テイルズの世界にシンが行ったら…Lv2at SHAR
テイルズの世界にシンが行ったら…Lv2 - 暇つぶし2ch101: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/12 16:10:48
またまたどもー。
うーん、何回読んでも、って言うのは嬉しいですねえ。
キャラクターの苦境、悲しみ、そして仲間という存在のありがたさ。
そういうことを読者の方々にも伝えることが出来て作者冥利に尽きます。

では、投下します。

102: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/12 16:11:58
24 戦火の世界へ

リアラの力で4人はナナリーの夢の世界へと足を踏み入れた。
どうやらここはホープタウンらしい。だが、あの茹だるような暑さが感じられない。夢の世界だからだろう、とリアラは言った。
「ナナリーのつらい記憶って、やっぱり弟さんのことかしら……。」
「多分そうだろうな。まあ、俺の記憶見ただろうからわかるけど、家族亡くすのって辛いからな。俺もそのネタでやられたし……。」
「へっ、どうせあいつのことだ。男に振られたとか、そんなとこだろうよ。あの凶暴な性格じゃどうしようねえっつうの。」
毒づくロニの目は、どう見てもナナリーのことが心配でたまらない、と言わんばかりの色をしていた。
無理をしている。恥ずかし紛れに言っているようにしか聞こえない。シンはナナリーのことを全てロニに一任することにした。
シンにもわかっていた。この二人がお互いに意識しあっており、わざわざお互い嫌っているような態度をとっているのはそれを誤魔化すためだと。
そして、ロニは本当にナナリーのことを理解しているはずだ。彼女にとって何が本当の望みなのか、何が本当の幸せなのかを。
自分にとっての理解者が仲間全員であるように、ナナリーのことを本当に理解してあげられるのは、ロニだけだ。
「さあて、ナナリーのやつをさっさとたたき起こしちまおう。」
「ロニ、やっぱりナナリーのことが心配なんだ。」
「あははは、俺もそうじゃないかと思ってたんだ。」
「ツンデレ、だな。まったく、俺たちの仲間は素直じゃない連中ばっかりだ。」
「やかましい!いいから行くぞ!」
照れ隠しのつもりか、ロニは声を張り上げてホープタウンの奥へと向かって行ってしまった。
「はいはい、行きましょ。」
リアラもおかしそうにそう言い、そして、3人は顔を引き締めた。ここは夢幻の世界である。エルレインの手によって作り出されたものだ。
ナナリーを何としても解放しなくてはならない。笑っていられない。特にシンはそうだ。
おそらくこの夢から脱却するためには、自分と同じように心の古傷を抉らなければならない。そして、それはナナリーを深く傷つけることになる。
無意味な世界から助け出すためとはいえ、仲間を傷つけるのは気分のいいことではない。しかし、シンはつい先ほどカイルたちに言われたことを思い出していた。

「シン、シンは確かに作り物かもしれない!けど、俺たちを助けてくれたのはここにいるシンなんだ!シンが本物であろうと作り物であろうと、俺たちはここにいるシンが好きなんだ!」
「そうだぜ、俺たちにとっちゃお前がシンなんだ。本物偽物関係ねえ。それでも拘ったってな、お前は今生きてるんだよ!」
「そうよ、あなたは今を生きてる。私たちと同じように。だから、私たちと一緒に歩きましょう。ね?」

こんな言葉を自分がかけられるとは思えない。だが、できる限りのことはしたいと思う。そう、しなくてはならないのだ。
ナナリーはまもなく見つかった。何かいいことがあったのか、うれしそうだ。
「あ、カイル、リアラ、ロニ、シン!ちょうどいいところに来てくれたね!ちょっと付き合っておくれよ。」
「ん、どうしたんだ?何かあったのか?」
「ここのところ豊作続きでさ、食べ物が余っちまって大変なんだよ。だからさ、みんなも一緒に食べようよ。あたしが料理するからさ。」
ホープタウン周辺は砂漠地帯だ。わずかな水と痩せた土地で、そうそう豊作などあるわけがない。これもエルレインが見せている夢、ということなのだろう。
「しかし、そんなに豊作続きなら、今頃墓の前はもう凄いことになってるんだろうな?」
ロニはナナリーの行動パターンを把握していた。いいことがあったとき、食料が手に入ったとき、いつもルーの墓に報告に行く。特に食料が手に入ったときは必ずいくらか供えていた。
しかし、ナナリーは怪訝そうに言う。
「墓?墓ってなんのことだい?」

103: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/12 16:13:38
「お、おい、お前の弟の墓だよ。」
「何言ってんだい。ルーなら……。」
彼女の後ろから誰かがナナリーに近づいてくる。ほんの5歳かそこらにしか見えない男の子だ。ナナリーと同じように、燃えるような赤い髪をしている。
着ている服は傷んではいたが、その体から元気があふれている。
「ナナリーお姉ちゃん、ご飯!お腹すいたよぉ。」
「はいはい、すぐ準備するからね。待っててルー。」
シンは気づいた。エルレインはナナリーに自分にしたのと同じことをしているのだ、と。幸せな生活環境と、自分の選択で失った弟をナナリーに見せている。
あまりにも悲しい光景だ。そこには存在しないものを本物だと信じる彼女が哀れでならなかった。
「な、何でルーが生きてるんだ?」
「ロニ、しっかりしとくれよ。さあ、うちに行こう。ごはんにしようよ。」
ロニは自分が泣きそうになっているのを感じていた。シンと同様、やはり彼もナナリーが哀れでならなかった。そして、悲しかった。
「ナナリー、こっちに来い!」
彼は少々手荒にナナリーの手を掴み、オアシスの方へと向かう。正確には、オアシスの畔にある墓地へだ。
カイルたちはロニの後を追いはしたが、シンの提案で少し離れた位置から見守ることにした。
ナナリーの表情は最初、驚いたものであったが、墓地が近づくにつれて苦しそうなものへと遷移していった。
「ちょ、ちょっとロニ、何なのさ。あたしはここに来るのは好きじゃないんだ。なんかこう、胸が苦しくなるんだよ。」
墓地の入り口にナナリーを連れてきたロニは、真剣な表情で彼女の目を見ながら口を開いた。
「いいか、ナナリー。そこにいるルーは偽者だ。本当のルーはもう死んでるんだ!」
「お姉ちゃん、僕、死んでないよ!」
姉の危機に感づいたのか、ルーはナナリーの後ろから腰に抱きついて言う。それはナナリーの持つ、弟への想いが反映されたものでもある。
しかし、ロニは自分が泣きそうになるのを堪え、声を張り上げる。
「お前が弟死んだって俺に教えてくれたとき、お前は言ってたよ、あの時アタモニのとこで頭下げてたら助かったかも知れねえって。」
「あう……っ……頭が……痛い……!」
「お姉ちゃん、僕はここにいるよ、お姉ちゃん!」
頭痛に苛まれるナナリーの中で葛藤が巻き起こる。ロニの言っていることは信じられない。弟は現にここにいる。しかし、普段はちゃらんぽらんでろくでなしでしかないロニが、ここまで真剣に言っている。
何が本当のことなのかわからない。
「お前がお前の選択で後悔したのも知ってる。それこそ死ぬほど後悔したってこと、俺は知ってる!」
「お姉ちゃん!僕は生きてるよ!」
「そうだよ、ルー……ルーは死んでなんか……。」
ロニはナナリーが痛がるだろうほどに、彼女の両肩を掴み、一際声を張り上げた。
この夢から連れ出すことは痛みを伴う。だが、ロニはナナリーに現実を生きてほしいと思っている。そして、そのためにナナリーのために全力を尽くしたい。
「けど、これがお前の望んだことなのか!?本当にお前はこんなものがほしかったのか!?そうじゃねえだろうが!死んだ弟からお前が受け取った大切なもの、たくさんあるだろうが!そいつを忘れてて、いいわけねえだろおおおおっ!」
ロニの絶叫が、ナナリーの心を震わせた。彼女はふらふらと、自分の本能の赴くままに墓地の中に入り、ある墓の前に座り込んだ。
それは、いつも楽しいことがあったとき、食料が手に入ったときに話しに行く、ルーの墓だった。
「『ルー、ここに眠る』……。」
ナナリーはこみ上げてくる悲しみを堪え、墓所の入り口に置き去りにしてきたルーの下へと戻る。
「お姉ちゃん、僕……。」

104: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/12 16:14:59
「ルー、あたし、大事なこと忘れてた。あたしはいつもルーと一緒にここに来て、死ぬまで意味のある人生を送らせてあげたと思ってた。」
「おねえ……ちゃん……。」
ルーが泣いている。しかし、このルーはルーではない。自分が作り上げた幻なのだ。ナナリーは悲しさを抑えきれなくなった。
「でも、心のどこかでルーが生きてたらって思ってた。それのせいでこんなことに……。幻見せられて姉ちゃん、満足しちゃって……。」
ナナリーの瞳から、一筋の涙が零れる。シン以上に気丈な彼女が見せた、初めての涙だ。
「けど、それももうおしまい。だから…………ばいばい、ルー……!」
ルーの姿が光の粒子へと変わり、そして、それは分散して消え去った。ルーはもう、この世にはいない。ナナリーはそれを改めて思い知らされた。
「ナナリー……。」
ロニが背後からそっと、ナナリーの肩に手をかけた。ロニは涙こそ流さなかったが、ナナリーのことを想っているのか目が充血している。
「泣きたいなら泣けよ、顔、隠しといてやるから。」
彼はナナリーの前に回りこんで顔を自分の胸に押し付け、そっと彼女の頭を抱いた。
「ロニ……うあ……ぁぁぁあああああああっ……!」
「辛かったな……けど、俺たちがついてる。それにお前が本当に望むものを知ってる。だから、大丈夫だ。」
ロニの優しさがナナリーの心を癒していく。ナナリーが段々と落ち着いていくのが、シンにはわかった。
普段はいい加減に見えるロニ。だが、今のシンには彼の本当の姿を垣間見ることができた、そんな感覚が心にあった。

ナナリーが元の落ち着きを取り戻したのを確認してから、ジューダスの夢の世界へと向かった。
ロニとナナリーのやり取りは、普段のものへと戻りつつあった。
「しっかし、お前にも女らしいところあったんだな。ふんふん……。」
「何ニヤニヤしてんのさ。気持ち悪い。」
「いや、今のお前なら適当なこと言っといたら落とせそうかなって思ってよ。それからゆっくり女らしいところ引き出して俺好みの……って馬鹿ああああああ!」
ナナリーの対ロニ専用格闘術、コブラツイストが炸裂する。ナナリーは先ほどの悲しそうな顔はどこへやら、いつも通りの表情である。
「誰があんた好みの女になるか!というかなってたまるか!このドスケベがああああああ!」
「ぐっ、ぐるじぃ……!」
シンは思う。ロニがわざわざこんな刺激を与えたのは、ナナリーの元気を取り戻すためではないか。いつも通りの調子を復活させるために、わざわざ犠牲になったのではないのか、と。しかし。
「この凶暴女!いい加減にしろ……ってああああああ、いやああああああ!」
この態度である。シンは思い過ごしか、と左手で頭を擦った。
「それにしても、ここはどこだろう?」
そこは暗い洞穴だった。海が近いのか、波の音が聞こえる。夢の世界であっても暗く冷たい空気がシンの頬に触れる。
工場跡か何かなのか、何かの資材と思われるものや、エレベータが設置されている。
ジューダスの記憶の世界、ということはおそらくはリオン・マグナスの頃のものだろう。そして、この雰囲気とエルレインに対して反逆したことを考えると、おそらくは悪夢の方を見せられていることだろう。
ジューダスは石筍が立ち並ぶ鍾乳洞の床に座り込んでいた。手には普段からモンスターなどを屠るために振るわれる剣、シャルティエがある。
「シャル……僕たちの悪夢はいつもここから始まるな……。」
ジューダスはカイルたちに気づかなかったらしい。そして、そのままジューダスの夢の空間が、彼の記憶を再生する場へと変化していった。

仮面のないジューダス、いや、リオン・マグナスは銀灰色の髪の、どこか冷たい印象を持つ壮年の男に指示を受けているようだった。しかし、その指示のされ方が妙だった。
黒い髪で優しげな面立ちのメイドが、銀髪の男の左腕で拘束されている。そして、指示というよりも脅迫のように聞こえる。
「いいか、リオン。失敗は許さんぞ。もし失敗すればこのマリアンがどうなるか……。」
シンの知識が正しければ、この銀髪の男はヒューゴ・ジルクリスト、つまりオベロン社の総帥であるはずだ。
「やめてくれ!それだけは!」

105: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/12 16:16:00
「お前のマリアンを見る目が尋常ではないことくらい、私にはお見通しだ。哀れなやつだ、私の女に想いを寄せるとはな。」
「くっ……!」
マリアンと呼ばれたメイドは、泣き叫ぶようにリオンに言った。それは命乞いなどではない。リオンを助けようとしてのものだった。
「エミリオ!私のことはどうでもいいのよ!だから……!」
「少し静かにしろ!」
ヒューゴはマリアンの鳩尾に右手の拳をめり込ませ、気絶させた。
「マリアン!」
「お前は自分の役割を果たせ。いいな!」
灰色の髪の男は近くにあるエレベータに乗り込み、地上へと向かう。そこに長い金髪を振り乱しながら白い鎧の男が駆けてくる。
「あれは……父さん!」
カイルがそう言った。そして、その後ろから若かりし頃のルーティ、フィリア、ウッドロウが続く。
「リオン!リオンじゃないか!そこをどいてくれ!俺たちはヒューゴを追って……。」
「そして僕はお前たちを阻むためにここにいる。ここを通りたければ僕を倒してから行け。」
リオンは決然とそう言った。
「なっ、あんた、自分が何を言ってるかわかってんの!?あいつをほっといたら世界がやばいっての!」
自分と同じ黒い髪を持つルーティが叫ぶも、リオンは動じなかった。
「それがどうした。僕は大事なものを守るためにここにいる。家族よりも何よりも大事なものをな。」
「どういう意味だ、それは。」
ウッドロウの問いに、リオンは答える。
「僕は孤独だった。ずっと一人だった。だが、その僕の孤独を癒してくれたシャル、そしてマリアンを僕は守る。父であるヒューゴよりも、僕の姉より、ずっと大事なものだ。」
シンにはリオンが普通の育ち方をしていないことが、よくわかった。自分と同じように孤独を胸に生きてきたのだ。しかし、リオンと自分とでは決定的な違いがある。
シンの場合は家族と死に別れたのだが、リオンは父親に育てられていながら父親を父親として見ることを許されなかったのだ。その孤独は自分のものよりもはるかに大きいのだろう。
そして、その中で差し伸べられたものを、なんとしても守りたい。それは自分も同じだった。リオンの気持ちがよくわかる。
シンはそれを感じ取っていた。
「……ヒューゴがお父さん!?それに、お姉さん?それはいったい……?いったい、誰のことを言っているのです!」
そう叫んだフィリアだったが、この光景を見ているシンにはその姉に思い当たる人物がすぐ近くにいることを感じているように見えた。そして、それを裏付けることを彼は吐き出す。
「僕の本当の名前はエミリオ・カトレット。そうさ、僕はそこのルーティ・カトレットの実の弟さ!さあ、姉さん、僕を斬れるかい?」
「あ、あんた!でたらめもいい加減にしなさいよ!そんな……そんなことが……!卑怯じゃない!」
しかし、ルーティにはそれがでたらめだとは思えなかったらしい。どうやらどこかで血の繋がりを感じ取っていたようだ。
「僕にとって血の繋がりなどどうでもいい。僕にとって大事なものを守る。世界がどうなっても構いはしない!」
リオンはシャルティエを抜き払い、スタンに挑む。スタンはやむなく剣を受け、鍔迫り合いになる。
「お前の答えは変わらないのか!頼むリオン、やめてくれ!このままではお前を殺すことになる!」
「くどい!そして、僕がお前たちに負けると決まったわけではない!いい気になるな!」
リオンは自分の低身長を利用し、素早くスタンの下から斬り上げる。スタンは体をひねり、ダメージを減殺させた。
「くっ、リオン!」
スタンの左手が炎を纏い、爆炎と化してリオンを襲う。リオンはその一撃を避けた。しかし、この灼光拳の爆炎から放たれる衝撃波まで避けられなかったらしい。
衝撃と熱がリオンに伝わったのか、リオンは顔を顰めた。だが。
「僕は……僕の全てをかけてお前たちを斃す!」
バックステップを踏み、闇を纏った捨て身の刺突を放つ。魔人闇だ。

106: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/12 16:17:09
「マリアン!」
守りたいものの名を冠するこの技でマリアンを守る。それがリオンの決意だった。
「くっそおおおおおお、魔王!炎撃破!」
スタンはわずかに身を開いてリオンの刺突を避け、さらに強烈な火炎を纏う一撃をリオンに向けて放った。リオンはそれを避けられなかった。いや、避けなかった。
リオンは胸に深い火傷を負い、その場に倒れ伏した。
「ぐっ……。」
どこかから水の音が聞こえてくる。この洞穴に水が流れ込んできているのだ。スタンたちを、そしてリオンをも流してしまうつもりらしい。
「な、何?この音!」
「終末の時計は動き出した…………もう……誰にも……とめ……られ……ない……。」

ジューダスはその場に倒れていた。丁度、スタンの攻撃を受けて倒れたような姿勢でだ。その彼の前にはエルレインがいる。
「わからない……何故お前は救いを拒む?私に協力すれば愛も名誉も手に入るというのに……。」
「お前は……わかっていない……僕はそんなものは……ほしくない……。マリアンこそが……僕の全て……彼女が幸せであれば……何も……いらない……。」
「だから願えと言っている。お前が望みさえすれば愛するものを手にし、己の手で幸せにできるのだ。」
「ふざけるな……そんなもの……ただのまやかしだ……そんなものに……何の意味も……ない……。」
「永遠にこの悪夢を続けるというのだな、リオン・マグナス。」
「だから……お前は……何も……わかっていない……。僕はリオンじゃない……ジューダスだ!」
「ならばお前に……。」
エルレインにこれ以上ジューダスを傷つけさせるわけにはいかない。5人は揃って飛び出していた。
「そこまでだ!」
「ジューダスをこれ以上はやらせない。やらせはしない!」
相変わらずの明暗熱血コンビの二人が啖呵を切る。二人揃って剣を抜き放ち、構えた。
「その男はリオン・マグナスなのだ。いつお前たちを裏切るかもしれないのだぞ?」
「リオン・マグナス?誰だそりゃ?ここにいるのはジューダス、俺たちの仲間だ。」
ロニはジューダスがリオンだと知ってもそれほど驚かなかった。さらに、今のジューダスの記憶を見て感じた。
好きでスタンたちを裏切ったわけではない。自分も守りたいものを守るために、苦渋の決断の末に選択した結果だったのだ。
そう思うと彼はリオン・マグナスを許せた。そして、ジューダスをそれとは関係なく、自分たちの大切な仲間として助けたいと思った。
「あたしたちはただ助けるだけさ。大事な仲間のジューダスをね。」
ナナリーも同じ気持ちだ。ロニたちほどスタンとの関わりは深くないが、リオン・マグナスのことくらいは知っている。
そのリオンの人となりがよく知ることができた。かつての自分と重ねたのかもしれない。そして、ロニと同様仲間として守りたかったのだ。
「人には誰だって隠しておきたい秘密がある。それを抉り出して苦しめるなんて、エルレイン!私はあなたを許さない!」
ジューダスは自分とエルレインの間に割って入った5人を眩しげに見上げた。
「お前たち……。」
彼は恐れていた。自分が誰なのか。何をしてきたのか。それを知られることで、どんな言葉を投げかけられるか。
だが、この5人は自分の正体を知っても、いや、自分の正体を知ったからこそ自分を仲間だと言っている。
嬉しくないわけがなかった。
「ジューダス、立てるか?」
ジューダスは赤い瞳の少年が差し伸べた手を取り、ふらつきながら立ち上がる。
「エルレイン、俺たちは絶対にお前を許しはしない。そして、お前が歪めた世界を元に戻して見せる。ここにいる仲間たち、カイル、リアラ、ロニ、ナナリー、そしてジューダスと共にだ!」

107: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/12 16:18:18
シンの紅の瞳がエルレインを射抜くように向けられる。エルレインは無反応を装っていたが、どうやら自分の幻術が打ち破られたことに驚いているらしい。
その隣ではカイルがジューダスに肩を貸しながら言葉をかけていた。
「一緒に歩いて行こう、ジューダス。」
さらに、リアラも言葉を重ねる。
「そして、続けましょう。私たちの歴史を。」

リアラのペンダントの力で5人は覚醒し、カプセルの蓋をそれぞれ壊して出てきた。カイルは爆炎剣で斬りつけ、ロニはハルバードで叩き壊し、ジューダスはシャルティエで切り刻み、ナナリーは矢を連射した。
そして、シンは思い切りカプセルの蓋を蹴飛ばして砕いた。自分の古傷を利用された、そして抉られた恨みを込めた一撃だった。
「克服してきたぜ、忌まわしい過去とやらをよ。」
「ひどい目にあったが……けど一つだけ得られるものはあったみたいだな。仲間との絆が深まったってことだ。そいつだけは感謝してやるよ、エルレイン!」
ロニとシンが言い放つ。エルレインは6人の行動が理解できなかった。
「わからない……あのまま神の力でまどろんでいれば……これ以上苦しむこともなかったものを……。」
「あんなのが幸せだって?冗談じゃないね!」
「夢で得られるものなどに何の価値もありはしない。そんなものを押し付けられるなど、僕はごめんだ。」
「俺たちはな、本物がほしいんだ!お前なんかに与えられるものじゃねえ、自分たちで手にする幸せがな!」
「お前たちはそうかも知れない。だが、彼らは違う。」
エルレインは他のカプセルで眠り続ける人々を指し示しながら言う。
「いいえ、彼らは忘れてるだけよ。本物の幸せが何なのかを。」
「いずれ人は幸せが何なのか気づく。俺たちが手出ししなくてもな。現にお前に歴史を改変される前からそれを起こっていたからな。」
シンはノイシュタットやハイデルベルグ、そして、ホープタウンを思い返していた。後は幸せになった人々が不幸な人々に手を差し伸べられるかどうかだ。
上から与えるのではない。隣人として手助けをする。これが一番理想の形である。上からの押し付けでは確実に反発が起きるのだ。
全てが理想通りに動きはしない。しかし、限りなく近づけることはできるはずである。そして、その障害となるのは。
「今から時間転移するわ。今から1000年前の天地戦争の頃よ。皆、行きましょう!」
リアラの近くに神の眼が安置されている。残る5人はリアラの周りに集まった。
「エルレイン!お前が自分のしたことを、これから後悔させてやる!」
シンの叫びは時間転移と共に引きちぎられ、そのまま6人は1000年前の世界へと飛び去った。
「愚かな……その先には悲しみしかないというのに……。」

108: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/12 16:19:43
ここまでです。
やっと鬱展開は一段落。次はマッドサイエンティスト、ハロルドが登場します。
そして、シンは彼の特徴的なイベントが……。

109:通常の名無しさんの3倍
07/10/12 20:44:22
  (´・ω・`)・・・・・・・・・

  (´;ω;`)ブワッ

グ・・・・・・GJ!シン頑張れ!!作者も頑張れ!!

110:通常の名無しさんの3倍
07/10/12 21:26:42
GJ
ハロルド楽しみだな。
次回もよろしく。

111:通常の名無しさんの3倍
07/10/12 23:45:36
グッジョォォォォォオオオオオッブ!!

ハロルドの興味引きそうだな、シンのシルエット能力。
そろそろかそろそろかと、あるイベントを待っている俺にとっては
数日待つだけでも辛いものがある!
が、作者には作者が自分で納得出来る物を書いて欲しい!

端的に言えば――頑張れ!

112:通常の名無しさんの3倍
07/10/13 01:52:20
まさかシンはここでも…!

113: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/13 11:20:15
どもー。
今回色々と改造しましたから叩かれるかと思ったんですが。
特にジューダスのシーン、あれは矢島版デスティニーを参考にしてますからねえ。
けど、そういうのがなくてほっとしてます。
まあ、あれです。「シンのステータス」というものの俺のものと読んでくださる皆様のものとが、離れていなければ予想を裏切ることはないとは思いますが……。

114:通常の名無しさんの3倍
07/10/13 12:46:06
ヒューゴは善人だったからなぁ…とにかくGJ!

ところでDIOの事マグナと戦わせる?

115:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 12:58:43
保守

116:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 17:09:17
新人スレの住人なんだけど、このスレの職人◆dCLBhY7WZQをどうにかしてくれね?
新人スレとは全く関係ないのに新人スレの雑談所のチャットに入り浸って困るんだわ。

117:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 18:30:41
とりあえず回線切って首吊れ

118:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 19:17:39
>>116
職人の行動なんて俺達の知った事か。
職人なんてのはSS投下すりゃなんでも良いんだよ。

119:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 21:06:24
マジで◆dCLBhY7WZQをどうにかしてくんね?
相手ウザい


120:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 21:12:51
無視すれば

121:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 22:10:11
新人スレの連中がウザいから爆撃しようぜ!

【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】8
スレリンク(shar板)

122:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 22:17:02
751 名前:通常の名無しさんの3倍[sage] 投稿日:2007/10/14(日) 22:00:59 ID:???
今度は新人スレ対テイルズスレを狙ってるのか
新人スレ住人を引っ張りだせたら拍手してやる

火種があの職人なのが痛いと言えば痛いな

752 名前:通常の名無しさんの3倍[sage] 投稿日:2007/10/14(日) 22:03:44 ID:???
あそこは三■目の自演アタックじゃビクともしないだろ

だとさ

123:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 22:29:06
どうでもいいや
投下してくれるのを読むだけだし

124:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 22:32:18
>>122
荒しの巣窟のレスなんて本気にするなよ。
新人スレの連中は敵なんだぞ?

125: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/14 22:37:42
さてはて、俺は読者としてあそこにいるわけですが。
それに、利用してる人や管理してる人にも許可は貰いましたから、一応は。
まあ、目立つのは問題なんですけどね。

それじゃあ投下します。今回のお題は「狂科学者ハロルド・ベルセリオス」。

126: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/14 22:39:08
25 狂科学者ハロルド・ベルセリオス

一行は雪の中にいた。どうやら元の世界でいうファンダリアからは動いていないのではないかと思われた。
「ここはどこだろう?」
シンは周囲を見回してみる。何か大型の弓─バリスタと呼ばれる強力な設置式の弓だろう─が空に向って配置されていたり、木製の塔、布で覆われた入り口などが見受けられる。
粗末ではあるが、軍事拠点の雰囲気がある。
「おそらくは地上軍拠点だろう。跡地だったところは確認しているが、元はこれだけしっかりした造りだったというわけだ。」
ジューダスの言葉を聞き、シンはあの跡地を思い返していた。確かにあのときよりは荒れていない。1000年もの間、それなりの形を保ち続けていたのは、元が頑丈に造られていたからに相違ない。
「人がいないか探そう。まずは手掛かりを集める必要がある。」
「ちょっと待った。」
シンはジューダスを制止した。他の4人もシンの方を見る。
「なんだい、何かあるのかい?」
「ああ、俺たちはエルレインに夢を見せられてただろ。けど、順番に回っていったから全員が全員の分を把握できたわけじゃない。俺、ナナリーやジューダスのを見といて、自分のを見せないのは、何か卑怯だと思うからさ。」
彼は二人の記憶を見たが、自分のものを彼らに見せてはいない。申し訳ない気がしたのだ。
「特にジューダスなんか俺たちに記憶の中に入られたけど、誰のものも見てないし。不公平だと思ったから。」
「お互いに心の傷を見せ合うのか。別に僕は何とも思わんぞ。」
ロニはシンのしたいことがわかったらしい。
「いいじゃねえか。お互いに弱み見せ合ってよ、ここらで俺たちの団結を強めておこうじゃねえか。」
「俺も賛成!俺とロニなんか、全員の見て回っただけで見せてないし。シンの言うとおり不公平だからね。」
「あたしも構わないよ。と言っても、あたしはジューダスに教えるだけになるけどね。」
どうやら問題なさそうだ。まずは言い出した本人から、とシンが口を開く。
「じゃあ、俺が見せられた夢の中身だけど、俺は俺が生まれ育った国で死んだ家族と守れなかった女の子のステラ、それから死んだ戦友と元の世界においてきた戦友と一緒に平和に暮らしている、という夢だったな。」
「平和、かあ……。守れなかった、とか、平和がほしいってことは戦争やってたわけだ。前にあんたが異世界から来たことは教えられてたけど、戦争ばっかりだったんだ、その世界。」
「ああ。その後カイルたちが来て、何とか記憶を取り戻したんだけど。まあ、家族が死ぬところとかステラが殺されるところとか、俺がどうしても止めたかった連中に負けるところの記憶を見せられて。それから……。」
「それから、どうした?」
「俺自身も気付かないうちに封印してた記憶なんだけど。俺はどうやらフォルトゥナによって作られたシン・アスカのコピーらしい。つまり、異世界から転移したわけじゃないんだ。」
ナナリーとジューダスが息を呑むのを感じた。かなり衝撃的な事実だからだ。
「……お前は随分とついてないやつだな。だが、僕はお前が何者であれ、チームに必要な人員だと考えている。気に病む必要はない。」
「ああ、気にしないつもりさ。俺が俺であること、俺が皆の仲間であることに変わりはないんだし。」
シンは笑いながらそう言った。心からの笑顔だった。無理に笑顔を見せているわけではない。それは、シンの持つ仲間への思いがそのまま反映されている証拠でもある。
「あんたも大概ポジティブだねえ。カイルのは底抜けだけど、あんたのは逆境のときに発動するって感じだね。」
思い返してみれば、余程でない限りは完全に折れてしまったことはあまりない。シンはそれを自分の意固地のせいだと思っていたが、物は言いようだ。いい意味で捉えれば逆境に強いということになるのだろう。
「お前もカイルと同じだ。その逆境を跳ね返せる力があるからこそ、僕たちはここまで来れたはずだからな。」
「……ジューダス。それは買い被り過ぎだよ。さてと、俺が言えることは言ったと思う。次は……。」
シンが視線を彷徨わせると、カイルが軽く挙手した。
「あ、俺が。俺とロニは同じ夢を見せられてたんだ。中身は……うん、父さんが帰ってくる夢だった。もうちょっとで帰ってくるところだったんだけど。」

127: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/14 22:41:07
「そこで私がカイルのところに行ったの。そしたら、思い出してくれて。でも、その後……カイルが小さい頃に忘れてた記憶が戻ってきて。」
何かあるな、とシンは思った。カイル、リアラに代わり、ロニが続けた。
「実はよ、シン。俺はカイルがあまりのショックで忘れてたみたいだったから黙ってたんだが……スタンさん、実はあのバルバトスに殺されてたんだ。」
「なっ……!」
「あの英雄スタンが!?それは本当なのかい、ロニ。」
「…………!」
シン、ナナリー、ジューダスがそれぞれの反応で驚きを見せる。特にジューダスの驚きようは大きかった。
「ああ、昔あのインパクトのある顔見てたけど、もう十何年も前のことだからな。全く変わってねえあいつを見て、あの神殿でやりあったとき、あのときのあいつと結びつける事は出来なかった。」
無理もない。時間転移できることなど、リアラやエルレインと出会うまで知る由もなかったのだ。いかに特徴あるバルバトスでも、それが存在しないと思っていれば、十数年前にスタンを殺した同一人物とは思えないだろう。
「けど、あの記憶見せられてはっきりしたぜ。やっぱりスタンさんをやったのはバルバトスだったんだ。」
そしてバルバトスはルーティにも怪我を負わせ、さらに現代でフィリアとウッドロウを襲った。英雄と呼ばれる者を狙い、殺そうとする。
余程の英雄嫌いなのだろうが、その動機がわからない。とはいえ、一つだけはっきりしてることがある。
「……敵討ち、しなきゃいけないな、カイル。俺も、手伝わせてほしい。それが、皆だけの英雄である、俺にできることだと思うから。」
「ああ、けど、俺は敵討ちというより、歴史を取り戻すために、そして父さんを越えるためにバルバトスやエルレインと戦うんだ。きっと、バルバトスを倒せたら、俺は父さんを越えられたと思うから。」
敵討ちは、要するに私怨でものを言うわけだ。冷静さを失わせる元になりかねない。それをカイルは示唆したのだ。
「お前にしては冷静な判断だ。スタンもそれを望むだろう。少なくとも僕はそう思う。」
むしろジューダスの方が敵討ちをしたかったらしい。スタンを裏切ったとはいえ、仲間だった人間を殺されるのは、やはり気分のいいものではない。
しかし、その息子がそう言っている。自分如きが口出ししてはならない。ジューダスはそう思ったのだ。
「それじゃ、次はあたしの見たものだね。あたしはホープタウンで皆がしっかりご飯を食べられて、それで弟が生きてる夢だった。あたし、何だかんだ言ってて、結局弟のこと生きてたらいいなって思ってたみたい。」
ナナリーは、自分がバカだった、とでも言いたげに言葉を紡ぐ。ジューダスはいつもの調子で、しかしどこか気遣うように言った。
「それは止むを得ないことだ。身内の死はそう簡単に割り切れるものではないからな。」
「うん、そうだね。でも、ロニが散々あたしが忘れかけてたこと、思い出させてくれたから。何とか立ち直れたんだけどね。」
ナナリーはそれで黙ってしまった。どうやら言うべきことは言ったという事だろう。
「それじゃあ、改めて人と情報を探しに行こうか。」
6人がいるのは拠点の外れのためか、人の気配がない。しかし、そこに何かが接近してくる。人間ではない。浮遊するリングの中央に目玉がついたようなマシンだ。
「何だありゃ?」
「さてね……。」
保護者コンビもよくわからないらしい。謎のマシンの後ろから人がやってくる。相当に慌てているようだ。
「こら、待ちなさい!待ちなさいってば!」
その声からすると、どうやら女のものらしい。よく目を凝らすと、近づいてくるのは確かに女だ。妙に背が低く、童顔だがかなり色の濃いアイシャドーと口紅を使っており、無理矢理老け顔にしている感じがする。
色の薄い赤毛はかなりの癖毛らしくあちこちが撥ねている。
袖口に黒い毛皮のようなものをつけた、やや胸元が開いた服を身につけている。異様に腰がくびれているように見えるのは、服自体がコルセットのような役割を果たしているからだろう。
ナナリーと同様、腰布を巻きつけており、大腿部の真ん中辺りまであるロングブーツはガーターか何かで吊っているらしい。
よくよく考えてみればどうにも妙なファッションであるが、1000年前の世界であることを考えるとこんなものなのだろう。
「こーらぁ!あんたのマスターはこのあたしなのよ、あたしの命令を聞きなさい!」

128: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/14 22:44:05
この言葉を聞く限り、この妙なマシンの開発か、もしくは運用に関わっている人物らしい。
よくよく見ないとわからないが、各所に小型のキャノンのようなものや、晶術を使用できるように加工されたレンズのようなものが見える。つまり、軍用マシンだ。
その開発・運用に関わっているのなら地上軍関係者であることは間違いない。ただ、彼女がそう見えないのが問題なのだが。
しかし、散々追い掛け回しているうちに、逆に追われ始めた。どうも戦闘用AIを組み込んでいるマシンのようだが、反乱を起こしたらしい。
これが自動マシンの恐ろしいところだが、考えようによっては反乱を起こせるほどのマシンを開発した人間がいるということでもある。
その開発者は時代から鑑みてハロルド・ベルセリオス博士ではないか、そして彼女はその関係者ではないか、とシンは思った。
色々と考え事をしているうちに、いつの間にかシンの背後に回りこんでいた。
「あれ?あんた、何してるんだ?」
「あれ、片付けちゃって!」
ハロルド博士の関係者と思われる女性は戦闘ロボットを指差して言った。
「なっ、何言ってんだいきなり!」
だが、その戦闘ロボットはシンたち6人を敵性対象と見なしたらしい。体の各所から炸薬弾を放った。
「ええい、面倒な!」
素早くシンはフォース形態をとり、さらに左手のサーベルを盾に変えて砲撃を受け止めた。
「…………!」
ジューダスはシンが形態を変えたことに対して興味をもったその女の様子が気になったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
彼もシャルティエを抜き払い、戦闘マシンに挑む。短剣と共に素早く突きを放ち、注意を自分に向けさせる。
その隙にナナリーが弓を引き絞り、カメラアイと思われる機体中央部に取り付けられた目に狙いをつけて矢を放った。
戦闘マシン、HRX-2型は今度はレンズのエネルギーを使って晶術を放った。ネガティブゲイトだ。機械が晶術を使うなど、普通は想像できない。
襲い掛かろうとしたカイルとロニが、歪んだ空間に巻き込まれた。
「ぐっ!」
「ぬわっ!」
「カイル!ロニ!」
リアラは急ぎ回復晶術を詠唱し始める。その間に彼女を攻撃されぬよう、ソード形態をとったシンはHRX-2型に向かい、大剣を振り下ろす。
「でやあああああ、地裂斬!地裂鉄鎚!」
さらに、雪が邪魔をして難しいながらも地面を抉りながら斬り上げ、土砂と共に剣の面の部分を叩き付けた。そこにジューダスが突っ込んでくる。
「月閃光!散れ!」
光と闇の二つの刃がマシンのボディに炸裂する。この素早い攻撃により、体の各所に設置されたキャノンが潰される。その間にリアラの詠唱が完了した。
「リザレクション!」
聖なる魔法陣が出現し、カイルとロニを纏めて回復した。体力を回復させた二人も攻撃に参加する。
「このっ!」
「一発食らえ!」
カイルとロニの斬撃が同時にHRX-2型に命中した。これが決定打になったのか、このマシンは雪上に沈んだ。
「やれやれ、やっと片付いたか。あんた、大丈夫か?」
だが、そのシンに地上軍に関係があると思われる女性は軽い蹴りを放った。丁度弁慶の泣き所に当たり、彼はその場に倒れた。
「うっ……な、何だよいきなり!」
「あんた、あたしのHRX-2型壊したでしょ?だからお返し。」

129: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/14 22:45:25
わけがわからない。自分で片付けろと言っておいて、それはあまりにも横暴だろう。ロニの怒りが沸騰し、彼女に食ってかかる。
「無茶苦茶言ってんじゃねえよ、大体なあ!」
「言っとくけどHRX-2型は軍のものよ。この程度で済んだんだから感謝してよね。」
この女性が言うことが正しければ、間違いなく地上軍の関係者だ。そして、エルレインの歴史改変を防ぐためには地上軍上層部と、それとなく接触する必要がある。
地上軍の女性から距離をおき、それを相談している間に、ジューダスはこう言った。彼女はハロルド・ベルセリオス博士の関係者であり、その双子の兄のカーレル・ベルセリオスは地上軍の軍師だ。
故に、嫌でも何でもこの奇妙な女性と接触し、ハロルドと面会しなくてはならない。
しかし、その会話を聞きつけた女性は、さらに奇妙なことを言った。
「ん?さっきからあたしの名前が出てるけど。呼んだ?」
「呼んでねえよ!大体、俺たちが話をしている中に女物の名前なんか出してねえっての。」
「そんなことないわよ?だってハロルド・ベルセリオスって言ったでしょ?それあたしの名前だもん。」
6人はぎょっとして彼女を見た。ハロルドといえば男の名前だ。しかし、どう見てもこのハロルドを名乗る人物は女だ。
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ロニの反応は当然のものだが、未だに信じられないジューダスは冷静に言い放った。
「お前がハロルドだと?そんなはずはない。」
「あんたがさっき使ってたの、シャルティエでしょ?細身の曲刀で刃渡り67.3センチ、全長81.7センチ、重量は2.64キログラム。柄はシャルティエ自身の手に合わせて若干の膨らみを持たせてる。レリーフはジェルベ紋様。」
ソーディアンを知る者は多くても、この時代でこれだけ詳細なスペックを言える人物はそういないだろう。間違いなく開発者であるハロルドだ。
「でも、なんでまた男の名前なんだ?だってよ……。」
「男の名前にしておけば後世の人間騙せると思ったのよねえ。他にも23の理由があるけど。ふふふ、私の計算どおり!」
シンはこの会話で違和感を覚えた。まるでこれは。
「ハロルド博士。あんた、まさか俺たちが未来から来たこと知ってるのか?」
「そうよ。時空間のゆがみやあんたたちの言動、服装、それに猫の欠伸の仕方まで、48パターンの角度からそうじゃないかって思ったけど、やっぱり当たってたのね。ぎゅふ、ぎゅふふふふふふ……。」
何とも怪しい笑い方だ。こういうのをマッドサイエンティストとでも言うのであろう。
「さてと、あんたたちを兄貴に紹介したいけど、その前に、誰かあたしの実験台になってもらえない?そしたら会わせたげる。」
6人は表情を引きつらせた。先程のマシンといい、マッドサイエンティストぶりは凄まじいものがある。下手をすれば解剖されるかもしれない。
というよりも、間違いなく解剖されると思っている。しかし。
「いいぜ、俺が実験台になる。ただ、仲間には妙なことしないでくれ。」
シンが名乗りを上げた。彼にも思惑がある。自分の体の構造を知っておきたいのだ。フォルトゥナによって作り出されたコピーというからには、普通の人間とは違うのではないかと思ったのだ。
その上でハロルドの欲望を適当に満たし、さらに仲間を守ることが出来る。シンにとっては何ら問題のない状況だ。
「それから、俺が死んだり、へんてこなマシンを埋め込んだり、俺が俺でなくなるような投薬はしないでくれよ。俺だって命は惜しいんだからな。」
ハロルドは目を輝かせ、シンを見た。何か自分にとって一番興味があるものが手に入ったような、それもかなり子供っぽい表情だ。
「あんたの自己犠牲精神には感謝するわあ。だって、あたしが一番研究したかったのはあんたですもの。さ、ちょっと拠点の外にいらっしゃい。」
ハロルドは残る5人にこの場で待っているように告げ、シンを連れて拠点から少し離れたところにやってきた。
「あんた、もしかしてあたしをだしにしようとした?」
「よくわかったな、ハロルド博士。俺も自分自身のことを知らなきゃいけないからな。」
「とりあえず、博士はやめてよ。ハロルドでいいわよ。……あんた、自分の持ってるあの能力のこと、完全に把握してないわけ?」
シンは軽く頷く。それだけではないが、と思いながら。
「ああ、俺は仲間達を守りたい。そのためにこの力を使いこなさなきゃいけない。それにはやっぱり知らなきゃいけないと思うんだ。」

130: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/14 22:46:38
「ふーん、勤勉ねえ。それにあんたはどこか自分自身すらわかってないって感じもするのよねえ。」
天才とはよく言ったものである。こちらの考えていることが筒抜けだ。元々目の色で感情を読み取られてしまうシンである。どうしようもない。
「あんたとしては、俺たちのしようとしていることを自分で当てたいって感じだからな、情報は出し渋らせてもらう。」
ハロルドは心から嬉しそう、というよりも無邪気に喜んでいる。
「んん、あんたもあたしのこと、よくわかってんじゃない。さてと、それじゃあんたの性能をチェックさせてもらうわ。」
つまり、シンの持つ形態変更能力を見たいと言っているのだ。確かに目を引くだろう。武器を何もないところから出現させ、さらに形態別の戦闘能力を示すのだから。
シンは天上軍が派遣した自動殺人マシンを相手に、各形態で使用できる技や晶術を全て見せた。秘奥義や具現結晶も隈なくだ。その度にSEEDを発動させなくてはならない。
「くっ……!飛礫戈矛撃!」
「もっかいちゃんと秘奥義を見せなさい!こっちはデータ録ってるんだから!」
「うう……。」
シンのスタミナは無限ではない。コーディネイター故、少々人よりは持久力があるのだが、もう26体は破壊している。
この自動殺人マシン、メイガスはアラストルによく似ているが、ネガティブゲイトなどの晶術や火炎弾を放てる強力なものだ。
気を抜けば間違いなくダメージを受ける。その上、シンを襲うのは何も殺人マシンだけではない。強烈な狂気もシンの敵だ。
「ぐう……。」
破壊衝動を全てメイガスや、その兄弟機であるアヴェンジャーに向けているため、今は何とかなる。しかし、このまま戦っていればハロルドに剣を向けるかも知れない。
「ハロルド、適当なところで戻らないと。俺はこの力を使うと狂気に取り憑かれてしまう。いつハロルドに襲い掛かるかわからない。」
シンはそう言った。ハロルドはそれをどうやら「性的な意味で」捉えたらしい。
「ん、そんときは本気で殺しにかかるから。覚えててくれればいいわよ。」
シンは「殺意を向ける」という意味で言ったのが伝わったと思ったらしい。それが仇になった。

「う……きゅ、休憩させてくれ……。」
シンはふらふらになり、左手で額を擦っている。しかし、ハロルドはそんなことはお構いなしに声をかける。
「まだあんたのブラスト形態の具現結晶を完全に把握してないのよ。もうちょい頑張ってくんない?」
「死ぬ……何だこのスパルタ……。」
そう不平を漏らしても、シンの体はハロルドの言うとおりにブラスト形態をとる。彼はハロルドの奴隷になっていないか、と思った。
「ほい、んじゃあのメイガス潰してね。」
ハロルドが指を指した自動殺人マシンに対し、シンは上級晶術の詠唱を開始する。
「……古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ!エンシェントノヴァ!」
火柱と共に爆炎が発生し、その一撃だけでメイガスは本当に「消し飛んだ」。
「一撃で消し飛ばしちゃったら具現結晶出せないじゃない。調整できないわけ?」
「俺の技量じゃ……。」
「適当に場所ずらすとか。」
「爆風で飛んでしまう。それじゃ具現結晶をだすことはできない……。」
「不便ねえ……。」
シンは目眩がしてきた。ふらふらする。それに、先程から狂気が頭の中で渦を巻き、ハロルドを殺しかねないほどの破壊衝動が全身に満ちている。
「……駄目だ……もう……。」
ブラスト形態が解けた。狂気が頭から消え去る。殺人衝動がなくなっただけで十分だ。しかし、最早持久力は限界に達していた。

131: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/14 22:48:38
そんなシンにハロルドが近づいてくる。
「うーん、あんたの根性もなかなかのもんよ。普通の人間の数倍はあるわね。ふんふん。」
どうやら持久力についても測定していたらしい。どこまで実験データを取るつもりだ、とシンが思ったその矢先、彼のブーツが雪を噛み過ぎたのか、スリップした。
「あっ……まっ……!」
彼は倒れまいと無意識の内に右手を伸ばしていた。その先にあったのは。
「あ……。」
「あっ……ハロ、ハロルド、ごめん!」
シンはハロルドの胸を掴んでいた。その上、そのまま服を引っ張ったためにハロルドは、うつ伏せに倒れた自分の背中の上に乗っている。
「……さてと、襲っちゃったみたいねえ。」
「あ、いや、襲うってそういう意味じゃ……!」
ハロルドは問答無用とばかりに立ち上がり、詠唱を始めた。
「裁きの時来たれり、還れ虚無の彼方!」
「ほっ、本気か!?」
シンがまごついている間に、ハロルドは詠唱を完了させていた。
「エクセキューション!」
死刑執行の名を持つ闇の魔法陣がシンの足元に出現した。逃げる間もなかった。体力が根こそぎ奪い去られる。さらに。
「具現せよ精霊の結晶!ルナシェェェェェェェェェイド!汚れなき断罪の意志、思い知れ!刻み込め!ここに散れ!」
闇の具現結晶、ルナシェイドを呼び出した。あまりにも過剰な反応だ。
闇の晶術は総じて外傷をもたらさず、体力だけを奪い去ることが多い。このルナシェイドも同じである。滅多切りにされても切り傷一つつかなかったが、凄まじい闇の力で死ぬ一歩手前までダメージを受けている。
「ありゃ、とどめ刺しちゃったか。」
ハロルドはけろっとした顔でライフボトルを取り出し、彼の顔にかけた。シンはゆっくりと目を開け、そしてハロルドから逃げようと手足をばたつかせる。
「もーなにもしないわよー。」
「い、いや、だって……。」
「よくよく考えてみたらあんたがあたしを『性的な意味で』襲うわけないもん。あんた、戦ってる最中無茶苦茶狂ってたし。殺人衝動の方言ってたんでしょ。」
ハロルドはどうやら自分の勘違いに気付いたらしい。しかし、シンは攻撃を受けた衝撃からまだ立ち直れていない。
「そりゃそうだけど……。」
「今回は許してあげる。今度やったら次はソルブライトね。」
光属性の攻撃の耐性が極端に弱いことを知っているらしい。シンは想像しただけで身震いがした。
「も、もうしないよ、うん。」
「それから、あんたをあたしの助手にするわ。あんたは機械に詳しそうだし、いつでも実験対象にできるし。」
実験が一体何なのかが恐ろしくてたまらないが、自分のことを色々知りたい上に、仲間を実験対象にされても困る。
「あ……ああ、わかった。よろしく頼むよ、ハロルド。」
どうやら、天地戦争時代での歴史改変阻止は前途多難のようだった。

132: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/14 22:50:16
TIPS
 ラッキースケベ
  意識しないのに何故かシンについて回る。
  ハロルド「次やったら本気で死んじゃうかもよ~。」
  シン「ごめんなさいごめんなさい、もうしません!」
   TP回復+1.0 TP軽減+1.5 回避-2.0

133: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/14 22:52:32
ここまでです。
色々とご迷惑をおかけしていますが、「何、気にすることはない」でお願いします。
まあ、一番危ないのは自分ですが。

さて、次は物資保管所。飛べー飛べーロケットォ!燃料噴き出し火を上げてぇぇぇ!

134:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 23:06:03
GJ
次回もよろしく。

135:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 23:39:57
GJ!
そしてついにやりやがったこのヤロウ!w

136:通常の名無しさんの3倍
07/10/14 23:58:37
GJ!

てかハロルド鬼畜www


137:通常の名無しさんの3倍
07/10/15 13:18:33
GJ! 流石ラッキースケベはアスカのお家芸だな!!


138:通常の名無しさんの3倍
07/10/15 13:21:18
んな称号がお家芸になったら家族に夢枕に立たれそうだw

139: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/15 19:57:15
はーい、どもー。
ラッキースケベはですねえ、前述の「俺が思うシンのステータス」です。
さて、どれくらい俺の考えとシンクロできましたかね?
基本的にラッキースケベの対象は公式カプが組まれていない相手。
つまり、今回で言えばリアラやナナリーはアウト。
でないと公式カプが好きな人に叩かれますからw
というか公式カプ崩すと物語に歪みが生じますんで、俺にはできんとです……。

140:236
07/10/15 23:35:44
よお、良い子の皆、元気か!……いや、皆まで言うな、当然元気だな。
え?お兄さんは元気かって?ハハハ、いい質問だな。お兄さんはもちろん、元気だ。…元気すぎて、
仕事に追われているけどな!!

それにしても、全く。はあ~、誰か、あのかわいくない方のジェイドに加減と言う物を教えてやっては
くれないだろうか。今日だって酷いんだぞ!?俺が少し口を出せば、即下級譜術時々中級で攻撃してくるわ
(ジェ:あなたが私をからかおうとしたからです)、人の襟を持ってズ~ルズル軍本部まで引っ張ってくる
わ(ジェ:あなたが自分で歩こうとしないからでしょう?)、山どころか崩れて紙雪崩が起きそうなほど
仕事を回すわ(ジェ:二日間、あの捕虜の事が気になって仕事放棄した人が何を言いますか、なんなら側近
の処理したものを追加してもよろしいですが?)…etc.

あ~…億劫だ。まったく、これならジェイドなんかと一緒に行くんじゃなかった。アスランかセルフィニス
なら、少なくとも医務室から追い出さない程度の寛容さは持っているだろうに。お陰で、その捕虜の起きて
いる時の顔をほとんど見れなかった。……まあ、この俺にさえ強烈な印象を植え付けた濃い血の色をした瞳
――世にライガ・ブラッドと呼ばれる紅玉のそれよりもさらに濃い――にはさすがに目を見張ったが。

でも、その瞳が少し癪に障ったと言うのも事実だ。ジェイドと同色(ジェイドよりかなり濃いが)の瞳を
持ちながら何だ、あの諦めきっている色は。普段、瞳で何も語る事の無い(悟らせない)ジェイド以上に
悪い。全く、面白くない。……少し活でも入れてやるか。俺の勘からいうと、少し焚きつければ――
もとい、目標を与えてやれば、あの諦めきっている瞳に活を与えてやることが出来ると思っている。若者に
道を示すのも年長者の役割ってものだしな……

ん?それが理由か…って?はっはっは、それも理由の一つではある…とでも言っておこうか。一番の理由は
やっぱり、気に入ったって事だろうな。
それに加えて、これから面白くもなりそうだからな♪

「陛下、追加ですよvvくだらない戯言をほざいている暇があるのなら、さっさと消化して下さい♪」

…………まあ、今の労苦はその楽しみへの先行投資と思っておくとするか。ああ、愛しのブウサギたちよ。
今夜は徹夜になりそうだ。
寂しいだろうが、俺がいなくても泣く(鳴く)んじゃないぞ?

深淵 in Shin

第ニ話後編:「張られた糸と縋る希望」

141:236
07/10/15 23:44:20
……なんで、こんな事に?

前回からお馴染みどころか積まれたような疑問を脳裏に浮かべながら、何とか目の前の光景を理解しようと
努力する。しかし、そのような事がし得る訳が無い。……確かに試験だとか何とか言われて、自らそれを
望んだのは認めよう。だけど…

こんな奴を相手にするとは聞いていない!っていうか、モノローグも許してくれないのかよ!!俺に何か
恨みでもあるのか!?そう、こんな事態に自分を追い込んだ『誰か』に激昂しながら、反射的に右に跳んだ。

何か、硬い物が砕ける音。そして、それを砕いた金属的な音を真横に感じながら、今度は後方への一足飛び
で間合いを取る。その瞬間、間一髪――とは言わないが、先程まで自分の胴体があった空間を、中々に
鋭い槍撃が通過した。それに安堵する間もなく、もう一本の短剣が彼の元へ迫り来る。……片方の剣が
地面にめり込み、もう片方の槍が未だ慣性の法則で何も無い虚空を薙いでいる状態で、だ。

それだけで、この『相手』が普通の相手ではない事に気付くであろう。なぜならば、軟体生物以外の生物体
の形状はその多くが左右対称となっているからだ。勿論、それに当てはまらない――所謂『奇形』と呼ば
れる左右不対象な生物もまれに出現する事はするが、それが普通に成長するという事は非常に困難である。
つまり、それこそがその生物種の限界なのだ。しかし、恒常的な闘争心を持つヒトという種は考えた。

『腕が二本――というか固定数だと、色々な事で不便だ。何とか、腕を増やす事は出来ないだろうか?』

……そんな事が考察され始めたのが、この世界での約300年前。旧サクシャーラ王国が発案した、周辺
各地の小国と同盟を結び、後世に『知恵の団結』と呼ばれる反キムラスカ同盟の盟主として、マルクト帝国
(当時は王国)が勢力を拡大している最中の事であった……。

まあ、そんな歴史講義はともかく。そうして発案された複数腕は、各腕の制御の困難さという最も基本的な
要素をクリアできないまま、長い年月が経過していった。この間に、数多くの学者・技術者がその開発に
励んで来たが、『譜業革命』と呼ばれる世界的な改革、そして創世暦時代に造られた類似物と見られる物の
設計図がマルクトで発見されても尚、技術の確立及び満足できる性能には程遠かった。しかし。300年間
ほとんどと言って良いほど進歩が無かったこの技術は、ある一人の天才によって急激に進歩する事となる。
そして、その結果が――。

……現在の状況へと繋がるのである。

「ちぃっ」

短く舌打ちしながら、迫り来る短剣――所謂ダガーと呼ばれる類の、少々刃部が湾曲した物――を掌で
受け止める。後方に跳んだことによって体勢を崩したままだったので、避ける事は不可能だったのだ。だが、
ズブリとでも表現されるような音を伴って左手を貫くはずの刃は、その左手に弾かれた。左手に握られた、
その薄刃に。

目前の『相手』が予測にない状態に狼狽にも似た行動――文字通り、最後の手に握られていた譜銃の照準
を一瞬だけ遅らせる。しかし、戦闘において一手の逸り、もしくは遅れが致命傷になり得る事は常道。
そしてそれは、この瞬間にも大いに反映された。

142:236
07/10/15 23:53:18
一発目。これは、照準合せが遅れたために当らない。次射までの少しの間隔に体勢を整え、『相手』に
向かって脱兎の如く駆ける。
二発目。足元に着弾、硬く踏みしめられた土が砕ける。実弾銃なら跳弾していたかもしれないな――そう、
どうでもいいように考えながら、補助腕と見られる比較的長く、そして細い二つの腕の間に入り込む。

(よし!これで……!?)

カシュン

何かが弾けるような小さな音が背後から響き、反射的に頸を捻らせる。刹那、頸の真横を通り抜ける迅雷。
白い首筋から一筋の紅い線が生まれ、地面に滴り落ちた。しかし、体勢を崩す程ではない。それを予測して
か、二本の主腕――剣と槍が、それぞれ左右より再度迫り来る。

「……甘いんだよ!」

そう叫ぶと同時に右手に持ち替えたナイフを投擲し、自身は槍に向けて跳躍する。剣は投げられたナイフを
弾くために真横に振られ、槍もまた、その矛先を鈍らせた。

「終わりだ…!!」

目測を誤り、斜めに突き刺さった槍の柄を踏み締める。ほぼ全体重(最低50kg以上…勢いを計算すると
確実にそれ以上)を掛けたにも関わらず、かなりの弾力性を持って跳ね上がる柄。が、もしそれが折れても
何ら変化はなかっただろう。次に『相手』が反応する瞬間には、明らかに生物ならぬその顔面にナイフが
深々と突き刺さっていたのだから……。

143:236
07/10/16 00:07:56
……あの、俺にとっては重大な事項の発覚から二日が過ぎた。とても信じられない話ではあるが、
どうやら俺が異世界に来たのは間違いないらしい。いや、納得が早すぎるだろう、とかご都合主義も
大概に、という批判なら作者に言ってくれ。所詮、主人公だ何だと言われていても俺たちは作者の意向
には逆らえないただの駒だ。……ゴホン、え~っと…閑話休題閑話休題。

とにかく。そうやって簡単に納得できた理由には、この二日間の間に皇帝の懐刀と言われている某死霊使
い殿が(何故か)再度医務室を訪れ、その時聞いた俺の質問に明確な答えを示していった…と、いうのが
大きい。無論、奴の言うことを鵜呑みにする気はないが、理路整然と疑問を解答されてはそう簡単に疑う
事も出来ず。その後、聞けなかった疑問をリセンディさんに聞いたら補整という名の肯定意見が返って
きたので、少なくともここが異世界だという事は信じざるを得なかった。

だが。しかしだが。

「は?」
「ん、聞こえなかったか?軍に入る気はないか…と言ったんだ。いや、もういっそ入れ。」

ここが異世界だという事が納得できたとしても、忙しいはずの皇帝陛下にいきなり来られてこんな事を
言われる筋合いは、俺にはない。人が医務室の整理(=簡単な治療)に付き合っている時にいきなり何を
言ってるんですか。っていうか邪魔です、邪魔。

「シン君、そこのアルコールを取ってくれないかな。」
「あ、はい。これでいいんですよね?」
「ああ、ありがとう。」

第二医務室の主の言葉にあっさりと転進し、薬品棚からアルコールと思われる液体が入った瓶を取り出す。
例え文字が読めなくても(何故それで言葉が通じるのかは疑問だが)、同じ形状の瓶が大量に陳列してい
れば大抵の予測は付く。それを受け取って、テキパキと患部の処置をするリセンディさん。俺も極簡単な
打撲や骨折の治療なら出来るが、複雑骨折などといった文字通り複雑なものは無理だ。

俺が医務室の事を手伝っているのは、リセンディさんがあまりの多忙さに目を回しかねない状況だった
からだ。捕虜である俺にそんな事を言っていいのか…と聞き返したところ、皇帝の許可は貰っているとの
事で。……ちなみに、俺がその皇帝の事をあの金髪兄ちゃんだと理解したのは、その時だったりする。

「さ~て、これで邪魔者(=患者)はいなくなった訳だ。それでは先程の返t「シン君。すまないけど、
 コーヒーを入れて来てくれないかな。四人分。」
「?……分かりました。」

144:236
07/10/16 00:10:07
今居る人数と合わない事に少し疑問に思ったが、先程からしつこく(とは言っても今日はまだ二度目だ
が)勧誘してくるとても皇帝とは思えない、金髪兄ちゃんから(例え一時的にでも)逃れられるなら
良しとしよう。リセンディさんの助け舟に感謝しながら即行でその場を離れ、無駄に入り組んだ廊下の先の角
にポツンと置かれたコーヒーメーカー(マルクト製)を起動させ、傍に置かれていた椅子に腰掛ける。

「………ふう。」

知らず知らずの内に、溜め息を吐いた。その事実に年寄りみたいだな…と若干苦笑しながら、給水タンク
を手持ち無沙汰に見物する。コポリ、コポリ…と不規則的に気泡を発する薄い琥珀色の液体の真下には、
少々複雑な模様(譜陣というらしい)が刻んである台座があって、それ自体がある条件を媒介として熱を
起こしている。俺にとってここが異世界であると一番実感するのは、こういった些細なところだった。

「陛下も懲りないなあ…俺みたいな脱け殻を軍に入れて何になるって言うんだ…?」

カチャリ、と音を立ててカップの用意(一つだけいやに豪華だ)をしながら、誰にでもない、自分自身へ
の皮肉を呟く。脱け殻。復讐の為にザフトに入り、そして復讐の為に敗れ、全てを失った自分に対する、
なんと痛烈な皮肉であろうか。敗戦国の『元』エースに並んで、これほど自嘲に満ちた表現も、俺の表現
力では中々無いに違いあるまい。

しかし。盆に言われた通り四人分のカップを載せて、その中にコーヒーを入れながら考える。あの皇帝が
何を考え、何を自分に期待しているのか。

「まさか、面白そうだから…とか言わないよな?」

ふと、思い浮かんだ答えが口を吐いたが、さすがにそれは有り得ないだろう。あれでもこの世界に君臨
する三大勢力――キムラスカ王国、マルクト帝国、ローレライ教団…その内の一つであるマルクト帝国
のトップだ。そんなくだらない理由で軍の士気を下げる事は出来ない、と思うはずだ。普通なら。
…………あの皇帝ならやりかねないかもしれない、と思ってしまうのは何でだ?

嫌な予感をひしひしと感じながら、沸き上がったコーヒーを入れたカップ(一つだけいやに豪華だ)を
御盆に載せ、主治室への道のりを進む。無論、その速度をできるだけ落として、出来得る限りの時間を
稼ぐ事も忘れはしない。が、時間を稼いでもそう大した距離ではないため、直ぐについてしまった。

「はあ…」

プライバシー保護の為に、少し厚めに作られた扉の前で再度溜め息を吐く。あの皇帝の事だ。どうせ扉を
開けた瞬間に、それはもう無駄に素晴らしい笑顔で返答を迫ってくるに違いない。……その事を思うと
いっそ逃げ出してしまいたいが、捕獲の為に駆り出される兵士の皆さんに申し訳ないので考えだけに留め、
腹を括る事にした。

コーヒーが零れないように左手で器用に御盆を支え、右手で扉のタブを回す。キィィィィ…と僅かに軋む
音を立てながら、ゆっくりと開かれていく扉。ほら、角度が深くなるに連れて金色の髪が目に映る割合が
増え……ない。いや、それどころか。

はっきり言って、これは意外だった。部屋の中に居るのは、にこやかに笑いながら御盆の上よりカップを
貰っていく、第二医務室の責任者、そして皇帝の懐刀として、または研究者として、はたまた死霊使いと
言う異名で知られる茶髪軍人のみ。つい先程まで懸念していた某ブウサギ皇帝の姿は影も形も存在せず。

145:236
07/10/16 00:17:47
「陛下なら、フリングス大佐に連絡して引き取って貰いました。カーティス大佐の仰る事だと、山のよう 
 に仕事が溜まっているとの事なので。」

会った事も無い大佐GJ!!じゃなくて。………御丁寧な説明、ありがとうございます。ところで、何故
カーティス大佐がここに?

「ええ。その事についてですが、シン=アスカ…今日はあなたの『取るべき道』について、少しばかり
 参考になる物を持ってきました。もっとも…」

それを活かすかどうかはあなた次第ですが。


「賭けは、俺の勝ちだな。」

訓練場の真ん中で、少年が異型の何かを倒した、その瞬間、壁際に備えられた無駄に豪華な椅子に座って
いた男――この国の皇帝が嬉々とした調子で宣言した。その様子に、他の立会人の面々が三者三様、
様々な表情で、感情を表している。……ある者は素直に驚き、ある者は苦虫を噛み潰したような表情で
少年を睨みつけ、またある者は楽しそうにその光景を見つめていた。

「では賭けの原則に則って。……以後、皇帝暗殺の容疑によって捕虜であったシン=アスカの拘束を賭け 
 の勝者、ピオニー=ウパラ=マルクト九世陛下の命によって無罪放免とし――」

立会人の一人であったグレン=マクガヴァンが高々と声を掲げ、賭けの成果を隣りの訓練場にいた兵士にも
聞こえるように、共同の通信管を用いて宣言する。彼は父である元元帥:老マクガヴァンの後を継いだ
セントビナー駐屯軍の司令官であるが、国境付近で敵――キムラスカ軍の活動が俄かに活発化してきた
ので、その報告の為に帝都:グランコクマに赴いたのだが。……まあ、報告を終えて帰ろうとした時期が
悪すぎたのだ。

146:236
07/10/16 00:27:19
……一ヵ月半の空白の後、後半が相変わらずgdgdになりながらも何とか書き上げた、
第二話後編です。ああ、こうしている間にもアビスの記憶が薄れて薄れて…
それ以前に感情表現があまりにも稚拙過ぎて。まあ、どのような駄文でも出来れば完結させたいとは
思っています。ですが何時になる事やら…

結局、死霊使いの説明は僅かしか出ませんでした。その代わりに冒頭でブウサギ陛下の現段階でのシンに
対する思いっぽい物を挿れてみましたが。…次回からは、いよいよ本編の間近に入っていこうと思って
います。ところで、MSって必要だと思います?これからシンの異世界に関する知識を元として色々な
思いつk…もとい、発案された兵器を少しずつ登場させてみようと思っているんですが。

ちなみに、ピオニーの性格は本編開始より数年前なので、少々傍若無人な風にしてみました。あるサイト
で、ピオニーの性格は長髪ルークに似ている、という公式?設定を見ましたので。

あとクロスオーバー倉庫への保存ですが、自分では良く分かりませんでした。機械類がかなりの勢いで
苦手なので…。あれはやはり、自分で保存しなければいけないのでしょうか?

147:小ネタ
07/10/16 01:31:22
>>236
自分で保存されてる方もいらっしゃるようです。

前スレから拾って登録しておきますので頑張って書き上げて下さい。
数日、お待ち下さい。

148:小ネタ
07/10/16 20:22:39
>>236氏へ
登録してみました。
お気付きの点等ありましたらご指摘お願いいたします。

149: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 21:41:59
236さん、投下お疲れ様です。
それから小ネタさんもお疲れ様でした。
では、投下します。

150: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 21:43:29
26 守るべきもの

シンが多大なる犠牲を払ってくれたお陰で、一行は後にソーディアンチームと呼ばれる面々と、地上軍総司令と対面することができることになった。
仲間に何が起きたかは、シンは言わなかった。当たり前である。意図しなかったとはいえ、ハロルドの胸を掴み、そのために闇の具現結晶の直撃を受けたのだから。
ハロルドはシンが何か逆らおうとするたびに、
「裁きのとき来たれり……。」
と口にして彼を脅した。何しろ、この一言でシンは沈黙する以上に、パニックに陥るのだ。ハロルドの方もそれが楽しいらしく、適当にこの台詞でからかう事にしたらしい。
このやり取りのせいで、闇の上級晶術の詠唱の冒頭部は、シンのブロックワードと化してしまった。
「でも、実験はこれからよー。死なないように解剖するからね。」
「……本当に大丈夫なんだろうな、ハロルド。」
「シン、あたしを誰だと思ってるの?あたしは大天才科学者ハロルドよ。五体満足で終わらせてあげるから。ぎゅふ、ぎゅふふふふふ……。」
とりあえず信用することにした。考えてみれば自分が死んだらデータ採取できなくなってしまう。生かしておくつもりはあるはずだ。
それに、この世界の科学者としても、技術者としても、トップクラス、というより彼女の技術力に勝てる者は皆無のはずである。
人体用のソナーやバチスタ手術に用いるケーブルのようなものを使えば、安全に「解剖」に近いことができる。その上、ハロルドは回復晶術であるキュアを使用できるのだ。
死ぬようなことはない、と思いたいところだ。
「しかしシン、お前ハロルドの助手になったと言ったな。大丈夫なのか?」
ジューダスがシンに問いかける。当然だろう。ハロルドの奇人ぶりは尋常ではない。
「……あそこまですごい人はなかなかいないけど、まあ、大丈夫だよ、多分……。」
命は惜しいが、自分一人の犠牲で済むならそれに越したことはない。仲間たちも比較実験対象にはなるだろうが、おそらくは採血くらいであろう。
「けど、シン。あの歴史的な大科学者、ハロルド・ベルセリオスの助手に選ばれるなんてすげえよなあ。だってよ、文献じゃあ何か作るときも、助手つけずに一人だけでやってたって書いてたぜ。」
「じゃあ、シンって凄いんだ!」
「その凄さのせいでハロルドに捕まって、あたしたちを実験対象にしないようにしてるんだから。シン、無理すんじゃないよ。」
「何とかなるよ。一応これでも機械に関してはそれなりに知識あるし。整備だって簡単なのはできるから。……解剖されるかもしれないけど。」
「あ……そのときは私がどこかで見張っておくわ。危なくなったらレイズデッドかけるから。」
「リアラ、ありがとう。まあ、ハロルドのことだから死ぬようなことはしないと思うから、うん。」
そんな遣り取りをしている間に地上軍旗艦、ラディスロウの入り口に到着した。ハロルドは自動ドアを操作し、6人を招きいれた。
「あー、皆いるみたいね。ちょうどよかったわ。」
この態度は、彼女のいつもの調子なのだろう。司令室と思われる場にいた全員が、やれやれという表情になった。
この司令室には演壇のような場があり、その前に長い楕円形の机がある。この場で天地戦争の数々の作戦が講じられたのだ。シンは少々軍人としての血が騒いだ。
「えーと、まずは地上軍の上層部の紹介をするわね。まず演壇に立ってる偉そうなのがリトラー。リトラーの右手にいる茶色い髪した彫りの深い顔のがイクティノス、その隣にいる線の細そうな金髪がシャルティエ。」
ジューダスの眉が動いたようだった。彼が所持するソーディアンのオリジナルがその場にいるのだ。ある意味では自分にとって一番身近にいる人物の過去を見ているのだから、多少興奮するのだろう。
しかし、ハロルドはお構いなしに続ける。
「シャルティエに向かい合ってる、青い長髪の白い服がディムロス。一番手前が兄貴のカーレルよ。」
彼女はそう言うと、今度はリトラーの方に向き直った。
「今度からあたしの工兵隊に所属することになった6人よ。さ、皆名乗って。」
「カイル・デュナミスです。」
「同じく、ロニ・デュナミス。」
「リアラと申します。」
「ジューダスと名乗っている。」
「ナナリー・フレッチさ。」
「シン・アスカであります!」

151: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 21:44:27
背筋を伸ばして名乗るだけのほかの5人と違い、シンだけはザフト式の敬礼をした。ハロルドを含む6人はぎょっとしたが、そのまま話は続く。
「ハロルド、私はそんな話を聞いていないが?」
低い大人の男の声が聞こえる。ディムロスだった。
「それに、まだ子供ではないか!子供を戦争に参加させるなど……。」
今度はスマートな声のイクティノスが異を唱える。彼は元情報将校である。
何度も少年兵が徴用され、そのまま死していくという報告を耳にしている。いたたまれないのだろう。
「あたしの製作したHRX-2型を斃した、と言えば問題ないかしら?それに機械の知識もなかなかのものよ。」
「あのHRX-2型をですか!?それはすごい!」
シャルティエが驚嘆の声を上げた。彼はこの面々の中で最年少である。戦士としての素質も乏しく、ソーディアンチームに所属していても劣等感がある。
彼はそんな自分が悔しく、何度かハロルドが製作したHRXシリーズと戦い、何度もぼろぼろにされている。それを6人がかりとはいえ破壊してしまったのだ。
戦う者としての技量を素直に認めたらしい。しかし、ディムロスはにべもなく言う。
「だが、子供は子供だ。許可できん。」
「工兵隊の人事権はあたしにあるはずだけど?」
「全軍の人事権は私にある。」
「んじゃ、あたしは地上軍を辞めるわ。ソーディアン抜きでダイクロフトに突入してらっしゃい。全滅しても知らないわよ。」
これがいつもの脅し文句なのだろう。全員は深いため息を吐いた。
「ま、まあ、ディムロス中将。ハロルドもこう言っていることですし、いいではありませんか。それに、工兵隊に必要な機械の知識と言うのもなかなか。ハロルドがそこまで認めるのです、許してやってはもらえないでしょうか。」
ハロルドの袖口についている毛皮のようなものを、同じように袖口につけたコートを身に着けた人物がなだめるように言う。赤茶けた髪と穏やかそうな顔立ちが特徴的だが、どこかハロルドに似ているようにも見える。
「さっすが兄貴、よくわかってるぅ!」
この人物こそが地上軍軍師、カーレル・ベルセリオスだった。23歳という若さで、これだけの重要なポストについているのだ。兄妹揃って只者ではない。
「カーレル!」
なおも言い募るディムロスを、淡い茶色い髪をした壮年の男、メルクリウス・リトラーが止めた。
「そこまでだディムロス中将。ハロルド、私が許可しよう。」
「司令!」
「軍の最高責任者は私だ。それに、ハロルドのことだ、戦力としては申し分ない者たちを連れて来たに違いない。」
言外の、いつものことだから言っても無駄だ、という色がにじみ出ていた。それに、6人にハロルドを任せておけば少しは負担が軽減されるはずである。
リトラーは自分にそう言い聞かせているようでもあった。それを見て取ったディムロスは、了解しました、と疲れたような表情でアイコンタクトを取る。
「……わかった、許可しよう。ただし、これから君たちは軍属になる。くれぐれも勝手な行動を慎むように。」
「了解であります!」
シンは再びザフト式の敬礼をし、返事をした。ハロルドを除けば、この中で軍の経験があるのはシン一人である。この手の返事ははっきりしなくてはならない。自分が返事をすべきだと思ったのだ。
「リトラー司令。それじゃああたしは例の物取ってきますんで。兄貴、あたしはこの6人と行くから、頑張って作戦立てといて。」
「ああ、気をつけてな、ハロルド。」
穏やかに言うカーレルを、ハロルドは少し眩しげに見たようだった。彼女はすぐにラディスロウから出ようとする。しかし、ディムロスが声をかけた。
「おっと、シン・アスカ君。君はちょっと残ってくれ。話がある。」
「は、はい。」
「ハロルドと他の皆は少し外してくれ。我々のチームと司令だけで話したいことがある。」

152: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 21:45:53
仲間達とハロルドがラディスロウの外に出て行った。シンは少々不安になった。まともに返答できるかどうか。
「君は軍の経験があるのかい?」
カーレルが相変わらずの穏やかさで言う。ただ、どこか返答を拒むような真似は許さない、という雰囲気があった。
「はい、あります。」
「君の出身地は?」
「ありません。しいて言うならこの世界そのものが俺、いえ、私の出身地です。」
「ふむ……。君のような少年が軍経験者か。止むを得ないとはいえ、ひどい世の中になったものだ。」
「でも、私が戦うことを決めたのは、自分の意思です。強制されたわけではありません。そして、この選択は間違っていないと思っています!」
嘘は一言も言っていない。出身地が存在しないことも、この世界そのものが出身地であることも、そして、自分の意思で軍の道を歩んだことも、本当のことだ。
その曇りのない言葉に、カーレルは言葉を続けた。
「そうか、わかった。もう一つ聞きたい。ハロルドが言っていた、機械に詳しい人物は君か?」
「はい、私です。助手になるように言われました。」
「助手ですか!あのハロルド博士の!?」
シャルティエが再び驚いた。これは冷静なイクティノスも同じようだ。
「絶対に助手を必要としないハロルドが……珍しいこともあるものです。」
「それだけ機械に強いということなのだろう。我が軍が有利となる要素がまた一つ増えたな。」
ディムロスの言葉には、どこか切実さがあった。少しでも有利な要素がほしい。そして、そのためには何でもする。そう言っているように聞こえる。
そんなことを考えていると、カーレルが口を開いた。言いにくそうなことらしい。
「シン君。君にはお願いしたいことがある。ハロルドを……守ってやってほしい。」
「はい?」
「ハロルドはああ見えて人を寄せ付けない。そして、あまり他人を信用しないのだ。そんな妹が助手として君を選んだ。普通のことじゃない。」
シンの口からは乾いた笑いしか出てこない。少々頬を引きつらせている。
「あはははは……ああ、その、言いにくいのですが、私は実験対象みたいなものですから……。」
「実験対象であっても、君を殺すつもりはないはずだ。君に興味を持っているのは間違いないんだからね。」
「それは……そうですが。」
「だから、守ってやってほしい。私は幼い頃からハロルド守ってきた。あれだけその、何というか変わり者の上に少々優秀なもので、苛められていてね。」
よくある話だ。持たざる者は持つ者を妬む。コーディネイターとナチュラルの争いもそうだ。いやと言うほど見ている。
しかし、持たざる者でも何らかの取り柄があるように、シンには思える。むしろシンは根暗でありながら熱くなりがちという、不思議な性格を持っていることで、それが多くの局面でマイナスに働いている。
彼はポジティブに見せているが、実はかなりネガティブな性格である。自分の欠点を見つけては、毎度自分のことが嫌になる。だが、それが嫌いなのでポジティブな態度を取るようになっただけなのだ。
思考がそれたらしい。シンは先程の持つ者と持たざる者に思考を引き戻した。
例えば、コーディネイターでも冷静さを失うことはある。しかし、ナチュラルはコーディネイターは常に冷静だと思っている。この食い違いも溝を作っているように思っている。
実のところ、意外なほどコーディネイターとナチュラルには差がない。ファーストコーディネイターであるジョージ・グレンがいい例だ。
遺伝子の改造を受け、陸上競技のメダリストであり、エースパイロットになり、著名な科学者としても活躍した。
しかし、陸上競技は「銀メダル」である。一位ではなかった。空軍のエースパイロットといっても「最強」だったわけでもない。著名な科学者といっても「歴史的に彼を越える人間」がいなかったかといえば、そうでもない。
結局は努力の差である。コーディネイター用モビルスーツのOSを扱えるナチュラルもいるのだから。
そもそも、努力で埋められない差があること自体がおかしいのだ。しかも、現実に存在するそれはほとんどの場合が、政府の失策によって生み出されることの方が多い。
それがいつの間にか、コーディネイターとナチュラルの差に入れ替わってしまった。これはある意味で、政府同士が煽り合った結果である。

153: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 21:47:18
ナチュラル側は「コーディネイターは不正で力を手にした者たちだ」といい、コーディネイター側は「自分達を虐げたナチュラルは野蛮で劣っている」という。
そんなに差はなかったはずなのに、いつの間にか差があるように思わされているのである。実はこの認識そのものは、政府の政策によるものだったのだ。自分たちの失策を押し隠す材料として、だ。
そして、コーディネイターは増長し、ナチュラルは諦めてしまい、お互いに努力しないまま両者の差は大きくなっていく。負の連鎖もいいところである。
別世界に来て、そして自分がコピーだと知ったからこそ、一歩離れた視点から見て考えられたことだ。とはいえ、こんな考えを元の世界に持って帰れないのだから意味はないのだが。
「……シン君?」
「あ、いえ。ハロルドが苛められていた、でしたね?」
「ああ、そうだ。しかし、もう二人とも23歳だ。兄である私が守るのも妹にはよくない。だから、君に頼みたいのだ。」
「あ、はい、やってみます。」
むしろ、この方がありがたい。必要になったらカーレルの名前を出して、実験で自分を死なせないようにすることも出来そうだ。しかし、気がかりなことがある。
「でも、私がそんなことしていたら……いいのですか?私は……男、であります。」
シンは少々言いにくそうだった。しかし、カーレルは言外にあるものを感じ取ったらしい。
「構わんよ。それくらいの方が私にはね。信頼できる異性があった方がいいのだ、ハロルドには。」
自分が言ったことを思い返し、彼は顔を赤くした。口から出る言葉も詰まっている。
「あ、いや、その、お、俺、いえ、私は、そんなつもりで言ったのでは……。」
「ふふ、わかっているよ。君は優しいんだな。なら、尚のことだ。頼む。」
紅潮する顔を擦りながらシンは何とか取り繕い、敬礼した。
「りょ、了解であります!」
「うむ。カーレル、いいか?」
ディムロスはカーレルに向かって言う。そろそろ作戦を立てなければ、と。
「ああ、ありがとう、私の用事はそれだけだ。シン君、下がっていい。」
「はい、失礼しました!」
シンはブーツを鳴らしてラディスロウの外に出た。

「あ、シン。どんな用事だったの?」
カイルは待ちくたびれたと言わんばかりの調子で聞く。シンは笑いながら応えた。
「ああ、俺が軍出身なのか、とか、ハロルドの助手になったのは凄い、とか、いろいろだな。」
「ふーん、結構長いからもっと大事な話だと思ってたけど。まあいいわ。それじゃ、皆出かけるわよ。」
ハロルドは長く待たされても全く調子が変わっていない。カイルは少々ハロルドのペースについていきづらそうに問う。
「どこに?」
「ここから何キロか離れたところに物資保管所があるの。物資保管所といってもベルクラントの攻撃食らって、今じゃ廃墟だけど。」
「その廃墟に何の用だ?ゴミ漁りにでも行くのか?」
ジューダスの言葉はどうやら的を射ていたらしい。
「あたり。これからベルクラント開発チームと、彼らを迎えに行って捕まったアトワイトとクレメンテの爺さんを助けるために、強襲作戦をやるんだけど……。」
シンにはハロルドが何を言おうとしているのかがわかった。彼女の考えがわかったというより、軍人としての知識の問題である。
「そのために強襲揚陸艇が必要で、その材料をこれから取りに行くってわけか。まあ、ハロルドならできるかもしれないけど。やっぱり俺たちが持たなきゃいけないのかな、その資材。」
「シン、あんたは察しがいいわねえ。」
「軍人やってた俺だぞ。それくらいはわかるって。それにこの数時間の間にハロルドの性格は大体把握できたから。能力のほうは……把握し切れないな、さすがに。」
「あんたに把握し切れるわけないじゃない。いくらあんたが助手でも無理無理。だってあたしは天才よ?ぎゅふ、ぎゅふふふふふ。」

154: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 21:49:56
相変わらずの怪しい笑いだ。とりあえずはその物資保管所に向かうことにした。
道中、ジューダスはハロルドに聞こえないように、残る5人に話をする。
「妙なんだ、この事態は。僕は少なくともアトワイトとクレメンテが捕まったという記録を見たことがないんだ。」
歴史に詳しいジューダスも知らない。そして、彼のソーディアンのシャルティエも、そんなことが起きた記憶はないらしい。
「つまり、これはエルレインによる歴史改変のせいってことか?」
ロニの言っていることは正しいだろう。歴史を知っていたからこそ、出迎えのアトワイトとクレメンテを容易に捕らえることができたのだ。
「じゃあ、俺たちは手遅れだったのか?」
カイルの不安そうな気持ちを抑えるようにシンが言う。
「改変阻止そのものは、歴史の大筋が変わらなければいいはずだよ。つまり、最終決戦でミクトランが6人のソーディアンチームに敗れればいい。」
歴史は必要なターニングポイントを抑えれば、そう変化することはない。ただし、生存しないはずの人間が残っていれば、相当に大きく変化するのだが。
「とにかく、アトワイトさんとクレメンテさんを助け出せばいいのよね?」
「んで、そのために必要な物資を取りにいくってわけだね。」
「そのとおりだ。この作戦を成功させることは、そのまま歴史改変阻止につながると思え。いいな。」
ジューダスが静かに檄を飛ばす。リオン・マグナスは冷たい性格だったという話を聞いているが、エルレインによって蘇らされてから熱血さも身につけようだ。
「わかってるよ、ジューダス。俺たちはそのために来たんだからな。」
「やるしかない。歴史を取り戻さなければならないんだ。」
明暗熱血コンビが締めくくり、一行は黙って物資保管所に向かった。

物資保管所はかなり荒れ果てていた。しかし、半壊ですんだのはベルクラントの攻撃が逸れたからだという。直撃していれば物資もろとも、保管所そのものが消し飛んでいる。
内部に化学物質が充満しているらしく、かなり危険な状態だ。そして、防毒マスクなどという気の利いたものはない。唯一の救いは青酸ガスの甘酸っぱい臭いがしないことだ。こんなものを微量でも吸い込めば呼吸器が犯されて死に至る。
結局、シンの提案でソーサラーリングで雪を融解させ、その水で湿らせた布で鼻と口を覆うことにした。これで水溶性の化学物質は遮断できる。
それでも害毒があることには違いない。ハロルドが言うには10分が限界らしい。
「いい?まずはバイオチップ、セルチップ、ジーンチップの低レベルプロテクト解除キーを探すの。それを使ってマスターキーを取り出すのよ。まずはそれだけを考えて。それから、この三つのチップは温度変化に弱いから。外に持ち出さないでよ。」
「どうして持ち出しちゃいけないの?」
「この三つのチップを外に持ち出すと、熱収縮起こして破損するのよ。勝手に持ち出されて悪用されないためにね。ああ、マスターキーは大丈夫だけど。」
「やれやれ、用意のいいこった。だったら手分けして探そうぜ。カイルとリアラ、俺とジューダスとナナリー、それからシンとハロルドでいいな?」
「俺は別にそれでいいよ。集合場所は……そうだな、入り口付近で。突入から7分でここに戻ってこよう。何も見つからなくてもだ。その後マスターキーを探そう。」
軍人の血が騒ぐ。現場で必要な簡単な作戦くらいは立案できる。というより、これくらいなら誰でも思いつくだろうが。
「じゃあ、皆行こう!」
カイルの号令とともに、危険な化学物質が満ちた物資保管所へと足を踏み入れた。
「くっ、目がひりひりする。目を開けていられないかもしれないな。」
目元は皮膚が薄い。その分刺激にも弱いのだ。この反応は当然と言える。
「ぼやぼやしているとタイムリミットになるぞ。急げ!」
ジューダスがそう言い、注意深く周囲を見渡している。あわててロニとナナリーも同じように探し始めた。
「俺たちはあっちを探してみよう!リアラ。」
「うん。」
カイルたちはさらに奥の方へと向かっていく。
「俺とハロルドは、そこの崩れた階段から上を探してみようか。」
「いいけど飛ぶわけ?」
「フォース形態を持ってすればあの程度の段差は何とかなる。さあ、時間がない、俺の左手に……。」

155: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 21:51:42
言い終わる前にハロルドはシンの背中に飛びついていた。
「あんた、あたしをおぶりなさい。あたしの乗り物になるのよ!」
どうやらシンを空飛ぶ馬か何かと勘違いしているらしい。深くため息を吐きつつ、シンはフォース形態をとり、ふわりと浮いて崩れた段差を飛び越えた。
「でも低レベルのプロテクト解除キーってどんな形をしてるんだ?」
「んー?小さくて薄っぺらいシリコン製の板に、導線が何本も飛び出してる形してる。」
シンはその形を頭の中で描いてみた。どこかで見知った形状だ。彼は独り言として口から漏れていた。
「過去のコンピュータの集積回路みたいなものか……。」
「何か言った?」
「い、いや。けど、ジューダスはともかくとしてカイルたちは大丈夫かな?」
「大丈夫よ、ちゃんと表面に名前書いてるし。」
しかし、ヒントは手に入った。その手の精密機器なら、保管できる場所は限られてくる。埃を遮断できる、それもかなり頑丈なボディを持ち、内部に緩衝材を使っているはずのものだ。
適当に戸棚に入れておくわけにはいかないのだから、それこそコンテナのようなものか、そうでなければアタッシュケースに保存されているに違いない。
ほどなくして、それは見つかった。シンの予想通りコンテナの中に保存されていた。
「あった、これは……ジーンチップみたいだな。名前が書かれてる。」
「お見事!さっすがあたしの助手!」
「助手兼モルモット、だと思ったんだけど。」
「いいじゃない。それともただのモルモットにされたい?」
「……勘弁してください、お願いします。」
まだ時間に余裕はある。探索を続けることにした。このジーンチップがあった二階に、もう一つのチップ、セルチップが置いてあった。
これもシンの思ったとおりアタッシュケースの中に入っていた。時間が迫っている。後は合流予定の場所に戻るだけだ。
「うう、そろそろ呼吸が苦しくなってきたな……。」
「とにかくマスターキーを手に入れるためのチップは二つあるし。あのジューダスっていう仮面ちゃんなら、あんたと同じように見つけられそうだし。マスターキーはすぐね。」
合流地点には既に全員が揃っていた。やはりジューダスが見つけたというバイオチップと合わせ、全ての低レベルプロテクト解除キーが揃った。
「全く、カイル。お前は一体どこを探していたんだ。」
何も見つけられなかったカイルに、ジューダスが説教をしている。
「いやあ、床に落ちてるかな、と思ってずっと床に張り付いて探してたんだよ。」
「この手のチップは精密機器だ。落ちているものが使えるわけがなかろう。」
低レベルのプロテクト解除キーの場所はわからなかったハロルドだが、マスターキーを保管しているコンテナの位置は知っていたらしい。彼女はチップを嵌め込み、コンテナのロックを解除した。
「これがマスターキー。これは温度変化にも耐えられるから、一旦外の空気を吸いに行きましょ。」
彼女が取り出したのはカードキーだった。余計なことは考えない。早く外に出る必要がある。
全員駆け足で出口に向かい、外に出ると口を覆っていた布を取り外して深呼吸した。
「ふいいい、あー、死ぬかと思ったぜ。でもよ、またあの中突入しなきゃいけねえんだよな。ああ、俺の男が錆付いちまうぜ。」
「元から錆だらけの癖に何言ってんだい。」
「うるせー、オトコオンナ。あんな嫌な空気の中にいたら肌が荒れるだろうが。まあ、お前ならそんなこと気にする必要は……あぎゃああああああああああああ!」
毎度お馴染みの対ロニ専用格闘術、コブラツイストだ。この遣り取りに苦笑しつつ、シンはソーサラーリングで雪を溶かし、新たに作った水溜りで布を再び濡らしていた。
「低レベルのチップは予備の場所がわかんなかったけど、高レベルプロテクト解除キーのセルキー、バイオキーはマスターキーでロックされてるから大丈夫のはずよ。それがあれば資材コンテナは開けられるわね。」
ハロルドはそう言いながら物資保管所の扉を開けた。残る6人は溜息を吐きながらその後を追った。

156: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 21:52:57
今度の高レベルプロテクト解除キーを保管しているものは、マスターキーがなければ開けることはできない。よって、ばらばらになって探す必要もなく、全員固まって移動することになった。
「セルキーゲット!次はバイオキーね。」
バイオキーはバイオチップがあった場所にある別のコンテナの中に置いてあった。スリットにマスターキーのデータ読み込み部を差し込んで滑らせ、プロテクトを解除して取り出した。
「これでよし。後は物資保管所の一番奥にあるコンテナから適当に材料取ってくわよ。」
ハロルドは6人などそっちのけで階段を駆け下り、目的のコンテナに取り付いた。
「ここにキーを差し込んで、と。よし、必要な材料はバルブに断熱材に、あ、そうそう、このパイプもいるわねー。」
ハロルドの様子を察したシンが彼女の横につき、ハロルドが手にした材料をせっせと受け取る。予想していたほど大荷物ではないが、意外と重い。
「とりあえずソード形態で楽させてもらおう……。」
シンはソード形態をとり、重力を調整して負担を軽減した。嵩張るがどうにかなりそうだ。

道中足元が覚束なかったが、カイルやロニが適度に交代してくれたので、何とか拠点まで一つとして落とさずに持って帰ってこれた。
幸運なことに天上軍が派遣した殺人マシンにも出会わずにすんだ。シンが、これでしばらく休めそうだ、と思った矢先。
「あ、シン。あんたはあたしと一緒に強襲揚陸艇の製作を手伝うのよ。カイル、あんたが責任持って兄貴に報告して。」
「え……。」
シンが返事をする前に、ハロルドはシンの左の袖口を掴み、楽しそうに歌いながら開発室へと向う。
「飛べー、飛べー、ロケットォ!燃料噴出し火を上げてえ!」
音痴、というか独特音感様というか。シンは頭痛がする思いだった。
「俺には休みってものはないのか……。」
「あんたは普通の人間よりスタミナも体力もあるんだから。ほら、文句言ってないで荷物持って来なさい!」
ハロルドを守るように言われたのはいいが、当の本人がこれでは疲れる。シンは目眩がしそうだった。

157: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 21:54:04
TIPS
称号
 ハロルドの助手
  歴史的天才科学者の助手にされてしまった。
  名誉かもしれないが、任命された本人はいい迷惑。
  しかし、任命された彼は義務感が強いから、きっと大丈夫!
   知性+1.5 詠唱+1.0

158:236
07/10/16 21:54:19
小ネタ氏さん、ありがとうございました。と、思いながら保管庫の見直しして、なんか妙だな…と思って
いたら、第二話後編の最後の部分うpしてなかったよ!!orz
本当にすみません。では、最後の部分をうpしますので。

159:236
07/10/16 21:55:25
「――賭けの勝者、ピオニー=ウパラ=マルクト九世陛下の言に従い、マルクト軍第三師団に身柄を
 預けるものとする!!」

その宣言が終わった瞬間、二つの訓練場から限り無く音が消えた。そして。

………どおおおおおおおおっ

隣の訓練場から、凄まじい…まるで怒涛の如く、とでも言うような音声が濁流のように押し寄せる。隣に
いた兵士の大部分には誰の拘束が解除されたのかも分からないだろうに。しかし、一部の下士官や医務室
で既にシンを見知っている者、そして事情を知っている者には非常に衝撃的だったと思われる。

そんな風に周囲が異様に沸き立っている中、主役である少年は無感動に『何か』――主腕と補助腕を
左右二つづつ兼ね揃え、肩部に『Neis』と記された譜業――の顔面から、その薄刃を引き抜いた。
そのナイフによって何とか均衡を保っていたらしく、プシュゥゥ…と煙を上げて崩れ落ちる譜業。
哀れ、ある天才が開発した譜業はその天才と双璧を為すものによって造られた後、僅か一日でその役目を
終えたのだった。

「尚、この事について異議を申し出るものは身柄保有者であるマルクト軍第三師団長、ジェイド=カーテ 
 ィス大佐に申し出るように!以上!!」

……その名が出た瞬間、あれだけ響いていた声が余勢も残さずにピタッと止まるのもどうかと思うが。
まあ、これで不必要に彼に絡んでくる者もそうはいないだろう。

その様子を垣間見ながら、少年はあの言葉を思い出していた。あの、軍に入る決意を促した策略の推察を。

<これは、あなたが出現した時間帯にグランコクマ一帯で観測された、音素パターンです>
<そして、こちらが各地における過去の音素パターンに関するデータから酷似しているものを抜き出した 
 もの>
<二年前から観測が確認されたこのパターンは二年前、一年前、そして今年と、その観測数を増やして
 います。それが何を意味するのか……分かりますね?>

それは、確かに推測でしかない。でも、推測無くして仮説は存在しない。そして、俺が諦めない限り……
絶望は絶望ではない!!

<おや、少しはやる気になったようですね。ですが、どうするつもりです?今のあなたには『力』がない。……ほう。何でもやる、と?>
<ならば力を示しなさい、シン=アスカ。陛下の出す試験に合格する事が出来たのなら…あなたを私の
 出来得る限りで自由に動けるようにしてあげましょう>
<最も、命令と言う形ですが>

いつかはほどけるかもしれない、絡まるかもしれない。でも、今だけは張られた糸によって操られてやる。

「これから宜しくお願いしますね?シン。」
「……うまうまと嵌められましたよ。了解しました、カーティス大佐。そして――」

「ピオニー九世陛下。」

――この、張られた糸をまんまと引き上げた皇帝に。

160:通常の名無しさんの3倍
07/10/16 21:56:39
シンって苦労を進んで背負っていくのね~ともあれGJ!!!

161: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/16 22:19:30
どもですー。
まあ、シンという存在はオリジナルであれコピーであれ、守るという言葉に弱いですから。
失うものが多過ぎたから、これ以上失いたくないという恐れが背後にある、と解釈しています。
失うなら自分の方がいい、というやつです。

さて、次はダイクロフトに突入。どこまでいけるかな……?

162:通常の名無しさんの3倍
07/10/16 22:30:51
GJ
マイペースにがんばってくれ。

163:通常の名無しさんの3倍
07/10/16 22:40:27
>>161
新人スレの雑談所にはこないでくれ

164:通常の名無しさんの3倍
07/10/16 22:56:52
>>158
236氏へ
修正してみました。
いかがでしょうか?

165:236
07/10/16 23:11:56
小ネタ氏さん、ありがとうございました。

166:通常の名無しさんの3倍
07/10/17 00:04:35
>>163
お前が来るな

167:通常の名無しさんの3倍
07/10/17 00:52:53
なんというGJ!

168: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/17 18:53:26
って待てよ俺。
>>161の直前のレスが俺宛とは限らないじゃないか!
ああ、勘違い。ここにお詫び申し上げます。
orz orz

169:通常の名無しさんの3倍
07/10/18 21:16:37
>>168
なんだかんだ言ってシンにラクシズ虐殺させてキャッホーイな終わり方なんでしょ?

170:通常の名無しさんの3倍
07/10/18 22:54:41
シン過労死寸前じゃなかろうか……


171: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/18 23:41:23
では、投下します。
天地戦争時代戦闘曲「ALEA JACTA EST」の訳語が今回のタイトルです。
……間違ってたらごめんなさい。

172: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/18 23:43:39
27 賽は投げられた

アトワイトとクレメンテが捕らえられているのはダイクロフトの一室だ。
そこまで行くためには飛行可能なほどの推進力を持つ強襲揚陸艇が必要となる。そのため、それを可能な限り早く製作しなくてはならない。
「とはいえ……いくらか出来上がってるものを改造するだけでも、たった二人だけじゃ疲れるって……。」
地上軍拠点開発室の時計は午後8時を回っていた。明日には作戦が発令されるはずなので、あと4時間で仕上げたほうがいい。
休憩するのも軍人の仕事なのだ。だが、目の前の狂科学者はどこ吹く風だ。
「シン、そこのバルブとって。後、そっちの緩衝材とスタビライザーも。」
これである。しかし、彼は正確かつ的確に目的のものをハロルドに渡す。
「ほんとに優秀ねえ。あんたのこと、気に入ったわ。」
「あははは……便利な奴隷だよな、ほんと。」
ハロルドは彼のブロックワードを使用することにした。口答えは許さないらしい。
「裁きのとき来たれり……。」
「あー! いやー!」
シンから反抗する意思が失われたことを確認した彼女は、さらなる指示を出した。
「それじゃ、次はレンズジェネレーター……そこの丸い窪みがあるやつよ。それ取って。」
彼は少々涙目になりながら、一抱えはある動力炉を担いだ。
「う、重い……。」
「しばらく持っといてねー。ちょっとネジで固定するから。」
このジェネレーターは非常に重い。一応両手で抱えられるくらいの重さなのだが、重量そのものは100kgをオーバーしている。シンがソード形態をとらなければ、押し潰されはしないが腰は抜けるだろう。
戦わない分には形態変更もまたよし、である。しかし、そのせいでこのような仕事をさせられることになるのだが。
「ぐえ……。」
「あと3本締めるだけだから。大丈夫よ、あんたはそれくらいで死にはしないわ。」
「重いものは重いんです……急いでもらえると嬉しい……。」
「急いだら不備があるかもしれないしー。あたしに手抜きしろって言うわけ?」
「手抜きにならない範囲で急いでください、お願いします……。」
これがハロルド・ベルセリオスか、とシンは溜息を吐いた。当のハロルドは鼻歌交じりでドライバーを使ってネジを締めている。
「後はそこの装甲板。それを固定したらオッケーよ。ネジで留めちゃうから。」
「……空気抵抗発生しない?」
「ちょっとだけランダムな動きした方が楽しいじゃない、ぎゅふ、ぎゅふふふふふ。」
どうやら「面白いかそうでないか」が判断基準らしい。この分ではソーディアンやイクシフォスラーのとんでもない性能も「面白そう」だから作ったのかもしれない。
シンはそう思ったが、今は強襲揚陸艇を完成させるのが先だ。ドライバーを手にし、一緒になって装甲板を留めていく。
「作戦内容がどうなってるのか知らないけど、どう考えてもこの揚陸艇で地上に戻るのは無理だよなあ。」
「そうよ。兄貴たちは多分これを使い捨てにして、ダイクロフトの脱出ポッドで戻るつもりよ。こんな急拵えだもん、どう考えたってダイクロフトに乗り込んだところで破損するわ。」
ハロルドはただの狂科学者ではない。状況を把握し、必要な条件のマシンを製作できる。大抵のマッドサイエンティストは自分の思い通りのものしか作らない。しかし、どうやらハロルドは違うらしい。
シンは先ほどの「面白そうだけで物を作っている」という評価を訂正した。
「これで完成みたいね。そこに仮眠ベッドがあるからあんたはそこで寝ときなさい。」
「その間に俺の解剖をする気か?」
「んー、そうよ。問題ある?」
「あるよ。ハロルドだってどうせ明日の作戦でダイクロフトに行くんだろ。攪乱部隊とかでさ。まともに機械操作できる人間はハロルドだけなんだから、休んどかないと。」

173: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/18 23:45:13
ハロルドは嫌な笑みを浮かべながらシンを見た。
「な、何だよ。」
「あんた、兄貴に何か言われた?」
「うぐ……。」
やれやれ、とハロルドは呆れた表情で言う。
「全く、兄貴も心配性ねえ。あたしはあたしで何とかやってけるって言ってるのに。心配性のシスコンなんだから。」
シンにはカーレルが他人のことのようには思えなかった。自分もまさに心配性のシスコンだったのだから。
初めてのお遣いを頼まれたマユの後ろをこっそりつけていき、状況を確認しながら両親に携帯電話で報告していたこともある。
カーレルの頼みを聞くことにしたのも、同じように妹を持っていた兄としての気持ちを察したからだ。
「まあ、いいわ。あんたの気遣いは受け取っとく。あたしは最終チェックしてから寝るから。おやすみー。」
ハロルドは再び強襲揚陸艇に取り付き、あちこちを見て回っている。それを見たシンは一つ欠伸をし、仮眠用ベッドに横たわった。

翌日、7人はソーディアンチームと共に強襲揚陸艇でダイクロフトへと向かうことになった。
ソーディアンチームのメンバーは監禁されているベルクラント開発チーム、アトワイトとクレメンテの両名の救出が担当である。
一方のハロルド率いる工兵隊はダイクロフト内部の警戒を自分たちに向ける遊撃部隊となる。さらに、脱出時にベルクラントの機能を一時的に停止させる必要がある。
裏方の仕事とはいえ、表舞台の任務よりもハードなのだ。油断は出来ない。
「さてと、行くとするか。地上軍に入って初めての任務だ。頑張らないとな。」
しっかり睡眠をとったシンは朝食を頬張り、適当に体を動かして暖めると強襲揚陸艇に乗り込み、機器の調整をする。
「あんた、いい手つきね。」
「こういうのは得意なんだ。製作よりも操作する側だから、俺は。」
「ふーん、んじゃそれのパイロットはあんたに任せるわ。そこのレバーがアクセル、そのハンドルが方向調整。後は適当に覚えて。」
ハロルドも大雑把だ。しかし、シンは計器が何を意味するものなのかはすぐに理解できた。さらに、スイッチを入れていない状態で操作して、レバーやハンドルがどの程度の重みがあるのかを確かめた。
「うん、何とかなりそうだな。」
「あんたの機械の知識、ただ事じゃないわねー。どこで身に付けたわけ?」
「俺は異世界の人間のコピーなんだよ。その異世界だとこういう機械使って戦争してたんだ、ずっと。俺はそのパイロットだったんだから当然だろ。」
ハロルドはぼそりとシンのブロックワードを口にした。
「裁きのとき来たれり……。」
「あー! いやー! ……な、なんだよハロルド!」
「ネタバレしすぎよ、あんた。これからその結論出すとこだったのに!」
「だったら、どこで身につけたか聞くなよな。俺は正直に答えただけだ。」
「あんたの素直さは便利だけど、こういうときは駄目ねえ。」
「俺はそこまで便利じゃないっ。」
シンは少々頬を膨らませ、ソーディアンチームとカイルたちが来るのを待った。早朝を狙って行う作戦なのだ。すぐに来るはずだ。
ソーディアンチームはすぐに現れた。だが、カイルが問題だ。朝が弱い彼が、ちゃんと起き出すかどうか。だが。
「お待たせ、シン、ハロルド!」
どうやら、伝説のソーディアンチームとともに戦えるということで興奮しているようだ。寝坊はしなかったらしい。
「よし、全員揃ったな。シン君、発進してくれ。」

174: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/18 23:46:27
ディムロスに頼まれ、彼はエンジンを点火し、いつもの掛け声とともに急加速する。
「シン・アスカ、強襲揚陸艇、行きます!」
地上軍拠点から真っ直ぐ上空へと舞い上がり、ダイクロフトへと向っていく。
「ポイント設定完了、乗組員は直ちに陸戦準備をしてください! 同時に衝撃に備えてください!」
この場にいるメンバーの大部分が彼よりも階級が高い。「総員陸戦準備!」とは言わなかった。
強い衝撃と共にダイクロフトの壁を突き破り、ダイクロフト内部に侵入した。シンはハッチを開放し、それにあわせて乗組員11人は強襲揚陸艇の外に出た。
「ったく、ひでえ振動だったな、おい。」
「そうなるように設計したのよ。ぎゅふふ、計算どおり!」
「その方が楽しいからだってさ。諦めてくれ、ロニ……。」
ハロルドの奇行の直撃対象にされているシンが溜息混じりに言うのを聞き、ロニは沈黙した。こんなものは序の口なのだ、ということがロニには深く伝わった。
「すまん、シン。それじゃあ、俺たちの仕事と行くか!」
ロニは早速現れた防衛マシンに鎚矛を叩きつけ、一撃で叩き壊す。カイルやジューダスもそれぞれに剣を振るって撃砕している。
どうやら問題なさそうだ、とシンもサーベルを一閃させて自動殺人マシンを破壊した。しかし、シンは何か違和感を覚えた。それが何なのかまではわからなかったが。
「よし、われわれはこのまま人質の救出に向かう。君たちの仕事は危険なものだが……。」
「任せてください!俺たちならやれます!」
ディムロスの返事を待たず、カイルが返事をした。ディムロスは苦笑しながら頷き、カーレル、イクティノス、シャルティエを引き連れて奥へと進む。
「よし、このまま俺たちも奥に進もう!」
カイルが号令し、一行も彼に続こうとした。しかし、ハロルドが制止する。
「ちょい待ち。あんたたち、このマシン知ってる?」
「知ってる。それがどうかしたのか、ハロルド?」
ハロルドはシンが切り裂いたマシンを凝視し、唸る。
「こんなマシン、天上軍は使ってないわ。メイガスやアヴェンジャーによく似てるけど、これは違う。このマシン、かなり簡易生産されてる。」
「……そうか、さっきの違和感の正体がわかったぞ。このマシンはアラストルだ。似てるから気づかなかった……。」
彼は納得したが、周囲の人間はハロルドとジューダス以外首をかしげている。
「なるほど、アラストルということは未来から引き連れてきていたわけか。天上軍の援軍として。」
「ふーん、そうするとあんたたちの目的は歴史修正みたいね。そうでしょ?あんたたちが歴史を改変しようと思っているようには見えないし、あんたたちが知ってる誰かさんは天上軍に手を貸してる。」
ハロルドは言葉を切り、さらに続けた。
「そんでもってあんたたちは改変目的以外で地上軍に加勢してる。そもそも、あたしがいるのに地上軍が負けるわけないし。誰かさんは天上軍を勝たせて歴史を改変したいわけね。全く、神様気取りね。」
どこか自信過剰な気もしたが、間違いではないのだから文句を言うべきではないな、とシンは思う。そんなことを考えているとリアラが口を開いていた。
「気取り、じゃないわ。歴史を改変しようとしているのエルレインは神の力を使っているんですもの……。」
「ってことはあんたたち、神様と喧嘩してるってわけ?ぎゅふ、ぎゅふふふふ……面白いわねえ! ますます無謀なことするあんたたちに興味がわいてきたわ。」
面白そうな玩具を見つけた子供の反応だ。シンは苦笑し、任務を続行することにした。

「そういえばシン、あんた作ったの、その神様?」
「そうだけど。それがどうかしたか?」
「あたしも何度か異世界の存在を確認しようとしてるんだけど。今んとこ7つくらいは見つけてんだけど、あんたが言うような世界はなかったわ。」
彼は唖然とするしかなかった。強襲揚陸艇を作っているときも「私の頭脳は神をも超えるのよーん!」と言っていたが、本当らしい。さすがのフォルトゥナもここまではできまい。
「でもねえ、異世界から人間とか物体転移させるの、まだなのよねえ。うーん、燃えるわあ。」
「何でまた……。」

175: ◆dCLBhY7WZQ
07/10/18 23:48:06
「あんたたちの知ってる神様はあんたを作ることはできたんでしょ? なら、あたしはその一歩先を行くわ。異世界から物体を転移させる! 楽しいと思わない?」
「夢があるとは思うけど……。」
しかし、ハロルドは人差し指を立てて言う。
「夢で終わらせたら面白くないのよねえ。とりあえず転送技術からはじめることにするわ。異世界から物を持ってくるのはその後よ! ぎゅふ、ぎゅふふふふ。」
確かに神をも超える頭脳は持っているかも知れない。少なくともシンには、ハロルドなら歴史改変などという手段を使わずとも目的を達することはできそうだからだと思っている。
歴史を作り変えて好き放題するなど、反則行為もいいところだ。
「おっと、考える暇はないな!」
未来からの増援であるアラストル、天上軍の殺人マシンのメイガス、アヴェンジャーが襲い掛かる。アラストルは適当に捌けばいいが、残りはそうもいかない。
メイガスが扱える晶術はネガティブゲイトだが、兄弟機であるアヴェンジャーは光の中級晶術、プリズムフラッシャを使える。シンにとっては大問題だ。彼は極端に光属性攻撃に対する耐性が低いのだ。
光に弱いこと自体は、元の世界にいた頃から知っていた。肌が病的なほど白く、日光は天敵だった。それに、目の色素が極端に少なかったため、暗闇でものを見ることはできても日中の日差しの中ではほとんど前が見えなかった。
それがこの世界に来ると、属性としての弱点に変化したらしい。自分の特徴がそのまま属性耐性に変化するとは皮肉なものだ。
「けど、攻撃させなきゃいいはずだ!」
アヴェンジャーに攻撃する暇を与えない。晶術のコアとなる晶術制御装置の位置は、ハロルドの性能テストの際に解体して確認していた。瞬時に見つけ出し、剣を突き立てて破壊する。
「くっ……邪魔だ!」
敵のマシンが邪魔なのではない。自分の中に入り込んでくる狂気が邪魔なのだ。押さえつければ押さえつけるほど余計に襲ってくる。
「シン、大丈夫か!?」
カイルが気遣って声をかける。しかし、仲間の存在だけで抑えられるようなものではなくなりつつあった。ハロルドの実験対象として戦い、力の器を広げたせいだ。
戦いの経験を積めば積むほど力もつくが、同時に狂気も強くなる。このままでは力尽きるまで破壊を続けてしまう。
守るために力を欲したのに、その力のせいで仲間を傷つけるかもしれない。矛盾が矛盾を呼び、シンは苦しむことしかできない。
「このっ……!」
目の前に現れるマシンに斬撃を与え、火花を散らせる。仲間の存在と自分の意思で狂気に蓋をし、どうにか自我を保っている。しかし。
「うう、ぐっ……があああああああ!」
シンの精神力が途切れた。ブラスト形態に入れ替え、ネガティブゲイトとケルベロスを放ち、殺人マシンどころかダイクロフトの設備まで破壊している。
「まずい! シンが暴走しちまいやがった!」
ロニは襲い来るマシンをハルバードで叩き壊しながら言った。その声でシンの様子に気づいたジューダスが素早くシンの背後に回る。
「ちっ、シンの力を解除するぞ! カイルも手伝え!」
「わかった!」
ジューダスはシンを羽交い締めにし、身動きを封じる。しかし、シンは刃物を手にしている。凶器を持つ狂人ほど危険なものはない。危うくジューダスは斬られそうになり、シンから離れる。
「ううううう……がああああああああああ!」
完全に殺人衝動に取り込まれている。何かを殺さずにはいられない状態らしい。カイルが接近し、シンの頬に拳を叩きつけ、仰け反ったところをジューダスが彼のブレスレットを外した。
彼の顔から狂気は失せ、サーベルも消え去る。シンはがっくりと膝をつき、肩で息をした。
「はあっ……はぁっ…………。」
「危ないところだったな。お前はしばらく戦うな。いくらお前が僕たちを守りたいと言っても、お前がその調子では何もできん。」
「シン、無茶するなよ。シンが苦しむのは……俺、見たくないから。」
ジューダスとカイルの気遣いは痛いほどよくわかる。彼は二人の言を受け入れ、とりあえずは引き下がった。
しかし、戦闘に何も参加しないわけではない。全身のばねを使って注意を引きつけ、ソーサラーリングでダメージを与え、必要に応じてナイフを使って殺人マシンの配線を切断する。


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