07/10/27 23:32:24
第七十一話『俺は俺のやり方でやり遂げる!!』(後編)
「やっぱり、起きたか…。」
ダイキは湖の方から響く轟音に顔をゆがめた。MSはその存在だけで争いを呼ぶ。乗っているものがどんなよい人間であっても、
"力"を持つということはそれだけで周りの不安をあおり、人々の心に影を落とすものだ。
2機のMSは上空を飛び回りながら激しい攻防を繰り広げている。ダイキから見て状況は五分と五分。赤い翼を持つ方の機体は
おそらく昼間出会った少年なのだろうが、期待の損傷などを考えると見事な戦いぶりだろう。
「とっととサクラを連れ戻した方がいいな。良い森だったんだが…。」
戦闘のおかげで森の中で火事が発生しているらしく、あたりに焦げ臭い匂いが充満している。
この森をでてどうしようか考えをめぐらせながらダイキは湖への道を走り出した。
サクラは空を飛びながら戦う2機のMSをじっと見つめていた。
外部スピーカーから聞こえる2人の話の内容は彼女の知っているものではない。
彼らの住んでいた地域で一体に何が行われていたのかはわからないが、シンが離反者であることは理解する事ができた。
「"誰もが幸福で幸せに生きることのできる世界"? "ディスティニー・プラン"? 一体、何があったって言うの…?」
彼女の中で次々と疑問符が浮かぶ中、2機の戦闘は続いていた。
『お前だけでできることなど、たかが知れているということをなぜわからない!?』
『数字で書かれた苦しんでいる100万人よりも、目の前で苦しんでいる1人を助けることほうがよっぽど現実的だよ!』
空中を飛んでいた金属製の板状のものがまた1基破壊される。これで4つ目、24回の射撃でようやくここまで減らす事ができた。
『世界の調和のために1人を殺すことなんてできない! そいつを殺すことでたとえ100億の人間が救えたとしても、
その1人がつらい思いをするなんて間違ってる!!』
シンの言葉にサクラの脳裏にある映像がよみがえった。いつの頃なのかよく覚えていない。
靄のかかったその映像の中には笑顔の裏に不安を隠した男の顔がある。
私は100億人の命よりこの子の命をとった…。
本当によかったのだろうか……?
男の口は、確かにそう動いていた。