07/11/12 00:04:41
『タリア・グラディス隊長か……』
スクリーンに映ったラドルは、いささか以上にやつれていた。精悍だったは
ずの顔には、そんな面影がキレイに消え去ってしまったようだ。タリアは敢え
てそのことには何も言わず、ハイネが到達した答えを差も自分で思い当たった
ように説明し、撤退することを進めた。
『しかし、撤退などしてそれこそ敵の侵攻を誘うものではないのか?』
「ラドル隊長、撤退は物資の残りがあるときに行わねば意味がありません。物
資があれば、敵が攻めてきても戦うことは可能ですが、なくなればそれも出来
なくなるのです」
ハイネの受け売り意見ではあったが、ラドルを納得させ、説得するには十分
すぎるほどだったようだ。
『各地に分散した部隊を結集して、すぐに撤退するとしよう。どうも貴官の意
見に間違いが見つけられそうにない』
こうしてラドルは早急に撤退準備に取りかかった。一方、海上のモラシム艦
隊はタリアから打診されたウィラードが、長距離通信の回線を繋ぎ、撤退案を
進めていた。
『ワシはあの女史の意見に賛成する。貴官とて、食力も為しに戦うことなどで
きんだろう?』
「しかし、一戦もせず、戦わずして退くなど……」
もしこの通信を送ってきたのがタリアならば、モラシムは怒声を持ってはね
除けただろう。が、相手がザフトの宿将ともなれば話は別で、モラシムはしど
ろもどろな意見を言う羽目になった。
『貴官、いい加減にしろよ! 貴官一人の欲がままに、他の兵士を犠牲にする
つもりか!』
撤退を拒むモラシムに対し、遂にウィラードが怒声を放った。おっかない親
父さんどころではない、子供が聞けば100人中100人が泣き出し、大人が聞けば
すっ飛んで逃げ出すような剣幕と迫力があった。
「判りました……撤退します」
情けなさそうな顔をしながら、モラシムは頷くしなかったという。
「何とか間に合いそうね」
折角占拠したスエズ基地を引き払う準備を進めるミネルバだったが、タリア
の顔は何処か明るい。ハイネに乗せられた形とはいえ、この手柄は紛れもなく
自分のものとなるのだ。
「艦長、ミネルバの発進が整いましたよ」
事務処理に追われるアーサーの代わりに、ハイネが伝えに来た。
「えぇ、もう少しで撤収作業も終わるわね。まったく、戦闘もしてないのに、
どっと疲れたわ」
形としては、ファントムペインにいいように振り回された形となる。後方の
タリアでさえこれなのだから、ラドルやモラシムが抱える失望感は相当なもの
だろう。
「艦長、本国の統合作戦方部より通信文が届きました!」
オペレーターのメイリンが、声を上げて報告してきた。
「通信文? 何かしら」
勝手に撤退を進めている事への苦情だろうか? いや、撤退自体はまだ知ら
せていないし、第一戦場での行動権は一手以上のものなら現場指揮官が持って
いる。撤退の判断も、指揮官の裁量次第のはずだ。
101:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/12 00:08:47
では、この通信は?
「何々……あら、何を今更って内容ね」
「どうしたんです?」
ハイネが訝しげに尋ねる。
「本国が、補給物資を積み込んだ部隊を発進させたそうよ。明日ぐらいには地
球の各基地に届くからって。今更遅い話よ」
だが、この物資が届けば、基地に帰り着いたザフト軍が食いっぱぐれること
はなくなるだろう。そう考えれば、当面は安心しても良いはずだった。
しかし、それを聞いたハイネの顔が著しく険しいものとなった。
「まずい、これはまさか」
ハイネは、冷や汗を流していた。
「それは本当ですか?」
結局、ロッシェが国防委員長であるヘルマンと面会できたのは彼が連絡を入
れてから数日後だった。最高評議会の閣議が続いたことなどが主な原因で、火
急の用件と言っても聞き入れられなかったロッシェは不満を憶えていた。
「あぁ、既に補給部隊の第一陣は物資を大量に積み込んでプラントを出発した。
そろそろ地球圏軌道にさしかかってもいい頃だと思うが?」
ヘルマンは突然尋ねてきた珍客ともいうべき男に、疑問を憶えずにはいれな
かった。ロッシェ・ナトゥーノ、決して知らない男ではない。いつだったか、
ラクス・クラインの地球における護衛役を決める話が持ち上がったときに知り
合った。その優美な容姿と、卓越された実力は忘れようはずもない。
「遅かったか」
そのロッシェが、誠に奇妙なことにザフトの補給計画はどうなっているのか
と尋ねてきたのだ。作戦内容は軍事機密ではあるが、相手はザフト軍人、しか
も特務隊であるし、ヘルマンは特別にそれを教えたのだが……
「それで、護衛は何隻ついているのですか?」
「護衛?」
ヘルマンは資料を探し出し、補給部隊に付けられた護衛艦の数を調べた。
「戦艦が三隻、モビルスーツが12機となっているが……」
「たった三隻、それじゃ少なすぎる。すぐに補給部隊を引き返させるんです!」
「引き返す? おい、話が見えてこない。一体どういうことだ」
その時、ヘルマンのデスクの上にある通信機器が音を立てて鳴り響いた。ヘ
ルマンは困惑したように、それを取る。
「ヘルマンだ……あぁ、そうだ。それで? あぁ……なにっ!?」
ロッシェには、その連絡の内容にある程度予想が付いていた。やがてヘルマ
ンは機器の受話器を置くと、蒼白となった顔をロッシェに向けた。
「補給部隊が、全滅したそうだ」
「……そうですか」
「ファントムペインの月基地から出撃したであろう、五十隻以上の艦隊に襲撃
され、一溜まりもなかったと、報告が来た」
意気消沈するように、ヘルマンはソファへと沈み込んだ。ロッシェは敢えて、
何も言わなかった。
そう、ファントムペインによる大反撃が開始されたのだ。
つづく
102:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 00:09:52
今回は銀英伝でしたね
103:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
07/11/12 00:11:26
第38話です。
規制になったと思ったら、割りとすぐ解け、少し投下したらまた規制、
と思ったら5分と立たずに解け、何か変な感じでした。
支援して下さった方、ありがとうございます。
やっぱり、長すぎるとこんな風に途切れ途切れになってしまうんですかね。
規制時間や規制になるレス数がランダムだと、さすがにちょっと困りますね。
今回の話は……オマージュと言うことにしておいて欲しいです。
104:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 00:15:50
乙です。
銀英伝なんか高校のときに読んだきりだから記憶のはるか彼方だ……
105:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 00:18:11
乙だぜ
106:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 00:19:05
なに
銀英伝も元ネタあるしな
無名時代の銀英伝パクって小説書いたプロ脚本家もいるし
107:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 00:39:32
乙。
銀英伝つーか、ソロモン海の消耗戦での米海軍の戦略ですな。
108:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 00:39:41
民衆を盾に取った焦土作戦というのは、唾棄すべきやり口だが有効な
常套手段であるのも事実だからなあ。
身体能力に驕ったコーディネイターが戦略というか古来の兵法の研究が
疎かだったという傍証にもなるかな。
109:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 00:44:24
そして孤立したザフト軍はガダルカナル島みたく餓死していくかソロモンみたく自給自足するか、だな。
110:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 00:53:20
「畜生、生きて帰れたら最高評議会の委員どもを皆殺しにしてやる!
やつらは今頃パーティーでキャビアでもつまんでやがるに違いないんだ!!」
111:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 01:44:21
まあ、この作品の銀英伝臭は毎度のことだし。
それよりも銀英伝にはほとんどない大気圏内外の攻防戦と、全くない単騎の戦闘機によるヒロイック・サーガが繰り広げられるであろう続きを待とうじゃないか。
112:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 02:01:53
アスラン、ふと笑みを漏らしていたところを見ると
敵の意図を早々と気付いていたんかね?
113:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 03:14:23
放置してナチュラルとコーディの対立を煽ろうとしたのかな
114:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 04:54:04
ザフトも疲弊させるつもりだからな
ここでそうしようと思ったんじゃないか
115:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 08:55:58
>>112
そうだろうね。
ここのアスランは頭がいい上に腹黒いし。
いやー、順調にいい感じのラスボスに育ってるなー。
AC製ガンダムに乗って戦うのかね、最後は。
116:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 11:44:53
やっぱりスコーピオに乗るんじゃないか?赤いし
ところでジェミナスとスコーピオってどっちのほうが強いのだろうか?
117:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 19:12:46
投稿乙!!
ザフト軍上層部それぞれの思惑、動きを見せないことが逆に不気味なファントムペイン。
ハイネ、アスラン、など原作以上にキャラが立っていて良い、そして我らが主人公シン・アス……あれ居たっけ?WWW
118:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 20:00:39
シンちゃんが空気化するあたり原作どおりだな
119:通常の名無しさんの3倍
07/11/12 23:50:43
だからこそ、シンが主役なW-DESTINYを待っている。
120:通常の名無しさんの3倍
07/11/13 00:17:35
シンはたまに登場すると精神ダメージを負ってる感じ。
121:通常の名無しさんの3倍
07/11/13 00:22:47
シンシンうるせー
122:通常の名無しさんの3倍
07/11/13 00:23:48
キラに至っては最後に登場したのいつだっけ状態