07/04/07 02:22:13
すみません、容量をまったく見てませんでした。
何一つ知らせもなしで申し訳ないです。
3:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/07 02:24:03
第五話
第83管理外世界。そう印を押された世界。
科学が発達し、機械から生物まで、どの分野でもなのはの世界と比べれば大きな成長の先にいる世界で
ある。
しかし、未だ世界は戦争のただ中にいた。
世界の全てを巻き込んでいると言って過言ではない戦争だ。
そんな世界の、ある海の上。
文字通り、海の上、海の上空で立っていたのはシグナムだ。
適当に魔力を放射し、海の底で眠る者が起きるのを待った。
前回の闇の書の転移地点であり、グレアムがアルカンシェルを発射した世界。
つまり、リンディにとっては大きな心の傷を刺激する世界だ。
そんな事をおくびにも出さず、リンディは指揮をとっている。当時3歳だったクロノは知らされこそしないだ
ろうが、自ら調べ、父の消えた世界である事を知っているだろう。クロノの振る舞いや表面に出ていなくと
も、シグナムはそう感じた。
(なんとも強い母子だ……)
プロ意識なのか、それとも強靭な精神の賜物か。
蒼い空を眺め、その向こうにあるだろうアースラにいる女艦長を思っていた時だ。
海が盛り上がる。
生物が、海を割って現れた。
それも、巨大な。
『おや、おや、これは驚いた。誰かと思えば、剣の騎士か。またリンカーコアでも欲しいのかな?』
「久方ぶりです、海神殿……リンカーコアについては、もう謝罪したではありませんか。もう以前の我々で
はありません」
『かかかか、分っている、分っている。そちらも、海神というのは、やめてくれ。近場の漁師が、勝手にそう
呼んでいるだけだ』
姿かたちは、魚だろうか。
どちらかと言えば、鯨やシャチ、イルカといった海洋に住む哺乳類によく似たものだ。大きな羽のようなヒ
レと、長い長い尾。海底に住む神秘を体現したかのような存在だった。この世界でも未確認生物とされる
個体だ。
まるで思念通話の要領でシグナムの頭へ直接語りかけてくる。
4:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/07 02:24:55
『さて、さて、アルカンシェルで吹き飛ばされたこの世界に、君が一体何の用件か? 管理局も一緒であ
るなら、事件だろうがなぁ』
「はい、この世界でロストロギアの反応がありましたので捜査中です。何かご存じではありませんか?」
『さて、さて、私はほとんど眠っているだけだ。前に起きたのも、海に落ちたレアメタルなる物の取り合い
のいざこざで起こされて、機械人形を助けてやったくらい………さて、さて、そのロストロギアは海の外の
事だろう? 私が眠っている間、私は何も感じていない』
「そうですか…」
大きく期待が外れたという顔でシグナムは眉根を寄せる。
魔法を使用してないこの世界だがその実、遥か昔は今シグナムがいる星以外の星では魔法が存在して
いた。別の惑星で魔法を扱って暮らしていたのがこの巨大海洋生物の祖先だが、代を重ねるごとに数が
減り、住み家をこの星にしてからはもう彼のみとなってしまっている。管理局からの保護も断り、絶滅を受
け入れた大いなる老人だ。
ひっそりと海の底で眠っていても、この世界で魔法の事件について頼るとなれば彼以上に考えられない。
つまり収穫なし、だった。
『かかか、そんな顔をするものではないよ。君が来たから思いついたんだがね、あれが起動したんじゃな
いのかね? ほら、ほら、あの対闇の書用ロストロギア』
「……光の卵ですか。しかしあれのマスターは前回、暴走した闇の書の近くにいたはずです。アルカン
シェルで光の卵も消滅したとしか思えませんが」
『そう、思いたいだけじゃないのかな?』
闇の書は、深い恨みをいくつもの世界で生んだ。
しかし転生の都度に積み重なるその怨嗟を糧として、いつの時代かの誰かが反撃の牙を生み出した。
光の卵。
そんな呼称を受けたロストロギアである。
ただ闇の書を消滅させる事だけを目的としたロストロギア。
闇の書が生者からリンカーコアを蒐集するのに対し、光の卵は死者のリンカーコアを集め、それを基に闇
の書を攻撃するためだけの戦士を生む。生み出される戦士は、一定の魔力レベルを超えた死者のリン
カーコアが選ばれ、闇の書を殲滅した暁には新たな生命が約束されるのだ。この戦士が、光の卵のマス
ターとしてその力を振るう。
性質の悪い事に、光の卵が選んだマスターがやられれば、光の卵はそのマスターの経験を学習して次
のマスターを選び、この経験を受け継がせる。ここで光の卵は、選んだマスターがやられた世界で次のマ
スターを選択する事を記しておく。つまり、今回は第83管理外世界から選ばれる事になる。
5:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/07 02:27:12
さらに光の卵はその世界でリンカーコアを集めて、一定水準を超えるものを使用者とするが、それ以外も
めぼしいリンカーコアをストックする事ができた。そのリンカーコアから、光の卵のマスターは下僕とも呼
べる奴隷兵を作りだすことができるのだ。姿形は、死ぬ前の体を用意し、ストックしたリンカーコアから生
み出されるそれらはゾンビースレイヴと呼ばれた、ヴォルケンリッターに対抗するためのようなシステム
である。
しばしば、ヴォルケンリッターの足止めにこのゾンビースレイヴは捨て駒にされ、シグナムも手こずった記
憶がある。さらには『デバイスを生む』機能まであるため、武装も充実させられるという。
死者の数だけ奴隷を作る事が出来ると道義なのだが、即戦闘に投与できる奴隷を作れるほど上質なリ
ンカーコアはそうないのが実情だが。
何度か、ヴォルケンリッターも光の卵に選ばれた者とぶつかった事がある。
しかし、現在に至るまで、闇の書を滅した光の卵のマスターはいなかった。
そのまま光の卵もアルカンシェルで蒸発したとばかり考えていたのだが、ふと海神の言う事にシグナムは
現実味を覚えた。
しかし、
「しかし、魔法の発達していないこの世界です。光の卵が選ぶだけの魔力を持つ者がそうそう現れるとは
思えませんね…」
『さて、さて、しかし世の中どう転ぶかわからない。魔法文明が発達していなくとも、魔力の強い者も生ま
れる可能性もある、と思わんかね?』
ちらりと、シグナムの脳裏に浮かぶのは桜色の魔力を纏った、二つくくりのエース。
理は、海神にあるようだった。
しかし思いたくない。
もしも、もしも光の卵が再び活動しているのならば。
ならばヴィータは……・
黙り込むシグナムへと、しかし海神は楽しげだ。
『どうした、どうした剣の騎士。やはり――
その楽しげな声が、途中で途切れた。
海神の姿が、消える。
そして海が、空が、近くにある島が、生気を失い、色を失っていった。
「海神殿…? これは……封鎖領域!」
胸元のレヴァンティンを起動。瞬時にシュベルトフォルムとなり主の手に納まる。まだ、剣は鞘に収まった
まま。何時でも抜剣できるよう柄に手をかけて360度へと注意を配る。
6:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/07 02:28:11
「………」
そして鋭い瞳は、一つの影を捉える。
人影だ。そう身長は高いわけではないが、全身を銀色の甲冑で隠した者。ゆったりとした飛行でシグナム
へと近づけば、2つの盾が甲冑の周囲を従うように浮かんでいるのが分かる。適度な距離で、甲冑が接
近を止めた。シグナムの腕と得物ならば一呼吸では打ち込み損ねる距離だ。
「何者だ?」
「闇の書……壊す…」
「!」
怨恨。
復讐。
悲哀。
憎悪。
憤怒。
正義。
あらゆる理由がシグナムの頭を駆け巡る。闇の書を壊す理由。
そんな中で、やはりシグナムが一際重く見たものは、今しがたの会話の内容だった。
光の卵。
「待ってくれ」
そこへ、ストップをかけた。
「闇の書はもう、ない。ないんだ」
「闇の書……壊す…」
銀が灰色の空を踏んだ。
速い。
「問答無用か……」
まるでイノシシのような、掛け値なく正直な突撃。そして鉄の腕による渾身のストレートがシグナムへと突
き出された。そんな真っ向からの拳を、シグナムは鞘に収まったレヴァンティンで受け止める。
「聞け。闇の書はもうない。だからといって、我々の罪は消えるわけでもない……しかし、話を聞いてくれ」
しかし聞かない。
鉄の外見をとは裏腹に、猫科を思わせるしなやかな動きでシグナムの横っ腹へと蹴りを入れてくる。甲冑
の構造上、中空で後ろのめりになるが、そもそも魔法によって空を飛んでいるのでバランスを崩したとい
う様子ではない。
7:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/07 02:29:12
「聞け。お前は、私が以前襲いかかった誰かか?」
シグナムの肘が、鉄のつま先を阻む。問いの答えはない。意志を疎通するつもりは、ないのだろう。
お前は光の卵の使者か?
そう、聞けなかった。
聞きたくなかった。
「お前は、私が以前襲い掛かった誰かの縁者か?」
お前は光の卵の使者か?
やはり、本当に聞きたい事は聞けなかった。
返答は脳天へと落とされた手刀。
鉄甲に包まれたその手刀は、しかし鞘に納まるレヴァンティンに止められる。
銀の甲冑が、手刀を解きレヴァンティンを掴む。そして、シグナムのみぞおちのあたりへと前蹴り。
堂々と、その蹴りをみぞおちで受け止めてシグナムは一瞬息の詰まる思いに苦しんだ。
「お前は、私たちを裁こうとする者か?」
お前は光の卵の使者か?
言ってしまえ。聞かなければならない事だ。それでも、シグナムはその質問を飲み込んで、別の質問を投
げかけた。
レヴァンティンを掴む、甲冑の手を無理やり振り解いて少し後ろに引いた。
前から、銀の甲冑に追従する盾の1つが突っ込んでくる。単純な盾の体当たりだ。調子を合せて後ろから
も盾が突進してくるのがわかる。並の術者の誘導操作による魔力弾よりも円滑な操作だ。いい腕だとシ
グナムは思う。
そして、右手で正面の盾を受け止めて、左手で後方の盾を受け止めた。
防御の魔法陣も展開。重い、重い盾の衝撃を二面から受けて腕が悲鳴を上げた。逃げるつもりも、受け
流すつもりもない。ただ、愚直に受け止めるだけだ。
8:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/07 02:29:57
そして、
「お前は……」
やっと唇が真意に動く。
「お前は……光の卵の使者か?」
「……うん」
突撃力をシグナムに与えきった盾が、シグナムから離れて甲冑へと戻った。
シグナムの心に冷気で満たされていく。
「……ヴィータを…どうした?」
「殺した」
空っぽになったカートリッジが、宙を舞う。
紫電が一筋、閃いた。
殺意の冷風を従えて、炎を纏ったレヴァンティンの刃が降り抜かれる。
真っ二つになったのは、盾の片方だ。
奇麗に二つになった盾の向こうから、甲冑が鉄の豪拳を突き出してくる。それを受け止めたのは、抜き放
たれたレヴァンティンの鞘だ。鞘を盾として、その豪拳を受け止めて、衝撃を殺そうと後ろへとシグナムの
体が流れた。
『launch』
銀色が、弾け飛ぶ。
中から飛び出してきたのは、女の子だ。
文字通り、飛び出してくる。射出されたと言ってもいい。銀の甲冑を脱ぎ捨てて、爆発的な推進でシグナ
ムへと突っ込んでくる。簡単な服で、子供と女性のはざまにいるような容姿だ。ただ一つ、奇妙なのは
すっぽりと頭部を覆った仮面だった。肩口まで金髪がこぼれているが、それ以外はほとんど首から上が
わからなかった。
宝玉のついた手袋をした拳を、シグナムへと突きつけて弾丸のように飛んでくる。
(あの手袋……いかん!)
流れる体をどうにか立て直せば、余裕で拳は回避できる態勢をシグナムは確保できた。
確保できたが、さらに逃げようと空を動く。
2人が交錯する。
シグナムの首筋には、皮一枚を切り裂かれて流れる血。
9:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/07 02:31:18
見れば、女の子の手袋の宝玉から、魔力の爪が5本飛び出していた。魔力を形として維持する技術。ミッ
ドチルダともベルカともまた違った技術体系で生まれた魔法技術とデバイスだ。フェイトのハーケンフォー
ムに最も類似を見るものである。
どうにか、回避に成功したシグナムの表情に安堵の色が滲む。
そして、その顔が驚きがに塗りつぶされる。
軽い衝撃。
気付けば、後ろから何者かに羽交い締めにされていた。
「やはり、2人か!」
後ろへ視線をどうにか回せば、そこには仮面の女の子が先ほどまで纏っていた銀の甲冑がいた。
一瞬、銀の甲冑が主なしでも動けると思ったが、中に誰かがいるのがシグナムに感じられた。
2人目の敵だ。
とはいえ、ヴィータがやられたと言われて、まっ先に考えたのが多数による攻撃だ。
ここで、シグナムに焦りはない。
身動きが取れないシグナムへと、また仮面の女の子が両手に魔力の爪を立てて空を疾ってくる。
銀の甲冑を脱ぎ捨てた今、バリアジャケットとも言い難い薄い防御力の衣類だけだ。もちろん、それだけ
に速度には目を見張るものがあるが、直線的すぎた。
カートリッジが一発爆ぜた。
レヴァンティンの姿が、変わる。
次々に腹が割れ、いくつもの節と化す。その姿はさながら鞭のようだ。シュランゲフォルムである。
そして獲物へ爪を突きたてようとした仮面の女の子をからめ取ろうと、分割した刃が包囲網を作り出す。
動けぬ獲物の、まさかの反撃に仮面の女の子は逃げ道を探るが、遅い。
「きゃあああああーーーーーーーーーーーー!!!」
仮面の女の子の肉へと、いくつもの刃が突き刺さる。
どうにか、魔力を防御に回して突き刺さる刃を弾き飛ばし、仮面の女の子は逃げるが、深手となったのが
目に見える。
「次は貴様だ!」
そして、背後に張り付く銀の甲冑へと、蛇腹剣を突きたてようとして、
『launch』
「何!?」
10:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/07 02:32:22
また、銀の甲冑が弾け飛ぶ。中の何者かが逃げたのだろう。シグナムを締める圧力が消えた。
攻撃に転じようとしたシグナムは、急な自由に戸惑い、動きが止まった。
そもそも、レヴァンティンのシュランゲフォルムによる攻撃は動きが止まらざるを得ないのだから、ここで
シグナムは完全に虚を突かれた形になってしまう。
だから、
(しまった……!! 海……)
眼下の海にシグナムは赤い魔力を見たのにも関わらず動けずにいた。
海に見えた赤の正体は、海中で練りに練られた、超絶の魔力だ。
それを例えば砲撃に使用すれば、シグナムの命も食い尽くしかねない威力と化すだろう。
シュランゲフォルムから、どうにか防御が出来るシュベルトフォルムへと戻そうとした、瞬間だった。
海から、極大の砲撃がシグナムへと駆け昇る。
赤い、紅い、灼熱の極大閃光。
大量の海水を蒸発させながら、シグナムの視界が紅蓮に染まる。
ベルカの騎士に1対1での負けはない。
ならば――
(く……間に合わん…! ヴィータ……あるじ……・)
剣の騎士の姿が炎に消えた。
11:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/07 02:34:11
終わりです。
あー、無事、他の方々が見つけてくれますように。
今回は、不注意千万で申し訳なかったです。
12:通常の名無しさんの3倍
07/04/07 03:34:15
お疲れ様
あと>>1乙
13:通常の名無しさんの3倍
07/04/07 08:24:49
光の卵≒ブラックスワン?
14:ガンダムし~どD´s
07/04/07 22:15:01
短編投下します
15:ガンダムし~どD´s
07/04/07 22:21:08
D´s短編集 入れ替わり4
「ただいまぁ」
夕暮れの時間にシンは帰ってきた。
「おかえりー」
はやてが出迎え、着替えるために二人ははやての部屋へ行く。
「全く。どこでもあんまり変わってないな、学校って言うのは」
シンは苦笑いを浮かべながら今日起こったことを話した。
もちろん昼休みに起こったなのはのラクガキ事件のことも話した。
それを聞いたはやてはくすくす笑う。
「ちょっとみてみたかったなー」
着替えも終わり、はやてもそういうと、
「実は、アリサから写メでもらってるんだ、ほら」
シンは携帯を取り出し、あの写真を見せる。
そこには油性ペンで左目に◎を書かれて、少しよだれを垂らし気持ちよさそうに眠っているなのはの姿があった。
それを見て、はやては大いに笑う。
「あはは!なにこれ!?」
どうやらつぼにはまったらしく。その目から涙が出ている。
そういえば、軍の訓練校でも同じようなことがあったっけ?
最も、その時の被害者は自分だったが……
(ほんとに、変わらないなあ、どこでも、コーディネーターでも、ナチュラルでも)
コーディネーターもこの世界に来れば、意外と受け入れてくれるかもしれない。
そう思えた普段の夕暮れ時だった。
「今日はどうにかなったけど、明日はどないしよう……」
はやてはさりげなくつぶやく。
今日は何とかなったが、これがずっと続くとなると、流石にまずい。
「1日くらいなら『ちょっと機嫌が悪い』って言えばすむけど、ずっとはちょっとなあ」
そのことばに、はやてはえ?とシンを見る。
「しょうがないだろ。普段、はやてが普段学校でどんな生活してるかわからないし、関西弁なんでしゃべれないしな」
だから、それとなく女子っぽく振舞っただけだ、とシンはいった。
「まあそれは確かにしょうがないとして、アスカ、あのときの誓いのことは覚えているな」
あの時?とはやてはシグナムを見る。
「解ってる。何もしてねえよ、多分……」
多分?とシグナムはシンを見る。
「シグナム、どういうこと?」
さっきからシグナムは何を言っているのだろうとはやては思った。
「実は、先日アスカに『主の体を使って如何わしい行為などをしたらただでは済まさない』と互いに誓いを交わしたのです」
これも主のため、黙っていてすみません、と謝罪するシグナム。
あれって誓いだったか?とシンは思ったが、もうどうでも良かった。
16:ガンダムし~どD´s
07/04/07 22:22:59
「それで、多分とはどういうことだ?」
シグナムは睨みつけるようにシンを見る。
怖い…正直言って怖い。
「えっと……」
どうしようか、とシンは思う。
その時……
「シン、もしかして、あれのこと?」
あれって?とシャマルははやてに聞く。
「なんか今日、アリサちゃんがなのはちゃんにいたずらしたらしくて。それと関係があるんかなあって」
何のいたずらだよ?とヴィータはきいて、なのはちゃんには内緒よ、といってはやては携帯を見せる。
だんだんヴィータの顔が緩んでいき……
「あーっはははは!何だよこれ!ぎゃはははは」
ヴィータももろにクリーンヒットし、笑い転げまわる。
「ほなけん、なのはちゃんにいわんとずっとだまっとったってことやろ?」
はやてにいわれて、ああ、まあ……と歯切れが悪く言うシン。
そういうことか、とシグナムも納得してくれた。
「あ、そういえば、そろそろ夕飯の時間やな、シャマル、準備しよか」
はい、と二人は席を立ち、夕食に準備に取り掛かった。
「なのは、その顔どうしたの?」
家に帰って、両親はまだ働いているので、家でゆっくりしていた。
やがて、姉美由希が帰ってきてきた。
そこで、美由希がなのはの微妙に残っている黒い跡を見つける。
「えっと……」
なのはは昼休みのことを姉に話した。
それを聞いて、美由希はくすくすと笑う。
「お姉ちゃんまで笑わなくても……」
姉の笑う姿を見てむくれるなのは。
ごめんごめん、と謝るが、その顔はまだ笑っていた。
「だったら、早くそのペン跡落としたら?」
そうなんだけど……と困った顔をするなのは。
「どうやっても落ちないの……」
はぁ、とため息をつくなのは。
そこで、美由紀はある提案をする。
「だったら、早めにお風呂入ったら?準備ならしてあげるから」
そういって、風呂の準備をする美由希。
どうやら自分も入るようである。
なのははそんな中、明日はすこしアリサをシカトしようかと思った。
(ちょっとくらいならいいよね?)
そう思いながら。
17:ガンダムし~どD´s
07/04/07 22:24:50
「「いただきます」」
はやて家では、少し早い夕食の時間になる。
「ご飯作るときって、やっぱり背が大きいと便利やなあ」
はやては食事をしながら呟く。
これまで、椅子とか何か補助器具を使わないと料理がしづらい今の子供の姿とは違い、真の体はそんなのがなくても、皿まで自分で準備できる。
「はやても数年したらおおきくなるよ」
シンがそういい、そお?とはやてはため息をつく。
「はやての体も今は成長期だし。そろそろ身長も伸びる頃だとおもうぞ」
シンの言葉に、じゃあ楽しみにしとこう、と少し喜ぶような顔をする。
……しつこいようだが、今はやての体はシンである。
本来自分がしない表情をしているので、シンは相変わらず違和感を感じる。
「にしても、逆にこの体は不便だな、いろいろと……」
なんとなく、見た目は子供、頭脳は大人、なバーロー名探偵の当初の気持ちがわかる気がした。
その後いろいろ話をして、風呂が出来るまで各自思い思いの時間を過ごす。
(風呂が沸くまで、自分の部屋でもいるか)
それにしても……
(またあいつらと一緒に入らなきゃいけないのか?)
そう思い階段を上っている最中だった。
「っつ!」
いきなりだった。
急に足が痺れだしたのだ。
闇の書の呪いは確かに完全には治っていないと聞いている。
「にしても今時かよ」
シンはいきなりの痛みでバランスを崩す。
このパターン、どこかで……
案の定、下にははやてもいた。
しかも本人は気付いていない。
勿論……
ゴツ!……ドサ……
「うわ!」
はやてのそばにいたヴィータが驚く。
いきなりシンが振ってきたのだ。
「おい!はやて!!シン!!しっかりしろ!!おい!!」
シグナムがどうした?と廊下を見る。
そこには、先日の朝のような光景が繰り広げられていた。
「っん……」
はやては頭を押さえて目が覚める。
(えっと……うちは確か……)
はやては思い出す。
確かヴィータと話をしていて、階段を上ろうとしたときに……
そこから一向に思い出せない。
18:ガンダムし~どD´s
07/04/07 22:35:55
「目が覚めましたか、主……」
横にはシグナムがいた。
そのシグナムの顔は何かおかしいものを見るように笑っていた。
そう思い自分を見る。
(あれ、この手って)
自分の手を見ると、さっきまでシンの体だった。
けど今は……
「うち…元にもどっとる……」
そう思っていると……
「少し前に、アスカが目を覚ましました」
シンが自分の体に戻ったということではやてをシグナムたちに任せ、先に風呂に入った。
時間が込んでるらしい。
シグナムからどうなっているのかを聞いた。
「アスカが階段を上っているときに、魔道書の呪いで足が痺れだして足を滑らせたらしいのです」
なるほど、それでシンが落ちてきた、ということになるのか」
「今回ばかりは足に助けられたね」
はやては笑いながらいう。
「直って良かったなはやて!」
ヴィータは喜びながらはやてにとびつく。
「ヴィータ……」
はやてもほっとする。
これでいろんな心配をしなくてすむ。そう思って。
「ほな、シンが出たら一緒にお風呂入ろうか」
はやての言葉にうん!と喜ぶはやて。
シグナムは、そんな二人を優しく見ているのだった。
「あの……なのは?」
「…………」
学校のバス内で、奇妙な空気が流れている。
「昨日はごめん………」
アリサはさっきから昨日のことを謝っているのだが…
「………」
なのははずっと黙り込んだままだった。
そんな二人をはやてたち3人は笑ってみていた。
「それにしても、良かったね、元の体に戻れて」
フェイトの言葉に、うん、と頷くはやて。
シンはあんな子といってたけど……
(やっぱりええなあ、学校って……)
そう思うはやてだった。
「だからごめんってば!!」
「………」
19:ガンダムし~どD´s
07/04/07 22:42:03
ここは時空管理局ですら見つけられない、おそらくどの組織も見つけられない空間。
なのは達の世界では「あの世」とか「天国」とも言われているのかもしれない場所。
そこに、一人の女性がいた。
かつて、「夜天の魔道書」「闇の書」などと呼ばれ、数々のし星を破壊した呪文書。
だが、今でははやてのおかげで暴走を停止し、リィンフォースという新たな名前をもらった。
『良かったですね、わが主』
リィンフォースはつぶやく。
それにしても……
『まさか、他人の心が入れ替わるとは……』
魔術所でもわからないものでもあるんだなと思った。
はやては、今までのマスターの中で最も若い。
これからも何が起こるかわからない。
『もう少しだけ見守らせていただきます。これもわが主のため』
年長者として、主として。
そして、自分を救ってくれ、リィンフォースと名前をつけてくれた恩人として……
「ん?」
何かを感じた気がして、はやては立ち止まる。
そしてふとおもう。
(もしかしたら、リィンが助けてくれたんかな?)
はやては、もう二度と会えないあの魔道書を思い出す。
うん、そういうことにしておこう。何ごとも前向きがたいせつや!
そう思いながら上を向く。
ただ……
(出来れば、もうちょっと優しくしてほしかったかな?)
そう思い、はやては苦笑しながら後頭部にあるたんこぶをさすりながら上を向く。
昨日の夜、シンとぶつかったときに出来たものだ。
けど、これでもとの体に戻ったのだから安いといえば安いのかもしれない。
「はやてちゃん、どうしたの?」
はやての言葉に、なんでもないよ、と返事をする。
「そういえば、昨日シン君がね……」
こうして、いつもどおりの1日は過ぎていく。
「今回俺の出晩少なかったな………」
自重してくださいシン
20:ガンダムし~どD´s
07/04/07 22:44:40
入れ替わり最終話投下完了。
最後になんかカオスってますがギャグも乗ってことで捕らえておいてください。
21:通常の名無しさんの3倍
07/04/07 23:04:59
下世話な話ですまんが学校行ってる間のトイレをどうしてたのかがとても気になる
22:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/08 02:59:52
>>13
申し訳ない、ブラックスワンがわからないです。
調べる限り、セイント星矢でしょうか?
>>20
入れ替わり編終了お疲れ様でした。
本編で大きな変化があったので、箸休めのように気楽に読めて楽しかったです。
23:通常の名無しさんの3倍
07/04/08 03:59:03
CE73のひと、来ないなぁ……。
24:13
07/04/08 09:17:03
>>22
ブラックスワン(黒い白鳥と書いてルビを振ってる)はヴァンパイア十字界という漫画に出てくる呪いです
ゾンビ兵の部分を除いてほぼ光の卵そのまんまの設定
25:通常の名無しさんの3倍
07/04/08 21:21:00
>>24
言われてみれば確かに似てるな
しかしあの漫画は終わり方が微妙だったな・・・
26: ◆GmV9qCP9/g
07/04/08 22:13:26
>>23
遅筆ですいません。
ボチボチ書いてはいますので、気長に待ってて頂けると有り難いです。
27:通常の名無しさんの3倍
07/04/08 23:24:52
>>26
おぉ!!現れた
実はものすごい楽しみに待ってたりする
28:通常の名無しさんの3倍
07/04/08 23:31:49
>>26
わぁい、せかしたようですみません。
年度またぐと復帰不能なひとがちらほらいたりするので、気になってますた。
のんびり待たせてもらいまつ。
29:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/09 00:47:31
>>24 >>25
確認しました。
ホンマや…orz ずいぶん類似点がありますね。
似すぎてて興が削げてしまったのであれば、申し訳ありません。別の部分で楽しんでもらえるよう努めます。
30:通常の名無しさんの3倍
07/04/09 03:21:03
>>29
別に気にしなくていいんじゃないか?俺も言われて初めて気づいたし
31:通常の名無しさんの3倍
07/04/09 18:44:38
シン・ユーノ・エリオの三人が「チーム淫獣」を結成するのはいつですか?
32:通常の名無しさんの3倍
07/04/09 19:08:53
>>31
見ちゃったんですね、第二話のあのシーンを……
33:通常の名無しさんの3倍
07/04/09 19:26:13
シン=犬
ユーノ=フェレット
エリオ=???
エリオは何なんだろう?
34:通常の名無しさんの3倍
07/04/09 21:33:04
おお!いつのまにか新スレたってた。
いまさらだがGJ。
大雑把ですまない。
35:ガンダムし~どD´s
07/04/10 16:36:52
機動戦士ガンダムし~どD´s25話
「「いただきます」」
八神家ではいつもどおり夕食が行われていた。
いつもどおりのはやてが作った食事。
いつものメンバーで食べる食事。
そう、以前に、シンが来る前に戻っただけである。
だが……
「なんか、やっぱりちょっと寂しいな」
はやては苦笑いを浮かべながら箸を進める。
シンは数日前から魔術師の訓練のため、リーゼ達に連れて行かれた。
少し前にした自分の誕生日も、初めて皆で祝ってくれた誕生日。
はやては嬉しかったが、どこか寂しい感じがぬぐえなかった。
その気持ちは、皆も同じような気持ちだった。
「なあはやて……」
ヴィータが小さな声ではやてに聞く。
「今回、あいつは帰ってくるけどよ………あいつの世界が分かったら、もうあいつとは二度と会えないんだよな?」
ヴィータの言葉に、はやての箸が止まった。
ヴィータノ言っている意味はわかる。
確かに、元の世界に戻ったらシンには時空をわたる手段がない。
さらにシンは軍人である。ずっと同じ場所にいるわけじゃないので探すのも一苦労。
さらに地上ならともかく、シンが住んでいるところは宇宙空間。
トドメに、今シンの世界は戦争中。
はっきり言ってほとんど会えるかどうか解らない。
「なあはやて。アタシは、あいつが元の世界に戻って欲しくない。ずっとここにいて欲しい。だってあいつは向こうじゃ死んでるってことになってるんだろ?だったら……」
「いい加減にしろヴィータ」
ヴィータが言葉を続けようとするが、シグナムにとめられる。
「ヴィータの言いたいことも解る」
せっかく新しい家族が出来たのだ、離れて欲しくはない。
だったら……と口ごもりヴィータに、今度はザフィーラが言う。
「だが、私達の勝手でアスカをこの世界にとどませることは出来ない。あいつは元の世界へ帰りたがっている。それを、我々は止められない」
ザフィーラの言葉で、ヴィータが俯く。
そうだ、シンは元世界へ帰りたがっている。
最初はヴィータも、シンが元の世界に戻れたらいいと思っていた。
だが、シンと生活を重ねていくうちに、シンを完全に家族の一員として認識し、中でもヴィータは八神家のメンバーで一番シンになついていた。
だからいなくなるのが嫌なのだろう。
「ヴィータ、シンの気持ちも解ってあげて」
はやてにいわれて、はやては黙ったまま夕食を食べ続ける。
だが、そういっているはやての顔も、あまりいい顔をしていなかった。
36:ガンダムし~どD´s
07/04/10 16:40:18
「はぁ」
夕食も終わり風呂にも入って、はやては自分の部屋にいる。
はやては自分のベッドでため息をつく。
ヴィータには、今日は違う部屋で寝てもらっている。
「ヴィータにあんなこと言うたんはええけど」
自分がこんなのでは全然説得になってない、とはやては思う。
はやてもヴィータと気持ちは一緒である。
彼女にとって、シンはそこまで年の離れていない(それでも6つや7つはあいている)兄のようなもので、頼りにしていたりされたりしている。
ふと、そばにある写真を見る。
そこには以前にとったみんなの写真がある。
だが、これはシンが来る前に撮ったもので、勿論シンは写っていない。
(また、シンも入れての写真を撮らなあかんな……)
そう思い、はやては電気を消し布団にもぐりこむ。
(そういえば……)
美由希は布団に入って思う。
(あの時以降、まともシンに会ってないなぁ)
そう思い、シンとデートをしたときを思い出す。
あれ以降、まともにシンに会っていない。
少し前に、シンが倒れたと聞いて、特別に管理局の船に入れてもらい、見舞いに行った程度。
目が覚めても、何故か彼がなのはの同じように魔術師になっていて、その魔法の訓練で今はいないらしい。
(なにやってんだろう私って)
そう思いどうしようもないほど自分がなさけなく感じる美由希。
こんなことではなかなか進展しない。
(そろそろ、決める頃かな?)
そう思い、美由紀は眠りにつく。
「う…ん……」
マユは自分の部屋で目を覚ます。
「あれ、私どうして……」
マユはおぼろけながら記憶をたどる。
確か、プレシアさんがフェイトちゃんを連れ戻すために戦いに出て、手伝いがしたかったから自分の出て行った。
そこまでは覚えてる。
そのあと外に出た後、管理局の人間に捕まって、それから……
所々微妙に忘れているところが多くて悩むマユ。
「目が覚めたのね」
少し考えていると、プレシアが部屋に入ってくる。
「初めての実践で緊張してたんでしょうね。あなたはしばらくの間気を失ってたのよ」
実はそれは嘘で、プレシアはマユに少し記憶操作をした。
兄と出会う前後の記憶をすっぽりと消したのだ。
その後遺症ではないが、しばらく目が覚めなかったマユ。
だが、そんなことはマユにはわからないため、プレシアが言ったことを信じてしまう。
37:ガンダムし~どD´s
07/04/10 16:49:12
「けど、この分だと大丈夫ね」
プレシアは微笑んでマユを見る。
マユはそんなマユを見て申し訳なさそうな顔をする。
「あの、何も出来なくてごめんなさい」
そんなマユをプレシアは優しくなでる。
「最初はそんなものよ。それに相手も悪かったしね」
プレシアはマユを慰める。
それに、とプレシアはある決意をしていた。
「そろそろ、アリシアを復活させるわ。フェイトはいないけど、フェイトはあとでも取り返せる」
プレシアの言葉にマユは驚く。
その二人の部屋の扉の向こうで、クルーゼはくすくす微笑んでいた。
「え?今日でシン帰ってくるんですか?」
アースラの提示会議で、修行が終わりシンが帰ってくるという。
その日数、2週間。
ええ、というリンディの言葉にはやてはほっとする。
よかったね、となのはたちも喜んでいる。
はやてにとっては早い2週間だが……
「2週間で使い物になるのか?」
修行としての2週間は正直言って短い。
シグナムの問に、クロノはさぁ、としか言えない。
「それはリーゼたちにしかわからないさ」
さて、とクロノ時計を見る。
「本来だったら後数日はかかるところだけど、あの二人のことだから……」
そう思っていると、予想通りまたもやばたんと自動ドアを無理やりすっでこじ開ける音が聞こえた。
「たっだいまー!」
そこには、リーゼ姉妹と、その二人にはさむような形でシンがいた。
「………」
この場合、なんていえばいいんだ?
シンはどうしようか迷う。
そのとき……
「おい!」
「ん」
いきなりシンに睨みつけるヴィータ。
「戻ってきたんだからいうことあるだろ!」
別にここは家じゃないんだけど……とシンは思うのだが、ずっとヴィータが睨んでいるので。
38:ガンダムし~どD´s
07/04/10 16:50:54
「た、ただいま……」
「おう!」
ずっと睨んでいると思えば、今度は笑う。
一体どうなってるんだ?
シンがそう思う中、リーゼたちは他のメンバーと話をする。
「で、結果はどうなんだ」
それを聞いたアリアはある紙を渡す。
「正直すごいわね。この短期間でAAの実力を持つなんて。彼の許可を得たら、このまま管理局で働かせたくらいよ」
アリアの言葉にクロはへぇ、と資料を見る。
なるほど、確かになかなかのものだ。
「それに、何か特殊な能力が備わっているみたいだし」
その能力をあわせれば、もしかしたらなのはたちとそこそこ戦えるかもしれない。
「そりゃあ、私達の教え方がいいからに決まってるじゃない」
そういうロッテに、アリアは少しため息をつく。
「初心者にあれをやらせるたのはいい教え方じゃないと思うけど……」
アリアのいったあれに反応するクロノ。
「あれ?あれってまさか……」
クロノは苦い顔をしながら後ずさる。
そんなクロノを、リンディとエイミィ以外がはてなマークを浮かべる。
「そうよ、クロスケも受けたあれよ、あ・れ♪」
ロッテの言葉に、クロノはシンを見る。
「おい…シン……」
いつもとは違う様子でクロノに呼ばれるシン。
「お前もあれを受けたのか?」
あれ、という言葉に反応して、おまえもか?と逆に聞き返すシン。
彼もあの二人の弟子なのだ、あれを受けていてもおかしくない。
「普通初心者には無理なんだが、大丈夫だったのか?」
クロノの言葉に、頷くシン。
どうやら守れたようだ。
そう思い、二人は固い握手を交わす。
「いやあ、あのときのあいつはすごかった。人間修羅場迎えると何をしでかすか解らんからねぇ」
腕を生んであのときの心を思い浮かべるロッテ。
「さっきから気になっているのだが、あれとは?」
二人がいきなり奇妙な絆を結んでいるとこに少し疑問を抱いたシグナムは、何をしたのか二人に聞く。
それにアリアが答える
「この前、シンにある試練を与えてね」
試練?と考えていると
「そう、試練。その名も、『魔術祭り』!!」
「「魔術祭り?」」
一同は、聞きなれない言葉に首をかしげる。
「いままで星の数の私の弟子達が挑戦し、そして星となって消えていった……」
肉体と魔力を極限まで酷使し、そして精神をも極限まで試される」
いきなり妙なシリアスモードに入ったリーゼロッテ。
39:ガンダムし~どD´s
07/04/10 16:52:39
「そしてこの試練を乗り越えたものこそ、私達の本当の弟子、そして後継者となる」
「簡単に言えば、魔術師との模擬戦100連戦」
奇妙な説明ばかりするロッテに変わり、さらりと内容を説明するアリア。
100連戦ときいてうえぇ、となのはが嫌そうな顔をする。
自分には体力が持ちそうにない。
シンも、軍人で体を鍛えてよかったと思う。
「けど、負けたら恐ろしい罰ゲームが待っている!」
ビシっ!とポーズを決めるリーゼロッテ。
「罰ゲームって何ですか?」
「「やめろ!!」」
「うわ!」
フェイトの言葉に、見事にハモりながらきかせないようにするふたり。
いつも名にこの二人はこんなに仲が良くなったのだろうか……
「やめるんだフェイト、きいちゃだめだ」
「そうだ。君にはまだ早い!」
まだ早い?そうおもっていると
「まあいいじゃない」
そういって二人をバインドで拘束する。
「罰ゲーム、それは下手をすれば今後の人生を狂わしかねない恐怖の罰ゲーム」
いつの間にか興味のある全員がリーゼたちの話を聞こうとする。
「母さん!エイミィ!!とめてくれ……」
「そうですよ!せめて子供達だけでも……」
ふとみると、リンディはこの部屋になく、エイミィはお茶を飲んで行く末を見守っている。
絶対楽しんでいるだろう。そう思う。
援護は絶たれた。
そう思いながら二人は絶望に打ちひしがれる。
「いい、よく聞きなさいよ。罰ゲーム、それは……」
「それは?
ロッテは至極真剣にいう。
まるで怪談話をしているかのように。
「挑戦者が負けたとき、その対戦相手から筋を一本通される」
筋を通される?
皆が悩んでいると真っ先にザフィーラが気付く。
「ま…まさか……」
自分が考えたことに恐怖を感じるザフィーラ
ああ、と頭を抱えてうずくまるその姿勢に、今までこんなザフィーラを見たこともない八神家は混乱する。
一方ムゥはおやおや、と面白そうに聞いている。
レイも無表情dザフィーラをみる。
「まあつまり簡単にいうと……××××(バキューン)」
………え?
一瞬時が止まったかのように思うと、急に女性人の顔が赤くなった。
「えっと、その……えーと……」
いきなり妙なことを言い出して、なのはは少しパニックに陥っている。
すごいことを聞いたような気がする。
40:ガンダムし~どD´s
07/04/10 16:55:02
「だから、××××(バキューン)××××(バキューン)」
「も、もういいです!」
顔を真っ赤にして拒否するなのはたち女性陣。
ロッテはどう見てもこの状況を面白がっている。
「それで、シンは大丈夫なんですか?」
はやての問に、変わりにアリアが答える。
「ええ、見事にクリアしました。まさか本当にクリアできるとは思えなかったけど」
アリアの言葉にえ?とあアリアのほうを向く八神家。
「敵はほとんどがAクラス。初心者には難しい相手」
そこで、とロッテは少し秘策を用意した。それは……
「以前挑戦して失敗した魔術師が××××(パキューン)されてる所を見せて、無理やりヤル気をださせたの」
またいわれて顔を赤くするなのはたち。
「心配ないわよ、確かに感触はあるけどホログラムだし、本当にされてるわけじゃないって」
それでも本人にしてみたら嫌だろう。
そこへ……
「おい!早くほどけ!!」
シントクロノがうしろからギャーギャーとわめいている。
ロッテはそんな二人を見て見下すように言う。
「私の弟子ならどうにかしなさい」
そう言われて、シンは舌打ちをして……
「だったら……ステラ!」
シンの叫びとともに、シンが光りだす。
普通は今クロノがしているように術式を解いてバインドを解くのだが……
「うおおぉぉーーー!!」
シンは無理やりバインドを引きちぎる。
シンの高い魔術の才能、そしてコーディネーターの強靭な体によって出来るかなりの力技。
それを見てロッテはため息をつく。
「相変わらずね、そのバカ力は」
リーゼたちはシンの身体能力に驚いている。
いったいその体でどこからそんな力を発揮できるのだろうか。
二人には、まだコーディネーターのことは話していない。
いったらからかわれるかもしれないと踏んだからだ。
その中、リンディが戻ってきた。
「ごめんなさいね。ちょっとブリッジに急な呼び出しがあってねぇ」
ふとリンディは周囲を見る。
なにやら微妙な雰囲気で皆はリンディを見ていた。
「あら、どうしたの?」
そんなリンディに何でもありません、とクロノが言う。
41:ガンダムし~どD´s
07/04/10 16:59:15
「それじゃリンディさん、彼は返しましたので、私達はこれで」
人を人質みたいに言うな!とシンは突っ込むが、いつものようにロッテがバタン!と自動ドアを閉めて去っていった。
あの二人が去ると本当に静かだ。
シンはこの2週間で思う。
「それでシン君。戻ってきてもらったところで悪いんだけど、模擬戦をして欲しいの」
実は、シンが修行しているときにも定期的にアリアから通信が入って、多少は実践まがいなこともさせないといけないからアースラにいるメンバーで誰かと模擬戦をして欲しいとのこと。
「別に今すぐって言うわけじゃないわ。期間は3日後、あなたはその間その対戦相手のことを好きなだけ調べてもいいわ。レイ君にも手伝ってもらってるから」
はぁ、と聞き返すシン。
「それで、対戦相手のことだけど……」
そういってリンディはなのはを見る。
「なのはさん。あなたがシン君と戦うのよ」
第25話投下完了。
次回かその次ぐらいにシンはなのはと戦います。
…………シン、生きろよ。
次は、例の短編「なのはさん強化計画」か新しい短編「闇鍋」か「まじかるしん4話修正バージョン)のどれかを投下予定。
とりあえず要望にこたえてうpします。
42:通常の名無しさんの3倍
07/04/10 17:18:52
乙なの!
しかし、シンが哀れすぎる。
リーゼ姉妹の地獄の特訓から、身も心も無事に生還したのに
こんどは白い悪魔と模擬戦とは……。
43:通常の名無しさんの3倍
07/04/10 17:58:51
GJっす、シンよその祭りは由緒正しい祭りなのであります、昭和初期の東京
で行われた『漢祭り』百回建てのリングで百連戦をする祭りなのです。
まあ30階位から90階位までは回想で一気に進みますが・・・・
シン君オツカレ様です。
44:通常の名無しさんの3倍
07/04/10 22:21:12
乙彼&Gjなの!
魔術祭り……100人組み手よりも罰ゲームが恐ろしすぎるな。美由希との展開もwktk
個人的には『闇鍋』希望。すんごいどっかの提督が絡んできそうだけど。
まじかるしんは……もうちょっと本編待ちの方がよいかと。
45:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 02:06:23
/// / イ l | | | | ヽ ヽ ヽ、 _,,,,._ 、-r
ィニニ〔ゝノ_ノ / ヽ\ヽヽ | l |l |l ヽ .,','" ̄',〈... _,,,_ _,,,_ _,,,,,| |
'´/ /| |7 r/'´ ̄ヽゝニヽ-ヽヽ │ | | ヽ ヽ { { ,___ ,'r⌒!゙! ,'r⌒!゙! ,.'r⌒| l
イ/ / ! | | |‐‐-ニ''_ー<、{_,ノ -一 / / / | ヽヽ ゝヽ、 ~]| ,i i i l i l i i .i i .i .i
/ / / j | l|. ぇ'无テ,`ヽ}}}ィt于 ノ、/l │ l | l `ー-‐'" ゞ_,.'ノ ゞ_,.'ノ ゞ__,.',、'ュ
./ / / ヽ l| 二´/' ; |丶ニ ノヽリ ハ || | r--, 、-r
' / / ヽ lヾ:、 丶 ; | ゙ /イ' メ | / リ ~`l | _,,,_ | |,,,,,_
`,´l lヽ ヽ. ` ,.__(__,} / イ /イ | | ,'r⌒!゙! ..| |⌒','i
/| | |! ゙! `丶ゝ ,.,,.`三'゙、,_ / lノ ,イノ | | i i i l .| i .i |
. /│| | l /゙,:-…-~、 ) | .ノ イ | .l l ゞ_,.'ノ.. .L、-_,'ノ
/ ! | ! \ `' '≡≡' " ノニィ | |lハ (~'-'ノ
| ! | _`ト_、 _ , イ ! |ル' ,イ __`~~
ハ ヘ |‐'  ̄,.ィ´ヘ` ー- イ | |l | /│ 〈 ヽ
ノ ヘ ヘ | <´ィ´ /介「`ヽヽ│ ハ l / ノ _, | }
ゞ、_ゝヽ ! \ー´/ハ トニノノ ! / ハ ト、//,ィ _ ,.-ィ´ !>'⌒ヽ、
ヾゝヽ.ヽ lー-、  ̄ 1 |│|ヽハ 」 / _ハ _/ イィニィ'´ /ヽ、 , )
ヾゝヽ. l^ーィ- 、|│ ! ト、>-リ イニィー '^ヽ、 /:::::::::Τ  ̄ `l
ヾヽヽゝ  ̄! | | lヽヾ/ / ヽ /::::::::::::┼‐- -ノ
46:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/11 02:20:50
六話目投下したいと思います。
部屋を明るくして離れてみてくださいね。
47:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/11 02:22:58
第六話
『フェイトちゃん! 飛ばし過ぎだよ!』
「わかってる!」
第83管理外世界。そう印を押された世界。
その海の上を、つまり空を少女が一人、駆け抜ける。
速い。
音速もかくやと言わんばかりの飛翔である。
体にいくつもの羽を纏い、高度と速度に適さぬ水着のような薄い衣服だ。
ソニックフォーム。
どうでもいいが、ソニックとライトニングではライトニングの方が速いだろうと感じたのは筆者だけでないと
思う。
シグナムとの定期連絡が途切れても、もう30分以上が経った。
アースラからシグナムの行方を追ったモニターにて、映し出されたのは封鎖領域である。
現地でおそらく唯一の魔法使いであろう海洋生物による念話を試みたところ、シグナムが閉じ込められて
いる事が判明。すぐさま、フェイトは調査を切り上げてエイミィの誘導を頼りに、シグナムの元へと駆け
た。
転移魔法に適さぬポイントである事と、フェイトの速度を考慮して、フェイトは一緒にいたアルフを置き去り
にして単騎での行動だった。まずはアースラへと転移出来るポイントを探し、さらにアースラからシグナム
のいる場所に最も近い転送可能なポイントへと転送、そしてシグナムの元へと飛行というプロセスをクロ
ノとアルフは踏まなければならないのである。
シグナムの強さについて、おそらく最も信頼しているのはフェイトである。
仲間であるヴォルケンリッターとはやてもシグナムの強さについて、これ以上ない信頼を置いているが、
直に刃を交えた者同士にしか生まれない絆もある。その真っ向からのぶつかり合いを繰り返したフェイト
だから、シグナムの孤立が危険であると考える。
そう簡単にやられるシグナムではない。
そう思う一方で、ならば相応の用意でシグナムに接触するのが当然である。
闇の書事件以降、シグナムは管理局に在籍。つまり影で動く者ではなくなったのだ。ならば情報の仕入
れ方はいくらでもある。そして、それを元にシグナムだけのシグナムに対するシグナムへの対抗策を抱え
て、封鎖領域を展開すればどうだろうか?
人数は?
デバイスは?
海という地形は不安要素になるのではないのか?
フェイトの裡に不安が無数に広がっていく。
あのシグナムが易々とやられるわけはない。
48:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/11 02:23:52
しかし胸騒ぎは消えない。
あれだけ名を広めたシグナムなのだ。それを閉じ込める者がいたとするのならば、よほどの馬鹿かよほ
どの用意かだ。そして、フェイトはこんな時最悪の状況を頭に入れておかなければならない。
「ついた……!」
肩で息をしながらフェイトは気合いを入れる。
魔法を修めた者は見える。海に展開された魔力に依る巨大なドーム。
シグナムは、この中だろう。
「シグナム……」
『フェイトちゃん駄目! ちょっと落ち着いて! あのシグナムだよ?』
「わかってる……でも、ヴィータの事もあるから!」
マントが翻り、ソニックフォームからライトニングフォームへ。
二度のロード。
黒い杖が、変わる。
『フェイトちゃん!!』
輝きを剣に。
黄金色の魔法陣を踏んで。
ザンバーフォーム。
「疾風…迅雷!」
2度、3度ほど雷光の剣を泳がせた。紫の雷電がほとばしる。漲る魔力。担ぐように、構え、
「スプライト! ザンバー!」
封鎖領域へと踏み込んだ。
紫の稲妻が暴れ狂う。黄金の剣が、封鎖領域を切り裂いた。まるでガラスにひびが入るように、封鎖領
域は悲鳴を上げ、そして崩れ落ちる。
中にいたのは、1人。
銀色の甲冑を纏った、
「…子供?」
小さな魔法使い。子供程度の背丈で、よくもまぁ甲冑に耐えられると思えるような小ささだ。
全身を隠し、男の子か女の子かもわからない。その隣に、従うように丸い盾が1つ、浮かんでいた。デバ
イスなのだろう。
「あなたは……」
49:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/11 02:25:19
銀の甲冑が、フェイトへと向く。
周りには、誰もいない。
ごくりとフェイトの喉が鳴った。
「シグナム……シグナムは?」
「殺した」
奇妙にねじれた声。
フェイトが凍りつく。
「そんな……嘘だ……あの強い…シグナムが……」
現実にいないような気分へと落とされたフェイトが、一歩踏み込もうとして、飛びのいた。
海から、赤い、紅い砲撃。非殺傷設定などお構いのない凶悪な砲撃が海から天へと伸びていったのだ。
その直撃を受けたのだろうか。羽と尾をもつ鯨のような巨大な海洋生物が、海から空中へと高々と放り投
げられた。この質量が宙に舞うのだから、砲撃の威力を物語るには十分だった。
「!!」
明らかに、即死だろう。火傷など言う前に、その海洋生物には穴まで開いていたのだ。
「ふぅん……エヴィデンス01なんて、本当にいたんだ。ま、魔法がある時点で何でもありか」
そして、砲手であろう者が驚きを交えながら海から飛んでくる。
声が奇妙にねじれ、その頭にはすっぽりと、仮面。隠しているのは顔だけで、男とわかった。
「レヴァンティン、テイカーショット」
『了解』
その手には、赤い杖。
巨大な海洋生物へと杖を構えれば、槍のような閃光が海洋生物の死体へと突き刺さり、体内から一つの
煌きを抜き取った。煌きは仮面の男の杖へと収まり、巨大海洋生物の体は、まるで光の粒子となって消
えていく。
「リンカーコア!?」
「そ。管理局にしては速いじゃない。君がフェイト=テスタロッサかな」
「……あなたは…」
「うーん、名無しというのも不便かな。じゃ、トライア・ン・グールハートとでも名乗っておこう。こっちの子は
……君が良く知っている人物だ」
奇妙な音声で仮面の男は軽く笑った。偽名も甚だしい。
トライアと名乗る男が銀の甲冑をコンコンと叩くが、フェイトは誰であるか見当もつかなかった。
50:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/11 02:27:14
「シグナムは……シグナムは本当に…」
「さあ、どうだろうね……この子に勝ったら、いろいろ教えてあげてもいいかな。いろいろとね」
「……」
銀の甲冑が、空を踏みこんでフェイトへ飛んだ。
速い。
が、フェイトはさらに速かった。
一呼吸で甲冑の繰り出すパンチから大きく離れ、二呼吸目ではもう甲冑を後方へと置き去りにしてしまっ
て、トライアと名乗る仮面の男へと飛んだ。
「いやあぁぁ!」
担ぐように構えたザンバーフォームを、美麗な姿勢で振り下ろす。フェイトの魔力を大量に吸って、強大な
威力を有するザンバーフォームだが、しかしトライアの赤い杖によって受け止められる。正直、フェイトとし
てはこの杖型のデバイスも断ち切る勢いだっただけに驚いた。
「非殺傷設定? 仕事の人は大変だね」
フェイトは酷薄な笑顔を、仮面の向こう側に感じた。こいつは、許せる人間ではない。本能で、危険だと理
解できる。たとえば禁止された力でも、禁忌とされる強さでも、もしも手に入ったのならば躊躇いなく使用
するような。
「レヴァンティン、ファイアガトリング」
『了解』
トライアの周囲に、赤い球体が3つ生まれて空間に固定される。
魔力砲台とも言える、スフィアだ。自分のフォトンランサーとほぼ同じ性能と見抜き。すぐさま飛びのくフェ
イトが寸前までいた空間を、スフィアから打ち出された赤い灼熱の魔力が通り過ぎた。
(強い…!)
純然な破壊のエネルギーが込められたファイアガトリングなる魔法の威力を肌で感じたフェイトは、フォト
ンランサーと同等などと考えた愚に息を飲む。おそらく防ぐ事はできるだろうが、受けたくない射撃だ。
そして、フェイトが飛びのいた先で、銀色の甲冑が殴りかかってくる。
こちらは、いい。動きも、トライアとの立ち位置もしっかりしているが、いかんせんフェイトの速さについて
いけていない。警戒は必要最低限で対応できるレベルとフェイトは思えた。
事実、ザンバーフォームで数度斬りつけて見るが、オートで主を守る盾がフェイトの斬撃に徐々について
いけなくなっている。もう3、4度斬りこめば盾をすり抜けて銀の甲冑へと一手浴びせる事が出来るだろ
う。
とはいえ、それも邪魔のないという仮定の話。
的確にフェイトが銀の甲冑を攻めれば、嫌なタイミングでファイアガトリングが飛んできて距離を取らざる
を得なくなる。
51:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/11 02:28:32
熱風を撒いて鋭く撃ちだされるそれは、あくまで銀の甲冑をフェイトから離すためだ。
しかし、こうやって敵が時間を稼いでくれるのは好ましい。時間が取れれば取れるほど、クロノとアルフの
援軍が期待できるのだ。
「やれやれ、これじゃ埒が明かないか」
トライアの嘆息が聞こえる。同時に、ファイアガトリングのスフィア―仮にファイアスフィアと呼ぼうか
―を消すのが見えた。攻め手を変える気だ。そう警戒したフェイトに、しかし攻めてきたのは銀の甲冑
の方だった。従えていた盾が高速でフェイトへと突っ込んでくる。重そうな盾で、その運動に大きく魔力を
込められている。普通にぶつかれば十分な痛手になるだろう。
それを余裕で回避すれば、フェイトの進路へと銀の甲冑が躍り出る。
それも、想定できる範囲だ。
殴りかかる銀の拳を、焦らずにバルディッシュで受け止めて見せる。
重い。
重いが耐えられる威力だ。
弾き飛ばされるようにフェイトが空を流れる。
この時点で、フェイトは余力を残している。即座にソニックムーブによる離脱が可能なように。
間違いなく、仮面の男の砲撃があると踏んでいるのだ。
『launch』
だから、ここで想像もしない人物の登場に足が止まる。
銀色が弾け飛んだ。
甲冑を構成するプレートというプレートが爆発するように四散し、当たり一面へと飛んでいく。的確に、自
分にぶつかる物だけを斬り払いながら、銀色の向こうにフェイトは見た。
赤い、少女。
銀の甲冑から現れたのは、
「ヴィータ!!?」
フェイトの手が、足が、何より思考が戸惑いに塗りつぶされた瞬間だった。
(しま……!)
甲冑の爆発に乗ったかのような推進でフェイトへとたどり着いたヴィータが、グラーフアイゼンを振るう。
防御に魔力を回すが、遅い。
重い。
耐えがたく重い鉄槌の一撃。
52:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/11 02:29:46
「ああああぁぁぁあ!!」
展開した防御魔法陣を木端微塵に砕き、フェイト自身は人形のように抵抗できぬまま空を吹き飛んだ。
そして、フェイトの視界が一色に染まる。
赤く、紅く。
トライアによる、赫耀の砲撃。
(いけない……これは……回避…できな……!!!)
極大の猛炎が、ただ一直線にフェイトを飲み込もうと空を焦がし、空を奔り――
白が、赤の奔流からフェイトをさらった。
「何ぃッ!?」
鉄槌による痛みに、フェイトは己の意識がまだある事を悟って驚いた。超常の赤い砲撃は、フェイトを通り
過ぎてもはや遥か後方を走り抜けた後だ。
そして、同時に誰かの腕の中にいる事も理解する。
顔を上げれば、見知らぬ、男。
仮面の、男。
顔の上半分を白い仮面で隠した、ある軍内にて白服と呼ばれる衣服に酷似したバリアジャケットの男
だった。そして、フェイトを抱きかかえていない方の手に持つのは、
「か、母さんの……杖…!!」
プレシア=テスタロッサが最期まで手にしていた杖だ。
間違いない。間違えるはずがなく、それはプレシアの杖だった。
痛みさえ忘れてしまう程の驚愕。
支えられるまま、フェイトは見開いた眼を抱きかかえてくれる仮面の男へと向けた。
「あ…あなたは……」
「お前は……何故ここに……!!?」
フェイトとトライアの、動揺滲む声。
「私か……私は」
仮面の男が、唇を自嘲気味に歪ませた。笑ったのだろうか。
「……ラウ=ル=クルーゼ。在ってはならない存在……とでも言うべきか」
53:失われた者たちへの鎮魂歌
07/04/11 02:32:32
終わりです。
ところで、自分もD´s氏へは闇鍋の方をを希望したいです。
54:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 02:40:02
>失われた者たちへの鎮魂歌。
乙彼&GJです。
敵の偽名ふいたw 一番驚きなのはクルーゼがフェイトさん救出!!?こいつはいよいよ盛り上がる展開になってきましたね!
55:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 17:05:51
っていうか筋を一本通されるってどういうこと
56:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 17:29:14
肛門あたりからグリグリ鉄筋差し込んで首の後ろあたりまで貫通させること
57:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 18:22:23
>>55
ウホッ!
とか
アッーー!!
な事に成るんだよ
58:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 19:27:38
クロノ「ところでシン、あの光景を見せられてどう思った?」
シン「すごく、デステニーです」
こーゆー事か
59:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 19:27:41
インモラルデバイス・・・
60:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 19:36:50
それなんて阿部さん?
61: ◆GmV9qCP9/g
07/04/11 22:03:50
10分後に投下します。
62: ◆GmV9qCP9/g
07/04/11 22:14:41
マハムール基地の司令部では、今回のガルハナン攻略戦に向けて、ブリーフィングが行われようとしていた。
ブリーフィングルームには作戦に参加する部隊のパイロット達が集まりつつあり、本来は十分な広さを持つ室内を少々圧迫しつつある。
「けど、現地協力員って……つまり、レジスタンス?」
「まあ、そういう事じゃない? だいぶ酷い状況らしいからね、ガルナハンの町は」
シンの問い掛けに、ルナマリアは眉を顰めながら答える。
今回の作戦には不可欠な要素があった。それは現地協力員の存在である。地球連合軍の占領下に置かれたガルハナンの住民達は、謂れのない支配に抵抗し、その一派がザフトに協力を申し出ていた。ガルハナンを陥とす攻略材料となりうる情報を彼らは持っているというのだ。
真正面から攻めたのでは、再び甚大な犠牲を出して敗走するだけなのだから、ザフトとしては渡りに船だった。
ルナマリアと話をしながらブリーフィングルームに入ったシンは、ザフトとは雰囲気が異なる一角がある事に気づく。それはオーブ軍のMSパイロット達。その中にはキラもいた。
シンは、そちらの方に歩いていくと、キラの前で立ち止まる。キラの方はといえば、どうしたらいいものかと、ただ戸惑っていた。
キラを睨みつけながら、シンは言葉を吐く。
「……俺はザフトで、アンタは友軍の兵士だ。命令だから、今は一緒に戦ってやる。……こんな戦争、とっとと終わらせなくちゃ、マユとだって安心して暮らせないからな」
様々な想いが混ざり合う中で、それがシンなりに出した取り敢えずの答えだった。
マユとの平穏な暮らしの為に─また、その事を差し引いても、連合が吹っかけてきた今回の戦争をいち早く終わらせる事が、彼の望みだ。だからこそ、ザフトの一兵士として戦っているのだから。
「だけど! すべてが終わったら……アンタとはきっちりケリをつけさせてもらう。必ずな!」
あくまでも、優先順位を考えた結果であり、キラとの因縁を有耶無耶にするつもりは毛頭ない。だが―後々どういった形でキラとの決着をつけたいのかは、シン自身にもまだ見えてはいなかった。
シンの言葉を呆然とした顔で聞いていたキラは、やがて表情を和らげて「ありがとう」と、礼を言った。
「ふん! 別に、アンタの為に言ってるんじゃない……感謝される覚えなんか無いね!」
シンはそう言い捨てると、部屋に並べられた椅子の最前列に座る。
そして、そんな彼らからやや離れた所で、その様子を窺っていた者がいた。
(あの男がキラ・ヤマト……)
レイ・ザ・バレル―彼もまたシンと同様、キラとの因縁を持つ者だった。
彼は困惑していた。彼が最も信奉する人物は、すべてを承知しているはずだというのに。
(俺は……どうすればいい?)
表情に表れることのない彼の動揺に、気づく者はいない。
「ちょ……ちょっと、シン! 今のって、いったい何の話? あの人、オーブの人だよね?」
ルナマリアの目から見て、彼らの仲は険悪にしか見えなかった。少なくとも、シンの方は明らかに相手の事を快く思っていないらしい。
「別に……ルナには関係ないだろ!」
シンは苛立ち混じりに答える。
「何よ! 怒らなくたっていいじゃない!」
「怒ってなんか―」
部屋にアーサーとアスランが入ってきた。室内にいたパイロット達が一斉に起立して敬礼する。
シンとルナマリアも言い合いを止めて、彼らに倣った。
(―ん?)
シンは、アーサーとアスランの間を歩く一人の少女に気づいた。茶色のパサパサした髪を後でくくっている。ちょうど、マユと同じ年頃だろう。
(まさか……こんな子がレジスタンス?)
妹と変わらぬ年齢の少女に驚き、シンは思わず呟いてしまう。
「……まだ子供じゃん」
シンの言葉が聞こえたのか、少女はムッと口をひん曲げた。
63: ◆GmV9qCP9/g
07/04/11 22:15:39
「着席」
アーサーが声を掛け、シン達は座った。
「さあ、いよいよだぞぉ。ではこれより、ガルナハン・ローエングリンゲート突破作戦の詳細を説明する」
ローエングリンとは、地球連合軍の陽電子砲の名称だ。デュナメイスにも同名の兵器が搭載されているし、ミネルバのタンホイザーも原理は同じである。
「だが、知っての通り、この目標は難敵である。以前にもラドル隊が突破を試みたが、あー……結果は失敗に終わっている」
この場にいるラドル隊の面々を気にしてか、アーサーは少し言い淀みながらも話を続けた。
「そこで今回は……アスラン―」
「え?」
ふいに名前を呼ばれ、やや驚くアスラン。
「―代わろう。どうぞ、あとは君から」
「あ、はい」
アスランは戸惑いながらも説明を始める。部屋の照明が落とされ、大型モニターに俯瞰図が投影された。ポインターが一本しかない渓谷を示す。
「ガルナハン・ローエングリンゲートと呼ばれる渓谷の状況だ。この断崖の向こうに町があり、そのさらに奥に火力プラントがある。こちら側からこの町にアプローチ可能なラインは、ここのみ―」
次に、町の手前に一際高く聳える岩山の上を指し示す。
「―が、敵の陽電子砲台はこの高台に設置されており、渓谷全体をカバーしていて、どこへ行こうが敵射程内に入り、隠れられる場所はない」
アスランの淀みない説明を聞きながら、アーサーは感心したように頷いていた。
「超長距離射撃で敵の砲台、もしくはその下の壁面を狙おうとしても、ここにはMSの他にも陽電子リフレクターを装備したMAが配備されており、有効打撃は望めない」
アスランはシン達の方を見る。
「君達は、オーブ沖で同様の装備のMAと遭遇したということだが?」
「……はい」
シンがぶっきらぼうに答えると、アスランは少し微笑んだ。
「そこで、今回の作戦だが―」
「そのMAをぶっ飛ばして、砲台をぶっ壊し、ガルナハンに入ればいいんでしょ?」
シンは、アスランを遮るように、挑発的な言い方をする。
彼の両隣に座っているルナマリアとレイが、深いため息をついた。
「それはそうだが……俺達は今、どうしたらそうできるかを話してるんだぞ、シン」
アスランが呆れた様子で言う。
「やれますよ。やる気になれば」
「じゃ、やってくれるか?」
アスランは人の悪い笑みを浮かべながら続けた。
「俺達は後方で待っていればいいんだな? 突破できたら知らせてもらおうか」
「えっ?……あ、いや……それは……」
てっきり叱責されるものと思っていたシンは、予想外のアスランの言い様に、しどろもどろになってしまう。
隣にいるルナマリアが噴き出すのを聞いて、シンは思わず彼女を睨みつけた。
64: ◆GmV9qCP9/g
07/04/11 22:17:29
アスランは涼しげな顔で、説明を再開する。
「―という馬鹿な話は置いといて……ミス・コニールからの情報によると―」
目標の砲台付近に抜ける坑道があり、インパルスの分離形態ならばギリギリ通れるくらいの広さだった。主力部隊が正面から仕掛けて敵を引きつけている間に、坑道を抜けたインパルスが砲台を破壊する―以上が、今回の作戦の大まかな概要である。
アスランが一通りの説明を終えると、部屋の照明が点灯した。
「―というわけで、ミス・コニール」
「あっ、はい」
馬鹿にしたような表情でシンを見ていた少女は、アスランに呼ばれて慌てて返事をする。
「彼がそのパイロットだ。データを渡してやってくれ」
「ええっ!? こいつが!?」
「そうだ」
コニールは不満げにじろじろとシンを見る。一方、シンも年下の少女にこいつ呼ばわりされて、腹を立てていた。
「……何だよ?」
シンは、ぶすっとした態度で応じる。
だが、コニールはシンを無視して、アスランに訴えた。
「この作戦が成功するかどうかは、そのパイロットに懸かってるんだろう? 大丈夫なのか? こんな奴で」
「何ぃッ!?」
シンは思わず声を荒げる。両隣のルナマリアとレイが、またもや深いため息をつく。
「ミス・コニール……」
アスランはコニールを宥めようとするが、彼女はなおも訴え続けた。
「隊長はアンタなんだろ!? じゃ、アンタがやった方がいいんじゃないのか?……失敗したら町のみんなだって、今度こそマジ終わりなんだから!」
「何だとォ、こいつッ!」
シンはついに立ち上がり、コニールに詰め寄ろうとする。
「シン! ミス・コニールも! 止めろ!」
両者を諌めようと、アスランもつい声を荒げてしまった。
そこへ、アーサーのどこかのどかな調子の声が割り込む。
「ああ、なるほど。アスランかぁ……いや、それは考えてなかったなあ……あ、でも―」
彼はしきりに頭をひねっており、かなり真剣に悩んでいるようだった。
そんな彼を見たアスランは、疲労感を覚えながらも諌言する。
「副長まで……止めてください―シン、座れ!」
アスランに命じられて、シンはふてくされながら席に戻った。
それを確認すると、アスランは表情を和らげてコニールに話しかける。
「……彼ならやれますよ。大丈夫です。だからデータを」
コニールはしばらく躊躇っていたが、やがて意を決したのか、アスランにデータディスクを預けた。
65: ◆GmV9qCP9/g
07/04/11 22:18:22
アスランはシンに歩み寄ると、ディスクを差し出す。
「シン、坑道のデータだ」
しかし、シンは意固地に下を向いて、ディスクを受け取ろうとしない。
「……シン?」
訝るアスランの声に、シンは拗ねた調子で答えた。
「そいつの言う通り、アンタがやればいいだろ! 失敗したらマジ終わりとか言って……。自分の方が上手くやれるって、アンタだってどうせ本当はそう思ってんだろ!?」
「シン!! 甘ったれた事を言うな!!」
アスランの怒鳴り声が室内に響く。
「あいにく俺は、お前の心情とやらに配慮して、無理と思える作戦でもやらせてやろうと思うほど馬鹿じゃない。無理だと思えば初めから自分でやるさ」
彼の皮肉にシンは何か言い返そうとするが―
「……だが、お前なら出来ると思った。だからこの作戦を採った」
シンは小さく息をのんだ。自分は信頼されているというのか?―アスランの言葉に揺さぶられる。
「それを……あれだけデカい口を叩いておきながら、今度は尻込みか!?」
どのみち、こうまで挑発されてしまっては、シンとしては後に退けなくなっていた。
アスランの手から荒々しくディスクをひったくる。
「分かりましたよ! やってやるさ!」
その後は何事もなくブリーフィングは終了し、各部隊のパイロット達は部屋を出て行く。
シンも部屋を出ようとしていたのだが、入り口まできた所で視線に気づく。コニールが険しい表情で彼を睨みつけているように見えた。
「……何だよ。まだ何か言い足りないのか?」
「シン!―」
喧嘩腰でコニールに当たるシンをアスランが諌めようとする。
しかし、それより先にコニールが口を開いた。
「前に……ザフトが砲台を攻めた後、町は大変だったんだ。それと同時に、町でも抵抗運動が起きたから」
シンはハッとして、思いつめた表情で語るコニールを見つめる。
「地球軍に逆らった人達は、滅茶苦茶酷い目に遭わされた! 殺された人だってたくさんいる! 今度だって、失敗すればどんなことになるか判らない……だから、絶対やっつけて欲しいんだ! あの砲台! 今度こそ!」
彼女は目を上げ、縋るようにシンを見て叫んだ。その目には涙が光っている。
「だからっ……頼んだぞ!」
涙の止まらぬ彼女の小さく震える肩に、アスランがそっと手を置き、連れて行く。
シンは彼女の背中を見つめながら、手にするディスクの重さをひしひしと感じていた。
連合側の人間に見つかれば、ただではすまないだろうに―町の人達の思いを背負い、たった一人で彼女はやってきたのだ。
失敗するわけにはいかない。『お前なら出来る』と、アスランも言っていた。
(成功させてみせるさ……必ず!)
=========================
66: ◆GmV9qCP9/g
07/04/11 22:19:13
「流石ですね」
「え?」
コニールと共にエレベーターを待っていたアスランは、ルナマリアに声を掛けられて振り返った。
「シンって扱いにくいでしょう? 私達、アカデミーからずっと一緒ですけど、いっつもあんな調子で。あの子、教官や上官とぶつかってばっかり」
彼女の目から見たシンは、本当に子供みたいだったのだ。
「なのに、ちゃんと乗せて、言う事聞かせて……凄いです!」
まるで奇跡でも起こしたかのような彼女の口振りに、アスランは苦笑する。
「そんなんじゃないよ。扱うとか……下手くそなんだろ、色々と。……悪い奴じゃない」
「あ……はあ……」
ルナマリアは驚いた。アスランがシンの事をこうまでよく見ているとは思っていなかったからだ。
「そうだね。僕もそう思うよ」
─と、二人の会話に割り入ってくる声。
「キラ……お前、大丈夫なのか?」
「うん。打撲だけだから、二~三日すれば腫れも引く、って」
「いや、怪我の事じゃなくてだな……」
アスランはシンとの問題について尋ねたのだが、キラの返答は食い違っていた。だが、こういう少しずれた所がキラらしいとも、アスランは思う。
言い淀むアスランを見て、流石にキラも彼の言いたい事を察した。
「それは……僕が決める事でもないから……。でも、とりあえずは一緒に戦ってくれるってさ」
苦笑いしながらのキラの返答に、アスランは少し驚く。たしかに、シンとは話をしたが、これ程すぐに変化が出るとは思っていなかったからだ。
「そうか……あいつがな」
シンの真っすぐな性格は危うさでもあるというのが、アスランが彼に待つ印象だった。銃を手にする者として、シンの心は純真過ぎるのだ。
だからこそ、彼には間違ってほしくない─かつての自分のようにはなってほしくない。これがアスランの願いだった。
「それでね、アスラン。ちょっと話しておきたい事があるんだけど、時間とれないかな?」
「あ、ああ。そうだな……」
アスランは少し思案した。マハムール基地を出立するまでに、少しぐらいの時間なら取れるだろう。それに、彼の方もキラとゆっくり話す時間がほしいと思っていた所である。
シンとの事以外にも、キラが再び戦場に出ている事についても。この二年間、後悔ばかりしていたキラを見てきたアスランとしては、彼の事が気掛かりだったのだ。
「それじゃ、後でデュナメイスの方に行く」
「うん、分かった。待ってるよ」
アスランは頷くと、エレベーターの扉を閉めた。
67: ◆GmV9qCP9/g
07/04/11 22:20:56
アスラン達が乗るエレベーターを見送ったキラは、一人の少女のジロジロと自分を見る視線に戸惑う。
「えと……な、何かな?」
「あ……失礼しました。私はミネルバ隊所属、ルナマリア・ホークです」
ルナマリアは姿勢を正すと、敬礼して名乗る。
「……キラさん─でしたっけ? オーブの方みたいですけど、アスランさんの御友人なんですか?」
「うん。アスランとは幼馴染みなんだ」
「─という事は、キラさんもコーディネイター?」
「そうだけど……」
キラが答えると、ルナマリアは大いに納得した様子で頷いた。
「じゃあ、あの青いムラサメは、キラさんだったんですね?」
一機だけ特出した違う動きの良さを見せる青いムラサメをルナマリアも目にしていた。当然、その戦い方も。
「そ、そうだよ」
質問しながら迫り寄るルナマリアから逃げるように、キラは顔を引きつらせながら、少しばかり後退る。
しかし、彼女の質問はまだ続いた。
「では、キラさんがフリーダムのパイロットだった、っていうのは? みんな、そう噂してるんですよねぇ。あんな戦い方する人、他にはいないはずですから」
ヤキン戦役終盤に現われた、鬼神のような強さのMS。単機で艦隊さえ圧倒したというフリーダム。
アスランのジャスティスとは違い、そのパイロットの詳細は公にされていなかった。唯一特徴的だったのは、敵の戦闘力だけを奪いさる、その奇抜な戦い方。エースクラスすら遥かに凌駕する技量がなければ、実戦で行う事など不可能な絶技だ。
それだけに、先日の戦闘で青いムラサメの見せた戦い様は、ミネルバクルーの間に件の噂話を立たせるには十分な要因となった。
ルナマリアの期待を込めた眼差しに観念するかのように、キラは頷いた。
「凄いですよね。どうやったら、あんな風に戦えるんですか?」
ルナマリアは技術的な意味合いで聞いたのだが、その言葉にキラは俯いてしまう。
「それは─僕が無知で傲慢で……卑怯だったからだよ……」
「─えっ!?」
予想外の返答を受けてルナマリアが戸惑っていると、彼女の後ろから声がした。
「そのぐらいにしておけ、ルナマリア。あまり質問ばかりしては、相手も困るだろう」
ルナマリアが振り返ると、見慣れた金色の長髪の少年がいた。
会話に交ざってきたのは、キラの見知らぬ少年だった。
「君は?」
「ミネルバ隊所属、レイ・ザ・バレルです」
「僕は─」
自分も自己紹介しようとしたキラをレイは遮る。
「キラ・ヤマト─よく知っていますよ、貴方の事は」
そう。彼は知っていた。キラ・ヤマトという存在が、どういったものなのかを。
「そ、そう?」
キラの戸惑いを含んだ返答に、レイは表情にこそ出さないものの、微かに落胆した。
「……分かるかとも思ったんだがな」
「え?」
レイの声が小さくて聞き取れなかったので、キラは聞き返す。
「いえ、何でもありません。我々はミネルバに戻らねばなりませんので、これで失礼します。―行くぞ、ルナマリア」
「えっ? ちょ……ちょっと待ってよ、レイ」
敬礼してから通路の向こうへと歩き出すレイ。ルナマリアは、そんな彼の後を慌てて追いかける。
去っていく二人の少年少女を見送りながら、キラはふと奇妙な感覚に気づく。
(あのレイって子……どこかで会った事があるような気もする)
しかし、それが何時何処であったか、キラには思い出せなかった。
68: ◆GmV9qCP9/g
07/04/11 22:30:36
お待たせしましたの第22話、投下終了です。
ベースは、種死本編のマハムール基地です。
簡略化しようかとも思いましたが、気づいたら長くなっていました。
あと2話ほどガルハナン編の話が続きますが、
先月の予告通り、なのはさんの出番はナシでいきます。
……まぁ、砲撃魔導師らしくチャージ中、って事で一つご容赦を。
ではではノシ
69:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 22:36:44
乙!
よく考えてみるとシンレイキラアスランの4人が揃ってるっていうのは珍しいね
4人揃って戦力が上がってるのがはてさてどういう風に作戦に影響を与えるのだろうか?
70:通常の名無しさんの3倍
07/04/11 23:40:19
乙!! 待ってました。
なのはさんの出番は残念ですが、そっちはStrikerS本編で補給してきまつ:-)
71:通常の名無しさんの3倍
07/04/12 00:24:17
GJです!
レイとキラを混ぜるのは、ちょっと見た事ないのでワクワクですよ!
むしろ、なのはさんを加えないでSEEDキャラを絡ませるのは、それはそれで面白いですし、これはなのはさんを待つ価値有りな内容だと思います。
72:シンとヤマトの神隠し~Striker'S~
07/04/12 18:34:26
注意書き!!※
これから投下する作品は劇中のネタバレが多く含まれております。
まだストライカーズをご覧になっていない方は読まないことをおすすめします!
尚、作者も一度しかみていないため。実際とは間違った表現、及び勘違いして使ってしまう言葉、設定があるかもですが、その際は教えていただければ幸いです。
また、この作品はシンとヤマトの神隠しの続編にあたります。(劇場版は続編続編ではありません。)
なのではじめて読まれる方はシンとヤマトの神隠しを読まれることをお奨めします。
それでは、以下投下開始し。
73:シンとヤマトの神隠し~Striker'S~
07/04/12 18:39:41
はぁっはぁっはぁっ!
苦しそうな呼吸音が響く。「こっちだ!」
シンが先だって誘導し、そのあとを負傷したデュランダルに肩を貸すレイとアスラン。すぐ後ろにはタリア、最後尾にキラと言う順番で、崩壊を始めるメサイアから脱出をはかろうとしていた。
響く爆発音が平常心を揺るがし、舞う粉塵が視界を奪う。
デュランダルを担ぐレイとアスラン、先頭を行くシンのすぐ近くで爆発が起こった。
「「「シン!」」」
シンの姿は炎と粉塵で姿を確認できない。
だが、ここでいつまでも呆けているわけにもいかなかった。
事態は一刻を争う。
「このルートはもう駄目だ!こっち!早く!」
キラが手招きし、キラの方へ皆がむかう。
「グラディス艦長、他に脱出経路はないんですか?」走りながらキラが聞く。
「あるわ、塞がってないといいんだけど」
「じゃあ、案内を任せ…、グラディス艦長!」
キラが突然、タリアを突き飛ばした。
直後に爆発、炎が上がった。
「キラッ!!」
「アスラン、落ち着いてください、今は脱出を…あなたまで死ぬ気ですか?」
燃え上がる炎に駆け寄ろうとしたアスランをレイが引き留めた。
魔導試験Bランク試験場。
「スバル!あんた、停まること考えてんでしょーね?」
二人の少女が疾走していいた。
オレンジがかった髪をツインテールにしている少女ティアナは、ショートカットの青い髪に額に白いハチマキをしている少女の背中で顔を引きつらせていた。
「…と、停まる!?…うぁ、えっと…」
「この馬鹿ぁ!!」
今は魔導試験、CランクからBランクへのレベルアップ試験だ。
そして、受けているのはこの二人、青い髪の少女がスバル・ナカジマ。
オレンジがかった髪で、ツインテールにしているのがティアナ・ランスターである。
ティアナは試験中、足に怪我をしていて、スバルはティアナを背負い、ローラーブーツをフル稼働。
一目散にゴールを目指しているのだ。
残り時間は一分を切っている。
スバルは時間内にゴールを目指すことだけを考えていて、停まることを考えていなかった。
ゴール地点を過ぎれば、目の前には、瓦礫の山。
このスピードで突っ込めばただでは済まないだろう。ゴールラインを通過。
「は~い、お二人さん、お疲れ様ぁ、試験は…。あれ?」
何の生物か、もの凄く小さい人型の何かはゴールラインを通過してなお止まらない二人に呆気をとられ、見送るばかりだった。
74:シンとヤマトの神隠し~Striker'S
07/04/12 18:43:49
そんな様子を上空からみている人影があった。
「…はぁ、アクティブシールドとホールディングネットも必要かな…」
『Master!!Caution!』
「えっ!?何?」
スバルとティアナの進行方向に突然閃光が走った。
刹那、暴風がティアナとスバルを襲い、そのおかげでなんとか二人は激突することなく停止する。
まぁこけることにはなったわけだが…。
「いたたたた…。」
「すぅばぁるぅ~!!!」
「ちょっと、ティアナ、ごめんって、あれは確に私が悪かったけど…。」
ティアナが自分のどこかしらを抓むと思ったスバルは目を瞑り、身構えるが、ティアナが何かしら危害を加える気配はなかった。
「あれ…ティアナ?」
「あれって人?」
二人の視線の先には二人の少年が倒れていた。
一人は赤いピッタリとした服に身を包んだ黒髪の少年。
もう一人は青いピッタリとした服に身を包んだ茶髪の少年だった。
二人の少年が着ている服は、所々破れており、あちこちに傷をおっていた。
地面を染めていく血の量が、その傷がどれ程深いものかを想像させた。
このまま呆っておけば二人は間違いなく死ぬだろう。
「ティ、ティアナ!どうしよう?」
「ど、どうしようって、あんた…。私に聞かれても…。」
すると上空から、降り立つ一人の少女が二人の元へと駆け付けた。
少年二人はうつ伏せで倒れている。
「これって?」
驚きながらもすぐに止血するため、応急処置に入った。
さらに上空からヘリが降りてくる。
中から姿を表したのはフェイト・T・ハラオウンと八神はやてだった。
はやてはリィンフォースにティアナの足の治療を頼み、なのは、フェイト、はやては突如として現れた少年二人の治療を優先する。
ある程度まで応急処置を施すと、二人をゆっくり、慎重にヘリにのせるため、仰向けにした。
そして、三人は言葉を失った。
75:シンとヤマトの神隠し~Striker'S~
07/04/12 18:49:08
それから二日後、管理局本部、医務室。
「シン、シン!!」
自分を呼ぶ声に、シンの意識は回復を促され、力なく、ゆっくりとまぶたを開いた。
「こ、ここは…。」
見慣れぬ景色、見慣れぬ人。聴きなれぬ声。
シンは慌てて体を起こし
ゴッ
頭をぶつけた。
「……ッ。」
被害者はフェイト。目尻に涙を浮かべ額を押さえる。しばらく、シンも痛みをこらえるようにして、額を押さえていたが、やがて
「ここは?議長は?レイは?」
とキョロキョロ周囲を伺うように見回す。
「シン、落ち着いて。ここは管理局本部の医療機関だよ!」
シンは動きを止め、フェイトを改めて見つめ、聞き返した。
「管理…局…?」
同じくして隣の部屋ではキラが目を醒ましていた。
「うっ、ここは…。僕は…確か…アスランと議長と…レイ君とグラディス艦長を…。」
キラの思考が停止した。何かが足りない。誰かが足りない気がした。
ゆっくりと体を起こすと、丁度、茶色の制服に身を包んだ女性が入ってくるところだった。
「よかったぁ、わりと早くに目ぇさめたんやなぁ。」
「えぇ、まぁ…はい。」
「魔導試験中に突然、大きな魔力反応があってな。」はやては湯飲みにお茶を入れながらキラがどのようにしてこっちの世界に現れたのかを説明する。
「そう…だったんですか…。ありがとうございます。」
湯飲みをもって片方をキラに差し出し、にっこり微笑んでキラに言った。
「おかえり…キラ君。」
「……あの…。」
「ん?何やぁ?」
「君は…誰?」
「あぁ、あれから十年経っとるしな、わからんでもしゃーないわ。
はやて、八神はやてや。」
「八神…はや…て?」
はやての表情が曇る。
「ひょっとして…覚えてへんの?」
はやての声のトーンが落ち、悲しげな表情をする。
「…ごめん。
僕は…君と会ったことがあるのかな?」
容赦のないキラの言葉に、はやては無言で部屋を出ていった。
はやてが部屋を出ていくと、何かしら神妙な顔で思案しながら部屋を出てくるフェイトを見つけた。
「はやて…、どうしたの?」
「……なんでもないよ。」
「ひょっとして、覚えてない?」
はやては足を止め、フェイトを振り向いた。
「覚えてないんだね?
私たちのこと……。」
はやては無言で頷いた。
76:シンとヤマトの神隠し~Striker'S~
07/04/12 18:53:56
管理局本部食堂。
「えっ?じゃあ、シン君もキラ君も私たちのこと覚えてないの?」
「あれから何度か聞いてみたんだけど、全く忘れてるわけじゃなくて、記憶に空白があるっていうか…。」フェイトは言い淀む。
「それに、おかしいのは、年齢。あれから十年も経っとるのに、キラ君は18歳、シン君は15歳。年が変わっとらん。いつのまにか、私らの方が年上や。」
「二人のデバイスの方は?どうなの?」
「わからん、まだ起動させてへんし…。」
「ただ、技術局の人達が言うには、過去のストライクフリーダムとデスティニーとは重なる部分はあってもどっちのデータとも完全には一致しないって…。」
「魔法のことは覚えてるの?」
なのははフェイトに聞く。「シンの方はうっすらと覚えてるみたいだったよ。」
「キラ君も、それは同じや。」
それを聞いたなのはは席を立った。
「じゃあ、私はスバル及びティアナ陸士の試験の採点に行ってくるから、シン君、キラ君の件ははやてちゃんとフェイトちゃんに任せるね。」
と一礼して先に食堂からなのはは姿を消した。
「はやて、どうする?」
「どうするって言われてもなぁ~。」
フェイト、はやての目の前にモニターが開く。
過去の闇の書事件、及び、シンVSキラのデータだった。
「………。」
「………。テスト…してみよか?」
「…うん。シンは近接戦闘特化型。
キラが遠距離戦闘特化型…と言うよりは、万能型かな。二人でペアを組ませて…。」
「そやな、それで行こう!」
「八神…えと、二等陸佐。あの…試験ってどういう…?」
キラは管理局の制服を着せられ、はやての後ろを着いていく。
すると向かいからやって来るのは長いブロンドを揺らし、黒いスーツに身を包んだ女性。
そして、その後ろを歩いてくるのはキラと同じく管理局員の制服を着せられた黒髪、緋い瞳が印象的な少年。
ある通路の前までやって来てはたと四人は足を止める。
「えっと…シン…君だっけ、よろしくお願いします。」
シンは黙って頭を下げる。なぜか、キラのことを毛嫌してしまう自分。
なぜだろう?
そんな事を考えながらシンとキラはスバルとティアナが試験を行っていた場所へと移動を開始した。
77:シンとヤマトの神隠し
07/04/12 19:01:53
第一話 欠けた記憶
です。章題書き忘れました。
すいません。
以上がシンとヤマトの神隠し~Striker'S~第一話出だしです。
本当はシンもキラも劇場版と同じ歳にしようとおもっていたのですが…変更しました。
楽しんでいただければと思っています。
それではまた!
78:通常の名無しさんの3倍
07/04/12 19:06:10
シンとヤマトの神隠し続編キタ――!!
しかも年齢逆転とはまた……期待していますよ!
79:通常の名無しさんの3倍
07/04/12 19:11:48
乙!
しかし、えらくご都合主義な記憶喪失だなぁ。
まぁ、それが些細な事に感じるぐらいWktkしてますが。
続きも期待しています!
80:通常の名無しさんの3倍
07/04/12 19:21:49
乙です。
ただ気になったんですが、C.E.73ということはシンは16歳だと思うのですが……
81:シンとヤマトの神隠し
07/04/12 19:44:48
間違いです。
ごめんなさい
82:通常の名無しさんの3倍
07/04/12 20:11:49
続きが気になる!
はやく読みたいよ~!
83:通常の名無しさんの3倍
07/04/12 20:26:33
GJ
次回wktkして待たせていただきますぜ?
84:通常の名無しさんの3倍
07/04/12 20:58:39
おお、早くもストライカーズが!!
とにかくGJ。続き楽しみにしてます。
85:ガンダムし~どD´s
07/04/13 17:15:23
闇鍋編ができたので投下
86:ガンダムし~どD´s
07/04/13 17:17:12
D´s短編集 闇鍋(賛成編&材料調達)
『辛いとき、悲しいとき。人はそんな時、心の隙間に闇が出来る。
その心の闇に、魔物たちは容赦なく入り込んでくるのだ!
だけど、くじけるな!落ち込むな!ぷよぷよするな!!
何事にも屈しない、強靭な心こそが、最強の武器なのだから!!』
『これは、すこし怪しげで胡散臭そうな男、矢部野彦麻呂が駆け巡る、魔物たちとの壮絶な戦いの物語。
新番組、レッツゴー陰陽師!第一話「矢部野彦麻呂」』
『悪霊共、成仏しろよ』
既に夕食も終わり、皆がテレビを見ているときだった」
「え?ヴィータ、今何て?」
その話ものきっかけは、ヴィータの一言で始まった。
「だから、闇鍋って何なんだよはやて」
えーと、とどこから突っ込もうか考えるはやて。
「どこでその言葉覚えたん?」
はやてに聞かれて、ヴィータは昼のことを話す。
いつものようにヴィータが近所のじーさんばーさんたちとゲートボールをしているときに、とあるじーさんが孫が闇鍋をしたときのことを話していて、気になったヴィータだが結局どんなのかさっぱり解らなかったのだ。
「なるほどぉ」
ヴィータの言葉に、はやては残念そうに言う。
「ごめんな、うちも闇鍋って中身はどんなんか知らんのよ」
そっか、と残念そうに俯くヴィータ。
まあ、またジーさんたちから聞けばいいだけの話だ。
そのとき……
「闇鍋って、あれだよな?」
シンの言葉にヴィータはシンのほうを向く。
「知ってるのか?」
ああ、とシンは以前、訓練時代にレイやルナ、ヨウランたちいつものメンバーでした事を思い出す。
「前にしたことがあるんだよ。部屋を真っ暗にして、各自が事前に持ち込んだ材料で鍋をするんだ」
あのときを思い出し、一瞬ぞっとする。
「あの時はびっくりしたよなあ……ヴィーノがセオリーどおりスリッパをぶち込んだときは……」
あのときにスリッパをかじったレイの顔は真っ暗で見えなかったが、どんな顔をしていたか容易に想像できた。
そのシンの話を聞いて、うえ、と嫌な顔をするヴィータ。
「そんなもん入れるなよ」
ヴィータの言葉に、仕方ないだろう、とシンはいう。
「原則ルールとして、もって来た中身は持ってきた本人以外は食べるまでわからないんだ。」
さらに……
87:ガンダムし~どD´s
07/04/13 17:19:13
「掴んだものは絶対に食べなきゃいけないルールなんだ。…流石にスリッパみたいに絶対に食えないのは食わなくていいけど」
まあ、ちょっとしたギャンブルのようなもの、とシンは付け加える。
それを聞いて、はやては少し考える。
「なんか面白そうやな」
それを聞いたシンはえ?とはやてを見た。
ひょっとしたら、言うべきじゃなかったかもしれない。
「はやて、もしかしてする気なのか?」
シンの言葉に、はやては首を盾にふる。
「だっておもしろそうやし。なのはちゃん達も誘ってしてみようかなぁって」
まあこいつらだったら遊んだりしないだろうとは思うのだが……
「場所どうする?結局いつものメンバーでやるんだし、この部屋じゃ狭くてできないぞ」
それもそうやな、と思いはやては少し考える。
「まあ、それは皆できめたらええわ。ほな、ちょっと皆にメールするな」
そういってはやては各自の家にメールを送る。
「ん、メール?はやてちゃんからだ」
なのはは皆で話をしている最中にはやてからメールが来て、その内容を見る。
その内容は……
『今週の土曜日ぐらいに、闇鍋パーティーをしようとおもうけど、なのはちゃんも来る?』
メールを見てまず一言
「闇鍋って何だろう……」
なにはの言葉に、士郎はああ、と説明する。
「部屋を真っ暗にして、みんなが内緒で持ち込んだ材料で鍋をするんだよ」
士郎の言葉に、恭也も以前のことを思い出す。
「俺もこの前大学の仲間とやったよ」
友達いたんだ、となのはは少しひどいと思いながら心の中で思った。
兄は、大体いつも忍といるからあまり大学の友達と何かをするというものを想像できない。
「お前達だけでするなら心配いらないと思うが、一応注意しとけよ」
恭也の言っていることを疑問に思うシン。
「さっき父さんも言ったけど、実際食べるまで中に何が入っている銅かわからないんだ。だから変なものを入れるやつも出てくる。俺もそれで鍋なのに卓球のラケットが入っていてね」
何で気付かなかったんだろう…と恭也は思い返す。
それを聞いて、あはは…と苦笑いを返すしかできないなのは。
「で、なのははどうするの?」
桃子はなのはに尋ねて、うーんと考える。
はやてのことだからみんなにもこのメールは届いているはずだろう。
何故かなのはには全員が参加することが予測できた。
勿論なのはも参加する。
なのはの読みどおり、いつものメンバーと、面白そうだから参加してみるハラオウン家のえメンバーすることになる。
さらに、場所もリンディの艦長権限でアースラの食堂ですることになるから、スペースの問題も解決した。
次の問題は、各々の食材選びである。
88:ガンダムし~どD´s
07/04/13 17:21:52
「うーん……」
シンはスーパーの食材売場(スーパーはほとんど食材売場だが)で何を買おうか迷っていた。
買うものは闇鍋の材料。
シンは以前のことを思い出す。
あの時シンが選んだのは無難に長ネギ。
あの時は終った後、ヴィーノに「もうちょっと面白いのをもってこい」といわれた。
だがあまりへんすぎるのを選んだら食べれなくなる。
今回は食べることが目的なのだ。
だからシンが選んだのは……
「長ネギがだめなら万能ネギで」
たまねぎは流石にやばそうなので万能ネギにする。
……なぜ全部ネギなのかは作者の勝手ということで。
あとは……
「変わったのも欲しいよな」
なべに万能ネギを薬味にせずそのまま入れるのも十分変わっているとおもうが、もう一つ欲しいと思い選んだものは……
「お、これいいじゃん」
そう思いシンはあるものを手にする。
「んー、なんにしようかなぁ」
一方はやてとヴィータはデパートへ来ていた。
何故二人なのかというと、ヴィータに一人で買い物は出来ないだろうと思ったことと、ヴィータはすぐにばらしそうだから、いっそのこと二人で選ぼう、ということである。
「なあはやて、これは?」
そういってヴィータが手に取ったのは……
「ちょっと普通すぎる気もするけど、まあ普通なものもはめんと奇妙な鍋になってしまうしなぁ」
そう思い商品をかごに入れる。
「後は変わったもんもほしいよなぁ」
そう思いまわっていると……
「これなんか変わっててええな」
はやても材料を選びかごに入れる。
「鍋って、一体何をいれればいいのよ!??」
アリサも近くの高級食材が並ぶデパートで食材を買うが、何を買おうか迷っていた。
アリサはあまり夕食の買い物とかしない。というかさせてくれない。
同じ金持ちのすずかの場合は姉や買出しに言ってそうなメイドが一緒だから一人でも食事の買い物は出来そうである。
「それにしても、何にしよう……」
ただでさえアリサは鍋なんてあまり食べたことがない。
だから闇鍋というものを少し楽しみにしている。
(それにしても、真っ暗にして、皆には内緒で持ってきたものを入れて食べるなんて、鍋って変わった料理なのね)
……今、アリサの中で鍋という認識が奇妙な方向へと進んでいった。
「ま、これでいいわよね」
アリサはあるものを何品か選び、それをレジにもっていく。
89:ガンダムし~どD´s
07/04/13 17:23:52
「うーん……」
リンディは考えている。
リンディ達も思いs路層なので闇鍋パーティーに参加することになり、材料を選ぶ。
だが、リンディ達ハラオウン家も、あまり鍋というものはしたことがない。
ましてや部屋を真っ暗にして、中に何が入っているかどうか解らないような料理など全然知らない。
「この世界って、変わった習慣があるのね…」
まだまだ勉強不足だわ、とため息を付く。
そう思い何を選ぼうか迷う。
いろいろ回っていると、
「あら、これなんかいいわよね」
そう思い、普通鍋に入れないあるものを入れる。
こうして、他の人も各自の材料も決まり、後はパーティーの開催を待つだけであった。
闇鍋編その1、投下完了。
キーマンはやはりアリサとリンディ。
全員加工と思ったけど書く内容が一緒になるので面白そうなやつだけをチョイス。
90:通常の名無しさんの3倍
07/04/13 17:34:32
キタ――!!!!
リンディが入れるものは大体分かるけど・・・
アリサはなんだろ?ドックフード?
91:通常の名無しさんの3倍
07/04/13 17:58:43
アリサは自分家の飼い犬のどれか一匹じゃない?
92:通常の名無しさんの3倍
07/04/13 18:34:42
>>91
えぐいのにも程があるだろwwwww
93:Re 黒い波動 ◆sczCv7JGpg
07/04/13 20:09:49
覚えている人はいないと思いますがお久しぶりです。
この度、ようやく戻ってまいりましたが、「黒い波動」のプロットデータとテキストデータを消失してしまいました。
というわけで、「Re 黒い波動」として新しく始めたいと思います。
ダークな感じでいこうと思っています。細々と続けていきますので、見かけたら読んでやってください。
94:通常の名無しさんの3倍
07/04/13 20:25:52
覚えてますよ~ずっとお待ちしておりました
95:通常の名無しさんの3倍
07/04/13 21:05:28
どんとこい!
96:通常の名無しさんの3倍
07/04/13 21:18:05
>D's氏
GJです!各自の持ち寄る材料がなんなのかとても気になります。
てか、シンはすっかり八神家の一員になってるなぁ・・・
>黒い波動氏
お帰りなさい。お待ちしておりました。
波動氏のシンとフェイトのやりとりが気に入っていただけに、新しく始めるものもとても楽しみです!
97: ◆GmV9qCP9/g
07/04/13 21:46:53
22時くらいに投下します。
98: ◆GmV9qCP9/g
07/04/13 22:00:30
デュナメイスに戻って来たキラは、艦長室に呼ばれていた。キラがカガリ達に訴えた件について、マリューとバルトフェルドが詳しい事情を本人から聞く為だった。
キラからその望みを聞かされ、マリューは戸惑いながらも、再度確認する。
「─でも、本当にそれでいいの? キラ君」
「はい。もう逃げるのは止めにしよう、って……そう決めたんです」
どこか吹っ切れた表情で答えるキラ。
そんな彼の眼を見て、バルトフェルドは思い当たる。キラと初めて対峙した時も、彼は今のような眼をしていた。いや―今は、あの頃には無かった力強さも感じる。
「いいんじゃないか? 自棄になっているわけではなさそうだし、実際に戦うのは本人だからな」
バルトフェルドの言葉を受けて、マリューはしばらく考え込むが、やがて顔を上げた。そもそも、本人がそれを望み、カガリ達も了承しているというのだから、仕方ないというのもあったが─
「分かりました。キラ君の意志を尊重します」
「ありがとうございます、マリューさん。バルトフェルドさんも」
と─。
その時、マリューの元に、チャンドラからの通信が入った。端末を操作して、それに応じる。
「─どうしたの?」
『アスラン君が乗艦許可を求めています。何でも、キラ君に呼ばれたらしいんですが……』
マリューが確認するような視線をキラへ向けた。
「僕が呼びました。アスランにも説明しておいた方が良いと思って……オーブでの事とか、なのはちゃんの事とか」
キラの考えに、バルトフェルドも賛成する。
「……それもそうだな。いざという時、ミネルバ側にも事情を知っている人間が一人はいた方が良いだろう」
その対象として、アスランは彼らにとって、最も都合が良かった。
マリューにも異存は無い。チャンドラへと返信する。
「分かりました。アスラン君の乗艦を許可します」
『了解です』
チャンドラとの通信を終えると、マリューは再び端末を操作しながら口を開いた。
「一応、マユちゃんも呼んでおきましょう」
魔法や異世界に関して、自分達の中で最も詳しいのは彼女だから─と、付け加えて。
そうして、三人はマユとアスランの到着を待った。
=========================
99: ◆GmV9qCP9/g
07/04/13 22:02:38
南太平洋上空を大洋州連合の方に向かって飛行中の小型旅客機が一機。その機体の横っ腹にはオーブ連合首長国の国章が描かれている。周囲にはムラサメが三機、護衛として随伴していた。
旅客機の機内では、シートに座っているカガリが憂欝そうな表情を浮かべながら、窓越しに外を眺めている。
カガリと向かい合って座っているユウナが、彼女に声を掛けた。
「……ずいぶんと晴れない表情だね?」
思考の海に埋没していたカガリは、ユウナの言葉で我に返る。
「あ……ああ。いや、何でもない」
取り繕うように答えるカガリに、ユウナは嘆息した。
「また、弟君の事でも考えてたのかい?」
「…………」
図星だった。カガリは答えずに、視線を落とす。
「デュランダル議長は承認して下さったんだし、問題は無いだろ? まあ、僕としては演出面を考えると残念ではあるけどさ」
「ユウナ!」
相手の些か不謹慎な物言いに、カガリは声を荒げてしまう。しかし、ユウナは気に掛けた様子もなく口を開く。
「『守りたいものを全力で守る為』って、本人も言ってたじゃないか。デュナメイスや彼自身の生還率も多少は上がるわけだし、悪くはないと思うよ?」
「それはそうだけど……」
カガリもキラ本人の口から聞かされたその意志に納得はしていた。だが、それでも今さらながらに後ろ暗さを感じてしまう。
「アイツはお人好しで良い奴で……本当は戦争になんか向いてないんだ……」
「─カガリ。それはずるいんじゃないかな?」
「えっ?」
カガリは驚き、ユウナの顔を見る。彼の表情は滅多に見せない真剣なものだった。
「君は国家元首として、自国の兵である彼を戦地に送り出したんだ。それを今になってそんな言葉を口にするだなんて、彼に対しても失礼だよ」
「…………」
カガリには返す言葉もなかった。たしかに、今さら姉としてキラの事を心配するのは、ある意味卑怯とも言えるだろう。
「彼は彼の意志で、彼の戦いをしてる。それに応える為にも、僕達は僕達の戦いで結果を出さなくちゃならない。戦闘だけが戦いじゃないからね」
「……そうだな。すまない、ユウナ」
「いや。僕に謝られてもね……。まあ、取り敢えずは、大洋州連合との正式調印をきっちり済ませようよ?」
「ああ、そうだな」
カガリは頷いた。
それにしても─と、ユウナを見やる。まさか、この男を腹心として頼る事になるとは、ついこの間までは考えてもいなかった。
「ん? 僕の顔なんか見つめて……もしかして、僕に惚れちゃったとか?」
茶化すようにユウナは言う。赤くなって反論するカガリを、彼は想像していたのだが─
「ああ。これからも頼らせてもらうよ」
微笑んで答えるカガリ。その視線は吸い込まれそうになるくらい、どこまでも真っすぐだった。
ユウナは毒気を抜かれて、逆に顔を赤らめてしまう。
(まったく……これだからかなわないだよなぁ)
カガリの持つ魅力は、彼女の本質であり、天性のものだった。カリスマ性とは少し異なるが、自然と人心をひきつけるそれは、ある意味では父のウズミ・ナラ・アスハをも超え、オーブの民衆から慕われる要因となっている。
もっとも、それは単純な人柄の話であり、相手の打算などが絡んでくるとまた違ってはくるが。
「─どうしたんだ、ユウナ? ニヤニヤして……なんか気持ち悪いぞ?」
カガリは半眼でユウナを見ている。
「いや、何でもないよ」
ユウナは右手をひらひらさせて答えた。
=========================
100: ◆GmV9qCP9/g
07/04/13 22:04:24
アスランは唖然としていた。オーブにいたラクスが襲撃されていた事にも驚かされたが、それ以上に―まさか、魔法などというものが現実に存在するとは到底思えなかったからだ。
デュナメイスの艦長室にマリュー、バルトフェルド、キラ─そしてマユを含めた五人が集まっていた。
この場になぜマユまで一緒にいるのか、最初は不思議に思っていたアスランだったが、異世界や魔法の事も含めたオーブでの経緯を聞かされて納得する。
「─そんな事が……いや。だが……」
信じられないといった様子のアスラン。だが、キラ達にこのような嘘をつく理由があるとも思えない。
「まあ、いきなりこんな事を言われても、信じられるわけないよなぁ」
「いえ、疑っているわけではないんですが……」
バルトフェルドの言う通り、信じ難いのも本音だった。
「とりあえず、頭の隅に覚えておいてくれればいいわ。ああなったMSには私達の兵器では手も足も出ないから、絶対にまともには戦ったりしないで」
マリューの忠告を受けても、アスランはいまいちピンとこない。
「そんなに凄いんですか?」
「僕は直接戦ったんだけど、ビームはライフルもサーベルも通じなかった。なのはちゃんの話だと、実弾兵器でも結果は変わらないみたいだしね」
キラが実体験を交えて説明する。
「しかし……例えば陽電子砲なら―」
「無理だな。魔法の力で飛んでいるせいなのか、動きも桁違いになるようだしな……大砲も当てられないのでは、意味が無い」
アスランが挙げたのは、この世界において携帯可能な兵器の中で、現在最も高い火力を誇る陽電子砲。それは、バルトフェルドによって、即座に否定されてしまう。オーブでキラが戦ったゲイツの事を思うと、取り回しの悪い巨砲などに当たってくれるとは思えなかったからだ。
アスランは眩暈を覚えた。
相手の動きを何とかして捉えられる武器では、障壁を抜いて直撃させるだけの威力が無い。障壁を破れる可能性が残されている高火力兵器はあるものの、今度は相手に当てる事が適わない。そのようなMSを、いったいどのようにして破壊しろというのか。
先程のマリューの忠告をアスランは本当の意味で理解した。
「だから、もしもの時はアスランにも協力してほしいんだ。今はまだ、ミネルバの人達に説明するわけにはいかないから」
「説明したところで、信じてはもらえんだろうしな」
キラとバルトフェルドの意見には同意できるが、自分の力が何の役に立つのかと、アスランは思う。
「しかし、協力といっても……」
「ミネルバとそのMS隊を抑えてくれればいいわ」
マリューの願いは、フェイスの権限を使えば何とかなるだろう。
「後は一定以上の距離を保ったまま足止めをして─」
「なのはちゃんが来てくれるのを待つしかない」
バルトフェルドの言う通り、そのような規格外の相手では、その場でできるのは、足止めぐらいのものだろう。そして、キラの言葉通り、その魔導師の少女とやらが来てくれるのを待つしかないようだ。
だが、アスランには一つの懸念があった。
101: ◆GmV9qCP9/g
07/04/13 22:05:21
「ただ……ミネルバに一人、俺の制止を聞かずに突っ込んでいってしまいそうな奴がいる」
「それって……もしかして、お兄ちゃんの事ですか?」
アスランはマユの手前、シンの名を直接出す事を遠慮していたのだが、その気遣った相手によって台無しにされる。
それでも、アスランは少しばつが悪そうに答える。
「うっ……。まあ、そうなんだが……」
「あのぉ……その事だったら……」
「ん? どうしたんだ? マユ」
言い淀むマユをバルトフェルドが訝った。
「わたし……お兄ちゃんには喋っちゃいました……全部」
マユの言葉に、一同は呆然となる。その場の空気に居たたまれなくなって、マユはつい謝ってしまう。
「その……ごめんなさい! 一応、『誰にも言わないで』とは約束したんですけど……」
「いや……まあ、マユが謝る必要はないが……」
バルトフェルドがフォローを入れる。マユの場合、自分が体験した過去を実の兄に語っただけに過ぎないのだから、と。
「俺としてはやりやすくなって、助かるけどな」
アスランが肩をすくめながら言う。ちゃんとした理由も言えない状態で、シンを抑えきれるかといえば、正直あまり自信は無い。フェイス権限を使った上官命令として従わせる事もできるが、人間関係的には好ましくない手段であり、アスランも気が進まなかった。
「アスランさん。……お兄ちゃんって、そんなに好き勝手やってるんですか?」
おずおずと尋ねるマユに、アスランは苦笑する。
「まあ、多少は手を焼かされる事もあるが……真っすぐで良い奴だよ、アイツは。ただ、ちょっと不器用なだけさ」
「はい。その……ありがとうございます」
アスランの言い様や、先日のデュナメイスでの一件もあって、マユは兄に対して粗暴な一面を抱きつつあった。それだけに、アスランのシンに対する好意的な評価が嬉しかった。
「だけど―俺が今言った事は、シンには伝えないでほしい。……図に乗られては、堪らないからな」
真顔でマユに口止めするアスラン。
マユは、くすっと笑うと、「分かりました」と言った。
「それはそうと……なのはちゃんに関する事を知っている人間を一度整理しておいた方が良さそうね」
マリューの提案に、一同は頷く。いざという時に、事情を把握している人間同士が協力し合える方が良いに決まっているからだ。
「ここにいる人達を除けば─ラクスとシン君。母さんとマルキオ導士。それに、カガリとユウナさんぐらいかな……?」
他の者達も、キラが挙げた人物達以外には思い当たらないようだった。孤児院の子供達も、なのはが魔法を使うところを見ているが、まだ幼い為、数には入れていない。
ここで、アスランだけは引っ掛かる点があった。
「ちょっと待ってくれ。……ユウナ・ロマも知っているのか?」
アスランはユウナの政に対するシビアさを知っていた。そのような秘密を握れば、彼はオーブの利益の為に喜んで利用するだろう。それ故の懸念だった。
「うん。だけど、ユウナさんの事はカガリも信頼しているみたいだし、ユウナさん自身もなのはちゃんと約束してたしね」
「……そうか」
キラへと返事をするアスランの心境は、やや複雑なものだった。
(……嫉妬いているんだろうな、俺は)
アスランは、このような時にまで恋慕から嫉妬してしまう自分自身を、人知れず自嘲した。
(―ん?)
ふと、時刻を気にすると、既にかなりの時が経ってしまっている事に、アスランは気づく。
「―と。そろそろ、ミネルバに戻らないと……出立予定時刻まで、もう余り時間が無い」
「そのようね。とりあえず、アスラン君には事情を説明できたわけだし……今は私達がやらなくてはいけない事に、気持ちを切り替えましょうか」
マリューの言葉で、この場での話は切り上げられた。