07/02/17 13:40:53
何時までそうしていただろうか。ほんの一瞬が一分になり、やがて一時間、やがて一日と―
ほとんど無意識のうちに膝をつかせてコックピットから飛び降り、素早く市街地に駆け込んだ。
ちょうど、町の人々が集まっていた。辺りには人であったものや腕らしき物が四散していた。
被爆現場にいた子供たちは泣き叫び、大人達はビームキャノンがえぐった場所を見つめて打ち震えていた。
「ヒイロ! 無事だったのか!」
23,4の若者だ。ヒイロは彼にこの町についてまだ間もない頃世話になった。
「アイツがお前を見てないって言ってさ、お前の家に行こうとしてさ……あの光の巻き添えに……でも、お前が無事でよかったよ」
「な、に……?」
ヒイロには最初どういう意味か分からなかった。
だが、意味を理解した瞬間、ヒイロの中で何かが音を立てて崩れた気がした。
彼の言うアイツとは、自分にこの世界がどういうものかを気づかせてくれた人物であり―彼の弟でもあった。
いつも家の仲で遠目から眺めていた。街の子供たちと公園で駆けている姿を見ると、本当に二十歳を超えているのかどうか疑いたくなる兄に、面倒見がよく弟。
そんな…馬鹿なことがあってたまるか。自分がもっと早く動いていれば―
「アイツ、本当にこの街が好きでさぁ、俺はここで永住だ! なんて言っててさ……それを……それを……あの黒いのは、悪魔かなんかなのかなぁ……」
ようやく町の人々が正気に戻って、救助活動を始めていた。残骸に埋められた人々もいる。
「兄さんって呼んでくれてさ……畜生……」
ヒイロはそっと離れた。自分がこの場にいてはいけない気がしたのだ。
ゼロの下まで戻ると、機体を起動させて、ビルゴの残骸を抱えて機体を飛び立たせた。
一刻も早くここ離れたかった。
街から離れた海の上で、ゼロは佇んでいた。
何時までそうしていたであろうか、ゼロは唐突に広大な海の上空から、ビルゴを手放すと同時に海へと降下していった。
どうすればいいかわからなかった。あの声さえ聞こえなければ、このまま海に直面していたであろう。
自分の名を呼ぶ声。少女の、呼ぶ声。
ヒイロはとっさに瞑っていた目を見開き機体を急上昇させた。冷静になって、状況を分析する。
「ゼロを宇宙に上げたからといって、燃料の方の危険性もある……しかし、危険な賭けだが、やるしかない」
ヒイロは機体をネオバード形態に変形させると、いまだ地球への落下コースを辿るユニウス・セブンに向けて発進させた。
失敗する要因は多い。だが、今のヒイロにはそんなことどうでもよかった。
地球への落下コースを辿るユニウス・セブンを消滅させることが出来るのならば。
それを、離れたオーブ近海の島で見ていたキラは、思わず目を疑った。
まるで鳥のような機体が宇宙(そら)に向かって飛んでいるように見えたのだ。
しかし、それも一瞬。すぐに視界から消え失せてしまい、キラは疲れているのかな、と思った。
「どうかしましたか、キラ?」
そんな様子を怪訝に思い、声を発した女性。
キラは、我に返ったように、
「え? あ、ああ。気のせいかな、鳥が、宇宙(そら)に向かって飛んでいるように見えてさ……」
「まぁ、本当ですか?」
女性は空を見上げ、必死に遠くを見ようとしている。
キラは、苦笑しつつも、気のせいかと割り切って再び空を見上げた。