07/10/22 16:17:47
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ごめん
玄関の方から大声が響く。その青空を裂く雷のような彼女の声は、僕の耳を文字通り劈いた。
どうやらその声は僕を呼んでいるようで、その声の主は酷く苛立ちながらもワクワクと興奮しているように感ぜられた。
僕は、思わずその身が竦んでしまう声に負けじと、大声を張り上げて「今行くよ!」と告げた。
僕は深い溜め息を吐きつつ、ポケットに携帯を捩じ込んで玄関へ向かった。
玄関にはジーパンに半袖姿というボーイッシュな服装のアスカが、まさに準備万端という風に僕を待っていた。
彼女は腕を組みながら、足の爪先でコンクリートの床をトントンと貧乏揺すりをするように細かく叩いていた。
「遅いぃ~!」
とアスカは言って、ダンと一発コンクリートの床を踏み付けると、仁王立ちになって僕の鼻先に人差し指を突き出した。人を指差してはいけないと教わらなかったのだろうか?
「何時間待たせる気よ!」
「そんな……何時間って……せいぜい二十分……。」
「問答無用! さっさと行くわよ、バカシンジ!」
とアスカは僕のささやかな抵抗を粉砕し、にんまりと喜色を浮かべると僕の左手を鷲掴みにして、右手を突き上げながら歩き出した。
何が楽しいんだろう? そこまで僕を引きずり回して遊び回って。
「しゅっぱーつ!」
◇
アスカが僕に意見を求めている。ここは第三新東京市で一番大きなデパートの五階に入った洋服店で、彼女は両手に二着の洋服を持っている。
右手に持つのはデニムのミニスカートとレモンカラーのティーシャツのセットで、左手に持つのは白を基調としてストライプの入れられたワンピースだった。
アスカはそれを僕の目の前に突き出すように提示していた。
「どっちがいいと思う~?」