ゲッター線が種・種死に興味を示したようですGat SHAR
ゲッター線が種・種死に興味を示したようですG - 暇つぶし2ch2:109
07/06/07 20:55:38
>>1さん、乙です。次スレでもがんばります。

3:通常の名無しさんの3倍
07/06/07 21:53:17
チェンジゲッター3ゲット!
>>1
乙!!

4:通常の名無しさんの3倍
07/06/07 22:32:44
>>1おつ!

5:通常の名無しさんの3倍
07/06/07 23:01:49
>>1乙。
2スレ目がGってことは、3スレ目は真・ゲッター線が~、とゲッター線が~號のどっちなのかな?

6:通常の名無しさんの3倍
07/06/07 23:06:01
>5
まぁまずは「號」じゃない?
んで、次が「真(チェンジ)!」…。
5スレ目が大変だな。

7:491
07/06/07 23:22:41
>>1乙です
前スレの最後の流れ読んで軽くビビってたり
なんか戦闘シーンがないせいでえらくスムーズに進んで明日には前編あたり投下できそう

8:通常の名無しさんの3倍
07/06/07 23:33:25
>>6
無印→G→號→真→アーク→真(チェンジ)!!→ネオ→新でいいんじゃない?
まぁそこまで続くかどうかは分からないけど。

9:通常の名無しさんの3倍
07/06/08 17:18:02
斬も忘れないで下さい

10:通常の名無しさんの3倍
07/06/08 18:54:32
斬はほら、タイトルになってない。

11:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』前編 1/9
07/06/08 19:20:45
 ―真っ白な天井が見えた。
 清潔感溢れる、というよりは病的なまでの潔癖さを表したような白さだった。
 知らない天井だ……などと思ってる場合ではない。
 意識が覚醒し、自分の身に降りかかった不条理極まりない記憶を思い出してベッドから起き上がる。
 自分の胸に手を当ててみる。今この身を包んでいるのは拘束服ではなく患者服であ
り、その下には湿布や包帯の感触がある。頭にも包帯は巻かれていた。
 出来れば夢であってほしかった。実はドッキリでプラカード持ったヴィーノやヨウ
ランがネタバラシで出てきたり俺たちの戦いはこれからだ的な消化不良でありつつも
それはそれで味があっていいんじゃね?なオチだったり……まぁとにかく現実でない
ことを祈っていたが、そんな希望的観測は突然部屋に入ってきた白衣の男によってコ
ンマ数秒でものの見事にぶち壊された。
「もう目が覚めたか、意外にタフな奴だ」
「アンタは……っ!」
 忘れるはずもない。自分がこんな無味簡素な部屋で寝覚めが悪い重いをしなければ
ならなくなった元凶中の元凶。
「早乙女達人!」
「わざわざフルネームで呼ばれなくても自分の名前くらい知っている」
 肩をすくめながら近づいてくる。
「とりあえず、話はできるか?」
「今さらっ……何を話すつもりだよ?」
「君を取り巻く状況のすべてを」
 さらりと出てきた言葉に一瞬呆気に取られる。なんとか表情だけは平静を保ったも
のの、内心ではさらに疑惑が増していた。

12:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』前編 2/9
07/06/08 19:23:04
「アンタの話が本当だって信じると思ってるのか?」
「話す前からその態度じゃ疑わしいが、まぁ聞くだけは聞いておけ」
 そう言ってパイプイスを引っ張り出し、傍らに座る。
「…………」
「…………」
 沈黙。どうすることも出来ないのでただ黙って待つ。
 一分、二分、三分経つ。
「あー……」
「…………」
 四分、五分、もひとつおまけに六分が過ぎ……
「長ぇよ!?」
「あぁスマン」
 思わず突っ込んでいた。普通に謝られた。なんだこの展開。
「いや、どう説明しようかと悩んでいたんだが……」
 ふぅ、と溜め息をひとつ置いた後、
「回りくどいの言い方は苦手だから単刀直入に言おう。シン・アスカ、ここはお前の
知っている世界じゃない」
 そんな電波なことを宣告された。



13:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』前編 3/9
07/06/08 19:24:31
「…………マジかよ」
 達人からすべてを聞いた後、出てきたのは何の捻りもない陳腐な言葉だけだった。
 事細かにこの世界―西暦だったか―のことを説明されたがそれでも納得でき
ず、最終的にそれが現実だと思い知らされたのは二つの証拠を示されたからだった。
 まず一つは小さなモバイルに映し出された世界地図。オーブという国は影も形もな
く、逆にユニウスセブン落下の影響を強く受けたはずの地上は落下前と何一つ変わっ
ていなかった。地図から消滅したはずの北京も綺麗に残っている。
 あるはずのものがなく、ないはずのものがない。一瞬データの改ざんを疑ったが、こんな嘘をついて彼らに得られるものがあるようには思えなかった
 二つ目はNジャマーが存在しないことだった。ザフトで支給されるパイロットスー
ツに備え付けられた簡易測定器を使ったところNジャマーの反応はまったく確認され
なかったのだ。こればかりはごまかしようもなく、それも自分から言い出したことな
ので偽装を疑う余地は皆無だった。
 ―まるで性質の悪いB級SF映画だ。大見得切った製作発表後から非難轟々、挙句
一部のスタッフが仕事をボイコットして流れに流れて丸一年、苦し紛れの未完成公開
で黒い歴史にその名を残すことになるという伝説級の迷作に……
 イカン、何を言ってるのか解らなくなってきた。
「とにもかくにも現実だ。理由はわからん。気まぐれな神が戯れ程度の気軽さでやら
かしたことなのかもしれん」
「……もし本当にそんなことだったら、神ってのは俺の敵だ」
 普段は信じてもいないものにこういうときに限って感情をぶつけるって人間っての
は勝手な生き物だなーと思いつつそれでも言う。
「で、アンタらは俺に何をさせたいんだ?」
「なぜそう思う?」
「でなけりゃあんなことやらかした後でこんな扱いされないだろ」
 包帯を巻かれた頭を指差しながら言う。例のテストだのの合否は知ったことではな
いが、ここまで治療してこちらの現状を知らせるあたり自分はまだ解放されないのだろう。
「なるほどな、明白だ」
 達人は得心したように頷き、腕を組みながら深くイスに座り直す。
「その話に移る前に聞いて欲しい。ゲッターと、鬼に関しての話だ」



14:通常の名無しさんの3倍
07/06/08 19:25:07
支援

15:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』前編 4/9
07/06/08 19:27:05
 ―早乙女研究所の格納庫は常に慌しい。
 研究員は整備も兼ねているので大抵はプロトゲッターのテストのための準備、もし
くはテスト後の後始末で多くの研究員が忙殺される。おかげでゲッター計画初期こそ
結構な数の人員がこの研究所にいたのだが、今となってはそれの半分以下の人数しか
いない。もっとも、研究班はパイロットに比べればまだマシな方になるのだが。
 ……そして今日、格納庫はその『日常』とは違う空気で満たされていた。
「早乙女博士!」
 階下からの呼びかけに目を向ける。ゴーグルを着けた研究員たちが奔走する中、一
人がこちらを見上げていた。
「ケーブルの接続完了、いつでも行けます!」
「よし、実験を開始する。すぐに全員を下がらせろ!」
「わかりました!」
 その言葉を聞き終えた後、視線を水平に戻す。
 目の前にはワイヤーに吊り下げられ、大小無数のケーブルを繋げられた鋼の骨格。
機構を剥き出しにされた状態ではあるが鋭利な三又槍(トライデント)のシルエットは
どこか獰猛さを秘めているかのようだった。
「博士、ゴーグルを」
「うむ」
 手渡されたゴーグルを装着し、再び階下に目を向ける。退避は完了したようだった。
「よし……これより起動実験を開始する!」
「ゲッター線、注入します!」
 隣に立った研究員がレバーを上げる。ケーブルからエメラルドグリーンに輝くゲッ
ター線が液体のように流れ込み、鋼の怪鳥の無機質な身体に毛細血管のように細く光
が奔っていった……


16:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』前編 5/9
07/06/08 19:28:17
「ゲッター線は一言で表すなら魔法の光体だ」
 そんな言葉で始まった話はにわかには信じがたいものだった。
 ―それはわずかな量ですら膨大な力を秘め、宇宙を満たすように存在する無限エ
ネルギー。一時期はこのエネルギーをその無尽蔵という特性を活かし宇宙開発の面で
の研究が進められていたが、一部の研究者が軍事利用としての利用についてのレポー
トを提出し、それが政府の目に止まった。以降ゲッター計画は宇宙開発という目的を
兵器利用のための研究に移り変わり、政府が監修する中でのものとなっていった、ということらしい。まだまだ未知の存在であるというのに、である。
「……勝手な話だな」
「確かにな、だが父さんは進んでその話を受けた。特に人員に関しての優遇を約束する代わりにな」
「そんな、何で?」
「ほとんど同時期に現われたんだよ、鬼がな」
 ……鬼、この世界に来て初めて見たあの怪物か。
「父さんは鬼に対抗するためにゲッターロボを造り上げた。まぁ未だに完成していないんだが」
「完成してない? でもアレは」
「あれは試作機だ。基本的な機構は完成型と同じだが炉心の出力がまだまだ足りていない」
 ―衝撃だった。ただでさえMSを遥かに凌駕する性能のあれが試作品?

17:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』前編 6/9
07/06/08 19:29:19
「そもそも、ゲッターロボってなんなんだ?」
「三機の戦闘機のパターンを入れ替えることで三種のロボットへの合体が可能、というのは知ってるな?」
 ……それは痛みとともに充分すぎるほど身に染みている。
「それぞれの形態は戦う地形や戦術に特化している。地形なら空戦、陸戦、海戦という具合にな」
「なるほど……」
 シルエットやウィザードシステムと似ているな、と感じた。とはいえまったく別と
言ってもいいほどの変貌を遂げるゲッターとは比べられるレベルではないが。
「本来なら三人でゲッター一機の編成だ。三人揃わなければ完全な力を引き出すことはできない」
「なるほど……って待った!」
 今何かが引っかかった。
「どうした?」
「じゃあ何か? アンタ俺と戦った時って三人がかりだったのかよ!?」
「いや、俺一人だ。他の機体からでもコントロールが効くようになっている」
 予想の斜めを行く答えだった。なんかこう認めたくない方向に。
「ってことは、あのときって」
「フルメンバーのときの三分の一以下の性能だった、ということだな」
 ……何だこの敗北感。これならまだ三人がかりだったほうがよかった。

18:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』前編 7/9
07/06/08 19:30:15
「シン」
「……なんだよ」
 不貞腐れる。ガキっぽいとは思うが手加減されたのにあれだけボコボコにやられたのだ、不機嫌にもなる。
「悔しいのか?」
「……そりゃ悔しいさ」
「それは俺に負けたことか? それとも無力な自分が、か?」
「だったら、なんだよ?」
 どうにも意図が読めない。どこか誘導されてるような気がする。
「ゲッターのパイロットになってみないか?」
「――は?」
 意味が解らなかった。なんでそういう質問をかけるのかが。
「なんで俺が? っていうか、なんでそうなるんだよ?」
「例のテストの結果だ」
 あぁそういえばそんな名目でしたね、あの私刑(リンチ)。
「ってことは合格だったのか俺?」
「いいや全然。及第点以下だ」
 ……待て。
「だがそれなりの素質がある可能性もある、というのがこちらの見解だ。一から鍛え
直してみないか? ゲッターの、パイロットとして」

19:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』前編 8/9
07/06/08 19:31:27
 やなこった、と言いかけたが口から出ることはなかった。何故だろうか、厄介ごと
だと解りきってるのにもう少し話を聞いてみたくなった。
「素質って、なんだよ」
「お前が俺に一発、良いのを入れただろう? あの爆発力だけはなかなかのものだった」
 そう言いながら達人は自身の頬を指差して苦笑した。
「どうせ自分の世界に帰る当てもないんだろう? こちらはその手段を探す、お前は
その代わりパイロットとしてこちらに尽くす、ギブ・アンド・テイクだ」
「……強引だな」
「父親譲りでな、その上しつこい」
 最悪だよそれ。
 だが確かにこちらでは行く当てはまったくない。プラントもザフトも―ついでに
オーブも―存在しないのだから当然だ。
 それに、
「……わかったよ」
 少なからず、ゲッターという存在に興味があった。それはとても危ういものだと思
う、しかしそれでも気になり始めていた。
 ―ゲッターとは、なんなのか?
「交渉成立だな。……あぁそうだ、これは返しておく」
 そう言って傍らの小さなデスクに何かが置かれる。
 ピンクの、携帯電話。
「あ」
「すまないな、お前が着ていた服に入っていたのを預からせてもらっていた」
 そうか、いつもお守り代わりに持っていたから……
 今の今まで忘れてた自分がなんか情けない。
「地獄へようこそシン・アスカ、どれほどの付き合いになるかわからんが歓迎しよう」
 感慨を覚える暇もなく憎たらしいほどのふてぶてしい笑顔でそう告げられた。
 ―ひょっとして早まったか? 俺……



20:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』前編 9/9
07/06/08 19:33:36
「ゲッター線の注入、完了しました!」
 報告を聞き終え、早乙女博士はゴーグルを外す。外見上の変化は見られないが全身
にゲッター線が走っているのをモニターで確認する。
「よし、続いて可変機構のテストを行う」
「合体モード、スイッチオン!」
 ボタンが押された瞬間、鋼の骨格に変化が生じる。
 両側の突起が折りたたまれ、中心の矛先が先端から二つに割れた。剥き出しの機構
が連鎖式に細々とした変形を遂げ、割れた矛先の中心あたりで二つの光が灯った。
 ―すべては一瞬、コンマ数秒での出来事だった。
「…………どうだ?」
 データを計測している研究員に問いかける。他の研究員も同じだ。
 この一瞬のために長い時間が培われてきたのだ。今度こそ、今度こそはという期待
が目に宿っている。
「計測完了……」
 誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
「数値は予測の範囲内……成功です!」
 ワッ、と格納庫で喝采が沸いた。抱き合う者、むせび泣く者、それぞれが堆積した
思いを存分に溢れ出させていた。
「やりましたね、博士!」
「うむ……」
 しかし早乙女博士は取り立てて反応を示すこともなく変異したマシンに目を向けていた。
「ようやく、か」
 その言葉にどれほど感情があったのか、どんな思いが込められていたのか、
 この一時の成功に浮かれる者たちがその機微を察することもなく、
 鋼の宿した双眸だけがそれに気付いたように爛々とした光を発していた。

21:491
07/06/08 19:37:01
うぇるかむとぅーざへーる
これからが本当の地獄だ……
しかし戦闘描写に頭を悩ます身としてはこういう話のほうが書きやすい、
だが盛り上がらないorz

後編は特訓編に入ります

22:通常の名無しさんの3倍
07/06/08 19:48:20
わ ぁ い

23:109
07/06/08 19:51:46
GJ!!会話のテンポがよくて読みやすかったです。
ついに新ゲッター始動ですか。次の次ぐらいで竜馬が来そうですね。

24:通常の名無しさんの3倍
07/06/08 21:33:06
今更だけど、竜馬=石川英郎はかなりハマり役だと思う俺。


25:通常の名無しさんの3倍
07/06/08 21:37:45
GJ!

シンよ、仮にも自分の主演作品に向かって黒歴史級の迷作だなんて…え?誰も○死の事だと言ってない?

26:通常の名無しさんの3倍
07/06/08 22:12:57
俺はてっきりガンドレスのことかと

27:通常の名無しさんの3倍
07/06/09 00:43:42
鋼鉄ジークですね

28:通常の名無しさんの3倍
07/06/09 02:32:01
>>27
死ねぇ!

29:通常の名無しさんの3倍
07/06/09 03:11:55
今に見ていろジー“ク”とか書く奴 全滅だ

30:通常の名無しさんの3倍
07/06/09 08:39:14
ジーグな

ジークってジークフリードじゃないんだから・・・

31:109
07/06/09 21:09:50
第五話後編の続きは明日に投下します。できるだけ一週間に1,2回のペース
を守れるようにしたいです。

32:通常の名無しさんの3倍
07/06/10 15:38:23
前スレのログを持ってる人いませんか?
しばらく目を離しているうちにdat落ちしてたorz

33:通常の名無しさんの3倍
07/06/10 17:43:37 Huqe+/KR
>31
待ってました!
ちなみにシャインスパークは隼人が早乙女博士のゲッターと同じモノを造っただけで満足するわけがないということで納得できます。
・・・・・・ゲッター炉心を載せ換えるとストナーサンシャインを撃てるようになるのでしょうか?

34:通常の名無しさんの3倍
07/06/10 18:01:09
>>33
ああゲッターだからな。

35:491
07/06/10 18:23:36
こっちの投下は安定しないな……

>>33
私的解釈だけど例えば旧ゲッターにゲッター線増幅炉を搭載してもシャインスパークが使えるか、
というのは違うような気がする
新ゲでは炉心変えてもシャインスパークやストナーの類の武器は使えなかった、けど巨大トマホークや真並のビームは撃てるし
まぁどっちかというと機能を付加するよりゲッター線が進化させそうなイメージが強いけど

非常にどうでもいいけどテキサスマックやステルバーやボルガ出してーと思案した結果、
ネオゲのアフター世界くらいじゃないと出すのは無理だと気付かされた件について
新ゲは世界まで戦いが発展しないからなぁ……

36:通常の名無しさんの3倍
07/06/10 18:40:59
強力すぎるゲッター炉を積むと機体が耐え切れずに、原作版の武蔵や弁慶の最後に辿り着くんじゃないのかな。
極論だけどエンペラーや聖ドラゴン並みのことは普通のサイズのゲッターには出来ないみたいですし。

37:通常の名無しさんの3倍
07/06/10 19:57:02
>>35
wktkして待ってますよと。
新ゲには元から必殺技系の武装がない。ビームもドリルもミサイルも見たまんまの単なる武器(攻撃手段)。
後はゲーター炉の出力と搭乗者のテンション次第ぽい。
世界に戦いが波及しないというより新ゲの敵は対ゲッターのヒットマンだからね。
元から自力で異世界からやってきていた相手だし、種死の世界だろうと出てこないほうがおかしい希ガス。

>>36
そりゃ惑星サイズやにデカイからな。
ビックリマンみたいなネーミングだよな>聖ドラゴン

38:通常の名無しさんの3倍
07/06/10 20:24:50
> ビックリマンみたいなネーミングだよな>聖ドラゴン
ゲッターロココと申したか

39:通常の名無しさんの3倍
07/06/10 23:22:51
ゲッターバカラ参上!

40:通常の名無しさんの3倍
07/06/11 00:04:33
投下まだー

41:109
07/06/11 00:30:49
本当に申訳ありません。今日中の投下は無理です。
明日、必ず投下します。

42:通常の名無しさんの3倍
07/06/11 12:01:02
燃えはあるが、萌えはないスレだなーと思ってたが
109氏が萌えキャラだと気付いた。
可愛いよ109タン。

43:491
07/06/11 13:05:21
こちらは2日ほど空けるんで明後日ごろの投下になりそうです
オリ設定過多な予感

つかこの作品って蛭田率高くね? と今さら気付いた
いや大好きだがね蛭田
蛭田の元ネタって石川氏以外のゲッター漫画家からだっけ?

44:109
07/06/11 23:19:19
ほんっっっっっっっとうにごめんなさい。頭痛がひどくてダウンしてます。
今週中(たぶん水曜か金曜)には必ず「長めに」投下します。
そんでもって今日ははやくねます。

45:通常の名無しさんの3倍
07/06/11 23:35:25
>44
お大事に。

46:通常の名無しさんの3倍
07/06/11 23:48:36
こんなスレが立ってた

デモンベインVsラ=グース
スレリンク(gamerobo板:1-100番)

47:通常の名無しさんの3倍
07/06/12 02:19:18
>>オリ設定過多な予感
ぜひオリ四天王に鬼羅、螺苦主、阿棲乱、禍餓痢を!

48:通常の名無しさんの3倍
07/06/12 20:28:25
>>47
そうすると途端にあの四人組が強そうに見えるwww

石川デザインな邪悪そうな鎧に身を包み、目をグルグルにしたあの四人を幻視
した

49:通常の名無しさんの3倍
07/06/12 21:38:56
極端に顔色が悪くなって、なんか機械がくっ付いてそうなイメージがある

50:通常の名無しさんの3倍
07/06/12 21:40:16
そういや神州纐纈城でまんまシンってキャラ出てきたなあ。

51:491
07/06/12 22:09:59
出先で虚無戦記三巻まで購入
多少知っていたとはいえ見る前と後じゃ全然印象違ぇ……さすがというかなんというか
あれ? 何しに行ったんだっけ?

>>47
そんな扱い難しいのをさらにタチ悪くしたようなのの手綱握れる自信ないないw
まぁ出番はあるかも、あぁでもアレを再現しなきゃならんのだよな
……ある意味石川キャラ出すよりキツイorz

52:通常の名無しさんの3倍
07/06/12 22:17:29
>>50
おれは石川漫画大好きだけど神州纐纈城の「絞り機」のシーンは冗談抜きに
ひいたよ。神州纐纈城は面白いけどあのシーンは正直トラウマ。
実はリアルで夢に出た。

53:通常の名無しさんの3倍
07/06/12 22:42:38
>>50
兄がシンで弟がアスカだったよね。

54:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』後編 1/9
07/06/13 21:35:47
 ―前略、天国のお父さんお母さん、それにマユ。
 と思ったけど何か伝える余裕もないので全略。不甲斐ない息子と兄を許してくれ切に。
「どうしたぁ新入り! もうギブアップかぁ!?」
「だ、だれ、が、ががが……!」
 意地って時には面倒なものだよなーとか思いながらガチガチと歯が鳴る音を聞く。
 ここは遥か上空1万mちょっと。平たく言えば雲の上。
 そんな場所をマッハの速さでかっ飛ぶ戦闘機、『コマンドマシン』の後方操縦席で人
には見せられないような姿晒している俺の名はシン・アスカ。地球は、狙われて……
「ほぅら、お次はきりもみだ!」
「ぐぉぶっ!?」
 腹から込み上げてくる嘔吐感をなんとか抑える。ボケる暇もありゃない。
 ―なんでこんなことになったのか、以下ダイジェストでお送りします。

 傷を癒したシンは達人から他のゲッターチームのメンバーを紹介された。どいつもこ
いつもえらく柄の悪い連中というかどこのマフィアか極道ですかと問いかけたくなった
がなんと自衛隊の陸海空のエリートを選出した上でゲッターの適正試験を潜り抜けてき
た猛者たちとのこと。これからの訓練は達人と彼らの指導の下行われるらしいと聞
いて不安が二乗したのは言うまでもあるまい。
 まずは基礎体力を測られたがこれはクリア。続いて操縦技術のテストもギリギリだが
通過。運動神経・反射神経のテストも及第点でテスト尽くしの一日が終わった。
 その翌日から訓練が始まったのだがその最初に課せられたのが音速下における戦闘で
あった。ちなみにコマンドマシンは複座式で操縦は蛭田という男―例のテストで乗っ
たプロトゲッターの正式パイロットらしい―に任せて自分はガンナーとしてシミュ
レーターの表示される仮想的を撃墜していく、という訓練だった。ちなみに自分に合う戦闘服がなかったのでザフトのパイロットスーツで代用することになった。機能としては問題ないらしい。
 MSの実戦を経験した身としてはこの程度のことどうってことない、そう思っていた時期が俺にもありました。ついぞ10分ほど前までですが。
 以上、ダイジェスト終わり。


55:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』後編 2/9
07/06/13 21:37:09
 回想という名の逃避から帰ってみればそこは変わらぬ生き地獄だった。
 ―死ぬ死ぬ、これ余裕で死ねる。
 いつぞやのカニモドキに引っ張りまわされた時とは比べ物にならない。
「どうだぁルーキー、ジェットコースターよりもずっとスリリングだろ!?」
 ジェットコースターっていうかデッドコースターっすね。
 急旋回、急上昇、急下降、急加速に急減速の連続。その度にあらゆる方向にGがか
かりまくるもんだから身体を全方向から抑えられて正直指一本すら動かせません。息も絶え絶えで目が霞んでモニターが見えないからターゲットも見えない、というか腕が動かせないから訓練が始まってから実は一発も撃ってません。ていうか撃てません。
 なまじ体力と丈夫さには自信が持てるくらいだからなんとか気を失わずにいられるものの、そのせいで内臓が飛び出そうなほどの圧迫感に絶えず苦しむ破目になる。
『―シン、大丈夫か? バイタルサインがレッドゾーンに入りかかっているが』
 通信機から達人の声が聞こえた。これだけ意識がすっ飛んでいきそうなのに聴覚だけはまだまともに機能しているようだ、耳鳴りも酷いが。
「な・ん・と・か」
 歯を食いしばりながら返す。ホントはあんたらだってこれ無理だろとか悪質な新人いびりだろとかぶっちゃけありえねーとか言いたいことは山とあるのだがたった四文字の言葉だけで精根尽き果てそうだった。
『蛭田、あと一分で終了する。それ以上は危険だ』
「了解。ったく、だらしねぇ新人だぜ」
 ふざけんなこのサ○野郎。
 言いたくても言えないこの気持ち、どこの誰でもいいから察してくれ。
「ふ、ふへへ、ふへへへへ……」
 ヤバ気な笑いまで漏れてきました。こらもう駄目かもわからんね。
「おらおらぁ! もう少しで終わるからって気ィ抜くんじゃねぇぞ!」
 魂ならもう抜けかかってます。なんて皮肉を反射的に言おうとしたところで急加速がかかり、思いっきり舌を噛んだ。
「ぐ……!?」
 鉄錆の味が口一杯に広がる。じわりと広がってくる痛みと不快感のおかげで危うく向
こう側に渡りかけてた意識が引き戻される。
「―ぉ」
 ぐちゃぐちゃになった頭で思い浮かんだのは当初の目的。多少マシにはなったとはい
え視界は相変わらず真っ赤になったり真っ暗になったりと目まぐるしく変化し続けるが、それでも何とか腕を動かす。
「ぬ、あ、あぁぁ……」
 ジワジワと、ミリ単位でレバーまで手を運ぶ。
 あと少し、あと少し、あとすこ……

56:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』後編 3/9
07/06/13 21:38:01
「残り30秒! これで終わりだなぁ小僧!」
 終わり? 本当に終わりなのか?
 ふざけるな、俺はまだ何もやっちゃいない!
「クソッ、たれえぇぇぇぇぇぇ!!」
 レバーを掴み、トリガーを引く。トリガーを引く。トリガーを……
 そこで致命的なミスに気が付いた。
『攻撃を確認、しかし撃墜はありません!』
 当然だった、狙いもつけずに当てられるはずがない。
「―チ、クショウ」
 やってしまった、熱くなってこんな素人以下のミスをやらかすなんて……
『そこまでだ』
 無常にもタイムアップが告げられる。わずかだがスピードが落ち、呼吸が楽になる。
『攻撃は二回、命中はゼロか』
 ほとんどシートにへばり付いてただけだったからな、と自嘲気味に振り返る。
『まぁ、よくやったほうだな』
「へ?」
『初回で攻撃出来ただけでも評価できる、ということだ。賭けは俺の勝ちだな蛭田?』
 チッ、という音が前から聞こえた。賭けってアンタら……。
『だがこれで満足するなよ。結局お前は目標を一つも落とせなかった、つまりは死亡だ。そのことに変わりはない。明日もまたやるぞ』
「……了解」
 もう反発する気も起きなかった。手を少し動かしただけで全力を出し切っていた。
『今回の訓練は終了だ。蛭田、すぐに帰還しろ』
「わかった」
 ―だからだろうか、前方のあからさまな悪意に気付けなかったのは。
「おっと、間違えた」
「……え?」
 何を間違えたのかと聞こうとした瞬間、コマンドマシンは音速の領域へと突入した。
「――ッ!?!?」
 不意打ちの衝撃で眼球が裏返り、口から何かが溢れ出し、意識は彼方へと旅立って行った。
 ……最近気絶すること多いよなぁ、なんてことが頭をよぎった。



57:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』後編 4/9
07/06/13 21:39:01
 ―真っ白な天井が見えた。
 知らない天井……
「ってそれはもういい」
 自分で自分に突っ込みを入れながら―この時点で大分ヤバイよなと思いつつ―起き上がる。
 よく周りを見渡せば昨日目覚めた部屋だった。もしくは内装が同じ部屋か。
「二日連続でこのパターンかよ……」
 頭を抱える。少し、いやかなり甘く見ていたかもしれない。ふと視線を脇に向けると棚の上にマユの携帯が置かれていた。
「……なんでここに?」
 手に取ってベッドから立ち上がる。窓の外を見てみると陽が山の向こうへ沈みかけていた。3、4時間は気を失っていたらしい。まだわずかに足がふらついている。
「それになんか、口の中に違和感が……」
「当然だ、気絶しながら吐いてたんだからな」
 振り返ると達人が壁に背を預けて佇んでいた。
「……アンタいたのか」
「これでもガキのお守りの任を受けてるんでな」
 反論しようとして、やめた。いや出来なかった。言い訳すらできやしない。
「しかし危なかったな、もう少し遅かったら溺れ死んでたぞ」
 自分の吐瀉物で溺死なんて冗談でも笑えない。まぁそんな笑えないことが現実になら
なかっただけマシなのかもしれないが。
「スーツは洗いに出した。かなり凄まじいことになってたからな」
 アーアーキコエナーイ。
「ってまさか、これにまで引っかかってたんじゃ……?」
 おそるおそる携帯を見せる。
「ん? あぁそれなら無事だ。少しも汚れちゃいなかった」
「よかったぁ……」
 ぶはー、と大きく息をつく。これまで被害にあっていたら首吊って飛び降りて海の藻屑となるしかない。
 ……我ながら猟奇的な順番だ。

58:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』後編 5/9
07/06/13 21:40:01
「しかし、そんなに大事なものなのか?」
 ―あ~やっぱ来たか、と内心で苦笑しながらできるだけ何ともないように返答する。
「形見なんです、妹の」
 あ、絶句してる。まぁ予想できた反応だった。
「すまない、さすがに遠慮がなさすぎた」
「別に気にしてないですよ。初めて会った人なら毎度聞かれてるし」
 実際、ミネルバのアカデミー同期生なら大半は知っていた。男がピンクの携帯なんて
持ち歩いてるのだから当然と言えば当選だった。
「妹、か……俺にも妹がいるんだ」
 どこか遠くを眺めているような声音で語られた。
「この研究所に?」
「いや、たまにここへ来ることもあるが本業が忙しいみたいでな。今は離れている」
 自分に倣ってか、傍らに並んで夕陽に目を向ける。燃えるような、血に塗れたような、そんな光景だった。
「……昔は、明るい娘だったんだがな。母さんが亡くなってからまるで変わってしまった」
「亡くなってって、まさか鬼に?」
「いや、病気だった。元々身体が弱い人でな。父さんの友人からも言われたよ、よく二人も子供を産めたと羨ましがられた」
 来留間博士と言ったかな、と小さく呟くのが聞こえた。
「父さんは、死に目に会わなかった。いや見舞いにすら行かなかった。だが母さんは息を引き取る瞬間まで言っていたよ、どうか父さんを恨まないでくれと」
「妹さんは、早乙女博士を恨んで?」
「さぁ……どうだかな。少なくとも軽蔑はしてるみたいだが」
 俺も含めてな、と溜め息に後悔が混じっているように感じた。
「―やり直せばいいじゃないですか」
 半ば脊髄反射で言葉が出てきた。視線がこちらに向けられるがもう止まれない。
「家族がそんな風に溝を作ってるなんて……なんかこう、嫌じゃないですか」
 生きてるのに、と言ってしまってから後悔の念が胸を埋め尽くした。何を勝手に自分
と重ね合わせているのだと。

59:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』後編 6/9
07/06/13 21:41:03
「……すみません、詳しい事情も知らないのに」
「いや、その通りだと俺も思ってはいるんだ」
 そう言う達人の顔には自嘲気味の笑みが浮かんでいた。
「今日まで諦めかけていた。いや、実際諦めていた。だが確かにこのままじゃいけないな」
「達人さん……」
「もう一度、苦労してみるか。出来の悪い生徒が一人前になったらな」
 ―出来の悪いって、
「もしかしなくても俺ですか?」
「もしかしなくてもお前の事だ」
 ガックリとうな垂れる。どうせ俺なんか……
「そう落ち込むな。ゲッターチームは皆三ヶ月の訓練を経て今に至るんだ」
 あと二ヶ月と二十九日もこんな訓練が続くんですか。
「明日から吐いても止めないからな。なに大丈夫だ、気絶しても身体だけは鍛えられる」
 悪魔だ、悪魔がいる。
「……俺死んじゃったりしないですか?」
 何を今さら、と前置きされて答えが返ってきた。
「この訓練を受けたメンバーで生き残った四割が今のゲッターチームだ」
 ―ちなみに五割が死亡、一割が一生ベッドの世話になってるそうだ。
 ……父さん、母さん、マユ、ひょっとしたらもうすぐ俺もそっちに逝くかもしれません。



60:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』後編 7/9
07/06/13 21:42:01
 こうして地獄すら少しはマシなんじゃないかと本気で考えさせられた訓練が幕を開けた。
 ようやく音速機動で気を失わないようになったところでこれまたシミュレーターと実
機を利用した合体訓練、ゲッターでの模擬戦闘、生身の白兵訓練、エトセトラエトセト
ラ……どれも生半可なものではなかった。教官方の殺る気マンマンな指導のおかげかア
カデミーの訓練なんてお遊戯に思えるくらいになってしまった。
 どれもこれも翻弄されっぱなしだったがナイフを用いた訓練はかなり早い段階で高評
価を得られた。これだけは自信があっただけに満足……と思ったのだがその後の訓練は
八つ当たりじみた教官の暴走で殺されかけた。
 そうして一ヶ月が過ぎ、合体訓練以外は苦心の甲斐あってかどうにか実戦は出来るだ
ろうというレベルに落ち着いたらしい。もっとも肝心の合体を上手くこなせないようで
は半人前以下だとも言われたが。
 実際に接してみて分かったのだが、達人を始めとしたゲッターチームの面々は決して
悪い連中ではなかった。ただ少し性根が捻じ曲がっていたりちょっと陰湿だったりわり
と常識から外れているだけで……こうして挙てみると自分でも信じられなくなってくる
が、それでも悪人ではなかった。
 彼らからは多くのことを教え込まれた。その過程でそれぞれに信念や目的があり、鬼
に恐怖し震えていてもここにいることを知った。

 ―彼らからもっと学びたいことがあった。だがそんな思いは、砂でできた城のように簡単に崩されてしまった。



61:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』後編 8/9
07/06/13 21:43:08
「ゲッターチーム応答せよ、ゲッター―」
「各自、情報を収集―」
「駄目です、爆発の影響で―」
 気付けばそんな慌しい言葉が行き交いしていた。
 ……目の前で起こったことが信じられなかった。今日の訓練が終わった直後、再び鬼が現われた。ゲッターチームは迎撃のためにメンテナンス中だった達人のゲッターを除き全機出撃、鬼と交戦し……そのほとんどが破壊された。
 あまりにも圧倒的だった。あれだけの力を持つ機体が、MSを遥かに超越した能力をッ蔵したロボットが、自分をあんなに振り回した巨体が、
 ―たった一匹の鬼に、傷一つすら負わせられずに散っていった。
 残る二機のゲッターが同時にゲッタービームを放ったがうち一発は相殺、もう一発は命中したものの出力不足で有効なダメージを与えられなかった。直後に蛭田のゲッターが装甲を引き剥がして鬼を抱え、達人のゲッターが剥き出しになった炉心にビームを撃
ち込んで反応させてゲッターエネルギーの爆発が起こした。緑色の光が首なしのゲッ
ターを中心に膨れ上がり、モニターがブラックアウトした。
「あ……あ……?」
 違う、そうじゃない。それだけじゃない。
 ―死んだ、みんな死んでしまった。
 あんなにも呆気なく、あんなにも簡単に。
「映像、来ます!」
 ザッ、というノイズが画面に走る。
『こちら、達人……』
 その声で意識が引き戻された。
 ―生きていた!
 その安堵は、しかしすぐに霧散した。
 映し出された画面では、達人は崩壊したコクピットの部品に埋もれていた。
『生きているのは……俺だけだ、父さん……他は、みんな―』
 そこまで言って、達人が糸の切れた人形のようにガクリと倒れこんだ。
「達人さん!?」
 司令室にざわめきが広がる。そんな中、落ち着いた様子でキーを叩き、バイタルを
チェックする男がいた。

62:第四話『受け継がれるもの、散り逝くもの』後編 9/9
07/06/13 21:44:01
「死んではおらん。回収を頼む」
「は、はいっ!」
 それだけの指示を出して早乙女博士は司令室を出ようとしていた。
「……それだけ、なのか?」
 立ち去る背中に向かい問いかける。聞く耳があるのか分からなかったが、それでも下駄の音はそこで止まった。
「あんたの息子だろ? あんたの目的のために今まで必死になってた連中なんだろ?
それなのになんで、なんでそんなに落ち着いていられるんだよっ!?」
 怒りよりも混乱のほうが大きかった。早乙女博士の態度はあまりにも冷めすぎてい
て、それが不思議で仕方がなかった。
「……お前はわしがどんな反応すれば満足なのだ?」
「どんな、って」
「泣き喚けと? 叫べと? 悔しがれと? 鬼どもに対して復讐を誓えと? そんなこ
とは時間の無駄だ。それより一刻も早くゲッターを御せる人間を探すほうが奴らに報い
ることができるというものだ」
 ―ギリ、と歯をかみ締める。
 確かにそれは正論だ、非の打ち所のないほどの正論だ。
 でも、それでも、
「俺は、納得できない!」
「ならばずっと沈んでいるがいい。邪魔にならん程度にな」
 そう言い残し、早乙女博士は扉の向こうへと姿を消した。
「…………クッ」
 歪んだ視界で天井を見上げる。
 ―この世界に来て、一ヶ月。シン・アスカという存在はどうしようもないほどに無力だった。


63:『次回予告』
07/06/13 21:46:32
 鬼の襲撃をなんとか退け、ついに戦闘用ゲッターのイーグル号が完成する
 無力感に打ちのめされながらもそのゲッターの戦闘力を知り再び訓練を重ねるシン

 しかし早乙女博士はゲッターのパイロットに相応しい男を見極めるために動き出していた
 ついに研究所への侵入を果たした鬼の群れを掻い潜り、ついにシンは出会う
 その男の名は、流竜馬!

 次回! ゲッターロボ運命(デスティニー)
 『波乱と絶望、そして流竜馬』
 に、ゲットマシン・発進ッ!


64:491
07/06/13 21:53:06
投下終了、駆け足気味パロ多め
今後の予定
・虚無る
「九龍覇剣虚空斬波!」
「ナイフで空間を斬ってそれを飛ばしてるのか!」
・5000光年のシン
「俺はシンだ!」
   終
・盟主兵器                   ローエングリン
「私は核爆発が見たかったんですよ! なのにこんな線香花火でごまかして!」
「げえ、アズラエル!」

うん、誰か書いて(ぇ

65:491
07/06/13 21:54:16
ルビずれた……orz
慣れない事するもんじゃないね

使えるなら使おうと思ったけどやめとこう

66:通常の名無しさんの3倍
07/06/13 22:06:04
おおう、GJです!

67:通常の名無しさんの3倍
07/06/13 22:30:31
>64
グ────ジョォ───ブ!!
非常にテンポ良く、しかもユーモラスな訓練描写に感服。
そして違和感なく「新1話」へとリンク。お見事!
俄然! 次回が楽しみだぁ───!!

68:通常の名無しさんの3倍
07/06/13 22:35:54
来留間博士って魔獣戦線のあの人がこの世界に
鬼が来なくなった後世界を滅ぼしそうだ
でも魔獣の世界って対時天空のための生物兵器を作るために
人間が生まれたきたような世界だから
ゲッターが生まれたもんだからわざわざ直接破壊しに来たのか


69:109
07/06/13 22:36:00
GJ!です。なんか来留間博士とかヤヴァイ名前があったような気がしましたけど
気のせいですよね。ん・・・なんだ、誰か来た見たい・・・

ギャー!お、おまえ何も「もうそのような事を知る必要はねえ~!」


グギャシャアズオオオ!

70:491
07/06/13 22:51:44
来留間博士のくだりはさすがにネタですw
早乙女母の自己設定書いてる途中で真説・魔獣戦線を読んだので衝動的に書き加えてしまいました
まぁほらネオゲ世界の総理が某極道兵器だったりしたんでつい出来心で
というかあんなスケールデカ過ぎなものをゲッターと絡ませるなんて無理無駄無謀、自信があったらやったかもしれないけど

あ~でもようやく一話か…
次回の竜馬は上手く再現できるだろうかと激しく不安orz

71:109
07/06/13 23:19:27
皆さんにお願いがあります。メカザウルスシリーズなんですけども、
バッテリー駆動でも、核分裂炉でもゲッター炉心でもない動力に
したのですが、いいのが思いつきません。ご意見を募集しています。


あと、ゾイド好きの方には悪いのですが、メカザウルスの外見はゾイドよりも
むしろ「メタルギアRAY」や「オービタルフレーム」に近いです。
あのヌメッとした感じの有機的な雰囲気が好きなんです。

72:通常の名無しさんの3倍
07/06/13 23:24:03
>>71
太陽光

73:通常の名無しさんの3倍
07/06/13 23:35:59
>>71
っプラズマボムス

74:通常の名無しさんの3倍
07/06/13 23:36:16
>>71
メカザウルスといえばマグマ、つまりマグマ動力!
種設定から少しズレるくらいなら核融合のほうがいいかも

75:通常の名無しさんの3倍
07/06/13 23:50:37
>>71
っ特殊合金製の自動巻きゼンマイ。正に夢のクリーンエネルギーだ!




……ごめん。ソーラーバッテリーとオートマチックジェネレーター(稼動時に発生する
運動エネルギーを自己回収して充電する一種の外燃機関)のハイブリッドとか。

76:通常の名無しさんの3倍
07/06/13 23:54:15
>>71
バリオンみたいに水

77:通常の名無しさんの3倍
07/06/14 00:11:24
>72-76
メカザウルスって地球にやさしそうですね。

78:通常の名無しさんの3倍
07/06/14 00:35:57
バイオ燃料(醸造アルコールとか炭化水素とか)による火力発電とか。

79:通常の名無しさんの3倍
07/06/14 02:26:12
人・力!

80:通常の名無しさんの3倍
07/06/14 03:35:29
安心しろ、俺はゾイドもメタルギアもZ.O.E.も大好きだ!
恐竜帝国の動力源=マグマのイメージがあるけどメカザウルスってサイボーグに近いんだよな
某空想科学読本で普通の食料がエネルギー源としては化石燃料以上原子力以下ってなってたからそれでもいいかも

81:通常の名無しさんの3倍
07/06/14 07:06:27
モノポール反応炉
マカザウルスが口から喰ったモノを触媒として使用

82:通常の名無しさんの3倍
07/06/14 08:38:35
つ自転車発電

83:通常の名無しさんの3倍
07/06/14 12:45:11
ドラえもんの原子”ろ”なら喰いモンからでもハイパワー出るぞ。
ドラ焼き欲しさに暴走するけどw

84:通常の名無しさんの3倍
07/06/14 19:12:41
やっぱりマグマ炉じゃないか?
マグマエネルギーが帝国内(マシーンランド内)での主エネルギーらしいことは
「恐竜帝国潜入作戦」や號の終盤のデビラ・ムウや蛇牙城から分かるし
なんかすごく強いぞ!って感じもするし。

85:通常の名無しさんの3倍
07/06/14 20:56:29
種世界の太陽電池パネルは超効率いいらしいな

ここはやはり日輪の力を借りるべきかと

86:491
07/06/14 21:08:40
気が早いかもしれませんがちと質問

五話が新ゲ一話にあたる話ですがその後一気に新ゲ四話まで飛んでもいいですかね?
早い話が隼人・弁慶登場回なわけですがシンがおまけ程度の絡みでほとんど新ゲ本編と変わらない形になりそうなので
もちろん抜かす場合はその間の出来事は六話(新ゲでいうと四話)で書く予定です

まぁぶっちゃけると早いとこシンを積極的に動かさないとシン視点というだけで出番が種死並みになりそうだからですが
何度考えてもあの三匹の存在感が圧倒的すぎて……なんだかんだで難しいorz

87:109
07/06/14 21:39:07
>>86
別にかまわないんじゃないんですか。と、言うよりもそこは職人としての
自由裁量でしょう。頑張ってください。

>>72->>85
たくさんのご意見ありがとうございます。ぜひ参考にさせていただきます。

88:通常の名無しさんの3倍
07/06/15 11:34:07
その辺りは二次創作の強みだしいいと思うよ

89:通常の名無しさんの3倍
07/06/15 18:56:12
>> 491氏
いずれにせよ訓練不十分のまま先達組がが壊滅状態じゃシンも困るはず、
後釜としてここはひとつ【ふへへへ…】あるいは【ぴゃほほほ】の起用をですね

90:通常の名無しさんの3倍
07/06/15 20:40:55 56WHZoKJ
シンプルに核融合炉でいいのでは?

91:通常の名無しさんの3倍
07/06/15 20:44:06
>90
それ、ニュートロンジャマーキャンセラーないと使えない。

92:通常の名無しさんの3倍
07/06/15 20:46:33
>>91
NJは核分裂を抑制するから核融合は使える
CEは核融合の技術は確立してないらしいからそこをクリアすればおk

93:通常の名無しさんの3倍
07/06/15 20:47:45
いやいや、もうあちこちで既出だけどNJで停まるのは核分裂。
核融合はNJ関係無い。

94:491
07/06/15 22:05:34
リボでチェンゲのゲッター1か……しかもゲッターマシンガン付き

>>87-88
うい、じゃあ飛ばしまっさ
>>89
これ以上シンのSAN値を下げろとw

95:109
07/06/15 23:22:26
「!・・“オブジェクト”急速に本艦に接近!距離は・・コ、コイツ速い!」
「落ち着きなさいバート!“オブジェクト”との接触までの予想残り時間は!」
「は・・・はい!・・・おおよそ三分弱!」
「チェン!“オブジェクト”は敵性体の可能性があります。すぐに迎撃用意!対空砲火の準備を!」
「はっ!」
「メイリン!格納庫に通達。嫌な予感がするわ。ゲッターチームを出撃させて」
「はいっ!」
嫌な予感はあたるものだ、とタリアは胸の中で舌打ちする。急速接近をかけてきた“オブジェクト”。
正体は不明だが、恐らく碌な相手ではあるまい。下手をすると例の強奪部隊が時間稼ぎのために送り出してきた特攻兵かもしれない。
本当はこんな相手にかまっている場合ではないのだが、油断は禁物だ。
「本艦の射程圏内に入り次第威嚇射撃。それでも接近してくる場合は、かまいません迎撃ならびにゲッター出撃の援護を!」

「ククク・・・・見せてもらおうか。ZAFTの新型機動兵器の性能とやらを!」
ニオンはヘルメットの内側で獰猛な笑みを浮かべながら、前方の白亜の戦艦へと機体を走らせる。
そんな“MZラド”に向けて、白亜の戦艦、“ミネルバ”はビームの砲撃をこちらに加えてきた。
だが、ニオンはそれを無視し、さらに機体のスピードを上げる。射線から考えるに明らかに威嚇射撃だ。
むしろ重要なのは次だ。
「デラ!砲撃は俺が避ける。ミサイルはお前が撃ち落とせ!」
「了解!」


96:109
07/06/15 23:24:01
ニオンの予想通り、ミネルバがビーム砲撃、そしてそれに合わせてミサイルが、無数に押し寄せてくる。
ニオンは“MZラド”の機動性能と、何よりも彼のすぐれた操縦技術でそれらを避けていく。
そして避けきれなかったミサイルは、後部座席でガンナーを務めているデラが、
背部に装着されている可動式ビームバルカンでミサイルを撃ち落としていく。
この“MZラド”は通常のMSよりも少し大きい程度だが、従来のMSとは違い、
バッテリー駆動でも核分裂炉駆動でもない。
彼らの所属する組織が誇る天才、ガレリイ博士が開発した「ガレリイ式核融合炉」を搭載しているのだ。
CEの科学者達が夢にまで見た核融合炉であったが、予想されていた出力よりもかなり低い出力しか出なかった。
しかしそれでも、活動限界、出力ともにバッテリー駆動などとは段違いになっており、
十分核分裂炉搭載MSに匹敵できるレベルだ。
この核融合炉と、やはりガレリイが開発した新型の人工筋肉組織が、従来のMSよりも遙かに力強く、
なめらかで、有機的な動きを可能にしたのだ。また、それ故に搭載可能な武装の幅も広がり、
通常のMSよりも多くの武装を搭載可能になっていた。
「!・・ニオン隊長!」
「わかっている・・・・・奴だな」
ミネルバからの砲撃。その合間を縫って現れた三機の戦闘機。
それらは瞬く間に重なりあい、一匹の鬼となる。
「来い!貴様の力を見せてみろ!」
ニオンはヘルメットのバイザーの内側で獣のように獰猛な笑みを浮かべた。


97:109
07/06/15 23:25:00
「「「チェェェェェェンジゲッタァァァァァァァ、ワンッ!」」」
三人の叫びが木霊する。三機の戦闘機が結合する。手が出る、足が出る、翼が生える、角が生える。
一瞬の内に、そこに一匹の鬼が現れる。
「くそっ!何だっていうんだよ、コイツは!」
<知るか、それが解れば苦労はせん>
<MS・・・・・なのか・・・?>
<さあな。見た所構造的にはMSに近いが・・・・若干違うようだな>
シンの紅(アカ)い双眸がモニターに映る、ミネルバの攻撃を見事にいなす異形の機体に向けられる。
青緑色の奇妙な光沢を放つ赤い瞳の機体。
どこか、羽根の生えたトカゲを思い起こさせる。
<シン、聞こえるか?>
「は、はい!」
青緑色の蜥蜴もどきを睨みつけていたシンの耳に隼人の声が響く。
やはりどうもこの男に慣れきることは出来そうもない。
<敵は所属不明の未知の機体だ。出来れば捕獲したいが・・戦闘能力が未知数な上に、
なにより我々には他に優先事項がある。手間取るようなら撃墜してかまわん。レイもわかったな?>
<はっ!了解>
<よし・・・・シン行け・・・>
「行くって、ミネルバの艦砲射撃は・・・・」
<避けろ。それぐらいできなくてどうする>
「・・・・・・・・・へっ!いやでも・・・」
<シン・・・行け・・艦砲射撃を緩めれば敵に行動の自由を許す様なものだ>
「ちょ・・・レイ!お前何を・・・」
<つべこべ言ってないで行け。俺達には時間がない>
ハヤトのあんまりな指示にシンは反論しようとして・・・やめた。
この鉄面皮で鬼畜外道の輩に何言っても無駄なことは嫌というほど知っているからだ。
シンはため息を胸の中にしまいこむと、
「ゲッタァァァァァァァァトォマホォォォォォォクッ!」
肩からゲッタービームトマホークが飛び出る。
それを構えると蜥蜴もどきへと向けてシンは突撃した。


98:109
07/06/15 23:26:03
すいません。中途半端になりそうだったので今日は短めです。
その代り、明日の夜に続きを投下します。


99:通常の名無しさんの3倍
07/06/16 00:07:26
おおう、GJ!wktkしときます。

100:491
07/06/16 17:28:06
>>109氏、GJ! メカザウルス・ラド気に入ってるからこれは嬉しい
MZの設定も良い感じにCEから離れてなくて違和感ないです
こっちもひょっとしたら今夜あたり投下できるかも

101:通常の名無しさんの3倍
07/06/16 18:35:24
投下祭りクルーーーー!?

102:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』前編 1/6
07/06/16 22:26:16
 ……あれはいつのことだったか、と考える。
 まだ自分に家族がいて、自分はまだマセたガキだった頃。暑い暑い夏の日のこと。
 なかなか休みの取れなかった父さんがその埋め合わせで山にハイキング行こうと提案した。母さんもマユ
も、そして自分も楽しみにしていた。その夜は興奮してほとんど寝付けなかった。
 当日、そこは予想以上に素晴らしい場所だった。青々とした木々から差し込む太陽の光が眩しくて、川のせ
せらぎに心が洗われるようだったのをよく覚えている。
 夢中だった。妹よりもはしゃいでいた。川の中に大きな魚がいっぱいいて、マユを呼んだ。
 ―そして、川に落ちた。自分の呼びかけに駆けつけようとして足を滑らせた。
 川の流れは速く、マユは岩になんとかしがみついていたが今にも流されそうだった。
 すぐに助けようとした。でも出来なかった。川が底が見えないほど深かったことに気付いたからだった。
 泳げなかったわけではない、暗い昏い水底に吸い込まれそうで……怖かった。
 怖気づいた自分は何も出来なくて、ただうろたえるだけで、助けを呼ぶ声すら届かなくて、
 マユは、流された。すぐに流れの中に消えてしまった。
 ―結局、マユはその後駆けつけた父さんに無事助けられた。
 父さんは苦笑しながら言った。無事だったのだから気に病む必要はないと。
 マユは目に涙を浮かべながら、それでも笑顔で言った。お兄ちゃんは悪くないと。
 それでも、気が晴れることはなかった。

 ―あれはいつのことだったか、と考える。
 守りたいものを自分の力で守ることが出来ず、悔しさで消えてしまいたいとさえ思った最初の瞬間を……



103:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』前編 2/6
07/06/16 22:27:31
 ―いつもとは立場が逆だな。 
 ふとそんな考えが浮かんでいた。
 ……ここはいつも世話になっている病室―という表現で合ってるのかは分からないが―、ただし今回は
ベッドで寝ている側ではなく倒れてる者が目覚めるのを待つ側だった。
 あれから12時間、そろそろ寝なければ明日の訓練に差し支える時分だがそれでも眠たくならなかった。
「訓練、か」
 ゲッターチームは壊滅、唯一生き残った達人は目の前で未だ眠り続けている。
 ―そう、みんな死んでしまった。たった一日でみんな。
 悲しみよりも悔しさがあった。あの頃と―暗く深い川底を我が身可愛さで恐れて何も出来なかった頃と―何も変わらない無力な自分がただただ悔しかった。
「…………ぅ」
 ハッと顔を上げる。自分のものではない声が聞こえた。
「達人さん?」
「し、シン……か?」
 かすれた声、だが確かに意味のある言葉が返ってきた。
「ここは研究所、か」
 上半身だけ起き上がる。頭と身体に巻かれた包帯が痛々しかった。
「……俺の機体は?」
「あ……はい、回収されて今は修理してます。ジャガー号もベアー号も全損で」
「イーグル号もほぼ大破、か。我ながら運が良いのか悪いのか」
 苦笑していた。だがその表情にはわずかだが陰りがあった。
「―なんなんですか、ゲッターって」
「…………」
「これだけの人間が死んで、自分の息子が死にかけたってのに無表情で……ゲッターってなんなんだ? あん
なに非情になってまで造る必要があるものなのかよ!」
 どうしても理解できなかった。鬼は確かに強大で、恐ろしい。倒さなければならない存在なのだろう。
 その理屈は分かる。理屈だけなら理解できる。だが心の奥底で納得できないところもあった。
 達人はわずかに迷うような素振りを見せ、決心が着いたのか険しい表情でこちらを見据えた。
「―ついてこい。見せたいものがある」
「でも、まだ怪我が」
「問題ない」
 そう言って立ち上がり、ふらつく足取りで進み始める。
 その姿を呆然と見送っていたが、部屋を出たところでようやく追いかけ始めた。


104:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』前編 3/6
07/06/16 22:28:31
「格納庫?」
 背中を追って辿り着いたのは格納庫だった。機能までは多くのプロトゲッターが立ち並んでいたが……今となっては修理中の一機しかいない。
 ―いや、
「これは……」
 格納庫の中央に吊り下げられる形でそれは在った。
 巨大な二本の角、特徴的な亀甲模様の顔、炎よりもさらに深い真紅の身体、未だ半身しか存在しない巨体、
「ゲッターロボ……まさか完成形!? 初めて見た……」
「当然だ。コイツは最近まで地下で建造されてたからな」
 目が離せなかった。それが放つ異様さと言えばいいのだろうか、未完成でありながら初めてプロトゲッター
を見たとき以上の圧倒的な存在感があった。
「シン、こいつに乗ってみろ」
 突然の事に戸惑う。勝手に動かしてしまっていいのだろうか?
「心配するな、操縦するわけじゃない。中に乗り込むだけでいい」
 まぁそれなら大丈夫か、と赤い機体へと近づいていく。
 コクピットの位置は変わらず胸部らしい。キャノピは開け放たれており、内部が窺えた。
「……ままよ!」
 わずかに残っていた躊躇を振り切り中に飛び込む。
 内装はプロトゲッターとは大分変わっていたが機能自体に変わりはないようだった。
『エンジンに火を入れろ』
 通信機からの指示に従いレバーのスロットルを捻る。目の前の小さな画面に光が宿り、炉心の鼓動に機体が
生命を宿らせたように輝き始める。
「う!?」
 その余りにも力強い心音に身体の芯が震え上がる。
 ―プロトゲッターとは桁外れだ。しかもこれはイーグル号のみなのにこの出力、三機揃えばどうなって
しまうのか。
『どうだ?』
「全然違う、今まで乗ってきたのと比べ物にならない!」
 このまま研究所を飛び出したい衝動に駆られる。魂まで響き渡る震動が意識を加速させ……
『―もう充分だ。そこまでにしておけ』
「っ……りょ、了解」
 一瞬、その指示に逆らいそうになって愕然とした。何故あんなとんでもないことを考えてしまったのか。
 得体の知れない恐ろしさから逃げ出すようにコクピットから抜け出した。


105:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』前編 4/7
07/06/16 22:29:35
「どうだ?」
 曖昧な聞かれ方にどう答えようかと迷ったが、素直に感じたことを喋ることにする。
「圧倒されました。いろんな意味で……」
「俺たちが命を賭けて守ろうとしたものがあれだ」
 振り返って未だ完成を見ない巨体を見る。確かにこれほどの能力を秘める機体ならば鬼に対する充分な戦力
になるだろう。
「ゲッターチームは俺を含めてコイツを乗りこなせるほどの技量も能力も持ち合わせちゃいなかった」
 意外、という他ない。ついていくのが精一杯だったというのにそれ以上の能力が必要なのか?
「鬼は人間の敵だ。いつ民間人に被害が及ぶのかも分からない。いや、もう出ているのかもしれない」
「そんな……」
 思い浮かぶのは二年前―自分の中での二年前―、オーブが戦火に包まれたあの日。
 あれ以上の不条理と理不尽が吹き荒れるというのだろうか。
「だから俺たちは……俺は命がけで守る。この機体を、それを操るパイロットを」
「じゃあ、俺はどうすればいいんです?」
 拳を握り締める。爪が掌の皮膚を破って血が流れ出す。
「俺は何も出来ない、MSをいくら上手く操縦できてもプロトゲッターすら満足に扱えない。未だに合体のときにはビビって震えが止まらない、そんな俺はどうすれば……!」
 ―自分で言っていて不甲斐なくなる。今自分はここにいる意味があるのか、とさえ思う。
「確かに、お前は未熟だ。だが自分を未熟と知って、それを悔しいと感じられるなら希望はある」
「気休めなんて……」
「気休めや同情でお前をゲッターに乗せたわけではない!」
反射的に顔が上がる。強い意志を湛えた目が真っ直ぐにこちらを見据えていた。
「シン、あいつらの死に様を忘れるな! 俺達が戦う敵の恐ろしさを忘れるな! お前の最終目標はあれだ、
アイツを乗りこなせるようになることだ! 強くなれ! それが今のお前に出来る唯一の事だ!!」
 アイツ……達人が指差したゲッターの半身に再度目を向ける。
 光を失った巨体はどこか小さく、しかし今はただ何かを待っているかのように伏しているかのようだった。


106:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』前編 5/7
07/06/16 22:30:31
 ―あの言葉が、どれだけ救いになったことか。
 翌日から再び訓練に身を投じた。特に基礎能力の向上とあらゆる条件での合体訓練に勤しんだ。
 達人も怪我を庇いながらではあったがオリジナルゲッターの開発と並行し、訓練の指揮を執った。
 順調とは決して言えなかった。相変わらず合体に慣れる事はなく、模擬戦の相手もいない今となっては学べ
ることが多いはずもない。
 だがそれでも、実感はあった。例えわずかでも思いに応えるように身体は感覚を研ぎ澄ませ、鍛え上げられ
ていった。
 それは雀の涙ほどの、ミリ単位ですら計れないほどの進歩なのかもしれない。だがそれでもシンはそれを積
み上げていった。
 ―もっと強く、速く、激しく、と。

 そうして、2週間が経った。



107:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』前編 6/7
07/06/16 22:31:33
「……コイツを?」
「そうだ」
 そんな声が聞こえてシンは足を止めた。
 あたりを見回すとわずかに開けられたドアの隙間から光が漏れていた。
「確かに経歴を見る限りは申し分はなさそうだが、本当にコイツでいいのか?」
「それを確かめるためにわしがこの目で確かめる」
 ドアに近づいて耳に神経を集中させる。盗み聞きのような真似はしたくなかったが、どうも割って入れるよ
うな空気ではなさそうだ。
「父さんが? もしものこともある、俺が行ったほうがいいんじゃないか?」
「怪我が治りきってないお前よりは動けるつもりだ。それにわしは自分の目で見極めたいのだ」
「しかし……」
「護衛もつく、問題はない」
 いったい何の話をしているのだろうか? 交わされる言葉が抽象的すぎて判然としない。
「シンはどうなる?」
「お前と同じ予備として扱う。正式な人員が揃うまでは奴に使わせてやる」
「そうか……」
 突然出てきた自分の名前に驚いたが、新たな疑問が浮かぶ。自分に何をやらせるつもりなのだろうか?
「わかった、こっちもそれで進める」
「うむ。ジャガー号とベアー号はどうなっている?」
「並行して作業を続けてはいるんだが……」
「未だ成らずか、悠長に構えていられる暇などないというのに」
 大仰な溜め息がここまで聞こえる。思いの外ゲッターの開発は進んでいないらしい。
「まぁいい、どの道中身が揃わねば器を用意したところでたかが知れるというものだ。奴のことはこちらでなんとかする。達人、お前はゲッターの完成を急がせろ」
「わかった」
 足音がこちらに近づいてくる。
(マズっ!)
 反射的に扉から離れて通路の角に身を潜める。
「ん……」
「どうかしたのか、父さん?」
「いや何、好奇心を刺激されたネズミがいたと思ったのだがな」
 達人は何を言っているのか分からない様子だったが、そのまま歩き出した早乙女博士の後を追っていった。


108:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』前編 7/7
07/06/16 22:32:33
「……ふう」
 止めていた呼吸を再開するように溜め息を吐く。
 いやよく考えたら隠れる必要とかあったのかという疑問が浮かんだがすでに後の祭りである。なんかこうあの博士に気付かれたらいろいろヤバそうな気がしたのだから仕方がない。
 つーか多分バレてるし。何者だあのじーさん。
「結局なんの話だったんだ?」
 考える。重要なのは『コイツ』と呼ばれてた存在だ。経歴という言葉から察するにおそらく人間だろう。その後に自分の名前が出てきたことからなんらかの形で自分に関係がある者であることは想像できる。
 ―では自分とどんな関係ある人間の話をしていたのだろうか?
(気になる……)
 なるほど、好奇心を刺激されたというのは確かだ。ネズミは余計だけど。
 そんなわけで先ほどまで二人がいた部屋に入ることにした。
 誰もいないせいか中は薄暗かった。手探りでスイッチを探し、電灯をつける。
 簡素なデスクだけが置かれた部屋。棚に本が並んでるがそれほど多くもなく、どちらかといえばレポートな
どのほうが多かった。
「これは……」
 デスクを見ると写真立てが置かれていた。四人の男女が写っている。
「早乙女博士に、達人さん?」
 かなり若いがどちらも今の面影があった。ということは達人の話で出てきたカチューシャを付けた学生服の
女性が妹、もう一人の白衣を着たウェーブのかかった髪の女性が母親ということなのだろう。どちらも美人
だった、妹のほうは母親似なのだろう。
「って何考えてるんだよ俺……ん? こっちは」
 デスクの中央に数枚の写真が乱雑に置かれていた。そのうち一枚を手に取ってみる。
「日本人か。しかしなんて凶悪な」
 ボサボサの髪に吊り上がった鋭い目、写りがよくない写真ごしでも分かるほど傷だらけの身体の青年。
 会話に出てきた『コイツ』とは彼のことだろうか。
 写真を裏返す。
「流、竜馬……」
 写真裏に書かれた名前、そしてさらにその下に丸で囲まれて一文が記述されていた。
「―ゲッターロボの、正式パイロット候補……?」
<シンはどうなる?>
<お前と同じ予備として扱う。正式な人員が揃うまでは奴に使わせてやる>
 予備、予備ってなんだ?
「予備のパイロット、ってことかよ」
 ようやく会話の内容が把握できた。自分は正式なパイロットが揃うまでの繋ぎとして使われる役目なのか。
「は、ははは……」
 笑いが出てきた、あの博士の中での自分の評価はそんなものなのだろう。
 ―上等だ、俄然やる気が出てきた。
「やってやるよ、アンタの親父が認めるまで強くなってやる」
 明確な目標は決まった。あとはそこまで駆け抜けるまでだ。
 決意を新たにし、シンは部屋を後にした。

109:491
07/06/16 22:37:51
『真赤な誓い』を聞きながら
ネガティバーシン編終了
正味な話これ書いてて自分種も割と好きなんだなぁと思ったり

さて次回の鬼VSシンをどうしようか



110:109
07/06/16 23:16:52
GJ!!シン、めげるな。竜馬までとはいかないにしても武蔵、弁慶ぐらい
まではいける素質はあるはずさ。

私の方の投下なんですけども、書いてたら思ったより長くなって、今投下すると
中途半端になってしまうので、明日、日曜の午後十時ぐらいに続きを投下します。
なんか予告破ることが多くてすみません。

111:通常の名無しさんの3倍
07/06/16 23:50:00
>109
GJ~~♪
シンのCE世界での経験がゲッターに乗る理由につながってますね。
当分はヘタレモードかも知れませんが将来の成長を予感させます。


今日ちょっと思ったのですが
あの瞬間転移したのはシンだけだったのかな?
おそらく一緒に爆発に巻き込まれたと思われる
“もう一人のコーディネーター”は? もしや?

なんて、妄想ですがね。

112:通常の名無しさんの3倍
07/06/17 10:02:58
展開的には武蔵坊登場までの早乙女博士の代わりにベアーに乗っていることになるのか。
あの三人がそのまま出てくるなら、
シンはゲッ大戦のBゲッ見たいなのに乗りそうな予感、
敷島博士あたりが地下のプロトから適当に見繕って建造したりして。


113:通常の名無しさんの3倍
07/06/17 16:04:59
491さんが109さんに…
これもゲッター線の導きなのか。

>>111を読んで少し混乱した。

114:通常の名無しさんの3倍
07/06/17 20:42:27
>>110
竜馬レベルまで逝ったらむしろCE崩壊。

115:109
07/06/17 22:03:09
「隊長!奴が来ます!」
「!・・・ほう、艦砲射撃をものともせずにか・・・やるな」
バイザー下で舌なめずりをするニオン。敵はなかなかのやり手らしい。
「デラ!後続は!」
「今のところありません」
「奴単機か・・・・よし、来い!」
飛んできたビーム砲撃を避けながら、ニオンは腕に内蔵された大型ビームサーベルを起動する。
赤色のビームの刃が暗闇の中で閃いた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
シンがゲッタービームトマホークを構えながら弾幕の中を潜り抜けて、蜥蜴もどきへと突撃する。
敵も此方へと向けて、器用にミネルバの攻撃を避けながら、
通常規格のものよりも遙かに大型のビームサーベルの光刃を閃かせて突進してくる。
「パワーがダンチなんだよっ!喰らええええええええええっ!」
シンは無造作に上段に構えたゲッタービームトマホークを振り下ろす。
現段階のCEの技術レベルにおいて、単純に出力でゲッターに匹敵できるのは核分裂炉搭載型MSか大型MAぐらいだ。
たとえ敵がビームサーベルでこちらの一撃を受け止めたとしてもそのまま押し切れる、“はず”、だった。
「っなあ!」
<受け止めただとっ!>
<やはりただのMSではないようだな・・・>


116:109
07/06/17 22:05:29
シン、レイの驚愕の声と、ハヤトの冷静な声が三つのコックピットの中で木霊する。
なんと目の前の蜥蜴もどきは、ゲッターの光の斧を、その光の剣で真っ向から受け止めたのだ。
しかも、そのまま拮抗している。この蜥蜴もどきはゲッターの同じだけの出力を持っているのだ。
<シン、うろたえるな!受け止められたからどうだと言うんだ。打ち返せ!>
「ハイッ!」
今まで受けてきた地獄のような訓練の賜物か、シンはハヤトの指示に素早くこたえると、
いったん刃を引き、それに合わせて蹴りを打ち込む。
敵はそれを素早く避けると、ビームサーベルでこちらの胸部を狙って突き出してくる。
それをビームトマホークで受け止め、そのまま刃をひねって敵の体勢を崩す。
そして、体勢の崩れた敵の胸部をトマホークの柄の先で突き飛ばし、
続けてそれに追いすがりながら刃を振り下ろす。
だが、突き飛ばされた体勢から素早く姿勢制御し、
翼のような形状のブースターに取り付けられたミサイルランチャーから、雨のようにミサイルを発射してくる。
すぐに反撃に転じた敵のパイロットも“さる者”だが、
厳しいゲッターロボパイロットも訓練を潜り抜けてきたシンも、まだまだゲッター乗りとしては未熟とはいえ、
それでもかなりの技量の持ち主だった。
ビームトマホークをまるで風車のように回転させて、ミサイルを次々と撃ち落とす。
そして、ミサイルに合わせて敵が撃ってきた腰部固定型の二連装ビームキャノンの攻撃も横に飛んで避ける。
敵の攻撃を避けた後、さらにもう一本のビームトマホークを取り出し、二本のトマホークを連結させると、


117:109
07/06/17 22:07:04
「トォマホォォォクブゥゥゥゥメランッッ!」
それを全力で敵に投げつけた。高速回転しながら迫る二連装型トマホークブーメラン。
まるで回転鋸のように飛来するそれを、蜥蜴もどきははじき返せないと思ったか上に飛んで避ける(厳密にいえば宇宙に上も下もないが)。
しかし、避けたところに新たなトマホークを構えて突撃するシン。
再び牽制にミサイルを放つ敵だが、
「そんな目くらましが食らうかぁぁぁぁぁぁっ!」
シンは最低限のミサイルだけ薙ぎ払いながら敵へと突進する。
一瞬たじろぐような様子を見せた蜥蜴もどきだが、すぐに体勢を戻して、
ビームサーベルを展開する。
そして、ギリギリのタイミングであったが、トマホークを受け止めていた。
「クソッ!」
機体の性能も凄いが、何より敵のパイロットの技量にシンは舌を巻いた。



118:109
07/06/17 22:08:52
投下しました。第五話後編は思ったより長くなりそうです。
では・・・

119:通常の名無しさんの3倍
07/06/18 00:28:36
>118
GJ。お疲れ様。

ゲッター的には今回の戦いでラドを倒しちゃいそうなんですが
ガンダム的には決着まで数回の戦闘を要しそうな。
どうなるのかな?

120:491
07/06/19 00:11:08
>>118
遅ればせながらGJです
ラドに大型ビームサーベルとは意外

五話後編(ひょっとしたら中編)は出来れば明日、出来なければ22日以降に投下します
というか就活の合間で書き始めたのに気が付いたらこれのことばっか考えてる自分がいる…

121:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』中編 1/4
07/06/19 18:45:11
「……なんだ?」
 研究所内にわずかなざわめきに包まれていた。
 研究員を捕まえて事情を聞いてみるとどうやら外出していた早乙女博士が帰ってきたらしい。
「それでなんでこんなにざわついているんです?」
「連れて来た奴が問題なんだよ」
「連れて来た奴?」
「なんでも狩猟用の麻酔弾で眠らされたとか……すまないが行かせてもらうよ」
 そう言って研究員は走り去っていった。
「狩猟用の、麻酔弾?」
 どんな猛獣を連れて来たんだいったい。というかどこに出かけたんだあの博士。
 そこまで考えてピンときた。
「流竜馬、だっけか」
 ゲッターの正式パイロットに選ばれるくらいの人間なのだから只者ではないとは思っていたが……
 いくらなんでもそれはないだろう博士。
(後で見に行ってみるか?)
 興味がないはずがない。どんな人間なのか気になるし、何より臨時とはいえ同じ機体に乗るのだから顔合わ
せくらいはしておくべきだろう。
「……ま、訓練終わってからだけどな」
「よくわかってるじゃないか」
 ビクリと肩を震わせて後ろを向く。
「た、達人さん?」
「どこでその名前を聞いたのは知らんが、今はやめておけ」
「? 何かあったんですか?」
「さっきも聞いたと思うが麻酔で眠っている。起きたところで機嫌がいいはずもないしな」
 なんで麻酔弾なんてものが出てくることになったのか、と聞くととんでもない答えが返ってきた。
 早乙女博士は身体能力と危機的状況に対する行動力を実際に見たかったらしく、イカれた連中を雇って殺す
つもりで仕掛けさせた。その連中を撃退したところで麻酔弾を撃ち込み、速やかに回収したらしい。さらに麻
酔の量は普通の人間なら致死量だったそうな。
「……本当ですか?」
「父さんだからな」
 あぁなんて有無を言わさぬ説得力のある言葉。よくよく考えたら自分も殺されかけたんだった。
「そんなことより早く今日のノルマをこなすぞ」
「了解」
 まぁそんな量の麻酔を撃ち込まれたのなら―生きていることに関してはもう考えるのはやめた―訓練が
終わった頃も眠っているだろう。
 今は訓練に集中するべきだ、と自身に釘を刺してその場を離れた。


122:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』中編 2/4
07/06/19 18:46:03
 薄暗い部屋の中、モニターを眺める初老の男が一人。
 モニターには簡素な部屋―シンが閉じ込められてた部屋だ―が映されており、その中心に剥き出しの上
半身に包帯を巻かれた男がいた。
 彫りの深い顔にわずかに喜色が混じる。ベッドに寝ている男に動きがあったからだ。
「もう起きたのか」
 予想していたよりもかなり早い。あれだけの目に遭い強力な麻酔まで打たれた男だというのにベッドから立
ち上がる動作には微塵の不調も感じられなかった。
「ん?」
 突然、画面から男の姿が消えた。
 部屋から出たのはありえない。部屋には厳重に閉じられた扉以外に人が出入りできる場所はなく、その扉もカメラからよく見える位置にあるのだから仮に無理矢理出て行ったとしてもその姿が映るはずである。
(いったいどこへ?)
 カメラを動かして部屋の中を見渡す。すると突然カメラが傷だらけの手に掴まれた。
 驚く間もなく今度は青年の顔がモニターを埋めるように映し出され、迫り来る拳を最後に砂嵐が画面を支配
した。
「……ハッ」
 面白い、実に面白い。
 こういう人間を待っていたのだ、地下の『アレ』を発見してから。
「―わしだ、捕獲対象が独房から脱走した。至急警備班を遅れ」
 内線でそう伝えて早乙女は立ち上がる。もう一度、直接会うべきだろう。予定よりも少し早いが。
「流、竜馬か」
 ニヤリと笑い、下駄を鳴らしながら部屋を出た。


123:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』中編 3/4
07/06/19 18:47:55
「……疲れた」
 床に背を預けてぽつりと呟く。まぁ疲労を感じない訓練に意味など無いような気もするが。
 ここまで停滞してしまってはむしろ精神的な疲労のほうが溜まりそうである。
「相変わらず、合体には慣れないか」
 ―いやもうホントスイマセン。
 実際のところ、一人で操縦する場合はそれほど困難ではないのだ。基本はインパルスと同じなので合体のタ
イミングを自分で調整できるのは大きい。これが二人以上になると途端に難易度が跳ね上がる。チームワーク
がなければ合体できない、という理屈は分かるがそれと同時に想定外の事態に対応できるような柔軟性も求め
られるのだ。
「クソ……」
「まぁそう焦るな。気を急かしたところで上達するわけでもないからな」
「そりゃ……そうですけど」
 はぁ、と息を吐く。意気込んだのはいいがこんなことでは格好がつかない。いや格好をつけるためにやって
るわけではないが。
「今日はここまでだ。ゆっくり身体を休めて明日に」
 そこで耳に言葉が届かなくなった。けたたましい警報の音が達人の声を掻き消したからだ。
「っ、何だ!?」
 只事ではないことをいち早く察知した身体が疲労を押し殺して立ち上がる。
『早乙女博士、侵入されました! 奴らが侵入してき……』
 ザッ、という音と共にアナウンスが途切れる。
「奴らが、侵入……?」
「鬼だ」
 振り返ると達人が苦虫を噛み潰したような表情で呻いていた。
「まだ早すぎる。このままでは……シン、俺についてこい!」
「あっ、はい!」
 こちらの答えを待たず駆け出した白衣を追いかける。必死な様相で走り回る研究員をかき分けながら辿り着
いたのは見るからに堅牢な扉だった。手馴れた手つきで達人はカードキーを通して暗証番号を入力し、ロックを解除する。
 開け放たれた扉から強い鉄の臭いが流れ出る。中に入ってその正体が明らかになった。
 ―銃だ。それも民間人が持つには少々物騒なレベルの火器の数々。
「コイツを使え」
 放られた鉄の塊をなんとか受け取る。自分の手には不釣合いなほど巨大な銀色の自動拳銃、下膨れた銃身は
人間なら殴り殺せそうなくらい肉厚だった。続いて飛んできたマガジンも掴み取る。こんなサイズの弾丸をこ
の眼で見るのは初めてだ。この弾ならば例え象を相手にすることになろうとも事足りるだろう。
「それと、これも持っていけ」
 グリップにマガジンを装填した直後に鞘に収められたファイティングナイフが差し出される。受け取って抜
いてみると銃とは対照的につや消しのブラックの刃が現れた。
「試作品だが機能は万全だ。奴らにも充分通用する」
「機能?」
「悪いが説明している時間はない。使えば分かる。いいか、お前は西ブロックに行って逃げ遅れた研究員を各
自の持ち場に行くように伝えるんだ。俺は東ブロックから父さんたちと合流する、いいな!?」
 ジャキンッ、とショットガンに弾を込める音が響く。

124:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』中編 4/4
07/06/19 18:49:03
「わ、わかりました!」
「絶対に油断はするな、奴らは人間を遥かに超えた能力を備えている。何が起きても冷静に対処するんだ」
 肩に手を置かれる。力強い感触が半ば混乱状態の心を落ち着かせてくれた。
「今までの訓練を思い出せ。お前なら出来る、大丈夫だ」
「―了解」
 カラカラの喉を少しでも潤すために唾を飲み込む。
「司令室で落ち合おう……死ぬなよ、シン」
「当たり前ですよ、やらなきゃいけないことが山積みですから」
「その意気だ」
 笑いあうと部屋を飛び出し、互いに逆方向へと駆け出す。
「そうだ、落ち着け……落ち着いて行動するんだ」
 祈るように呟き、鋼鉄の床を蹴りつけるように走り続けた。


「クソッ、多いな」
 鬼を撃ち倒し、研究所を駆け回りながら達人は毒づいた。
 一体や二体どころの話ではない。かなりの数の鬼が侵入しているのは通路にバラ撒かれた研究員たちの骸が
証明していた。
(……だが、何故こんな急に?)
 そんな疑問が浮かぶ。今まででも鬼の襲撃がなかったわけではないが、それは明確な目的を持っているよう
には思えなかった。しかし今回の襲撃はそれまでの鬼の行動とは一線を画している。
 先日の戦闘で仲間が倒されたことに対してこの場所を多少なり邪魔だと判断したからだろうか? だがそれ
ならばもっと早くこの襲撃はあったはずだ。ならば鬼どもの目的はそれよりも後、ここ最近の研究所の動きに関係があるのだろう。
 ―心当たりが、二つ。
 ひとつは九割方完成したイーグル号、そしてもうひとつは……
「っ!?」
 角を曲がったところで三匹の鬼に襲われている二人の男の姿が目に入った。うち一人は鬼に組み伏せられ、もう一人は防災用の斧を持って反撃するが弾き飛ばされた。
 鬼が腕を高々と掲げ、鋭い爪が瞬時にナイフほどの長さに伸びる。
 今にも振り下ろされようとする腕に狙いを定め、トリガーを引いた。集まった散弾が対象を粉々に吹き飛ば
す。続いて脇にいた鬼の顔面に撃ち込み、破砕する。
「避けろ、父さん!」
 散弾の範囲内に倒れこんだ男ににそう指示し、次弾を装填する。腕を砕かれた鬼はこちらに向き直るがその
瞬間に散弾を叩き込み、飛び掛ってきた小型の鬼に二発喰らわせて撃ち落した。
「……大丈夫か?」
 二人に対して尋ねたが反応を返したのは一人だけだった。様子を見る限り怪我はなさそうで胸の内で安堵の
息を吐く。
「父さん、今研究員を全員持ち場に移動させている。俺たちも……」
 そこで、二人の表情が凍りつくのを見た。
「達人っ!?」
 しまった、と思ったときには手遅れだった。凄まじい力で両肩を押さえつけられ、
「――っ!?」
 肩口に何本もの鋭いナイフが突き刺さったかのような激痛が走った。

125:491
07/06/19 18:52:15
間に合いそうもないので中編として投下
短いうえに半端で申し訳ない

というか後編部分にあれこれ詰め込もうとして長くなりそうなのが一番の原因だったり
冒頭のシンの前に博士の独白入れようとしたのに入れられなかった……orz
なくても問題ない部分ですが

126:通常の名無しさんの3倍
07/06/19 20:33:01
GJ
早乙女研究所の研究員達といえども 銃がなければ死屍累々なのか
連中なら鬼でも笑いながら迎撃しそうな印象あるよねw

127:109
07/06/19 20:40:38
GJ!やはり達人は鬼化してしまうのでしょうか・・・

128:通常の名無しさんの3倍
07/06/19 20:45:32
GJ。
>>126
こういう経験と場数を踏んで
最終的に爬虫人類だの鬼を笑いながら屠殺する
武装要塞早乙女研究所が完成するんじゃないか。

129:通常の名無しさんの3倍
07/06/19 21:37:39
GJっすー
>>126
やっぱ新ゲじゃ敷島博士がいないってのが大きいかもな

130:通常の名無しさんの3倍
07/06/21 23:17:27
全然レスがないじゃないか。鬼か?インベーダーか?

131:491
07/06/21 23:38:36
>>130
ただ今帰ってきた人間がここに
続き書きますか

132:通常の名無しさんの3倍
07/06/21 23:54:20
>131
残業ご苦労様です…。

133:491
07/06/22 00:02:07
>>132
残業というか就活だったり
出先で極道兵器入手、気が付けば石川作品を探してる自分はきっと何かに憑かれてる

134:通常の名無しさんの3倍
07/06/22 00:23:17
ゲッター線からは逃げられない

135:109
07/06/22 06:12:14
おはようございまーす。今、いろいろ忙しくて続きがかけてません。すみません。

>>133
自分も石川作品集めてるんですけどね、これが中々・・・はやく極道兵器全巻
そろえたい・・・・

136:通常の名無しさんの3倍
07/06/22 16:24:54
量さえ守ればこれはいい薬じゃ!
うまく使えばわしはシャブ極道兵器になれるで~!by将造

クスリの話ってたいてい「こういうのはやっぱりイケナイ!」で終わるけど
「量さえ守ればいい薬」なところはさすが極道兵器。

137:通常の名無しさんの3倍
07/06/22 19:38:45
極道兵器は三巻の打ち切り展開にさらに打ち切りを重ねるところが神。
あと「ワシは核爆発みたかったんじゃ~!」は所見で吹いたw

138:109
07/06/22 22:58:00
明日投下します。今度こそ投下予告を守ります!

139:通常の名無しさんの3倍
07/06/22 23:21:23
wktk

140:109
07/06/24 00:10:12
「くうっ!恐るべき性能っ!とても軟弱者のデュランダルが作らせた物とは思えん!」
ゲッターと互角の戦闘を繰り広げていたニオンだが、内心、
ゲッターの戦闘能力に寒気を覚えていた。
闘って解るが、このパイロットは才能はあるようだがまだ未熟で荒削りだ。
そうでありながらこの戦闘能力・・・・。末恐ろしいとしか言う他無い。
出力と、それに伴うマシンのパワーならびに直線的速度は比べ物にならない。
ただ、新機構の人工筋肉のおかげもあって、機動性に関してはこちらの方が上のようだ。
この機動性と、何よりもニオン自身の技量をもって、“MZラド”はゲッターと互角の戦闘を繰り広げているのだった。
(ふふ・・・こういう所は自分の生まれにも感謝だな・・・)
ヘルメットの内側でニオンは皮肉気に笑う。
ニオンはとある事情で、皮膚と頭髪に先天的異常を抱えている反面、
コーディネーターとしてもずば抜けた動体視力と反射神経を持っていた。
この生まれ持って“才能”がニオンをすぐれた戦士たらしめている要因の一つでもあった。
「しかし、このままでは埒が・・・あかん・・・・なっ!」
赤い鬼の振るう光の斧の猛攻をビームサーベルで受け止め、切りはらい、
ときに身をそらして牽制のビームやミサイルを放つ。敵はそれを受け止め、
受け流し、切りはらう。さきほどからこのパターンの繰り返しであった。
「デラ!“テールユニット”起動!“赤いヤツ”に目にもの見せてやれ!」
「了解!」
MZラドの背中についた尻尾のような部分が突如外れる。
尻尾と本体は極細のワイヤーでつなげられており、
さらに尻尾は三つに分かれ、尻尾の根元だった部分を起点にさらに三つに分かれた。
カオスと同じく、連合のガンバレルを参考にした遠隔兵器だ。
MZラドの場合、パイロットとガンナーが分かれているために、
“空間認識能力”はパイロットに必要ないのだ。


141:109
07/06/24 00:11:25
短い上に中途半端ですみません。最近いろいろ忙しくて・・・・
ただ、月曜日には第五話後編完結編を投下できそうです。

142:通常の名無しさんの3倍
07/06/24 00:19:56
GJ!
気長に待っとるから無理せんといて~

143:491
07/06/24 00:22:06
>>141
GJ、砲丸戦術かと思ったら機動兵装ポッドとは意外

こっちもどうせ朝SHTがあるから徹夜で書いてみるぜ!
こんなんだから昼夜逆転生活になるんだろうな…
今3000文字くらいだけど半分もいった気がしない不思議

144:通常の名無しさんの3倍
07/06/24 00:26:34
>カオスと同じく、連合のガンバレルを参考にした遠隔兵器だ。
>MZラドの場合、パイロットとガンナーが分かれているために、
>“空間認識能力”はパイロットに必要ないのだ。
つまりラゴウ(虎専用)と同じ複座形で
ガンナーに” 空間認識能力”が必要だということでよろしいか?

145:109
07/06/24 00:32:04
>>144
少し質問なんですけど、ガンバレル系統に空間認識能力が必要な理由って
MSあるいはMAを操縦しながら、別系統の操作を、三次元空間戦闘で
しなきゃいけないからって思ってたんですけど、違うんでしょうか・・・
専属のガンナーがいてコンピューターのサポートを受ければ
あんな似非NT能力なくてもガンバレルって使えそうな気がするんです。

146:通常の名無しさんの3倍
07/06/24 00:52:23
いや、元から空間認識能力がなくても、2~3個は
操作できるようですよ?


147:通常の名無しさんの3倍
07/06/24 01:30:34
そもそも種死劇中で空間認識能力云々の説明は
なされてないのでは。
とすれば、そこら辺の解釈は職人さん毎に
独自に設定なされば宜しいかと。

148:通常の名無しさんの3倍
07/06/24 01:34:02
連合のMAは3人乗りで無理矢理ドラグーン使ってたんじゃなかったか

149:通常の名無しさんの3倍
07/06/24 02:15:35
有線式→ガンバレル(メビウス、ガンバレルストライク、カオスとか)
無線式→ドラグーン(プロヴィデンス、Xアストレイ、レジェンドとか)
前者が空間認識能力が不必要で後者が必須みたいですね。ただ有線式の場合も能力があると性能が向上するみたいです
小説版や漫画版から解釈するに
・OS制御だと無線式では扱えず(原因はNJによる通信障害?)有線式にならざるをえない
・無線式は自ずとマニュアル操作になるので能力が必須
・有線は誰でも使えるけど能力者(ムウ、モーガン、プレア)が使用するとエース級の効果(現実のエースパイロットと同様?)
てことじゃないでしょうか

面倒になったらストフリのスーパードラグーン(非能力者でも使用可)でも搭載すればいいんじゃないでしょうかwww

150:491
07/06/24 13:44:12
後編がさらに二分割されそうな悪寒
つーか一話後半を見返してなんか物足りないのでシン絡み以外で改変入りそうな予感

分けると決まったら今夜あたり投下します
ついでにこんなものを見つけたので貼り
URLリンク(www.nicovideo.jp)

151:通常の名無しさんの3倍
07/06/25 09:34:53
三人のエクステンデットの脳みそを物理的に直結すれば
空間認識能力無しにドラグーンを扱うことなど余裕

152:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』後編1 1/4
07/06/25 22:18:33
 研究所の無機質な空気はこの数十分の間に一変していた。
「ここもか……」
 自らの腹から流れ出た血の池で溺死したように二人の研究員が横たわっていた。
 だが原型を止めているだけまだマシと言えた。ここに来るまでに発見したいくつもの凄惨な骸たちに比べれば
男女の区別がつくだけでも良かったほうだ。
「―くっ」
 むせ返りそうなほどの血の臭いに精神が麻痺したのかと自分で自分を疑いたくなる。ここまで惨たらしい死
体を前にして何を冷めた考えをしているのか、と。
 狂ってしまいそうだった。いや、元いた世界の頃の自分なら狂っていたのかもしれない。こんな残虐な、こ
んな陰惨な、こんな邪悪があっていいのか。こんなものが自分と同じ世界に存在するというのか。
「…………」
 血溜まりを越えて走り出す。道中に会った研究員には持ち場に行くように伝えたが、まだ生き残っている研
究員がいるかもしれない。いや、生き残っていてほしかった。
 迷路のような通路を駆け抜ける。今さら気付いたがこの研究所は意図的に隠しているような通路がいくつか
あるようだった。少なくとも普段通る分には見つけることが出来ないような造りだった。
(なんでこんな構造に?)
 気にはなったがそれを考える余裕はなかった。行けども行けども死体、死体、死体死体死体死体死死死死……
「―っ!?」
 口から飛び出しかけた不快感の塊をどうにか押さえ込む。ロドニアのラボでの光景がフラッシュバックする。
 動悸が激しい。全身から汗が噴き出し、時折視界が歪む。
「こんな、こんな現実があってたまるか!」
 胃液の代わりに憤りを吐き捨てる。こんなことが許されていいはずがないと萎えかけた心を怒りで奮い立たせる。

153:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』後編1 2/4
07/06/25 22:19:36
 ―ズルリ
 前からそんな音が聞こえた。床に向いた視線を水平に戻す。
 ―ズルリ、ズルリ……
 何かを引きずるような音が曲がり角の向こうから響いてくる。
「誰だ!?」
 重く巨大な銃……マグナムを構えながら叫ぶ。答えはなく、ただ音だけが徐々に大きくなっていく。
 ―ズルリ……ブォンッ!
 何かが角の向こうから飛び出し、反射的に視線と銃口がそれを追う。
 ゴシャッ、という音が響き渡り、壁と一体化したように身体がめり込んでいた。
 ―衝撃にはためく、白衣。
 慌てて視線を戻したときには遅かった。迫り来る爪にマグナムが弾き飛ばされ、その衝撃に耐えられず地面に倒れこむ。
「う!?」
 目が合った、そして自分の中の時が止まった。
 浅黒い肌に無機質なまでに硬質な印象を抱かせる野太い手足、禿げ上がった頭に唯一確固たる存在を主張してい
る一本角。
 ―異形の腕がゆっくりと掲げられる。
 頭上に上がった腕の爪が電灯の光を受けて鈍く光る。直接触れずともその鋭さは今まで目にした骸が教えてくれた。
「……お前が」
 そう、よく知っている。だからこそ恐怖に思考が染まり、
 ―腕が、振り下ろされ
「お前がァァァァァァァァァァァ!!」
 一瞬にして、怒りと殺意に塗り潰された。
 腰に下げた鞘からナイフを引き抜き、迫り来る掌に逆手に持った刃の切っ先を向けて突き出した。
 ぞぶりという感触。鋼のように思えた外皮を勢いを利用したとはいえ意外なほどに呆気なく貫き、
 ―バチチチチチッ!
 直後に甲まで空けられた傷を電流が焼き尽くした。
「なっ!?」
 一番自分が驚いていた。思いがけない出来事にナイフを手放してしまう。

154:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』後編1 3/4
07/06/25 22:20:31
「ギャンッ!!」
 刺さったままのナイフからは未だに電流が溢れ出て鬼が悶え苦しむ。
 床を転がって距離を取り、落とした銃を拾い上げる。
「グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
 ナイフを抜き捨てた鬼がこちらを睨みつけていた。
「チィッ」
 銃口を向け、狙いをつける。どこでもいい、これの威力ならばどこに当たろうと充分なダメージになるはずだ。
「グァッ!」
 鬼が突進してくる。その動きに合わせて照準を調整し、トリガーを引く。
 ―ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
 ガツンと手首を鈍い衝撃が襲う。放たれた弾丸は鬼の右肘から先を吹き飛ばし、左肩を抉り、胸の中心に風穴を
空けた。
「ギ……?」
 鬼は不思議そうに自分の胸に空いた穴とこちらを交互に見やり、倒れた。
「ハ――」
 息を吐こうとして、失敗した。肺の中に空気がほとんど残っていなかった。
 鬼の死体に近づく。時折痙攣してはいるものの、確実に心臓は―人間と身体の構造が同じならばだが―吹き
飛んでいる。
「……しかし電磁ナイフか、前もって言ってくれればよかったのに」
 ナイフを拾い、鞘に収める。まさかこんな機能があったとは知らなかったが便利であるのは確かだ。鬼に対して
の効果も十二分にあった。
「問題は、こっちか」
 たった三発撃っただけで手首と筋が酷く痛む。扱いに慣れていないせいか初弾で反動を殺しきれずに負担をかけ
すぎてしまった自分が原因だが。
「そうだ、早く合流しないと」
 すでに西ブロックはすべて見回った。他に生き残りがいる可能性はかなり低いだろう。
 痛む右手首を庇いながら司令室に向かう。
 ―グルルルル……
 低い唸り声が背後から響いてくる。
 ……まさか、とおそるおそる振り返る。
 鬼が立ち上がっていた。それだけではない、吹き飛ばされた腕と抉れた肩、向こう側の景色が見えるほど巨大な
胸の穴が凄まじい速度で修復した。

155:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』後編1 4/4
07/06/25 22:21:28
「嘘だろぉ!?」
 再び鬼が突進してくる。混乱した頭では考えがまとまらず、逃げの一手しか思いつかなかった。
「このっ!」
 振り返って撃つ、撃つ、撃つ。狙いもつけずに放たれた弾丸は床と天井に当たり、まぐれで当たった腹は三分の
一ほど砕け散ったが次の瞬間には再生していた。
 デタラメにもほどがある。どうやって倒せっていうんだ?
「クソったれ!」
 残った一発の弾丸が飛び出す。偶然とはいえ鬼の頭部に向かった弾は交差した野太い腕によって止められた。
「……!!」
 その動きに閃くものがあった。走りながら見つけた適当な部屋に飛び込み、内側からカギをかける。
 ―ガンッ! ガンッ! ガンッ!
 スチール製の扉が音を立てる度に歪んでいく。耐久性はそこまで強くはなく、あっけなく扉は破られた。
「ッ!?」
 飛び込んだ鬼はギラついた眼光で部屋を見渡し、
 ……その瞬間が、最大の隙だった。
 扉のすぐ側の影から飛び出し、新しいマガジンを装填したマグナムの銃口を鬼の後頭部に向ける。
 ―ドゴンッ!
 顔の上半分が弾け飛ぶ。衝撃の余波で前のめりに倒れた鬼の背中を踏みつけてさらにトリガーを引く。
 ―ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
 二発目の時点で完全に消失した頭部のあった空間をさらに二発の弾丸が貫く。血と肉片が顔にまで飛び散ってこ
びりつくがそれでも引き金を絞り続ける。
 やがてマガジンが空になり、それでも指はトリガーを引き続けていた。
「ハ、ハ、ハ」
 途切れ途切れの呼吸で得たわずかな酸素がゆっくり脳に行き渡っていき、無意味に動き続ける指を止める。
 鬼に変化は見られなかった。念のため一分以上つぶさに観察したが、それでも鬼の頭が生えてくるようなことは
起こらなかった。
 ……頭が弱点なのか、ということをようやく理解できた。
「づッ!?」
 激痛が走り、銃が床に落ちる。
 右手がイカれていた。手首の間接が外れているのかもしれない。
『警備班! 至急格納庫へ! 鬼たちの襲撃を受けている!!』
 スピーカーから焦った様子で報告が流れた。
「格納庫……?」
 なんでそんなところに、という言葉が出る前に答えが浮かんでいた。
「ゲッターが危ない!」
 右手が使えないので口にマガジンを加えて左手で持った銃に強引に差込み、格納庫へ向かって走り出した。

156:491
07/06/25 22:25:04
ライスピ? 滝和也? なんのことで(ry
スイマセン、好きなもので。というか分かる人がいるのかどうか

つか結局後編だけで8000字オーバーという明らかに配分ミスをしてしまってゲンナリ
二次創作って難しい…orz
後編2は明後日までには投下します

157:109
07/06/25 22:35:39
491氏GJ!!スタンガンナイフの元ネタは仮面ライダーSPRITSでしたか・・
私も好きですよアレ。村枝漫画の中で一番好きなのは「RED」ですけど。

158:通常の名無しさんの3倍
07/06/25 22:38:02
>156
GJ! 異形の敵相手に曲がりなりにも戦いを挑み、勝ちに行く資質が
シンに備わっていることが地味に描写されてますね。

もっともCE世界でもこの種の虐殺は
かの戦争中にいくらもあったと思うのですが、
シンはそれを目の当たりにすることなく
モビルスーツで戦っていたのでしょうか。
そう考えると違う意味でちょっと怖いような。

相当先は長いと思いますが、
ゲッター世界で経験を積んだシンがCEに立ち返った時
戦争に対する彼のスタンスがどう変化してるか興味深い所。


…ライスピ…毎号読んでますがな…。

159:通常の名無しさんの3倍
07/06/25 23:09:31
嗚呼成程、シンは滝のポジションなのかw

160:491
07/06/26 01:23:52
ライスピ知ってる人多くてわぁい!な気分

>>158
シンに限らず結構なパイロット(特に若手)は虐殺とか見る前にMSを落としてる印象が自分の中ではあります
1stからの引用ですが「相手がザクなら人間じゃないんだ!」のようにあえて目を逸らしているんじゃないかと
多分ルナマリアやキラはそういった点は実感していないんじゃないかと(レイやアスランは多分その目で見てはいるでしょうが)
しかしCEに帰れるんだろうかシンは?(聞くな

>>159
周りが超人だらけで自分は非凡(少なくとも超人たちと比べると)ってあたりは確かにw

161:通常の名無しさんの3倍
07/06/26 22:05:54
非凡というのは才能に溢れてるって意味だぞ
それを言うなら凡夫じゃないのか

162:通常の名無しさんの3倍
07/06/26 22:17:01
>161
「平凡」という言い方もあるな。
が、160氏は「非才」と言いたかったのかも知れぬ。

163:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』後編2 1/7
07/06/27 01:26:52
 ―格納庫は地獄と化していた。
 何人もの研究員が血に染まって倒れており、中には鬼に喰われている最中だった。
 その数は、ざっと十匹以上。
「……こいつら」
 睨み付ける。状況は正直芳しくない。だがそれでも奴らにゲッターを破壊されるわけにはいかなかった。
 左手で上手く狙えるだろうか、と思案していると背後から複数の足音が聞こえてきた。
「シン、無事だったか!」
「達人さん!? それに早乙女博士も!」
 振り返ると三人の男たちが駆け寄ってきていた。
「達人さん、その傷……」
 首と右肩の中間あたりが赤く染まっていた。血の出が激しかったのか、肩のほとんどが真っ赤になっていた。
「少しへマをしただけだ。見てくれほど酷い傷じゃない」
 とてもそうは見えなかったが、頷いた。こんな傷で参るような人ではないのは分かっていたからだ。
 早乙女博士は格納庫全体を注意深く見渡していた。こちらのことはどうでもいいらしい。
 ―そして、もう一人。
 今さら確認するまでもない。一度写真で見ただけだがその顔には見覚えがあった。
 ―野性味を感じる相貌、傷だらけながらも鬼たちとは違った意味で引き締まった体つきの男。
 怪我をしたのか腹と肩に包帯が巻かれており、何故か防災用の斧を持っていた。
 この男が、流竜馬。
「……下駄ジジイに鬼の次は赤目のガキか、おまけになんだよあのデカブツは。もう何が出てもちっとやそっとじゃ驚かねぇぞ」
 こっちを見るなりそう言われた。
 ―あ、少しカチンときた。
「……なんだよ、そっちは半裸の斧男じゃないか。こっちが驚きだっての」
「ンだとこのクソガキッ!」
「喧嘩は後にしろ、奴らをゲッターから引き離すんだ」
 いつの間にか早乙女博士は行動していた。鬼がこっちに迫ってくるというのに怯みもせずゲッターに近づいていく。
「チッ……なんだかわからねぇが、やるしかねぇみてぇだなァ!」
 そう叫んで男―竜馬は駆け出した。電光石火の速さで鬼に肉薄し、斧で頭を砕き、首を撥ねる。
 一撃必殺。ほとんどの鬼は初撃で頭をやられて骸と化した。瞬きをする度に鬼の数が減っていく。
 ―強い。
 小振りな斧だけで、というだけではない。鬼も追いつかないほどの俊敏な動きと骨すらも容易く両断できるほど
の膂力、どれを取っても並の、いや戦闘用に調整されたコーディネイターすら凌ぎかねないほどの身体能力だった。
「って見てても仕方ない、こっちも行くか!」
 左にマグナムを持って鬼の群れへと飛び込む。大柄な鬼が振り下ろす腕を掻い潜って接近、顎に銃口を押し当ててトリガーを引く。
「ッ!」
 衝撃がキツイ、だがそれでも確実に当てるにはこの方法しかなかった。いくら電磁ナイフとはいえ自分の腕力で
は鬼の首を一瞬で切断できるほどのパワーもスピードも生み出せない。
 一匹、また一匹。確実に仕留めていく。

164:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』後編2 2/7
07/06/27 01:27:50
 やがてドック内の鬼のほとんどが殲滅された。おそらく最も多く倒したのは竜馬という男だろう。
 ……無茶苦茶だ、あの男。仕舞いには離れたところにいた鬼に斧を投げつけるような真似さえやってのけた。
「無事か?」
「はい、なんとか……これで終わり、ですか?」
「いや、まだだ」
 険しい表情で駆け出した達人の後を追い、外に出ると分厚い雲が歪んでいるのが見えた。竜馬も早乙女博士も遅
れてそれを目にしていた。太陽のものではない光が差し込み、その中から巨大な物体が現われ出てきた。
 ―無数の棘が付いた球状の下半身、鬼。右手の巨大な鎌が鈍く光を放っていた。ゆっくりと空中を漂い、ある
場所で動きを止める。
「アイツは!?」
 いつの間に研究所から抜け出していたのか、鬼が巨大な鬼の目の前にいた。巨大な手に掴まれ、角から放電した
と思った時には口の中に放り込まれていた。
「共食い……?」
「あれも、敵だってのか?」
「怖気づいたか?」
 その言葉の反応が気になって竜馬の様子を盗み見る。
「―なわけねぇだろ」
 笑っていた。虚勢でも狂ったわけでもない、獰猛な眼光に一切の陰りも感じられなかった。
「そいつは頼もしい……父さん」
 早乙女博士が頷き、達人はドックの中に戻っていく。
「待ってください! 俺も……」
 何をするのか、というのは簡単に想像できた。だからこそ、自分も行かねばならないと思った。
「俺だけでいい。そんな手では足手まといになるだけだ」
 ……見抜かれていたらしい。だがそれでも食い下がる。
「整備が充分でも一人じゃ無理です!」
「無茶はするが、無理はしない。どの道このままじゃジリ貧なんだ。俺が行くしかない」
 振り返って顔には決意が固まっていた。
「お前はここに残れ。父さんたちを守ってやってくれ」
「……分かり、ました」
 ―またか、また自分は……
「そんな顔をするな、死にに行く気はないさ」
 軽く笑いながら、背中が遠ざかっていった。
「攻撃、来ます!」
 背後を向くと宙に浮かんだ鬼の下半身の棘がミサイルのように放たれた。
「うわっ!?」
 衝撃。しかし施設へのダメージは皆無だった。研究所の周辺に展開された光の膜がミサイルを防いだのだ。
「光波防御帯!?」
 研究所の塔から発生されたバリアは連合の技術―確かアルテミスの傘とか言われてるものに酷似していた。
 もっともあちらは発生器が複数必要であり、こちらは発生器がひとつのみではあるが。

165:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』後編2 3/7
07/06/27 01:28:50
「状況は!?」
 声がした方へ振り返ると早乙女博士と竜馬が外から帰ってきていた。研究所内の鬼は全滅してしばらくは持ちそ
うではあるものの、多くの研究員が犠牲になったらしい。
 ―鬼の角に蒼い光が宿り、雷撃が研究所に降り注ぐ。直後に司令室の中が暗黒に包まれる。
「敵の攻撃で送電がストップ! 自家発電に切り替わりました」
 室内に光が灯る。自家発電でもバリアに問題はないらしい。もはや要塞だ。
「しかし今の衝撃で地崩れが! このままでは危険です!」
 細かい震動が床のさらに奥から響いてくる。直撃はなくともこのままでは研究所が崩壊してしまう。
「なにか武器とかないんですか、この研究所!?」
「無茶を言わないでくれ! これが精一杯だ!」
 ……近くの研究員に問いかけたら怒鳴り返された。えぇい、そんなとこだけ普通の研究所ぶって!
 ―鬼が右腕の鎌を振り上げる。このままバリアごと研究所を叩き潰すつもりなのか。
「クソッ……」
 どうにもならないのかと諦めかけた瞬間、鬼は横薙ぎに放たれた砲弾の雨に弾き飛ばされた。
「何が起こった!?」
「カメラを切り替えろ!」
 巨大なスクリーンに一瞬砂嵐が映り、すぐに別の場面に変わる。
 ―巨大な赤鬼、その両腕には巨大なマシンガンが握られていた。
「達人さん!? 無謀です、単独操縦は!」
『無謀だろうがなんだろうが、今奴らに渡すわけにはいかねぇんだッ!』
 達人と共が?二挺のマシンガンが吼える。その名称とは裏腹に戦車砲に匹敵するサイズの弾丸が鬼の全身を穿った。
 ―グァァァァァァァァァァァァッ!
 外から鬼の絶叫が聞こえてくる。画面では鬼が斜面に叩きつけられたてからも絶えず鉄の嵐に巻き込まれ、土埃
の中に姿を消していた。
「おい! アイツはいったい何を守ろうとしているんだ!?」
 後ろで竜馬が叫んでいた。自分か、早乙女博士か、どちらに向けての言葉か分からなかったが自然と目線はドッ
クに吊るされたゲッターに向いていた。それは早乙女博士も同じだったらしい。
「……あれが?」
「そうだ。あれが守らねばならぬもの、ゲッターロボだ」
 ―ゲッターチームは俺を含めてコイツを乗りこなせるほどの技量も能力も持ち合わせちゃいなかった。
「そしてあれを操れる男、流竜馬! お前のこともな」
「俺が……操る?」
 ―だから俺たちは……俺は命がけで守る。この機体を、それを操るパイロットを。
 あのときの言葉が鮮明に浮かんできた。だからこそ達人は不利と分かりきったこの状況で一人プロトゲッターに
乗り込み、鬼にただ一人立ち向かっているのだ。
 ……なら、自分はどうだ?
 自分に今なにができる?
「博士! 達人さんの様子が!」
「えっ……?」
 画面に向き直る。
 ―信じられない、信じたくない光景がそこにあった。



166:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』後編2 4/7
07/06/27 01:29:50
 ―ドガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
 多銃身の砲口から吐き出された無数の弾丸が鬼に向かって降り注ぐ。パイロットの搭乗人数に左右されない威力を持つ武装としてゲッター用に開発されたマシンガンだが前回の戦いでは牽制にもならないほどに無力なものだった。
 その反省を活かし、秒間数百発の発射できるように改良した多銃身のバルカン砲でゲッター線による特殊加工を
施したAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を使用することで大幅な威力向上の実現を果たした。
「―どうだ?」
 トリガーから指を離し、コクピットの中で達人は固唾を呑んで土煙の向こう側に目を凝らす。
「畜生がッ!」
 煙の中に蠢く影を視認して再びトリガーを引く。再び撃ち出された暴虐の嵐は、しかし数秒で治まった。
「野郎……」
 EMPTY(弾切れ)の表示を苦々しく睨みつけ、前方に視線を戻す。
 土煙の中から現われた鬼は……無傷。ところどころに弾痕が見られるものの、ダメージを受けた様子は見られな
かった。
 ―ズゥンッ!!
 マシンガンを足元に落とす。こうなったら基本武装で挑むしかない。最終手段として炉心をメルトダウンさせて
もろともに消し飛ばすことも出来るが、研究所に近すぎるのがネックか。
 ……なんにせよ、今は戦うしかない。
「ゲッタァァァァァァ……」
 腹部の装甲が展開して光が収束した、瞬間、
「ッ!?」
 ズグリ、と肩の傷が疼いた。
 疼きはじわじわと身体中に広がっていき、頭に激痛が走る。
「ぐ、ぅ……ああああああアアアァァァァァァ!!」
 頭蓋骨が軋み、何かが額から生えてくるのを感じた。
 そして、ブツリと意識が断絶した。


 ―司令室はしばしの間静寂に包まれた。
 当然だろう、画面の中で達人がまったく別の生物に変異する場面を余すことなくすべて見せ付けられたのだから。
 額から二本の角が生え、肌はくすんだ緑色に変わり、鋭利な爪が伸びて眼球が裏返るという過程を。
「達人、さん?」
 その目に、正気は感じられなかった。凶暴な獣性だけがあった。
 プロトゲッターが研究所に向き直り、ゲッタービームが発射される。
 ―バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!!
 同じゲッター線を利用した兵器だからか、ビームは光のパネルを端から分解していく。
「そんな……」
 鬼の鎌が振るわれる。もはや防ぐ手段を失ったバリアの発生器である塔が呆気なく両断された。
 次いでプロトゲッターからトマホークが投げつけられ、その衝撃でイーグル号を吊り上げていたワイヤーが切断
して落下した。その影響は司令室にまで及び、砕け散ったガラス片が数少ない生存者に襲い掛かった。

167:第五話『波乱と絶望、そして流竜馬』後編2 5/7
07/06/27 01:30:50
「危ないっ!」
「ッ!?」
 突き飛ばされて倒れこむ。爆風が身体の上を通り過ぎ、破片が上から降ってきた。
 ドサリ、という音で顔を上げる。自分を庇った研究員が目の前にガラスの角を生やして転がっていた。
「そんな……嘘だろ? 嘘だろ、こんなのっ!」
 状況は最悪を通り越して絶望的だ。もはや研究所は鎧を剥がされ牙も折られ、さらにその牙で滅多刺しにされて
いるようなものだ。
「博士、避難してください! ここはもう持ちません!」
 生き残った研究員が早乙女博士に駆け寄っていた。どうやら無事らしい。その向こうで竜馬も頭を振ってガラス
の破片を払っていた。
「研究所なんてどうでもいい、なんとしてでもあれを守り抜け!
 あれ―イーグル号はあれだけの衝撃でありながらも全くの無傷であった。だがその頑丈さが鬼と、そしてプロトゲッターの前にどれほど耐えられるのだろうか……
「あれに―」
 そのとき、竜馬の声が静かに響いた。
「あれに俺が乗れば、どうにかなるってのか?」
 ゆっくり立ち上がり、機体を見据えている。
 ……戦う気なのか? あの機体で?
「そんな無茶な! 未完成のイーグル号だけじゃ手も足も……」
「いや、なる!」
 早乙女博士に言葉を遮られた。
「操縦なんかしたことねぇぞ!?」
「構わん、とりあえず操縦桿を握れ! あとはこちらで指示する」
 ズン、と研究所に再び震動が走る。これ以上は研究所も持たないだろう。
「急げ! もうそこまで来ている!」
 崩れたドッグの向こう側に鬼の姿が見えた。角が青白い光を放ち始める。
 ―間に合わない!
 目を瞑り、最後の時を覚悟した。
「……?」
 予想していた攻撃は来なかった。目を開けると鬼がプロトゲッターに背後から締め上げられている。
「これって……達人さん!?」
 司令室に駆け戻り、通信を開く。
「達人さん! 無事なんですか!?」
 問いかけるが返ってくるのはノイズばかりだ。


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