カナーバら評議員が辞表を提出するまで、そう時間は掛からなかった。理由
は明白だし、市民は当然と思っていたので反発も起こらなかったが、問題は後
任である。戦争終わった今となっては、政敵だからといって旧パトリック派の
政治家を据えるわけにもいかない。今は、民力休養の時期だ……
 そして、世間は自然と他の分野に目を向けるようになり、一人の男、ギルバ
ート・デュランダルが注目されはじめた。

28:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:04:23


         第36話「スエズ侵攻作戦」


 デュランダルは、様々な分野を経て政治家の道へ進むプラント政界の中で、
学者出身という割合ポピュラーな経歴を持っていた。例えば、かつて猛威を振
るったニュートロンジャマーを開発したのは、最高評議会評議員オーソン・ホ
ワイトで、彼は優秀な基礎物理学・素粒子物理学者であった。そう考えれば、
デュランダルは決して珍しい男ではなかったのだが、彼が専門とした分野が注
目されたのだ。そう、遺伝子研究である。
 若くして遺伝子科学者として名を馳せていたデュランダルは、その筋の人間
たちからは『DNA解析の権威』などと呼ばれており、そこそこ知名度も高かっ
た。以前から、コーディネイターが持つ遺伝子的問題は度々議論されており、
それを解決すると明言した議長も少なくはない。だが、誰も彼もが成功や成果
を出す前に任期を終え、あるいは辞職しており、それが実現されたことはなか
った。
 そこにデュランダルが現れた。『DNA解析の権威』と呼ばれる遺伝子科学者
が。メディアは挙って学者としてのデュランダルの功績や実績を書き立て、市
民はご大層な彼の肩書きに興味を覚えた。若く、まだ三十歳を過ぎたばかりと
いう年齢に危惧を覚える老輩も居ないではなかったが、これからは若さの時代
だという世論の前には何の太刀打ちも出来なかった。また、デュランダルは政
治家にしてはかなり顔の良いほうであり、女性を中心に人気が高まっていった。
こうなってくると、デュランダルの方でも自分に注目と人気が集中しはじめて
いることを肌で感じざるを得ない。
 デュランダルは積極的に表の場に出て行き、もっともらしい遺伝子学の演説
を繰り返した。もっともらしいも何も、それは彼の知りうる知識のひけらかし
で、嘘は一切含まれていなかったが、市民はそれにウンウンと頷いた。いくら
コーディネイターが優秀といっても、専門分野の奥深くまでは知る由もないし、
また、なまじ知識を持っているだけに、デュランダルの物言いにさぞ説得力を
感じたものだろう。
 極めつけは、デュランダルがやがては婚姻統制を廃止したいと力強く発言し
たことであった。遺伝子配列の問題から、適合者でないと出生率が著しく悪い
プラントでは婚姻統制をしいている。つまり、良好な遺伝子を持つ者同士が結
婚し、子をなし、世代を拡大していくというものである。この政策は、プラン
トが誕生した過渡期には、まあ受け入れられた。種を増やし、地盤を固めて行
くには仕方のないことだ、と。だが、時代が立つにつれ、プラントも拡大を広
げていくと、異論も起こるものである。
「我々、コーディネイターはナチュラルより優れているというが、プラントで
は愛し合った者同士が結婚することが出来ない。これのどこが優れた存在だと
いうのだ!」
 言ってしまえば、プラントでは恋愛は恋愛、結婚は結婚と割り切らねばなら
ず、上の世代はまだ良いが、若い世代には堪ったものではない。お互いに愛し
合った者同士が結ばれたいと思うのは人として当然のことであり、知りもしな
い人物と、ただ相性がいいからと言うだけの理由で結婚など考えられないよう
になってきたのだ。

29:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:06:33
 その難しい問題を何とかすると、デュランダルは言ってのけたのだ。学会的
にも『DNA解析の権威』と呼ばれる学者議員の男が。
 政治に関心を示さない若い層まで取り込むことに成功したデュランダルの人
気は、もはや歯止めが利かなかった。こうなってくると若さに文句を言ってい
た老輩たちも、デュランダルが極度の穏健派でも、戦闘屋でもないことなど、
何だかんだと理由を付けて、彼を認めざるを得なかった。
 そして、ギルバート・デュランダルは、彼が考えもしなかった最高評議会議
長の椅子を、三十歳を過ぎて僅か1,2年の間に手に入れてしまったのだ。
 まあ、やらせてみようかという単純な理由で。

「先日のテロ事件からも判るとおり、ファントムペインは軍事的にかなり追い
つめられている。我がザフトに対し、一方的な敗北を被り続け、遂に戦闘では
勝ち目なしと判断したのでしょう」
 会議室では、最高評議会評議員の一人が熱心に弁舌を振るっていた。今回の
議題は、軍部から直接持ち込まれた出兵案であった。
「今の地上ザフト軍は、連戦連勝続きで軒並み士気が上がっています。この好
機を逃さずして、いつスエズに攻めるというか!」
 ファントムペインが持つ中東最大の軍事拠点、スエズ基地への侵攻作戦。前
々からそれは決定事項であるはずだった。今はまだ時期を見るべきだろうとし
て先送りにされてきた議題が、先日のテロ事件を期に再浮上してきたのだ。
「だが、新型モビルスーツの量産計画はやっと起動に乗ったばかりだ。せめて、
ある程度の数が揃うまで、待ってみてはどうだ?」
 この発言は、当の新型モビルスーツ計画の責任者であるデュランダルである。
「奴らが追いつめられている、なるほど、それは確かに事実かも知れない。で
あるからこそ、今はこちらから攻めたてるようなことはせず、こちらの軍備を
万全にすれば良いではないか」
 デュランダルとしては、どうせ侵攻作戦を実行するなら、自分の計画した新
型モビルスーツを活躍させたいと思っているので、殊更慎重論を出している。
こうした彼の態度を快く思っていない評議員は意外と多く、
「議長、テロ攻撃の被害にあったのは、他でもない貴方なのですぞ! もっと、
積極的な意見はないのですか!」
 と、声を荒げたくなってしまうのだ。
 だが、デュランダルとしてはそんな報復を前提にした目的で行動を起こすの
も、それこそ血気盛ん過ぎると思っている。そこには、彼の思惑も幾分か含ま
れているわけだが、皮肉なことに今では市民すら、議長は情けないだのと漏ら
しはじめる始末だ。元々、有事の際の最高評議会議長と思われていない節もあ
るためだが、これは少し短絡的すぎるだろう。
「国防委員長は、どう思われるか?」
 評議員の一人が、国防委員長ヘルマン・グルードに意見を求めた。事は軍事
的問題であり、専門家の意見を聞いた方が手っ取り早いと判断したのだろう。
しかし、ヘルマンもまた彼ら主戦派議員たちが好む回答はしなかった。
「私は議長に賛同する。如何にこちらが優勢といっても、その流れいつまで続
くかなど判ったものではない。第一、ザフト軍の不利な面をカバーするために
新型モビルスーツを作ったのだ。それを使用できぬままに戦端を開いて、果た
して正しいと言えるのだろうか」

30:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:09:31
 至極真っ当な意見であったが、それで納得するようならここまで激しい対立
は起こっていない。要するに、主戦派はこれ以上議長に功績を立たせたくない
のだ。誰にも野心があるように、彼らはやがて自分こそが最高評議会議長の座
に着くことを夢見ており、そのためにはここらでデュランダルよりも高く評価
されたい。出兵論が可決され、侵攻作戦が成功すれば、市民は主戦派の見識を
高く評価し、反対していたデュランダルを臆病者と罵り、彼のリーダシップに
疑問を持つようになるだろう。
 そして、戦争に勝利した後、デュランダルは退陣する。理由など、いくらで
も作れるし、本人もそれほど強く議長の椅子に居続けることは望まないはずだ。
その為にも、この出兵論は何としても可決せねばならないのだ。
「ここで勝利すれば戦争は終わります。それをこれ以上先延ばしにする必要は、
何処にもない!」
 賛同の声が上がる。デュランダルは馬鹿馬鹿しそうな目を隠しもせず、自己
の野心に燃える評議員たちを見て肩をすくめた。大体、勝利すれば戦争は終わ
ると言うが、負けたときはどうするのか? デュランダルは政治家であり、軍
人ではないが、気苦労が多いせいか、やたらと後ろ向きなことを考える。ザフ
トが勝利すれば、それこそその後何をしようとこちらの自由で、勝った者の特
権とも言うべき状況が待っているだろう。しかし、政治家はそんなお花畑にど
んな花の種を植えようかなどと言う空想ではなく、負けたとき、自分たちはど
うすればいいのかと言うことを考えなくてはならないはずだ。
 とはいうものの、負けたときのことも考えるべきだなどと発言すれば、当然
非難されるだろう。デュランダルとて、味方の軍隊を信頼していないわけでな
いし、勝って欲しいとは願っているが、必ずしもそれが叶うとは限るまい。
 怒声の混じった論争が繰り返されること四十分。結論を見いだせないまま、
強引に評決が開始された。十二人中、賛成票を投じたのは九人、無効票は一票、
反対はわずか二人だった。しかし、一同が驚いたのは、反対票を投じたのが議
長と、もう一人が国防委員長だったことである。国防委員長は、口では議長に
賛同していたが、元々は好戦的な主戦論者であり、今回も結局は侵攻作戦に賛
成するだろうと誰もが思っていたのだ。
 後にそのことをメディアから質問されたヘルマンは、次のように答えている。
「主戦論者が、常に戦いを推奨するとは限らない。私は議長の慎重論に納得し、
賛同するべきだと思った。だから反対票を投じた」
 この事態に、むしろ賛成票を投じた主戦派議員たちは喜んだだろう。事によ
っては、議長と国防委員長、二つの椅子が空席となるのだ。そして後日、確か
に最高評議会評議員の面々に変化が起こった。それが誰の望む結果へと変貌を
遂げたのかは、まだ誰にも判らない。


 侵攻作戦を可決したのは政治家でも、実戦を指揮するのは軍人である。地球
にあるザフト軍ディオキア基地では、高級軍人による会議が行われることとな
った。出席するのは、この作戦に参加するザフト軍の地上基地司令官と、そこ
に所属する艦隊司令官である。基地司令官職と艦隊司令官職には兼任が多く、
会議の場となるディオキア基地の場合も、基地司令のモラシムが艦隊司令官も
兼任している。だが、中には例外もあり、官僚系のエリートが基地司令を担当
し、実戦は古参の軍人が行う場合もある。ジブラルタル基地がそれだった。
 今回の作戦は、ザフト地上軍が配置される基地のうち、三つの基地が動く。
ジブラルタル、ディオキア、マハムールがそれで、ディオキアが会議の場とし
て選ばれたのは、ジブラルタルとマハムールから、ほぼ等距離にあるからだった。

31:通常の名無しさんの3倍
07/11/01 22:10:29
w

32:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:12:03
 マハムール基地からは副官を連れ、基地司令兼艦隊司令官のヨアヒム・ラド
ルが出席する。彼は少し前、ミネルバ隊と協力してファントムペインのガルナ
ハン基地を攻略した実績を持ち、プラント市民の人気が上昇しつつある男だ。
ディオキア基地からは、モラシムが副官と共に、そしてミネルバ艦長タリア・
グラディスが、副官のアーサー・トラインをともなって席座に着いている。問
題はジブラルタル基地で基地司令官は理由を付けて出席を拒否し、現れたのは
艦隊司令官のウィラードだけであった。
 ウィラードは、ザフト軍がザフトという名である以前から軍服を着ていた男
であり、軍部の最古参と呼ばれる老人だった。年齢で言えば、ザフトのどの軍
人、軍官僚よりも上の宿将で、その戦歴はベテランと呼ばれる者でも、2,3人
では利かない。コーディネイターにしては、良く言えば恰幅がよく、悪く言え
ば肥満体という体つきで、頬も垂れ気味な老人だが、その目つきは鋭く、軍で
は「おっかない親父さん」として知られている。
 一説に寄れば、官僚系エリートの基地司令官と、軍隊からの叩き上げである
ウィラードは余り仲が良くなく、それが今回、ウィラードのみが出席すること
となった原因であるとされている。ウィラードもまた、士官学校を出ていない
自分を必要以上に意識し、そうしたエリートたちに毒づく不平屋でもあるので、
節度を大切にする国防委員会からウケが悪い。
 だが、それでも、ウィラードが前大戦の激戦地、アラスカやヤキンを経験し
たのは事実であり、陸海空、そして宇宙、全ての戦場で指揮を執れる老練な軍
人であることには変わりがなく、むしろ現場としてはそのことの方が重要なの
だった。
「作戦としては、ジブラルタル、ディオキア、マハムールからそれぞれ軍を進
め、三方向からスエズを圧迫、圧倒する、これしかないだろう」
 決められた以上、軍人たちは最善の作戦を立てて実行に移すしかない。モラ
シムは、積極的に意見を出した。彼の作戦は、それぞれの基地から大軍を進め
ることで、スエズを包囲し、完全攻略してしまおうというものだった。仮にス
エズ基地がそれを食い止めようと出撃しても、その圧迫感に押しつぶされてし
まうというのが彼の意見だったが、ラドルが反論を唱えた。
「しかし、我々がいくら敵よりも強大な戦力を有しているといっても、それは
全体を総合すればこそだ。三つの基地から艦隊を進めるにしても、それぞれが
それぞれ、スエズと等距離にあるわけではない。敵がそこを狙って艦隊を進め、
各個撃破を仕掛けてくれば、一溜まりもないだろう」
 確かに、全体を総合すればザフトの参加兵力はスエズ基地のそれを上回るこ
とが出来るだろう。しかし、個々の基地から出撃する艦隊で計算すれば、スエ
ズの戦力の方が多いのは事実だ。さらに、それぞれの基地の兵力はまちまちで
あり、均整が取れていない。
「むしろ、ジブラルタルとディオキアの艦隊は一旦どこかで合流し、それから
進軍してはどうだろうか」
 形としては正論で、アーサーなどはなるほどと声を漏らしながら納得したが、
モラシムはどうやら別の意味合いを感じたようで、
「我々が合流する間に、単身スエズへと攻め入り、光を独り占めするつもりで
はあるまいな?」
「何だと!」
 このいわれように、ラドルは席を蹴って立ちあがる。
「慎重論を唱えただけでその仰りよう、撤回していただきたい!」
「撤回するのはそちらだ! 貴様、俺の艦隊が単独では敵に後れを取るという
か!」

33:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:14:20
 ラドルもモラシムも、決して人間的には劣悪ではない。完璧な人格者ではな
いにしろ、どちらも部下から好かれ、公明正大といわれることもあった。だが、
この時のモラシムはどこか焦っていた。
「敵艦隊が来ようともそんなもの蹴散らしてしまえばいいだけの話だ。何を躊
躇することがある」
 モラシムは必死だった。彼は前大戦中こそ輝かしい武勲を持っていたが、そ
の末期は病院のベッドで過ごすという不名誉を預かっていた。復帰してからは
新兵の教育や、新築された基地の整備などに追われ、武勲を立てる機会は一度
もなかった。それどころか、先日、ファントムペインのテロ攻撃を防ぐことも
出来ず、彼の面子とプライドは痛く傷ついた。
 そんな感情に左右されてか、既に敵基地を攻略するという武勲をミネルバと
分かち合ったラドルに対し、モラシムは軽い妬みを憶えていたのだ。一方的な
ものであったが、武勲は羨望や嫉妬の対象であることを知っていたラドルは、
必要以上に自分が激発しては話が拗れると思い、他者に救いを求めた。
「ウィラード隊長は、どう思われますか」
 愉快そうに若輩者の言い争いを見ていた老提督は、意見を求められ、顔つき
を変えた。
「実のところ、ジブラルタルは全軍挙って出撃というわけにはいかんのでな。
確かに、ラドル隊長の言うように、各個撃破戦法を取られれば、まあ、負けは
せずとも苦戦は強いられるだろう」
 負けはしない、飄々とだが言い切るのがこの老人の食えないところだ。
 ジブラルタル基地は、ファントムペイン最大の軍事拠点であるアイスランド
のヘブンズベースに最も近く、小競り合いを行うことも少なくない。ここで、
スエズの攻略のために艦隊を全て出撃させたとして、ファントムペイン最大兵
力にして戦力であるヘブンズベースが、ジブラルタルに軍を送り込んだらどう
なるか?
「基地に残す戦力を考えれるば、それほど多くはだせんのだ。申し上げにくい
が、うちの基地司令官は腰抜け、いや、ちと小心者なのでな」
 冴える毒舌に、場の士官たちが苦笑気味にざわめく。
「両隊長の意見はもっともだが、一口に合流するといってもそう簡単なもので
はない。例えば、ペロポネソスやクレタ辺りで合流するとして、敵が黙ってい
るとも限らん」
 つまり、ファントムペインが合流を阻んでくる可能性が高いというのだ。何
せ、ジブラルタル艦隊がスエズまで赴くとなると、それ相応の日数が掛かる。
アルボラン海から地中海へ入り、サルデーニャ海を横目に見つつ、シチリアと
マルタの間を通る。そこからスルト湾方面に行き、陸地沿って進むか、イオニ
ア海に入るかは判らないが、とにかく時間が掛かるのだ。
 そうした間に、ファントムペインがディオキア艦隊と戦闘を開いたらどうな
るか? もしくは、ディオキア艦隊などには目もくれず、ジブラルタル艦隊に
殺到すれば……
「いずれにしろ、そう有利な戦法というわけでもないのだから、まあ慎重にい
くべきだろうて」

34:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:16:21
 逆にいえば、そう不利な条件ばかりではない。例えば、ファントムペインが、
ディオキア艦隊と交戦を交えたとして、モラシムが防御を固めて応戦したとす
る。これによってファントムペインはすぐに敵を倒すという事が出来なくなり、
時間は過ぎる一方だ。その間にジブラルタル艦隊が進軍し、側面なり後背から
攻撃を仕掛ければ、ファントムペインは一溜まりもないだろう。逆にジブラル
タル艦隊に攻撃を仕掛けてきたところで、それは同じ事だ。
「我らも敵も、まあそう選択肢は多くないのさ」
 選択肢が少ないということは、それだけ立てられる戦略が多くないという意
味で、こうなってくると戦術の方を重視せざるを得ない。だが、戦術というの
はいざ戦闘が始まらないと使いにくいものだから、この際は置いて置くしかな
い。
 結局、会議はそれぞれの艦隊の出発日程の日取りと、動員兵力の細かい部分
を詰めるだけで終わった。何としても武勲を立てたいモラシムの魂胆は見え透
いていたが、同じ軍人として判らないでもない気持ちだったので、誰も何もい
わなかった。
「ミネルバは、ディオキア基地の分艦隊を率いて、先陣として出撃して貰う」
 決定された重要事項で、誰もが意外に思ったのはミネルバの立ち位置である。
確かにミネルバは艦隊を率いるに相応しい武勲と戦果の持ち主だが、先陣とい
うのは思い切ったことだ。先陣は武人の誉れなどといわれるように、重要で名
誉ある位置所なのだ。そこにミネルバとは……
「まあ、ミネルバは足自慢という話だし、当然だろう」
 ウィラードが事も無げに呟き、周囲は納得せざるを得なかった。ザフトは勝
たねばならないのだ。そして、勝つためにはあらゆる努力と、計算をしなくて
はならない。純軍事的に見てミネルバの行動力と、攻撃力は目を見張るものが
あり、先陣切って敵と戦う力を持っている。
 その評価は、タリアを満足させるに十分であり、かくして、ミネルバが先鋒
として出撃することが決定した。

 艦に戻ったタリアとアーサーはクルーを集めブリーフィングを開くと、今日
の会議で決まったことを各自に説明した。
「つまり、行き当たりばったりってことですか」
 作戦内容を聞いたハイネの感想が、これだった。三つの基地から出撃した艦
隊が三方向から殺到し敵の基地を攻略する。なるほど、確かに成功すれば壮麗
で華麗、見栄えのいい作戦だろう。だがそれは、敵がこちらの思惑やら誘いや
らに乗って嵌ったくれたときのことだ。ハイネは、これぐらいの作戦なら自分
程度の戦略思想を持ってしても看破できると思っていた。
「第一、敵基地と艦隊をくっつけて考えるからいけないんだ。敵艦隊と戦うに
しても、例えばディオキア艦隊で引きつけて、エーゲ海のダータネルス海峡辺
りを主戦場にするとする。あの狭い海峡なら敵は大兵力を展開しづらいし、そ
の間にジブラルタル艦隊に後輩を攻めさせれば、かなり勝率派があるはずだ。
基地の方はこの際、マハムールの陸上艦隊に任せても良いんだから」
 ブリーフィング後に、ハイネは自分の意見をオデルに語って聞かせた。その
声には幾分かの呆れが混じっていた。
「確かに……だが、副長の話を聞く限りでは、どうもここの基地司令官が進撃
攻略を熱心に説いていたらしいな」

35:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:18:20
「そんなに面子が大事かねぇ。いや、人によっては命よりも大事だっていうが
……やだね、そういう奴の下で働く身にもなって見ろよ」
 このところ、ハイネは出撃の準備に追われて、アスランへの内部調査が出来
ない日々が続いている。後少しで、憲兵を動かせるだけの資料が揃えられそう
なのだが、この時ハイネは迷っていた。
「この戦いは地上では最大規模といっていい大会戦になる……悔しいがアスラ
ンの実力は必要だ」
 一騎当千というほどではないにしろ、アスラン・ザラとその愛機であるジャ
スティスという戦力は、今のザフトにとって軽視できないものだ。アスランに
後ろ暗いところがあるにせよ、せめてこの戦いが終わってからでも、告発は遅
くはないはずだ。ハイネはそう考え、確かにそれは正しかった。
 この時は、正しいと思っていた。


 一方、来る侵攻に備えているのがファントムペインである。スエズ基地から
の報告で、敵がスエズ攻略を企てていることを悟ったファントムペインだった
が、その足並みは容易に揃わなかった。
 ネオ・ロアノーク大佐と、盟主ロード・ジブリールの間で激しい対立が生じ
ていたのだ。
「でしゃばりが勝手なことをしたばかりに、敵の侵攻作戦が早まってしまった
ではないか!」
 事の理由は先日のテロ事件であり、ネオが独自に部隊を編成し、行わせたこ
とが内部調査により発覚したのだ。ジブリールは案の定激怒し、ネオに制裁を
加えてやるつもりだった。
「殺せたのならまだしも、デュランダルもラクス・クラインも無事で、我らに
は何一つ良いことがない。それもこれも、奴が余計なことをしたからだ」
 結果としてその通りであり、ネオは何も反論が出来なかった。一応、言い分
があるにはあるが、まさか別のテロリストが現れて作戦を邪魔したために出来
ませんでしたなどと言えるわけもなかった。
 このままネオが処刑されて終わりだろうかとも思われた事件だったが、彼の
功績と人望を考慮し、またザフトの進行を対処するには彼の能力が必要である
という訴えにより、譴責で済まされることとなった。普通、この程度の処罰で
済むのはあり得ないことであり、ネオとしてはザフトに救われた形となった。
「来るなら来るで、返り討ちにすれば良いだけのことだ。皆、何か意見はある
か?」
 あくまで戦う姿勢を崩さないジブリールに、半ば諦めたようにネオが意見を
出した。
「敵が三方向から攻めてくる、それが既定事実だというのなら、何もこちらは
黙ってそれを見ている必要はありません。スエズ艦隊を結集し、各個撃破を狙
うべきでしょう」
 それはザフトが危惧した戦法そのものであったが、ネオとしてはこれ以外に
敵の侵攻を阻む手段はないと思っている。スエズの周囲にはおよそ有利となる
地形など存在せず、戦力が敵より少ないスエズ艦隊では迎え撃つなどというこ
とは不可能だ。ならば、積極的に攻めていくしかない。
「例えば、距離的にも真っ先に地中海へと現れるディオキア艦隊に艦隊の全て
を叩き付け、これを壊滅。そして、後に現れるジブラルタル艦隊を何処かで待
ち伏せ、奇襲を狙うのです」

36:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/01 22:20:09
 ネオが予想外だったのは、ザフトが陸上戦力も投入してきたことである。海
上艦隊だけなら、今言ったような時間差攻撃で対処が可能だが、あまり海上だ
けに気を取られていると、陸地から攻め込む敵に基地を落とされてしまう。
「スエズの陸上部隊は基地の堅守を絶対とし、防戦に努めます。敵の攻撃を防
ぎつつ、味方艦隊の帰還を待てば……」
「ザフト軍は全滅する、というわけか」
 ネオの作戦を理解する辺り、ジブリールは決して用兵に無知ではない。だが、
その声はネオに対して甚だ非好意的だった。
「いえ、もっと有効な作戦がありますぞ」
 ネオの作戦案を聴き終わった直後、そう発言したものがいる。
 ホアキン隊隊長の、ホアキン中佐だった。近頃、この男はネオへの対立意識
を剥き出しにしている。
「ほぅ、それはどういうものか」
 興味深そうにジブリールが尋ねる。彼もまた、ネオに良い感情を持っていな
いので、ネオの作戦より良い作戦があるのなら、そっちを採用するつもりだっ
た。このままネオの作戦を採用したとして、失敗したときは今度こそネオを処
罰すればいいが、成功すれば評価し昇進させねばならないだろう。
「ロアノーク大佐の作戦よりも、簡単で、こちらが指したる苦労を強いること
なく、敵を倒すことが出来る作戦です」
 ホアキンの自信ありげな顔に、ネオは彼が何を言い出すのか、全く予想が付
かなかった。ネオはホアキンより確実に優れた戦略家で、戦術家であったが、
この時は明確なまでに感性の違いが出たと言える。
「多少、時間は掛かるやもしれませんが……」
 そのように前置きをして、ホアキンは作戦内容を語りはじめた。やがて、そ
れを聞くファントムペインの幹部たちの間に驚愕が走り始める。

「馬鹿な、そんな作戦出来るわけがない!」
 説明後、真っ先に異を唱えたのはネオだった。彼に珍しい大声は、ホアキン
の作戦への嫌悪感に染まっていた。
「こんなものは、まともな戦闘じゃない。どうかしている」
「おや、まともな戦闘を避け、テロ行為を実行なさったロアノーク大佐の物言
いとは、とても思えませんな」
 怒声の混じった激しい口論が十分ほど続き、要領の得ないままに終わるのか
と思われたとき、ジブリールが口を開いた。
「良いだろう。ここはホアキン中佐の作戦を採用する」
「盟主、お考え直し下さい! この作戦は、自分で自分の首を絞めるようなも
の。よしんば敵を倒すことが出来たとしても、我々ファントムペインは……」
「ロアノーク大佐、名より実を取る、という言葉があるだろう? 今回は正に
それだ」
 それは、詭弁だ! ネオは叫びたかったが、今の自分にはどうしようもない
ことを悟っていた。元々、ジブリールは、ブルーコスモスの一員であるホアキ
ンを重用する傾向があるし、テロ事件で彼の不孝を被ったネオでは説得の使用
もなかった。
 会議が終わり、官舎へと戻る最中、ネオは苛立たしげに呟いた。
「俺も、そろそろ考えるべきかも知れないな」


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